んでもってその日の戌どき
凛よ、何故こんな時間まで起きとるのじゃ
現代ならともかく明かりもロクにない戦国時代に10時就寝はツラいぞ
ほれ、見てみい。あんどんの油も消えかかっているではないか
ええい、黙想しながら何時間も固まるな!!
寝てるのか起きてるのか分からぬではないか!!!!
お、想いが通じたか?
凛の手がするすると床に届き、その場で礼をする
束ねてある髪の毛があんどんの光に照らされ、ゆらゆらと揺れおる
礼をしたあと面を上げ、床の手を脇の短刀へと……
って何する気じゃ凛!!
短刀をあてがうその艶のある黒髪はお主の自慢ではないのか!!!!
お願いだからやめてくれ!!!!
ロング萌えの人間を殺す気か?
そのまま一気に短刀に下ろす
あーあ、とうとう切っちめぇやがんの
バサリ、これはあの風に撫でられるとさらさらと動いたものの残骸の音
そして鏡を見つつ短刀で髪を整える凛
何故か少年マンガの主人公みたいな髪型になってしまったな
「これで…良いか」
凛は短刀をしまい、何時も剣術の稽古をするときの袴に着替える
鎧や甲冑はつけず、そのままで脇差を腰に刺す
刀は手に持ち、何時でも抜けるように持つ
随分と印象変わったの
かつての姫の華やかさはどこへやら
いまは荒武者の如き殺気とも威厳とも似ぬものを纏っておる
そのまま部屋を静かに出て様子を窺う
人が居ぬことを確認すると凛は昼と同じ人物とは思えぬ軽やかな動き
吉光の部屋へと忍ぶその足は物音すら立てぬ
そして吉光の部屋の中央あたりに存在する布団の膨らみに向かい抜刀する
ぐぐもった悲鳴とにじみ出る血液を確認すると刀をしまうことはせず、そのまま城を出た
「大丈夫でこざいますか?吉光殿」
いやに落ち着いた声色で血のにじむ布団に話し掛ける老中
「布団が役に立ったよ」
布団から這い出るモコモコした布団の塊、こいつが吉光か
しっかしもう春じゃというのに難儀な格好じゃの
まあ手加減を知らぬ凛の斬撃を軽減するならこれくらいは必要じゃな
「お、生きてんな吉光」
ここで威厳の無い父であり殿の登場
「父上、何故こんなことをするのですか?」
「あの天邪鬼を戦に出すためだ
あやつは面と向かって戦に行けと言っても聞かぬ」
流石は父、娘の行動も予測済とは天晴れ
「凛様はその優しさ故、暴走することがありますからな」
そういえば10年前の飢饉の時、木刀片手に兵糧庫の兵士を薙ぎ倒し
何とか米俵を出そうとして腰を折ったことがあったな
「さて、あのバカ娘だけに暴走させとく訳にゃいかねぇな
爺、戦の用意を!!!!」
「御意」