ボクが涼くんに会ったときのことをシュミレーションするまもなくそのときはやってきた。
「よお、おはよっ、有紀!」
登校途中のボクの肩を後ろからたたいてきたそれは、涼くんだった。
「あっ、おはよ・・・涼くん。」
夢だとわかっていても、あんなことあったから、まともに涼くんの顔見れないよおっ。
そんなボクの心を見透かしたように、涼くんは思いっきり、顔を息づかいも聞こえるくらいボクの顔に近づけてきて言った。
「今日、部活、来てくれよ。もうマネージャーが来ること言ってあるんだから。」
そう言うと、涼くんは急ぎ足で先に行ってしまった。
放課後、ボクは、別に引き受けたというわけではないのに、でも、断る気もないみたいに、ただ、当たり前のように、サッカー部のグラウンドへ足を運んだ。
ボクがマネージャー?女の子として、みんなを励ましてあげたい・・・。そんな気持ちが、ふっと沸いてきた。なんかこれって、女の子の幸せ、かな?
「ボ、ボクが、今度マネージャーをさせていただきます、木下有紀です。よろしくお願いします。」
それだけで、精一杯。サッカー部って、かっこいい人多いなあ。
もう緊張してこれだけしかしゃべれなかった。
「かわいいねえ、彼氏いるのかな?」
そんなありきたりの質問に、どぎまぎしてしまった。
そして無意識に、涼くんを見ちゃった。
涼くんも、こっちを見ていた。
「木下有紀ちゃんは、涼の紹介だそうだ。いったいどういうことだろうな、なあ、涼?」
キャプテンのよけいな補足にボクも顔を赤らめていると、涼くんは言った。
「いえ、特に・・・友だちですよ。」
でもその言い方には、愛があるって感じたのはボクだけ?
部活が終わるとそれぞれに着替えて、部室を出てくるみんな。
「有紀ちゃん、おつかれ!」
そう声をかけて、帰路につく、サッカー部のみんな。
「あれ、まだ、帰んないの?あっそうか、涼、待っているんだ。」
ボクは飲料水やタオルの洗濯を終わらせて、部室の前で待っていた。
待っていたって、涼くんを待っていたわけじゃないよ。
道具を部室に片付けなくちゃいけないから・・・。
「おおい、有紀!中は入れよ。オレだけだから。」
「うん。」
こんな呼びかけに応えられるはずないのに、応えられるのは、涼くんは、女の子だから。
でも、ボクは本当は男の子だから、やっぱいけない気はするけどね。
「入るよ、涼くん。」
ボクは、部室の扉を開いた。