「なあ、お前男の制服とか着たら似合うんじゃね?」
ある日の、何気ないアイツの言葉。
……真に受けたわけじゃないのよ? 絶対違うんだから。
ただ、ちょっと、その、何というか……自分の可能性、みたいな?
そういうものを試してみたくなっただけというか、好奇心猫を殺すというか、
認めたくないものだな自分自身の若さ故の過ちというものをというか……。
「これ……あたし?」
アイツの制服をこっそり拝借。
髪は後ろで一つにまとめ。
覗いてみたよ鏡の中を。
いつもツインテールにまとめている、ちょっと自慢な長い髪をまとめるだけで。
いつもと違う男ものの服を着ただけで。
そこにはあたしじゃないあたしがいた。
「……むっ」
ちょっと凛々しそうな表情を作ってみる。
「……あはっ」
ちょっと爽やかそうな笑顔を作ってみる。
まごう事なき美少年。
「って私ゃナルシストかっ!」
……ツッコミをしても一人……だと思っていたら。
「ほほぅ」
「なっ!?」
振り向けば奴がいた。
「な、な、な、な、な、な」
「いや、ちょっと辞書借りようと思ってさ」
「い……いつも言ってるでしょ、ノックしろって!」
「したけど返事なかったし。いないかと思ったらこんな事してるしさ」
「………………いつから?」
「『これ……私?』から」
最初っからかいっ!?
「じゃあ、辞書借りてくぞ」
「ちょっと待ってよ!」
「なんだよ」
「な……何か、言う事は無いのっ!?」
「何かって……」
「べ、別にアンタの為に着たわけじゃないし、特にアンタに言われたから着たくなったわけでも
無いし、単に何となく着たくなったから借りて着ただけだけど……見ちゃったからには
アンタには感想を述べる義務があるわっ!」
「ん。そうだな。やっぱり思った通り似合ってると思うぞ」
ぼっ。
顔に火がつく音が聞こえた気がした。
「じゃぁな。明日着てくんだから、早めに返してくれよ」
「……ば、馬鹿ぁっ! 返してなんかやらないんだから!」
扉の向こうに消えるアイツに、あたしは手近にあった枕を投げつけた。
次の日。
「……あのねぇ」
「いや、だって仕方ないじゃん。お前俺の制服返してくれないし。」
そこには美少女がいた。もとい。美少女っぽいものがいた。
「だからって……何であたしの制服着てんのよ!」
アイツがあたしのセーラー服を着て、立っていた。
当然、あたしはアイツの制服を着て、その横にいる。
美少女と美少年。ただし性別が逆さま、みたいな。
アイツの髪はご丁寧にいつものあたしのようなツインテール。
軽く化粧までしている辺り、何がやりたいんだコラ。
……なんかあたしよりセーラー服似合ってないか、コイツ?
「ま、俺は気にしないし。このまま行こうぜ」
「行けるかぁっっっっっ!!!」
……結局、その日あたし達は遅刻した。