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エロ無し小ネタ2

8_330氏

 夏季文化祭なるものがある我が高校。
 その開催の、何週間か前。
「仮装喫茶ぁ?」
「そ」
 文化祭の出し物と言えば、定番なのは喫茶店かお化け屋敷。
 まあ、ただ単に定番をそのままやったんじゃ芸が無い、ってんで
ひとひねり入れるわけだけど……ひとひねりいれた結果も、また定番に落ち着くのよね、大体。
「……コスプレ喫茶、って事?」
「言葉をオブラートに包んだ結果、仮装喫茶」
「ぺらっぺらのオブラートね……」
 別に何やろうとも異論は無いけど。そもそもクラス違うしね。
「あ、そういえば言い忘れてたけど、お前うちのクラスに借りたから」
「へ? 何よそれ?」
「だって、うちのクラスレベル高いのあんまいないし」
「え、あ、う」
 な、何よ……い、いきなり、そんな、まるで、あたしがレベル高いような、そんなみたいな事を
言ったりしてくれちゃったりなんかして……ま、まあ別に嬉しくなんか無いけどさっ!
「構わん?」
「べ……別に、いいけど……でも、うちのクラスは舞台劇を」
「あ、お前さえ良ければ後は問題ない。もう了解取ってるし」
「………………はあ!?」
「担任にも、そっちの実行委にもOK貰ってる。あとは当人の承諾だけだったんだが、よかったよかった」
「……なんで人の与り知らぬ所で話がまとまってるわけ?」
「さあ?」
 さあじゃねえだろコラ!?
「ま、そういうわけで、よろしく」
 明日級友問い詰めるのはケッテーね。
「……わかったわよ。手伝ってあげるから感謝しなさい」
「うん、感謝感謝。そういうわけで、お前にはウェイターやってもらうから」
「ウェイトレス? やっぱりメイドみたいな格好したりするわけ?」
「え? ウェイトレスじゃないよ。ウェイター」
「……どゆこと?」
「この前俺の制服着てたのエライ似合ってたしさ」
 ドキン。心臓が大きく高鳴った。
「ちょ……こ、この前の事は忘れなさいって言ったじゃ」
「嫌ぷー。というわけで、はいこれ」
 手渡されたのは、いわゆる男用の給仕服。女の子のそれのように、余計な装飾が付いていない、
実用一点張りの機能的な服。
「……これ、着ろっていうの?」
「そ、俺がバイト先で使ってる奴だけど、多分サイズは合うだろ。この前もバッチリだったし」
「アンタの、なの?」
 それを意識した瞬間から、どんどん鼓動が早くなるのがわかった。
 思わず悲鳴を上げてしまいそうな程に。
「そ。何か問題でも?」
 なんで、こんな……緊張? ドキドキして……。
 全然わけがわからない。わからないまま、あたしは頷いていた。
「……い……いいわ。着てあげる。だけど」
「だけど?」
「着たら……まずアンタが見てチェックしてよね。変な所があったら、他の人に見られたら恥ずかしいし」
「そんくらいならお安い御用」
「へ、変な意味で言ってんじゃないんだからね! もうアンタには恥ずかしい所見られてるわけだし、
毒食わば咲良までというか、アンタになら見られてもいい……わけじゃなくて、誰かに見てもらわないと
チェックもできないし、仕方なくよ仕方なく! わかった!? OK!? 無問題?! って……」
 ……もういないし。
 いつの間にかアイツは自分の部屋に帰ってしまっていたようだ。
「………………ふぅ」
 あたしはため息をつくと、アイツに渡された服を胸に抱きしめた。
「……アンタに、見てもらいたくて着るわけじゃ……無いんだから」
 笑みが漏れたのも、ちょっとだけ鏡の向こうの美少年に会えるのが楽しみだったからってだけで、
他意はないんだからね!……ってやっぱりあたし、ナルシストの気があるのかな……?


 夏季文化祭、その当日。
「………………」
 ウェイター服に身を包んだあたしは、固まった笑顔を振りまいていた。
 今回は男っぽく見えるように化粧まで施し、ツインテールの髪はカツラの中に押し込まれている。
 教室の外から、度々こちらに視線が送られてくる。それも好奇の視線ではなく、なにやら熱のこもった視線が。
 それなりに、化けられてはいるんだと思う。
 実際、アイツもまた褒めてくれたし。って別にそれが嬉しかったってわけじゃなくて、そう評価してもらえるだけの
器量が、男の格好したあたしにはあるって事であって――
 ま、まあいいのよ、そんな事は!
「五番テーブル、指名入りましたー」
 問題は――アイツだ。
「はーい、ただいまー」
 呼ばれて飛び出て、アイツが駆けて行く。
 どこからどう見ても、可憐な美少女が。
「………………」
 痛むこめかみをもみながら、それでもあたしは固まった笑顔を絶やさない。
 そんなあたしの前を、愛想を振りまきながら、メイド風給仕服に身を包んだアイツが走り回っている。
「……こんなオチよね、どうせ」

 ――結局、アイツのクラスは文化祭売り上げ第1位を記録した。主にアイツ目当ての客で。
 何というか……別にあたし要らなかったんじゃ……?
 軽く鬱になりつつ、複雑な感情に頭をぐるぐるさせながら、あたしはいつものセーラー服で帰途についた。
「あ、一緒に帰ろうぜー」
 ええい、その格好で帰るなっ!


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