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徒情

9_180氏

11の歳に私は人買いに買われました。
貧しい農村で産まれた私には来るべき運命でした。
でも、その時の私は悲しくはありませんでした。
思ったより良い値で売れたようで、
これであに様が、学校に通える資金の目処が立ったと、とと様が喜んでいたからです。
あに様が大好きだった私は、お役に立てたと安堵して、人買いと共に家族と、家族の住む村を離れま
した。

───知らなかったんです
村を離れたことのない幼い私は
どこかの裕福な屋敷の下働きとして売られたのだろうと
そう思って外へ出たんです。
知らなかった・・・私がどんな所へ売られたのか・・・



着いた先は、大きな都の街外れのお屋敷でした。
地主様のお屋敷位の大きさしか知らなかった私は肝を潰して、田舎者丸出しの表情をしてお屋敷内に
入り主人となる人を待っておりました。

程なくして主人と見られる、でっぷりと肥えた男と
その後ろに初老の男そして────その二人に付いてひっそりと控えている青年───は黒みがちの
金髪に、色素の薄い青色の瞳で異国の者だと分かりました。
彼は幼かった私から見てもとても、秀麗な顔立ちをしていて、初めて異国の人を見たのも手伝ってま
じまじと見てしまっていました。


その間にも、主人と初老の男はひそひそと私を見ながら話していました。

「・・・歳がいきすぎているがどうだな?」
「この位ではないと施術に耐えきれぬでしょう。
順従させるのはその後いくらでもできるでしょうに。」
「・・・自我が目覚め初めている年頃の女子は面倒なんよ。」
「施術が成せたら、考えたらよろし。」
「・・・そうやな。」

施術?
聞きなれない言葉に首を傾げる私に主人は近寄りました。
私は慌てて膝まつき挨拶をします。

何かが破ける音────
分けが分からず呆けました。
破けたのは自分が着ている服
破いたのは近寄ってきた主人
理解したのに時間がかかったように感じましたが
実際は短い時間だったようです。

私は突然の凶行に、今まで感じたことのない恐怖を覚え、破けた胸元をおさえながら、震えました。
主人はそんな私に構い無しに────むしろ、楽しげに震えて固まっている私の服を破き
泣きながら必死に胸と股間隠している私の腕を払い
私のつま先から頭まで舐めるように見つめて言いました。

「今から、お前の身体に香り付けをしてもらうんだよ。
何、わきの下をちょこっといじるだけ。
暫く痛むだけですぐに痛くなくなる。」
「・・・香り・・・付け・・・?」


「桃娘を改良中なんよ。
ほんとはもっと幼いうちに育成しなくちゃならないもんだが、今まで幼すぎて施術の痛みに耐えきれ
んかったんよ。
麻酔代わりの薬で死んだ者もいるわな。」

────死────
その言葉を聞いて私は、嫌々と首を振り更に泣きました。
恐ろしさで声は出ませんでした。
「私の言うことは絶対だよ。
お前の主人だからね───私に買われた身だ。お前を生かすも殺すも、どうするのも私の勝手やね。
人形なんよ────お前は。」

私はそれだけ聞かされると
いつのまに後ろに回っていた異国の青年に布で口を塞がれ何かを嗅がされいて意識を失いました・・・。



施術が済むと暫く、私は痛みと高熱で、うなされる日々が続きました。
特に脇の下が痛み、熱を帯びて腫れ上がり、
気を失うように眠り、また痛みで目が覚める───そんな毎日で当然食欲など湧くはずもなく、自分
の身体がだんだんやせ細っていくのが分かりました。

────死ぬかも知れない───

私の脳裏に浮かんだ言葉なのか
様子を見に来た主人の言葉なのか
思い出せない位、朦朧としていました。


───?───
熱にうなされて何日目でしょうか?
口の中に甘くて冷たい固まりが入ってきました。
うっすらと目を開けるとあの異国の青年が、のぞき込んでいます。
「───私の声が聞こえるか?」
異国訛りのある低い声
私は頷きました。
「蜂蜜を浸した氷だ・・・砕いてあるが飲み込むな、舐めるように口の中で溶かしてけ。」
彼の言うとおりにしました。
この季節に氷なんて珍しいと、思いながらも久しぶりに口の中が潤った事と、実家にいた頃には滅多
に口にする事ができなかった甘味に夢中で舐めました。
それに安心したのか、青年は軽く微笑むと器に盛っていた次の氷を私の口に運びます。
皿の中の氷がなくなると青年は私の服を脱がし汗をふき取ってくれました。
「身体の熱をおさえよう。」
と、布に大きめの氷を積め、脇の下と太股の付け根に当て、真新しい服に着替えさせてくれました。

「・・・・また、様子を見に来るから。」
優しく額をなで、その場を去ろうとする青年の手を私は掴んでいました。
「・・・?」
「・・・一人に・・しないで・・・。」

怖かった
家族から離れ、無理に身体を傷つけられこのまま、一人、痛みと高熱の中でいるのが・・・。
そんなときに優しくされ、しがみつかない子供がいるでしょうか?
彼は表情を変えることもなく
寝台に座ると、私の手を握り返してくれ、彼の国の言葉で私に語りかけます。
何を言っているのか分からなっかたのですが、その聞いた事の無い呪文のような言葉は不思議に私の
頭に響き、子守唄の様に聞こえます。
私は、彼の落ち着きのある低い声と言葉に見守られ瞳を閉じました。


その日を境に、私の体の調子が劇的に良くなりました。
そして、良くなると同時に徐々に香る体臭・・・。
甘い・・果実の
成功したと喜ぶ主人は、私に桃娘としての育成を始めました。
先に入っていた姐さん達に混じり、宮廷作法に、踊りや琴線を習わせられ
食事は果物を中心に甘い物ばかりでしたが、体質なのか寝込んだときの後遺症なのか
なかなか肉付きが良くならず次第に主人の私を見る顔が険しくなっていきました。

その間、続々と香り付けの桃娘の施術が施され、育成されていました。
時々、通路を老人と一緒に歩くあの青年を見かけ、駆け寄りたい衝動が起きましたが
あの青年は医師として、針や灸、漢方を学びにきた裕福な留学生で、こんな私が懐い
てはご迷惑がかかると、遠くから見ているだけに留めました。

また、私の周辺が変わろうとしたのは13の歳です。

私の奉公先が決まったと主人に聞かされたときでした。

嫌がる私に、お前は人形だから意志を持ってはならない
そのようなことを言い、指と舌で私の身体を弄くります。
いえ、それより嫌だったのは
あの青年医師が見ている前で
辱められた悲しみが涙となって頬を袖を、濡らし
止めようもなく夜が更けても声を殺し泣いてました。
知ったのです。

私は、あの異国の青年医師に恋心を抱いていたことに



目の前で股を広がされ、凌辱される様を見られ、羞恥と失望に打ちひしがれているとき
髪をいじる指を感じ、顔を上げるとそこに、あの青年医師がいたのです。
音もなく近づいてきた彼を、声も出せない程に驚き、凝視してしまいました。
「ずっと泣いていたのか?」
彼は部屋の外に聞こえないように、押し殺した小さい声で私に尋ねました。
私は黙って頷きます。
「・・・買われた身であろうと、自分の意志と関係なく弄ばれるのは辛かろう・・・。」
「姐さん達のように何も分からない歳にこのお屋敷に入ってれば良かったの?」
「どうだろうな・・・あの者達の何の疑問も持たずに生活している様子を見ても私は同情も慕情の念
も起きないがな・・・。」
そう言いながら私の涙で顔にひっついていた髪を肩に流すと、それが当たり前のように私の唇に吸
い付きました。

「────!」
驚いて、一瞬彼の胸を押し退けようとしましたが
ふと、頭によぎったことがありました。
私の国では元々女は自由に恋愛をすることは許されません。
それが人身売買に歯止めがかけられない理由の一つでしょう。
親の決めた相手
相手側の要望
で嫁いでいくか、妾になるか
自分の希望など黙殺される社会です。

彼がどんな理由で私にこんな行為をするのか分かりませんが、私の想いは叶ったと・・・。
その後、私がどうなるのか、世間知らずな私でも、だいたいの予想は付きます。
それでも・・・・
私は彼の腕を掴み、私の口の中で動く彼の舌に応えるように懸命に舌を絡めました。


「・・・ふ・・ん。」
彼は、唇を離すと大して驚くこともなく私を見つめ
「覚悟はあるわけだ・・・。」
そう言うと、自分のズボンから布切れを出すと私の口を塞ぎました。
「声が外に漏れると露見するからな・・・。」
灯りを消すと、私の肌着を慣れた手つきで外し、まだ膨らみの薄い私の胸に舌を這わせ始めました。
「・・・。」
くすぐったい感覚に身を捩る私の身体を抱きしめ、執拗に舌と唇で責め立てます。
首筋から乳首にかけ、それから流れるように下腹部の方へ
主人と同じ行為をしようとする彼に私はさすがに硬直し、首を振りました。

彼は身を起こし、こう言いました。
「この香りは男の性欲を駆り立てる作用があると老師が言っていた。
施術を受けた娘全て同じ香り付けだが、元々持つ体臭と混じり、微妙に違う香りになるようだ。
─────それに反応する男も様々・・・ということになる。」

そうして、私の足を大きき開かせ指を形にそってなぞり出しました。
「─────!」
指が体内に入った感触が分かり、思わず背中が反ります。
身を捩る度にうっすら流れる汗に混じる甘い芳香・・・。
「私の性欲を刺激するんだよ─────君のは
こうなったらどうしようもないんだ。
性欲を満たすまで渇望が収まらん・・・・。」
潤い、淫らな音を立て始め、私は恥ずかしくて自分の顔を逸らします。
中を探る指が外れ、私の両足首を高く上げると彼は自分の肩に乗せました。


「君が私を見ていたのは知っていた────好きなのだろう?私を。」
かぁっと顔が熱くなりました。
彼は私の内股をを舐め上げながらニヤリと笑い
「その気持ちを利用して悪いが、この香りを嗅がされ、あんな扇情的な場面を見らされたこちらは
────もう止まらん・・・堪えてもらおう。」
そう言うと私の秘所に何かをあてがい一気に入れてきました。

「──────!!?」
口を猿ぐつわで押さえていなければ、私は高い悲鳴を上げていたでしょう。
それが何であるか、理解したときには彼の動きに合わせ私の内を激しく擦る物の熱さと痛みで必死に
彼にしがみついていました。
自分の体内より熱い欲望が中で放出されたのが分かります。
それが済むと彼はふうっと息を付き、私を抱きしめ、痛みで流した涙を舐めとっていました。

「外すぞ。」
そう言うと彼は猿ぐつわを外します。
でも、今だ内に入っている感覚があり呆けて何も喋ることができません。
「痛いか?」
首を横に振り、体を起こすと寝台の敷き布団に血痕がありました。
ぼんやりとそれを見ていると彼が言います。
「────さて、これで君は価値が下がったわけだが・・・どうする?」

忙しく着替えを済ます彼を見ながら、まだ、火照る身体を持て余しながらも私は言いました。
「・・・・私はここからは逃げ出せません・・・主人はこれを見たら激怒してどこかへ売るでしょう
私の代わりは幾らでも見繕えます。
きっと、私はまたどこかの殿方の玩具にされるだけです・・・・でも。」
私は青年医師を見つめて言いました。
「後悔はしてません、好きな人が私が好きだと知ってくれていた。
好きな人と繋がることができた・・・普通は叶わないことが叶ったんですから。」


微笑む私に彼は耳元で囁きました。

「逃げることができるとしたら?」

「────!?」
思わず大きな声を上げようとした私の口を塞いで続けて言います。
「私は今夜でこの屋敷におさらばして、自国に戻る。
君一人分ならごまかす手だては幾らでもある────緒に来るか?」

────ここから逃げ出せる?
好きな人と・・・・?
この思いがけない誘いに私は、興奮を抑えながら頷きました。
彼は了承を得たと確認すると、私の顎を掴みこう言いました。
「早急にこの国を出る。
それまで私の言うことを聞き、動きなさい。
分かるね?」
他の者の所有物を奪っていくのだから、警護兵が嗅ぎ付く前にこの国を出なくてはならないのは分か
りましたから、こくりと頷きました。
「─────問題は国を出た後、君はどうするかだ。」
「・・・・医師様についていっては駄目ですか・・・?
何でもやります・・・・洗濯や掃除や食事は実家にいた頃やってました。
医師様がやれと言えば・・・悪いことも、身体を売ることもしますから・・・。」

「・・・上等だ。」
彼はにやりと笑います。
何か一物考えている笑い方で・・・・。

彼は私とこの国を出たら
私を売るかも知れない
そんな考えが頭に浮かぶ表情でした。


でも、付いていくと言ったのは私
その意志は変わりません
たとえ、この身と心が砕けようと・・・・。

そんな風に固く決心をして私は国を出ました・・・・。

一年と少しがたち、時々寝込みあにさんのやっかいになりながらも
私も助手として少しですが医師をしているあにさんのお役に立てるようになりました。
あにさんは過去に裏家業というものをやっていて、それのために私の国にやってきたんだと、聞かず
とも分かりました。

でも、今のところ、あにさんは私を売るつもりは無いようです。
私が感じるより、あにさんは私を好きでいてくれている?

行く度々無く、抱かれる度にそう期待します。
私の恋は、はかない恋なのでしょうか?
いつか、私は金と引き換えにあにさんと別れる日が来るのでしょうか?
自問自答を繰りかえします。

あにさんは私を積極的な娘だといいます。
でも、一番聞きたいことが聞けない臆病な子です。

もし、もし、別れる日が来るのなら、少しでもあにさんの温もりを覚えておきたいのです。
貪欲にあにさんを求め、許される限り、お願いをして──── 一生に一度でも自分から愛した人が
いたと誇れる何かを心に刻みたいのです。



                                                   徒情 終わり


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