「司。ちょっとここに座りなさい」
いつになく真面目な声でそう言われて、司は不思議そうな顔をしつつもおとなしくソファに腰を下ろす。
夏休みに入って何回目だろうか。こうして隆也の部屋に押しかけるのは。
頭の中で指折り数えていると、再びかけられる硬い声。
「話がある。…というか、お前、俺に話すことはないか?」
「へ?話すこと?」
間抜けな声をあげ、横に座った隆也の顔を見つめてしばし考える。
この場合の"話すこと"は"話さなくてはいけないこと"で、そんな重要な話は特に…と、そこまで考えて。
「あ」
司の頬にぱっと朱が散る。それを見て、隆也はため息をつく。
「…思い出したか?」
「え、あ、うん…て、え!?せ、先生なんで知ってるの!?」
体を横に向き直らせて慌てふためく様は、ちょっとおもしろい。
「この間三崎に会ってな、言われたんだよ。『先生、あたし、司君と先生のこと聞いちゃって、それでね』」
「それでって…み、三崎さん何て…」
司の必死さに笑いそうになるのを堪え、真面目腐った声で言う。
「『秘密にしてあげる代わりに、司君とHしちゃったんです。先生、ごめんなさい』だとさ」
司はぱくぱくと口だけ動かしている。さっきより顔が赤いのは気のせいではないだろう。
「…詳しくは俺も聞いてないが、お前三崎に頼まれてそのまましたんだってな」
少し棘を含ませて言ってやると、司の目が泳ぐ。
「あ、あの…それは、三崎さんが彼氏とする前に勉強したいって、言うから…」
「勉強、ねぇ」
泣きそうな目が見上げてくる。
「その…先生、ごめんなさい」
ぺこり、と頭を下げたまま、司は動けないでいる。
こう素直に謝られると、たまらない。頭を撫でてやると、ようやく顔を上げた。
「…気にしてない、って言ったら嘘になるけどな。怒ってはないぞ」
微笑して言ってやると、じっと目を見つめられる。
正直、女子生徒相手に嫉妬したと白状するのもちょっと体裁が悪い。
「…ほんとに?」
「ほんとだよ。…でもやっぱり、ちょっと怒ってるかもな」
「………ごめんなさい」
しょんぼりとうつむくのを見ていると、このまま許してやりたくなるが、そういうわけにはいかない。
これを口実に、いつもはできないことをしようという、腹黒い算段があるのだから。
「…あのな、詳しいこと聞かなきゃ、俺も納得できないだろ?だから最初から、説明してくれるか?」
頭を撫でながら優しく言ってやると、ちら、とこちらの様子をうかがってくる。
「うん……最初は、三崎さんがナンパされてるのを助けてあげて…」
順を追って話をしていく司の言葉を、うんうん、と真剣に聞く。
シェイクの件は略されて、ようやくゆいのお願いの話になる。
「それで、教えて、って言うから…俺は話すだけのつもりだったんだけど…」
「ほんとに?」
「ほんとに!」
むっとして言い返す司をなだめて、先を急がせる。ここからが重要だ。
「それで、三崎さんの部屋で、その…実際に、やって教えることになっちゃって…」
「そこは略しちゃだめだろ?もっと詳しく教えてくれないか?」
顔を覗き込んで言うと、あからさまに嫌そうな顔をする。
「…三崎さんが、どうせ脱ぐから部屋冷やさなくてもいいよねって…俺は、するつもりだったの?って
聞いたんだけど 三崎さんにだめ?って聞かれたら、断れなくなっちゃって…」
三崎ならやりそうだ、とぼんやり考えながら、先を促す。
「そのまま襲ったのか?」
「違います!…三崎さんが俺の横に座って、キスからだよね?って言うから…
でも、口にするのは悪いなって思ったから ほっぺにして…」
思わず苦笑する。Hはしてもキスはできないというのは、女の子の発想だろう。
「…それからベットで服脱いで……した…」
赤い顔がそっぽを向く。視線も泳いでいる。もうこれ以上言いたくないと、全身で表現しているが。
「した、って。それだけじゃ何をしたのかわからないな。服脱いだ、って言っても脱がせたのかもわかんないし」
執拗に聞く隆也に、すがるような視線が向けられる。
「…言わなきゃ、だめですか?」
やっぱり、可愛い。ぎゅうと抱きしめて、頭を撫でて、キスしてやりたい。
しかしここが我慢のしどころだ。教師の演技力をこんなところで使うのもどうかと思うが。
「だめってことはないけど…司が悪いと思ってるなら、できるだけちゃんと話して欲しいな」
「……わかりました……」
司の手が隆也の服の裾をつかむ。こういう子供のような仕草を、最近よくするようになった。
「…シャツだけ、脱がせて…色々説明して、ベットの上で、背中を向け合って自分で服を脱いで…それで…」
言葉が途切れる。先を促すように、そっと背を撫でる。
「……それで…三崎さんの、首とかにキスして…胸を、もんで…」
今度こそ、言葉が途切れる。ふるふると、かすかに体が震えている。
「せ、せんせ…やっぱり、恥ずかしい…やだ…」
少し潤んだ瞳を向けられると、どうしようもなく抱きしめたくなる。その衝動を抑えて、髪に口付ける。
「ん…でも司、ちゃんと話してくれないと…俺も怒っていいのか許していいのかわかんないな
三崎が誘ったのか、司が積極的に三崎としようとしたのが、それがわからないと」
「それは…三崎さんが、あの、天然のノリでしようって言ってきて…だから、俺はそれに応えただけで…」
なんとなく、その流れは想像が付く。けれど隆也が聞きたいのはそんな概略ではない。
三崎をして『司君って可愛いんですね』と言わしめた司の乱れっぷりが知りたいのだ。
教える側の司が乱れたというのは、かなり興味深い。
「…言うのが恥ずかしいなら、実際にやってみせてくれよ。…それもできないか?」
ここにきて、ようやく司も隆也の意図に気付いたらしい。一瞬驚きの表情をして、ぐっと奥歯を噛んだ。
「…っそんなの、できません…」
まぁそうだろう。通常ならこれで隆也も諦める。
然し今回に限っては、司に非がある。隆也がちょっと怒っているのも事実だ。
それを声ににじませる。
「…そうか。じゃあしばらくここには来るな。お互い頭を冷やそう」
司の表情が歪む。泣く直前の顔で、俯いて、声を絞り出す。
「…します…します、から…」
その声に、ぞくりと背を走るものを感じる。これで興奮したら自分は間違いなくサドだろう。
「…ここでいいか?」
できる限り落ち着いた声で問いかける。司の表情は見えない。
「ベッドがいい、です」
うつむいたままの司の手をとって立たせ、ベッドにつれていく。黙って服を脱ぐのを、同じように黙ってみつめる。
上気した頬をわずかにあげて、こちらに向き直った司は、もう逆らうことはないだろう。
「…それで、どうしたんだ?」
「三崎さんを、横にして…初めてのときのこと、聞かれたから…話、してあげて…」
初めてのとき。それもまた、少し隆也の嫉妬をあおる。
「なんて?」
「…そんなに、怖くなかったって…そしたら三崎さんが、入れるとこがわかんないって言うから…
でも、最初に触るのが俺じゃ、って言ったら、自分で触るから、見せてって…それで…」
小さく深呼吸したのがわかる。司はおずおずと脚を開いて、あのときと同じ格好をする。
「…こう、して…お互いの、見せて…」
じっと、隆也は食い入るように司を見つめる。
「…は…入れるとこ、を…見せて、教えて…」
司の指がびらびらを割って、生々しい中心を見せ付ける。そこは触られてもいないのにすでに濡れていた。
細い指が中におしこまれると、小さなうめき声があがる。
羞恥にうなじまで染めて自分を犯すその様は、なんともいやらしい。
「ん…ぅ…は…それ、から…」
すぐに指を引き抜いた司は、そのまま陰核に手を伸ばす。
「一番、感じるとこだよって…教えて…」
蜜に濡れた指がそこを擦ると、膝が震える。
「…は…はぁ……あと、は…」
膝をそろえる司の息が少しあがっている。視線が快感を呼び起こしているのが、よくわかる。
「…どこが、感じるのか、自分でわかったほうがいいって…言ったら」
手がシーツを握りしめた。
「…言ったら?」
「……触りっこしようって…俺が感じるとこを、触って…触られたとこを、三崎さんも触って、って」
これだ。ごくりと、隆也は唾を飲む。
「…したんだな?三崎に、言われて」
「…はい」
司は動けない。けれど隆也は、触れようとはしない。一定の距離を保ったまま、声だけをかける。
「…どういうふうに?…してみせてくれよ」
司は答えない。悲しそうな目で隆也を見つめて、うつむき、手を胸に伸ばす。
未成熟な胸を自らもみしだき、乳首をこねる。
「…ん…は…ぁ……は…そ、れから…」
悩ましげなため息の後には、隆也も息を飲むような告白が待っている。
「…先生と、するときのこと、聞かれて…」
「…へぇ…」
手が、腰に、尻に移動していく。自分で触るには少し不自然だ。
「…優しいよ、って…は…たまに、意地悪、するけどって…」
今まさにその最中だ、と非難がましい目を向ける。
けれど隆也はそんなものはおかまいなしに、詳細を聞きだそうとする。
「それだけ?」
「…うまいかって、イクのかって…聞かれて…だから…俺らと同じ歳の奴よりはずっとうまいって………」
知らず顔が笑む。あぁ、自分も完璧にこの状況に興奮している。
「…イクよな、司。イクときってどうなるんだっけ?」
また、司の視線が泳ぐ。赤い頬に突き刺さる視線が、不思議な興奮を呼び起こす。
「…頭、真っ白になって…あそこがぎゅうって、なって…よく、わかんない……って…」
司の手が太ももの内側に移動する。
「…三崎さんが……あ…あそこ、触ってって…言う、から…っふ、あ…」
少し開いただけの脚の間に滑らせた手が、花弁を割る。
「は……触って、あげたら…三崎さんも……んっ…それ、で……は…」
指が蜜壷に沈み、Gスポットを擦り始める。
「ふぅ、んっ…あ、その……は……ここが、感じるとこ、だって…あ、あっ…」
震えながらも手の動きは止まない。くちゅくちゅと、水音がひびく。
隆也の視線が注がれているのがわかる。恥ずかしい。なのに、指は止まらない。
「は、あっ…それ、で……はぁ、は……ここ、もっ…!」
掌で陰核をおしつぶし、体を震わせる。
「は、ふっ…み、三崎さん、上手だから、俺が、いっちゃいそうで…だから…」
くちゅくちゅと、指を抜き差しする音の感覚が狭くなる。
「は、こう、やって…あ、はぁっ…んっ、三崎さん、を……っふぁ、あっ、あぁぁっ…!」
ぐりぐりと強く陰核を押しつぶして、びくん、と体を震わせる。
引き抜かれた指とともに愛液が溢れてシーツを汚した。
「はぁっ…は…は……」
肩で息を整えて、きれぎれに最後の説明を口にする。
「は…三崎さん…を、抱きしめて……ちゃんと、わかったかって…聞いたら…」
隆也は司の側に寄り、抱きしめた。くたりと、体が傾く。
「…ちゃんと…自分のも、俺のもわかったって…言って、笑ってた……」
三崎なら言いそうだ。いつも無意識にとんでもないことを言ってのける生徒だから。
司の背を撫でてやりながら、始末のつきそうに無い自分の息子をどうしようかと考える。
「ん……ありがとな、ちゃんと、説明してくれて…」
ぎゅう、と服を掴まれる。泣き声が隆也を責める。
「ふ…せんせ、ひどい…俺、が悪いけど…でも」
「うん…ごめん。ごめんな。でもよくわかったよ。司がほんとに三崎のためにしたことも…」
頭を撫で、背を撫で、優しく声をかけながら、どうしようもない自分の欲求を感じる。
「…三崎が司のこと可愛いって言ったわけも、な。可愛かったぞ、司…」
「…っ馬鹿…っ」
馬鹿といわれてこれほど嬉しいのは珍しい。
司の顔に手を添えて上を向かせて、額や頬や鼻先や、唇にキスを落とす。
「…ふ…先生……」
ぎゅう、と抱きついてくる司を、そのまま押し倒す。
「っ先生?!」
びっくりした、と顔全体に書いてある、素直な反応に苦笑する。
「…なぁ、俺、司が可愛すぎて我慢できないんだけど。どうしようかな」
ほの赤い顔がまた真っ赤になって、ぷいとそっぽを向く。
「……知りません。そんなの……」
「…つれないなぁ…いや、悪かった。悪かったけど…司も感じてたよな。見られてるだけで感じたんだろ?」
「っそんな、こと…っ」
否定しきれない司の口を塞いで、舌を差し込む。
可愛くない反応とは裏腹に、舌は素直に絡み付いてくる。
じっくりと口をほぐしてやれば、すぐにまた息があがる。
「…は…せんせ…」
欲情した女の目になったら、とたんに腕も妖しく首に絡みつく。
「うん…しよう、か」
返答の変わりに隆也の頭を抱き寄せた司は、耳を甘く噛む。
「…頑張って説明してくれたお礼だ。司が一番気持ちよくなれるようにしてやるからな」
司よりも、俺の方が司のいいところを知ってるんだからな。
そう心の中で呟いて、隆也は司に噛み付いた。