司の、切なげな息の音だけが聞こえる。
隆也に見られながらのオナニーで快感も興奮も一通り高まった体は、愛撫の必要もないほどほぐれていた。
「…どうすると、気持ちいいんだっけな。全部言ってくれよ、な…」
キスを繰り返し、指だけ司の中に入れて、動かしもしない。
横たわった司を見下ろして、声だけは優しく問いかける。
「せん、せい、知ってるじゃんっ…」
あぁ、知ってるとも。
けれどその事実は、口にはしない。今日は何があっても司は逆らわないとわかっているから。
「…どうだろうな。司が感じるところは司にしかわかんないだろ?
司がして欲しいことをちゃんと言ってくれれば…司は気持ちよくなれるんだから」
きゅう、と膣が指を締め付ける。こういう意地悪で感じてしまうのだ、司は。
少し悔しそうに横を向いていた司の口が、動く。
「……指…動かして…」
そしてこういう反応を返す司に、興奮するのだ。隆也の口の端がつりあがる。
「どんなふうに?」
胸がゆっくりと上下している。それに合わせて、ゆっくりと呼吸をしているのだろう。
「…もう少し、手前の…お腹の方、触って…」
言われたとおりに指を動かす。言われなくてもGスポットくらいわかっているが、ここはできるだけじらす。
ゆるりと肉壁を触って、すぐにまた手を止める。
「…それから?どうしてほしい?」
こういうのは自分の性に合わない。
本当は、甘い言葉を囁いて、与えられる快感を全て与えて、共に上りつめていって、幸せを共有する方が好きだ。
…と、言ったところで今のこの状況では誰も信じてくれないかもしれないが。
司の貞操観念の浅さというか、無防備さというか、そういったものに少しいらだったのは事実だ。
それを反省させるべく、というのも口実にしか聞こえないかもしれないが、そこから思いついたことではある。
「…もっと」
そして司は自分に従順だ。多分こういう素質も元からあったのだろう。
「もっと?」
「…もっとそこ、触って…」
かすれた声が指を動かす。ご希望通り触ってやれば、艶っぽいため息がもれる。
「…んぅ…は…ぁ…あんっ…」
「…ここだけでいいのか?」
まただ。膣が指を締め付ける。こうされるのを望んでいる。
「ん、あぁ…ん、だめ…もっと、いっぱい…っ」
くねる体を距離を置いて眺める。いつもぴたりと体をくっつけているから、こういう眺めは新鮮だ。
「いっぱい?どこをどうされたい?」
司の視線は隆也には向かない。
「中を…」
その単語に、素早くかみつく。
「中?どこの?口の中?それとも」
できるだけ卑猥な言葉を言わせようとしているのがわかる。それは司にとってはどうしようもなく恥ずかしいことだ。
なのに。
きゅう、とそこが疼いて、隆也の指を喜ばせているのがわかる。
「中…今、先生の指が入ってる…」
「そう、ここだな。この中を、いっぱい、どうして欲しいんだ?」
我ながら陳腐な台詞だ。どこのAV男優だ、とツッコみたくなる。
…ビデオでも回してやればよかった、とか、それこそ鬼畜な考えが思い浮かんだがそれは置いといて。
耳を澄まさなければ聞こえないような小さな声を拾う。
「いっぱい、触って…」
「触る、だけ?こんなふうに?」
指の腹であちこちの壁をなぞるように、ゆっくり動かし、かきまわす。
「ん、それ、も、いいけどっ…そうじゃ、なくて…」
言葉を選ぶ司を追い詰めるように、矢継ぎ早に言葉を継ぐ。
「どうしたら司は一番気持ちいいのか、って聞いてるんだよ。だからちゃんと、言わなきゃだめだろ?」
胸の上下する感覚が狭くなる。いや、それ以上に、口で息をしているのがわかる。
「はぅ…ん…一番、気持ちいい、のは…」
ずっと横を向いていた司の視線が、隆也に向く。潤んだ目はそれだけでも扇情的だ。
「…先生の…で、されるのが、一番、気持ちいい」
こういうことを言われると、目論見だとかなんだとかはどうでも良くなってしまう。
こちらもとうに限界なのだ。正直、まだ自分がきっちり服を着込んでいることが信じられないぐらいで
…というか、マジでキツイ。
「……司」
もう少しだけいじめておかないと、後悔しそうな気がする。
…が、先生の、という一言さえ聞ければ、やっぱり後はどうでもよい。
いい加減息子を解放したい。それからいつものように、いや、いつも以上に愛し合いたい。
「…先生、お願い」
愛しい。
これまでの努力をすべて忘れて、指を引き抜き覆いかぶさって、唇を貪る。
司の腕は首にまわされ、脚が絡みついてくる。
「ん…んむ、ちゅ…んは……司」
唇を離すと、潤んだ目が覗き込んでくる。声を聞く前に、謝っておこう。
「ごめんな。でも、ほんとに可愛かった。やっぱ限界だ、俺」
余裕のない照れ笑いに、司は眉を寄せる。
「先生、ずるい…よ。謝られたら怒れないじゃん…」
もう一度ごめん、と謝って、服を脱ぎ、ズボンのファスナーをおろす。
片手だとうまくいかない。焦るな。ガキじゃあるまいし。
「…その、もう、ああいうことはするなよ?」
一応の再確認に、司は真面目に頷いて、笑う。
「うん。大丈夫。……俺、わりと先生にベタ惚れだから」
「…ほんとに、可愛いな………許すよ、もう、怒ってない、というか、怒ってられない」
やっと開放されてぴくぴくと震える肉棒の先端を膣口に押し当てる。
「ん…先生、早く…」
ちょうだい、と司の口が動く前に、熱く濡れた蜜壷に先端を押し込んだ。
「ん、あぁっ…」
いつもよりはっきりと嬌声を響かせて、隆也を受け入れる。
「く…やばい、な…」
じらしておきながら自分もじらされていて、思ったよりも余裕がない。挿入だけで快感が脳天にまで走る。
司の反応も良くて、このままではすぐにイってしまいそうだ。
「はぁ、あ、せんせっ…どう、しよ…なんか…っ」
すがりつく司の息は完全にあがっていて、膣も何度も収縮と弛緩を繰り返す。その刺激に、隆也は息を飲む。
考えてみれば司はさっきすでに一回イっている。
快感に敏感な体をさらに焦らしたのだから、それこそ感度は最高だろう。
「んっ…ちょっと焦らしすぎた、な」
苦笑しつつ司のうなじに唇を落とすと、びくん、と体が跳ねる。余計なことをしている暇はなさそうだ。
「……いくぞ」
腰を動かし始めると、それこそ強烈な快感が全身を走る。
「ん、うんっ…ふ、あっ…はぁ、あ、あぅっ…」
司の高い声が耳をくすぐる。
妖しく蠢く膣壁を押し分け、最奥まで突き立てては引き抜き、また同じことを繰り返す。
そのたびに愛液が溢れ、肌のぶつかる音がし、快感に痺れながら司の喘ぎ声を聞く。
「ひぁ…んぅっ…ふ、はぁっ…あ、はっ…あ…」
背に回された腕の感触も、胸と胸のこすれあう感触も、熱い吐息も、
すべての感覚が研ぎ澄まされたように強烈に肌に刻まれて、脳を侵してゆく。
出したい。この熱い膣の中に、熱い精子を。
「…く、うっ……司…っ」
「んっ、せんせっ…あふ、あっ…せんせぇっ……だめっ…!」
声を出すこともできず、息をとめて、身体全体を緊張させて、司は達した。
その瞬間、膣が暴力的な締め付けで肉棒から精液をしぼりとる。
暴発という表現に見合うような勢いで射精して、その快感に震える。
どくどくと精液が放たれるたび、司が小さくうめく。苦しげに、それでいてどこか嬉しそうに。
ぐったりとした身体を抱きしめて、じっとりと濡れた身体を重ねたまま息を整える。
「ん…司…」
余韻に酔った司の頬に口付けて、髪を撫でる。
「んは…は…先生…」
背にまわされた細い腕に、わずかに力が込められる。
「…先生…先生も、もう、こんなのしないでね…」
そんな色っぽい目で言われても説得力はない。まぁ、自分もだいぶ辛いのでなかなかする機会もないだろうが。
「……そう、だな。ごめんな、色々意地悪して」
「ん…でも、ちゃんとしてくれたから、いい」
笑った目元が、涙でにじんでいる。それが辛かったからなのか、快感のためなのかはわからない。
「…もう、しないよ。司が嫌ならな」
頬をくっつけるように抱きしめると、耳元で小さな声が甘く囁く。
「……でも……たまに、なら…」
思わず顔をあげて見つめると、捉えたはずの視線がついと逃げた。聞き間違いではない。
「……司?」
「………」
答えない、ということは、つまり。
隆也の顔がだらしなく緩む。もう一度抱きなおして、呟いた。
「そうだな…たまに、なら」
「………うん」
三崎に感謝しよう、と隆也が思ったかどうかは知らないが。
これから後、たまにこういうことがあったとか、なかったとか。