「ねぇ、中ってほんとに気持ちいい? 」
噴いた。噴いてむせ返った。そして、自分と目の前の少女のおかしな関係を再認識する。
どうしてまた自分は来てしまったんだろうと後悔しつつ、以前と同じファーストフード店でまた懲りずにシェイクをすすっていたわけだが。
口の周りをぬぐって、司は努めて落ち着いた声を出す。
「…あのね三崎さん、そういう事はもっと遠まわしに言って欲しいな」
「あ、ごめん! あ、あの、でも、他になんて言ったら良いか…」
指摘された途端に頬を染めて俯くゆいは、何処からどう見ても可愛い。何度連呼してもかまわない。可愛い。
中性的な顔立ちの司とゆいは、美男美女のカップルに見えるはずだ。そこにはちょっとした優越感を感じる。
しかし天然の小悪魔であるゆいに油断は禁物だ。
「まぁ、そうだね……俺も最初は良くわかんなかったよ」
「……でもそれだと、男の人ってがっかりしない? 」
禁物なのだが、心底心配そうな表情と声を向けられると、優しくしてやりたくなる。
「そーだね…中で感じるもんだと思い込んでる奴が大半だから…でもそれは別に、こっちが悪いわけじゃないし」
大丈夫だよ、と声をかけても、ゆいの表情は晴れない。
「うん……」
この年頃ではお互いが未熟すぎて、性の不一致など当たり前なのだが、それを真剣に悩んでしまうのも若さゆえで。
なんとかしてやりたい、と司が思うのは自然の成行だ。
「……あれから、自分でしてみた? その…中も」
「うん……してみた、けど……よくわかんなくて」
ゆいは決して感度が悪いわけではない。ただまだ開発が済んでいないだけで、これからどうにかできないわけではない。
……ただ、余計なことを言うと司が泥沼にハマる。
「まぁ、焦らずゆっくりするといいよ。中の感じるところ、覚えてるでしょ? あそこ、自分で触ったり触ってもらったりしてれば…」
「…司君は、それで感じるようになった? 」
頬を染めたゆいの頭の中には、隆也の手で喘ぐ司の姿が思い浮かんでいるのかもしれない。
しかし司が思い出すのは、ゆいと同じように悩んでいた頃の自分と、健だ。
遠慮のない間柄でも男と女のことは別で、それはもう思い出すだけで頬が熱くなるような恥ずかしさが湧いてくる。
「うん。…まぁ、相手に言うのも恥ずかしいから、自分でなんとかしたけど…」
「…司君、顔真っ赤だよ」
指摘されてもどうすることもできず、平静を装ってシェイクをすする。
「自分で、どれくらいしたの? 」
また噴いた。っつーか、噴くよそりゃ。
「…ど、どれくらいって…! 」
言葉攻めじゃねーか! と叫びだしたいのを必死で飲み込んで、司は頬を染めて口をぱくぱくさせている。
ゆいはそんな司を見て無邪気な笑みを浮べて、可愛い、なんて言っている。
「だから…その、頻度」
「あ。あぅ、あ……」
はっきり言われてもはっきり返すことは出来ない。男友達との会話なら、平気で『毎日』とか言えるのだが。
「だって、ちゃんと…感じるようになりたいから……だめ? 」
だからそれは反則だ。可愛ければ何をしても許される人種がいることを司はようやく認めた。
耳まで熱を持っていて、言われなくても自分がひどく赤い顔をしているのがわかる。
「……その頃は、週……三回、とか……したいときは、毎日……」
「…やっぱり、それくらいしなきゃだめかなぁ? するときって、いっつもイくの? 自分でしてて、いける? 」
真面目に聞かれると困る。自分だけ恥ずかしがっているのがものすごく、困る。
「いや、人それぞれ…だろうし。…う、ん…だいたい、軽くイく、かな……」
人に話すようなことではないのに、よりによって男の格好で女の子に告白しなければならないのがひどく恥ずかしい。
「中でイける? 」
「……う……中、といっしょに、クリいじって……」
何言ってるんだ俺! と激しく自分につっこむが、つっこむべきはそこではない。
恥ずかしがりながらも少し気持ちよくなってしまっている自分のM性につっこむべきだ。
「そっかぁ……ありがと、がんばってみるね! 」
何でこの子はこう、さわやかな可愛らしい笑顔で言い切れるのだろう。
立ち去っていくゆいの背中を呆然と見詰めながら、司はようやくシェイクを味わった。