(文次郎視点)
「とりあえず、ここで待っていてくれ」
「ええ」

いきなり入ってきた二人に俺は盛大に眉を顰めた。


「おい、仙蔵。俺の目の前で堂々と女を上げるとはどういう魂胆だ」

俺の言葉に仙蔵が眉根を寄せた。
けれども、俺も引けない。一度、仙蔵が連れてきた女のせいで酷く周りが迷惑を被ったことがあるのだ。それ以降ここには許可なく女は連れ込まないというルールが成り立った。
なのに、仙蔵は普通に女を連れ込んだのだから見逃せる問題ではない。

「先輩の目は節穴ですか?」
「何を言うか両目の視力はバッチリだ! って、お前っ!」

俺たちの間に割って入った女に視線を向けて、俺は目を見開いた。

「確か、の」
「友人の花乃子です。お久しぶりですね、潮江文次郎先輩」

そうだ。高校時代に良く見かけた。あの花乃子だ。
この女は、本当にの友人なのかと思うほどに、あれだ。性格が捩れている。
そして、仙蔵は気が合わないのかこの女とは対立関係にあったはずなのだが、なぜ今は肩を並べてここに居るのか。まさか気が合ったとか抜かすのか。それはそれで恐ろしい最強コンビの成立ではないか。

「あ、ああ」

なんとか返事をした。機嫌を損ねるとどうなるか分からない。
しかも、この女は、甚くの事を気に入ってるから尚更だ。

「私は連絡をしてくる。少し待て」
「はいはい」

そう告げて、仙蔵は俺を置いて部屋を出て行った。
おい、待て。俺はこの女と二人きりなのか。会話を交わすなんざ絶対に無理だ。

会話の切欠を脳内で探していたら、花乃子は特にこちらを気にせずに近くにあった椅子に腰掛け、傍においてあった雑誌を手に取り目を通し始めた。つまり、初めから俺と会話をするつもりは毛頭もなかったというわけだ。
いや、そちらのほうが俺もありがたい。だから、俺は、さっさと自室に戻ろうと椅子から腰を上げた。

「潮江先輩、どちらに行かれるんですか?」

その言葉に視線を向けると、花乃子は雑誌から目を離してこちらに視線を向けていた。てっきり、こちらのことなど空気のように扱っていると思っていただけに早い反応に内心で驚く。

「いや、邪魔だから部屋に戻ろうかと思ったんだ」

俺の言葉に花乃子は軽く眉間に皺を寄せた。

「一々呼ぶの面倒なんで、ここにいてください」
「は? なんでだ?」
「直ぐに他の先輩たちも来るんで、いてください」

俺の疑問の言葉を華麗に無視して、花乃子はニコリと笑みを浮かべて告げた。それは第三者が見れば綺麗な笑みなのだろうが俺の脳内では『文句言わずに此処に居ろ』と通訳の言葉が流れていた。
此処で逆らうと今後よくないことが怒る兆しであると分かって、俺は素直に腰を元の位置に戻した。


それと同時に仙蔵が戻ってきた。この妙な沈黙を維持せずに済んだことにホッと安堵した。俺がまだ此処にいることに気づいた仙蔵が眉間に皺を寄せた。

「なぜ、文次郎は、まだここにいるんだ」
「私がいてくださいとお願いしました。何度も説明するのは面倒なんでまとめて話したいだけですよ」

仙蔵の疑問符に花乃子が答えていた。その言葉に仙蔵はふむと頷いて、向かいの椅子に腰を下ろした。

「それで、全員集まりそうですか」
「留三郎と長次には連絡したから最低でも四人は来るだろう」

仙蔵の言葉に花乃子は若干眉を顰めた。つまり、俺たち全員に話があるようだ。一体どんな話なんだ。俺は内心で疑問を抱いた。

「七松先輩は、来ないかもしれませんね」
「長次に連れてくるよう頼んだ」
「あら、意外と用意周到ですね」
「お前が褒めるとは明日は霰か?」
「……面白いことを言いますね」

段々と空気が悪くなってくるのを俺は感じた。なんだこれは、拷問か。他の連中も呼んでいるというならば、早く来いと心の中で叫んだ。



オアシスを求める砂漠の旅人



150520