「ぷはぁっ!!」
ばしゃっと音を立てて水面へ浮上するとそこにはもう見慣れてた天井がある。
           「・・・ここは・・俺の寝室の隣にあるバスルーム・・?」
隣では中学2年3年の時同じクラスだった村田健−通称「ムラケン」も同じように水面に顔を出して大きく息を吸っていた。
       「本当、渋谷の言うとおり・・もうちょっと場所とタイミングを考慮して欲しいよね」
そういいながらもどことなく楽しそうに笑う村田。

              −どうやら今回もまた俺たちは呼ばれたらしい・・・−








事の始まりは今朝−。

       「あーあ・・せっかくの日曜だって言うのに・・予定も何も入ってないなんて・・。俺らよっぽど暇人に見られてるんじゃねぇの?」

たまの休日−。
本当は草野球に専念したかったんだけど、今日は皆の予定が合わず練習はお流れ。
他にすることもなかった俺は仕方がないから自分の部屋のベッドでごろごろとしていたのだが・・・。

               「ゆーちゃん、村田くんから電話よーー!」

コンラッドからもらった魔石をぼんやりと触っていたところに村田から電話が入った。
その内容は「渋谷、今日暇だろ?一緒に図書館でもいかないか。」という野球小僧である俺にはあり得ないほど似つかわしくない場所へのお誘いだった。

       「まぁまぁ、いいじゃんか。たまには図書館なんかいくと新しい自分を発見出来るかもよ。」

図書館でどんな自分を発見するんだよ、どんな。そんなツッコミを呑み込みながら俺と村田は図書館のそばにあるでかい池のまえで話していた。
ここには何匹もの鯉が飼われていて近所の人たちがエサをやっているのをよく目撃している。

            「しかし、大きいよなぁ、ここの鯉。しかも何匹いるんだよ、ってくらいだし」

こちらによってきた赤い大きな鯉をみながら俺をぼけーっとしていた。
ちなみに見るって言っても柵越しにだけど。元々はそんな深くない池らしいけど何かあるといけないからって腰ぐらいの高さの柵が張られたのはつい最近だ。
その時「すいませんーーーー!!」そう叫ぶ声が聞こえた。
なんだろうと振り返ると少し離れた場所で小学生くらいの男子が手を振っている。
あれ・・・?どうしたんだ?

                      「渋谷、危ない!」

村田のせっぱ詰まった声が聞こえてくる。

                      「へ・・・っ・・なに・・」

ボスッ!!そんな音があたりに響いた。

                          「う・・・」

やられた〜!まさかまさか・・こっちの世界で命を狙われるなんて〜〜!バランスを崩した俺はそのまま柵を乗り越え池の中へ顔をつっこんだ。
その時だ、鯉たちが泳いでいるより少し離れた場所に黒い渦が見えている。

                 あれって、まさか・・またか〜〜!?

それが何か分かった途端、俺は渦の方へ引っ張って行かれる。体は完全に水につかっていた。

                        「し、渋谷!!」

そして俺に何が起こっているか気がついた村田が慌てて俺のあとをおって池に飛び込んで・・・。

2人で入るには狭すぎる浴槽から何とかしてでると俺たちは2人とも全身びしょぬれ状態だった。
でも、今回は風呂の水だからまだいい方か・・。

            「でも、今回は何の用で呼んだんだろうね、魔王陛下?」

村田が悪戯っぽい笑顔を浮かべて俺に尋ねてくる。

                     「俺が知るかよ、大賢者様?」

そんな風に言い合い俺たちはとりあえず濡れた服を着替えようとして服を脱ぎ始めた。
大体、こういうタイミングで『陛下〜〜!!』っていう叫び声と『お前達2人で裸になって何やってる!!』っていう怒鳴り声が入り口から聞こえてくるんだけど・・。

                     「・・今日はお出迎えなし?」

いつも俺が来ると真っ先に迎えに来るギュンターやヴォルフラムの姿はいつまでたっても現れない。
それどころか・・。

           「う〜・・ん。ウェラー卿まで来ないなんて・・何かあったのかな?」

そう、いつもそばにいてくれる俺の保護者兼ボディーガードでありそして俺の恋人でもあるウェラー卿まで今日は出迎えにきてくれていないのだ。

               「何かってなんだよ。あ、まさかまた戦争とか!?」

少しだけ不安を覚え俺は村田に尋ねる。

         「そうとは限らないけど・・。でもやけに城の中が静かだと思わないか。」

う・・言われてみれば・・・。

            「とりあえず、服を着替えたら様子を見に行ってみる?」

                       「あぁ・・そうだな。」
 

                        「ギュンター?」

軽くノックをした後、ギュンターの部屋のドアを開けるがそこには誰もいない。
あの後、俺たちはクローゼットに入っていたバスローブをきて皆の部屋を回っていた。
俺としてはこんな格好ごめんだけどびしょぬれで歩き回るよりかはマシだ。

                     「ギュンターもいない・・」

       「妙だな。フォンビーレフェルト卿もフォンヴォルテール卿もウェラー卿もフォンカーベルニコフ卿、さらには水月さんまでいないなんて・・」

俺は不安がさらに大きくなり知らず知らずに村田を見つめる。

     「もしかしたら、皆で慰安旅行・・とかかもしれないし。そんなに考え込むなよ、渋谷。」

確かに皆でヒルドヤードあたりに温泉旅行・・なんてこともあるかもしれない。
しかし、血盟城の人たち全員で?

          「すごい団体さんだよな。あ・・中庭になら誰かいるかも!」

ふと思い出したように村谷に告げる。
あそこなら休憩中の兵とかもいるだろうし、もし皆で慰安旅行にいっていても誰か1人ぐらいはいるだろう。

      「そうだね、ここで考えてるより行動に移そう。中庭にいってみよう、渋谷。」

                         「おう!」
 

                      「誰もいない・・・」

いつもならそれなりに賑わっている中庭だが今日だけいつもと違いシーンとしている。
その静けさが俺の不安をよけいにあおった。

                「皆ーーー!!どこにいるんだよーー!」

思わず大声で叫んでしまう。
しかし次の瞬間。

                        「うぐっ!!」

俺は物陰に隠れていた誰かに後ろから口を手で塞がれた。
え・・・え!?なんだよ、これ!!
慌てて村田を見ると村田も同じように後ろから手を回され口を塞がれている。

                       「ん〜〜!!」

じたばたと抵抗をするが相手はよほど強靱なのかびくともしない。
俺たち・・かなりピーンチですか!?
そのままずるずると物陰に連れて行かれる。
やばい・・やばい・・っ・・−−コンラッド!!心の中で愛しい人の名前を呼んだ途端ぱっと手を離された。

                   「静かにして下さい、陛下。」

          「すいません、陛下、猊下・・・。ただちょっと今は訳ありで・・」

                        「え・・・?」

聞き覚えのある声が耳を打つ。
いつの間にか閉じていた目を開けるとそこには・・

                     「ヨザック!サヤさん!」

困ったように微笑んでいるグリエ・ヨザックと水月沙耶さんの姿があった。

 
                 「え・・・『血盟城缶蹴り大会?』」

あの後、空いている部屋に入れられた俺たちに説明されたのはなぜか懐かしい言葉が入っているものだった。

    「はい。元々はプリンセスと私、それからメイドたち、ギーゼラでやっていたんですが・・」

サヤさんはそこまでいうとため息をついた。
サヤさんが言うには、俺がいないことで退屈したグレタがサヤに遊ぼうといってきたのがそもそもの始まりだったらしい。

   「今日は天気もいいし、ヴォルフラムは馬で遠乗りにいかないっていってたんですけど・・馬の調子があまり良くなくて・・。」

本を読むのにも飽きた、外で遊びたいとグレタが珍しくいってきたのだそうだ。
しかし、買い物などに連れて行くのにも気が引ける−。
その時、人間界の友達と一度だけやったことのある「缶蹴り」を思い出した。
眞魔国にはジュースの缶はないため紅茶葉の缶で「缶蹴り」を始めたのだという。

               「でも・・それでなんで皆いないんだよ。」

    「・・・それが・・段々人数が増えていきまして・・。アニシナまで混ざったんです。」

めちゃくちゃ言いにくそうにサヤさんが答える。
あー・・・そうか、なるほど・・。

  「それでアニシナちゃんが罰ゲームとして捕まった人は実験台になるようルールを変えて・・。それでたまたま隊長に会いに来た俺まで巻き沿いになったんですよ。」

捕まったらアニシナさんの実験台・・・。
それなら皆死ぬ気で逃げ回っているのにもうなずける。

            「なかなか面白いことをしていたみたいだね、こっちは」

村田がくすくす笑いながらヨザックを見つめている。
そこで俺はハッと気がついた。
この2人・・確か・・。

    「でも、今日血盟城にきてラッキーでしたね、こうして猊下にあえたんですから」

                 「僕もグリエにあえてよかったよ。」

              「やだなぁ、ヨザックでいいんですってば。」

その2人のやり取りを見ていて俺はここにはいない保護者のことを考えていた。

       「・・・サヤさん!コンラッドは?まさか・・捕まったりしていないよね!?」

  「コンラッドなら多分プリンセスと一緒だと思います。始めは私がプリンセスと一緒にいたんですが・・。なんせ人が多くてはぐれてしまいして・・。その時、コンラッドがプリンセスらしき方と走っていくのをみましたから」

なら、コンラッドはまだこの城のどこかにいるってことだよな。・・・ってあれ?

       「サヤさん、さっきから言ってる『プリンセス』ってグレタのことだよね?」

                    「はい。そうですよ。」

サヤさんがそう言いながら苦笑いしながら答えてくる。
でも、なんでだ?普通に『グレタ』って呼べばいいのに・・。

     「プリンセス・・グレタ様は陛下の養女ですし・・。そうでなくても滅んだとはいえゾラシア皇室の姫君です。私より地位はかなり上になりますから、始めはヨザックや皆と同じように『姫様』ってお呼びしていたんですが・・」

    「サヤ師範が正式にグレタ姫様のボディガード兼保護者に任命された途端サヤ師範に『姫様じゃなくてグレタって呼んで!』っていいだしたんですよね。」

サヤさんの話を補足するようにヨザックが続ける。

                 「あ〜・・・それはきっと父親の影響だね」

どういう意味だよ、村田!
え・・・ってかグレタのボディガード兼保護者!?サヤさんが!?

         「え、そんなのいつ決まったんだよ!俺、全然聞いてないし・・」

確かにサヤさんにはグレタを何度も護ってくれている。
けど・・・。
男親として面白くないことを決められてしまい思わず少しムッとした物言いになってしまう。
しかしヨザックの言葉で俺の怒りは打ち砕かれた。

     「そんなこといったって、坊っちゃん。アニシナちゃんとサヤ師範、グレタ姫様の将来を考えればどちらが適任か分かりませんか?」

               ・・・選択肢その2つだけ!?

                       「・・・・」

     「すいません、陛下。皆に押し切られてしまいして・・。でも、陛下がもしご不満でしてら・・」

サヤさんが申し訳なさそうに俺に告げてきた。

   「グレタ姫様だっていくらカヴァルケードにいるとはいえどこに不届きものが潜んでいるか分からないでしょ?だからボディガードが必要なんですよ。」

ヨザックの言うことはもっともだ。
なんせグレタは俺の娘だし危なくないとは言い切れないよな・・。
サヤさんはギュンター達の師範だし腕が立つのも事実だし・・。

それに・・・以前、サヤさんは命がけでグレタを助けてくれた・・。

                       よしっ!

             「サヤさん、グレタをお願いします!」

                   「え・・あ・・はい。」

決心をして頭を下げた俺を見てサヤさんがきょとんとした顔をしている。
しかしその顔はやがて満面の笑みに変わった。

      「話はかわりますがギュンター閣下、ヴォルフラム閣下は捕まってますぜ。」

         「え・・・?マジでギュンターとヴォルフラム捕まっちゃったの!?」

  「えぇ・・。使用人や兵はアニシナが加わった時点で逃げまどい自分たちの部屋に戻ったりどこかに大勢で隠れていると・・。だからこの缶蹴りに参加していてまだ捕まっていないのは私、ヨザック、コンラッド、プリンセス、グウェンダルの5人だけなんです。ギーゼラも先ほど捕まったみたいですし・・」

そこまでいうとサヤさんが軽くため息をついた。

    「でも、このまま隠れ続けてればいずれ見つかります。・・・アニシナが優勝したとき、どれほど恐ろしいことが起きるか・・簡単に想像が出来ますから・・」

                     ・・確かに・・。
もしアニシナさんが優勝したらもしかしたら俺や村田だって実験台になるかもしれない・・。

         「なら、フォンカーベルニコフ卿を何が何でも勝たせないようにしないとね。」

それまで黙って話を聞いていた村田が顔を険しくしながら呟いた。

                     「どうします、猊下?」

           「そうだな・・。まずはウェラー卿たちを探した方が良さそうだ。」



A DEADLY GAME !?(前編)

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