一方−。
沙耶とヨザックがユーリ達に出会った頃、グレタ、コンラッド、グウェンダルの3人は宝物庫に身を隠していた。
始めはサヤ達がやっている缶蹴りに皆ほのぼのした気持ちでそれなりに楽しんでやっていた。
しかし、アニシナが入った途端、なぜこんなにも命がけの勝負になるのだろうか。
「ここもみつかるのは時間の問題だ。どこかに移動せねばならんだろう」
いつもより3本は多く眉間に皺を寄せながらグウェンダルが低い声で提案する。
「しかし、どうする。アニシナはこの城の事をよく知っている。どこにいてもすぐに見つかってしまうと思うけど・・」
苦笑を浮かべたままコンラッドが答えた。その隣では不安そうなグレタが2人をみつめている。
「グウェン、サヤとヨザック捕まってないよね?」
グレタは先ほどはぐれてしまったサヤの事が気になるらしい。
「大丈夫。サヤ師範とヨザックならちゃんと考えて逃げてるだろうしね。」
コンラッドが安心させるようにグレタに話しかける。
「それより問題は私たち全員が捕まってしまった後の話だ。」
グウェンダルの顔色がさぁっと青ざめた。
さすが常時アニシナの実験台をやっているだけあってその恐ろしさは何より彼が一番知っている。
「・・・陛下がここにいなくてよかったよ。」
全員が捕まった場合のヴィジョンを想像しながらコンラッドがため息をつく。
その時、どこからかアニシナの声が聞こえてきた。
『血盟城に潜んでいるグウェンダル、コンラート、ヨザック、サヤ!大人しく降伏しなさい!いまなら魔動掃除機−すいこむ蔵くんの実験台ぐらいで許しますよ!』
・・・掃除機で何を実験するんだ・・。
「・・・どっちにしろ、実験台にされるのね・・」
その声を聞いてサヤさんががくっと頭をうなだれた。
俺たちは今、宝物庫に向かって移動中だ。
あそこだったら地下だし中から鍵もかけられるから安全っていうけど・・缶蹴りってそういうルールじゃなかったような気が・・・。
「あ、でもさ。コンラッドたち、本当に宝物庫にいるのかな?」
俺は少しだけ不安になってヨザックに尋ねる。
するとヨザックは自信満々で頷いた。
「グレタ姫様と一緒ならよけいに隊長ならそうするでしょうね。まぁ今の放送を聞いた限りではグレタ姫様は実験台にならないようですけど・・」
「当たり前でしょ?プリンセスは陛下の養女なんだから。アニシナだって下手なことはしないわよ。それに元々アニシナって女性を実験台することは滅多にないから・・」
「え・・でもサヤさんはよくフォンカーベルニコフ卿に追いかけられてますよね。」
村田がさらりと尋ねた。
言われてみれば・・確かに・・。
「私は・・アニシナとは付き合いが長いですから・・アニシナも私ならちょっとくらい無理させても平気だって知っているんだと思います・・」
サヤさんが遙か遠いところを見ながら答えを返してくる。
どうやら言ってはいけないことだったらしい。
『・・・誰も出てくる様子はないみたいですね。ならばこちらから探しにいきますよ!』
アニシナさんの声が再び聞こえてきた。
え・・探しにくるって・・。
「やばいですねぇ、こりゃぁ・・。」
「えぇ・・、戦場でもここまで緊張したことないってのに・・」
・・・恐るべし、アニシナさん。
「とりあえず、宝物庫へ・・コンラッド達の所へ急ごう。」
「そうですね・・。急ぎましょう」
そういうと俺たちは物陰に隠れながら歩き始めた。
う〜・・緊張する・・。
「・・すごい緊迫感だね。」
村田が苦笑いをしながら呟く。
確かにヨザックのあそこまで真剣な顔って見たことないかも・・。
「・・静かに。」
一番前を歩いていたサヤさんがそういって柱の影に俺を隠した。
廊下の向こうからはアニシナさんがゆっくりと歩いてくる。
その顔は心から楽しそうに微笑んでいた。
「・・・」
俺はサヤさんの隣でその様子をうかがっていた。
反対側の柱の影ではヨザックと村田が同じようにしているとアニシナさんは辺りを見回していたがやがて廊下の角を曲がっていく。
た・・助かった〜・・・。
俺がホッと息を吐くと同時にサヤさんが眼を見開いた。
「まずい・・。あっちには宝物庫が!」
「えぇ!?」
コンラッド達が危ない、かなり危ない!
俺がとっさに柱の影から飛び出そうとしたを止めたのはサヤさんだった。
「ヨザック。私がアニシナの気を引くからその隙に宝物庫へ陛下と猊下を。」
その声は微かに震えている。
やはりどんな人でも恐怖を植え付けた張本人には弱いらしい。
「・・わかりました。」
「アニシナより早く城門前にいって缶を蹴れればいいんだけど・・その前に捕まってしまうと思うから・・。あとは任せたわよ。」
「気を付けて下さいよ、師範。」
「えぇ・・ありがとう。」
そういうとサヤさんは柱の影からばっと飛び出し角を曲がったアニシナさんの後を追う。
かっこいい、かっこいいよ、サヤさん!
「アニシナ、こっちよ!!」
そんな声と共に彼女は角から飛び出してくると中庭へと飛び降りた。
「現れましたね、サヤ!」
続いて角からアニシナさんも飛び出してくる。
「そう簡単に私は捕まらないからね!」
ダッシュをするサヤさんの後をアニシナさんが同じくらいの勢いで追う。
アニシナさんとサヤさんの姿が完全になくなってから俺たちは柱の影から廊下へと戻った。
「さてと・・じゃあ水月さんの犠牲を無駄にしないためにも僕たちが勝たないとね、缶蹴り。」
村田の顔も段々真剣みを帯びてきた。
負けたらやばいって事が分かってきたのだろう。
「とりあえず、いきましょうぜ。早く隊長達と合流しないと・・」
「陛下!?」
どうやらその必要はなくなったようだ。
だってちょうど今、宝物庫がある方の廊下からコンラッドとグレタ、そしてグウェンダルが出てきたんだから・・。
「父上!!」
俺の姿を見たグレタがコンラッドから離れるとまっすぐに俺に向かって走ってきた。
「グレタ!!」
俺は片膝をつくと腕を広げそこに飛び込んできたグレタを優しく抱きしめる。
「会いたかったよ、ユーリ。」
「俺も会いたかったよ、グレタ」
久しぶりの親子の再会の抱擁をしているとぱさっと肩に何かをかけられた感覚があった。
はっとして肩を見ると俺の肩にはコンラッドの上着が掛けられている。
「お帰りなさい、陛下。なんていう格好をしてるんですか。」
いつも通り爽やかな笑みに苦笑を少しだけ混ぜながらコンラッドが俺に言う。
「ただいま、名付け親。だから陛下って言うなってば。」
「そうでした、ユーリ。」
うんうん、やっぱりこれがなくっちゃこっちに帰ってきたって実感沸かないよな。
「帰ってきてたのか、こっちに」
「うん、グウェンダルもただいま。話はサヤさんとヨザックから聞いてるよ。」
俺がそう言いいながら立ちあがるとグウェンダルが小さくため息をつく。
「・・お前が帰ってくるまでに収拾を付けかったんだが・・」
え・・?それって俺のこと、少しは気づかってくれてるってこと・・?
思わず嬉しくなってグウェンダルをみつめるとグウェンダルの目がいつもより優しい気がした。
笑って・・くれてるの?俺に・・?
何となく照れくさくなって顔を赤らめる。
するとそれまで俺のそばにいたコンラッドが俺をぐいっとひきよせた。
「コ・・コンラッド!?」
すぐに彼の腕の中に捕まってしまい慌てて顔を上げるとコンラッドの顔が目の前にあって・・。
「え・・え・・コ・・ンラッド・・?」
わーまてまて、ここにはグレタもいるんだってばーー!!
しかし、そんなことお構いなしにコンラッドは俺に口づけた。
それと同時に俺を抱きしめる腕にも力がこもる。
「ん・・っ・・」
ちょ・・ちょっとコンラッド!!
俺、コンラッドのこと怒らせたりしたっけ!?
「ッ・・・」
ずいぶん長いこと唇を重ねられ息苦しくなってきた俺が微かに唇を開けるとその隙間からコンラッドの舌が俺の口内に入り込んできた。
「っンん!!」
かりっと微かな音がしてコンラッドが俺の舌の先端を甘噛みする。
や・・やばいって・・。そこは・・!
一気に体から力が抜けコンラッドにもたれると彼は満足したらしく唇をそっと離した。
しかも離すとき「続きは今夜たっぷりと・・」というリップサービス付きだ。
うぅ・・泣きたい・・。
「気が済んだか?」
いつの間にかグレタの瞳をその大きな手で覆いながらグウェンダルが尋ねてくる。
俺はまだ体に力が入らずにコンラッドの胸にもたれている。
「あぁ。一応ね。」
一応ってなんですかーー!?(涙)
「隊長も大変だよなぁ。恋人がモテモテだと。」
「・・ヨザック」
好き勝手言ってる2人をぼんやりとみていた俺だったがふと村田に目線がいった。
村田は少しだけ思い詰めたような顔でヨザックを見つめている。
「・・・村田?」
「ん、なに?渋谷。」
そういってくる村田の顔はもういつもの村田だ。
・・きのせいだったのかな。
その時だ。
城門の方からドォンっ!という爆発音が響いた。
「サヤ〜〜〜!!!!」
誰かのせっぱ詰まったような声が聞こえてくる。
「・・・どうやら師範も捕まったみたいだな。」
「・・あいつを止められる唯一の人物が捕まってどうする・・。」
コンラッドとグウェンダルが同時にため息をついた。
「それで、どうするんだよ。アニシナさんには悪いけどアニシナさんを勝たせたらまずいんだろ?」
「猊下、何かいい考えとかないんですか?」
「う〜・・ん・・。初歩的だけど・・陽動作戦がいいんじゃないいかな?」
「よーどー作戦?」
グレタがきょとんとして首をかしげる。
「そう、簡単に言うとおとりを使ってフォンカーベルニコフ卿の気をひいてその隙に違う人が缶を蹴るっていうの。しかも缶蹴りって人の名前呼んでからじゃないと缶を踏めないだろ?」
「あ、なるほど。」
俺が手をぽんっと叩くと村田がにっと笑った。
「じゃあ早速行動開始だ!」
「あとはグウェンダル、コンラート、ヨザック。そしてグレタだけですね。」
フォンカーベルニコフ卿アニシナは満足げにそう呟いた。しかし彼女はまだ知らない・・・。ユーリと村田が来ていることを・・・
アニシナの後ろにはなぜかでかい檻があり、その中にはアニシナによって捕らえられた皆が入っている。
その中でも一番疲れていたのは沙耶だった。
「迂闊だった・・。まさか、あんなもの投げてくるなんて・・」
未だに沙耶の体はべたべたしている。
「アニシナ・・こういう勝負は本気でやるからな・・」
その様子を同情的に見ていたのは一番始めに捕まったフォンビーレフェルト卿ヴォルフラムだ。
「もし、コンラート達が捕まったら・・私たちどうなるんでしょう・・。生きて帰れないかもしれない・・。はっ・・陛下!せめて死ぬ前に陛下に会いたかった〜〜!」
いきなり立ちあがりぎゅん汁を辺りにまき散らしているギュンターを見てその義娘−ギーゼラがため息をついている。
「あ、そうだった。ね、ヴォルフラム。陛下と猊下が・・」
「ヨザック、グウェンダル!みつけましたよ!」
沙耶の言葉はアニシナによって不自然なところで止められた。
全員がハッとそちらをみるとそこには果敢にもこっちに向かって走ってきてくれたらしいヨザックとグウェンダルの姿が・・。
「・・アニシナ・・。」
「さすが・・言うのが早いですねぇ・・」
グウェンダルの顔がさらに青ざめた。
額にも汗をびっしょりかいている。
「さぁ、2人とも?こちらに来て貰いましょうか?」
・・・怖い。
「兄上・・・。」
ヴォルフラムが絶望的な声を出したとき、反対側から足音が聞こえてきた。
しかしその姿はいつまでたっても見えてこない。
「あ・・これってもしかして・・」
その不自然な足音に沙耶は1つの可能性に気がつきと呟く。
「誰です!姿が見えなくては缶を踏めないではありませんか!」
皆が向こう側から聞こえてくる足音に気をとられている中、沙耶だけはグウェンダル達の方を向いていた。
するとその視線に気がついたヨザックにウィンクをされる。
「なるほど・・。そう言う作戦ね・・」
「・・誰です!?」
アニシナがついに缶から離れた。
次の瞬間−。
ヨザック達と同じ方向からコンラッド、服を着替えたらしくいつもの黒服を着たユーリ、グレタが走り込んでくる。
ということは・・
「あの足音は猊下ってわけね。」
「ユーリ!?」
「陛下!!」
「っ・・私相手に小細工なんて・・いいでしょう!その心意気買いましょう!」
そういってアニシナが小さなビー玉のようなものを取り出した。
「あ・・あれは・・っ!」
そのビー玉の被害にあった沙耶が眼を見開く。
「アニシナ、ちょっとま・・−!!」
「くらいなさいっ!!」
もうこうなったアニシナに制止の声は届かずアニシナはビー玉を3人に向かって投げつけた。
(((悪魔だーーー!!)))
さきほど、沙耶のおかげでそのビー玉がなんなのか知っている全員が心の中で叫んだ。
沙耶は檻の柵を掴むと力一杯叫ぶ。
「避けて、陛下!コンラッド!・・グレタ!!」
「・・・え?!」
沙耶の叫び声を聞いてユーリが思わず身をよじった。
しかし・・
「うわぁああ!?」
バランスを崩してよろけたユーリに容赦なくビー玉は迫ってくる!
「ユーリ!!」
そう叫ぶとコンラッドが一瞬のうちにユーリの前に立ちはだかる。その瞬間、ユーリの頭には1つの出来事が思い起こされた。
前にこうして自分だけが護られて彼を失いかけたことを・・・。
「コンラッドーー!」
カコーン!!べちゃ・・・。
そんな音があたりに響き渡った。
カコーンって言うのはきっとグレタが缶を蹴り上げた音だろう。
なら、べちゃ・・・っていうのは?
「ユーリ、無事ですか・・?」
聞き慣れた声が耳元で囁いた。
俺は無意識のうちに閉じていた瞳を恐る恐る開ける。
すると・・
「・・コンラッド・・?」
目の前にはいつも通り男前の好青年の顔。まずその無事な姿に俺は小さく安堵のため息をついた。
でも、コンラッドの全身はどろっとした何かで濡れている。
「何、これ・・?あ、もしかしてさっきのビー玉の中身って・・」
「これのようです。」
でも、これなんだろ?白くてどろっとしていて・・。
俺はコンラッドの胸元についたそれにそっと触れる。
あれ・・これって・・。
「・・・糊?」
よく小学生が使うあの白くてどろっとした糊だ。
「・・びっくりした。なんだよ、糊かーーって・・。さすがにこのままにしとくのはまずいよな。シャワーか何かで洗い流さないと・・。」
俺はそう言いながらコンラッドの髪をつんっとひっぱった。
あーあ・・べたべたで乾いちゃっている。
「ま・・負けた・・。私が・・・。」
その声にアニシナさんをみるとフォンカーベルニコフ卿はががっくりと地面に膝をついている。
そこまでショックだったのかな・・。
「渋谷、大丈夫か!?」
アニシナさんの横を通り抜けて村田が駆け寄ってきた。
「うん、俺は大丈夫。コンラッドが護ってくれたから。」
「そっか。・・ウェラー卿、派手にやられたね。」
「はい・・。でも、これくらいですんで良かったですよ・・」
確かに。
ビー玉が割れて中身が刃物だったりしたらかなり危なかっただろう。
もうコンラッドを失いたくない・・・。
そう思うと俺は自然にコンラッドの頬に触れた。
「・・・ユーリ?」
「ありがとう、コンラッド。」
そのままコンラッドに強くしがみつくとコンラッドが苦笑いを深めた。
汚れるのに・・ってことだろう。
少し離れたところではヨザックとグウェンダルの手により檻の鍵が外されている。
その瞬間、見慣れた2人がこちらに向かって走ってきた。
「陛下ーーー!!ご無事でーー!!」
「コンラート、ユーリから離れろ!」
と叫びながら・・。
「あーあ・・。べったべた・・」
最後に檻から出た沙耶は深くため息をついた。
コンラッドと同様糊を全身にかぶった彼女もまた体中がべとついている。
「災難でしたねぇ、サヤ師範。」
ヨザックがおかしそうにそういうのをみて彼女は容赦なく彼の膝に蹴りをいれた。
「いって〜・・・」
「あんなの避けれる方がおかしいの!大体いきなり投げつけられたらどうしようもないじゃない!」
「まぁ・・そうですね。」
そう言いながらも沙耶の顔は笑っている。
「・・・でも、楽しかったな。こんなに楽しんだの久しぶりだし・・」
「サヤ〜〜!!」
少し離れた場所で今回の英雄−グレタが手を振っていた。
皆はそれぞれグレタにお礼を言っている。
もし、あそこでグレタが缶を蹴らなければ・・。
そう考えるとぞっとする。
「お呼びのようですぜ?」
「・・えぇ。いってくるわ。」
「師範、無事でしたか。」
グレタのそばに行くとまず声をかけてきたのは沙耶と同じく糊まみれのコンラッドだった。
「・・これで無事だって言えるわけ・・?」
沙耶がふぅっとため息をつく。
その答えにコンラッドは苦笑いを浮かべた。みるとユーリの髪や服にも糊が着いている。
「陛下・・。コンラッド・・2人とも早くシャワー浴びた方がいいですよ。これ、きっと髪痛みますから・・」
未だにべたべたしている自分の髪を触りながら沙耶が告げた。
しかし次の瞬間、さらなら恐怖がその場にいる全員を襲った。
「ふ・・・っ」
今まで地にがっくりと膝をついていたアニシナが急に笑い声をあげ始めたのだ。
「おほほほほ・・・っ!」
「・・・ア、アニシナ・・?どうかしたのか?」
いきなり笑いだした幼馴染みを心配してグウェンダルが声をかけるがそれが聞こえているのか聞こえていないのかアニシナは胸元からなにやら光るものを取り出した。
「・・・まさか・・アニシナ・・」
ものすごく嫌な予感をひしひしと感じ沙耶が思わず後ずさりをする。
「缶蹴りなどと生ぬるいもので実験台を捕まえようとするのがいけなかったのですね!やはりここは私の得意分野である魔動グッズで実験台を捕まえるべきですわ!!」
・・・・なにーーー!!?
ほぼ同時に全員が心の中で絶叫した。
「さぁ、まずはグウェンダル。大人しく実験台になりなさい!!」
「何!?私は実験台になどならん・・」
グウェンダルがすべてを言い終わる前にアニシナがその光る玉をグウェンダルになげつけた。
それと同時にものすごい砂埃が巻き起こる。
「ぐぁああああ!?」
「兄上ーーー!!?」
・・砂埃が収まったあと、なぜか氷に閉じこめられているグウェンダルの姿があった。
それと同時に全員の顔が本能的に引きつる。
『殺される』・・・いやそれどころではすまないかもしれない。
「・・・・こ、これは・・」
「あはは・・。ちょっとまずいかな・・」
「・・どうやって逃げますか。」
「・・じゃあ・・3つ数えたら・・」
1・・2・・3っ!!
「に、逃げろ〜〜〜!!!!」
最終的にはユーリの掛け声と共に周りにいた全員がダッシュで城に向かって走り出した。
「お待ちなさい!!!」
アニシナは容赦なく光る玉をこちらに投げつけながら後を追ってくる。
「アニシナ、やめろっ!!あきらめろ!うわぁあああ!?」
「ヴォ・・ヴォルフラムーー!」
2人目の犠牲者だった。
「ユーリ、こっちだ!」
ユーリの手を引きながらすごい勢いで走っていたコンラッドがひょいっとユーリを横抱きにして抱き上げる。
「コ・・コンラッド・・!」
「とりあえず、俺の部屋に避難しましょう!」
「う、うん。わかった。任せるよ!」
皆がそれぞれ安全だと思う場所へと散っていく。(一部、安全ではなさそうな場所もあるが・・・)
そしてそのあとには氷漬けの仲間の姿が点々と・・。
「アニシナ〜〜!!やめてってばーー!!」
沙耶が半泣きになりながら叫んでいる。
「いいえ、やめませんよ!私が負けたなんて事実、あなた方の記憶から消去します!」
・・やはり気にしているらしい。
しかし、沙耶の手は今やしっかりとグレタとつながれていた。
「・・・サヤ。」
「なんですか・・?」
名前を呼ばれ視線を送るとグレタは嬉しそうに微笑んでいる。
「ありがとう、『グレタ』って呼んでくれて!すごい嬉しかったよ!」
その言葉に沙耶は何か言おうと口を開いたがすぐに口を閉じた。
そして・・
「どういたしまして、グレタ。」
ここに確かな絆が生まれようとしていた。
−−結局、この強制鬼ごっこは夕方まで続き、逃げ切れたのはコンラッド、俺、サヤさん、グレタ、村田、ヨザックの6人だけで。
皆が改めてアニシナさんを「赤い悪魔」として恐れたのは別の話だ。−−
<FIN>
A DEADLY GAME !?(後編)
〜あとがき〜
え〜・・・っと・・・。なんかいろいろすいません!(土下座)
いや、アニシナさん大好きですよ、大好きです。えぇ、もちろん・・・。
いいですね、赤い悪魔最高vv