その日の夜−、血盟城ではささやかな俺たちのご帰還お祝いパーティーが開かれていた。
ギュンターはもっと盛大にするつもりだったけど、わざわざ国王がいなかったことを他の国に知らせることもないとサヤさんに止められたそうだ。
ありがとう、サヤさん。
そんなわけでここにいるのは眞魔国のごく一部の貴族の皆さん−血盟城関係者だけだ。
「え〜・・こほん、ではお集まりの皆様、飲み物を手に持って下さい。ユーリ陛下のご帰還を祝って乾杯を・・・音頭は僭越ながら私、フォンクライスト卿ギュンターが取らせて頂きます。」
大勢の人間によってざわめくパーティー会場内。
ギュンターが幸せいっぱい胸いっぱいといった表情でグラスを天高く上げている。
「ふ〜・・ん、一応僕たちも帰ってきたんだけどな。ねぇ、門崎?」
「・・・村田・・なんかお前から黒いオーラが見えるのはきのせいじゃないよな?」
立食式のパーティーのためかそれぞれが顔見知りや身内で固まりつつある。
そんな中、俺と少し離れた場所でアニシナさんを筆頭として集まっているグループの中で村田と門崎の話し声が聞こえてきた。
さすが最強ダイケンジャー・・・。
門崎の声は微かに引きつっている。
「それではお帰りなさいませ、陛下!乾杯!」
「乾杯」
会場にいる全員がグラスを少しだけ掲げてそう答える。
俺もそれにならってグラスを上に上げた。
ちなみにグラスの中身は子ども用のグレープフルーツジュースだ。
俺たち3人はジュースでいいって俺が言い切ったんだよな。
「ユーリ、乾杯しよ!」
俺のすぐに横に立っていたグレタがグラスを差しだしてくる。
その顔は満面の笑みを浮かべていた。
・・・グレタ・・・
「うん、しよう。グレタ」
差し出されたグラスに自分のグラスをそっと当てるとカチン、という響きのいい音が聞こえてくる。
「ユーリ、あのね、グレタ、ユーリのことが大好きだよ」
「ありがとうグレタ。俺もグレタのことが大好きだよ」
そういうと俺は赤茶色の髪をそっと撫でた。
「でも・・・急なパーティーだった割りには結構集まったわよね。ツェリ様もいるし・・シュトッフェルにレイブン・・それからヒューブにニコラも。」
グラスに入っている淡い桜色のお酒を飲みながらサヤさんがアニシナさんに話しかけている声が聞こえてきたのはパーティーも大分中盤になってからだった。
「そうですね。でも、それだけ陛下のご帰還が喜ばしいことなのですから仕方ありませんね」
アニシナさんは片手にグラスを片手にお酒の入っている瓶を持ってそう答えている。
何かああしてるとサヤさんとアニシナさんが幼馴染みだっていうのも分かる気がするよなぁ。
「あ、でもさ。サヤさんってアニシナさんとかなり年離れてるような気がするんだけど・・」
俺の素朴な疑問に俺の真っ正面にいたグウェンダルがぴくりと眉を動かした。
「あぁ。私たちが『幼馴染み』というのは生まれた時が一緒だと意味ではない。私たちがまだ幼い頃、私やアニシナに色々なことを教えてくれたのがサヤだった。幼い頃から一緒にいるもの−そういう意味で幼馴染みと呼んでいるのだ。」
そういってグラスの中のお酒をあおるグウェンダル。
なるほど・・確かに幼馴染みって別に歳が一緒ってだけじゃないもんな。
「ちなみに、そう言う意味ではサヤはアーダルベルトと・・ジュリアとも幼馴染みなんです」
納得する俺に補足するようにコンラッドが話しかけてくる。
「えっ!?アーダルベルトとも!?」
衝撃の事実発覚!という感じでぽかんとしている俺を見てコンラッドが肩を震わせて笑った。
「ところで・・私、常々思っていたのですが・・。」
「何を?」
自分のグラスに自分でお酒をつぎながらアニシナさんが再び話し始める。
ちなみに今、アニシナさんチームには村田と門崎、ヨザック、そしてサヤさんがいる。
俺−渋谷有利原宿不利チーム−のところにはグウェンダル、ヴォルフラム、グレタ、コンラッド、ギュンターが。
でも俺たちはお互いの声が聞こえるほどすぐそばで話していた。
それなら一緒に輪になって話してもいいと思うんだけど・・・。
「裕哉は今のところ特に地位も何もないのでしょう?」
「あ、はい。別に俺は・・・。渋谷や村田みたいに魔王でも大賢者でもないし」
そういって苦笑いを浮かべる門崎にびしっとアニシナさんが指を向ける。
「それがおかしいのです!なぜなら、裕哉!貴方は地球の魔王のご子息なのでしょう!何より、純血の魔族でありながら双黒ではないですか!貴方の内にはものすごい魔力が眠っているのでしょう?」
・・・何かつい最近同じ言葉を聞いたような・・・
「え・・って、っていうか子息っていっても俺は養子だし。将来ボブの後を継ぐわけでもないんだしさ。それに両親のことだって、母の家系は地球に行って俺の母親の代にはすでにほとんど人間だったから・・・」
しどろもどろになりながら答える門崎にアニシナさんが詰め寄っていく。
「皆、貴方の力を知らないのです!どうですか?その素晴らしい魔力を私に提供してみては!貴方なら素晴らしいもにたあになれると思いますよ。」
「アニシナ・・」
「それが目的か」
アニシナさんの言葉にグウェンダルとサヤさんが同時に溜息をついた。
「そっか。じゃあ門崎も僕たちみたいに呼ばれて当然の人間なんだよね、なんせ地球の魔王の息子なんだし。」
「っ村田!?」
それまで黙っていた村田にニッコリと微笑まれ門崎が村田を見る。
「じゃあ・・今度から門崎のことは『殿下』って呼ぶことにしよう。」
「呼ぶな!!」
村田が提案した『呼び名』は一瞬で否定され門崎は村田の襟首をガッと掴んだ。
「・・・楽しんでるよな、村田・・・」
「あはは、やだなぁvそんなことないってば」
いや、楽しんでる。
あれはぜってぇ門崎をオモチャにして楽しんでるよな、村田・・・。
「あ、そういえばさ、コンラッ・・・」
「そしてサヤ、貴方もです!!」
その様子をげんなりとしてみていたサヤさんがコンラッドに声をかけようとしたのとその矛先をサヤさんに向けたアニシナさんが叫んだのとほぼ同時だった。
「・・・な・・何が?アニシナ」
いきなり名指しされ驚いたようにサヤさんが尋ねると、アニシナさんは不敵な笑みを浮かべなにやらごそごそとふところを探りながら言葉を紡ぐ。
「聞けば水月家はあの創主を眞王陛下や猊下と共に倒した家であるということ。つまり貴方も軍曹などではなくもっと上の地位の人間なのです!!強いて言えば十貴族と同じくらいにっ!」
「・・・あのね〜・・アニシナ・・。創主を倒した時、先祖が猊下や眞王陛下と一緒にいたっていうことなら、コンラッドのご先祖様だってそうだったんだから!」
「おや?でもコンラートはすでにかなりの地位にあるではないですか?それにサヤ、貴方のご先祖様はかなりの魔力の持ち主だったそうですし・・・」
アニシナさんがそこまで言った時、サヤさんの顔がひくっとひきつった。
もう言葉を聞かなくても次に何を言われるか理解したみたいだ。
「ですから、その、ま・・」
「・・・今の私に魔力はないっ!!ってかもにたあなんてやらないからね!!」
サヤさんはそこまで言うと俺にぺこりと頭を下げだっと走り出す。
「あ・・お待ちなさい!サヤ!まだ話は終わってませんよ!!」
それを見てアニシナさんもすごい勢いで走り出した。
どうやら今夜の毒女の餌食はサヤさんらしい。
「頑張れ〜・・サヤさん」
「明日、死んでないと良いんですけど。兵の訓練を師範に見てもらうつもりでしたからねぇ」
ヨザックがまるで人ごとのようにのほほんと答える。
いや実際人ごとなんだけどさ。
「・・・っ・・ふ」
「ユーリ・・・?」
いきなり身を屈めた俺を見てコンラッドが心配そうにのぞき込んできた。
やばい・・もう限界かも・・っ・・
「ぷっ・・あ・・あははははっ・・」
「ユーリ?」
「陛下?」
「どうかしたのか、渋谷。あ、まさかジュースで酔ったんじゃないよな?」
笑い出す俺を見て周りにいた皆がきょとんとして話しかけてくる。
「ち・・違うって・・なんかさ・・。懐かしくて・・っ・・こういうの・・久しぶりだから・・おかしくてさ」
未だに笑いの止まらない俺を見て皆は顔を見合わせていたがやがて皆もくすくすと笑い出し始めた。