・・・え?なんだよ、これ・・・!
俺はなぜ自分の胸がこんなに高鳴りだしたのか分からずに少しだけど動揺した。コンラッドは視線をそらさずに俺の方を見つめている。俺も視線をそらせないでいた。胸が激しく高鳴り体中・・・特に顔がかぁっと熱くなる。
「・・・ユーリ・・・?」
コンラッドがその薄茶色の瞳を細め声をかけてきた。その仕草にすら胸が激しくときめく。・・・ときめく?何でそんな言葉が浮かんだのかわからずに俺は心の中で首をかしげる。大体、コンラッドとはいつも一緒にいるのにこんな気持ちに今までなったことがない。・・いつも一緒に・・。俺の中に1つの気持ちがあふれ出てきた。それは今まで俺が無意識に避けていた気持ち。なんでいつもコンラッドと一緒だと思うのか。コンラッドのことをいつも俺の味方だと思うのか。
・・・それは・・・。
長い間、俺たち2人は見つめ合っていたんだろう。いきなりヴォルフラムが俺の座っていた椅子を蹴飛ばした。
「うわっ!?」
完全に油断していた俺はそのままどすんとしりもちをつく。
「いったた・・」
「2人でいつまでみつめあっているんだ!!」
ヴォルフラムが少しだけ顔を赤くして怒鳴った。
「え・・・?あ、ごめん・・」
「ヴォルフラム、陛下になんて事を!」
思わずギュンターが声をあげてヴォルフラムを叱っている。
「・・陛下、少しお話が・・」
そんな様子はお構いなしにコンラッドが俺を立ちあがらせながら小さな声で囁いた。
「うん、わかった・・」
俺はなぜかコンラッドの顔がまともに見れないまま頷き、言い争っている2人の横を抜けて部屋を抜け出した。
珍しく、この時間血盟城の中庭に人影1つなかった。俺とコンラッドは中庭の中央あたりで立ち止まる。
「いい風が吹いていますね、ユーリ」
コンラッドは俺に背を向けたまままるで世間話をするかのように話しかけてきた。
「え・・・あ・・うん、そうだね」
俺もそれに同意するとばれないようにため息をついた。自分の気持ちに気がついた今、その意中の相手と2人きりというのは緊張する。それにコンラッドは俺のことを「主」としか思っていないだろう。何せモテモテだし・・・。
「陛下・・今から俺が言うことはただの俺の一人言だと思って下さい。」
「え・・?」
背を向けられているためコンラッドの表情が分からない。
「・・・俺は陛下のことが好きです。それは『主従』の感情ではなくて『恋愛』としてです。一目会ったときから貴方を俺の物にしたいと思っていた。」
「コンラッド・・・?」
いきなりの告白に思わず固まってしまった俺だったがコンラッドが小さくため息をついたのが聞こえた。
「・・・なんて。・・こんな思い、陛下には迷惑ですよね。忘れて下さい」
そういって俺の方を振り向こうとしたコンラッドを見て俺はたまらずそのコンラッドの背中にぎゅっとしがみついた。
「陛下!?」
コンラッドの慌てた声が聞こえるけどもう遅い。ずるいよ、コンラッド・・。
「・・忘れられるわけないじゃんか・・。俺、生まれて初めて両思いになったのに・・」
「・・ユーリ・・?」
俺の言葉を聞いてコンラッドの動きが止まった。
「俺も・・コンラッドのことが好きだよ。主従とかじゃなくて恋愛の感情で・・」
うわぁ・・俺、声めちゃくちゃ震えてるよ!
「・・ユーリ、冗談は・・」
「冗談じゃないっ!!」
俺が思わず声を荒げるとそれと同時にコンラッドがいきなり勢いを付けて振り向き俺を腕の中に包み込んだ。
「コンラッド・・!?」
そのまま荒々しく唇が重なる。
「んっ!?」
生まれて初めてのキス・・。しかも相手はコンラッド・・。でも全然嫌悪感とかはなかった。俺は自然と瞳を閉じる。
「・・・」
コンラッドはそれをみると自らも瞳を閉じる。ただ唇を重ねるだけのキス。それがこんなにも幸せなものだったなんてしらなかったかのように・・・。やがてコンラッドがそっと唇を離した。
「俺とつきあうっていうことは俺はユーリにこういう事をしたいって考えているってことだぞ、断るなら・・・今のうちだ」
俺から目をそらしコンラッドは辛そうに呟いた。それをみると俺はたまらなくなってコンラッドの頬にキスをする。
「・・ユーリ!?」
コンラッドの顔が微かに朱に染まり頬を押さえて驚いたように俺を見つめていた。・・・かわいいかも・・。
「俺はコンラッドが好きだよ。俺はコンラッドと一緒にいたい。」
「・・ユーリ・・」
「信じられない?」
俺がそう言ってにっと笑うとコンラッドはやっといつも通りの爽やかでいてとても優しい微笑みを俺に向けてくれた。
「・・・信じるよ」
そしてまたコンラッドの唇が俺の唇に重なった。
しばらくして俺の部屋に戻るとそこではかなりやばそうな言い争いが始まっていた。
「誰がわがままプーだ!!」
「なんですか、わがままプーだからわがままプーだといったんです!」
「私もそれには同感だ」
なぜかギュンターとグェウンダルがヴォルフラムのことをわがままプーと連呼している。どうしたんだ・・?
「ユーリ!ウェラー卿とどこにいってたんだ!?って・・なんで2人で手をつないでいる!?」
「へ・・・?」
その言葉にきょとんとして自分の手を見るといつのまにか俺の左手はコンラッドによってしっかり握られていた。
「こ・・コンラッド!?」
俺が顔を真っ赤にして声を上げるとコンラッドは俺の方を見てよけいに強く手を握ってきた。
「ユーリ、ここはやかましくて落ち着いて話も出来ません。俺の部屋に行きましょう」
「え・・っ・・へ?あ・・はい」
思わず頷くとコンラッドがひょいっと俺を姫抱きをする。
え・・っ・・えっ・・コンラッドさん〜〜!?
そのころ、日本ではお袋がだいぶ減った柏餅に嬉しそうにしながら皿を洗っていた。そして机の上には差出人の名前が一切書いていない紙包みとその中に入っていたのであろう手紙と小瓶が置いてあった。手紙にはこの世界の物ではない文字で「この薬を食物などにいれて食べさせると食べた相手は自分の本心を隠せなくなる」と書いてあった。
・・・またなにか一騒動、起きそうだ。
<FIN>