その日の夜遅く、コンラッドの部屋のドアをノックする者がいた。
            「はい・・?」
自室でその本を読んでいたコンラッドはその音に顔を上げる。
          「失礼しますぜ、隊長。」
        「たまにはどうかなって思ってさ。」
ドアが開かれるとそこには赤葡萄酒の瓶を持ったヨザックと沙耶が立っていた。
        「・・いいですね。久しぶりに・・」
 
      「師範は、3年間地球にいってたんですよね。」
ヨザックが3つのグラスにそれぞれ酒を注ぎながら尋ねる。
      「えぇ、そうよ。地球の日本にいっていたの。」
リラックスした顔で椅子に座ったまま沙耶が答えた。
  「日本っていうとユーリ陛下の家がある国ですよね。どんなんなんですか?」
ヨザックが沙耶のまえにグラスをことんと置く。
 「どんなんっていわれても・・。あ、でもびっくりしたのは日本人はほとんどが双黒だってことかな?」
そういって沙耶はあと少しで肩につくくらいの自分の髪をつまんだ。
 「この国では黒髪、黒目は王になられる方かそれに近い者にしかないものだからね。私もこんな色だから小さい頃はよくいわれたわ。」
黒髪をもつ少女はそういって苦笑いを浮かべる。コンラッドはいつも通り微笑みを称えたままヨザックから受け取ったグラスを口元に運んでいたがふっと気がついたように沙耶に尋ねた。
       「それはそうと・・師範。足の方はどうですか?」
            「・・・思い出したくない。」
少しだけ青ざめた顔で沙耶が酒を一口飲んだ。そんなに恐ろしい体験をしたのだろうか。
        「・・そういやぁ、ユーリ陛下はどうでした?」
ヨザックが意地悪そうな笑みを浮かべて沙耶をみる。
 「ユーリ陛下・・・?・・そうね・・。ヨザックが言った通りまだまだ子どもで・・多分国のことなんかなにもわかってないって感じ・・かな?」
何げに酷いことをさらりと告げながら沙耶は酒をまた一口飲んだ。
               「師範・・」
コンラッドが少しだけ低い声を出す。
       「ま、初めてみりゃあ誰でもそう思いますよ」
              「ヨザック!」
             「・・・でも・・・」
ヨザックを窘めるように視線を送っていたコンラッドだったがその言葉に沙耶の方へと向き直る。
 「・・優しいと思う。それに人のことを思いやれることができる方ね。しかも私が生きてきた500年間、誰1人考えもしなかった世界にこの世界を変えようとしている・・。誰もが実現など出来ないと思っていた世界を・・でも誰もが願ってやまない世界を作ろうとしている。・・王にとって何より必要なのはそういうものだと私は思うわ。王の貫禄なんかは年を重ねればついてくるものだしね。・・・あの陛下にならついていってもいいかな、って思わせる力がある。きっといい魔王になる。」
最後の方は自信をもって沙耶が頷いた。ユーリが夕食の時、沙耶に「俺は皆が幸せになれる世界を作りたい。争いのない世界をつくりたいんだ。」といっていたのがコンラッドの脳裏によみがえった。
               「師範・・。」
  「そのためになら私はいくらでも力を貸すわ。ユーリ陛下のために・・・。」
         「陛下が聞いたらきっと喜びますぜ?」
ヨザックがくいっとグラスをあおる。
 「あはは・・・。でも、変わった魔王ね。『陛下』って呼ばれるのを嫌うなんて・・。特にコンラッドに『陛下』っていわれると言い返してたし?」
沙耶がちらりと悪戯微笑を浮かべてコンラッドをちらりとみた。
   「ねぇ・・・。コンラッドとユーリ陛下って付き合ってるでしょ。」
             「「っ!?」」
いきなりのその言葉に男2人が酒をふきだした。
  「げほげほっ!!!・・や・・やだなぁ、師範。なにいってるんです・・」
         「・・っな・・なんでそれを!?」
コンラッドがかなり珍しく驚いた声を上げる。
        「って隊長、認めてどうするんですか!」
理由を知っているヨザックが思わずつっこんだ。男2人が夫婦漫才を繰り広げている中、沙耶は涼しげに酒を飲んでいる。
 「陛下とコンラッドの様子を見てれば分かるわよ。特にコンラッドはヴォルフラムがユーリ陛下にちょっかいだすたびに微かに片眉があがってたし?」
くすくすと笑いながら沙耶が再び酒をあおった。
 「・・・ユーリにもかなわないけど・・。サヤ師範の観察力にもかなわないな・・」
コンラッドは額に手をおいてくすくすと笑い始める。
 「ま、私は貴方が生まれたときから知っている仲だし・・。ちょっとした表情の変化ぐらいならわかるわよ」
 「・・ユーリは俺にとってなによりも大切な存在です。命をかけて守りたいと、そう思わせてくれる存在なんです。」
コンラッドが幸せそうに呟いた。その横顔に20年前のあの時、すべてに絶望していた男の面影はない。
             「愛してるんだ・・?」
             「えぇ・・もちろん。」
そう答えたコンラッドの幸せそうな顔に沙耶は心からの笑みを浮かべた。
 「なら、一番近くにいなさい。コンラート・・。誰よりもユーリ陛下のそばに。そして守り、愛して・・。・・幸せになりなさい。必ず幸せになってね、コンラッド。そして・・きっと陛下は誰よりも貴方と共にいることを望んでいるわ」
沙耶の顔が一瞬だけ「師範」になる。
「・・誰も悲しまなくてすむ方法を実行するための力を身に付けなさい。そして貴方たちの腰にあるものはできるなら大切な何かを『守る』ためにふるいなさい。・・・なんてね」
それはコンラッドたちが沙耶に武術を習ったときに言われた言葉。彼女の「思い」だった。
             「わかりました、師範殿」
コンラッドが真剣な顔をしてなぜか敬礼をする。
             「・・・敬礼はやめてよ。」
           「あ、すいません。ついくせで・・」
すると今まで黙ってその様子を見ていたヨザックがふっと微笑んで立ちあがった。
               「ヨザック・・・?」
          「どうやらお客さんのようですぜ?隊長・・・?」
そういってヨザックがドアを開けるとそこには寝間着姿のユーリの姿があった。
               「・・ユーリ!?」
ユーリは顔を真っ赤に染め俯いている。
 「ご・・ごめん!俺、眠れなくて・・それでコンラッドなら起きてるかなって・・でも話し声が聞こえて・・」
「・・え・・そ・・」ということはおそらく先ほど自分がいった言葉も全部聞いていたと言うことだろう。微かに動揺しているコンラッドをみると沙耶も椅子から立ちあがる。
  「・・さて・・私たちは邪魔みたいだし。どっかで飲み直そうか?ヨザック。」
            「はい、わかりました。師範」
沙耶とヨザックはそういって酒瓶をもって部屋を出て行く。
             「サヤ師範!ヨザック!」
       「あとは恋人同士でごゆっくりどうぞ?隊長。」

2人が去った後、コンラッドはふぅっとため息をついた。その行動にユーリの肩がびくっと跳ねた。しかしコンラッドはユーリに近づくとそっと体を抱き寄せる。
             「コ・・コンラッド・・?」
 「先ほど俺が話していたことは俺の本心ですから・・。愛しています、ユーリ。」
        「・・・俺も・・愛してるよ。コンラッド・・」
そして2人の唇がゆっくりと重なった。



                                  <fin>


〜あとがき〜
はい、終了しました!沙耶とユーリとの出会いです!え〜・・・沙耶の設定がかなり以前と変わっております(ヲィ)書いているうちにかわってきちゃったんですよ〜・・・(言い訳)そして寝室に机はあるのか!?(泣)あるとしておいてください。あるんです、あるんですよ!きっと・・・。

ここまで読んで下さりありがとうございました。
NEW A MEETING 

(3)

BACK