「ねぇ、コンラッド・・」
その言葉にそれまでユーリの髪を気まぐれに撫でていたコンラッドの手が止まる。ただいま時刻は24時前後。今日も今日とてヴォルフラムにベッドを追い出されたユーリはコンラッドなら起きているだろうとふんでコンラッドの部屋に遊びに来ていたのだった。そして今2人はベッドでユーリがコンラッドに膝枕をしている・・・というまさにバカップルという構図を繰り広げている。
                        「なんです?」
ユーリの膝で仰向けになりユーリの髪を優しく梳きながらコンラッドが尋ねた。その薄茶色に銀の光彩をちりばめた瞳はどこまでも優しく幸せそうな光を宿している。
    「えっと・・アニシナさんとグウェンダルの話を聞いちゃったんだけど・・『サヤ』って誰?」
聞き慣れない・・それでいて日本人のような名前をしたその人物にユーリは興味津々だったのだ。
  「あぁ・・。そう言えば2人でそんな話をしていましたね。『サヤ』っていうのはグウェンダルやアニシナの幼馴染みのような存在で・・。俺やヴォルフラムとも仲がいいんですよ。そういえば帰ってくるって連絡があったってギーゼラもいってました」
昔を懐かしむかのようにコンラッドがそう話し始める。
           「へぇ・・。俺はまだ会ったことないよね?どんな人?」
 「彼女は3年前に人間界を旅してくるといってこの地を一度離れていますからね・・。そうですね・・あったらきっとユーリも気に入ると思いますよ。すごい気さくな女性ですから。」
そういうとコンラッドはユーリの頬をそっと撫でた。
                      「コンラッド・・」
      「彼女は兵に武術を教えていたんだ。俺も何度も投げ飛ばされたよ。」
                   「え・・コンラッドが!?」
その衝撃の事実にユーリの元から大きな瞳がさらに大きく見開かれた。
     「武術で彼女に敵う者はいなかったからね。でもアニシナとはいい勝負していたかな」
そのままコンラッドの指がユーリの頬から唇へと移動した。そして唇へたどり着くと輪郭に沿って優しくなぞりはじめる。
             「っ・・コンラッド・・く・・くすぐったいよ・・」
何度もなぞられるとじんっとした甘さを帯びた感覚がユーリの中に生まれてきた。
                    「・・ユーリ・・」
それを確認してから少しだけ上半身を起こして唇を重ねるとまだキスになれていないユーリは頬を真っ赤にしてコンラッドにしがみついてくる。その仕草さえも可愛いと感じコンラッドはそのままベッドにユーリを押し倒した。
                    「コンラッド・・ッ・・」
コンラッドはいつも通りの笑みを浮かべるとユーリの耳元で「『サヤ』についてならまた明日、たっぷり教えてあげますよ」と囁くと部屋の灯りを落としたのだった。

                   「ユーリ〜〜!!!」
次の日、早朝ロードワークから戻ってきたユーリにふりかかってきたのはピンクのネグリジェをきたヴォルフラムのかかと落としとその叫び声だった。
        「いってぇ〜〜〜!!いきなり何するんだよ、ヴォルフラム!」
かかと落としの直撃を受け頭を押さえて叫ぶユーリをヴォルフラムは今度はゆさゆさと上下左右に振り始める。
    「昨夜はベッドから抜け出してどこへいっていた〜〜!!僕という者がありながら・・・この浮気者ーーー!!」
              「ヴォルフラムが俺のベッドを占領するからじゃんか!」
必死になっていいわけを繰り返すユーリ・・・。この光景がすでに毎朝の日課となりつつあった。
             「陛下なら、昨夜は俺の部屋にいたよ。」
                 「ウェラー卿の部屋に?」
壁にもたれながらそう助け船を出したコンラッドにヴォルフラムが食いついた。
              「ユーリに何もしなかっただろうな!?」
                「さぁ・・、それはどうだろうね」
胸元を掴まれたままにっこりとコンラッドが微笑みを浮かべた。黒い、黒いですっ!(汗)              
                   「コ、コンラッド!!」
           「なんだ、それはどういう意味だ!」
ユーリは真っ赤になって、ヴォルフラムはすごい眼で睨み付けてそれぞれコンラッドに向かって叫んだ。その時だ、コンコンと部屋のドアがノックされそのままドアが開けられる。
                「入るぞ。」
短くそう告げられた言葉が彼らしいというか・・。
              「グウェンダル・・」
ユーリが珍しそうにグウェンダルを見つめると彼は咳払いを1つだけする。
     「サヤから連絡が入った。今、国境あたりにいるそうだ。」
そのサヤという言葉に皆の動きがはっと止まった。
「そうか・・。ならこんなことしている場合ではないな。出迎えの準備をしなくては・・」そう呟くとヴォルフラムがぱっとコンラッドから手を離した。その顔がわずかに青ざめているのは気のせいだろうか・・・。
 
 その頃、血盟城に向かう道では1人の旅人を自分の後ろに乗せて馬を走らせているグリエ・ヨザックの姿があった。
          「また、派手にやったみたいですね」
ヨザックが泥や土で汚れきっている長いローブを頭からかぶり顔がほとんど分からない旅人に声をかける。
 「左足首をちょっとひねっただけよ?でも、これくらいですんで良かったわ。まぁ、もっともあっちは『これくらい』ではすませてないけどね」
なにやら恐ろしいことをさらりと旅人が告げる。それを聞いてヨザックは苦笑いを思わず浮かべた。
         (変わってないねぇ、この人は本当に・・・)
自分だけではなくコンラッド、ヴォルフラム、そしてあのグウェンダルでさえもこの人に何度も投げ飛ばされたのは未だしっかりと記憶に染みついていた。改めてこの旅人の怖さを実感しながらふと前を見たヨザックは血盟城まで500mぐらいのところまでたどり着いたことに気がつく。
        「もうすぐですぜ。懐かしいでしょ、やっぱ」
肩越しに振り返るヨザックに旅人はふっと笑みを浮かべた。
            「えぇ・・3年ぶり・・よね」
そのままフードをばさっと外す。すると漆黒の髪が風に踊った。
 「そういえば・・もう魔王陛下はツェリ様じゃないんでしょ?どんな人なの?噂では双黒の者って聞いているけど・・」
 「まだまだ子どもですよ。考えが甘くて向こう見ずですぐに誰でも信頼しちまって・・」
ヨザックが小声でユーリのことを話し始めた。ギュンターやコンラッドあたりの耳に入ったら彼はおそらく半殺しだろう。
               「そう・・」
どういう反応をしていいか分からずに彼女は苦笑いを浮かべる。
  「・・でも、優しさと正義感なら誰にも負けてないと思いますね、俺は」
そこまでいってヨザックはふっと微笑んだ。その言葉に彼女も笑顔になる。
 「・・・なら・・今はまだまだ未熟だけど・・将来的には立派な魔王になる可能性大・・ってところなのね?」
          「ま、そんなところです」
      「それは楽しみね、早く会ってみたいわ。」
彼女が心から楽しそうな声を出した。その時、ヨザックはふと思い出した、自分はまだ彼女に大切なことを言っていないことを・・。
   「そういやぁ、まだいってませんでしたね・・・お帰りなさい。師範」
       「・・師範はやめてよ。・・・ただいま、ヨザック」

             「師匠、お帰りなさい!」
               「水月師範!」
血盟城についた途端、まずヨザックと彼女を迎えたのは兵士達からその言葉だった。ヨザックの馬が歩を止めると同時に彼女−沙耶はとんっと片足一本で地上に降り立った。ひねった足首をこれ以上痛めないためだろう。
           「ただいま、皆元気そうね」
沙耶はそういうと柔らかく皆に微笑みかける。それと同時に兵達が口々に「また武術を教えて下さい!」と告げる。
        「えぇ。そうね、またやりましょうか。」
沙耶が1人1人と求められるままに握手をしていると少し離れたところから聞き覚えがある声が聞こえてきた。
               「サヤ!」
その声と同時にそのあたりの兵がばっと場所を空ける。そこには魔族似てねぇ3兄弟の3男坊−ヴォルフラムが満面の笑みを浮かべながらたっていた。
 「ヴォルフラム!!久しぶりーー、相変わらず可愛い顔してるわねー、変な男に絡まれたりしていない?」
少なくとも久しぶりにあった人に言うべき言葉ではないだろう&なぜツェリ様と同じようなことを言う的なセリフを同じく満面の笑みを浮かべながらいう沙耶。
 「なっ・・かわいくなんかないです!それに僕にはもう婚約者がいるんです!変な男なんかに絡まれたりしませんよ!」
  「え・・?婚約者?!ヴォルフラムに?よかったじゃない、おめでとーー!!どんな子?あとで挨拶させてね!」
沙耶はくすくすと笑いながら答えていたがふと何かに気がついたようにヴォルフラムの顔を凝視した。
             「さ・・・サヤ?」
 「・・・相変わらず可愛い顔してるけど・・なんかかっこよくもなったね、ヴォルフラム・・。」
              「え・・?」
そんなことを言ってもらえると思っていなかったのかヴォルフラムが不覚にも頬を赤らめた。
        「サヤ師範、お帰りなさい、お久しぶりです。」
その次に歩いてきたのはアニシナとギュンターだった。
           「お久しぶりです、サヤ。」
 「ギュンター、アニシナ・・・。うん、ただいま。2人とも元気そうね」
懐かしい友人達を見て沙耶の顔が思わず緩む。
       「ささ、早速城の中に。陛下もお待ちですよ。」
ギュンターが沙耶の背中にそっと触れた。
     「あ、うん。そうね・・まずは陛下にお会いしないとね。」
そういって沙耶は無意識に痛めていた足を地面につけた。その途端、ズキッ!!という痛みが体中を駆けめぐる。
               「っ・・・」
          「サヤ、どうかしたのですか?」
いきなり眉を寄せた沙耶をみてアニシナが顔をのぞき込んできた。
 「え・・っ・・ううん、なんでもない・・。さ、早く陛下に会わないとね。じゃあ、ありがとうヨザック。皆もまたあとでね?」
そういうと沙耶はゆっくりと歩き始めた。それに続いてヴォルフラム達も歩き始める。
         「・・・あーあ・・師範大丈夫かな・・」

ただ1人、沙耶が足を痛めている事を知っているヨザックは心配そうに眉を寄せた。
1人、足を痛めていることを知っているヨザックは少しだけ心配そうな声でその姿を見送っていた。

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