せめて、夢の中だけは・・・ 

【3】

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「何してるんだよ!!」

そういうと同時に今までベッドで眠っていたはずのユーリがこちらにかけだしてくる。

「陛下・・!?」

ユーリはそのままばっと立ちふさがった。

−俺に背を向けるようにして−

「・・・ユーリ!?」

その行動に俺は少なからず驚いた。
この旅に出る前、俺とギュンターが剣を交えたとき・・・。
彼はギュンター達を護るために行動した。

なのに、彼は今は俺を護るために・・・行動したのか?!

「何してるんだよ!前もいったろ・・・。この・・人は小シマロン王の護衛で大シマロンの使者だって!!こんなところで国家間の騒ぎを起こしたくない・・・って・・あ・・れ?俺・・」

大声でサヤ師範を怒鳴りつけていたユーリだったが次の瞬間、この状況に困惑しはじめたのかかなりうろたえはじめた。
サヤ師範はその様子を見つめた後、剣を鞘に収めてユーリの前に跪く。

「申し訳ありませんっ、陛下!」

「サヤさん・・・?」

「私の役目は陛下を命に代えても護ることです。それなのに・・・一時の感情に任せて・・こんな騒ぎを・・」

師範が深く頭を下げるとユーリが慌てたように首を振った。

「俺の方こそ、ごめん。怒鳴ったりして・・・」

「いえ・・、陛下のお怒りももっともですから・・」

「とりあえず頭をあげてよ、な?サヤさんにこんなことさせたなんて知られたら俺、グレタに怒られちゃうからさ。」

苦笑いを交じらせた声でユーリがいうと師範が少しだけ顔を上げた。
それをみてからユーリは俺の方へと振り返る。

「大シマロンの使者の方には重ね重ねうちの護衛達が失礼した。ところで小シマロン王のそばにいなくていいのか?」

感情を含まない声でユーリが俺に話しかけてきた。
その瞳には以前のように俺に向けてくれた光はない。

「今から・・いくところです。ただ少し貴方の様子が気になって・・・」

「大シマロンの方に心配されるようなことは何もない−」

きっぱりと言い切られ俺はぐっと言葉に詰まる。
しかし次の瞬間、ユーリの体がぐらりと傾いだ。

「ユーリっ!!」

とっさに足を踏み出しユーリの体を抱き留める。

懐かしい暖かさが腕の中に戻った。
しかしユーリは何も言わずぐったりとしている。

「ユーリ?ユーリっ!!」
ユーリの名前を何度も呼ぶが彼は反応しない。
嫌な汗が背中を流れ落ちる。

「・・・なんていう顔してるのよ。大丈夫、寝ただけだから」

「寝た・・・?」

そう呟くと師範が俺に透明な液体の入ったカップを差しだした。
中身は半分くらい減っている。

「アニシナの薬・・・『夜、うなされたりすることなく朝までゆっくり眠らせ〜るくん』が溶けているの。
いわゆる強い催眠薬ね。これを半分も飲んだら本当に朝まで起きないの。だから、陛下は意識朦朧のままたってたと思うわ。
それが限界に達しただけ。」

その説明に俺はホッと息を吐き、そのままユーリを横抱きにしてベッドに連れて行く。
ベッドにそっとおろそうとするがそこで微かだが腕を引っ張られるような感覚を感じた。

ユーリが・・俺の袖口を掴んでいる。

その手は眠っているというのに微かに震えていた。

「1人に・・・しないって・・いったのに・・そばにいるって・・」

その言葉にいつのまにか俯かせていた顔をばっとあげユーリの顔を凝視するがユーリの瞳は閉じたままだ。

「・・寝言・・」

「なんで・・・だよ・・コンラッド」

名前を呼ばれ肩が微かだが震えた。
そっと掴まれていない方の手でユーリの頬に触れる。
するとその途端彼の目尻から一筋だけ涙が零れた。
思わずそれを舌で舐めとると口の中にしょっぱい味が広がる。

「−・・っ・・ユーリ・・。すまない・・すまないっ!」

たまらなくなりユーリから体を離すと拳を握りしめながら呟いた。
肩が無意識に震えはじめる。

いっそ、泣いてしまいたかった。

「すまない、ユーリ・・・。俺は・・っ!」

くしゃっと髪を撫でられる。
それに気が付いて横を見ると師範が俺の後頭部の髪を優しく梳いていた。
幼い頃、母上がしてくれたような手つきで・・・。

「師範・・・。」

「・・・コンラッド、眞王陛下はまだユーリ陛下を地球に戻す気はないと思うわ」

その言葉に俺が眼を見開くと師範はまるで悪戯でも思いついた子どものような笑みを浮かべた。

「私が気づいていないとでも思った?・・あの時、貴方が陛下を海に突き落としたとき・・海に渦が出来ていたわ。周囲の波とは明らかに異なる濃いブルーの円が・・・。そして中央は奇妙なほど明るいブルーだった。・・・地球に行ったことのある私と貴方だけはあの渦を見たことがあるわよね。あれは・・あっちの世界とこっちの世界をつなぐ出入り口みたいなもの・・。自然にできるような色ではないし・・・何より、私はあの渦の中心から猊下の『力』を感じていたから。それを陛下にいおうとして向かおうとした途端に・・・。まさか突き飛ばすとは思わなかったわよ」

サヤ師範はそこまでいうとハァ・・っとため息をつき額を押さえる。

「・・・すいません。」

「今は下手に陛下を地球に戻そうとしない方がいいわ。確かに陛下には地球で待機してくれてたほうが安全だけど・・・。でも、陛下は戻れなかった。だから前回みたいに変なところに飛ばされてしまう可能性だってあるっていうこと」

「しかし・・・!」

俺が思わず言い返そうとして口を開くと師範の瞳が再び闇のように濃くなった気がした。

「わかってるの?コンラッド・・・。貴方は下手をしたら一番大切にしている方を手にかけていたのかもしれないのよ?」

低く落ち着いた声で言われ体をびくっとすくませる。

『だったらあの時、助けなければよかったじゃないか!』

そう叫ばれた言葉が未だに胸に突き刺さっていた。

そんなこと出来ないってわかっているだろうに・・・。
俺が・・彼を放っておくなんて出来ないって・・。

「何より、大切な人なんだ・・。命をかけても護りたいと思わせてくれた・・俺の・・」

声を震わせながらそういうと師範が優しく俺の背中をユーリの方にぐっと押した。

「・・・え?」

「ユーリ陛下が起きるまでなら問題ないでしょ。私は今日はもう寝ないし・・・。夜明けまでまだ3時間はあるわ。少し休みなさい?」

「・・・いや、俺は・・」

「陛下に掴まれちゃままじゃ動けないだろうしね?」

師範がそう言ってくすくすと笑いはじめる。
確かにそうだった。
今、ユーリの手を外させてしまったらまた起こしてしまうかもしれない。
俺は観念したように頷くと上着のまま靴だけ脱ぎユーリのベッドに潜り込んだ。
そのまま上着を握っている彼の手をそっと離させ反対に俺が彼の手を取るとその手を優しく握る。
ふわっとユーリの香りが鼻を掠めた。
久しぶりに心地よい感情が心の中に広がりそのままゆっくりと瞳を閉じる。
それに気が付いたサヤ師範が部屋の灯りを落としてくれ、俺はそのまま深い眠りに落ちていった。


「・・・寝たみたいね。」

窓際の椅子に座ったまま、沙耶は小さく呟きベッドの方を見た。
今、ベッドの方からは2人分の寝息が聞こえてきている。
窓の外を見ると自分の髪より深い色をした闇が広がっていた。
やがて朝が来れば、いよいよ聖砂国の首都・イェルシラウドに到着だ。
しかし沙耶の胸にはいいようのない不安が後から後から広がってきている。

何か・・起こりそうなそんな気持ちが・・。

「護るよ・・。」

沙耶は自分に言い聞かせるようにそう呟いた。

「陛下もヨザックも・・コンラッドも・・。必ず、護るから・・」

       

      −なにがあっても・・。私の命に代えても・・・−


「だから、今だけは・・・せめて夢の中だけは・・・」

          
           −彼らが幸せでありますように−

       −彼らが涙を流さなくてもいい夢を見ますように−




                                                  Fin

〜あとがき〜

終わりました!!「せめて、夢の中だけは・・・」長くなりました(汗)
えぇ、本当は2話くらいで終わらせるつもりだったんですが・・・(ヲィ)
「やがてマ」捏造話でございます!
いや、コンラッドはきっとユーリのこと、心配すると思うんですよ!それを表に出すことは出来ないけど。本当は心配で心配でたまらないんじゃないかと・・・。
本当は「人間ハンガー」についても思い切り触れてやろうと思ったのですが・・・(まてぃ)

では、ココまで読んで頂きありがとうございましたv