Contract Or Transaction?
    【後】


・・・−−?

急にあたりが静かになり俺はおそるおそると目を開ける。

すると・・・

「・・・え?」

先ほどまでいた小林や手下達は姿形無く消えていた。
「消えていた」という表現がきっとこの場合正しいのだろう。
そして俺の足下にはあの藁人形が首に巻いていた赤い紐が落ちている。

「・・・あ、わ、藁人形は!?」

慌ててマットの上をみると山積みになっていた藁人形も消えていた。
それどころかさきほどまでのあの異様な空気も消えている。

「・・・一体・・・」

「間に合ったみたいだな」

「えっ!?」

いきなり背後から聞こえた声にバッと振り向くとそこにはいつの間に入ってきたのだろうか、3人の人間がいた。
1人は赤いマフラーに帽子を身に付け和服を着ている老人、もう1人も和服なのだがこちらの和服は肩からかなり豊満そうな胸の谷間までばっちり見えている女の人。
そして最後の1人は和服ではなくて今時の服装の好青年。

・・・誰だ・・?こいつら・・。

少なくとも学校では見たことないよな。

「大丈夫かい?ひどいすることするねぇ・・」

「え・・あ・・は、はい」

訳が分からないまま俺は目を白黒させながら答える。

「危機一髪だったな。しっかし・・世の中には酷い奴もいたもんだ」

好青年が俺の頭を撫でながらいうと女の人が「何言ってるんだい、今更」と呆れたようにつっこむ。

「しかし・・・20数人もの人間が同じ人間を怨んで『地獄通信』にアクセスしてくるとはなぁ・・・あの『小林』って男はそんなに皆から恨まれていたのかい、嬢ちゃん」

・・・今何げにこの人変なこと言わなかったか?

「小林・・ですか・・?・・はい・・本当に最低で・・・って・・・」

思わず流しそうになった言葉に俺はハッとしてその老人を睨み付けた。

「って!誰が嬢ちゃんだ!俺は男だ!!」

噛み付くように言うと好青年が驚いたように俺を見た。

「えっ!?男だったのか?・・・なんかそれにしてはちっこいし・・細い気がするんだけど」

「悪かったな!」

よけいに牙を剥くようにするとその好青年はいきなり俺の胸にぺたっと手を置いてくる。

「あ、本当に男なんだ。てっきり女の子だと思ってた。」

・・・セクハラじゃないのか、これ!?

しかもその好青年は俺の胸をさわさわと触り始めたのだ。

「こ・・っ・・の・・何やってるんだよ!!」

「っ!!」

真っ赤になりながらダァン!と相手の足を踏みつけるがその途端ハッとして相手を見る。

「ずいぶん威勢のいい坊やだねぇ。威勢のいい子は嫌いじゃないよ?」

今度は女の人が俺の顎をすっとすくい上げた。
でもそんなことに拘っている場合じゃない。

こいつら・・。

「・・・あんた達、人間じゃないよな・・」

静かに俺が言うと3人は驚いたようにして顔を見合わせた。

「ほぉ・・わしらの正体が分かるのかい。」

「・・・妖怪・・。」

先ほど好青年の足を踏みつけると同時に見えたヴィジョンを素直に告げると老人はニッコリと微笑んだ。

「正解だ」

「・・・式神・・とかそう言う感じだよな、あんたら。誰かの使い魔っていうか・・」

「へぇ・・そこまで分かるのかい。」

女の人がそう言うとあたりの空気が変わった。

「俺たちはお嬢の・・『地獄少女』の使い魔ってわけ。」

「地獄少女!?」

それって・・さっき図書室で・・女子が話していた「あの」!?

「・・・じゃあ、まさか・・小林って・・」

「地獄に流されたんだよ」

その言葉に俺の背筋に冷たいものが走る。

もし、さっきの大量の藁人形が全て小林に対する『怨み』だったら・・・?

「なぁ・・・あのさ・・その・・『地獄に流す』ことって・・ノーリスクでやってくれる・・わけないよな?」

喉がからからに渇いてくる。

「はぁ?当たり前だろ?そんな簡単に人1人消すことが出来たら世の中の人間全ていなくなっちまうよ」

再び俺の側に来た好青年が俺の唇を親指でなぞる。

「っ・・・・」

ぞくりと体が震え、相手を見つめた。

その時だ、どこからか「チリー・・・ン」と澄んだ鈴の音が聞こえてきた。

「・・・お嬢」

老人がそういうと俺の目の前にセーラー服を着た中学生ぐらいの女の子が現れる。
真っ黒なストレートヘアに・・赤い瞳。
まるで人形のようにその顔立ちは整っていた。

「・・・あんたは・・?」

「私は閻魔あい。」

「・・・まさか地獄少女!?」

目を見開き尋ねるが閻魔あいと名乗る少女は肯定も否定もしない。

「なぁ・・・小林は地獄に流されたんだよな?もしかして流したのって・・・」

「・・・貴方も見たでしょ?」

その言葉に俺はよけいに目を見開いた。

やっぱり・・あの藁人形が・・。

「藁人形に結んである赤い糸を引けば私と正式に契約を交わすしたことになるわ。怨みの相手は速やかに地獄に流される。・・・でも、私と契約した人間も地獄に落ちる」

「・・・っ・・・そんな・・!じゃあ・・まさかあの20数体の藁人形を持っていた奴らが・・」

「全員地獄に落ちるわ」

「・・・ま、死んだあとの話だけどね」

・・・小林1人を憎んだために・・20数人が地獄に落ちるのかよっ!?それってかなりハイリスクじゃねぇか!

「・・・何とかならねぇのか・・?」

ぎゅっと拳を握りしめながら絞り出すように声を出すと地獄少女が少しだけ瞳を細める。

「・・・皆、了承したことよ・・。」

「でも!糸を引いたのはそいつらじゃないだろ!?・・誰が引いたかは分からないけど・・」

最後らへんは自信が無くなってきて声が小さくなっていった。

だって・・俺、目閉じちゃってたし・・・。

「それでも・・怨みの相手は地獄に流された。・・人を呪わば穴2つ・・契約した者も地獄に落ちる・・」

「っ・・・」

どうしていいか分からず俺は顔を俯かせる。
地獄に流された小林も気の毒には思うけど・・・。
でも、あいつはきっといつかは地獄に落ちていただろう。
そのために被害者の奴らが地獄に落ちる必要なんてない・・・!!

「・・・頼む。そいつら・・地獄に落とすのやめてくれないか?」

俺の言葉に隣にいた好青年が首を振る。

「だから、それはできな・・」

「何でもするっ!!」

「なっ・・」

「俺を好きにしていい。だから頼むから・・そいつらを地獄に落とすのはやめてくれ!」

「・・・自分1人が犠牲になろうって言うのかい?・・とんだ偽善者だねぇ」

女の人が俺を見て呆れたような声を出した。

確かに俺も偽善だとは思う。

・・でも・・!

「だって!1人のために20数人が地獄に落ちるなんておかしいだろ!?頼む、地獄少女!このとおりだから!」

そういって頭を深く下げるとしばらくあたりを沈黙が包んだ。
やがて・・・。

「分かったわ。」

地獄少女が口を開いた。

「お嬢!!」

他の3人が驚いたように地獄少女を見ている。

「貴方には・・特別な力がある。私が依頼を受けたら・・・貴方は一目連達と依頼主やターゲットの情報を集めてもらうわ。」

「・・・分かった。」

驚いている3人をよそに話を進めていく俺たちを見ると3人は溜息をついた。

「・・・それがお嬢の意思なら従うだけだ」

「そうだね。ま、とりあえずあんたの名前は?」

女の人が俺の顔をのぞき込みながら尋ねてくる。

「え・・・あ・・っ・・・・

「そう、よろしくね。私は骨女。そんでこっちが輪入道と一目連だよ」

そういうと骨女は指で2人を指し示した。

「え・・っと・・よろしくお願いします」

思わず戸惑いながらも頭を下げると老人−輪入道が俺の頭に手を置いた。

「人手が多いに越したことはない。それがお嬢の意思ならなおさら・・・」

輪入道はそう言うと俺の額に何のためらいもなくキスを落としてきた。

え・・・えぇえええぇえ!?

まさかそんなことされるとは思ってなかった俺は不覚にも頬を真っ赤に染めると今度は反対側からぐいっと引っ張られそのまま唇に温かいものが触れる。

「・・・っ・・ん・・」

「・・俺は一目連っていうんだ。よろしくな、新人」

目前でにこりと微笑まれると俺はこくこくと頷いた。

・・・ってか、この人、俺に今・・キスしなかったか!?

ぽかんとして一目連を見ていると彼はクスリと笑い再び俺の唇に自分の唇を重ねてきた。

「っ・・・!?」

「ごちそうさまv」

笑顔でそう言われ唇をぺろりと舐められるとよけいに頬がかぁあああっと熱くなるのを感じる。

・・・け、結局ファーストキス、男に奪われたし・・っ・・俺って・・一体・・。

段々と空しくなってきて落ち込みそうになった俺を見て今度は骨女が俺の頬に触れてきた。

「そんな落ち込むんじゃないよ、今度は私がしてあげるからさ」

「へっ・・・ッ!?」

骨女の顔が段々近づいてくる。

え・・っ・・う、うそ・・ってか、マジで!?

しかし、骨女の唇が触れる寸前で一目連が俺をフワッと抱え上げたためそれは未遂で終わる。

「骨女とキスするのは見過ごせないんだよなぁ・・・。俺、こいつのこと気に入ったからさ」

「しかしこれから先、誰にキスをしてもらいたいかを決めるのはだ」

俺の手の甲を取ると輪入道が唇を押し当ててきた。

「・・・え・・ってか、これから先ってなんだよ、これから先って!」

「・・・貴方には現世にいてもらうわ。依頼が入ったら連絡するから・・」

そういうと今まで黙っていた地獄少女が未だに一目連に抱えられている俺の頬に触れ、そのまま姿を消した。
それが合図だったかのように一目連達も次々と姿を消していく。
 
あとに残ったのはぽかんとしている俺と唇と手に残った唇の感触。
そして頬に触れてきた冷たい手・・・−

「・・・俺、もしかして・・かなり・・やばい状況なんじゃ・・」

小さく呟くと閉めきっている倉庫内に一陣の風が吹く。
・・・そしてこれが俺と地獄少女−閻魔あい達との出会いだった。


                                


                                          <fin>




〜あとがき〜

初書き地獄少女小説です!
えっと・・・なんていうか・・本当にすいません(ヲィ)
ってかキャラがつかめてないです、特に輪入道!
難しい・・難しいよ、輪入道(泣)
しかもこの「Contract or Transaction」本当はもっと長くするつもりが2話で完結を・・・っ!(汗)
え・・・えっと〜・・す、少しでも楽しんでいただけれ幸いです。

ここまで読んでくださりありがとうございました!



                            
                                       

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