言葉に魂を吹き込む者
【後】
「−−−・・・」
やがて、歌声はすべて空中に吸い込まれていき、歌い終わった俺はいつの間にか閉じていた瞳をうっすらと開けた。
頭の中が真っ白になって自分がこの景色や風と一体にある感じ。
こんな歌い方をしたのは久しぶりだった。
お嬢達を見ると輪入道達がパチパチと拍手をしてくれる。
「さすがに綺麗な歌声してるねぇ。」
「ああ、すごい力の持ち主だ。」
骨女と輪入道の言葉が嬉しくて俺は思わず頭を下げた。
するとそれまで黙っていた連が俺の頬にそっと唇を落とした。
「れ・・・連っ!?」
・・・な、なんか、俺、本当に連とのキス率高くないか!?
頬を押さえながらもかぁああっと頬が熱くなるのが分かる。
「うん、だ」
そんな俺にはお構いなしに連は俺の髪をくしゃくしゃと撫で回した。
その顔は優しく微笑んでいる。
・・・連の顔に夕日が当たる。
−−−っ!
それを見た瞬間、胸がドキンッと激しく脈打った。
・・・っ・・!?
な、なんで・・ってか・・やばい・・今、連がすごくかっこよく見えたっ!
いや、実際格好いいんだけどさっ!
「・・・お嬢、の力は分かったからさ。今度は俺たちのこと説明しないといけないだろ?」
真っ赤な頬を連にばれないようにするために顔を俯かせている俺の肩を抱きながら連がお嬢に話しかける。
「・・・」
「え・・あ・・っ、な、なにっ!?」
お嬢に名前を呼ばれ、慌てて顔を上げるとお嬢は俺を見ずに違う方向を見ていた。
「・・・お嬢?」
そのお嬢の様子に首を傾げるとお嬢が俺の横にいる連に視線を送る。
「一目連」
「・・あぁ、お嬢。悪いな、」
「・・・え?」
次の瞬間、ドッという音と激痛が頭に響き、一目連が俺の首筋に手刀を当てたことに気がついた。
「・・・何で・・っ・・」
俺はそう呟くとそのまま意識を失った。
『あんたなんか・・・っ・・あんたなんか生まなければよかったわっ!あんたさえ・・あんたさえいなかったら、あんたさえ−−−っ!!』
それがもうどこかさえ覚えていない。
ただ、どこかの崖のそばだったような気がした。
そして、そこは・・・−母親が俺を殺そうとした場所−。
まだ幼い俺の首を母親が絞めた。
『あんたさえ・・っ・・あんたは・・化け物なんだ!人間じゃない・・・ッ・・化け物っ!』
ズキンッと胸が痛み、耳を塞ぐ。
・・・そして母親は、俺を抱き上げると、そのまま崖下へと投げ落とした。
・・・っ・・ひゅぅうううという風を切る音が響いている。
・・・
『か・・あさ・・っ・・』
「、起きろ。」
っ−−−!
耳元で名前を呼ばれると、俺は瞳をゆっくりと開ける。
・・・夢?
それは俺が殺されかけた時の夢だった。
目の前には大きな梁のある天井と連のドアップがあった。
「気がついたか。」
すぐそばから輪入道の声も聞こえる。
「ん・・・っ・・」
あれ・・・?俺、どうしたんだっけ・・?
「悪かったな、いきなり殴ったりして。」
「あの時、あんたの『歌声』に誘われてあまりよくないものが集まってきていてね。少し気を失ってもらったんだよ」
「・・・気を?」
そういって布団に寝かせられている体を起こすと少しだけ首の後ろがずきりと痛む。
それでも額を押さえながら辺りを見回すとそこはさきほどまでいたあの木のある場所でなかった。
「・・ここは・・?」
「お嬢の家さ」
お嬢の家ってことは・・あの茅葺きの?
「まだ痛むんだろ?」
連はそう言うと俺の上半身を起こさせると俺の後ろに腰を下ろし、俺を連の胸にもたれさせるようにしてくれた。
連の胸に頭を預けるとかなり楽になる。
そのまま状態の状態で部屋の中の様子を見ていると障子に糸車を回している老婆の姿が映っていた。
カラカラカラ・・・と糸車の音が微かに聞こえてくる。
「・・・あの人は?」
「あぁ、お嬢のお祖母さんだ」
連が俺の耳元で囁いた。
こうしていると連の呼吸や鼓動が聞こえてきて心地がよい。
「・・・なんだい、。すっかり一目連になついているじゃないか。」
「えっ・・・ち・・ちがっ・・!」
骨女の言葉に慌てて体を離そうとするとぐいっと頭を抱き寄せられよけいに連の胸へと押しつけられる。
ってか、なついてるっていうなよ、なついてるって!!
「・・・なぁんかラブラブぶりを見せつけられてるみたいでおもしろくないねぇ・・」
骨女が少しつまらなさそうにいうといきなり俺にいきなりがばっと抱きついてきた。
「う・・・わっ!?」
いきなり抱きしめられ押しつけられているのは骨女の胸元で・・
って・・ってかやばいっ!
な、なんかすごい柔らかいし・・っ・・それになんかいい匂いが・・じゃなくてっ!!
完全にパニクっている俺は思わずそれから逃げようとして体を反らす。
でも、今、俺は連に身体を預けている状態なわけで・・
「っ・・わっ!」
背後から短い声がすると同時に連がバランスを崩して床に倒れた。
ガツン、ゴッ・・・という鈍い音があたりに響く。
ちなみにガツンという音は連が頭を打った音で、ゴッというのは俺が連の胸で頭を打った音だ。
「っ・・」
「・・れ、連、ごめんっ!?大丈夫?!」
慌てて声をかけるもののかなり痛かったのか連は後頭部を押さえて呻っている。
「・・れ、連・・?」
「大丈夫だ。わしらはそんなくらいで怪我などしないからな」
輪入道が倒れ込んでいる俺たち3人を見ながら声をかけてくる。
・・というか男と女に挟まれている俺ってなんですか・・?
どういう状況だよ、これはっ!
「そう言えば、。あんた、私たちと初めて会った時、あの・・『小林』だったっけ?あいつに『藁人形でもお前を可愛がってやる』みたいな事言われてたねぇ。」
「な、なんでそんなこと覚えてるんだよ!」
確かにあの時、小林にそんなこと言われたけど・・あのあと小林はすぐに地獄に・・流されたし。
骨女は俺の手を取ると俺を起こしてくれた。
連は未だに寝ころんだまま悶絶している。
「でも、ある意味残念だったね、輪入道。あんたも一目連と同じようにのこと気に入ってるんだろ?」
そのままトンッと背中を押され、ふらつくと今度は輪入道に抱き止められた。
「・・・残念?」
「あの黒い藁人形は、輪入道なんだよ」
「えっ!?」
骨女の言葉に俺は目を見開いた。
え・・って、ことは、もし糸が切れなかったら・・俺・・輪入道で・・ってこと!?
「・・・っ・・・っ・・」
あまりの羞恥心で口をぱくぱくさせている俺を見ると輪入道は俺をぐいっと引き寄せた。
「まぁ、焦りはしないさ。それに・・やはり自分の手で触った方がいいだろう。」
そういうと輪入道の手が微かに動きするっと俺の尻を撫でていく。
「ひゃっ!?」
口から変な声が漏れるが気にしている場合じゃないっ!
・・・わ・・・輪入道ーーーー!!?
どうしていいか分からずに固まっていると障子が開いた。
「あ、お嬢」
「えっ!?」
すっと輪入道から解放され、ほっと身体の力を抜きながらお嬢を見るとお嬢の手には真っ白な布が握られていた。
そのままお嬢は俺の首筋にその布を押しつける。
「ッ・・・」
水で濡らしてあるらしいその布は少しだけ冷たくて身体がぴくんと震える。
「・・・しばらく、冷やしておかないと・・」
「ん・・ありがとう。お嬢」
軽くお礼を言うと一瞬だったがお嬢の瞳が微笑んだように細められた気がした。
「あ・・・」
それが嬉しくて何か言おうとした瞬間、お嬢が視線を横にずらす。
それにつられるようにお嬢の視線の先をみるとパソコンが一台置いてあった。
「パソコン・・・?」
「・・・行かなくては。」
「え・・・?」
お嬢の言葉に首をかしげると骨女が同じように画面を見つめて俺に告げた。
「昨夜、誰かが地獄通信にアクセスしてきたのさ。」
「・・わしらの出番ってわけだ」
輪入道は帽子をかぶり直すと赤いマフラーを首に巻く。
次の瞬間、輪入道の姿が消え、その場にはあの黒い藁人形が落ちていた。
「・・・これ・・。あの時の・・。」
その藁人形を拾い上げるといつの間にか立ちあがっていた連が俺の肩を抱いている。
「この藁人形を依頼者に渡すってわけ。この首に巻かれている糸をほどけばお嬢と正式に契約を結んだことになるっていってね」
「それで、私たちはその依頼者とターゲットの事を調べるのが仕事ってわけさ。」
骨女と連の説明を受けながらも俺は藁人形をぎゅっと抱きしめた。
「お嬢、も連れて行っていいんだよね。そのために朝まで待っていたんだからね。」
「・・・え?」
骨女がそういうとお嬢は小さく頷く。
俺は藁人形を抱きしめてただじっと見つめた。
「・・・」
名前を呼ばれ、顔を上げると連の唇が俺の唇に重なる。
「期待してるぜ?何ていったってはお嬢に意見できた初めての人間だからな」
連はそういうと俺を抱き上げる。
「・・・連。」
小さく呟くと俺は手の中の藁人形を握りしめた。
まだ、疑問とか不安とかはたくさんある・・・。
本当に俺が選んだ選択肢が正しかったのかも分からない。
でも・・・
俺はこの奇妙な「友人」達と共にいたいと思い始めていた。
Fin
〜あとがき〜
・・・え・・・えっと・・・。
一応主人公の秘密暴露話ってことで・・・(ヲィ)
な、なんていうか、一目連がただのキス魔にっ!(泣)
輪入道がセクハラ魔・・・。
・・なんていう話だ・・・(こら)
主人公の『歌声』がなぜそのような力を持ち始めたのか?主人公の母親はどんな人だったのか?
なんて言う話も書いていけたら・・と考えています。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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