The Heavy Rain Night
      (前)



「あれ・・・?」

今朝から降り続いている雨は今やほとんど台風並みに強く地面を叩いている。
そんな大雨の中、レコーディングの収録が終わった俺−『』こと−はマネージャーの嘉神さんが運転する車の中から自分が住んでいるマンションの窓を見て首をかしげた。
俺の部屋は12階建てマンションの10階の1番右端の部屋なんだけど・・・。

「どうしました?くん」

俺の声を聞き、嘉神さんがハンドルを握ったまま振り返って尋ねてくる。

「あ・・ううん、気のせいだと思うけど・・今、俺の部屋に明かりが・・」

俺はマンションに1人暮らしだから、明かりがついているっていうことなんてない。
彼女とかは・・生まれてこのかた彼女がいたことなんてないし。

「えっ!?」

思わず溜息をつく俺をよそに、焦ったように嘉神さんが車を止める。

「俺が見てきましょうか?くんに何かあったら大変だし・・」

嘉神さんが本当に心配そうに俺を見た。

でも、そこまでしてもらうのも悪いし・・きっと今朝学校行く時に消し忘れたんだろう・・。

俺はそんな風に自分の中で結論付け小さく首を振る。

「いえ、そこまでしてもらうわけには・・・それにきっと俺の消し忘れですから大丈夫ですよ」

にこりと微笑みながら答えるが嘉神さんはまだ納得がいかないように俺とマンションを見比べている。

・・このままじゃ埒があかないよな。

「本当に大丈夫ですから。それじゃあお休みなさい。お疲れ様でした」

俺はそう言うとざぁあああ・・・という雨の音を聞きながら車のドアを開けた。
雨はまるでバケツの水をひっくり返したように強く降っている。
なるべく体を濡らさないようにしながら車から降りた。

くん、やっぱり心配だから・・」

「大丈夫ですって。それにこのマンション、オートロックですよ?誰かが入ってくることなんてないと思うし・・・」

傘を差しながら答えると嘉神さんは諦めたように溜息をつく。

「・・・分かった。でも何かあったらすぐに電話するんだよ?」

「はい、ありがとうございます」

そういって車のドアをそっと閉めると車はすぐに走り出していった。
時刻は22:00を過ぎている。

車が見えなくなるまで見送ると俺はマンションを見上げた。

・・・本当に・・見間違いだよな?


ポーン・・・という音が誰もいない廊下に響く。

エレベーターのドアが開き、俺はそのままエレベーターを降りた。
雨はますます勢いを増していてもうほとんど傘なんて意味がない。

「ってか、すっげぇ雨・・・。風も出てきたし・・」

少し急ぎ足で1番右端の部屋へと向かう。

「えっと・・・鍵、鍵・・・」

そういって鞄の中を探ろうとした俺はある事実に気が付き目を見開いた。

・・・ドアが少し開いているのだ。

「お・・俺行く時、鍵かけ忘れた・・なんてことないよな・・?」

いや、今日出る時に鍵はしっかりかけたはず・・。

じゃあ・・

「だ・・誰かいるのか・・?」

段々と不安が心の中に渦巻き、嘉神さんを帰しちゃったことを後悔した。

「・・やっぱり・・嘉神さんの言うこと聞けば良かった・・」

しかしいつまでもそのままでいるわけにはいかない。
カチャ・・・とドアを開けると玄関は真っ暗だった。

ただ、リビングからは微かな明かりが漏れている。

「・・・」

玄関に置いてある傘を手に持って靴を静かに脱ぎ、息を殺してリビングへと向かう。

・・・ってか、これじゃあ俺が泥棒みたいじゃんか・・。
しかも武器が傘・・・。

もし、今リビングにいるであろう奴がナイフとか持ってたらかなりやばいよな、俺。

そんなことを考えながらリビングのドアノブに手をかける。

「・・・っ・・」

小さく喉を鳴らし、そっとドアを小さく開けると中の光が漏れてきた。
そこから室内の様子を見ようとして中をのぞき込むと、そこにいたのはかなり意外な人達だった。
 

「〜〜〜・・・何やってるんだよ!!」

思い切りドアを大きく開けると同時に中にいる4人−お嬢、一目連、骨女、輪入道に声をかける。

「おや、。おかえり」

肩で息をしている俺に構わずに骨女が俺に軽く手を振った。

「あ・・た、ただいま・・。じゃなくて、何やってるんだよ!!4人とも!そんな格好で!」

そう、リビングになぜかいる4人は全員上から下までびしょぬれだったのだ。

全身からしたたり落ちている雫が足下に水たまりまで作っている。

「すまないな、。こんなかっこ・・」

「風邪ひくだろ!?待ってろ、今タオル持ってくるから!!」

輪入道の言葉を遮ると俺は洗面所に走ってタオルを取りに行く。

「・・・怒るところ、そこかよ・・」

「床を濡らしたことや勝手に家にあがりこんだことじゃなくて、『風邪ひく』ってことで怒られるなんて思いもしなかったよ」

残された4人は少しだけずれた怒られ方にきょとんとして顔を見合わせあい、やがて「らしいね」と呟いた。


「で、本当にどうしたんだよ?」

びしょぬれだった全員の服をひっぺがえし、その代わりに家に置いてあったありとあらゆる服の中からそれぞれに合う服とタオルを手渡して・・というばたばたぶりに体力を消耗しきった俺はできあがったばかりのコーヒーを全員に配りながら、小さく溜息をついた。

ミルクと砂糖はご自由に、といって机の中央に置いておく。

俺の服じゃサイズが絶対合わない3人−連、輪入道、骨女−はフリーサイズのバスローブを身に纏っている。
結局、俺の服であるハーフパンツとティーシャツのサイズがあったのはお嬢1人だった。

「雨宿りだよ」

コーヒーをブラックのまま一口啜りながら連がさらりと答える。

「雨宿り?」

「また依頼があってな。まぁ、それは完了したんだが・・その後にちょっとしたトラブルが起きてな。それの処理をしているうちにこの雨に降られてな」

輪入道はタオルでまだ顔を拭きながら答えている。

ってか・・トラブル?

「トラブル・・・?ってまさか、地獄流し失敗したとか・・?」

マグカップを手に取りながら尋ねるとふとお嬢が目に入った。

お嬢は俺が貸したタオルで何かを包むようにして膝の上に置いている。
お嬢の髪から水滴がいくつも落ちていく。

「・・・お嬢?」

そういえば・・帰ってきた時からお嬢は何かを抱えるような格好してたよな。
それどころじゃなくて気が付かなかったけど・・・。

「そんなわけないだろ?ターゲットは地獄に流したよ。ただ、その帰り道にお嬢が『ソレ』を見つけちゃってさ。」

「何度言ってもその場から離れようとしなかったんだよ。」

連と骨女が同時に溜息をつく。

・・・『ソレ』?

その言葉が気になって俺はお嬢の横側からその膝を見下ろした。

「・・・・っ・・!これって・・」




                             

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