炎色反応 第三章・26
「あっ……ああっ」
否定しようがない、目を覆うような事実が見開かれた水色の瞳に映っていた。
怒張した男の男根が、その持ち主の意思で自分を犯している。
男の名はイーリック。
優しく頼もしい、兄のように慕っていた人だ。
その上この体は、ようやく与えられた太いものを喜んでいるようだった。
萎えたはずの性器は頭をもたげ始め、彼を迎えた通路は早速締め付けを始めている。
「やっぱり、すごい……気持ちいいよ、ティス」
駄目押しのようにイーリックに褒められ、ティスは何も言えずに顔を背けた。
オルバンが繰り返しからかうようにつぶやいた淫乱、という言葉が身に染みた。
正しく淫乱だ。
快楽さえ与えてくれれば本当に誰でもいいのだろうか。
「違う…オレ、こんなこと、したいんじゃ……」
弱々しく否定してみても、イーリックにいまだその言葉が通じる様子はない。
「そうは思えないよ」
ぐちゅりと音を立て、彼はゆっくりと一度、深く埋まった性器を抜き始めた。
「あぁ…」
もどかしい刺激にティスはたちまちか細い声を上げた。
するとイーリックは先が抜け出る寸前で止めて、また体重をかけて貫く。
「ひぅッ」
締め付けるものを失い、心細げに閉じようとしていた穴をいきなり開かれた。
衝撃と、堪えられない快楽がじんと性器に響く。
先走りを零し、勃ち上がっていくティスのものをイーリックはおかしそうに見て言った。
「体は正直だね。僕に入れられて、気持ちいいんだろう?」
「ち、が……あ、あっ」
否定しようとした瞬間、イーリックはゆっくりと腰を動かし始めた。
先ほどよりは速い速度だが、それでもずいぶん中途半端な動き方だ。
あやすように抜き差しされ、満たされているはずなのに物足りなさが募っていく。
もっと。
もっと速く、深く、強く犯されたい。
かたくなにイーリックを拒もうとしている心の隙間から、そんな願いが抑えても抑えても湧き上がってくる。
「あ、んっ……嫌あ………」
漏れ出る声も、だから中途半端なものになってしまう。
拒むような、誘うような、曖昧な響きは嗜虐心を煽るだけだ。
イーリックは優しさと残酷さが入り混じったような声でこう尋ねて来た。
「どうして欲しい? ティス。もっと速く動いて欲しい?」
「だめ、……だめ、そんな…」
「もっと奥まで入れて欲しい? 僕のを中に出して欲しい?」
卑猥な言葉がイーリックの口から次々に飛び出して、ティスはたまらず首を振る。
「や、だ……嫌だ、言わないで、そんなこと…」
彼の唇から、そんなことを言われるなんて夢にも思わなかった。
「抜い…、……ああっ」
大好きだったはずの指が性器を握り込む。
前を扱きながら、後ろに突き入れた肉棒をイーリックは激しく出し入れし始めた。
「あんっ…、あ、あああっ!」
淫らな声が、突かれるたびにあふれ出る。
握られた性器の先からも雫がこぼれ出し、ぽたぽたと垂れてまた白い肌を汚した。
「体は、正直だ……本当に、ね」
食い締めるそこから伝わる快楽に、イーリックのつぶやきも震えを帯びている。
「心も早く、正直になって。そしたら君のここに、たくさん注いであげるよ」
「い、要らっ……あうぅっ」
要らないと言おうとした時、体をねじられ横向きにされた。
片足をベッドにつき、片足を彼の肩に。
最初に犯された、あの時と同じ体位だ。
「嫌! ……あっ、ああぁッ!?」
羞恥の記憶が蘇り、叫んだところに深々と熱いものを打ち込まれた。
「早く、正直になって」
熱く、そしてどこかに影を潜めた男の声がティスの耳を打つ。
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