炎色反応 第三章・29



「可愛いよ、ティス。ここ、僕のでとろとろになってるね」
むき出しの穴を覗き込まれ、見ないで、とティスは消えそうな声でつぶやいた。
やはり聞かずにイーリックはその状態で足を開かせ、次いで尻肉も押し広げた。
抜かれた時にかき出されかけたものが、口を開けた穴からたらたらと零れ出す。
「やだ、見ないで…もうやめて……」
顔だけを横にねじってかろうじて呼吸をしながら、ティスは言うことをきかない体を呪った。
イーリックの言う通り、薬の効き目はかなり強くて長い。
媚薬が入っていないようなのは救いだが、その代わり触れられて熱くなる肌は全部自分の責任だ。
「欲しいくせに…」
イーリックはそう言うと、二人分の体液に汚れた服を脱ぎ始めた。
布が落ちる音が響き、背中に彼の肌がぴたりと密着してくるのが分かる。
背後から抱き締めるような体勢と、その暖かさにティスはどきりとした。
「あったかい……可愛いよ、ティス。好きだ。本当だよ」
耳元でささやく声は、言う内容はとにかく聞き慣れた優しいイーリックの声。
顔が彼に良く見えないと分かっているせいか、不意にティスは泣きたくなった。
そう言えば、抱かれる際に相手が全裸というのは初めてではないだろうか。
改めて、自分がどれだけ異常な状況で犯され続けていたのか知った気分だった。
「力を抜いておいで」
同じ優しい声で言われた次の瞬間、熱い塊が根元まで埋め込まれる。
「あーッ……!」
抱き締めるようにして貫かれ、肩や首筋になだめるように口付けされた。
「吸い付いてくる………ああ、たまらないよ、ティス」
胸元に潜り込んだ指が乳首を探り当てる。
きゅっとつままれる、そこに確かに快感は生まれた。
太い肉棒に犯される、それによる快感も否定出来ない。
でも、そのためではない涙に瞳が潤んでくる。
あなたのことは好きだ。
けれどなぜ、こんなことをしなければいけない。
同郷の優しい人、兄弟同然の仲ではどうしていけない。
「あ、あっ、やぁ、あっ、あ、あっ…!」
断続的な叫びを上げ、ぐったりと体から力を抜く。
今度はイーリックの方が先に達した。
もう一度注がれていくものの感触にじっと耐えていると、ふとキイ、という音がした。
イーリックにも聞こえたのだろう。
不審そうに振り向いた彼の目に信じられないものが飛び込んできた。
指一本分ほど開いた扉の向こうで、気のなさそうな拍手をしている男。
間の抜けた音にティスも、気だるさをこらえて顔だけ振り返り同じ光景を目にした。
薄闇に光る金の瞳。
黒衣の裾に赤い縫い取りをした長身の青年が、にやにやしながら立っている。
「いや、なかなかの見世物だったぜ、イーリック」
まばらな、ふざけたような拍手をやめて部屋の中に入ってくるオルバンを、ティスはぼんやりと見つめた。


***

オルバンがどうやってここの場所を知ったのか。
それを問うことも最早無意味だろう。
イーリックも何度も達した後のことだ。
なのに彼は即座にティスから離れ、自分のベッドに飛び乗ると剣を抜き放った。
そのままオルバンに斬りかかる、その反射の良さはただの強盗などなら呆気なく斬り捨てていたに違いない。
だが生憎、相手は魔法使い。
それも並の魔法使いではなかった。
馬鹿にしたような拍手に使っていた手をオルバンはさっと掲げた。
火の精霊の指輪が光り、無数の小さな魔力の塊が空中に生み出される。
「くっ」
咄嗟に身をひねり、いくつかを着地してかわしたイーリックは見事だった。
だが全ては避けきれず、右肩を浅くえぐられ剣を取り落としてしまう。
「イーリックさん!」
我に返ったティスも、必死になって何とか体ごと振り向いた。


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