炎色反応 第三章・28



とうとう、中にまで出された。
「……なんで……」
今更のような問いが漏れる。
「イーリックさんは…オレを、ずっと……こうしたかったの…?」
尋ねると、まだ体を繋げたままでイーリックは言った。
彼の声にはさっきの熱が残っていて、中のものも完全には萎えてはいないようだった。
「違うよ。昨日、君とあんなことをするまで、君がこんなに可愛くて淫らだなんて知らなかった」
変わらない優しい指が、思い出したようにティスの頬を撫で始める。
ティスの方だって、イーリックの中にこんな欲望があることを知らなかった。
でも二人の互いへの認識には、遂に彼の意思で抱かれてしまった現在も非常に大きな溝があるようだ。
しかも厄介なことに、イーリックにはそれがまるで分かっていないらしい。
「もちろん昔から、君のことは好きだった。すごくいい子で、明るくて素直で、弟みたいに大切だった。だから、どうしてもこの目で君の生死を確認したくて追いかけて来たんだ」
それは分かっている。
そこで止まっていてくれればと思うのは勝手だろうか。
「でも今は違う。ティスが愛しくて、欲しくてたまらない。こんな気持ちになったのは初めてなんだ」
真摯な告白なのだと思う。
もしかすると喜ぶべきなのかもしれない。
でも、同性ということを差し置いても自分にとってのイーリックは兄だ。
大好きで、大切な人だけれど、自分から抱かれたいなんてどうしても思えない。
「……オレ」
何と言えば通じるだろう。
彼の「好き」と自分の「好き」に、天と地ほどの隔たりがあることを。
「ティスだって、僕にして欲しいって言ってくれたよね」
何とか話をしようとした矢先、そんなことを言われてしまいティスは口ごもった。
「それは……昨日は、オルバン様がいたから。そう言わないと、オレも、イーリックさんも、殺されていたかもしれないじゃないですか…」
我ながら言い訳がましい言い方だ、と思いながらティスは言った。
「けどさっきは、いかせて欲しいって言ってくれた」
イーリックは案の定追求してくる。
心なしか、奥に収められたままのものが硬さを取り戻したような気がした。
「だ、だって…」
「気持ち良くて、我慢出来なかったんだよね?」
答えられず、ティスは唇を引き結んで黙り込んでしまう。
するとイーリックは優しげな顔立ちに物憂いものを漂わせ、つぶやいた。
「ティスはそうやって黙ってしまって、僕の質問に答えてくれない。ひどいよ」
答えたじゃないか。
好きは好きだと。
その答えを彼が、正確に受け取ってくれないだけだ。
「オレは…あ、いや、まだっ……!」
同じことになるだろうと思いながらも、もう一度さっきの答えを繰り返そうとした時だ。
イーリックの手が胸に回り、柔らかくなっていた乳首をつまむ。
「や……だぁ、続けてなんか、だめ…」
抜かれてもいないものが、尻の中で逞しさを増していく。
イーリックは聞かず、もう片方の乳首に唇を寄せた。
強く吸い上げられ、舐め転がされて息が詰まる。
「分かってる。ティスは、自分がどれだけ魅力的なのか分かってないんだって」
魅力的というのは、男の欲望をそそるという意味か。
なまじの貶めよりも胸に突き刺さる賛美を、彼の口から言われて喜べというのか。
あんまりだ。
「いいよ。君が素直になれるまでしてあげる」
乳首から口を離し、体を起こしたイーリックは、再び硬くなったものをなぜか一度ティスから引き抜いた。
ぬぽっと音を立てて出て行ったものに驚いていると、イーリックの両手が伸びてくる。
視界がくるりと回った。
うつぶせにされ、腰だけを引き上げられる。
「いや!」
恥ずかしさに頬が燃える。
犯されるためでしかない体位を取らされ、拒否の声を上げてももちろん聞いてはもらえない。


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