炎色反応 第五章・14
悩ましく眉を寄せ、その感覚に耐えているティスの頬を見えない指が満足そうに撫でた。
「本当に可愛い兎ちゃんだ。オルバンに感謝しないとなあ」
とろりと蕩けていた水色の瞳にわずかに理性が戻る。
そうだ、オルバンは一体どうしたのだろう。
「……ルバンさまは…?」
かすれた声で問うと、ヴィントレッドはくすくすと笑って答えてくれた。
「今頃いじめられっ子の復讐が終わったころだ。ザザの奴、相当鬱屈を溜め込んでたからな」
何となくそんな空気があったが、ザザはどうやら同郷のオルバンに昔いじめられていたらしい。
彼が風のグラウスに従った原因の全てではないかもしれないが、オルバンを見返してやりたい気持ちも理由の一つなのだろう。
分かりやすい人間関係を一瞬思い描いた後、ティスは身をよじりいまだ入ったままのヴィントレッドのものから逃れようともがいた。
「どうした兎ちゃん、まだこれからだろ?」
笑うヴィントレッドの、幾分萎えてもまだ硬さの残ったものが中で動く。
奥に溜まった精液がかき回されて蠢くのが見え、ティスは小さく息を吐いた。
「残念だが、あのザザは見かけによらず火の魔法使いとしてはちょっとしたものだ。おまけにグラウスから風の力をもらっている」
ヴィントレッドがそう言った瞬間、空中にいきなり武骨な右手の手首から先だけが出現した。
ぎょっとしたティスの目の前でその指がふざけたようにくいくいと曲げられる。
オルバンのもので見慣れた火の精霊の指輪が人差し指に。
そして、小指にもう一つの指輪。
火でも水でも地でもない、きれいな緑色をした…………風の精霊石。
「こいつはすげえぜ。オレも最初は胡散臭え野郎だとしか思ってなかったが、グラウスの強さは本物だ。あいつと組んでりゃオレも退屈せずに済む」
兎ちゃんにも会えたしな、と彼は笑いを含んだ声で言った。
「地水火風四つの属性の内、風の魔法使いの力が一番強いことを知ってるか? グラウスは自分に従う魔法使いにその力を与えてくれるのさ。もちろん使いこなすには素質と努力が必要だが、今のザザならオルバンにだって十分勝てるだろう」
節くれて武骨な指先がちょいとティスの鼻先を突付いた。
「可愛い兎ちゃん、安心しな。オレたちは従う相手には寛大だ。最もオレは、兎ちゃんのいまだそうやってご主人様一途な態度に逆にそそられちまうが」
指が髪に触れる。
繊細な金の髪を梳き、頭皮を愛撫するように撫でる手はやはり手首の先しか見えない。
「オレのものになれよ、ティス。オレだってオルバンと同じ火の魔法使いだ。お前をあんあん鳴かせてやれる技術も含めて全部、風の力まで操るオレの方が上だと思うぜ?」
オルバンよりは言い口も雰囲気も少し軽めに感じられるヴィントレッド。
だがやはり、彼も火の魔法使いと言うべきか。
傲慢で自信家で、ティスのことを己の意思でどうにでも出来る相手だと思っているのがよく分かる。
けれどヴィントレッドとオルバンにはある決定的な違いがある。
オルバンならグラウスには従わない。
異様な光景に震えながら、ティスは懸命に見えない男に問いかける。
「オルバン様は、誰にだって負けません…」
傲慢で身勝手で冷酷で自己中心的な男だ。
だが彼は誰の前にも膝を折らない孤高にして最強の魔法使い。
人間たちはもちろん、水のレイネも地のディアルもオルバンの敵ではなかった。
負けるわけがない。
ザザにも、このヴィントレッドにも。
風のグラウスにも。
「オ、オレは、あの人のものです………もう放して、オレっ……、うっ!?」
喉に強い圧力がかかった。
そこだけ見える大きな手が、いきなり首根っこを押さえ付けて来たのだ。
「うぐ……っ!」
「小憎らしいことを言う兎ちゃんだ」
見えずともヴィントレッドの表情は分かる、そんな声だった。
「人間がオレたちに舐めた真似をすればどうなるか、オルバンは教えてくれなかったか?」
「あう、う…っ!」
窒息寸前のところで辛うじて留まったような状態で、ティスははぁはぁと息を吐き出す。
頭に血が昇り、呼吸が阻害されて自然と口が開いてしまう。
苦痛の声を細く上げるか弱き獲物の喉を締めながら、獣はその足を抱え直した。
首を締められた状態で、ティスはまた犯され始めた。
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