付ける薬もないぐらい 第二章・16
クルーガーは今も、弟子の体を元に戻すためにあれこれと方法を探している。
どんな文献を調べても、卵を排出後体が戻らなかった場合についての資料が見付からないのだ。
異常な状態であることは分かり切っている。
この先ルーンの体にどんな変化が訪れるかは誰にも分からない。
例えば死に至るだとかいった、最悪の可能性だって考えられるのだ。
「…………やっぱり、王宮に頼るしかないかもしれんな。ここじゃ手に入る資料も資材もたかが知れている。相談出来る奴もいないし……」
「……ししょ……」
「口止めしたってどうせどこからかは漏れるだろう。いっそそれを逆手にとって情報を募集してみる手もあるな。よそに行商に行く奴らに相談して…………ルーン?」
ぶつぶつと独り言を言いながら、ルーンの頭を撫でていたクルーガーの腰に少年がすがり付いて来る。
師匠を見上げる瞳はすでに潤んで熱を帯びていた。
「…………ししょ、あの、オレ、また……」
どうやら頭を撫でられたことに反応してしまったらしい。
だぶだぶの寝巻きの上からも分かる豊かな胸と、その頂点でしこる乳首の先をすり付けられてクルーガーは引きつった顔をする。
「あ、あのなあ! お前人が真面目に……」
思わず叫びかけた彼は、再びがっくりとうなだれた。
「全く、お前は本当に大物と言うか……素直と言うか恥を知らんと言うか…………」
「ししょ、あの、だめ……?」
もじもじしながら言うのを聞いては、もうクルーガーも苦笑いするしかない。
「…………まあ、こんな風に求めてしまうのもその体のせいだものな……」
半分ぐらい自分に言い聞かせるようにつぶやいて、彼はくいとルーンのあごを持ち上げた。
薄赤く色付き、口付けを待っている唇に自分のそれをそっと重ねる。
「ふ……う、ん……」
ぴちゃぴちゃと淫猥な音を立てて舌を絡められ、ルーンはうっとりと瞳を閉じる。
その手はクルーガーの背に回り、一生懸命つま先立ちをして背の高い彼の口付けを出来るだけ多く味わおうとしていた。
「ししょ…………」
甘く長い口付けが終わり、クルーガーはルーンに合わせて屈めていた腰をそっと戻した。
ぽわんとした目で彼を見つめ、ルーンはつぶやく。
「ししょ、オレね、怖い思いもしたけど、体、戻らなくもいいです……だって男のままだったら、師匠オレをぎゅっとしたりちゅっとしたりあんまりしてくれなかったと思うから……」
「……いや、あんまりどころか絶対しないが。したらおかしいだろう」
冷静なクルーガーの突っ込みにも、知恵熱のような状態のルーンは止まらない。
「オレ、いつも迷惑かけて怒られてばっかりだから……師匠にぎゅっとしてもらうのすごく嬉しいんです」
強くその腕に抱き締められると、まるで許しをもらえたような気になれる。
彼の側にいてもいいのだと、少なくとも今この時は求められているのだと。
にこにこと無邪気に語るルーンの顔をクルーガーは黙って見つめる。
やがてかすかに視線を横に向けた彼は、ぶっきらぼうな口調で語り始めた。
「…………オレがお前を叱ったり怒鳴ったりするのは、お前に立派な人間になって欲しいからだ。……別に半分女になったりしなくても、ぎゅっとしたり……ちゅっ…、はまあ、しないが、その、他人に必要とされる人間にだな」
演説でもするように話している内に、この言い方では伝わらないだろうことに思い当ったらしい。
照れ隠しにかちっと舌を鳴らすと、案の定きょとんとしているルーンを見つめクルーガーはこう言い直した。
「要するにだ。お前はどじで馬鹿で気が利かないとんでもない弟子だが、それでもオレにとっては可愛い弟子なんだ。……オレがそう思ってるってこと、忘れるなよ」
はっきりとした言葉を聞いて、ルーンの表情がぱあっと晴れていく。
体のうずきすら凌駕して広がった純粋な喜びに、あどけない顔は薄暗い小屋の中輝いて見えた。
「ししょ、やっぱり大好き……!」
「……だから知ってるって」
呆れたように、どこか嬉しそうに言ったクルーガーは、抱き付いて来たルーンの頭を愛情を込めて軽く叩いてやった。
〈終わり〉
***
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