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エリリン | #1★2007.11/21(水)17:11 |
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椅子に座ってご機嫌な様子で編み物をしていた。 留守番をしているミルクはドンカラスの布団を作っているらしい。 ドンカラスは編み物がした事がない人が編み物をする事に恐怖感がある。 大体なんで毛糸で布団を作ろうとするのかが判らない。 この人はふかふかの毛糸の方がきっと暖かいとまた訳の判らない発想をしたらしい。 裁縫が苦手なミルクが編み物が出来る訳が無い。 手先が不器用な自分の主人が編み物をする様子を見てるだけでもドンカラスとしてはぞっとしてしまう。 過去に突然の思い付きで「ドンちゃんに洋服作ってあげる♪」とご機嫌な様子で言われた事があった。 それから数ヵ月後にミルクが「か〜んせぃ〜♪」と言ってドンカラスの前に作品を持って来た。 最初見た時はあまりの見た目の酷さに「雑巾…?」っと思ってしまったが主人に言わせると完全完璧の洋服らしい。 雑巾にしか見えない洋服をミルクは初めてにしては素晴らしい洋服と見えたらしく「もしかして、あたし才能あるのかも!」と自分で言っていた。 ドンカラスとしては絶対才能が無いと言うより下手すぎると思ったが口に出さなかった。 ドンカラスはそのどう見ても雑巾だろうと思われる自称完全完璧の素晴らしい洋服を着せられ、マチ針が羽にぐさっと刺さった経験があった。 それ以来、懲りたのか主人は突然の思い付きを言い出さなくなった…筈だった。 そう、数日前までは… 怖い…過去の恐怖の数々が蘇る… ミルクの突然の思い付きに巻き込まれた地獄が… 留守番をしているミルクにどんな仕打ちをされたか思い出すと結構な数ある。 目玉焼き作ってあげると言われて期待していたら目玉焼きがなぜか腐ってた事件で腹を壊したり。 泳いで見てと言われ、強制的に泳がされ、溺れて死ぬかと思った経験もある。 突然の思い付きの被害を受けた知り合いのKさんの発言だとKさんがメルと散歩していたら川で溺れてる子供を見つけたミルクが「早く助けてあげなさいよ」と言ってKさんを川に突き落とし、助けた事は助けたらしいので す がKさんが溺れたとか。 加害者は悪気はないらしい。 「ドンちゃん、出来たよ♪」 「!?」 「ジャジャーン♪予定変更でクラウスのマフラー完成♪」 雑巾にしか見えません。 毛糸で雑巾作るなのていろんな意味で才能アリだと思ったドンカラス。 今回地獄を見るのはクラウスなのでご愁傷様とドンカラスは遠くに居るクラウスに心の中で言った。 ご機嫌な様子でドンカラスの主人が部屋から出て行った。 これで当分は地獄を見ないだろうと運良く難から逃れたドンカラスは安心した。 しかし、クラウスが帰って来ないといつまでもこの地獄のままだ。 今現在ミルクが留守番している家はクラウスの家。 13年前。 ある日突然、また思い付きでドンカラスの主人ミルクが「クラウスの家に住む。」と言い出して強引に家に侵入。 ちょうど留守だったのだが、合鍵がないなりにミルクは頭を使った。 扉ごと破壊して家に侵入。 帰って来たクラウスは無表情で驚いて最初は声も出なかった。 「今日からあたし、ここに住むからよろしく〜」とかきっぱり言ってしまう主人が凄い。 声も出なかった被害者のクラウスは驚きのあまり声が出なかったので文句も言えなかった。 それからずっとここに住み着いている。 いくらなんでも無茶苦茶にも程がある。 お嬢様育ちで人前だと大人しいミルクの本性がこれだ。 最初は皆、猫被りミルクに騙される。 ドンカラスが過去に振り返って溜息を着いた時だった。 突然、主人の悲鳴が聞こえた。 どうせまたゴキブリでも出たのだろうと最初は全く気にしなかった。 しかし、なぜかドタドタ音が聞こえてくる。 逃げ回っていると思ったドンカラスだったがさすがに少し変だなと思い始めた。 音が聞こえなくなってしばらく経った。 静かになった… 何かが変だ。 嫌な予感がしたドンカラスは様子を見に行く事にした。 ミルがいると思われる部屋を覗いたドンカラスはその光景を見た。 「ご主人様あぁッ!」 思わずドンカラスは悲鳴のような声をあげてしまった。 それもそのはずだった。 ♪続く♪ |
エリリン | #2★2007.11/21(水)17:13 |
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ドンカラスが騒ぎ立てていた。 ピジョットは大変だと慌ててクラウスを捜しに行った。 泣きながらドンカラスはミルクを突っ突く。 床に自分の主人が倒れたいたのだから騒ぐのも無理はなかった。 すぐにピジョットがクラウスとリースを乗せて戻って来た。 倒れたと聞いたのでマッハで戻って来たらしい。 リースが早く病院へと言うのでドンカラスは乗せるスタンバイをしていた。 この場はパニック状態。 ミルクが少し動いたのも気が付かずに騒ぎが大きくなるばかり。 突然うーんと言う声と共にのろのろとミルクが起きた。 2人と2匹は目を丸くする。 その場は静まり返る。 事態が飲み込めないドンカラスの主人は言った。 「あの〜どうかしました?」 一同は無言でドンカラスを睨んだ。 倒れたのではなくただ寝ていただけ。 クラウスはドンカラスを掴んで部屋を出た。 完璧に怒ってるなと思ったリースはとにかくピジョットと共にミルクに事情を説明した。 事情を知ったお嬢様は笑い出した。 ただ床で寝ていただけなのに倒れたと勘違いされたのがよっぽど可笑しかったらしい。 リースらからすれば床で寝る人の神経の方がよっぱど可笑しい。 ドンカラスも運の無い奴だった。 偶然お嬢様が床で寝ている所を発見し、倒れてると勘違い。 騒ぎ立ててピジョットがクラウスを連れてくる。 結局寝ていただけと判明してクラウスに怒られる。 普通、お嬢様育ちなら床で寝ないだろう。 ミルクが何処でその技を覚えたのかは謎に包まれている。 突然ドアが凄い勢いで開いた。 ミリが怖い顔でミルクを見る。 これは来る。 ミリが火を吐くような勢いで喋り出した。 「ミルク様ッ!床で寝るとは一体どういう事ですか!?私はその様な教育はしておりませんわッ!長い間クーリス様が行方不明だからって調子に乗り過ぎです。少しは反省なさって下さい。お嬢様がそんな行儀の悪い事 をするものではないですわよ。自分を誰だとお考えですか?あなたは元は…」 「ミリさんッ!それは禁句ですよ。」 「あ…申し訳ございません。今日は勘弁しますわ。」 そう言ってミリは出て行った。 そのすぐ後に悲鳴が聞こえる。 何が遭ったのか判らなかったがリースは嫌な予感がした。 リースは慌ててミリの様子を見に行った。 すぐにリースはクラウスと共に戻って来た。 ミルクは直感ですぐにドンカラスを戻し布に包んだ何かを抱いた。 何が遭ったか聞くまでもなかった。 追われてるのだからこんな事が遭っても当然。 追われる元となった原因はクラウスにあった。 クラウスのせいでミルクまで巻き込まれる破目に。 また、ある意味ミルクのせいでもある。 「先に行け。」 「はあ?」☆「判った。」 「リースさん!?」 リースはミルクを引っ張って外に飛び出して走った。 追ってる側の目的は確実にクラウスよりミルク。 リースの手を振り払おうとした。 「放して下さい。クラウスさんだけを残して行く訳には…」 「クラウスなら大丈夫。アブソルも一緒だし。」 何とかミルクを説得したリースは自分の家まで連れ帰った。 ここで予めクラウスと合流する事になっている。 まさか追っている側の連中はリースの家まで調べていないだろうと思った。 予想通り、いつになっても追っ手は来なかった。 ミルクは遅いなと部屋の中でずっと思っている。 その頃、クラウスとアブソルは捕らえられていた。 弟のセレが不気味に微笑む。 以前とは全く逆の立場になったのだから昔の仕返しと言わんばかりに見下し視線のセレ。 その他にもミルクを追っていたのはリープ。 アブソルは気を失っていてぐったり横たわっている。 とにかくアブソルだけは逃がしてやろうと知恵を必死絞っていた。 「ミルク・フェルリアは?」 「残念だったな。もう此処にはいない。」 「あの子がどれだけ危険な存在か判ってないのね。 フェルリアが巫女の血族だって事はご存知でいらして?」 「ミルクから聞いている。」 「なら話が早いわ。その力は使い方次第で世界を滅ぼす事だって出来るのよ。そんな強大な力が目覚めたらどうなるか…想像が付くわよね?」 「ミルクはそんな事はしないだろう。」 「そうとも言えないわ。欲に溺れる事だって考えられるのよ…巫女は代替わりするわ。正式に巫女となる前に巫女の血族を全員消して置いた方が良いのよ。あの子は巫女継承の証を持ってないわ。あれを持たれたら私達は手が出せない。 その証が巫女を守るものね?」 セレのオニドリルが手紙を持って来た。 それを読んだセレの手が震えた。 そうとう悪い知らせだったらしい。 固まるセレの手から紙を奪い取ったリープはそれを読んだ。 怒りのあまりリープは手紙を破り捨てた。 クーリスの奴とリープは凄い低い声で言った。 クーリスは幼いミルクを引き取り、巫女の血族だと言う事を隠す為にミルクに別の名前を与えて育てた人だ。 引き取った動機はミルクが亡くなった娘に似ていたからと言う単純な理由だった。 ちなみに巫女の血族のミルクに与えた別の名前は本当の娘の名前だったと言うのは後から聞いた話だった。 養子とクーリスの娘の写真を見せて貰った事があるクラウスも2人はとてもよく似ていると思った。 クーリスが引き取ってしまう理由が判るほど似ていた。 しかし、前作の話の流れでクーリスは行方不明とされていたはずなのですが… クーリスが行方不明の真相は巫女の血族を引き取ってその事を黙り、表向き自分の娘として育てたので何者かがその養子が怪しいと気が付きクーリスを捕らえた。 そしてクーリスがミルクは巫女の血族だと言ったのだろう。 そのせいでミルクが追われるようになったと言うオチだ。 「クーリスが巫女継承の証を持って逃げたそうだ。巫女の手に渡る前にクーリスか巫女のどちらかを捕らえろと言う命令が来たけれど。どうする?」 「今はクーリスを探して捕らえるよりも巫女を捕らえた方が早いわ…クラウス。巫女は、ミルクは何処に逃がした?」 「私は知らん。知っていたとしても言わん。」 「本当に口が堅いわね。」 2人は何とかミルクの居場所を吐かせようとしたが無駄だった。 完全巫女信者(?)のクラウスがミルクの居場所を言う訳もなく、脅しても全く動じない忠誠心がある意味凄いと思える。 さすがにクラウスが来るのが遅いので心配になって来たミルクはリースに内緒でクラウスを探しに行こうかと思った。 もちろん捕まる危険性がある。 ミルクにはそんな事はどうだっていい。 っと言うかそんなの関係ねぇっ! 例え捕らわれようと、海に落とされようとクラウスさえ救出できれば。 そう考えていた時だった。 突然雨でびしょ濡れになったクーリスが飛び込んできた。 走って来たらしく、酷く疲れていた。 リースもミルクも行方不明になっていた筈の人物の突然の登場に愕然とした。 「ぜぇぜぇ…メルディアナに…ミルクにこれを。」 ミルクはクーリスからペンダントを受け取った。 三日月の形をしたペンダントに白い丸い宝石のような物が付いている。 これが何だか判っていないミルクは首を傾げた。 このペンダントこそが巫女継承の証でもあり、巫女である証でもある物だ。 クーリスは急いでミルクに着けてあげた。 これがミルクの手に渡った事でもう奴らは手が出せなくなる。 まだ完全に巫女として認められていない形だけの巫女となったミルクはクーリスにお礼を言った。 リースが転んだりして怪我をしたクーリスの手当てをしていた。 「一体、何が遭ったんです?」 「この子が巫女の血族だとウェムルに勘付かれて捕まったんだよ。そして何としても聞き出そうと何度も脅してきた。ごめんね…巫女の血族だと言ってしまったせいでお前が危険な目に。せめての償いで巫女の証だけは持ち帰って来たから。」 「悪いのは全てあたしなんです。あたしなんかが居たから…」 「悪いのは私なんだ。私のせいでクラウスが捕らわれた。」 「…え?嘘…」 ♪続く♪ |
エリリン | #3★2007.11/21(水)17:15 |
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クラウスは捕らわれたままだった。 あの2人は巫女候補かクーリスを探しに行った。 少しでも時間を稼ぐ為に結局口を割らなかったクラウスはボロボロだった。 意地でも口を割らせようとリープに蹴られたり殴られたりしたせいである。 起き上がれるような状態になったアブソルはぐったりしたクラウスを見て助けを呼びに行こうとした。 「行くな…ミルクの元へは絶対に…」 「で、でもそんな怪我じゃ!」 「平気だ…恐らく私はこれから奴の所へ連れて行かれる。そこでどうなるかは判らない。だから一ヶ月したらミルクの元へ行って伝えて欲しい事がある。“絶対に捜すな。私を助けようなどと馬鹿な事を考える な”と。」 「それは一体どういう事?」 「早く行け。ミルクを頼む。」 アブソルは足音がしたので急いでその場から逃げた。 主人の言っていた意味が判らなかったアブソルは泣きながら走った。 とにかく頼まれた事を達成しなければいけない。 一ヵ月後にミルクの元に行って伝言を伝える。 次にミルクを守り通す。 その為にアブソルは姿を隠して一ヶ月経つのを待った。 一日、二日、三日…一ヶ月! 言われた日にミルクに会いにリースの家へと行った。 リースには会えた。 …しかし伝言を伝える前にミルクがクラウスを救出に一人で出掛けたと聞いて焦った。 意外にもミルクはクラウスが思っている以上の行動力が有ったのだ。 最初から主人に頼まれた仕事を達成出来ないアブソルは役立たずとまた言われてしまうと思った。 それとクラウスが捕らえられた=アブソルの出番が無いに繋がるのではないかと言う恐怖に捕らわれる。 実際のところクラウスとミルクばかり目立っている。 しかも今回はクラウスが捕まってミルクが助け出すとか言う御伽噺の王子と姫が逆転したような状況なのでミルクが目立つと言うのは確実だった。 形だけの巫女のミルクはと言うと森の中の町に来ていた。 少しでも多く情報を得たいと思ったからだ。 でも巫女の血族狩りが始まって生き残りが一人だと言う事は奴らはミルクだけをターゲットに捜しているはずだ。 だからこれじゃバレバレだと思い、茶色の短い髪の男の子に変身した。 さすがに巫女の秘密奥義でも女から男へは高度な技術が必要の為、男の子に見えるようにした。 運良く貧乳だった事もあり(ミルクはこれをかなり気にしている)男の子に見えるようにはなった。 言葉遣いも男そのものにしようと決心した。 リースの喋り方の真似をすれば良いのだから簡単だ。 巫女の証の服の下に隠し準備完了。 そういえば名前はどうしようかと少し悩む。 男の子の服装で名前がミルクじゃマズイ。 ミルクは女の子の名前だ。 しばらく考えてミルクはしばらくの間、ライと名乗るようにした。(以下、男装中はミルクではなくライとなります) クーリスの奥さんの名前はライラと言うのでそこから取ってライ。 かなり単純である。 連れてきたパチリス(町に来る途中に助けた)に男装した格好を見せる。 「…巫女様…(汗)」 「まだ巫女じゃないってば。男装してる間は巫女様は禁句だからね。ライって呼んで!」 「ライ。正体を隠す為に男になりきるのはどーでも良いんだけどさ。ボロが出ないように頼むさ。」 「失礼な!あたし…僕はボロなんて出さないよ!」 「ちょっと出た。」 「うるさいな!ちょっとぐらい出たってバレないから平気だ!」 貧乳の男装巫女は町に堂々と入っていった。 周りの人の視線がミルクに、ライに釘付け。 元々顔だけは良い男装巫女はどう見ても美青年にしか見えなかったせいである。 パチリスはライの肩に乗っかっていた。 周りの視線が釘付けなのに対してやっぱり無理があったかなぁと見破られたと勘違いをしている。 でも誰も何も言わないので成功したようでした。 とにかく泊まれる所を探す事にした。 町をふらっと歩いていると女の人の悲鳴が聞こえた。 人助けをすると良い事があるとパチリスが行くように促すのでライは面倒臭いと言いながらも従った。 悲鳴が聞こえた方に行くと小さな女の子が泣いていた。 ライは優しく話しかけた。 「どうしたの?何処か痛い?」 女の子「変な禿のおじさんはミミのぬいぐるみを…うわあぁん!」 女の子は大声で泣いている。 詳しくは判らないがとにかく禿のおじさんがミミとか言う女の子のぬいぐるみを奪ったと言う事だけは判る。 心優し〜い貧乳男装巫女(優しいは嘘です。実は腹黒いです。)はミミのぬいぐるみを取り返してやる事にした。 もちろん人助けするのも野宿を何としても避ける為。 オマケに腹黒女(今は男ですが)はお礼を貰えるかもとか言う図々しい発想にまで発展している。 これの何処が優しいのか。 ただ腹黒いだけだとパチリスはひっそり微笑む。 「あた…僕がその禿を捕まえて取り返してあげるから泣かないで。」 「うん。ありがとう、お兄ちゃん!」 ほら、ボロが出かかった。 腹黒貧乳男装巫女(長ッ!)はミミを連れてそのぬいぐるみを奪った禿のおじさんとやらを探した。 もちろんパチリスも協力する。 実はと言うとパチリスも野宿ではない生活をしたみたかったのだ。 その為に助けてくれた貧乳巫女に着いて来たのだから。 しかし残念ながらその生活はまだ先のようです。 第一、まだ捕らえられたクラウス救出してないし、巫女狩り続いてるし、旅はこれからだし… 世間知らずのライはドンカラスを置いて来てしまったので飛んで行けない。 クラウス救出までの道のりは遠い。 …腹黒貧乳男装巫女がミミと話をしながら探してやっていると怪しいオヤジがこっちに向かって来た。 黄色い似合わない帽子を被っている。 腹黒貧乳男装巫女のライはこのオヤジの頭、禿てるんじゃないかなんてかなり失礼な事考えていた(蹴) ミミがこのオヤジの事をじろじろ見ている事からきっとぬいぐるみを奪った人にに似ているのだろう。 「そこのイケメン兄ちゃん。金の玉はいらんかねー?今ならたったの一億円!安いよー。」 一体その値段の何処が安いんだ。 そんな物(金の玉)買って一体どう使えば良いんだ。 しかもイケメン兄ちゃんじゃない。 ライの正体は巫女ミルク。 巫女って事は女です。 イケメンと言われてついムッとしてしまう。 まあ、正体が女なのである意味仕方が無い。 このオヤジもまさか目の前の若い男装した人が巫女だと、女だと思わない筈。 「そんなの買わないよ。どう考えたってメチャクチャ高いし、ボッタクリじゃん。」 「チッ。それじゃあ一万円でどうだい?イケメ…」 ライはついに怒ってオヤジの顔面に一発拳を打ち込んだ。 だんだん巫女の行動がクラウスに似て来ていた。 もちろんライとしてはそんな事意識していない。 倒れたオヤジの被っていたセンスのない帽子が落ちた。 オヤジの頭を見てやっぱりと確信した。 「お兄ちゃん!この人がミミのぬいぐるみ取ったの!」 がしっと容赦なく禿の貴重な残り一本の髪の毛を掴む。 腹黒貧乳男装巫女は腹黒さを爆発させて綺麗な顔を闇の帝王風に変えて脅迫した。 まるでクラウスのブチギレ版のような感じで。 巫女が男装する事で完璧に女に戻った時には男っぽくなっていそうです。 パチリスとミミは闇の帝王の顔をまともに見れなかった。 「君かぁ…子供のぬいぐるみを取りやがった禿はッ!ぬいぐるみはどうした?」 オヤジ「え、そ、それはぁ〜」 「ぬいぐるみは何処やったか聞いてんだよッ!抜くぞ!砂漠頭の貴重はオアシスを抜くぞッ!」 禿た頭を砂漠に、髪の毛をオアシスに例える巫女。 巫女の恐ろしい顔にミミはパチリスを抱き締めていた。 パチリスは締め付けられて窒息しそうになっているが、主人は禿にぬいぐるみを返させる為に奮闘中。 全く気が付いていない。 巫女の脅迫に禿はとうとう全てを吐いた。 ぬいぐるみを腹黒巫女に手渡した。 ついでにライはウェムルの事について知っているか問い質した。 もちろん闇の帝王のような顔で。 「ぬいぐるみは返しましたから髪の毛だけはッ!ウェムルなんか知りません!だから髪の毛だけはッ!」 「本当にウェムルを知らないの?じゃあクラウス・ユーフェンドって人がここに来なかった?答えないと抜くよ…」 「ひいぃッ!き、来ました。2人組みに連れられて、酷い怪我で全身ボロボロって感じで…」 「それじゃあ、何処に向かったか判る?」 「ここから北の港に…大都市に行くって…」 「ど〜もありがとっ♪」 すぽっ! 禿の頭から何かが抜けた音がした。 オヤジは悲鳴をあげた。 手間掛けさせやがったお礼と言わんばかりに髪の毛を抜いて焼き捨ててやった。 ぬいぐるみをミミに返した腹黒巫女。 「ありがとう♪お兄ちゃん旅してるの?」 「そうだよ。」 「じゃあミミの家に泊まって行って♪」 「そうさせて貰うよ。」 「きゅーん…」 パチリスは気絶していた。 腹黒巫女はパチリスを抱いてミミの家へと突入する事になった。 ♪続く♪ |
エリリン | #4★2007.11/21(水)17:41 |
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リースはどうしよう、どうしようと巫女の書き残した置手紙を読んでオロオロしていた。 クーリスは寝ている。 ミリは事件現場に置いてきていた。 (ミリの存在を書いている自分が忘れてた。) 「クラウスを打ん殴って、ついでに奴らの親玉を抹殺する為に旅に出ます。探さないでネ♪ by巫女ミルク」 巫女、勝手すぎる。 しかもどうせ書くなら「クラウスを助け出して、ついでに奴らの親玉をタコ殴りにする為に旅に出ます。探さないでネ♪ by巫女ミルク」の方が良いと思う。 意地でも笑いを取りたいのか巫女は恐ろしい言葉ばかり並べる。 何でこの巫女様はこんなにも自分勝手なんだと文句ばかり言いたくなる。 「巫女様あぁ〜ッ!」 「どうした?ミルクが何か?」 子供のように目を擦りながらもクーリスが突然現れた。 「例の如く巫女が暴走しましたッ!」 手紙を読ませた。 クーリスは真っ青になって今すぐ捜そうと言い出した。 今、誰よりも重要視されるのは巫女ミルクの筈なのだが肝心の巫女は何も判っていないようでクラウスを助けに行ってしまった。 何が捜さないでネ♪だ。 暴走スイッチ入らないで巫女様〜ッ! ある意味スイッチONなのはリースの方。 その願いは巫女に通じただろうか… 巫女はミミの家でのんびり寛いでいる。 全く願いが届いていないようだった。 男装巫女は客間でパチリスとトランプしている。 ちなみにトランプは数分前にミミから借りた。 男装巫女のライ・ミーチェルこと貧乳巫女のミルク・フェルリアは随分とのん気だった。 本当に巫女はクラウスを助ける気があるのだろうか? 助ける気より旅の途中で遊ぶ方が目的も思える。 「ライ。本当にクラウスさん助ける気ある?」 「あるよ。幼馴染だし、捕まったのは巻き込んだ僕の責任だし。」 一応責任は感じているらしい。 しかし、どう考えてもこんな所で寛いでる事自体が無責任としか思えない。 パチリスは今度から裏の世界で無責任腹黒貧乳男装巫女と呼ぶことにした。 また長ったらしいがこれが全て事実なので仕方が無い。 無責任で腹黒で貧乳で男装した巫女なのだから。 貧乳とライの目の前で言ったら真っ先に抹殺されそうだ。 パチリスがぼーっとしているとライが勝ってしまった。 この人達、のん気にババ抜きなんてしてますよ。 今日はここに泊まる予定らしいが巫女がダラダラしている。 本当にこの先、大丈夫なのだろうか。 リースらに連れ戻されるのが先か、巫女が男装のみでそれを乗り切りクラウスを救出するか。 この先どうなる事やら。 ミミが部屋に飛び込んで来た。 「ライお兄ちゃん。ミミも旅に連れて行って。」 沈黙…。 「はい?また何で?」 「ミミもライお兄ちゃんみたいに優しく格好良くなりたいの!」 どうするよ。 男装巫女。 連れて行ったら巫女だとバレる可能性がある。 バレると危険。 しかし巫女には断る理由がない。 パチリスも冷や冷やした様子でガタガタ震えている。 「ミミ。僕の旅はとーても危険なんだ。そんな旅に君を巻き込む訳には…」 「行くの!どんなに危険でもライお兄ちゃんと一緒が良い!」 駄々を捏ねるミミを何とかして宥めようとするライ。 巫女である事が知れたら大変なのである。 大体、巫女ミルクは現在行方不明とされているだろうし、奴らも狙っている。 そんな状態の中にミミを連れて行くのはとても危険だった。 クラウスを巻き込んでしまった事を考えるとライにはミミを連れて行くという選択が選べない。 そんな中、頼りになる(?)パチリスが助け舟を出した。 「実はミミちゃん。ライはパチリスだったんだ!悪い呪いに掛かってしまってこんな姿に…」 かなり無理がある嘘だ。 助け舟といってもこんなセリフじゃ泥舟ではないか。 こんなんで子供とは言えミミが騙される訳が… 「え…お兄ちゃんが…パチリス…いやあぁっ!」 がたん。 ミミは部屋から出て行った。 …ミミはあっさり騙されてしまったらしい。 可愛いと言う意味の悲鳴だったのか。 予想外での驚きの悲鳴だったのか。 こっちとしては複雑だ。 ライは唖然としていたがご褒美として大好物のチーズカマボコをあげた。 パチリスがご機嫌に齧っていると 「助かったよ。ありがとう。」 「いえいえ。巫女様のお役に立てれば…」 「さっきの却下ッ!チーカマ没収!」 チーズカマボコは没収されてしまった。 つい巫女様と言ったのがハズレ。 結局パチリスは枕を涙で濡らして寝る事となった。 その頃、クラウスは港町まで来ていた。 そこである人と会わされる。 人気の無い建物の中で奴らの親玉らしい人物に会わされた。 「お久しぶりですわねぇ…なぜここに居るのかって顔をしてますわよ。 噂によるとなりたてホヤホヤの巫女、ミルク・フェルリアが行方不明だそうですわよぉ…」 ずっと黙っていたがミルクと聞いて顔色が変わったのをその人物は見逃さなかった。 巫女が行方不明とされると言う事は何とか巫女の証がミルクに届いた事が判って安心したが行方不明となると話しが違う。 コイツらが何かしたんじゃないかと疑うしかない。 相手の落ち着いたのんびりした口調とは正反対でクラウスは怒りをこめた低い声で怒鳴りつける。 「ミルクに何をした…ッ!?」 「まだ何もしてないわよぉ。これから捕まえて巫女の目の前であなたを痛め付けてあげるのぉ。巫女の泣き叫ぶ顔が目に浮かぶわぁ。」 クラウスは唖然とした。 あの腹黒女の事だから一ヶ月に一度のあの地獄の日が重なった場合、泣き叫ぶどころか…いや、思い出すのはやめよう。 それよりもアブソルの奴は何をしているのだろう。 ミルクに伝言を伝えなかったのだろうか。 それともその前に既に行方が判らなくなったのか…。 早くしないとミルクが捕まるとその事ばかり考えていた。 その後の言葉は一切耳に入らなかった。 ♪続く♪ |
エリリン | #5☆2007.11/21(水)19:19 |
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ミミの家で一泊した巫女御一行は客間で朝食を食べていた。 もちろんミミの手作りである。 5歳ぐらいの少女であるミミがなぜ料理を作れるのかという事がライの疑問であった。 しかもライよりも料理が上手。 全くクラウスの身を案じていない巫女を横目に見て不安を覚えるパチリス。 この巫女、男っぽく見せている癖に結構頼りない。 方向音痴で世間知らず、腹黒く正義感の欠片もない。 先の事を考えず自分勝手で無責任であった。 オマケに本当は女の癖して貧乳である(そこは関係ない。) パチリスは巫女の悪い部分を思い出している間にミミが爆弾発言をした。 「お兄ちゃん。もしかして…女?」 「な、な、な、何言ってるの?あた…僕は男だよ!男ッ!」 ボロ出ましたよね!? 今あたしって言いそうになってましたよね! パチリスは巫女のピンチに助け舟を出そうとした。 がミミの方が早かった。 「女の人じゃないのー?椅子に座って足きっちり閉じてて姿勢も良いから女の人かと思っちゃった♪」 「あはっ。あはは〜」 確かに男装巫女は椅子に座って足を閉じている。 まるで女の人のようだった。(女です。) それとおまけに姿勢もマナーもバッチリ。 巫女の唯一の取り得はそこしかないのか。 一応お嬢様育ちなのでそこら辺のみはこの巫女にも出来るようだった。 世間知らずなのはさすがに旅する男装巫女としてはマズイですが…。 朝食を食べた巫女御一行は早速港に向けて出発した。 「気をつけてね。お兄ちゃん♪」 「うん。ありがとう。」 「大きくなったらお嫁さんになってあげる♪」 「…それはさすがにどうかと思うさ。ライは凄く腹黒で…いてっ!」 パチリスはライに叩かれた。 きっと今夜はチーカマは貰えない。 「それじゃ、また今度。」 「遊びに来てね〜♪」 パチリスを摘まんで町を後にした。 北にある港町に行くにはどうしても森を通らなければならない。 その森は人を惑わすと有名な森で一度入ると二度と出て来られないと有名だった。 しかしもう進むしかない。 何としてもクラウスを助け出すと巫女は固く決心していた。 一度言い出したら聞かないタイプである。 その為、その森で何があろうとかかって来いと言う気合で言った。 ちなみにパチリスは怖い怖いと五月蝿いのでボールに戻してしまった。 頼りになるドンカラスはいない。 パチリスとは出会ったばかりだ。 ライは森に入る前に深呼吸をした。 悪い噂が立つ森だ。 一応入る前は緊張する。 貧乳巫女はやっぱり怖い…と怖気付きながらも勇気を振り絞って入っていった。 薄暗い森…霧が出ている。 ライは自分の不安がこの霧だったりするんじゃないかと思ってくすっと笑った。 ヤミカラスが音を立てて森の木から飛び立ったのでびくっとした。 これでも一応警戒はしている。 霧が深くなったと思ったら突然クラウスと男装していない自分の姿が現れた。 もちろん男装巫女の目にはクラウスしか映っていない様子だ。 「クラウス!?無事だったのねっ!?」 思わず普段の2人だけの場合に使う言葉遣いになっていた。 一瞬の喜びももう一人の男装していない自分を見て消え失せた。 なぜ自分がもう一人いるのだろう。 この自分は幻? ならこのクラウスも幻? 「ふふっ♪クラウス。その子は偽物よ。」 もう一人の自分がくすくす笑う。 だんだん気味が悪くなって来た。 パチリスは怖がりだし、ここで出したら恐らくパニックになる。 ここで何とか出来るのは自分しかいない。 「ねぇクラウス。巫女はあたしだけだよね?」 「はい。」 楽しそうに笑うもうもう一人の自分に偽物なのか本物なのかよく判らないクラウスが答える。 「ならその子は偽物の巫女って事よね?」 「そういう事になるでしょう。」 え!待ってと叫びたいのを必死で堪える。 このクラウスはきっと偽物だ。 もしこの人が本物なら偽巫女と自分との区別が付く筈だ。 そう自分に言い聞かせた。 「やっちゃいなさい!」 「はい。巫女様。」 怪しい微笑みを浮かべてクラウスに命令する偽巫女。 逃げようとしたがこう言う時に足が竦んで動かない。 刃物が飛んで来る。 こんな危ない物こっちに向けんなよと強気でいようとするライは尻餅を着いた。 我ながら情けない。 泣きそうな顔をしながらもライは逃げようとしたが腰が抜けてしまったようで立てなかった。 「はいっそこまで〜!」 誰かの声がする。 幻だったのかあの2人は霧となったように消え去ってしまった。 誰かがこっちに近付いて来るのは判ったが何だかだんだん眠たくなって来たライはのん気にその場で寝てしまった。 ♪続く♪ |
エリリン | #6☆2007.12/03(月)18:52 |
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気がついた時にはベットの上だった。 何処かの建物のようだが見覚えがない。 何があったか全く覚えていないのだ。 しばらく辺りを見回していると少しずつ思い出されて行く。 確か…クラウスが捕まって助けに行こうと決心して家出して。 連れ戻されたりしないようにと男装までして… 「奇妙な噂が立つ森に入って偽者の僕とクラウスに襲われたんだ…」 「気がついた?」 ドアからひょっこり顔を出したのは見覚えのある人だった。 ライははっとした。 この人は確かリースの息子で名前がイージスだった筈。 正体を隠す為に男になりきらなければならない。 今の独り言が聞こえていたのではないかとオロオロしてしまった。 しかし、イージスの反応は普通だったので恐らく気がついていない。 よりによってなぜリースの息子が現れたのか… 「俺様はイージス。巫女ミルクの婚約者だ。」 いつの間にかイージスが自分の婚約者になっている。 巫女は勝手に結婚相手を決められていたとは知らなかった。 始めて知らされた巫女は驚いてしまって声が出なかった。 この事をクラウスにどう説明しようか今から悩んでいた。 勝手に決められたとはいえ目の前の婚約者に正体がバレたりしたら連れ戻されるだろう。 「巫女様の婚約者…?」 「ミルクさんが行方不明になった後に決まったぜぇー。クーリス様が決めたから俺様も逆らえねぇのさ。」 あの馬鹿オヤジ! 勝手に決められたのが許せない巫女は顔を真っ赤にさせた。 もう二度と帰ってきてやるもんか! イージスと結婚させられるぐらいなら駆け落ちしてやる! クーリスを恨んだ巫女の顔が物凄く怖かったのでイージスは震え上がってしまった。 「お前の名前は?」 「ライ。」 「んじゃライの事ガキって呼ぶ。」 「…悪いけど。僕もう行くから!」 イージスの態度に怒ったライは部屋から出て行ってしまった。 ガキと言われたのが気に食わなかったらしい。 しかし向こうから見れば身長小さいし、ガキにしか見えなかったのだろう。 それとあのイージスは女の人が相手の時と男の人相手の時と態度が全く違う。 前に遭った時はもっと丁寧で優しかったはずだ。 …ある意味リースにそっくりだなと思いながらも家(?)から出て行った。 ライが居た場所は港町だった…。 捕まったクラウスは場所は大間かにしか判らないが港町のある建物に居た。 今は弟のセレス(通称セレ)と二人きりだった。 全く会話のないこの二人はずっと黙っていた。 リープは今頃、買い物を楽しんでいるだろう。 「クラウス兄ぃ…何で奴等の味方するの?」 何も言わなかった。 聞いていないふりをしたクラウスを見たセレスはふくれたようだった。 今ならリープがいないから二人でゆっくり話せると思っていたが兄のほうが拒んだので全く会話にならない。 さっきから弟のセレスが頑張って話しかけていたのだがそれを全てクラウスは無視した。 元々、この二人は仲が良くない。 敵対しているから仕方がないと思っているセレスでもたまには甘えたい時がある。 「巫女側の味方したって無駄だよ。残りはミルクさん一人だし、ミルクさんはもうイージスと婚約してるんだよ。肝心なミルクさんは行方不明だけど。」 「それはどういう事だ!?」 思わず反応してしまったクラウスを見て笑いを必死で堪えるセレスはそんなにあの巫女が気になるのかと思った。 巫女の行方不明と婚約を知った兄の驚く顔を見て楽しんでいるセレスはそうとう酷い弟のようだ。 婚約の事を詳しく教えてあげるとクラウスは少し悔しそうだったが少し安心しているようにも見えた。 この婚約はクーリスが勝手に決めた事でミルクの意思ではないと知ったからだろう。 「ミルクさんが帰ったとしても強引にイージスと結婚させられるよ。」 「そうか。」 「…こっち側の味方になってよ。そして巫女様を攫えば巫女様はイージス何かと結婚せずにすむよ。」 ♪続く♪ |
エリリン | #7☆2007.12/07(金)21:07 |
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男装巫女ライはパチリスと共に広い港町で迷子になっていた。 実はこの巫女は極度の方向音痴。 だから広いお屋敷の中で遭難しないようにと普段はクラウスが傍にいたのだが、今回はパチリスと二人きり。 お腹を空かせた二人は町を彷徨う。 パチリスは空腹のあまり顔色が悪く元気がない。 それに負けずとライも歩く気力がない。 こんな調子の二人旅。 全く頼りないコンビである。 本当にクラウスを助ける気があるのかと思うほどやる気のない巫女は途中、パン屋を見つけた。 二人は目を輝かせてパン屋へと走った。 これもそれもご馳走に有り付くためためだ。 本気で走るライには人が出てきた事に気がつかなかった。 ドスンと凄い音と共にライは飛ばされた。 人と激突したらしい。 「危ないなあっ!前見て歩いてよっ!」 そう文句を言うライだが正確にはライからぶつかったのだ。 パン屋しか見えていなかったのもライ。 この事故の原因は全て男装巫女のせいだった。 しかしぶつかった人が優しかったのか尻餅をついた無様な格好のライに手を差し伸べた。 ぶつかった人の顔を見たライは思わずあっと言ってしまう。 「ぶつかって来たのはそっちではないのか?」 「○☆×△っ!?」 訳の判らない言葉を発してしまったライは目を丸くした。 巫女がぶつかってしまった人は捕まっていた筈のクラウス。 なぜ捕まった人がこんな所でウロウロしていたのか、この時はまだ疑問に思わなかった。 よく見るとアブソルもいる。 どうやらこのクラウスは本物のようだ。 目を丸くする男装巫女を見たクラウスはミルクだと気が付いているらしい。 愕然とするライのお腹がぐぅ〜と鳴ったのでクラウスが困ったような顔をした。 「私を助けにここまで来たのか?しかし港町で迷子になり空腹の状態で町を彷徨っていたらパン屋を発見したのだろう?」 「何で判ったのサ!」 「空腹のあまりパン屋しか見えず、本気で走っていたミルクは私に気が付かなかった…違うか?」 「そうだよッ!どうせあた…僕は方向音痴ですよーだッ!」 その後、アブソルは邪魔っ気にされ戻されてしまった。 パン屋へ向かう巫女御一行とクラウス。 ライはクラウスと合流したおかげでパンを買わせる事が出来た。 もちろん金を払うのはクラウスだった。 三人はベンチまで行って座って食べた。 凄い勢いで食べる巫女とパチリスを見てクラウスは微笑ましそうに見ている。 巫女は五分で十種類のパンを平らげた。 パチリスも負けずに小さい体で十分で二種類のパンを食べた。 落ち着いた後、やっとライはクラウスと話しが出来る状態になった。 二人で話がしたかった事もあり、男装巫女はパチリスを戻した。 「僕達が逃げた後、何が遭ったの?」 「セレスとリープがすぐに来て、時間稼ぎの為に業と捕まった。私が問い詰められてる内に逃げれるようにと…な。」 「怪我とかない?」 「大丈夫だ。その後、すぐに港町に連れて行かれたが、何とか逃げてこられたから町を散歩していたのだ。…そろそろ行くか。」 クラウスが立ち上がった後にライは聞こえるか聞こえないかの小さな声でありがとうと言った。 聞こえてないだろうと思った巫女でも少し顔は赤くなった。 巫女の行方不明から随分経っても巫女の足取りを掴めていないクーリスは焦っていた。 ミルクがクラウスの事を諦めるようにと説得した筈なのだがまだ諦め切れなかったようで家出してしまった。 捕らえられたクラウスなんか放って置いてイージスと結婚させる予定だったが肝心の巫女はすぐに消えてしまった。 まだ正式な巫女にもなっていないミルクは一体どこへ行ったのか。 巫女が行方不明の後に意見も全く聞かずにイージスとの婚約を勝手に決めたのが悪かったかなと今更反省している様子が遭ったが巫女は帰らない。 日に日にやつれるクーリスよりもクラウスの方が心配なリースも助けに行こうかと考え出している。 もしかしたらもうミルクと合流しているかもしれない。 もしも、クラウスか巫女が婚約の事を知っていたら帰って来ないのは確実だ。 恐らく、あの行動力だけある巫女ならばクラウスと駆け落ちするだろう。 それを何としても素子しなければならなかった。 巫女になれる最後の一人を失う訳にはこっちとしてもいかない。 「クーリス様。イージスと巫女様の婚約を解消した方がよろしいのではありませんか?」 「なぜ?」 「巫女様はクラウスと駆け落ちしますよ。」 「…あの二人はそこまで進んでおるのか。どこまで進んでいるのかね?」 「最後までですっ!」 その後、なにいぃ〜っ!と言うクーリスの怒りと悲しみの叫びが屋敷全体ら響いた。 リースは大胆な嘘をついた。 あの最後までとは嘘だった。 そうでも言わないとクーリスは婚約を解消しないだろうと思ったのだ。 クーリスがクラウスと会ったら即殴りかかるだろう。 「ミルクは…あんな無表情男が好みだったの!な、なら私も無表情に…」 間違った方向に進んだクーリスは無表情になろうと必死だった。 その様子を見たリースのラッキーは小声で言いすぎだと言って来た。 しかし、ああでも言わないと絶対この頑固オヤジは聞かないだろうと思ったのだから仕方がない。 リースの予想では恐らくあの二人は行動を起こしていない。 追うなら今のうちだ。 すぐにクーリスには秘密で荷造りに掛かった。 そして里帰りと偽ってクラウスに会おうと決心した。 ♪続く♪ |
エリリン | #8☆2007.12/07(金)21:08 |
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町を遭難していた男装巫女ライとパチリスはクラウスのおかげで何とか宿まで辿り着く。 運悪く一人部屋が一つしか空いていなかった為にライはクラウスと同じ部屋となる。 ライが文句を言うとクラウスは仕方がないだろうと言って宥ていたが逆に機嫌を損ねてしまった為、今は風呂に入っている。 あのパチリス。 確かオスの筈なのだが巫女と一緒に入っているのはなぜだろうとクラウスはずっと考えていた。 もしやライはあのパチリスをメスと…そんな訳がないと考えを改める。 考え事をしていたので背後に人が居ると気が付かなかった。 用心深いクラウスが気が付いていないのを良い事に現在は男装 をしていない巫女は驚かしてやろうと思った。 「くーらーうーすー♪」 床に座っているクラウスに大胆にも抱きついた。 「離れろ。」 うわっ機嫌悪っ!と思ったミルクはとっとと離れてそそくさと非難しようとした。 さっきまでは巫女の方が機嫌が悪かったのに今度はクラウスだ。 大した反応もなくただ離れろとだけ言った人にアブソルが話し掛けようとした。 ミルクが背を向けて外に出ようと思ってドアノブに手をかけた時だった。 さっき来た方向から悲鳴と凄い音がした。 慌てて振り返るとアブソルは気を失っていて、不機嫌なクラウスはアブソルを睨み付けていた。 どうやら不機嫌の原因はアブソルらしい。 アブソルを気絶させたのもクラウスだろうと思って恐る恐るクラウスの顔を見た。 なぜか機嫌が良さそうだ。 「アブソル君。大丈夫?」 「うっひぃーパチリスがいーっぱあい♪」 「駄目だこりゃサ…」 クラウスはアブソルを戻して時計を見た。 風呂上りのミルクは嫌な予感がした。 この時間ならたぶん寝るように言われると… 正直、ベッドが一つしかなくてどうなるのか不安なのだ。 もし二人で一つのベッドを使う事になったら… 考えただけで頭の中が真っ白になる。 ミルクがパチリスを抱いて一人顔を真っ赤にしていると予想通りの事を言って来た。 「巫女。もう寝ろ。」 「でもベッドが一つしかないんですけど?」 「お前が使え。」 「…クラウスは…?」 「床で寝る。」 巫女ミルクはパチリスを戻してベッドに入った。 ありがたくベッドを遠慮せずに使うミルクを横目で見ている人が。 寝入るのを待っている様子があるので巫女はそっちの視線が気になって寝られない。 寝たら変な事されるんじゃないかと警戒してしまう。 リースとイージスじゃないから何もしないと言い聞かせて寝ようとした。 警戒して最初は寝た振りをしていたが知らない内に寝入っていた。 床に座って寝たふりをしていたクラウスはさすがにもう寝入っただろうと思ったのか立ち上がった。 「やっと寝たか…」 巫女ミルクが寝息を立ててすやすや眠っているのを確認して部屋から出て行った。 その様子をベッドの下にいつの間にか隠れていたパチリスは見ていた。 クラウスがミルクに何か隠しているなとパチリスは考えて跡を追おうかと一瞬思った。 しかし、もし見つかったら怒られると思ったので大人しく寝る事にした。 リースの置手紙を読んで呆然とするクーリス。 「里帰りします。byリース」 こんな時に何て薄情者なんだ! ミルクもミリも誰も居ない。 すっかり一人ぼっちになってしまった。 「りいぃすうぅっッ!みんなしてなぜに一人にいぃっ!」 こんな緊急事態に里帰り。 クーリスはすぐに人を見つけてリースを見つけ出し、監視するように言った。 リースが裏切ったかも知れない。 巫女の行方不明に里帰りをする訳がない。 そう考えた。 部屋に戻ってきたクラウスは寝ている筈のミルクの声がしたので様子を見に行った。 巫女は魘される事が多い。 だから多少魘されていようとも慣れていたので気にならなかったが今晩は違った。 冷や汗まで掻いて酷く魘されていた。 これには少し驚いてさすがのクラウスも放って置いて寝る事が出来なかった。 手を握ると治まる事が多いとクーリスから聞いた事のでためしに握ってみた。 しかし、全く治まらない。 「巫女、起きろ。」 「やめてえぇッ!」 「ミルクッ!」 巫女は飛び起きた。 最初はボーっとしていたのですが辺りを見回して今、自分がどうな状況か確認した。 そして巫女ミルクはクラウスと目が合った瞬間に悲鳴をあげて片手でクラウスに枕を投げつけた。 見事に顔面に枕が命中。 これには握っていた手を離さざる負えなかった。 「馬鹿。出て行って!」 「判った。」 突然文句を言われ、クラウスは部屋を追い出されそうになった。 しかし、なぜか出て行こうとするクラウスの手を掴んでしまった巫女は顔を真っ赤にさせている。 「やっぱり出て行かないで。」 「ふふっ…」 「何その馬鹿にした笑いは!もう嫌いっ!」 「嫌いなら出て行くが?」 「う゛〜、一緒に居て。」 「素直でよろしい。」 そして結局、ミルクが寝付くまで手を離して貰えなかった。 ♪続く♪ |
エリリン | #9☆2007.12/07(金)21:10 |
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朝、ミルクは男装しなきゃと思ってベッドから飛び起きた。 寝惚けていた事もあり、時計を見たミルクは10時だ!っと勘違い。 またクラウスに怒られると思ったのだった。 巫女ミルクがドタバタ準備を始めようと部屋の中を歩き出した時だった。 ぐふっ!と言う聞き覚えのある声と何かを踏んだ感覚があったので顔を真っ青にして、恐る恐る足元を見た。 巫女は床で寝ていたクラウスの鳩尾を踏んでしまった。 「うわぁ…クラウス!しっかり!」 見事にやってしまった。 慌ててクラウスを揺さぶる。 踏まれた人は気を失っているようで全く動かない。 どうしよう…と目を泳がせていたミルクだったが冷たい水に浸けた布を顔の上に乗っけた冷たくて飛び起きるかもしれないと考えた。 慌てて水とタオルを用意したミルクは戻って来たのだったが。 転びそうになってうっかり水を入れた洗面器をクラウスの顔に落としてしまう。 洗面器は顔面に直撃し、水は零れてクラウスはビショビショ。 転びそうになったミルクは今度は何かに躓きクラウスの上に倒れた。 泣きっ面に蜂とはまさにこの事だろうなと巫女は思った。 うっと呻いたクラウスだったが目を覚まして自分の上に乗っかるミルクを見て驚いているような様子だった。 巫女は笑って誤魔化そうとする。 散々な目に遭った人物も笑い返した。 「なぜ私の上に…?それと濡れている気が…?」 「お、起きたらこうなってたの。あたし寝相悪いから♪」 笑いながら嘘を付くミルクは全て自分がやったとは言えなかった。 濡れているクラウスはミルクを降ろしてさっさと風呂に行ってしまった。 本人は何が遭ったのか覚えていない様子だったので巫女ミルクは安心した。 数分後、巫女は男装をして散々な目に遭った人を観察していた。 何か変だと違和感を覚えているクラウスは男装巫女を横目で見る。 「巫女。顔と鳩尾が痛いのだが…?」 「寒いのにそんな格好で寝ているからお腹痛くなったんだよ!顔はたぶん何処かに打ったんだ。クラウスったら寝相悪いんだねーっ!」 自分がやりましたとは言えずにあんな事を言う。 自分の寝相が悪いと言う自覚がないクラウス(寝相が悪いと言われた事がないらしい)は不満気な顔をして首を傾げた。 男装した巫女ミルク…男装巫女ライは不幸なクラウスの手を引っ張って外に出た。 これもそれもこれ以上何も言わせない為だ。 何とかこの事を忘れさせようと何を話そうかと考えている時に運良くリースが歩いて来た。 「あ、クラウス!っと…誰?」 「リースさん!ミルクです。」 「巫女様!?その格好は…?」 男装巫女ライの服装を見てリースは愕然とした。 まさかあの巫女がここまで(男装)するとは思わなかった。 無事のようで無事ではない(朝から散々な目に遭った)クラウスの様子を見て少し安心した様子を見せる。 しかし、突然リースは真剣な顔になった。 珍しくそんな顔をするもんだから男装巫女は少しドッキリした。 もしや連れ戻しに来たのでは…っと思ったからだった。 今帰ったらイージスと結婚させられる。 それだけは何としても避けたい。 リースが口を開いた。 「巫女様。これからどうするおつもりですか?」 「あたし…じゃなくて…僕は帰りません。」 「ならば帰る前に正式な巫女になるか?」 少し考えてライはクラウスをチラリと見た。 時間を引き延ばすのならクラウスの言う通りにした方が良い。 そして帰ってあの馬鹿を一発殴ってやろう。 ライは頷いた。 この時にリースは提案をしたクラウスに疑いの目を向けていた。 どう考えてもクラウスがこんな事を言うなんて変だった。 正式の巫女にする時期を早めるような事を言うなんてクラウスらしくない。 時期を早めようとすると言う事はミルクが巫女になるのを望んでいると言う事になる。 確か、クラウスはそれに反対していたはずなのに… 何が遭ったのだろうと考えるリースに男装巫女が話しかけた。 「リースさん。良いですよねー?」 「は、はい。巫女様。僕も着いて行くますから。」 「僕が男装してる時はライって呼んでネ♪巫女って言ったらぶっ飛ば〜す♪」 「はい…今すぐ船の用意をさせて頂きます!」 ライには頭が上がらないらしいリースはライに従った。 男装巫女ご一行はリースの案内で船着場まで行った。 船に乗るとリースが言っていたのでどんな船かと期待していたのだが。 連れて来られた船は超豪華客船。 リースの家が経営しているらしい。 驚きのあまり豪華客船をずっと見上げていたので首が痛くなった。 この船の様子からしてリースの実家は金持ちらしい。 男装貧乳巫女は横目でクラウスを見たが相変わらず豪華な船を見ても全く驚かない様子で腕を組んでいる。 「デカっ!こ、こんなのに乗るんですかー?」 「そうですよ。み…ライ…さん。」 リースに連れられて男装巫女ライとクラウスは船内の部屋へと案内された。 ご丁寧に一人一部屋用意してくれていた。 早速ライは自分の客室に入ってベッドにダイブした。 パチリスを出し、一緒にベッドの上でゴロゴロして遊ぶ。 これも高級ベッドのようでふかふかさが違うなと関心する。 今まで一般の宿や家に泊まっていたのでなおさら高級感を味わう。 きっと料理も美味しいのだろうなと期待に胸を膨らませる。 一番良い部屋をリースが三人分用意したとはライはもちろん知らない。 男装する巫女を気遣って船自体貸しきり、尚且つ人が通らない場所を選んでくれたりもしていた。 人が見らなければ別に男装しなくても良いのだから。 男装をやめていつものミルクに戻った。 「ミルクさま。とてもふかふかだよ〜♪」 「ふふっ。良かったわね。」 一人テンションがやたら高いパチリスはベッドの中に潜り込んで遊んでいる。 その様子を微笑ましく見ていたらドアが開いた。 ノックせずに部屋に入って来る度胸があるのはただ一人だと判っていたのでミルクは振り向く必要もなかった。 入って来た人がいつまで経っても何も行って来ないので気になって振り向いたら予想通りクラウスが立っていたが様子が変だ。 顔色が随分悪く今にも倒れそうだった。 どうやら彼は船に慣れていなかったようで出発前からもう船酔いになっている。 こんな調子で本当に大丈夫なのだろうか。 「…巫女…どうやら船に酔ったようだ…」 「だ、大丈夫?顔色真っ青よ?」 「…お、おえぇ〜…」 ちょっと!こんな所でもう始めないでよ!と言いたくなったが今はそれどころじゃない。 船に弱いらしいクラウスを客室のトイレまで誘導した。 そして慌てて部屋に戻って持って来た酔い止めの薬とコップ一杯の水を持ってトイレに戻った。 薬と水を手渡されたクラウスは早速飲みトイレの住民と化す。 ちょっと心配だったがさすがに色んなものは見たくなかったので何か遭ったら言ってねと言ってとっとと退散した。 トイレのドアと勢い良く閉めて溜息を付いた。 パチリスは遊んでいる内に寝てしまったようでベッドの方から寝息が聞こえた。 静かになったなぁと感じていたらトイレの方からクラウスの呼ぶ声が。 ミルクはトイレを覗いた。 想定外の展開にミルクは声が出なかった。。 「ミルク。薬が原因で…」 「クラウス〜ッ!?」 「おい、人の話を聞け。」 ♪続く♪ |
エリリン | #10☆2007.12/09(日)18:30 |
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想定外の光景を目の当たりにした巫女ミルク。 薬が原因でアレルギー反応を起してしまったクラウスがパチリスと同じぐらいの大きさになってしまった。 ミルクの目が輝いた。 小さくて可愛いものが大好きなミルクにとってアレルギー反応で小さくなった小人並の大きさクラウスは可愛く思えた。 「な、何だその目は…」 輝く巫女の目を見たクラウスは嫌な予感がしてたまらない。 巫女はチビクラウスを抱っこした。 「きゃ〜っ♪可愛い〜♪」 「ミ、ミルク!?」 興奮気味の巫女はこの船に医者が乗っていた事を思い出して医者の部屋へと向かった。 可愛いクラウスに興奮したミルクはノックを忘れて部屋に飛び込む。 医者でもリースは巫女に抱かれるクラウスを見て目を丸くした。 巫女に抱かれるクラウスを見て少し羨ましくなったリースは顔が少しにやけた。 自分も綺麗な女の人に小さくなって抱かれたいと思ったのだ。 っといってもリースには奥さんが居た筈なのですが…。 リースにクラウスを見せる巫女は全く心配していない様子で事情を話すだ。 「それにしても…一体何の薬だったんだい?」 「酔い止めだ。船が動き出す前に既に酔ったのだが。」 「巫女様。そのお薬を持って来て頂けませんか?」 「ええ♪」 巫女は部屋に薬を取りに部屋を出て行った。 リースは小人並の大きさのクラウスをみてにやっと笑った。 ここでも嫌な予感がする。 医者にがしっと掴まれたクラウスは頬を人差し指で突っつかれた。 こうして見ると結構可愛いなぁと思ってしまったリース。 ミルクがこの大きさだったら…っとアホ医者リースは変な妄想をする。 奥さんがこの大きさだったらと言う妄想をしないリースだった。 「やめろ。」 「それにしても随分縮んだな…声がそのままなのは萎えるけど…」 巫女が薬を持って戻ってきた。 薬を医者に渡した。 小人になった原因の薬を見てリースはにやけた。 これで自分もアレルギー反応を起したら小さくなれるかもと思ったのだ。 そして巫女に抱いて貰おうと。 全く卑しい男だった。 ラッキーがその薬を見て二人に向けて言った。 「薬の効果が切れたら元に戻りマス。心配ないデス。」 「そう…元に戻っちゃうの…(せっかく可愛いのに。)」 「(何だ!その不満気な顔は!)戻るのか♪」 ミルクは不満気な顔をする。 せっかく可愛いのに勿体無いと思ったのだ。 巫女はお礼を言って小人クラウスを抱いて部屋から出て行った。 その後、医者はラッキーの目の前で薬を飲んで見た。 ラッキーはその様子に目を丸くする。 まさか自分の主人が小さくなりたがるとは… しかし、いつまで経っても何も起きない。 アレルギー反応を起さなかったようだった。 ミルクに抱かれる特権を独り占めされるのはリースとしては許せなかった。 一度ぐらい小さくなった巫女に抱かれたいと言う願望は砕けた。 「リースサマ。奥様が…」 「ん?アルテがどうかしたって?」 「怖い顔でリースサマの背後に立ってマスっ!」 リースは恐る恐る振り向いた。 そこにはラッキーの言ったとおり。 アホ医者リースの妻、アルテの姿があった。 物凄い形相で睨まれたリースは穴が有ったらそこに逃げたい気分だった。 なぜこの船にリースの奥さんが居たのか。 その謎は解けない… 自分の部屋に戻ったミルクはクラウスをテーブルの上に乗せた。 戻ってしまうのは勿体無い。 だから小さい内に好きなようにしてしまおうという作戦だ。 しかもあの薬は24時間効く薬だったので一日中このままだ。 見詰め合う(正確には睨み合う)二人。 何となくクラウスは身の危険を感じる。 容赦なく巫女はクラウスを抱きしめる。 小人の特権です。 「クラウス♪可愛いっ♪一緒に寝ようねっ!」 巫女と一緒に寝る…。 この大きさだと寝相の悪いミルクに潰されかねない。 が今の巫女は聞く耳持たずだし目が輝いている。 断るのは何だか申し訳ないものがあったので頷いてしまった。 そこで地獄を見る事になるとは…。 ミルクは寝ていたパチリスを戻す。 本格的に寝るつもりだ。 このままだと寝相の悪い巫女に潰される。 今度は身の危険ばかりか命の危険まで感じた。 巫女はクラウスを抱いてベッドに入る… その夜。悲鳴が船中に響いた。 翌朝 目が覚めた巫女は愕然とした。 クラウスが元の大きさに戻っていた。 ご丁寧に床に座って寝てくれている…らしい。 しかし、寝ている様子がない。 顔を真っ赤にしたまま顔を抑えて俯いているクラウスを巫女はじーっと見る。 ベッドから降りて俯いてるクラウスの顔を覗き込む。 「だ、大丈夫!?凄い鼻血ッ!」 「(誰のせいだと思っているのだ!)平気だ。」 ♪続く♪ |
エリリン | #11☆2007.12/09(日)23:10 |
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目的地に着いたらしく、非常に慌しく出掛ける準備をした。 鼻血がまだ止まらないクラウスは無様にも鼻にティッシュを詰めている。 男装までしている巫女はそんなクラウスを見て何妄想してんだかと思っていた。 巫女はこの鼻血の原因が自分だと知らないらしい。 無責任腹黒貧乳男装巫女(長ッ!)ライはドアが開いたのに気が付いた。 部屋に入って来たのはイージスと小柄な男の子。 男の子が何となくクラウスに似ている様に見えた。 小柄の男の子はクラウスをじーっと見ている。 ライを見てイージスは大声で言った。 「お前はあの時の生意気なガキっ!巫女サマは何処だ!?」 目の前の男装した巫女ライしか目に映っていないイージスは失礼な事を言った。 それに腹を立てたクラウスが鼻にティッシュを詰めた状態でいつもよりも低い声で怒る。 「巫女にガキとは少しは礼儀を弁えろ。巫女ミルク・フェルリアはここだ。」 「このガキがあの綺麗な巫女サマ!?クラウスサマ、マジで言ってんの?(コイツ、鼻にティッシュ詰めてやがる…。)」 クラウスがイージスを睨み付けた。 睨み付けて来ると言う事は本当らしいと悟ったイージスは貧乳巫女に土下座した。 こうでもしないとクラウスの怒りは治まらない。 小柄な男の子がご丁寧に巫女にあいさつした。 「んーと。こんにちは、ボクはユフィアスです。」 イージスと違って礼儀正しい子だ。 巫女とクラウスはユフィアスと言う名前を聞いて複雑な思いだった。 複雑な思いながらもクラウスはつい聞いてしまった。 「年はいくつだ?」 「10歳です。」 「そうか。」 何を思ったのかクラウスの表情が急に優しくなった。 イージスは態度が急に変わったクラウスを見て首を傾げる。 いつもは無表情で何を考えているのか判らない人が突然、優しい笑顔を見せたのだから。 貧乳巫女はクラウスが目の前のユフィアスとあのユフィアスを重ね合わせてしまっているなと判っていた。 だからいつも自分にだけ見せる笑顔をつい見せてしまったんだと一人で納得していた。 クラウスが笑ったところを始めて見たイージスは何か災いが起きるんじゃないかと怯えた。 男装巫女ライの顔色があまりよくないと気が付いたクラウスはすぐに言った。 「巫女の具合が悪いので今日はお引取り願いたい。」 「でもボクにとっては大切な用件が…」 「それならば私が後で聞こう。」 「は、はい。」 「…チッ!出て行きゃ良いんだろ!」 イージスはさっさと出て行った。 クラウスにしては珍しい対応の仕方だ。 だがユフィアスはずっとクラウスの顔を見ていた。 いつまで経っても出て行かない。 「まだ何かあるのか?」 「い、いいえっ!ただとても綺麗な人だなぁって…あわわっ!な、何でもないですっ!えっと、失礼しました〜っ!」 ユフィアスは慌てて出て行った。 褒められる事に慣れていないクラウスは顔を真っ赤にして照れている。 そんなクラウスが可愛いと思った巫女は体調が優れないにも関わらず無理して笑った。 笑っていたつもりだった巫女だったがクラウスにはそんな事お見通しだった。 無理やりベッドに運び、巫女を寝かせた。 「大丈夫か?」 クラウスが男装巫女ライの額に手を乗せた。 「熱があるな…。」 「ごめんね。あたしに守れる力があればユフィアスは奪われなかったのに。」 「悪いのは私だ。安全な場所と言っておきながらもお前とユフィアスが危険な目に遭った。私が傍にいなかったのも失態だ。」 訳ありな二人は自分だけを責めて互いに責め合わなかった。 10年前、リープがミルクに対しての復讐が全ての始まりだった。 13年前からミルクがクラウスの家に勝手に住み着いていた。 屋敷と違って警備の目がない事もあり、リープは復讐を果たすチャンスだと思った。 その時、ちょうど子供も出来て結構幸せそうな生活をしていた。 ある日、リープに訳の判らない罪を擦り付けられたクラウスが追われる身となってしまった。 元々人が集まる所が嫌いだったクラウスは森の中とか静かな場所を好んだ事もあり、そう簡単には居場所が知れないと油断していた。 それが裏目に出てクラウスを捕らえようとする者達が森の中を探しに来た。 アブソルが気が付いたおかげでクラウスはミルクとユフィアスを安全だと思われる場所まで逃がせた。 そして二人を守ろうとクラウスが二人を隠した場所から遠くに離れた。 ドンカラスだけが頼りだったミルクはクラウスに言われたとおりに大人しくしていた。 しかしクラウスの跡を既に着けていたリープは二人を見つけ、恨みから幸せを壊そうとユフィアスだけを強引にミルクから奪って逃げたのだ。 もちろんミルクは傷だらけになって倒れて動けなくなるまで抵抗した。 しかし守られるだけだったミルクがドンカラスとどんなに抵抗してもデンリュウと共に不気味に微笑むリープに勝てる訳もなかった。 クラウスが戻った時には全てが終わったでミルクが傷だらけで倒れていた。 擦り付けられた罪はミルクが族長の娘としての権力(?)を使って何とかしてくれたが、心の傷が深いミルクはそれから一年間は常に熱を出して寝込んでいた。 今では魘される程度になった。 「巫女。少し行って来る。」 巫女は頷いた。 クラウスがいなくなった事を良い事にベッドの中でひっそり泣いた。 クラウスの事を綺麗だと言ったユフィアスは客室でずっと待っていた。 もちろんクラウスをだった。 何となく懐かしい感じがする人だなぁと思っていた事もあり。 何か手掛かりになる事を知っているかもと思ったのだった。 イージスはクラウスが嫌いだからと言って出かけている。 だから今はユフィアス一人だ。 ノックをする音が聞こえる。 慌ててユフィアスはドアを開けた。 クラウスを部屋の中に入れる。 「用件と言うのは何だ?」 「実はボク、捨て子で両親を探してるんです。だから何か知っていたら教えて欲しいなぁっと。」 捨て子と聞いてもしやと心の中で思った。 そんな訳がない。 期待するなと自分に言い聞かせる。 「…全く覚えていないのか?」 「はい。ボクを育ててくれた人によるとボクは赤ん坊の時に傷だらけで道端に捨てられてたらしいです。」 「名前はなぜ判った?」 「服の裏にそう刺繍されていたんです。」 服に刺繍。 それならミルクが不器用ながらも必死にやっていた。 でもそんなの偶然だと自分に言い聞かせる。 「刺繍か。その服は持っていないのか?」 「持っていません。」 「それ以外に手掛かりは?」 「ペンダントです。たぶんお母さんの形見だと…」 「!?」 クラウスはペンダントを見て驚いた。 それは恐らくクラウスがミルクにあげた物でミルクがユフィアスに持たせた物だった。 偶然とは割り切れずに居た。 始めて見た時に面影があるなとは思っていたがまさか本当に…。 でも自分には本当の事を言う資格がないと自分に言い聞かせ。 絶対に何も教えまいとした。 「手掛かりはそれだけです。」 「何も判らないな。そのペンダントも見覚えがない。」 「そうですか。」 ユフィアスは残念そうな顔をしている。 偶然とは言え、せっかく10年ぶりに会えたのだから… 「あと、敬語でなくとも良いぞ。」 「え。で、でもぉ…」 「遠慮するな。それぐらいで怒らん。」 「うんっ!改めてよろしくネ♪」 クラウスは気が付いていてもユフィアスは気が付いていない。 ミルクにこの事をどう報告しようか迷った。 ♪続く♪ |
エリリン | #12☆2007.12/09(日)23:10 |
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クラウスが戻った時にはパチリスが大慌てしていた。 訳を聞くと巫女が高熱を出して苦しそうにしているらしい。 それを知って慌ててクラウスが洗面器とタオルを用意した。 ベッドまで行ってみるといつの間にか男装をやめたミルクが顔を真っ赤にして苦しそうに息をしている。 咳き込みながらも起き上がろうとした。 「無理をするな。」 「これぐらい平気だから。」 「駄目だ。病人は大人しく寝ていろ。」 「そうサ!寝てないと治らないサっ!」 「またクラウスに看病させる事になるから。それにクラウス、全然寝てないでしょ?いつもあたしが寝ている傍で見張っててくれてるでしょ?」 ミルクに気付かれないように寝たふりをしていた事がもうバレてしまっていた。 全く寝てないと言う訳でもない。 転寝をしていて足音や物音がすると起きるだけだった。 船に乗っていても、夜中に何度かリープが巫女を狙って部屋に忍び込んで来ていた。 その度にクラウスがアブソルとピジョットが毎日交代で撃退する。 アブソルとピジョットは交代しているがクラウスはずっとだった。 何も言われないから気が付いていないと思っていたが甘かった。 巫女は知っていて何も言わなかっただけだった。 いつも守られてばかりと悔やんでいたミルクとしてはもうこれ以上迷惑を掛けたくないと思っていた。 凄い勢いで医者であるリースが飛び込んでくる。 「巫女様!お逃げ下さい!ウェムル達です!」 「ミルク様は高熱で動ける状態じゃないのサ。」 「クラウス。出来るだけ巫女様を連れて遠くへ。こっちにはアルテもイージスもユフィアス君も居る。僕達が何とかするよ。」 「判った…ミルク、立てるか?」 巫女はゆっくりと立った。 目眩がしてふら付いて倒れそうになる。 倒れかけた巫女の体をクラウスが支えた。 今のミルクでは走るどころか歩くのも大変そうだった。 足元がふらついていて危険だった。 ミルクはパチリスを戻す。 クラウスは巫女の手を引っ張って走った。 ミルクはクラウスに走るのが辛いと言う事がバレないように必死で走った。 激しい目眩でミルクが倒れた。 「ミルクっ!?」 「へ、平気。大丈夫だから。」 「巫女が居たぞーっ!」 もう見つかってしまった。 クラウスは巫女を背負って走った。 ミルクの体は随分熱くなっていた。 急いでクラウスはアブソルとピジョットを出した。 追ってを二匹に任せてクラウスは巫女だけを連れて走る。 巫女はクラウスの背中でぐったりしている。 リープがデンリュウと共に待ち伏せをしていた。 「あら、ここに居たのね。巫女を渡して貰いましょうか?」 クラウスは巫女を降ろした。 今はアブソルもピジョットもいない。 クラウスが何とかするしかない状況だ。 残念ながら巫女のパチリスとドンカラスは戦った事がなかった。 「渡してくれないの?この裏切り者が…デンリュウ!」 「ミルクっ!危ないっ!」 「うわぁ…」 クラウスが巫女の上に覆い被さった。 デンリュウのアイアンテールがクラウスの背中に当たる。 小さく呻く声が聞こえた。 巫女ミルクはどうすれば良いか考えた。 このままだとまた十年前と同じで守られてばかりになってしまう。 「何で巫女なんか庇うのよ!やっぱり裏切り者なのね!もっとやりなさい。」 「やめなさいッ!あたしを連れて行けば良いでしょ!」 「でもそれだけじゃあねぇ…デンリュウ!」 「もうあたしから何も奪わないでッ!クラウスまで奪わせないッ!」 巫女は紙を出した。 何を考えているのか全く判らないリープは笑った。 「ふふ…そんな紙切れ数枚で何が出来るの?」 馬鹿にしたような笑い。 クラウスは紙に書かれた文字を見た。 「ミルク。それは…」 「あたしは形だけの巫女だからこれを使うの。いつもクラウスに守られてばかりだから今度はあたしが守るね。」 巫女は紙に願った。 その様子はミルクにしては巫女らしい姿だ。 リープが馬鹿にしてデンリュウに巫女に電撃を撃つように言った。 クラウスがそれに気が付いてまた巫女を庇おうとした。 しかし突風と共に現れた始めてみる者に驚かされる。 北風に揺れる青い髪に風に靡く白いヒラヒラ。 リープが目を丸くした。 「嘘。何でこんな巫女にスイクンなんて!デンリュウ、巫女よりもクラウスを狙いなさい!」 風が舞う。 デンリュウはすっかり怖気づいていた。 巫女ミルクはクラウスの左手を握った。 「スイクン。リープとデンリュウが動けないように足だけ氷らせて。」 優しい巫女は足だけ氷らせるように言った。 スイクンは巫女の言う事を聞いて足だけ氷らせて動けないようにした。 それだけにして巫女はスイクンの背中に乗せてくれるように頼んだ。 クラウスが怪我をしているからだった。 巫女の配慮のおかげで楽が出来た。 二人はスイクンに乗って船の外へ出て森の中に逃げ込んだ。 巫女はお礼を言ってスイクンに帰って貰った。 「ミルク、ありがとう…ミルクっ!?」 巫女が倒れた。 高熱の中、怪我をしたクラウスの代わりにスイクンを呼び出してまでしたのだから当たり前と言えば当たり前だった。 ♪続く♪ |
エリリン | #13☆2007.12/10(月)22:44 |
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大きい水が澄んだ湖。 雲一つない広い青空。 森の中に居た筈なのになぜか湖にいた。 水が澄んだ湖にはさっき助けてくれたスイクンがいる。 スイクンを中心に風が舞う。 葉が舞い上がる。 風が巫女を誘う。 ―北風に誘われし風の巫女よ 「風の巫女ってあたしの事を言ってるの?」 どうやらスイクンが話しをしているらしい。 ―風よ。この場所まで来なさい。 「風って…どういう事?」 ―前は火炎の代。あなたは風だから風の代。 巫女にもいろいろ種類があるらしい。 ミルクは風でその前の人は炎。 どういう基準で決まっているのかは不明だが自分は風の代と言う事が理解出来た。 そう言えば前の代の巫女はスイクンではなくファイヤーだったとか。 ―必ずここに来なさい。我が北風よ。 「んー、よく判んないけど。とにかくここに来れば良いって事?」 ―全ては風が導く。 なぞなぞっぽいなと感じたがそれ以上は何も言わなかった。 気が付いたら野宿をしていた。 空を見上げたら木の葉が見える。 ここは森らしい。 何が何だか判らない巫女は辺りを見回した。 火が焚いてある。 毛布はクラウスが何処からか持って来て掛けてくれたのだろう。 肝心のクラウスは起きているだろうなと思ったら転寝をしていた。 今ここで動いたら足音でクラウスが起きる。 起したくなかった巫女はまた寝ようかなと考えた。 「起きたか?顔色が良くなったな。」 「うん。クラウス、ここら辺に水が澄んでいて綺麗な湖ってない?」 「急にどうした?」 「何となくってヤツ。」 「ない事もない…そう言えば巫女。風がどうこうと言っていたぞ。」 ドッキリして巫女は赤を真っ赤にさせた。 寝言だろう。 それはさっきの夢の。 こんな夢を見たって言ったらきっと笑われると思って誤魔化す。 「それよりも!怪我、大丈夫?」 「平気だ。お前こそ熱は?」 「もう大丈夫…クラウス、ちゃんと寝てね。」 「判った。おやすみ。」 「うん。おやすみ。」 巫女は再び寝た。 そしてまた同じ寝言を繰り返す。 あたしは北風…っと。 巫女に寝るようにとは言われたが寝なくても大丈夫だろうと思ってずっと寝言を聞いていた。 どちらかと言うと聞いていたと言うよりは確認していたと言った方が正しい。 本物の巫女の血族なのか。 この代の巫女は何なのか。 全て寝言で判るらしい。 北風がどうこうと言っている事から今回の代は風だと判る。 風の代の巫女だと判ったら報告しようとした。 ところがミルクへの想いが裏切りの意志を妨げようとする。 しかし向こうから聞きに来た。 「クラウス兄ぃ。判った?」 「この女は確かに巫女の血族。間違いない。証拠としてスイクンを呼び出した。」 「質も今までの巫女よりも良いみたいだし。」 「風の代の巫女だ。」 「よく手袋の下に隠しててよく正体、バレないなぁ。」 「燈台下暗しだ。」 「後は正式な巫女にするだけ…か。それじゃあ。」 セレスは帰って行った。 風の代の巫女ミルクはすやすや眠っていた。 ウェムル派か巫女派のどちらの味方か判らないクラウスは丁度中立の立場に居た。 クラウスとしてはどちらに疑われても裏切り者だと言われても構わない。 自分の意志を貫き通すだけだった。 もうリープに裏切り者だと思われている。 リースにも疑いの目を向けられている。 そんな事にもう気が付いていたが巫女ミルクは全く疑いもせずに無邪気にまだ信じている。 巫女が知らないだけで裏切っていたのに。 そんな事を考えているとアブソルとピジョットが戻って来た。 二匹を戻して再び巫女を見守った。 朝 巫女は目を擦りながら起きて来た。 クラウスの顔を見て突然、怒り出す。 寝ていない事がバレたらしい。 「また寝てないでしょ!?」 「何の事だ?」 惚けてみる。 何でこうも寝ていないと判るのかが不思議だった。 目の下に隈が出来ている訳でもないのに。 それとも巫女の方が寝たふりをして見ているのか。 それだとしたら裏切ってる事ぐらい気が付くはずだ。 なのに全くそんな事知らない様で寝てるか寝てないかしか気にしていない。 これも風の代の巫女だからかと思った。 「疲れてるでしょ!きちんと寝て!」 「疲れていない。そんな事よりも今は湖が先だ。」 「じゃあ湖まで連れて行ってよッ!」 膨れた巫女が乱暴に言い放つ。 「場所を知らないのだが…?」 二人は湖の場所を知らない。 夢で風が導くと行っていたが風一つ吹かない。 この状態で一体どうやって探せと言うのやら。 二人は途方に暮れた。 巫女が困っていると一匹のウィンディが走って来る。 風が導く…風…ウィンディの事だ。 ウィンディが導く。 そう言いたかったに違いない。 予想通りウィンディは巫女の目の前でとまった。 「巫女よ。乗りなさい。」 「クラウス。行こうっ!」 「乗るのか?」 「当たり前でしょ!」 二人はウィンディに乗った。 走るのがとても速い。 クラウスの前に座る巫女は機嫌が良さそうだった。 裏切っていると知ったら何と言うだろう。 この巫女は悲しむだろうか。 怒るだろうか。 やっぱりねと言うだろうか。 嫌われるだろうか。 少し不安でもあった。 無邪気に人を信じる風の代の巫女。 この後、利用されているだけだと知って傷ついて泣くだろう。 「ほら、クラウス!湖が見えて来たよっ!」 巫女ミルクが笑う。 はしゃいでいる。 相変わらず嫌悪感を感じない。 正式に巫女となるのが近いと知ってクラウスは浮かない顔をしていた。 巫女ミルクはそれに気が付いて慌てている。 「どうかした?あたし、何か悪い事言った?」 「何でもない。気にするな。」 ウィンディから降りた。 青空が曇る。 この時が来てしまった。 巫女への裏切りの時。 ここまでは計画通りだ。 ミルクへの想いが最後まで裏切りに反発する。 「見て!水が澄んでる!」 「そうだな。」 クラウスにはこの水が澄んでいるようには思えない。 湖の中心で風が渦を巻くように流れる。 葉が舞う。 木が揺れる。 湖の波紋が広がる。 無邪気な風が振り返って笑った。 ♪続く♪ |
エリリン | #14☆2007.12/10(月)22:47 |
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ミルクが湖の水に手だけ突っ込んでいる。 もし湖に落ちたらと思って心配で目が離せない。 これぐらいではしゃぐぐらいだから海に連れて行ったらもっと喜びそうだ。 深い湖では危険で水遊びが出来ない。 なぜ巫女が湖に行きたがったのか判らないでいた。 でも恐らくここにスイクンが住んでいるのだろう。 風の代の巫女だ。 北風の化身に呼び出されても不思議ではない。 クラウスが巫女の観察をしているとリース達が走ってきた。 二人きりの状態でミルクが正式な巫女になってしまえば攫う事だって簡単だったのに。 ユフィアスがクラウスを見つけて笑う。 笑顔が巫女ミルクにそっくりだった。 「クラウスサマぁっ!捜したじゃねぇかよっ!」 イージスが不機嫌そうな顔をする。 不機嫌なイージスをリースが慌てて宥める。 こうでもしないとずっと怒ったままらしい。 今日は珍しくアルテも一緒のようでご丁寧に今、巫女に挨拶をしている所だ。 ユフィアスが恥かしそうにモジモジしながら話し掛けてきた。 「あ、あのぅ、名前を聞いてなかったなぁーっと…」 「まだ言ってなかったか?」 「う、うん。」 「私は」 自分の名前を言いかけた所だった。 巫女ミルクの呼ぶ声で掻き消された。 水を触って遊んでいた筈の巫女がなぜか呼んでいる。 さっきからミルクは何回も呼んでいたのに全く気が付かなかった。 慌てて声がする方を振り返って巫女を目で探した。 こっちに来てと手招きをしている。 まだ話に途中なのにと思いながら慌ててユフィアスに名前だけでも教えてしまおうと考えた。 「私はクラウス。」 「クラウスさん?」 「呼び捨てで良い。とにかく巫女が呼んでいるからもう行くぞ。」 「う、うん…。」 走って巫女ミルクが待つ所へ行く。 何も言わずに巫女がクラウスの腕を掴んで森の中へと引っ張っていった。 なぜ態々こんな所に連れて来たのか判らないクラウスは巫女が言いたかった事が全く判っていない。 巫女ミルクは花畑まで引っ張って行った。 これを発見したから呼んだ。 ただそれだけのようだった。 巫女はクラウスを座らせた。 「今日こそきちんと寝て!あたしが見張っててあげるからっ!」 拒否権はないと言うに巫女はどーんと構えている。 巫女はクラウスがユフィアスと話をしている間、ずっと人がいない静かな場所を探していた。 物音ですぐ起きるクラウスは人が居ると寝れないだろうなと言うミルクの気遣いだった。 今は昼間。 せめて昼寝でも良いから寝て欲しいと思っていた。 正直、クラウスとしては一見頼もしそうな巫女を見て本当に大丈夫なのだろうかと心配だった。 ミルク一人では何も出来なさそうだ。 前回、巫女ミルクに助けて貰ったと言っても不安には変わりがない。 「あたしじゃ信用出来ない?」 「正直、不安だ。」 巫女が泣きそうな顔をする。 そこまで信用が無くて頼りなかったんだと弱々しい声で言われる。 さすがにこれだと本当に泣かれてしまう。 今ここで泣かせるとリースやイージスに酷い目で見られる。 そして女の子を泣かせたと一生の弱みを握られる。 「判った。ただし、何か遭ったらすぐ起せ。」 「うんっ♪」 巫女はパチリスを出した。 クラウスが寝ている間にパチリスと遊ぶためだった。 パチリスと花を摘んだ。 摘んだ花にリボンを巻く予定だ。 これをスイクンにあげようかなと思っている。 眠れないでいたクラウスは花を摘む様子を見てもしかしたら自分にくれるのかも知れないなと期待していた。 実はこの花束のスイクンになのですが。 集めた花の茎にリボンを巻く巫女とパチリス。 仲が良さそうだ。 花束が出来たところでスイクンを呼び出す。 巫女が花束を渡す。 ―どうもありがとう。風の巫女 「北風さん。たてがみに花をつけたら綺麗だと思うよ。」 ―き、北風さん!?まあ、良いですけど。 スイクンの声は巫女にしか聞こえていなかった。 クラウスは傍から見ていて巫女が一人で話をしているように感じる。 巫女がスイクンのたてがみに花をつける。 ミルクが微笑んだ。 ―風の巫女よ。そこの男に気をつけなさい。 「え…?」 ―通常の気配がしない。巫女に近いような…そんな気配がするのです。 「それってどういう事?」 ―少なくとも普通の人ではありません。気をつけなさい。 そう言ってスイクンは帰った。 巫女は何を言っていたのか理解出来なかった。 クラウスから通常の気配がしない。 普通の人ではない。 巫女が動揺しているとパチリスがお腹が空いたと言った。 巫女はパチリスを戻してクラウスの方を見た。 まだ起きているのを見て巫女はクラウスの隣に座った。 「眠れないの?」 頷いた。 一瞬、スイクンが言っていた事を思い出す。 普通の人ではないと言われた事。 そんな筈がない。 クラウスはどう見ても普通の人だ。 もう悪い事は忘れようと思った。 きっと勘違いだと自分に言い聞かせた。 「子守唄、歌ってあげよっか?」 「歌えたのか?」 「失礼ね!あたしだって歌えるんだからっ!」 巫女が歌い始めた。 意外にも才能があるようで歌が上手だった事がクラウスを驚かせた。 巫女が歌い終わった時にもクラウスが寝付けないでいたのが巫女を怒らせた。 最終手段と言わんばかりにポケットから草を出してクラウスに手渡した。 甘い香りがする。 すぐにクラウスはくたりと寝入ってしまった。 疲れている人を強引に寝かしつける方法をリースから教えて貰ったのだった。 それがこの草。 疲れている人がこの匂いを嗅ぐとすぐに眠くなるらしい。 疲れているほど効果があるとか。 自分まで寝てしまわないようにすぐに草をポケットに押し込む。 「本当は疲れてたのね。」 クラウスは巫女の隣で寝息を立ててぐっすり寝ていた。 久しぶりに寝顔を見て相変わらず寝顔だけ幼いなと思って眺めていた。 頬を人差し指で突っ突いてみる。 珍しくそれでも起きない。 今なら何をしても起きないかなと思った巫女は大胆にもクラウスに寄り掛かった。 こんな事を屋敷内や人前でしたら大騒ぎだ。 それだけでも物足りなくて巫女はクラウスの手まで握った。 「クラウス、いつもありがとう。」 巫女は一人顔を真っ赤にさせていた。 既に巫女は「風の巫女」である以外に「無責任腹黒貧乳男装巫女」と言う汚名があった。 このまま「クラウス大好き!」まで手に入れてしまうのだろうか。 ♪続く♪ |
エリリン | #15☆2007.12/10(月)22:48 |
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気が付いた時には夜になっていた。 クラウスに寄り掛かったまま寝てしまったようだった。 辺りを見回すとリースやユフィアス、イージス、アルテの四人がじーっとこっちを見ている。 顔を真っ赤にした巫女はクラウスの顔を見た。 クラウスの方が起きるのが早かったようだったが。 この人もまた顔を真っ赤にしている。 どうやら見られてしまったらしい。 身に覚えのない筈のクラウスは慌てて手を離し、早口でもごもごと何かを言っている。 ぼやっとしていた巫女も慌ててクラウスから離れてオロオロしてしまった。 「クラウスサマよぉ!俺様の婚約者に何してんだよぉ〜ッ!」 イージスが地団駄踏む。 最初に寝ている事を良い事に好き放題していたのは巫女ミルクだった。 「巫女様に手出しするなんて抜け駆けだっ!」 何か間違っている方向性の発言をするリース。 このアホ医者には奥さんのアルテがいるのですが。 「寝ていたミルクちゃんの許可なしに何してたの!?」 アルテは巫女を全面カバー。 寝ているクラウスに許可無くいろいろやっていたのは巫女の方だった。 しかし、全てクラウスが悪いという態度を取るアルテ。 「クラウスが巫女様の事が大好きなんて知らなかったヨ。」 ユフィアスの気にするところが違う。 二人は顔を真っ赤にして互いの顔を見た。 そんな時だった。 巫女を狙ったウェムルの手下達が突然現れ、六人を囲む。 クラウスはすぐに巫女ミルクを自分の背に隠し、アブソルとピジョットを出す。 ユフィアスもそれに倣ってヒノアラシを出す。 リースはラッキーとトゲキッス、アルテはピッピ、イージスはムチュールを出して対抗しようとした。 大して何も出来ない巫女ミルクはクラウスの後ろに引っ付いてるだけだった。 次々に現れる黒い人影が襲い掛かる。 巫女が気が付いて叫ぶ。 「皆!あれはただの操り人形よ!たぶん倒しても倒しても起き上がるから相手にするだけ無駄だよ。」 「限がねぇよっ!」 「下がりなさいッ!ピッピ。全てを氷らせなさい!」 ピッピの冷凍ビームで辺りが氷った。 やっと人形が全て倒れたかとほっとした時だった。 一度に全ての人形が起き上がった。 六人は驚いてまた命令を出しながら自分達でも人形を殴ったり燃やしたりした。 全員疲れて来ていた。 唯一元気なのは守られていた巫女だけだ。 巫女守りながら命令を出し、自分に襲い掛かってくるシツコイ人形を殴っていたクラウスは巫女ミルクに気を取られていて襲われかけている事に気が付いていなかった。 「クラウス!」 「!?」 巫女が叫んだ。 叫んだ後に無意識に自分でもよく判らない言葉を発していた。 突然の強い突風に人形達が吹き飛ばされる。 何が起きたか理解できない六人は唖然とした。 人形達が全部飛ばされて行った。 自分が小声でボソッと言葉を発していたとは知らない巫女は首をかしげた。 「何だったの?あの突風は?」 「不思議だわ…。」 「クラウスサン。その怪我大丈夫デスカ!?」 「問題無い。」 ラッキーが怪我をしたクラウスに話しかける。 慌ててラッキーが卵を産んでクラウスに食べさせた。 それで傷が癒えるのだからある意味凄い卵産みの威力である。 落ち着いた所でアブソル達をそれぞれが戻した。 それからすぐに湖の方へ戻ろうと言う事になって六人は歩き始めた。 歩いている途中、クラウスが巫女に話しかけて来た。 「巫女。」 「どうしたの?」 「これを…」 「わあーっ♪ありがとう!」 クラウスらしくもなく顔を真っ赤にして花束を渡す。 巫女ミルクは手渡された花束を喜んで受け取った。 巫女はご機嫌そうに笑う。 その笑顔が裏切っているクラウスを悩ませる。 ここで巫女が「こんなのいらない」と言って花束を投げ捨ててくれたらどんなに楽だかと考えしまう。 しかしどう考えても優しいこの巫女がそんな事をする筈が無い。 悩んでいたクラウスの気も知らないで巫女はいつものように振舞う。 「巫女。髪に花をつけたらどうだ?」 「え?ちょ、ちょっと…」 クラウスが巫女の髪に花をつける。 巫女はオロオロしていた。 人前で突然こんな事をするなんて本当にクラウスなのか考えしまう。 ユフィアスが話に入って来た。 「あっ。ミルクさん可愛いーっ!」 「そ、そう?」 「クラウスサマっ!俺様の婚約者にまたっ!?」 怖いほど低い声でイージスにしか聞こえないようにクラウスが言う。 「黙れポンコツ。お前が巫女に近付く資格はない。」 「くっそおぉっ!自分がちょっと綺麗だからってこの野郎っ!」 もはやちょっとどころじゃなかった。 その事実を認めたくないだけにイージスはクラウスに反抗した。 ♪続く♪ |
エリリン | #16☆2007.12/15(土)21:17 |
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六人は湖に戻って来た。 道に迷ったりしたおかげでもう夜明けだ。 天気が良く、北風が吹いている。 巫女とユフィアスは二人してクラウスをじーっと見ていた。 クラウスの顔には出ていなかったが決断をしたがまだ何か迷っている事が何となくこの二人には伝わっていた。 風が湖の中心に集まる。 風が集まる所にスイクンが現れた。 巫女とクラウス以外の四人は目を見張った。 始めて見たのだから驚くのも仕方がない。 四人は巫女ミルクの後ろでコソコソ話をしていた。 相変わらず優雅に現れたスイクンは巫女に言った。 ―ようこそ。ここの風景を楽しんで頂けました? ユフィアスはポカンと口を開けた。 巫女だけでなく、ユフィアスにもスイクンの声が聞こえていたのだ。 他の四人にはもちろん聞こえていない。 この時、クラウスが複雑そうな様子だった。 裏切りを決心してもまだミルクへの想いが妨害してくる。 「とても綺麗な所ね。」 ―そうでしょう?ここは風が集う場所。今から正式な巫女になって貰います。試練を乗り越えなさい。 「どんな試練なの?」 ―それは秘密です。覚悟は良いですか? 「うん。」 ―それでは一番風を想う者も一緒に連れて行きます。 突然、巫女とクラウスが倒れた。 何が起きたか判らない3人はスイクンに向かって怒った。 ユフィアスは話を聞いていたので何となく予想がつく。 イージスが二人に何をしたんだ!と言い出した。 スイクンはそれに答えていたがもちろんイージスには声が聞こえていない。 だからユフィアスが通訳をして3人に訳を話してあげた。 これは試練状態だと言う事や試練の詳細を詳しく。 気が付いたら巫女とクラウスは洞窟の入り口にいた。 さっきまで湖に居た筈なのにと巫女が首を傾げる。 事情などを既にセレスから聞いていたクラウスは何が起こるかほどんと知り尽くしていた。 今、巫女ミルクにそれを教える訳にもいかず北風のスイクンの説明を待った。 ―さあ、穏やかな春風よ。この洞窟の奥に居る我に会いに来なさい。 今回の声はクラウスにも聞こえていた。 巫女ミルクとクラウスの二人は言われるとおりに洞窟の奥へ進んだ。 この洞窟はやけに寒い。 奥から冷えた風が吹き込む。 服の関係で素肌を晒す巫女は見ているだけで寒そうだった。 巫女ミルクが氷っている地面に一歩踏み出した。 パキッと足元で嫌な音がした。 氷の下が水だと知っていたクラウスが来た方向に巫女を押し倒した。 割れた氷が水に沈む。 随分深そうだ。 巫女は冷や冷やした。 「大丈夫か?」 「ありがとう。水の中に落ちてたら今頃溺れてたかも。」 こんな時でも巫女は笑えない冗談を言う。 クラウスはアブソルを出した。 そしてとんでもない事を命令する。 巫女が落ちるよりも自分が落ちるよりも 「アブソル。お前が落ちろ。」 「ご主人様、冗談キツイなぁ。」 黙ったままクラウスはアブソルを持ち上げる。 嫌な予感がしたアブソルは身震いした。 そして投げられる。 投げられたアブソルは氷の上に落ちて割れた氷の下の水にダイブした。 まるでピ○ミンと同レベルの犠牲のなりかただ。 溺れているアブソルを無視してクラウスはピジョットを出した。 ピジョットの上に巫女を乗せて向こう側へと渡った。 アブソルの行動の意味がない。 何の為に出て来たのか判らないアブソル。 クラウスはピジョットを戻してアブソルを無視したまま巫女を連れて奥へ進んだ。 さっきよりも寒くなったかなと感じた時、辺りには骨やら氷った人やらがある。 「ク、クラウス〜。あれ…」 「あれは試練に失敗した巫女とその御付きだな。あの二人の様子からして下の女が巫女だろう。庇ったのに二人一緒に氷ったのだな。」 「さらっと怖い事言わないでッ!」 何のホラー小説だと巫女は泣きたい思いで内心、訴えた。 気味の悪い道を進むと人が氷った氷がある。 氷った人が綺麗な人だったのでつい巫女は足を止めて見とれてしまった。 ここは止まってはいけなかったのだ。 巫女の悲鳴が響く。 おかげでクラウスまで止まってしまった。 足から徐々に氷りつく。 巫女が顔を真っ青にして涙目になる。 「ミルクっ!?」 辺りが突然燃え盛る。 氷が溶けて水となる。 何がどうなったか巫女は一瞬判らなかった。 助かったようで氷っていたはずの足の氷は溶けていた。 クラウスが左手を押さえて座り込んでいる。 まさかと巫女ミルクは真っ青になった。 スイクンの言っていた事は本当でクラウスは普通の人じゃない。 ウェムル派の人だ。 巫女の味方達が辺りを一気に燃やす事なんて出来ない。 そんな技術は巫女とウェムル達にしかない。 今はそんな事を深く考えないようにした。 ミルクは強引にクラウスの左手の手袋を外した。 予想通りだ。 「フィーンを手袋で隠してたのね…?」 「この事に詳しい巫女ならば判っているだろう。」 「少しあたし達のに似てるけど微妙にウェムルの技術も混ざってる…?」 「中立の立場の私が両方の技術を真似たのだ。」 「無理に組み会わせたでしょ?さっきので左手が焼けどしてる。あたしが無理がないように直してあげる。」 敵かも知れないと判っていながらもなぜ巫女がそこまでするのか判らなかった。 ミルクはお人好しだった。 数分後、巫女はクラウスの手に油性ペンで書き終えていた。 焼けどは巫女の紙切れを消耗してまでして治していた。 「クラウス。あたし、炎タイプのもいないしウィーンは紙で消耗品だし火力ないから魚焼けないの。パチリスじゃビリビリするだけだし。」 ミルクは笑いながら言う。 巫女ミルクがそう言うので何が言いたいのか判った。 このお礼に焼き魚を作ってと言いたいらしい。 焼き魚が好きだったなと思い出したクラウスは頷いた。 アルテのように高価なネックレスが欲しいとか言われるよりは焼き魚の方がまだマシだ。 喜ぶミルクのせいでまた決心が揺らぐ。 敵対してもこっそり会って焼き魚ぐらいなら渡せる。 巫女を監視するとでも言えばすぐにミルクに会えるだろう。 話をやめて二人は奥に進んだ。 そこにはスイクンが待ち草臥れて焼き魚を食べている。 巫女が涎を垂らしながら羨ましそうにそれを見ている。 北風の化身も焼き魚を食べたりするのかとそっちの方が気になる。 スイクンが二人に気が付いて慌てて焼き魚を丸呑みする。 その姿は普段の美しさからは想像出来ない。 ―来ましたね。最後に我と戦って貰います。ここで負けたらお二人は氷漬けにして我がコレクションに加えさせて頂きます♪ 「コレクション?」 ―ええ。我は美しい姿をした人が大好きなもので♪特にお二人は今まで見た中でも美しい… 褒められているのかどうなのか。 こんな酷い(?)スイクンはどの小説を読んでもいない。 優雅で清らかなイメージとはかけ離れていた。 こんなにスイクンのイメージを崩して大丈夫なのかと巫女が心配していた。 こんなスイクン嫌だと言う苦情が殺到しそうな予感がする。 もしや、自分のコレクションにする為だけに業とクラウスをミルクの付き添いとして連れて来たのではと言う巫女の疑いがあった。 確かにクラウスは綺麗だしなぁ…っと巫女もスイクンに共感している。 しかし、クラウスを取られるのだけは許せない巫女は何としてもスイクンを成敗すべきだと考える。 ―手加減しませんよ。我がコレクションの為だ。 「あたしだってこれだけは譲れないの!」 北風と春風は激しく睨み合った。 ♪続く♪ |
エリリン | #17☆2007.12/15(土)21:18 |
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一匹対二人の戦いが始まった。 巫女ミルクはパチリスを出した。 クラウスはアブソルを見捨てて来てしまったので不利だ。 パチリスは戦った事がない。 それなのに大丈夫なのだろうか。 相手はスイクンなので呼び出せない。 地面が氷り、どこまで深いのか判らない底なし(?)水が存在している。 スイクンは水の上でも歩けるけど巫女はそうはいかない。 「パチリス、放電。」 「ど、どうやるのサ…?」 放電の仕方は知っているか狙いの定め方が判らない。 パチリスは放電してみた。 しかし狙いは外れて何も無いところに落ちた。 全く駄目である。 スイクンはパチリスにハイドロポンプを命中させた。 一撃で倒れた運動不足(?)とも言えるパチリスを巫女は仕方なしに戻した。 北風の化身はクラウスに向かって冷凍ビームを放った。 何としてもクラウスだけはコレクションに加えたいらしい。 しかし、避けられてしまってスイクンは不満そうな様子だ。 巫女の紙切れの中で電気を扱う物は一枚しかない。 しかも一番弱い電撃のウィーンだ。 一発しか撃てないと知りながらも巫女は紙を一枚使った。 スイクンに一発弱い電撃が当たったがそんなにダメージを与えていない。 パチリスがいないのが辛い。 「もうこの紙の中で電気を扱うウィーンはないの。後はヨロシク♪」 「消耗品とは不便だな。」 「だからクラウスに頼んでるの!ウェムルの技術も取り入れてるならそれなりの強い電撃ぐらい余裕でしょ?」 何か勘違いをしている巫女にクラウスは溜息を付いた。 スイクンが巫女に冷凍ビームを放った。 湖で待たされている四人はアルテに授業をして貰っていた。 数分前、なぜリースは怪我を治せるのかとユフィアスが聞いたからそれについてアルテが説明しているのである。 そのせいでイージスまで勉強させられる事になった。 木に紙を貼って、アルテが説明を始めた。 「リースがなぜ怪我を治せるのかと言うと。別に超能力って訳でもなく…これに秘密があるのよ。」 アルテがリースから指輪を奪い、二人に見せる。 なぜ指輪なのかと不思議がるユフィアスにリースの指輪を間近で見せた。 そこに複雑な文字やらなんやらが刻まれていた。 巫女が持っていた紙に書かれた文字やらなんやらと似たような感じがする。 「この刻まれている式こそが力の源!ウィーンなのよ!」 「ウィーンってどういう物?」 「全ては何百年も前の事。ウィーンと言う人がこの式を偶然紙に書いて見付けたのよね。偶然このウィーンが発動して大洪水が起きてしまったらしいのよ。」 「水を扱うウィーンだったんだせ。それを改良して誰でも扱えるようにしたのが今のウィーンってヤツ。自然の力を利用して肉だって焼ける。」 「へぇ…便利だネ。」 「でもウェムルのように悪用する人も出て来てしまってね。より強力な力を求めて奴等はウィーンを改良しているんだ。」 リースは指輪を慌てて嵌めた。 ちょうどその後、倒れていた巫女が突然咳き込んだ。 四人は慌てて巫女の方を振り向いた。 ちょうど巫女が水の中に飛ばされて落ちた直後だ。 水の音に気を取られていた間にスイクンがクラウスを蹴り飛ばした。 水に落ちたミルクを助ける間もない。 クラウスがウィーンを駆使してスイクンに強烈な電撃を浴びせる。 本気で怒ったようだ。 スイクンは倒れてクラウスに言った。 ―早く巫女を助けなさい。本当に溺れてしまいます。 「判った。」 その後、すぐにクラウスによって引き揚げられた巫女はビショビショになりながら寒いと言った。 スイクンは笑って二人を今すぐ帰すと言った。 コレクションにするのは諦めたようだ。 諦めてくれないと非常に困るのですが。 倒れていた二人が起き上がった。 巫女はまだ濡れている。 アルテがすぐにタオルで巫女の体を拭いた。 「コレクションは?もう良いの?」 ―ええ。 「クラウス。何でコレクションの話が?」 「…後で説明する。」 ―巫女として認めましょう。ペンダントを貸しなさい。 ミルクはペンダントを渡した。 スイクンが何かしている。 数分後。 巫女ミルクはスイクンからペンダントを渡された。 そして巫女が首にかけた時だった。 迷いも無くクラウスが巫女を背後から殴って抱きかかえた。 イージス以外の全員が愕然とした。 なぜクラウスがこんな事をしたのは判らなかったからだった。 「な、何て事をッ!どういう事だ!」 最初に怒り出したのは意外にもリースだった。 「見れば判るだろう。」 「クラウスっ!巫女様とずっと一緒に居たんだよネ!?なら何で…」 「自分が何してるか判ってるの!?」 「始めからこうするつもりだった。今更裏切りもなんもない。」 「そうかい、そうかい。巫女サマに近付いたのもこの為かい。巫女サマはずっと信じて来たのによぉ…あの花束は偽りかよ?」 一瞬迷いが生じたのをイージスは見逃さなかった。 気を失った巫女ミルクを連れ去ろうとするクラウスをユフィアスは追おうとした。 この前の操り人形が現れて邪魔をして来た。 四人が囲まれている間にクラウスは巫女を連れていなくなってしまった。 「ふふっ。お久しぶりだね…リース様。」 「セレス!?君がクラウスをそっちに引き込んだのかい?」 「もちろん。引き込むのなんて簡単さぁ。」 そう言ってクラウスの弟が不気味に笑う。 人形達は突っ立っている。 あの人形達を操っていたのはセレスだった。 セレスがクラウスの弟だと知らないユフィアスは顔を真っ赤にして怒り出した。 怒りでセレスが何となくクラウスに似ていると全く気が付かない。 「何でクラウスにそんな事させるの!?ミルクさんの信頼を…」 「僕のせいじゃないよ。お兄ちゃんが勝手に単独で行動したんだし。ただ条件を出し会って納得したみたいだから利用させて貰っただけだ。」 「お、お兄ちゃん…?」 「ユフィアス。この子はクラウスの弟なのよ。」 それを聞いてユフィアスは絶句してしまった。 言われて見れば何となく似ている。 違いと言えば背が低くて子供っぽく、表情豊かな所だろう。 セレスは微笑んで人形達を動かし始めた。 四人は対抗しようとした。 人形が襲い掛かって来た時だ。 ウェムルが現れてセレスを止める。 「セレス。巫女は頂いたしもう相手にする事はない。」 「そうかぁ…もう少し遊んで欲しかったけど。まっいっか。じぁね。」 「んだよ!このガキっ!兄弟してムカつくらつだぜ!」 二人はとっとと去って行った。 もちろん人形たちも。 ♪続く♪ |
エリリン | #18☆2007.12/15(土)21:20 |
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連れ攫われた巫女ミルクは個室でクラウスと二人きりの状態になっていた。 別に雰囲気も悪いと言う訳でもない。 ミルクも裏切ってここまで攫ったクラウスに対して怒っている 訳でもない。 ウェムル側に攫われたのに牢に閉じ込められない方が変だ。 きっと何か条件を出して裏切るように誰かが仕向けたのだろう。 だから目の前に居る人は悪くないと考えていた。 まさか自分の婚約が全ての原因だと知るわけも無い。 この前、襲って来た類の操り人形が大量の酒を持って来た。 数分前にミルクから「暇つぶしにどっちが酒に強いか勝負しましょ♪」っと言い出したからだ。 負けた方が言う事を聞く事になっている。 「さあ。勝負しましょ♪」 「判った…」 「じゃあ。よーいどんサっ!」 ミルクはゴクゴクと飲み始める。 一方、クラウスはいつまで経っても飲もうとしない。 これには理由があった。 ミルクが20杯目を飲み終わっても一口も飲もうとしないのだった。 何も知らない巫女ミルクはムスっとした顔をした。 これだと勝負にならない。 巫女一人百杯も飲む。 それでも全く酔わない。 「これで百杯目サ。まだ飲むのサ?」 「ええ…まだ行ける。」 「お前はバケモノか。」 呆れたようにそう言うクラウスにミルクが怒り出した。 勝負にならないし全く飲もうとしない。 そんな相手のコップに酒を注いだ。 クラウスの隣に移動した巫女ミルクが勧めて来た。 「一口だけでも飲んで♪」 「遠慮する。」 「いいからっ♪」 パチリスが見ている中、巫女ミルクは問答無用でクラウスの口に無理やりコップを押し付けて飲ませた。 一口だけですぐに顔を真っ赤にした。 巫女ミルクは後から少しヤバかったかもと後悔した。 被害者が顔を真っ赤にして微笑む。 その綺麗な微笑に一瞬騙されかけたミルクだった。 「ミルク…覚悟は良いな…?」 酔っ払いが再びミルクに微笑んだ。 見ていたパチリスは怯えて隠れている。 巫女が連れ攫われた事などをクーリスに報告しに来ていた。 アルテとイージスは家に戻っている。 ユフィアスとリースの二人はクーリスの無駄に広い屋敷に来ていた。 長い間、行方不明になっていたクーリスは現在のミルクの事を何も知らない。 だからリースが行方不明の間の巫女の事などを話して聞かせていたのだった。 巫女ミルクとイージスの婚約を勝手に決めてしまったクーリスは話を聞いて失敗を犯した事に気が付く。 「ですから、巫女様に子供が居てクーリス様に孫が居るんです。」 「孫!?ど、どんな子だい。会って見たい…」 「しかし、十年前の事故によって消息不明となってしまって…あの二人はもう諦めてるようです。」 「初めての孫なのにぃ…」 クーリスは子供っぽく膨れる。 そんな事を言っても孫の行方は判らないし、無事かどうかも確かめようがない。 十年前と聞いたユフィアスはそう言えば自分が拾われたのも丁度十年前だったなと思った。 偶然でその事を片付けてしまった。 リースはクーリスの孫の名前を知らなかった。 ただ一度だけ赤ん坊をミルクが抱いて寝かし付けようとしているのか子守唄を歌う所を見た事はある。 無事ならその子はユフィアスと同じ10歳になっているだろうなとリースは思った。 「十年前の事故。リープが子供を奪たそうです。」 「リープの奴め。まだ恨んでおったか。」 「私はまだあの女を恨んでいるわよ。」 リープが立っていた。 巫女ミルクにクラウスを奪われた恨み。 その仕返しにリープが赤ん坊を奪った。 ミルクの全てを奪い絶望の淵に追い込むまで許せないと言ったように腰に手を当てて足を広げている。 堂々と立つリープの気迫にユフィアスは潰されそうになる。 巫女のせいでクラウスに嫌われたと思い込むリープはクーリスに馬鹿にしたような笑いを見せた。 その後にユフィアスの方を見て驚いたような顔をした。 「あら、お久しぶり。」 何処かで会った事があったかなと記憶を探るユフィアス。 リープは覚えていないと確信して言い放った。 「坊や。今夜あなたが捨てられた場所に一人で来なさい。両親の手掛かりを教えてあげるわ。」 「え…?」 「必ずよ。来なかったらあなたの母親の命はないわ。」 そう言ってリープは出て行った。 3人はポカンと口を開ける。 なぜリープがユフィアスにあんな事を言ったのか。 ユフィアスの両親の事を何でリープが知っていたのか。 その両親の手掛かりとは? 覚えていないのねと言ったと言う事は幼いユフィアスを知っているという事だ。 罠だと感づいたリースは慌てて言った。 「あれは嘘だ。何かを企んでるよ。」 「行かないとお母さんが…せっかく会えるチャンスなのに。」 「絶対嘘だ。リープが親切な事自体、変だ。」 「判ったヨ。ボク行かないもん。」 そうは言ったものの気になるのは事実だった。 その晩、クーリスの屋敷に泊まったが。 リープの言っていた事が気になって寝られない。 今なら皆寝ているだろうから、屋敷を抜け出して自分が捨てられた場所へと一人で向かった。 着いた時には日付が変わるギリギリでリープが堂々と待ち構える。 ユフィアスの姿を見つけたリープは怪しく微笑む。 「教えて上げるわ。あなたの母親は私の恨むあのミルク・フェルリア。」 「じゃあ、リープさんがボクをミルクさんから奪って捨てたの?」 「あんなの嘘に決まっているじゃない!あなたは両親に捨てられたのよ。お荷物になったから。」 「う、嘘だ…ミルクさんはそんな事するような人じゃないんだヨ!」 「それが事実よ。あれは偽の仮面よ。裏はもっと…悪意に満ちているわ。その証拠に私からあの人を奪ったのよ!」 「う、嘘!嘘だあぁっ!」 ユフィアスが泣き叫ぶ。 怪しく微笑むリープは暗闇の中、ユフィアスに襲い掛かる。 カキンと言う音が近くでした。 それと同時に誰かに抱き締められる。 聞き覚えのある声。 何となく子守唄が聞こえる。 「ミルクさん…ボクを捨ててないよネ?」 「捨てる訳ないよ。あたしは何も出来なかった事をずっと後悔してたのだから。」 ミルクの子守唄と共に眠りに付いた。 気が付いた時には客室のベッドに寝ていた。 リースが様子を見ている事からあの事は夢じゃないんだなぁと思った。 と言う事はミルクがユフィアスの母と言う事になる。 あの時にミルクとリープ以外の人の気配が二人分したのだが一体誰なんだろう。 恐らく一人はリースだろう。 だとしたら後一人は…自分の父? 誰だったか思い出せない。 一人でうーうー言いながら考えているとリースが話し掛けてきた。 「ユフィアス君。昨晩、寝言でお母さんを連発していたよ。そんなに会えたのか嬉しかった?」 「うん!でもボクのお父さんは誰なんだろう?そういえばミルクさんは?」 リースが非常に言い辛そうにしている。 一体何を隠しているのか。 目が泳ぐリースをじーっと見つめる。 もしやミルクに何か遭ったんじゃないかと勘違いしたユフィアスが言った。 「リースさん。言ってヨ!お母さんは?」 「巫女様が裏切りました。」 ユフィアスは絶句した。 目の前が真っ白になる。 憧れていた人の次に自分の実の母までが…。 自分だけ置いて消えて行ってしまう。 リースは絶句するユフィアスに手紙を渡した。 態々ミルクが書いてくれたらしい。 ユフィアスは手紙を読んだ。 「ごめんね。せっかく会えたのに裏切ったりして。人質にされた人がいるの。あたしが」 手紙が書き途中で終わっている。 きっとそこで連れて行かれてしまったのだろう。 ユフィアスはミルクが自分の意志で裏切った訳ではないと判った安心した。 「ミルクさんがユフィアスに元気でねって泣いて言っていたよ。」 「…と、とにかく無事なんだネ。あははっ良かった。」 無理して笑ってみせた。 リースは見ていられなくなってすぐに部屋から出て行った。 言ったのを見届けた後、ユフィアスは部屋で大泣きした。 自分から出て来たヒノアラシが慰めようとしていてくれていた。 ♪続く♪ |
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