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らいちゅう★ | #1★2004.04/18(日)20:42 |
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ここは 自然あふれる『ユーロ地方』。 この『ユーロ地方』のシーナズシティに、 「ルイ」という女の子が住んでいた。 ルイはもうすぐ旅に出る。このシーナズシティから旅立つのだ。 パートナーは、小さいときから一緒だった、 ピカチュウの「シェリー(♀)」。 ルイとシェリーの冒険が始まってゆく… |
らいちゅう★ | #2★2004.05/23(日)13:33 |
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〜はじめに〜 「友情・信頼・勇気」 冒険をする上で、何が必要か。何を学ぶのか。 自分の夢を叶えるため、 まだ開かぬ道へ、まだ見ぬ世界へ。 こうして旅は、始まってゆく―― 「夢旅」 |
らいちゅう★ | #3★2004.03/26(金)18:22 |
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〜第1章 旅立ち〜 シェリー 「ルイ、起きてよぅ、朝だよぅ。」 シェリーの優しい声がルイの部屋に響く。 シェリー 「起きてよルイ、今日は旅立ちの日じゃなかったの?」 しかし、ルイは起きようとはしない。 ルイ 「…もう少し寝かせてよ〜 朝は苦手なの知ってるでしょ?」 シェリー 「それとこれとは話が別。早く起きてよぅ…」 ルイ 「…仕方ない、起きよ〜っと。ふぁ〜〜〜…」 やっとルイが起きた。シェリーはあきれていた。 旅立ち予定時間まで、あと2時間。 眠たそうなルイは、鏡の前で髪を結んでいる。 シェリーも忙しそうに手伝っている。 準備OK、時間まであと1時間。 ルイのバッグの中は大変なことになっている。 キズぐすりやモンスターボールだけでなく、ノートやスケッチブック、 文房具、辞書、裁縫道具まで入っている。 まるで勉強をしにでも行くかのようだ。 シェリー 「何でこんなに色々な物が入ってるの!?」 ルイ 「あれ?そんなに入れたっけ?」 シェリー 「早くしないと時間がないよ!」 ルイ 「え〜い、もういいや!出発しよう!レッツゴー!」 シェリー 「えぇぇ!?ちょっと待ってよぅ〜」 いつもは冷静なルイも、今日は少し落ち着きがない。 AM10:00―― ルイ&シェリー「では、行ってきま〜す!!」 こうして2人は家を出たのだ。 シェリーがルイのあとを追うようにして、2人は走っていった。 果たして2人はこの先、一体どうなるのだろうか… |
らいちゅう★ | #4★2004.03/19(金)22:26 |
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〜第2章 目的〜 タッタッタッタッ…タタタタタタタ トットットットッ…トトトトトトト 軽快な足音が響く。 シェリー 「ちょ、ちょっと待ってよぅ〜ルイ〜」 2人はまだ走っていた。シェリーはもうヘトヘト。 シェリー 「ね、ねぇ、い、一体、ど、どこへ行くつもりなの?」 シェリーがルイの後を追う。 ルイ 「隣町まで一っ走りよ!時間がないもの!」 シェリー 「と、隣町まで!?」 隣町のエフラタウンまで、徒歩で30分、走って20分位かかるのだ。 ルイ 「今だいたい、10分位走ったってところかな。」 シェリー 「じ、10分?きゅ、休憩は?」 ルイ 「一応、後で3分位とるつもり。」 旅立ちからいきなり走るだなんて、ルイはかなり急いでいる。 シェリー 「…誰かさんが朝早く起きていれば、 こんなに急がなくてすんだのにな〜…」 ルイ 「何か言いました?シェリーちゃん…?」 シェリー 「い、いえ、べ、別に…」 こんな調子で走っている2人の行く手をはばむ者がいた。 ? 「…」 ガサガサッ ガササッ ザッ そいつは草陰から急に飛び出した。 シェリー 「きゃ!一体何?」 ルイ 「あなた何者?」 ? 「…そのピカチュウをこっちによこせ。」 ルイ 「(急に出てきて名前も言わずに何を言ってるのよ この人は…) あなたは誰?シェリーをよこせ? ? 「オレの名は『タツヤ』。そのピカチュウをよこせ。」 ルイ 「(タツヤ?どこかで聞いたことあるような…) どうして私のシェリーをあなたに渡さなきゃならないの?」 シェリー 「私はどうなるの〜?」 この『タツヤ』の正体は一体…?シェリーの運命は… |
らいちゅう★ | #5★2004.03/19(金)22:27 |
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〜第2章 目的〜 タツヤ 「さぁ、早くそのピカチュウをこっちに渡すんだ。」 タツヤが少しずつ、ルイの方へと近づいていく。 ルイ 「シェリーは絶対に渡さない。」 タツヤ 「なら力ずくで奪ってやる!ゆけっ、ナックラー!」 ナックラー「ぐわー」 相手はナックラーをくり出した。 ルイ 「シェリー!」 ルイもシェリーで対抗する。 相手のナックラーが攻めてくる。シェリーは手も足も出ない。 タツヤ 「早くピカチュウをよこせ!」 シェリー 「きゃあ、わぁ、ちょ、ちょっと〜」 相手のナックラーはどんどん攻めてくる。 しかし、ルイは何も言わない。それどころか、静かに笑っているのだ。 ルイ 「…フフッ。」 タツヤ 「何だ、何がおかしい!?」 ルイが冷静に答える。 ルイ 「あなた、何も知らないのね。シェリーが攻められていても、 なぜ私は何も言わないのか、何も知らないのね。」 タツヤ 「そんなの知るか!」 ルイ 「なら、見せてあげる。シェリーの本当の力を…(シェリー!)」 シェリー 「(あの技ね!)よし!」 すると、どこからともなく、波の音が聞こえてくる。 ザァー ザザー ルイ 「波乗り!」 ザザザザザザザー ザッパーン! タツヤ&ナックラー「うわぁぁー!」 ナックラー、戦闘不能。シェリーの勝利。 タツヤ 「く、くぅ…」 ルイ 「どう?これがシェリーの本当の力。波乗りが使えるのよ。」 シェリー 「♪」 と、そこへ1本の電話が…(ルイはポケギア着用) ルイ 「…もしもし?」 突然かかってきた電話の相手とは…? |
らいちゅう★ | #6★2004.07/09(金)19:45 |
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〜第2章 目的〜 ピリリッ ピリリッ ルイ 「もしもし…」 ? 〈あっ、ルイちゃん? 久しぶり〜!〉 ルイ 「?」 急にかかってきた電話の相手に、ルイはとまどっている。 ルイ 「あの…どちら様でしょうか?」 ? 〈やっだぁ〜、忘れたの? レナよ、レナ!〉 ルイ 「あ、あぁ、レナちゃんね!」 電話の相手とは、ルイの昔の友達のレナからだった。 レナ 〈久しぶり〜、元気してた?〉 ルイ 「あ、元気だけど……何の用?」 レナ 〈そうそう、その事なんだけど、タツヤ、そこにいる?〉 ルイ 「タツヤ? タツヤってまさか…」 レナ 〈そうよ。私の幼なじみのタツヤよ。〉 『タツヤ』の正体とは、レナの幼なじみだったのだ。 ルイ 「そういえば、どこかで聞いたことのある名前だったっけ…」 レナ 〈ピカチュウちゃんをよこせだなんて言わせてゴメンね!〉 それを聞いて、ルイは驚いた。 ルイ 「え? まさか仕組んでたの?」 レナ 〈だってぇ〜、ルイちゃんがピカチュウを捕まえたって昔言ってたから、 そのピカチュウちゃんを見てみたいな〜って思っちゃって〜〉 ルイ&シェリー「(だからって…そんなマネしなくても…まったく、 人の迷惑を考えないんだから…)」 つまり、タツヤはレナに使われていたのだ。 シェリーをよこせとタツヤが言ったのも、すべてレナが仕組んだ事なのだ。 タツヤ 「という事なんだ。ゴメンな。」 シェリー 「(今さら何を言ってるのよ、この人は…)やれやれ…」 ルイ 「話は分かった。レナちゃん、今どこにいる?」 ルイは直接レナに会って、シェリーを見せると言うのだ。 レナ 〈え〜っとね〜、エフラタウンにいるよ〜!〉 ルイ 「分かった。じゃ、またあとでね。」 ピッ 電話を切ると、ルイは深呼吸をし、大きな声で言った。 ルイ 「よし、シェリー! 出発よ!」 シェリー 「また走るの? 疲れる〜」 また走るらしい。ただでさえシェリーはヘトヘトなのに、ルイは少し強引だ。 タツヤ 「じゃ、オレはこれで…」 タツヤが走ろうとした時、 ルイ 「ちょっと待ったぁ! あなたもついて来なきゃダメよ。 レナちゃんに使われたんだから。」 タツヤ 「え…(確かに使われたけど、何でオレまで…)」 ルイ 「さて、エフラタウン目指して、レッツゴー!」 そしてルイたちは、再び走り出すのだった。 |
らいちゅう★ | #7★2004.03/19(金)22:28 |
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〜第2章 目的〜 エフラタウンを目指して走っているルイたち。 シェリー 「あ!見えてきた、見えてきた!」 ルイ 「あれがエフラタウン…」 そこには、田舎のようなエフラの町が広がっていた。 ルイたちはまず、ポケモンセンターへ行った。 ルイ 「レナちゃんはどこにいるのかな…」 タツヤ 「たぶんこの辺だと思うけど。」 と、そこへ1匹のエネコロロが現れた。 エネコロロ「ようこそ、レナ様のお友達の方ですね?」 ルイ 「あ、あなたは…?」 エネコロロ「はい、私の名前は『アイリーン』と申しまして、レナ様のパートナーです。」 ルイ 「(あ、アイリーン?凄い名前…)よ、よろしくね…」 アイリーン「では、レナ様の所へご案内いたしましょう。」 ルイたちはアイリーンについていった。 アイリーンに案内されて5分。ルイたちは町の広場にいた。 シェリー 「ねぇ、レナさんはどこ?」 アイリーン「おかしいですね…見当たりませんね…」 ルイ 「きっとあれじゃない?ほら、ベンチに座ってる。」 そこには、じっとしてはいられないような表情でベンチに座ってるレナがいた。 アイリーン「あっ、レナ様ー!お友達をつれて来ましたよー!」 レナ 「あらー、ありがとぉ〜アイリーン♪ルイちゃん、久しぶり〜♪」 レナが走ってこっちへ来た。 レナ 「で、約束のピカチュウちゃんは?」 シェリー 「ここよ。あたしの名前はシェリー。よろしくね。」 レナ 「きゃー!かわいい〜♪」 キラキラした目で見ているレナに、ルイとシェリーはびくついている。 『可愛い』という言葉を聞いて怒っているのは、アイリーンだ。 アイリーン「(何よ何よ!レナ様ったら、私よりあのピカチュウの方が可愛いって言うわけ!? 冗談じゃないわ!こうなったら…)」 アイリーンは何か考えたようだ。 アイリーン「レナ様、レナ様、ちょっとこちらへ…」 レナ 「何?アイリーン。」 アイリーン「実は…ちょっと良いことを思いつきましてね、ゴニョゴニョゴニョ…」 ルイ 「どうしたの?」 アイリーン「いえ、何でもございません。 (私の方が可愛いっていうのを思い知らせてやるんだから!) アイリーンの作戦とは…? |
らいちゅう★ | #8★2004.03/19(金)22:29 |
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〜第2章 目的〜 アイリーン「…ということで、よろしくお願いします。」 レナ 「どうしよっかな〜…ま、いっか!」 アイリーン「(やった!よ〜し、見ておきなさいよ、シェリー。 あなたをギャフンと言わせてやるんだから!)ありがとうございます。」 ルイ 「何?どうしたの?」 シェリー 「?」 レナとアイリーンのないしょ話に、ルイたちは「?」。 一体何が起こるのだろうか。シェリーは知るよしもなかった。 レナ 「シェリーちゃん、アイリーンがあなたにお話があるそうよ。」 シェリー 「何ですか?」 アイリーン「実は私、あなたと勝負したいの。」 ルイ&シェリー「え…?」 この一言を聞いて、ルイとシェリーは驚いた。 なぜか、それは、レナのポケモンとは1回もバトルしたことがないからだ。 レナはこう見えても、かなりのトレーナーらしい。 アイリーン「よろしいですか?」 シェリー 「…いいよ。バトルしようよ。」 アイリーン「ありがとうございます。(よし!覚悟してなさいよ、シェリー!)」 レナ 「じゃあ、1対1の勝負をしましょ!ルイちゃん、シェリーちゃん。」 いきなりバトルとは、アイリーンもかなり頭にきているのだろう。 タツヤ 「じゃあ、オレが審判をするよ。」 レナ 「お願いね、タツヤ。」 ルイ 「さぁ、早くはじめようよ。」 タツヤ 「では、試合開始!」 アイリーン「私の技をお見せしますわ!(シェリー、覚悟!)」 アイリーンは気合が入りすぎている。 シェリー 「私も全力であなたに勝つ!」 シェリーもシェリーだ。完全にお互いをライバル視している。 たぶん、シェリーは内容を知らずにバトルしているのだろう。 果たしてこのバトルは、一体どちらが勝つのだろうか…。 |
らいちゅう★ | #9★2004.03/19(金)22:30 |
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〜第3章 いつの日か〜 アイリーン「シャアァァー!」 シェリー 「ひぇぇ〜!」 先手を取ったのはアイリーンだ。 雄叫びを上げるアイリーンに、シェリーはびくついている。 ルイ 「シェリー、10万ボルト!」 レナ 「守るを使うのよ、アイリーン!」 シェリーの10万ボルトは効かなかった。 ルイ 「アイアンテール!」 レナ 「シャドーボールよ!」 ルイもレナも燃えるようにバトルしている。 五分と五分の試合。どちらが勝ってもおかしくない。 アイリーン「私の技はこんなものではないわ!」 シェリー 「(まだ凄いのがあるのか…怖いかも…)わぁっ」 ルイ 「シェリー!こっちも反撃よ!波乗り!」 ザザザザザザァー ザッパーン! シェリーの波乗りがきまった。レナとアイリーンは驚いている。 レナ 「波乗りを覚えているの!?シェリーちゃん最高♪」 ブチンッ! アイリーン「(何よ何よ!私の方がもっと凄い技を覚えてるのに…もう許せない!) アァァァァァァァ!」 アイリーンの怒りは頂点に達した。手におえない状態だ。 メラメラと燃えている。覚えないはずの気合だめが、その証拠だ。 ルイ 「…アイリーンちゃん、何だか怒ってない?」 レナ 「…そうかしら…?」 シェリー 「ひぇぇ〜!たすけてぇ〜」 おびえるシェリー。よっぽどアイリーンが怖いのだろう。 ルイ 「頑張れシェリー!10万ボルト!」 レナ 「吹雪よ!アイリーン!」 ヒュウウウゥゥ〜 ビリリリリリィィ 気合だめをしたせいか、アイリーンの吹雪は見事命中。 アイリーン「私の心にキズをつけた仕返しじゃあ!」 シェリー 「(心にキズ?仕返し?何のこと〜!?)きゃぁぁ!」 怒ったアイリーンは敬語ではなくなっている。 アイリーンが怒っているわけが分からないシェリー。 それもそのはず、アイリーンは怒っていることの意味を何も言っていないのだ。 わけが分からないのも、当たり前。 シェリー 「何で!?どうして怒ってるの!?わわわ…」 この危険なバトルの結果は一体… |
らいちゅう★ | #10★2004.08/04(水)22:59 |
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〜第3章 いつの日か〜 アイリーンがなぜ怒っているかも分からないシェリー。 すると、アイリーンが攻撃をやめて言った。 アイリーン「私がなぜ怒っているのか、あなたには分からないでしょうね。」 シェリー 「(分かるわけないでしょ!)…。」 アイリーン「教えてあげる。この憎しみを…」 そう言って、アイリーンはゆっくりと話し始めた。 アイリーン「私は、レナ様の『可愛い』という一言を聞いて、怒りがこみ上げてきた。 その理由はシェリー、あなたにレナ様が『可愛い』と言ったから。 今まで私が一番可愛いと言って下さったレナ様が…」 シェリー 「…たった、それだけのことで…?」 アイリーン「あなたにはそれだけのことでも、私にはとても大きなことなのよ。分かってるの?」 フィールドに立つポケモン二匹を少し遠くから二人のトレーナーが見守っている。 ルイ 「(そっか…だからあんなに怒ってたのね…)」 レナ 「…アイリーン…。」 アイリーン「それなのに、あなたはレナ様から 『可愛い』と言われるような仕草ばかりしてたわ…」 震えるアイリーン。何を言っていいか分からないシェリー。 そして… アイリーン「だから…だから私は…あなたを許さない! 私の心にキズをつけたあなたを…許さない!」 シュウゥゥン ドォン! シェリー 「きゃあぁぁ〜!」 突然アイリーンが攻撃してきた。 アイリーンのシャドーボールが、シェリーにヒットした。 シェリー 「ちょ、ちょっと待ってよ!私にはそんなつもりはなかったのよ!あわわわ…」 アイリーン「うるさい!問答無用!」 攻撃し続けるアイリーン。手におえない状態だ。 ヒュウゥゥ〜! ビュウゥゥ〜! 今にも凍えそうな吹雪を繰り出して来る。 シェリーは逃げ惑うばかりだ。 シェリー 「もう、いやあぁぁ〜!」 アイリーン「これで終わりじゃーっ!!」 と、そのとき、 レナ 「アイリーン、もうやめて!!」 ピタッ アイリーンの攻撃が止まった。 レナ 「お願い、もうやめて、アイリーン。」 アイリーン「レナ様…」 レナ 「ごめんね…あなたが傷ついているとも知らずに… シェリーちゃんのような子は初めてだったから…」 しーんと静まり返るルイたち。 レナ 「でもね…本当はね…アイリーンが一番可愛いよ!」 ドキッ アイリーン「…」 シェリー 「ねっ、だから言ったでしょ?私は何も知らないって…」 アイリーンは顔を赤らめている。 レナ 「だから…もうこれ以上シェリーちゃんにも、ルイにも、迷惑かけないで…」 レナが優しくアイリーンを抱く。 ルイ 「アイリーンちゃん、自分はそう思っていなくても、レナは絶対、 アイリーンちゃんのことが一番だと思っているよ…」 シェリー 「自分の子が一番なんだよ。」 レナ 「ね…だからもう、怒らなくていいのよ…」 アイリーン「…分かりました…ごめんなさい…」 アイリーンはそう言ったきり、何もしゃべらなくなった。 レナ 「ごめんね、ルイ、シェリーちゃん。」 ルイ 「(あらら、いつの間にか呼び捨てに…でもその方が嬉しいな♪) いいよ、別に…誰だってこういうことはあるからね。」 レナ 「後で話があるから、ちょっと待っててね。」 危険な試合はようやく幕を閉じた… |
らいちゅう★ | #11★2004.08/04(水)23:02 |
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〜第3章 いつの日か〜 ルイ 「話って、何だろう…?」 危険なバトルが終わった後、ルイはレナに呼び出された。 ルイ 「レナ…まだかなぁ…」 シェリー 「アイリーンに付きそってるんじゃないの?」 ルイ 「かもね。」 ここはポケモンセンターの中。アイリーンは回復中。 アイリーンにボコボコにされたシェリー。 回復力が強いのか、すでに回復済み。 ルイ 「タツヤもどこか行っちゃったし…」 シェリー 「帰ったんじゃないの?」 ルイ 「…まさかねぇ…」 気がつけば、タツヤの姿が見当たらない。 ルイは、タツヤが逃げたのではないかと疑う。 ヴィーン 扉の開く音がした。歩いてくるのは、 ルイがずっと待っていたレナ。 ルイ 「レナ!」 レナ 「ごめんね、ルイ。待たせちゃって。」 ルイ 「いいよ。アイリーンちゃんは大丈夫?」 レナ 「大丈夫。明日には良くなるって。」 ルイ 「良かった…(こっちがボコボコにされたんだけどね。)」 アイリーンの容態は、それほど悪くないらしい。 ルイ 「で?話って何?」 レナ 「外に出て話すわ。」 外に出たルイたち。 レナ 「さっきのバトルのことなんだけど、 シェリーちゃん、とっても強かったわね!」 シェリー 「…そう?」 ルイ 「あれは…アイリーンちゃんがどんどん攻めてくるから…」 レナ 「ということで、シェリーちゃんにプレゼント♪」 ルイ&シェリー「?」 レナからシェリーへのプレゼント。それは、光り輝く「雷の石」だった。 レナ 「これを使えば、シェリーちゃんはもっと強くなるはずよ!」 シェリー 「…」 シェリーは考え込んだ。 この石を使えば、ライチュウに進化し、強くなるが、 もう二度と、今の姿には戻れない。 その考えがあるから、今まで進化していなかったわけでもあるし、 ルイも同じ考えなのだ。そう簡単に進化は出来ない。 この石を使えば… レナ 「どうする?使ってみる?」 シェリー 「…」 ルイ 「シェリー…」 シェリー 「…ちょっと待って、今から言う言葉が、私の出した答え。よく聞いていて。」 シェリーの出した答えとは…? |
らいちゅう★ | #12★2004.03/26(金)18:24 |
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〜第3章 いつの日か〜 シェリー 「よし!決めた!」 進化するかしないかの、シェリーの決断。果たして… シェリー 「…雷の石…今の私には、必要ないよ。」 レナ 「!?」 ルイ 「シェリー…!」 雷の石は、ピカチュウがライチュウに進化するための道具。 それを拒否したシェリー。一体、なぜ…? シェリー 「私だって、ライチュウには進化したいよ。でも、今はまだ…」 レナ 「実力不足ってことね。」 シェリー 「そういうこと。」 これが、シェリーの出した答え。もっと強くなれば、進化はしてもいいらしい。 そんなシェリーに、ルイは安心しているのか、落ち着いた表情だ。 すると、ルイの口からこんな言葉が―。 ルイ 「それなら、雷の石を求めて、ライチュウに進化するための旅をしようよ。」 シェリー 「ルイ…!そうね。そうしよう!」 シェリーも賛成した。 そろそろ、ルイとシェリーは出発。 レナ 「頑張ってね。シェリーちゃん、ルイ!」 ルイ 「レナも頑張ってね!また会いに行くからね!」 シェリー 「アイリーンによろしく伝えといてよ。今度会ったら、また勝負しよう、って!」 レナ 「分かったわ!それじゃ、気をつけてね!」 ルイ&シェリー「レナー!また会おうねー!」 こうして、ルイとシェリーは雷の石を求めて、旅を続けるのであった。 数分後―― シェリー 「それにしても…」 ルイ 「どうしたの?シェリー。」 シェリー 「レナって、外見はギャルっぽくて、中身は普通のギャルと変わってるね。」 ルイ 「しっ、失礼なこと言わないの!」 シェリー 「だって…ミニスカだし、派手だし、ルーズソックスまではいてるし… どこからどう見ても、ただのギャル…」 ルイ 「シェリーちゃん…?そーんなこと言ってたら嫌われるよ…」 シェリー 「ルイが怒ったぁ〜」 ルイ 「シェリー!!」 シェリー 「たすけてぇ〜」 この2人は大丈夫なんだろうか… |
らいちゅう★ | #13★2004.04/18(日)20:45 |
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〜第4章 幻〜 次の町、ネオンシティへ向けて再び歩き出すルイたち。 シェリーが立派なライチュウに進化するために、旅を続けることを決心した。 そしてここは、エフラタウンから少し離れた森の中の川のほとり。 ルイ 「この川はとってもきれいね〜。」 シェリー 「でも、シーナズの海の方がきれいだよ。」 ルイ 「川と海じゃあ、ちょっと違うでしょ…」 シェリー 「そりゃあそうだけど…」 ♪雨はやがてあがるもの 雲はいつか切れるもの ♪顔をあげてごらん 君を呼ぶ声きこえるはず どこからか、こんな歌声が聞こえてきた。 ルイ 「…シェリー、何か聞こえない?」 シェリー 「聞こえるね…」 ♪光る涙は 微笑みの前触れだから ♪いつか その悲しみに 誰かが翼をくれるでしょう シェリー 「また聞こえたよ。」 ルイ 「ちょっと行ってみようか。」 ルイたちは、歌声の聞こえる方に走っていった。 ♪風がほほを撫でてゆく 日差しが君に降り注ぐ ♪笑顔を思いだしたね 誰かの声に応えたんだね ドドドドドドドド… と、そこには大きな滝が―― ルイ 「この辺りから聞こえてきたんだけど…」 シェリー 「あの滝の中から聞こえるような気がするよ…」 ルイ 「あれ…?誰かいる…」 ♪小さな微笑み 幸せの前触れだから ♪いつか その喜びに 君は包まれることでしょう ルイ&シェリー「…!」 ルイたちが見たものとは…? |
らいちゅう★ | #14☆2004.03/21(日)17:02 |
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〜第4章 幻〜 ルイ 「あなたは…」 そこには、1人の女の人が立っていた。 女 「私の名は…サヨ。」 ルイ 「サヨ…さん?」 髪は長く、青い着物を着ているその女の名は、サヨというらしい。 ルイ 「こんな所で何を…?」 ルイがそう言うと、サヨは下を向いて言った。 サヨ 「…私が首につけている、 ペンダントの青い玉がなくなってしまったのです…。」 シェリー 「青い玉?」 サヨ 「はい。直径5cmぐらいの、青い玉です。」 ルイ 「どこかに落としてしまったんですか?」 サヨ 「…この滝の辺りで落としたようです…。」 ルイ 「滝…かぁ…」 滝の方を向きながら、ルイは考えた。 ふと、ルイはあることを思い付いた。 ルイ 「ねぇシェリー、この滝に飛び込んでみない?」 それを聞いて、シェリーは目を丸くした。 シェリー 「飛び込むって…青い玉を捜しに?」 ルイ 「そうよ。私も一緒にね。」 シェリー 「…分かったよ。捜しに行こっか。」 この意見で、ルイとシェリーは滝に飛び込むことになった。 滝とは言っても、滝のふもと。湖のような所なのだ。 こんな所で、サヨの青い玉を見つけることは出来るのだろうか。 ルイ 「シェリー、準備はいい?」 シェリー 「OK。サーフィンボードも。」 サヨ 「…私の青い玉を見つけて下さるのですね…。」 ルイ 「そうよ。サヨさんはここにいて下さいね。 シェリー、行くよ!」 ルイはそう言うと、滝目掛けて飛び込んだ。 シェリーも後から続いて飛び込む。 ザブーン ジャボン サヨの青い玉は見つかるのか… |
らいちゅう★ | #15★2004.04/18(日)20:50 |
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〜第4章 幻〜 プクプクプク…プクプク… サヨの青い玉を捜してどの位経っただろうか。 ルイ 「(上に上がろうよ)」 シェリー 「(そうしよう)」 息が苦しくなったのか、お互いに合図をする。 プクプクプク…プクプク… ルイ&シェリー「ぷはぁっ!」 2人は水面から顔を出した。 ルイ 「そっちは見つかった?」 シェリー 「全然…」 サヨ 「あの…そんなに懸命になって捜さなくても…。」 サヨが2人のことを心配する。 そんなサヨに、ルイは落ち着いて応える。 ルイ 「大丈夫です。なくした物はチャンスを逃すと、 永遠に見つからなくなってしまうかもしれませんから…」 サヨ 「…。」 ルイ 「シェリー、もう少し捜すよ。って…シェリー?」 シェリーの姿が見当たらない。 と思ったら、すでに水の中に入って捜していた。 ルイ 「シェリーも結構本気なのね…私も捜さなくちゃ。」 ルイはまた、水中へと潜っていく。 シェリーも懸命に捜している。 すると、シェリーの視界に入ってきたのは、岩の裂け目。 そこには、青く輝く物が―― 目を凝らして見るが、あれは間違いなく、サヨの青い玉だ。 シェリー 「(見つけた!)」 手にとって見てみるが、間違いない。サヨの青い玉。 シェリー 「(ルイに知らせなきゃ…)」 と、丁度そこにルイが―― ルイ 「(見つけたの!?)」 シェリー 「(ほら、この中。)」 シェリーの手の中には、青く輝くサヨの青い玉があった。 ルイ 「(早くサヨさんに渡さなきゃ。)」 プクプクプク…プクプク… ルイ 「ぷはぁ…サヨさん、青い玉を見つけましたよ!」 シェリー 「ぷはぁ…」 水面から顔を出して、サヨに青い玉を渡した。 サヨ 「…私のために…ありがとうございます!」 そして、サヨはペンダントに青い玉をつけた。 すると、その時、サヨの体が光に包まれた。 シュルルルルウゥゥ… |
らいちゅう★ | #16★2004.05/08(土)19:49 |
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〜第4章 幻〜 ルイ 「サヨ…さん?」 サヨの体は青い光に包まれている。眩しい光が、辺りを青く染まらせる。 シュルルルルウゥゥ… 青い光に包まれて、サヨの体が変化してゆくのが分かる。 見慣れない光景に、ルイとシェリーは目を丸くしている。 サヨ 「…ルイさん、シェリーさん、本当にありがとうございました…。」 サヨの言葉と同時に、サヨの体は細く、青く、長くなっていた。 尻尾には2つの青い宝石、そして首には、あの青い玉が… そう、サヨの正体は、ドラゴンポケモン、ハクリューだったのだ。 ルイ 「サヨさん…」 サヨ 「私は…ドラゴンポケモンのハクリューです。 何らかの事故で、首の青い玉が取れ、この近辺に落ちてしまいました。 そして私は、人間の姿をして、青い玉を捜していました。 しかし、貴方たちが捜して下さったおかげで、ハクリューの姿に戻ることが出来ました。 本当に、本当に感謝しています…。」 サヨは、ルイとシェリーに感謝の言葉を言うと、歌を歌いだした。 あの時ルイたちに聞こえた歌声、それは、サヨのものだった。 ♪翼もらった悲しみ 去った心に 虹はうまれる ♪さみしさ色から ぬくもり色へ ♪それは 気持ちのグラデーション ♪あたたかな 輝きを いつまでも シェリー 「その歌は…!」 サヨ 「そうよ。私が歌っていた歌。 フフフ…貴方たちとは、またいずれ会うことになりそうね。 その時は…また…。」 サヨはそう言って、ルイたちの前から消えてしまった。 シェリー 「今のは…幻かなぁ?」 ルイ 「いや、幻じゃないみたいよ。だって、ほら…」 ルイの手の中には、ハクリューの羽が―― ルイ 「…またいつか、会おうね。サヨ――」 |
らいちゅう★ | #17★2004.05/12(水)18:25 |
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〜第5章 光と闇〜 人通りの多い都会、ネオンシティ。 ルイたちは今、その都会のど真ん中に立っている。 辺り一面、人・人・人。とにかく人が多い。 ルイ 「人だらけだね…」 シェリー 「…お祭りでもやってんのかなぁ」 多いのは人だけではない。見上げれば、大きな建物が、天を目掛けて建っている。 溢れんばかりの人の数。首が痛くなるほどの、高い高い建物。 そのどれもが、田舎で生まれ、田舎で育ったルイたちには、見慣れない光景なのだ。 ルイ 「とりあえず、ポケモンセンターへ行こう。」 シェリー 「…そうね。この近辺でウロウロするより無難ね。」 目的地、ポケモンセンターへ行く2人。 人の間をすり抜けかき分け、ポケモンセンター目指して歩いてゆく。 しかし… 30分後―― ルイ 「ここはどこなの〜?」 シェリー 「どこなんだろぅ…」 未だに目的地に着かない2人。 それもそのはず、ルイはタウンマップを持っていないのだ。 6年前、ルイの姉、エミが旅立った時以来、タウンマップは家中のどこにもない。 その姉でさえ、今どこにいるのか分からないのだから、どうしようもない。 道行く人々に尋ねてみても、誰も相手にしてくれない。 ルイ 「――都会ってこんなに淋しい所なんだ――」 途方に暮れたルイたち。すると、シェリーが何かに気付いた。 シェリー 「ねぇルイ、あそこに見えるのは、何?」 そこには、1軒の小さな建物が―― ルイ 「あれは…小さいけど学校じゃないかなぁ…」 シェリー 「じゃあ行ってみようよ!」 ルイ 「え?どうして…?」 シェリー 「だって、あれが学校だとしたら、子供を相手してくれる先生たちがいるじゃない!」 このシェリーの意見には、ルイも感心した。 それと同時に、ルイを明るくしようと思うシェリーの心が読める。 ルイ 「…そうね。行ってみようか!」 2人はその学校へ行ってみることにした。 しかし、この後何が起こるか、知れたものじゃない… シェリー 「ほら、やっぱり学校じゃない。」 ルイ 「そのようね…」 そこはやはり学校だった。門には【ネオン・トレーナーズスクール】と書かれてある。 玄関の戸をあけ、恐る恐る、ルイが訪ねる。 ルイ 「…すみませ〜ん、どなたかいらっしゃいますか〜?」 すると、向こうから1人の女の人が現れた。 その女の人を見たとたん、ルイは氷のように固まってしまった。 怯える目で、女の人を見つめる。 女の人は、怯えるルイに言った。 女 「久ぶりね…その表情、昔と変わらないわね、そうでしょ?ルイ…」 |
らいちゅう★ | #18☆2004.05/14(金)21:19 |
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〜第5章 光と闇〜 ルイの目の前には、1人の女の人が立っていた。 冷たい視線で、ルイに話しかける。 女 「久しぶりね…私のこと、覚えてるかしら?」 ルイ 「…忘れるわけ、ないじゃない。 それに…なぜ?どうしてあなたがここにいるの? 6年前旅立って以来、ずっと帰ってこなかったあなたが… どうして?どうしてよ…お姉ちゃん…!」 その女の人は、6年前旅立ったルイの姉、エミだったのだ。 エミ 「よく覚えてたわね。その表情、相変わらず変わってないわね。」 ルイ 「変わるものか…私にどんなことをしたって、私がお姉ちゃんを信頼しない限り、ずっと変わらない。」 エミ 「フフフ…偉そうに言っちゃって。 私はここの学校の優等生なのよ。その私に何を言ってるの?」 ルイ 「私は…お姉ちゃんを絶対に信用しないと言ってるの。」 シェリー 「…ルイ…」 姉を信じようとしないルイ。 それは、過去の出来事にあった。 6年前―― ルイ 「お姉ちゃん、旅に出るんでしょ?いつ帰ってくるの?」 エミ 「えっとねぇ…ルイが大きくなって、旅立つ時に帰ってくるよ。」 ルイ 「本当!?絶対だよ!!」 エミ 「もちろん!それで、ルイが強くなったら、ポケモンバトルしようよ!」 ルイ 「やったぁ♪じゃあ私は、シェリーと一緒に、お姉ちゃんに負けないぐらい強くなるからね! お姉ちゃん、行ってらっしゃい!頑張ってね! 絶対に帰ってきてね!!」 しかし、ルイが旅立つ時になっても、エミは帰ってこなかった。 連絡も何もなかったから、どこにいるのか分からなかった。 それに、ルイは前々から、姉のことを信じていなかったのだから、 姉に対する思いは変わらなかったのだ。 ルイは怯えながらも、姉を絶対に信じないように、強く心に決めたのだった。 エミ 「あのことがよっぽどショックだったのね。」 ルイ 「だから…お姉ちゃんのことは絶対に信用しない!」 エミ 「それなら、今から私のことを信じてもらうわ!今からポケモンバトルよ!」 シェリー 「ルイ、バトルだって!」 勝負をしかけてくるエミ。しかし、ルイは相手にしない。 ルイ 「言ったはずよ。絶対に信じないって。」 エミ 「私のキルリア、ベルモットと勝負しないっていうのね。 じゃあ…ベルモット、サイコキネシスでルイたちを外に飛ばして!」 ベルモットのサイコキネシスで、ルイとシェリーは外に飛ばされた。 ルイ 「――私は絶対に信じないから――」 |
らいちゅう★ | #19☆2004.06/04(金)21:44 |
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〜第5章 光と闇〜 ドサッ! ルイとシェリーは地面にたたきつけられた。 ベルモットのサイコキネシスで、ルイたちは外へ飛ばされたのだ。 シェリー 「…イタタタタ…ルイ、大丈夫?」 ルイ 「大丈夫、平気よ。」 平然な顔をして、ルイが応える。 そこは、町のはずれの、小さな草原だった。 ルイ 「シェリー、私、お姉ちゃんを絶対に信用しないと言ったよね。」 シェリー 「言ったよ。信用しないんでしょ?」 2人はさっきの話をしている。 ルイ 「信用しないけど…あれは私にも原因があるの。」 シェリー 「え…どうして?」 ルイの言葉に、少し戸惑うシェリー。 ルイ 「私が思っていることすべてを話すから… 原因…それは、私が人を信じることが出来なくなったこと。 私は、変わりゆくお姉ちゃんの心に、怯えていたの。」 シェリー 「ルイ…」 ルイ 「お姉ちゃんの心が変わってしまうんじゃないかと思って… それで、私はお姉ちゃんを絶対に信じないことにしたの。 あの時怯えてたのは、お姉ちゃんじゃなく、お姉ちゃんの心に怯えていたの。 私…どうして人を信じることが出来なくなったのかな…」 人を信じられなくなったルイ。 時が経つことにつれ、心が変わってゆくのではないかと怯える。 それを聞いたシェリーは… シェリー 「…ねぇルイ、ルイの言っていることが本当だとしたら、 今頃は私のことも信じていなかったの?」 その問い掛けを聞いて、ルイが応える。 ルイ 「シェリーのことは、ずっと信じてるよ…」 シェリー 「…私のことが信じられるのなら、 お姉さんのことだって、信じられるでしょ?」 ルイ 「それは…」 返す言葉を失ってしまったルイは、シェリーを見つめる。 シェリーは戸惑うルイに言った。 シェリー 「たとえ人の心に怯えて、信じることが出来なくなったとしても、 それを乗り越える勇気があれば、誰の心だって信じられる。 そう…大切なのは、勇気と信頼。 信頼が完全に回復するのには時間がかかるけど、諦めずに頑張れば、 いつの日か、それは大きな力となって実るはず…」 ルイ 「シェリー…!」 シェリー 「私を信じるのなら、お姉さんの所へ行こうよ。」 ルイ 「…そうね。シェリー、ありがとう!」 シェリーの言葉に心打たれたのか、ルイはシェリーにお礼を言う。 そして2人はエミのもとへ―― |
らいちゅう★ | #20☆2004.06/04(金)22:29 |
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〜第5章 光と闇〜 姉を信用するかしないかで、心が揺れ動くルイ。 草原を走り抜け、エミのいる学校へ向かう。 ふと、ルイが立ち止まった。そして、シェリーに言った。 ルイ 「シェリー、人を信じられなくなったこと…ある?」 シェリー 「…ないけど、どうして?」 ルイ 「そう…」 2人は話をやめて、再び走り出した。 ルイ 「お姉ちゃんはどこ…?」 ネオン・トレーナーズスクール。 ここにはルイの姉、エミがいる。しかし、その姿が見当たらない。 ? 「まだいたのね。あなたは私のことを信用しないと言ったはずよ。」 どこからか、聞き覚えのある声がした。 見上げると、教室のベランダに、あのエミがいた。 ルイ 「お姉ちゃん!!」 エミ 「どうしてまた来たの?信用しないと言ったのはあなたでしょ?」 ルイ 「信じるから…信用するから…私と勝負よ!」 あれだけエミのことを信用しなかったルイが、エミに勝負をしかける。 ベランダから、エミが飛び降りてきた。 ヒュン スタッ エミ 「ふーん…あなたからしかけてくるとは、いい度胸ね。」 ルイ 「お姉ちゃんが勝ったら、私はお姉ちゃんを信じる。 でも、私が勝ったら、お姉ちゃんは私との約束を必ず守る。」 条件付きの、1対1の勝負。 エミも負けてはいられない。 シェリー 「審判は?」 エミ 「私の友達を呼ぶわ。アズサ〜!」 するとベランダから、1人の女の人が顔を出した。 どうやらエミの友達、アズサのようだ。 アズサ 「エミ?何の用?」 エミ 「今からポケモンバトルをするから、審判をお願いするわ。」 アズサ 「分かったわ。じゃ、今から始めるわね。」 ルイとエミの信頼をかけた、1対1のポケモンバトル。 勝敗の行方は…!? アズサ 「では、これよりルイとエミの1対1の勝負を始めます!Ready…Go!」 ルイ 「お願い!シェリー!」 エミ 「行くわよ!ベルモット!」 シェリー 「ルイのためにも…絶対に負けるわけにはいかない!」 ベルモット「フフフ…私に勝てるのかしら?」 信頼という名のバトルが、今、始まった… |
らいちゅう★ | #21☆2004.06/05(土)22:39 |
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〜第6章 決戦〜 エミ 「ベルモット、サイコキネシス!」 ルイ 「交わして、シェリー!」 夕日色の空の下―― 2人のトレーナーは、決戦という名のフィールドで、信頼という戦いを繰り広げている。 お互いに負けじと技の出し合いをする。 ルイ 「シェリー、雨乞い!」 すると、薄黒い雲がフィールドの真上に現れ、雨を降らせた。 その雨は、ベルモットにはダメージを、シェリーには力を与えているように見えた。 エミ 「あなた、まさか…」 ルイ 「そうよ。さすが私のお姉ちゃん。」 シェリー 「フフ…まぁ、見てなさい!!」 カッ 一瞬、辺りが光に包まれた―― ルイ 「雷!!」 ゴロゴロッ ピカーッ ドシャアァァーン!! ベルモット「きゃあぁぁー!!」 シェリーの放った雷が、ベルモットに命中した。 威力は計180。相当なダメージを与えた。 エミ 「くっ…あなたもなかなかやるわね。でも、私にはまだ十分勝ち目があるわ!」 ルイ 「無駄よ!この雨が降り続いている以上、シェリーは負けない!!」 エミ 「フフフ…果たしてそれはどうかしら?」 クールなエミの不敵な笑みが、勝利をつかもうとしている。 エミ 「ベルモット、本当の力を見せてあげなさい!催眠術!!」 ベルモット「私の力…見せてあげるわ!!」 催眠術という怪しげな波動が、シェリーを眠らせる。 ベルモットの催眠術にかかってしまったのだ。 ルイ 「シェリー!起きて!!」 シェリー 「zzz…」 催眠術にかかってしまった今、シェリーに起きる気配はない。 エミ 「かかったわね…夢食い!!」 スゥーッ シュルウウゥゥン! 見る見るうちに、ベルモットはシェリーの体力を奪ってゆく。 回復していったのだ。 しかし、未だに起きる気配のないシェリー。 エミ 「どうかしら?もはやあなたに勝ち目はないのかしら?」 ルイ 「くぅっ…」 シェリー 「…ここは…?」 目を覚ましたシェリー。しかし、辺りには見たことのない景色が―― シェリー 「あれ?ルイは…?」 ルイもエミも、ベルモットもいない。 さっきまで1対1の決戦をしていたシェリー。 シェリー 「ここはどこだろう…」 シェリーの座っている場所は花畑。その少し向こうには海。反対側には山がある。 見上げると、真っ青な空がどこまでも広がっていた。 とても静かな場所だ。 座っていたシェリーは、とても不思議な気持ちになった。 シェリー 「――静かで気持ちいいな…でも…私は何をしているんだろう… さっきまで、ルイやエミたちと決戦をしていたのに――」 この前、ルイと2人で話していたことを思い出した。 シェリー 「――信頼…か… もしかすると、この場所は、私に何かを教えているのかもしれない… とても大切な、何かを――」 その時、シェリーの脳裏に、あることが思い浮かんだ。 シェリー 「――信頼…信じて頼る… そうか…この場所は、私に信じることをを教えてくれたんだ… ということは、もうじき決戦が終わり、ルイが負けてしまうのかもしれない… そうよ…私はルイのところに戻らなくちゃ… 信頼という名の心を持って――」 決戦の行方は――… |
らいちゅう★ | #22☆2004.06/06(日)17:24 |
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〜第6章 決戦〜 スゥーッ シュルウウゥゥン! ベルモットの夢食いがシェリーに襲いかかる。 催眠術をかけられ眠っているシェリー。手も足も出ない。 エミ 「そろそろとどめを刺してあげるわ…サイコキネシス!」 ベルモット「悪いわね、シェリー…この決戦は、私の勝ちよ…」 ルイ 「シェ…シェリー!!」 夕日色の空の下での決戦は、ベルモットが勝利を迎えようとしていた―― ドォォン!! サイコキネシスが、シェリーに命中したかのように思われた。 辺りは煙で何も見えない。 と、その時、聞き覚えのある声がした。 ? 「フフ…それでも私を倒したつもりなの?」 エミ&ベルモット「!?」 少しずつ煙が消えてゆく。 黄色い体、赤い頬、ギザギザのしっぽ、そして首からさげている神秘のしずく… そう、煙の中から現れたのは… ルイの大親友でもあり、良きパートナーでもある、シェリーだったのだ。 エミ 「どうして…!?」 ルイ 「シェリー…!!」 驚きを隠せないエミとベルモット。 シェリー 「心配かけてごめんね、ルイ……さぁ、後半戦のはじまりよ!」 夕暮れも近づいて、空には星が瞬きはじめた。 ルイとエミの信頼をかけた決戦は、後半戦に入った。 お互いに、負けじと攻撃を繰り出す。 2人の決戦を見守るかのように、アズサが審判を務める。 誰にも止められない、止めることの出来ない、この決戦の行方は… ルイ 「10万ボルト!」 エミ 「サイコキネシス!」 シェリー&ベルモット「絶対に負けない!!」 ビリビリビリリィッ! バチバチバチィィッ! 2人の攻撃がぶつかり合った。 その瞬間―― ドッカァァーン!! 大爆発が起こった。 辺りは暴風と煙に覆われ、目を開けることすらままならない。 ベルモット「きゃっ!」 エミ 「ああっ…」 シェリー 「わぁっ!」 ルイ 「くぅっ…」 大爆発で起こった暴風と煙は、2人の決戦を邪魔するかのように吹き荒れていた――… |
らいちゅう★ | #23☆2004.06/11(金)19:26 |
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〜第6章 決戦〜 暴風と煙が辺りを包み、ルイたちは視界を閉ざされていた。 爆発で起こった黒い煙と砂煙は、決戦を止めさせるかのように、絶えず吹き荒れていた。 身動き出来ないルイたち。シェリーとベルモットは大丈夫なのだろうか。 やがて暴風は治まり、煙は徐々に消えていった。 煙の中から地面が顔を出し、草原はしおれているようだった。 ルイはやっと目を開けることが出来た。 ルイの目に飛び込んで来たのは―― 地面の上で倒れている、シェリーとベルモットだった。 ルイ 「シェリー!!」 エミ 「ベルモット!!」 2人がシェリーとベルモットに駆け寄る。 シェリー 「…大丈夫。まだいけるよ。」 どうやらひん死状態はまぬがれたようだ。 だが、爆発の所為もあって、見るからにヘトヘトだ。 ルイ 「もういいよ…私のために頑張ってくれたんだから… それに、これ以上続けたら、シェリーの命が危ない。」 決戦を続けようとしているシェリーを止めるルイ。 エミ 「そうね…私も同意だわ。 これ以上続けたって、ベルモットやシェリーが危ないだけだもの…」 アズサ 「私もそう思うわ…止めた方がいいと思う。」 エミとアズサも、ルイの意見に同意する。 しかし、シェリーとベルモットは2人の意見を受け入れようとしない。 シェリー 「心配しないで…まだ大丈夫だから…ルイのためだから…」 ベルモット「私も大丈夫…エミのためだもの…」 2人が必死になって戦おうとしている姿に、ルイは心の奥から、何かがこみ上げて来るような気持ちだった。 今までずっとシェリーと一緒だったルイ。 心が弾け散ってしまいそうな何かが、心の奥からこみ上げて来るのだった―― 結局、決戦は相談の結果、フィナーレを迎えずに終わってしまったのだ。 信頼をかけた最初の賭け事は、すべて御破算のように思われた。 が、しかし… エミ 「私との信頼関係はどうなるんでしょうねぇ、ルイ?」 追い討ちをかけるように、エミがルイに尋ねる。 ルイ 「あ…そのことなら、また今度ってことで…」 ルイは焦りながらも、冷静に答えた。 エミ 「全く…何のために戦ったんだか、分かりゃしないわ。相変わらずクールなのね。」 ルイは思わず、「どっちが」と言いそうになり、口をつむぐ。 エミ 「まぁいいわ。もう暗いし、あなたが言ったように、また今度にしましょ。 私、とっても忙しいのよ。」 何がどう忙しいのか、ルイにはさっぱりだが、エミは忙しいらしい。 やっぱり都会の人は忙しいのだと、ルイは思った。 シェリー 「ねぇ、ルイ、聞かないの?地図持ってないかって。」 ルイ 「あ…いけない、忘れてた… あのさ、お姉ちゃん、地図持ってる? ポケモンセンターがどこにあるのか分からなくて…」 やっと本来の目的を思い出した。地図は姉、エミが持っているはずだ。 ルイは地図を早く貰いたくて、うずうずしていた。 エミ 「地図?そういえばあなた、持ってなかったわね… はい、これが地図よ。」 やっと貰えたユーロ地方の地図。ルイは嬉しくてたまらなかった。 ルイ 「ありがと。じゃ、明日この町を出るから…」 そう言い残すと、ルイは足早と走り去ってしまった。シェリーが後を追う。 揺れるルイのポニーテールを、エミはじっと眺めていた。 |
らいちゅう★ | #24☆2004.06/11(金)22:44 |
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〜第6章 決戦〜 夜が明けて、朝になった。 窓から朝の眩しい日差しが入って来る。 ルイとシェリーはポケモンセンターの宿泊部屋にいた。 朝が苦手なルイは、相変わらず布団に包まっている。 シェリー 「全く…まだ寝てる気?早く起きたら?お天道様が眩しいよ。」 すでにシェリーは起きていた。 昨日の決戦で疲れたのか、ルイはやはり起きようとしない。 ルイ 「……」 シェリー 「もう7時だよ。外の空気でも吸いに行こうよ。ねぇ…」 朝が苦手で布団に包まっているルイとは違い、ピンピンしているシェリー。 ルイを散歩に連れ出そうとするが… ルイ 「無理だよ…どうせ外は人だらけ。都会の空気って、美味しくないでしょ…」 確かに、このネオンシティは、朝でも夜でも人だらけだ。 都会の中の都会と言うべきか、外は騒がしい。 シェリー 「はぁ…やっぱり出ないのね。さっきまで外は静かだったのに…」 ルイ 「……」 コンコン 戸を叩く音がした。 その瞬間、ルイは飛び起きた。 急いで髪を梳き、戸をあけた。 そこに立っていたのは、ここのポケモンセンターのジョーイだった。 ジョーイ 「おはようございます。 ルイさんに用事がある方が先程いらっしゃいましたよ。」 ルイ 「わ、私に?」 ジョーイ 「ええ、長髪のきれいな女の方ですよ。あちらで待っておられます。」 ルイ 「(長髪…女の人…まさかねぇ…)すぐ行きますと、伝えておいて下さい。」 挨拶もなしにそう言い残すと、急いで支度をした。 疑問を抱えながらも、髪を結び、部屋を出て、女の人の方に向かった。 そこで目にしたもの―― 予想的中。やはり姉、エミだった。ベルモットも一緒だ。 ルイ 「な…何でここにいるの?」 恐る恐る、ルイが尋ねる。 エミ 「なぁに?いちゃ悪いのかしら?」 相変わらずクールに振舞うエミ。 しかし、いつものクールさの中に、少し暖か味が感じられた。 エミ 「単刀直入に一言言わせてもらうわ。」 ルイ 「…何?」 少しむっとしながらも、不思議に思うルイ。 エミは深呼吸を1回すると、いつものエミとは思えないぐらい、ゆっくりと喋った。 エミ 「…これからも、あなた自身の力で、頑張っていきなさい……たったそれだけ…」 そう言うとエミは軽く手を振り、ベルモットを連れ、ポケモンセンターを出た。 ルイたちはその様子を、ただただ呆然と見ていた。 「たったそれだけ」。その一言が、ルイの心の中で響くのだった―― ルイ 「さ、私たちもそろそろ行こうか。」 シェリー 「そうね。じゃ、行きましょうか…!」 朝の眩しい日差しの下、再び出発するルイとシェリー。 エミに言われたことを胸に秘め、いざ出発。 ルイ&シェリー「Ready,Go!!」 |
らいちゅう★ | #25☆2004.06/20(日)20:51 |
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〜第7章 小さな世界〜 優しい風が木々の間を駆け抜ける。 小川は風につられて、穏やかなメロディーを奏でている。 ここはネオンシティとトハギタウンを結ぶ、小さな道。 人々はこの道を“ワイルドロード”と言う。 ルイたちは、トハギタウンへつながっているこの道を歩いていた。 「静かだね……さっきの都会とは全然違うよ。」 シェリーがルイの後について歩く。 「本当……癒される感じかな。」 ルイは両手を広げて、大きく深呼吸した。 珍しい野生ポケモンがいるこの道では、ポケモンの捕獲は禁止されている。 もちろん、ゴミを捨てることも、自然を荒らすことも禁じられている。 綺麗な環境だからこそ、ポケモンたちはすくすく育つのである。 ルイは小声で歌いながら、自然を満喫していた。 「やっぱり、綺麗で素敵なところね。ユーロ地方は…」 サラサラ……カサカサ……サァーサァー…… 草木の揺れる音―― 小川の流れる音―― 穏やかな風の音―― それらが一つに合わさって、壮大な音楽を奏でている。 その自然たちの音楽を、ルイは全身で聴いているような感じだった。 シェリーもルイの真似をして、自然の音に耳を傾けていた。 そして、立ち止まっては目をつぶり、立ち止まっては目をつぶって、自然の音を聴くのだった―― ガサガサッ ガサッ 突然、草むらから物音が聞こえた。 ルイたちが振り向くと、そこには1匹のチコリータがいた。 チコリータは全身に傷を負い、怯えているのか、震えていた。 「どうしたの…?」 ルイが寄る間もなく、チコリータは逃げていった。 その後から、チコリータと同じように傷を負ったポケモンたちが草むらから出てきた。 「どうしたんだろう…?」 疑問に思い、ポケモンたちが出てきた草むらの方に入っていった。 そこには―― 赤くて背中にコブが2つついたポケモンが、赤い炎を吐いて暴れている。 「ちょ、ちょっと! 止めなさい! お願い、止めて!」 ルイが止めさせようとするが、そのポケモンは全く聞いていない。 少し考えたが、止むを得ず、シェリーに言った。 「仕方ない……シェリー、10万ボルト!」 「よし!」 シェリーの10万ボルトがヒットした。 しかし、そのポケモンには全く効いていなかった。それどころか、前よりもっと暴れた。 「むやみに相手を傷つけるわけにもいかないし……シェリー、逃げるよ!」 「えっ、えぇっ!?」 ルイたちはその場を離れた。一直線に走り出した。 向かった先は、トハギタウン―― |
らいちゅう★ | #26☆2004.06/21(月)11:54 |
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〜第7章 小さな世界〜 「ハァ…ハァ…」 走って2分。トハギタウンは目の前だ。 「ルイ、何をするつもり?」 息を切らせながら、シェリーが尋ねる。 「ポケモンセンターに行って、さっきのことを、ジョーイさんに伝えなきゃ…」 ルイも息を切らせながら言う。 「それにしても……あのポケモンは一体何なんだろう…?」 「さぁ……私にも分からない。 とりあえず、ポケモンセンターに行かなきゃ……行くよ、シェリー!」 そう言うと、2人はポケモンセンターに向かった。 「ジョーイさん!」 ポケモンセンターに入り込むなり、ジョーイを呼んだ。 「あら、どうしましたか?」 向こうから、ジョーイが姿を現した。横にはラッキーがいる。 「ハァハァ…そ、それが…」 ルイが話そうとしたとたん、ジョーイが口走った。 「あらあら、あなたもそのピカチュウも疲れてるようだわ。 しっかり休んでから話してね。それまでこのピカチュウは休ませておくわ。」 ジョーイの言うとおり、ルイもシェリーも疲れきっていた。 「あ、ありがとうございます…」 しばらくして、元気になったシェリーが向こうの部屋から出てきた。 ルイも丁度、疲れが取れた頃だった。 「お預かりしたピカチュウは元気になりましたよ。」 「ありがとうございます。」 「さっきのこと、話してくれる?」 「ええ、実は…」 ルイとシェリーはさっきのことを全て話した。 そして、あのポケモンのことも聞いた。 ジョーイはルイたちの話を聞いて、ゆっくり話し出した。 「そうよ……あそこは人々が言うとおり、野生ポケモンがたくさんいる道なの。 以前までは何事もなく、平和な道だったわ。 それが最近になって、人に捨てられたポケモンが出てきたの。 寂しい気持ちと悔しい気持ちでいっぱいなんでしょうね… 最近は当たり前のように暴れて、野生ポケモンたちを傷つけているの。 それは誰にも止められなくて……みんな困っているの。」 ルイたちはジョーイの話を真剣に聞いた。 少しして、2人は顔を見合わせて、ジョーイに言った。 「あの……私たちがそのポケモンを止めてあげましょうか?」 するとジョーイは目を丸くして言った。 「本当? でもあの子はとても暴れん坊なのよ。バクーダっていうポケモンなんだけど。」 「(バクーダか…)私たちが止めなきゃ、誰が止めて下さるの?」 ちょっと大人ぶったように、ルイが言った。 シェリーも自信たっぷりの目をしている。 私たちにやらせて下さいというオーラが出ている。 「……分かったわ。お願いするわね。気をつけてね!」 2人は事件を解決すべく、ワイルドロードに向かった―― |
らいちゅう★ | #27★2004.07/10(土)13:46 |
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〜第7章 小さな世界〜 −ワイルドロード− 数多くの野生ポケモンがいます。 通る際は、以下のことを承知の上、お通り下さい。 ・野生ポケモンの捕獲は一切禁止。 ・野生ポケモンに危害を加えない。 ・ゴミのポイ捨て、自然を乱すような行為は禁止。 以上のことが承知できない場合は、罰せられる可能性もあります。 皆さんのご協力、ご理解の程、宜しくお願い致します。 ユーロ自然連合会より ワイルドロードの入口に立てられている看板には、こんなことが書いてあった。 それに一通り目を通したルイとシェリーは、 事件に関係するポケモン、バクーダを探しに、ワイルドロードへ足を踏み入れた。 「やっぱり、いつ聴いても、うっとりするね…」 どんなことが起こっても、ワイルドロードの自然たちは、壮大な音楽を奏でているようだった。 が、しかし、さっきルイたちが聴いたものより、ちょっと違って聴こえた。 何かの音が混じっている。 自然の音にはないような、何かの音が。 ルイはそれに気付いて、もっと耳をすませた。 「――何だろう――」 立ち止まって目をつぶり、音を確認する。 「――やっぱり何か違う――」 目を開けて、辺りを見回した。 だが、隣にいるシェリーと、音楽を奏でている自然たち以外、誰もいなかった。 ルイはだんだん、その音が怖くなってきた。 さっきまで何事もなかったかのように奏でていた壮大な音楽が、 わずかな違いで全く違うものに聴こえる。 そのわずかな差で生まれた音に、ルイは不安を抱いていた。 「あっ、ルイ! 見てよ、あそこ!」 突然、シェリーが大声を出した。 見ると、木々の間から、赤い炎のようなものがあった。 さっき見た赤い炎と同じだ。 「…早く…早く止めなきゃ!」 ルイの頭の中には、あのバクーダを止めることしかなかった。 草むらを全速力で走りぬき、さっきと同じように暴れているバクーダを見つけた。 シェリーが少し遅れて走ってきた。 バクーダの吐く赤い炎が、木々たちを傷つけている。 その炎は、シェリーの足元にまで来た。 「ひゃっ!」 シェリーが悲鳴を上げる。 しかし、ルイは戸惑うことなく、シェリーに言った。 「波乗り!」 「(え?反撃しちゃうの?)あ、うん…」 あいまいな答えをしながら、シェリーは波乗りを繰り出した。 ザザザザザーッ ザッパーン 火は一目散に消えた。 同時に、バクーダもおとなしくなった。 「あれ?」 2人は不思議に思ったが、ルイは少し安心した。 「よかった…」 そう思った次の瞬間、バクーダの目が急につり上がった。 「え?」 2人が驚いてバクーダを見た。興奮しているようだ。 バクーダは息を荒くして、ルイたちをじっと見ている。 「――どうしよう――」 ルイは不安でいっぱいだった。 何をしていいのか分からず、ただ立っていた―― どのくらい時間が経ったのだろう。 気が付くと、バクーダが目の前から消えていた。 どうしたわけか、つり上がった目で見られてからの記憶が、ルイには全くなかった。 辺りは、焼けてしまった木々たちの悲しいメロディーが響いていた―― |
らいちゅう★ | #28☆2004.07/09(金)21:39 |
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〜第7章 小さな世界〜 バクーダの吐いた赤い炎は、辺りの草木たちを黒焦げにした。 風が吹くにつれ、木々たちは、さっきのような穏やかなメロディーではなく、 焼けてしまった跡の、悲しげなメロディーを奏でていた。 その草木たちの間を、ルイとシェリーは歩いていた。 うつむいたまま、何も喋らなかった。 そのまま2人は、ポケモンセンターへと向かった。 「――何で私、何も覚えてないんだろう――」 ヴィーン ポケモンセンターの扉が開き、ルイたちは中へ入った。 「あ! どうでした? バクーダは…」 丁度そこへ、ジョーイが現れた。 ルイはうつむいたまま首を横に振った。 「あら……ダメだったの?」 ジョーイがそう聞くと、ルイは顔を上げて言った。 「手のつけ様がありませんでしたよ。」 「一時はおとなしくなったんだけど。」 シェリーもルイを励ますかのように言った。 「まぁ…それは残念だったわね…」 「それに……」 ルイはそこまで言うと、またうつむいてしまった。 「それに…?」 ジョーイが尋ねる。 「聞いて下さいますか…?」 ルイはさっき起きたことを、ジョーイに全て話した。 「そうだったの…」 「…何故あの時、何も覚えてなかったのか……私には分かりません。」 うつむくルイ。本当に何も覚えていないのだ。 ただ記憶の中にあるのは、今までの出来事と、バクーダが目をつり上がらせてこっちを見ていたことぐらいだ。 シェリーも、何も覚えていないような顔をしている。やはり記憶がないのか―― すると、その時、ルイが思い切ったように立ち上がった。 「やっぱり私、バクーダを止めて来ます!」 そう言って、ポケモンセンターを飛び出した。後からシェリーが追う。 驚いたジョーイは、目を丸くし、呆然と見ていた。 再びワイルドロードに足を踏み入れたルイとシェリー。 自然たちは、やはり何事もなかったかのように、穏やかなメロディーを奏でていた。 あの、バクーダに荒らされた木々たち以外は―― 「ル、ルイ…あれ…」 シェリーが恐る恐る、その方向へ指を指す。 ふと、後ろを振り返ると―― そこには、事件の原因となったポケモン、バクーダがいた。 「あなた…さっきの…」 興奮しているのか、バクーダは息が荒かった。 だが、じっとルイたちを見ている。バクーダとは思えない、冷静な目で―― 「戦おうって言ってるみたい…」 バクーダの様子を感じ取ったシェリーは、小声で言った。 「そうなの…?」 ルイがバクーダに聞くと、バクーダはこっくりとうなずいた。 「…分かった。シェリー、行くよ!!」 「OK!!」 自然たちの音楽は静まり、2人と1匹の戦いを、見守っているようだった―― |
らいちゅう★ | #29☆2004.07/10(土)13:52 |
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〜第7章 小さな世界〜 「――バクーダ…悪く思わないでね――」 ルイは心の中で言い、バトルの態勢に入る。 「シェリー、Ready,Go!」 「OK! 任しといて!」 2人のやる気は高まり、攻撃態勢に入った。 「波乗り!」 ザザザザザーッ ザッパーン ルイの声が響くと共に、シェリーの起こした波が、バクーダに押し寄せる。 波乗りの威力は90。バクーダは炎と地面タイプ、4倍のダメージだ。 計算すると、360という威力。 だが、バクーダはその波を炎で消した。 あまりの威力に、ルイとシェリーは驚いた。 「凄い…でも、まだまだこれから!」 とは言ったものの、相手のバクーダの炎の威力は凄まじいものだった。 シェリーの起こした波を、消してしまったのだから―― 「でも、ルイ…波、消されちゃったよ。」 「大丈夫。ダメージを全く受けていないわけじゃないから…」 どうやらルイには、作戦があるようだ。 しかし、相手のバクーダは、かなりの強敵だ。 そんな相手に、どのようにしてダメージを与えるのか―― 「バクゥーッ!」 相手のバクーダも攻撃態勢に入ったようだ。 雄叫びを上げながら、前足を上げ、地面を叩いた。 ゴゴゴゴゴゴ…… バクーダの反撃。 シェリーのような電気タイプには効果抜群の技、地震だ。 「わあぁあぁー!」 ふらつくシェリー。バランスを崩してしまった。 「頑張って、シェリー!」 ルイのかけ声も響く。 そこに、バクーダが突っ込んで来た。ノーマルタイプの技、突進だ。 シェリーは跳ね飛ばされ、地面に叩きつけられた。 「くぅ…っ!」 かなりのダメージを受けた。 ルイはその光景を見て、全く歯が立たないようにも思えた―― ダメージを与えたり受けたりしているうちに、ルイは一つの戦法を思いついた。 「(やってみるしか…ない!)シェリー、雨乞い!」 黒い雨雲が現れ、雨を降らした。シェリーが起こした雨雲だ。 「バ…クゥ…」 その雨はバクーダにも降り注ぐ。ダメージを受けているようにも見えた。 「(よし!)バクーダの足元めがけて、雷!」 「(足元…?)了解!」 言われるままに、シェリーは雷を落とした。バクーダの足元めがけて―― すると、バクーダがふらついた。雷の影響で、バランスを崩したようだ。 すかさず、ルイがシェリーに指示を出す。 「波乗り!」 ザザザザザーッ ザッパーン 大きな波がバクーダに押し寄せる。 足元がふらついて炎が吐けないので、今度は大ダメージを与えることが出来た。 バクーダはその場に倒れてしまった。どうやら戦闘不能のようだ。 「ハァ…ハァ…」 疲れているのか、息切れしているシェリー。 でも、とても嬉しそうな顔をしていた。 「これで…終わったの…?」 ルイも同じように息切れしている。 事件は終わったかのように思えた―― バクーダは再び、むっくりと起き上がった。 そして、ルイたちをじっと見ていたかと思うと、後ろを向いて去ってしまった。 「あれ…? どうしたんだろう…」 ルイが不思議に思うと、シェリーがゆっくりと言った。 「きっと、あれじゃないかな。」 見ると、ここ、ワイルドロードに生息しているポケモンたちが十数匹いた。 その中には、さっき全身に傷を負っていた、あのチコリータの姿もあった。 バクーダはそのポケモンたちに向かって行った。 ポケモンたちも、バクーダを暖かく迎えているようだった。 「これで…よかったんだね。」 「そう…ここは、ポケモンたちの、小さな世界だから――」 バクーダを見届けたルイとシェリーは、再び新たな町を目指して、旅を続けるのだった―― |
らいちゅう★ | #30☆2004.07/17(土)18:30 |
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〜第8章 白い影〜 星のない、暗い、物静かな夜。 満月の月光の下で、不気味に光る白い影。 その影は闇夜を切り裂く、白い稲妻。 影は物音一つなく、暗い闇夜に消えた―― 「――ったく……連絡の一つもくれないんだから!」 朝。 空には澄み切った青空が広がっていた。 ルイはポケギアに向かって、何か叫んでいる。 〈仕方ないじゃない! 母さんだって忙しいんだから…〉 ルイが話している相手は、電話越しだが、どうやらルイの母らしい。 「あのねぇ…忙しい忙しいって言ってるけど、連絡ぐらいくれたっていいじゃない!」 〈そんな時間がないから言ってるのよ!〉 こんな調子で、ルイとその母は、さっきから話している。 シェリーがあきれた顔で見ている。 「(全く…久々に電話がかかってきたと思ったら、このアリサマ…)ルイ…」 「とは言っておられますけどね、旅立ちの日から何日経ってると思ってるのよ! 全く、うちの家族はどーして約束を守ってくれない人ばっかりなんでしょ…」 旅立ちの日に、ルイと母はある約束をしていたらしい。 その約束を守ってくれない母に、ルイはあきれているようだ。 〈母さんだって帰ろうと思ったわよ! でも、ちょっと帰れなくなっちゃって…〉 「(どーいう理由でだ…)んで? それが延びに延びて今日まで引きずっちゃったわけね?」 〈あう……と、とにかく、今日、明日には帰るから!ね! じゃーね♪〉 「あっ、ちょ、ちょっと! 母さん!?」 ピッ ツーッ…ツーッ… いきなりにも、電話は切れた。 「切れちゃったね。」 シェリーがあきれた顔して、ルイに言った。 「(今日、明日じゃ遅いって…)はぁ……まぁ、母さんのことはいいや。どーせ父さんも帰ってこないんだし…」 ルイの父と母は、ジョウト地方で仕事をしている。 母の方は週に1回、父の方は月に3回程、家に帰ってくる。 休日は2人とも家にいるが、平日はルイとシェリーだけのことが多い。 そんな中、ルイは父と母に、旅立ちの日には絶対に帰ってくるように、約束をしておいた。 しかし、その約束は守られず、今になって電話がかかってきたというのだ。 これではルイがあきれるのも無理はない。 「(父さんも母さんも、お姉ちゃんも……みんな約束守ってくれない……仕方のないことかもしれないけどさ。)やれやれ…」 「本当。のんきな家族だよね。」 「もういいよ。そのかわり、シェリーが立派なライチュウになったら、驚かしてやる…」 「ハハハ…」 ここはトハギタウンを過ぎた、小川の流れる静かな道。 道を歩いている人は少なく、とても静かだ。 「ねぇ、ルイ、次の町はどこ?」 シェリーがルイに訊く。 「え〜っと…この地図によると、ここから北東にある、アイオタウンが近いかな。」 地図を見ながら、ルイが答える。 「距離は…約1,5kmってところかな。」 「1,5かぁ…近いね。これなら30分で着きそうだね。」 ルイたちは、アイオタウン目指して、歩き続けた。 「ルイ、さっきから周りをキョロキョロ見てるけど、どうかしたの?」 シェリーは、何故かいつもと様子が違うルイに気付いた。 「いや…何でもないよ…」 「?」 何かを隠しているように見えるルイ。シェリーは良く分からないままだ。 「――誰かが見てるような気がする――」 30分後―― 「着いた! アイオタウン!」 声を張り上げたのはシェリー。 シェリーの予想は的中。アイオタウンに30分で着いた。 「ここも、田舎のような所ね。」 アイオタウンは、小さくて古風な町だった。 しかし、ここ、アイオタウンには、月に1度、災いが起こると言われている。 そんな町を、ルイとシェリーが町を眺めていると、突然、ルイに寒気が走った。 「どうしたの? ルイ…」 心配して、ルイの顔をのぞき込むシェリー。 寒気に驚き、ルイはふと、後ろを振り返った。 そこには―― 崖の上に一つの白い影――赤い瞳で、ルイの目をじっと見ていた―― |
らいちゅう★ | #31☆2004.07/19(月)12:15 |
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〜第8章 白い影〜 崖の上に、一つたたずんでいる白い影。 体は白く、顔は黒っぽく、頭に刃。赤く光る瞳で、ルイの目をじっと見ている。 その白い影は、崖から飛び降り、ルイとシェリーの目の前に姿を現した。 「ここは危険だ…早く逃げろ。」 落ち着いた表情で、白い影は言った。 「あ、あなた、誰?」 ルイが恐る恐る尋ねる。 「私か?」 「そう。」 白い影は、ルイに訊き返し、静かに言った。 「アブソルだ…」 「アブソル?」 「そう…災いポケモンとして、人々に知られている。」 アブソルはそこまで言うと、遠くを見ているような目をした。 黒い刃が、太陽の光にさらされ、光って見える。 「お前はトレーナーだな?」 アブソルは赤い瞳で遠くを見ながら、ルイに訊いた。 「そ、そうだけど…」 一歩後ろに下がり、ルイは控えめに言った。 「なら、早く逃げるんだな。この町には必ず、大きな災いが起こる。今度は津波だろう…」 「大きな災い?」 今度はシェリーが訊いた。 「あぁ。この町は別名“災いの降る町”と言われている。早く逃げないと、命を落としかねない。」 「でも、どうして逃げなきゃいけないの? この町の人はどうするの? ルイ、町の人だって、大切だよね。」 アブソルに逃げろと言われ、ルイは少し考え込んだ。 自分たちのことも考えたが、町の人のことも大切だ。 アブソルは、にやりと不敵な笑みを浮かべ、ルイに言った。 「フ…自分の身は自分で守るのが当たり前だろ? 安心しな。町の者には、私が伝える。」 今、目の前にいるアブソルの不敵な笑みに、ルイは寒気を感じた。 背中に、冷たい何かが走る。それが、災いの前触れなのか―― 「分かったら、早く逃げろ。」 そう言って、アブソルは山の中へ消えた。 ルイに不安をもたらす寒気を残して―― ルイは思いついたように、ポケギアのラジオを入れた。 すると、寒気と共に、驚くべき情報が流れてきた。 〈…続いて、今日、明日の警報・注意報をお伝えします。 ユーロ地方全体に、午後1時から3時にかけて、雨、のちに雷の恐れがあります。 特に北部にかけては、波の高さは通常より更に高く、津波の恐れがあります。 アイオタウン付近の住民の方々は、くれぐれもご注意下さい また、北西からの風が強く吹き荒れるので、お出かけの際は十分ご注意下さい…〉 あの、アブソルが言っていた“大きな災い”は、どうやら本当のようだ。 ルイの背中に寒気が走ったのも、そのためだろう。 「――なんとかしなきゃ――」 そうは思ったものの、どうすればいいか、全く分からない。 あのアブソルに出逢ったことが、運命のような気がしてきた。 変えることの出来ない運命―― ラジオを切って、ルイとシェリーは歩き出した。 街が何やら騒がしい。人々が皆、高台に向かっている。 ぱんぱんに膨れている大きなリュックやカバンを持って歩いている。 ルイはその中の1人に訊いてみた。 「あの…そんな大きな荷物を持ってどこへ行かれるんですか?」 「決まってるだろ。この先にある避難所へさ。もうすぐ津波がやってくるんで、皆逃げてるのさ。 お前さんもボーっと見てないで、早く逃げたらどうだ?」 そう言うと、その人はさっさと行ってしまった。 「――やっぱり――」 怖いようなほどに、あのアブソルの声が頭の中に響く。 『ここは危険だ…早く逃げろ――』 あの言葉が、ルイの頭の中にひっかかっている。 逃げるか、残るか、どうにもならないような気がしてきた。 その時、ルイの目の前に、白い影が再び姿を現した―― |
らいちゅう★ | #32★2004.07/28(水)22:01 |
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〜第8章 白い影〜 「どうして逃げないんだ?」 白い影が訊いて来た。 「(アブソル…)どうしてって…」 浮かない表情で、ルイが言った。 アブソルはそんなルイを放っておけない様子だった。 「ったく……町の者は皆、私が知らせた災いから逃げているんだ。 お前もここから逃げたら、皆助かるのだ。そろそろ津波が押し寄せてくるのだ。 なのに、お前は逃げようとしない。何故だ…?」 逃げようとしないルイを不思議がるアブソル。 ルイは静かに言った。 「…逃げ遅れた人が、いるかもしれないから…」 その言葉に、アブソルは目を丸くした。だが、いつもの調子で言った。 「逃げ遅れただと? そんな奴いるはずがない。私が知らせたのだからな…」 「でも、逃げ遅れた人がいなかったとしても、 もし津波が高台まで押し寄せてきたら……助かるって、100%言える?」 ルイの言葉に、辺りは静まり返ってしまった。 シェリーは不安げに、ルイとアブソルを交互に見ている。 アブソルはキリッとした目でルイを見つめている。 そのまま、張り詰めたような空気が、静かに流れていった―― 「……分かった。お前がそこまで言うのなら、何とかして食い止めよう。」 アブソルの口から、ルイを信じたような言葉が出た。 わずかだが、少し微笑んでいるようにも見える。 「(アブソル…)ありがと!」 ルイはアブソルに微笑みかけて、お礼を言った。 「さぁ…のんきにこんなことをしてる暇はない。津波が来るまで、あと20分ってとこだろう…」 「早いところ、何とかしなくっちゃね。ルイ!」 明るくシェリーが言う。 「そうね…!」 心の中の暗い気持ちがふっ切れるような返事をすると、ルイは海の方を眺めた。 海は太陽の光を反射して、キラキラ輝き、穏やかに波打っている。 しかし、その波がだんだん荒れていくのが分かる。どうやら潮は満ちているようだ。 この波が人々を襲う、恐ろしい津波になると思うと、ルイは不安でいっぱいになるのだった―― 「――何とかしなきゃ…でも――」 津波が来るまで、あと6分というところだろう。 雨がポツポツと降っている。 町の人への呼びかけは終わり、津波を食い止める準備も、そろそろ終わる。 ルイたちは、海と十数m離れた砂浜にいた。 すべてが順調と思えた時だった。 「ふぅ…何とか準備は整ったね。」 額の汗を拭きながら、シェリーが言う。 「そのようね……あれ? アブソルは…?」 辺りを見回すルイ。シェリーもアブソルがいないことに気付いた。 だが、いくら見回しても、アブソルの姿はどこにもない。 「どこ行っちゃったんだろう…海の方に行ってなきゃいいけど…」 「海…」 ルイがポツンとつぶやく。 と、その時、ルイの脳裏に何かが走った。ハッと海を見た。 「――まさか!――」 しかし、ルイの目に映ったのは、津波の前触れのように、荒れた海だった。 あの、アブソルの白い影は見当たらない。 「アブソル…」 「…まさか本当に…?」 「分からない…」 アブソルは姿を現さないままだった。 海は次第にひどく荒れ、雨は強さを増していった――白い影の存在が消え失せるかのように―― |
らいちゅう★ | #33☆2004.07/28(水)22:04 |
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〜第8章 白い影〜 「アブソル…どこ行ったんだろう…」 津波が来るまで、2分を切った。 海は荒れ、雨もひどくなり、波音も大きくなっていった。 まるで、津波の恐ろしさを物語る、前触れのように―― 「ルイ!来て!」 シェリーの声が聞こえた。 だが、大きな波音でほとんどかき消され、わずかにしか聞こえなかった。 ルイは海岸沿いにいるシェリーに近づいた。 「見て見て!おっきな流木!」 「わぁ…」 そこには、茶色く、所々に穴の開いた、全長3mほどの大きな流木があった。 結構太い。流されて来たらしい。 「ルイ、これを使ったらどうかな?」 「そうね。少しは食い止められそう。でも…」 「分かってるよ。あと2分しかないんだもん。急がなきゃね…」 2人は急いで流木を運んだ。が、重い。運ぶのに一苦労だ。 何とか、津波を食い止められそうな所に運んだ。 「ハァ…ハァ…こんなものでいいでしょ…」 「ふぅ…そうね…」 額の汗を拭きながら、ルイは海を眺めた。 と、向こうに大きな何かが見えた。 目を凝らして見てみると―― そこには、大きな波音と共に、津波が迫って来るのが見えた。 「大変!」 ルイは思わず叫ぶと、砂浜に降りた。シェリーも後から続く。 「シェリー、津波に向かって雷!」 「OK!」 シェリーの放った雷が、津波めがけて走る。 ビリビリビリィ バチバチバチィ 津波と雷が衝突。 しかし、津波の勢いは弱まらず、雷を打ち消し、猛スピードで迫って来た。 「くぅ…」 「もう1回!」 ビリビリビリィ バチバチバチィ だが、シェリーの放った雷は、またしても津波に打ち消された。 それでも諦めずに、何度も雷を放った。 だが、何度やっても、津波は雷を打ち消すばかりだ。 「シェリー!今度は波乗り!」 「分かった!」 ザザザザザーッ ザッパーン シェリーの波が津波に向かってゆく。 しかし、巨大な津波はシェリーの波を跡形もなく消していった。 猛スピードで迫って来る津波。 「ハァ…ハァ…」 シェリーは少し疲れ気味だ。 「(まずい…このままじゃ…)シェリー!!」 「命がかかってるんだもの…負けるわけにはいかないよ!!」 ビリビリビリィ! バチバチバチィ! 巨大な津波は、ルイとシェリーの目の前に立ちはだかった―― その時、後ろからいくつもの白く輝く刃が飛び出して来た。 何かのポケモンの技だろう。 その刃は集まって大きくなり、巨大な津波にぶつかった。 その途端、津波は消え、たくさんの水が降りかかって来た。 「ぐっ…うっ…」 水に呑まれたルイは、気を失ってしまった。 「フゥ…何とか間に合ったな…」 「あれ…?」 あれからどのくらいの時間が経ったのだろう。 空はすっかり晴れて、雲の隙間から太陽がのぞいている。 気を失っていたルイはゆっくりと起き上がり、辺りを見回した。 隣にシェリーが横たわっているのに気付く。 「シェリー? シェリー!?」 思わずシェリーを揺すった。 「ん……何?」 ルイに揺すられ、シェリーはゆっくりと起き上がった。 「…気がついた?」 「うん…」 2人は立ち上がり、海を眺めた。 さっきの様子とは全く違う、穏やかな海だった。 と、突然後ろから声がした。 「津波は治まった…お前たちのおかげだな――…」 |
らいちゅう★ | #34★2004.08/20(金)18:02 |
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〜第8章 白い影〜 津波の後の穏やかな海から聞こえる波音と共に、聞きなれた声が、後ろから聞こえた。 「え…?」 ルイとシェリーが振り向くと、そこにはあの、アブソルがいた。 太陽の光にさらされた、黒い刃と赤い瞳を光らせている。 最初に出会った時と変わらない、凛とした表情。 「アブソル!!」 ルイは嬉しくなって、アブソルに抱きついた。 さっきまで姿が見えなかったのだから―― 「お前も命知らずだな…もう少しで波にさらわれるところだったんだからな… 私の仲間がいなければ、お前は消えていただろう…」 「仲間?」 シェリーが訊く。 「そう…この近くにいる。さっきの大きな“かまいたち”は、私と仲間たちが作ったものだ。」 そう言うと、アブソルは後ろに目を向けた。 ルイはアブソルから手を離し、アブソルの頭を撫で、静かに言った。 「よかったね……私も、シェリーも、アブソルも…みんな無事でいられて…」 絞り出すような声だった。 その声が2匹の心に響いたのか、2匹は顔を見合わせている。 それからをルイの方に顔を向け、アブソルが言った。 「あぁ…そうだな…」 やがて町の人々が、町へと戻って来た。 「津波は治まったか!?」 「みんな無事なの?」 「神が我々を救って下さったんだ!!」 人々は皆、喜びを表すように、叫んだり、跳んだり、抱き合ったりしている。 その光景を、ルイたちはホッとしたように見ていた。 「――よかった――」 すると、そのうちの一人が、ルイの方へ向かって走って来た。 地を蹴る足が止まったかと思うと、息を切らせながら話し掛けて来た。 「き、君かい? つ、津波を、止めて、く、れたのは…」 「え? あ、はい…そうですけど…」 ルイがあいまいに答える。 「いやぁ、君のおかげで助かったよ。 何しろ津波は、あともう少しで町に押し寄せて来るところだったんだからな。 君には感謝してるよ。ありがとう。」 それだけ言って、その人はまた、走り去ってしまった。 潮風が心地良く頬に当たる。 ルイたちは海が見える、小高い丘に寝そべっていた。 津波の前と後のようすは、全く変わりない。 命をかけてでも食い止めたおかげだろう。そう思い、ルイはラジオを入れた。 〈…以上で、天気予報をお伝えしました。 続いて、今日のニュースをお伝えします。 今日の午後3時27分、アイオタウンに津波が押し寄せました。 しかし、この津波は、一人の少女とポケモンによって、見事に消されました。 目撃者の証言によりますと、白く輝く大きな刃で消されたとのことです…〉 一瞬、声が出なかった。 なにを言っていいのか分からず、3人は顔を見合わせて、クスクスと笑った。 そして3人は、青く澄み切った平和な空を見上げていた―― 「ルイ、シェリー…ちょっと話があるのだが…」 ふと、アブソルが口を開いた。 「何?」 ルイとシェリーが訊く。 アブソルは少し間を置いて、静かに言った。 「…私も、仲間になりたい…ルイと一緒にいたい…」 「アブソル…」 アブソルの赤い瞳が、いつもに増して輝いている。 「…私は群れのリーダーだった。だが、これと言って友はいなかった。孤独のリーダーだった… そこに…ルイ、シェリー、お前たちに出会った。その友情が、とても素敵で… …仲間になりたいと思ったんだ…」 そのまま、静かな時間が過ぎていった―― 「…これからよろしくね!ジン!」 急にルイが声を張り上げた。 「ジン…?」 “ジン”と呼ばれたアブソルは、不思議に思い、ルイに訊き返した。 「そう。あなたの名よ。“刃”と書いて“ジン”と読むの。 これからは、ずっとずっと一緒だよ…!」 「そう…ずっとだよ、ジン!」 ルイとシェリーに自分の名を貰い、仲間になったジン。 その顔は嬉しさで満ちていた―― 「…ありがとう…!」 一人の少女と2匹のポケモンは、新たなる町を目指して進むのだった――夢と希望と友情を持って―― |
らいちゅう★ | #35☆2004.08/16(月)22:49 |
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〜第9章 雷の詩〜 霧で覆われた、名もなき場所―― そこに、ルイは一人立っていた。 辺りを見回しても、人のいる気配はない。 シェリーとジンもいない。 「シェリー! ジン!」 ルイは叫んだ。 その声はどこかに消えていった。 寂しげな霧と雰囲気が、ルイを怯えさせるように包む。 「ここは……どこなの…?」 と、どこかで声がした。 振り向くと、わずかだが、霧が少しずつ晴れていくのが分かる。 そこには、シェリーらしき姿が―― 「シェリー!」 ルイは思わず走った。 だが、シェリーのもとには着かず、どこまでも、どこまでも走っているようだった。 と、その時、空が光った。 その光は目にも留まらぬ速さで、ルイに向かって真っすぐに走って来た―― ガバッ 「ハァ…ハァ…」 窓から溢れんばかりの光が射して来る。 ジンと出会ってから、10日ほど経っている。 ベッドの上に、シェリーとジンが横になっている。 どうやらまだ寝ているようだ。 「夢…?」 布団から飛び起きたルイ。 あれは夢だったのかと、額の汗を拭う。 「――そうよね、あんなこと、ある訳ないものね。ちょっと疲れてたんだ、私ったら――」 時計の針は6時半を差している。 ルイはまた布団で横になり、寝息を立てた。 「ルイ、起きてよ。起きてってば…」 ルイの体を揺する誰かがいた。 重たいまぶたをほんの少し上げ、目を細めて見る。 すると、シェリーの顔が見えた。後ろには、あきれた顔で見ているジンがいる。 「え…今、何時…?」 目をこすりながら、シェリーに訊く。 「もう…のん気なんだから…8時すぎよ。いつまで寝てるの?」 「えぇぇ!? 8時!?」 ルイは思わず飛び起きた。目がまん丸だ。 そんなルイに驚いたのか、ジンも目がまん丸だ。 「今日は町の本屋に行く予定だったのに〜!」 「本屋に行くぐらいなら、急がなくてもいいんじゃないのか?」 シェリーの横からジンが顔を出す。さっきと変わらず、呆れ顔だ。 「それもそうだけど…いいの。あともう少しで出発だからね!」 ルイはすっかり張り切っている。 AM9:00―― 「とうちゃ〜く!」 ここはアイオの本屋。結構大きい。 ルイは叫ぶなり、すぐさま中へ入っていった。 手にした本のページをパラパラとめくる。 「何かないかな〜。」 そうつぶやいたとき、一冊の本が目に留まった。 「雷…?」 本を開けると、行書で文字が書いてあった。 “雷の力 手に入れたき者よ 水は落ち 風は吹き抜け 木の葉舞い上がるとき 天の道 開く 空走る稲光の影 現れたし” この文字の意味に、何かとても深いものを感じていた―― |
らいちゅう★ | #36★2004.08/29(日)10:45 |
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〜第9章 雷の詩〜 「雷…ねぇ…」 ルイはそうつぶやくと、静かに本を閉じた。 その時―― カッ ゴロゴロゴロ…… ザァ―――ッ 驚いて窓から空を見上げると、白い稲光が走ってゆくのが見えた。 空は黒い雨雲で覆われ、バケツの水をひっくり返したような大雨が降っている。 ルイは急いで外へ出た。 本屋の外で待っていたシェリーとジンが、体を震わせて水を飛ばしている。 「なんなのさー!? この大雨ときたらー!」 シェリーが空に向かって文句を言っている。 「急に降って来たんだ…あっと言う間の出来事だったな…」 ジンがルイを見上げて言った。 降り続く雨。一向に止む気配はない。 「…仕方がない。ちょっと小さいけど、折り畳み傘差して行くか…」 ルイはバッグから傘を出そうとした。 と、急に後ろから声がした。 「君たち、ポケモンセンターまで送ってあげようか?」 後ろを振り向くと、一人の少年が立っていた。 ルイより少し年上に見える。横にはおとなしそうなケーシイが眠っている。 「あ、いえ、いいです……傘、ありますから…」 ルイが断ろうとしたが、少年は去っていく気配はない。 それどころか、寄って来る。 シェリーが嫌そうな目で見上げている。 「いいんだよ。僕のケーシイで一っ飛びさ。」 少ししつこいようにも思えたが、ルイはその少年にポケモンセンターまで送ってもらうことにした。 「ありがとうございます。」 「では、僕はこれで…」 ポケモンセンターに着いた後、少年は去っていった。 ルイの足に、シェリーがピッタリくっついている。 「ねぇねぇ…怪しいよ。あの人…。妙に馴れ馴れしいもの…」 「私も思った。あの人、『トウジ』って言うんだって。」 「何で名前知ってるの?」 「バッグに名前が刺繍してあったの。」 「ふーん…」 そんな会話をしながら、センター内で雨が止むのを待つことにした。 しかし… 「なぁ、ルイ……私たちが本屋を出る前までいたセンターって、“アイオ”だったよな…?」 ジンが窓の方を見ながら、ルイに訊く。 相変わらず、凛とした表情だ。 「ええ、そうだけど…どうしたの?」 「…ここのポケモンセンター、“コグレ”っていうらしいな…」 「え?」 ルイが窓に駆け寄ると、窓から見える看板に“ポケモンセンター・コグレ”と書いてあった。 よく見ると、周りの景色も違う。さっきのアイオに比べて、建物が多い。 そう、ルイたちは、トウジのケーシイのテレポートで、 “アイオ”のセンターではなく、“コグレ”のセンターに来てしまったのだ。 「ウソ…」 「どうして…?」 「……」 雨が降り止んだ。 外には数多くの水溜りがある。 しかし、空は曇ったままだ。また降りそうな予感がする。 ルイたちは、窓から外を眺めていた。 ふと、シェリーが声を張り上げた。 「あ! あれ、トウジさんじゃない?」 見ると、確かに、ルイたちをテレポートで送ったトウジだ。 「ちょっと行ってみよ。」 ルイはポケモンセンターの外へ駆け出した。 後からシェリーとジンが追う。 コグレでの奇妙な出来事が始まろうとしていた―― |
らいちゅう★ | #37☆2004.09/05(日)20:50 |
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〜第9章 雷の詩〜 「トウジさーん!」 ルイはトウジを呼び止めた。 「あ、な〜んだ、君かい?」 振り向いたトウジの手には、一冊の本があった。 どうやらそれを読んでいたようだ。 ルイが近寄ってみてみると―― 「!」 その本に書かれてあったものは、ルイがアイオの本屋で手にした「雷」の本だったのだ。 本には、こう書かれてあった。 “闇に光る白き矢よ 止まない水音 落ちてゆき 疾風に乗り 地と空を駆ける 地には水跡残り 空は光る” 「――これって――」 ルイの目は本に釘付けだ。 しかし、その本から、何か感じるものがある。 水音…疾風…水跡…光る… 何かが頭の中に引っ掛かっている。 アイオの本屋で読んだものにも、関係があると思える。 この本に、何かが隠されているように思えたルイだった―― 湿った風が、建物の間を吹き抜ける。 止んだ雨は再び地上に降り注ぐ。 空を覆う雲は黒さを増している。 時たま、雷がゴロゴロと鳴り、空が光る。 あの後、ルイたちはポケモンセンターに入ったきり、外に出ることが出来ずにいた。 「いつまで降るの…? この雨…」 センターの窓から、降り続く雨を眺めて、シェリーがブツブツ言っている。 その横で、あきれた顔をして外を眺めているジンがいる。 「太陽は雲の上…しばらく出て来そうにないな…」 「そのようね…」 窓辺で話す2人の傍で、ルイが「雷」の本に目を通している。 静けさに満ちた時間だった。 カッ 突然、空が光った。――雷だ。 ルイたちの視線は外へと向けられた。 どうやら近くに落ちたらしい。 「ルイ、凄いね…雨は降るわ、雷は落ちるわで……私の雷以上だよ。」 「本当…どうなってんだろ。この異様な程の天気は…」 3人の目は空を向いている。 ふと、雲の隙間から、白く光る黄色いものが見えた。 「あれは…!?」 やがて、それははっきりと見えるようになってきた。 ――ライコウだ。 驚いた3人は外へと飛び出してしまった。 ライコウは地上を見つめている。 「我が名は雷の使い、ライコウなり…」 |
らいちゅう★ | #38☆2004.09/09(木)18:42 |
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〜第9章 雷の詩〜 雷を落とすライコウ。 ライコウの瞳には、ポケモンセンターの前に立つ、ルイたちが映っている。 体中に雷をまとっている。 「ライコウだ! 雷の使いだ!」 あまりの光景を見て、人々は逃げ出してしまった。 ルイは手元にあった「雷」の本をめくった。 「――何かこの本に書いてないかな――」 ふと、一つのページに吸い寄せられ、そのページを読んでみた。 “空走る稲光の影 白き矢は光をまとい 地に降り立つ 空は曇り 水は落ち 光落ちるとき 矢は影を現す 地の粉に光落とされば 光る石 現す 我ガ名ハ雷ノ使イ ライコウナリ” 「何やってるんだ? こんなときに…」 横からジンが覗き込む。 「この本と、ライコウの関係を調べてるの。」 “雷の使いの怒りに触れるべからず されば水と光と風の舞いなり” “怒り止めし者よ 光を集めよ 空に放てよ さすれば時は終わる” 「ルイ! 危ない!」 シェリーが叫んだ。 その途端、白く光る矢のようなものが迫って来た。 ライコウの落とした雷が、ルイたちの足元に落ちたのだ。 「わっ!」 なんとか、ギリギリで避けられた。 だが、地盤は雨で緩んでいたため、ルイは足を滑らせてしまった。 「…っつ…」 滑らせた拍子に、右足を挫いてしまったようだ。 その場から、起き上がることが出来ない。 起きようともがけばもがくほど、足を痛めるだけだ。 「ルイ! 大丈夫か!?」 ジンがルイを起き上がらせようとするが、起きることが出来ない。 そんなルイを、少し離れた場所から、シェリーが見守っている。 と、何を思ったのか、シェリーがライコウの方に向かって走り出した。 「シェリー! どうしたの!? 止まって!」 ルイが止めようと叫ぶが、全く聞こえていないようだ。 シェリーの瞳は一直線に、ライコウを見つめている。 「――ルイ、待っててね…――」 走りに走って、シェリーはライコウのもとに辿り着いた。 ライコウは雷を落とすのを止め、足元にいるシェリーに話し掛けた。 「何の真似だ…」 息を切らせながらも、シェリーはライコウを見上げて言った。 「…あなたが雷を落とすのを、止めさせに来た……どうしてこんなことをするのか、教えて欲しいから…」 すると、ライコウはにらみを利かせて、右の前足を少し後ろに引いて言った。 「我は何故雷を落とすのか…自分勝手な人間どもを解からせるためだ…」 「自分勝手な…人間…?」 見上げていたシェリーがうつむく。 怒り狂ったように雷を落としていたライコウは、シェリーが来て少し冷静になったようだ。 「我ら伝説のポケモンを見ただけで恐れをなして逃げる、勝手な人間ども… ポケモンを奪い、無理矢理自分のものにする、勝手な人間ども… そんな人間が、我々ポケモンといる資格は無い…」 「…そんなことはない…」 「何故だ…何故そんなことが言える…?」 ライコウはもっとにらみを利かせて、少し態勢を低くした。 「人間とポケモンは、違う生き物だけど、みんな、協力しあわなきゃ…生きていけないと思う… それに、人間は悪い人ばっかりじゃないよ…」 シェリーは両手を胸の前で組む。 顔はうつむいたままだが、真剣な表情をしている。 人間――ルイと一緒に生きてきたシェリー。 違う生き物との共存。人間と一緒に生きてきて、それが大切なことだと解かっている。 ライコウを目の前にして―― 「だから…お願い…これ以上雷を落とさないで…危害を加えないで…!」 「人間といるお前に、何が解かる!!」 カッ ドシャアァァン! 「ぅわあぁぁ―――っ!!」 ライコウはシェリーに大きな雷を落とした。 身動きの取れないシェリー。雷で締め付けられている。 「くっ…くぅっ…」 「フッ…愚か者め…」 次にライコウは、右の前足で地を蹴り、シェリーに小石を当てた。 シェリーに雷と、小石のダメージが降りかかる。 「――ルイ、ごめんね…私…――」 そのとき、シェリーから眩しいほどの光が解き放たれた―― |
らいちゅう★ | #39☆2004.09/09(木)21:52 |
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〜第9章 雷の詩〜 「あれは…!?」 右足を挫いてしまったルイは、ジンに乗り、シェリーのもとへと急ぐ。 その途中、シェリーのいるところから、眩しいほどの光が放たれているのが見えた。 「ジン、急いで!」 「わかっている!」 ルイとジンは、シェリーの驚くべき光景を、目の当たりにする… シェリーの光は雷と小石をも振り払った。 体は大きく、しっぽは長くなってゆく。 ここで、シェリーの解き放った光がおさまった。 シェリーはピカチュウとはまるで違った格好をしている。 体は以前より大きく、しっぽは更に長く、体はオレンジ色で、お腹は白く、耳はカールしていて、頬っぺたは黄色くなっていた。 ピカチュウのときのような、丸く可愛い目をしている。 そう、シェリーはライチュウへと進化したのだ。 「…ふぅ…」 シェリーは一息つき、自分の姿を見るために、首をあちらこちらに動かした。 「私…進化…したの…?」 「シェリー! シェリー!」 誰かがシェリーを呼ぶ声がする。 声のする方に目を向けると、ルイがジンに乗ってやってくるのが見えた。 「ルイ! ルイ! 私、進化したよ!」 シェリーもルイとジンの方に向かって走る。 そしてシェリーはルイに飛びついた。 嬉しさでいっぱいだったのだろう。 2人は涙を流していた。 ジンもそんな2人を見て、満面の笑みをこぼしている。 「人間…」 ライコウがつぶやいた。 「ライコウ…あなた…」 ルイが見上げて言う。 シェリーも、ジンも、ライコウを見上げている。 「ライコウ、これからどうするの? また雷を落とすつもり?」」 シェリーが訊く。 「あぁ…そうさせてもらう!」 叫びと共に、シェリーの頭上を雷が襲う。 しかし、シェリーは雷を上手く交わし、長いしっぽをぴんと立てた。 「何!?」 「言ったはずよ…私は進化したの。同じ手は喰らわないよ!」 シェリーは前よりもぐんと速いスピードで、ライコウの雷を交わす。 ルイは頭の中を巡っていた言葉を思い出した。 『怒り止めし者よ 光を集めよ 空に放てよ さすれば時は終わる』 それは、「雷」の本に書いてあったものだった。 それだけではない。今まで引っ掛かっていたものも、すべて解くことが出来た。 「雷」が表していたもの――それは、今、この場にいることのすべてなのだ。 水は雨、光は雷、矢はライコウ。そして、光る石は雷の石を表していたのだ。 光る石――雷の石で、シェリーは進化したのだ。 どうやらライコウは、雷の石を作り出す力を持っているらしい。 ルイはシェリーに言った。 「シェリー、止まって! しっぽを立てて!」 言われるがままに、シェリーは止まり、長く伸びたしっぽを立てた。 何か作戦があるのだろう。 「無駄なことを!」 ライコウは次々に、シェリーに雷を落とす。 その雷をすくい取るように、ダメージを受けながらも、シェリーはしっぽをしなやかに動かしている。 「今よ! 空に向かって雷!!」 ルイが叫ぶと同時に、シェリーは精一杯の力を込めて、しっぽから集めた雷を空に放った。 力強く、大きな雷を空へ―― 気付いたときには、空はすっかり晴れていた。 青空に光る太陽が、さんさんと照りつけている。 ルイたちの目の前にいたはずのライコウは、姿を消していた。 「夢かなぁ…?」 そう言って、ルイはシェリーを見つめた。 やっぱり夢ではない。シェリーはちゃんと進化している。 「よかった…」 ルイが微笑むと、シェリーもジンも微笑んだ。 ふと、町と反対側の方を見た。 その先には、白く光るライコウがいた。 『頑張れよ』と、聞こえたような気がした―― 「ルーイさん♪」 誰かがルイを呼んでいる。 振り返ると、そこには、一匹のハクリューがいた。 どこかで見たことのあるハクリューだ。 「お久しぶりです、ルイさん。サヨです…」 「サ、サヨ!」 そう、そこにいたのは、あのとき湖で青い玉を無くし、ルイたちが探して、ハクリューに戻れた、サヨだった。 あのときと変わらない、綺麗で、透き通ったような声だ。 「どこに行かれるのです?」 サヨは訊いた。 「うーん…シェリーも進化したことだし、家に帰ってみようかな…」 「え? 帰っちゃうの?」 今度はシェリーがルイに訊く。 「母さん達もいると思うよ。」 「そうだね。」 シェリーは安心したような顔をした。 「では、ルイさん、私が家まで送り届けます。」 「えっ、いいの?」 「もちろんです。今度は、私がルイさんの力になるのです。私はルイさんに助けられた身ですから…」 少し恥ずかしそうに、サヨが言う。 恩を仇では返せないようなタイプだ。 「じゃあ…サヨ、家までお願いね! シェリー、ジン、帰ろう!」 「「OK!」」 青い龍に乗った少女は、たくさんの思い出を持って、家へ帰ることにした―― |
らいちゅう★ | #40☆2004.09/10(金)22:40 |
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〜第10章 故郷〜 ♪歩きつづけて どこまで ゆくの? ♪風に たずねられて 空をみる ♪歩きつづけて どこまで ゆこうか ♪風と いっしょに また歩きだそう ルイたちはサヨに乗り、空中散歩を楽しんでいた。 ルイとシェリーはサヨに乗って、サヨと一緒に、歌を歌っている。 ジンはボールの中で、下に広がる世界を見渡している。 「ジンの故郷が見えたよ!」 高く響いたシェリーの声を聞き、ボール越しに、ジンは町を眺めている。 ジンと出逢った、アイオの町。ついこの前のことなのに、懐かしさで溢れている。 「あっ、ここはワイルドロードだね!」 下を見下ろしていたシェリーが言った。 ワイルドロードは、ルイたちが興奮したバクーダを止めに踏み入った道だ。 あのバクーダは今頃どうしているだろうと、ルイは気になっている。 「元気かな…あの道のポケモンたち…」 「暴走してなきゃいいけどね…」 シェリーの冗談。ルイは思わず笑ってしまった。 「私もこの道にいた頃があったな…」 ジンがボール越しに言う。 「え? そうだったの?」 ルイが訊くが、ジンは何も言わなかった。 「ここはネオンシティですよね。」 サヨの声を聞き、ルイは町を見下ろした。 いつ見ても、この町は人で溢れている。 姉、エミと勝負した草原も、学校も、あのときと何一つ変わっていなかった。 「懐かしいね…あの頃がとっても…」 ルイは思い出と、下に広がる世界を、重ね合わせて見て、うっとりしていた。 目の前に、緑の広がる森が見えた。 サヨと出逢った森だ。滝も見えて来た。 サヨの声のような、透き通ったような空気が流れて来る。 「ここの空気はいつも綺麗ね…」 ルイたちは穏やかな気持ちに包まれた。 田舎のような、古風な町、エフラタウンが見えて来た。 レナと勝負した公園も見える。 公園には、何人かの子供たちが、ポケモンを出しあって遊んでいる。 私にも、こういう時代があったんだなぁと、ルイはつくづく思う。 「アイリーンたち、今頃何してるんだろ…」 シェリーがそっとつぶやく。 と、ルイの目に、青く光る広い海が見えた。 海の手前には、町が広がっている。 「ジン、あれが私の故郷よ! シェリー、帰って来たよ! 私たちの故郷へ!」 ルイの故郷、海の命輝くシーナズシティ―― 町に降り立つと、潮風が心地良く迎えてくれた。 穏やかな波音と潮風が、町全体を包み込んでいるようだ。 久々に故郷に帰れたルイは、ほっとしたり、喜んだり。 町の人々は、ルイを見て、「ルイちゃんが帰ってきた」と話をしている。 それほどルイは有名だったのだろう。 「では、私はこれで…」 サヨは羽を風になびかせながら、森へと帰っていった。 「じゃあねー! サヨさーん!」 「さぁ、家に帰ろう。」 「母さん、父さん、お姉ちゃん、ただいま―――!!」 ルイの声が、家の中に響く。 しかし、家の中はしーんと静まり返っている。 誰もいないのかと思ったとき、急にパッと明るくなった。 「誕生日おめでと―――! ルイ!!」 母、父、姉の3人の声が、一度に聞こえた。 そう、今日はルイの誕生日だったのだ。 「ありがと!!」 ルイはとびっきり大きな声で家族に言い、急いで上がり、イスに腰掛けた。 「ルイ、ごめんね…約束守ってあげられなくて…」 母は少し残念そうに言った。 「いいよ。もう過ぎたことだし…」 「旅はどうだったかい?」 今度は父が訊く。 ルイはすくっと立ち上がり、シェリーとジンを見せた。 「どう? シェリーは進化して、ライチュウになったの…素敵でしょ♪ で、こっちはアブソルのジン。新しい仲間よ。私だって、立派なトレーナーなんだから…」 シェリーとジンの瞳は、自分をアピールするように、輝いている。 2人とも、とても立派だ。 「今度はもう一度、私と勝負しなくちゃいけないわね…」 横目で見ていたエミが言う。 何気に、自信満々だ。 「そうね…私たちの力、見せてあげなくっちゃね!」 誕生日の騒ぎはおさまり、ルイたちは部屋に戻った。 旅の疲れもあって、しばらくベッドで横になる。 ふと、何を思いついたのか、ルイは机に向かい、何かを書き始めた。 「ルイー! ケーキ食べないのー?」 母の声が聞こえた。 「あっ、はーい、今行くー! シェリー、ジン、行こう!」 「「OK!」」 窓から心地良い風が入って来る。 ルイの部屋には誰もいない。 代わりに、机の上にノートが1冊、開いた状態で置いてあった。 ――ルイの日記のようだ。 ―9月10日― 私は旅を終えて、家に帰宅した。 家には父さん、母さん、お姉ちゃん、みんな揃っていた。 とても嬉しかった。 旅を終えた私。 何か変わったのかな。 ジンも仲間になって、シェリーも進化して。 でも、一つだけ言えることは、旅はまだ終わってはいないということ。 私の本当の夢は、世界中のポケモンや人々と、ふれあうこと。 その夢を追いかけて、これからも頑張っていきたい。 私には、シェリーもジンもいる。仲間がいる。 仲間と一緒に、どこまでも行きたい。 そんな思いが強いから、私の旅は終わらない。 夢を掴むまで―― 命の限り―― 『夢旅』 END |
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