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らいちゅう★ | #1★2006.12/12(火)20:20 |
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〜第16章 白〜 × × × 昔、ある神社に、6匹のポケモンと1匹の神様が住んでいました。 6匹のポケモンたちは神様に仕え、自然界の平和を守るために働いていました。 災いを呼び起こす白い獣、災いを鎮める青い竜、4匹を統率する金の獣、時間を見守る緑の神様。 自然界のバランスが崩れれば、この世の全てが終わる。 そうならないようにするのが、ここに住むポケモンたちの仕事であり、任務であり、使命でした。 しかし―― × × × 大昔からずっとここにあるような存在感が漂うのは、ただの気のせいではないだろう。 ルイとシェリーとクルスと、私――ジンは、大きな神社の前に立っている。 異様なまでに伸びた草原の一画に、威厳さを醸し出している、古びた神社。 何年前に建てられたのかはわからないが、大体の想像は出来る。 これを建てたのは間違いなく人間だ。 しかし、その後の装飾は、自然が長い時間をかけて作り出したものだ。 その、自然がこれを作っていた工程の様子は、私の目に焼き付かれている。 記憶の片隅。 封印したかった記憶の糸が、ゆっくりと解かれはじめる。 あの頃の、あのときの、記憶。少しずつ、少しずつ、解かれてゆく。 思い出してしまった。 私は――ここに、来たことがある。それも、長い間ここに居座っていた。 ――何かいる。 「どうしたの? ジン。」 視界にシェリーの顔がひょっこり現れた。 「…いや、なんでもない。」 反射的に彼女から視線を逸らす。と、今度はクルスが視界に入ってきた。 ミュウと出会ってからかなりの時間が経った今、彼女はサーナイトの姿になっている。 つい昨日進化したばっかりのその身体は、出逢ったときからその身体だったような存在感がある。 もう隠せない青色の瞳が優しくこちらを見つめる。 自然、微笑んでしまう。 「行こう。変な道を歩いてたら変なところに出ただけよ。ここを通れば、我が家はずっとちかくなるんだから」 夕暮れ。 空が鮮やかなオレンジ色に塗りたくられて、太陽は金色の光を放ち西へと沈みかけている。 美しい情景とルイの声に背中を押され、仕方無しに歩を進める。 そう、私たちは、家に向かっているのだった。 故郷。 この場所こそが、私の故郷なのかもしれない。 信じたくは――ないけれど。 「ねぇ、ルイ…。ここってどこ?」 「さぁ」 「さぁ、って…家に帰ってるはずなんだよね?」 「あくまでも“家が近くなる”というだけよ。家のある方角に向かっているだけ。ここがどこかなんて、私も知らない」 「え、えぇ…?」 途惑うシェリーに向かって、ちろと舌を出してみせるルイ。苦笑を浮かべるクルス。 そして、1人と1匹の傍で小さく笑っている碧眼のサーナイト。 …果たして本当に帰れるのだろうか。 ――お前が帰るべき場所はここだ―― ――! 急に、何かの気配を感じた。 振り向いて辺りを見回すが、ルイとシェリーとクルス以外は誰もいず、ただ雑木林だけが広がっている。 けれどその気配は消えない。 音はなく、においもほとんど感じない。ただ、こちらを睨む鋭い視線だけを感じる。 殺気のようでもある。 哀れみのようでもある。 わかるのは、愛しさは微塵もないということ。 推測できる。 このフィールドでそんな視線を注がれるということは。 ――裏切り者には、ちょうどいい場所かな。 「ジン!危ない!」 誰かが叫んだ。聞き覚えのある声だった。 同時に、私は抵抗する間もなく強制的に闇の中に引きずり込まれ、そのまま意識を失った。 |
らいちゅう★ | #2★2006.12/17(日)14:00 |
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「ここは…?」 静寂の中、目が覚めたら、私の体は地から浮いていた。 植物のツルで大木に縛り付けられていたのだ。 そして、あることに気付く。 「…!? シェリー? クルス? ルイ!?」 3人の姿が見えないのだ。 呼んでみても叫んでみても、誰の何の反応も返って来ない。声も聞こえない。 辺りを見回しても物影一つなく、静寂が再び私を包みこむ。 身体を動かそうとしてもきつく縛られているため、全く身動きが取れない。くぅ…何ということだろう。 何とかこのツルから抜け出そうと抵抗してはみるが、その無意味さを感じ、あきらめて、うなだれる。 無駄だったな…酷い徒労だ。我ながら馬鹿馬鹿しい。 一体ルイたちはどこへ行ったというのだろう。 ふと、頭上でポケモンの鳴き声がした。 何のポケモンかはわからなかったが、どこかで聞いた事のある鳴き声だった。 それに反応して顔を上げる。 荒々しく墨を流したような、闇のように真っ暗な空が視界に広がる。 群青を通り越し、暗黒とでもいうべきか。漆黒か?…どっちでもいい。無論、日はすでに沈んでいる。 その夜空で小さく光るのは、満月。 どこも全く欠けていない、見事な、綺麗な、まあるい満月。 今日は何月何日だったっけ、と刹那考えた。 月。 それをじっと見ていると、条件反射なのだろう、私はアイツのことを思い出してしまう。 この満月のような優しくて明るい笑顔を私に向け、素直で前向きな瞳を輝かせていた、アイツを… 「シーグ…」 そうだ。アイツと出会ったのも、ここだった。 ここで出会い、ここで育ち、ここで遊び、ここで働き、そして、ここで――。 その先は、思い出したくない。 壊れてしまいそうだから。 「…どうやら私も終わりみたいだよ、シーグ…」 満月に話し掛けてみる。当たり前だが反応は何もない。 それでも良かった。 十分だった。 「…早く、逢いたいな」 緊張の糸が解けたのか、それともただ単に風に吹かれただけなのか、急に身体が冷える。 視界がほんの少しぼやけた気がするが、それはやっぱり気のせいで、月の輪郭がはっきりと見えた。 なぜかは、わからない。 「――逢えるかな」 × × × ――ある日、災いを呼び起こす白い獣が言いました。 『もうこんな仕事はしたくない。苦しみの後に幸せが生まれても、犠牲になったものはもう2度と返っては来ないのに』 これを聞いたもう1匹の白い獣は、彼女と共に神社から逃げ出そうと決心しました。 彼女は臆病な性格からか、最初は逃げ出すのを躊躇しました。 そんな事はできない、しては駄目だ。あの方には逆らえない、逆らってはいけない、と。 けれど、一度決心した彼はもう後に引く事はなく、逃亡する為の作戦を考え、彼女に何度も言って聞かせました。 彼は本気でした。 いつもは能天気でへらへら笑っていて頼りない彼が、この時だけは真剣な表情で――むしろ彼女を元気付けるように――彼女を説得するのです。 彼も、彼女と同じ考えを持っていたのでしょう。 そんな彼に彼女はやっと折れて、2匹は逃亡を決意しました。 彼女は嬉しかったのです。 やがて、2匹の逃亡計画が実践される日が近づいてきました。 彼等が願い、祈り、待ち望んだ日。 ところがその日、彼と彼女の間を切り裂く恐ろしい出来事が待っているとは、誰も知りませんでした――。 × × × 「目が覚めたのか…」 静寂が破壊された。 聞こえたのは、さっきの気配と一致する声。 意識を失う前に感じた気配と、同じだ。 「やっと見つけたと思ったら、人間と一緒にいたとはな…」 どこからともなく近づいてくる声。私は反射的に身構えた。 来る。 私は今に殺される。 わかっている。 裏切り者は、殺される。 わかっていた。 ――裏切り?…だろうな。 やがて陰の隙間からちらちらと金色の光が見えてきた。 生暖かい風が通り過ぎ、辺り一面に生えている草がなびいたとき、その紅い瞳が私の眼に映った。 今、はっきりと思い出した。そいつのことを、鮮明に。 忘れていた訳じゃなかった。ただ単に思い出したくなかっただけで。 だから。 不気味に光るそいつは言った。 「そうだろう? 白刃…」 ――火影。 × × × その日は朝からずっと雨でした。 豪雨とでもいうべき土砂降りで、地盤が緩くなっていました。 灰色の雲の下、降り止まない雨の中を、白い2匹の獣は走りました。 神社を出て鳥居をくぐり、出口の見えない森の中を一緒に駆け回りました。 誰にも見つからないように、2匹は必死に走りました。 身体に突き刺さる雨粒も、踏むたびにはねて足を濡らす泥水も、目に入ってくる水滴も、彼等は全く気にしませんでした。 彼等は解放されたかったのです。 彼等は自由を手に入れたかったのです。 彼は彼女と一緒にいたかったのです。 彼女も彼と一緒にいたかったのです。 その為なら何だってやる、何でもできる――そう2匹は信じていました。 やがて彼等の走る道は広がっていき、その先には一筋の白い光が見えて―― × × × |
らいちゅう★ | #3★2006.12/27(水)00:17 |
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この神社につかえるキュウコン、火影。 金色の体に紅い瞳が怪しく光り、9本のしっぽが炎のように揺らめいて、どこか幻想的だ。 しかしその反面、奴の表情は氷のように冷たく、毛並みはほんの少し逆立っている。 当然と言えば、当然だ。 「…ずっと探していた。」 奴は言った。私を見上げる目は、鋭利な刃物のように鋭くて冷たい。負けじと私も睨み返す。 「この神社から逃げ出したお前を、ずっと探していた。」 「…」 「災いを呼ぶお前は、この仕事に苦痛を感じて、この神社から逃げ出したんだ…。ここの有力者の1匹でもある、アイツと逃げ出したんだ。この神社、この仕事から逃亡したんだ。そうだったよな?」 「…」 「だが、お前はアイツとの逃走途中、洪水に巻き込まれた。」 「…」 「お前と逃げ出した相手、それは――…小刀――シーグ――だろう?」 「!」 刃物が、私の中の痛々しい記憶を呼び覚ます部分をついた。 小刀…小刀…アイツ…シーグ…。 それだけは…それだけは、あの時間だけは、封印したかったのに…。 「しかもその結果、お前は、アイツを――」 「黙れ!」 私は叫んだ。 自分でも信じられないような大声で叫んだ。 「それ以上喋るな!それ以上その口を動かすな!それ以上…それ以上…!」 「…フン」 ヤツ――火影は、冷たく小さく笑った。 「それでも抵抗しているつもりか?」 「喋るなと言っただろう!」 「…やれやれ」 呆れられてしまった。 落ち着け…頭を冷やせ…冷静になれ…そして考えろ…。そう自分に言い聞かせる。 いつの間にか身体が熱くなってしまっていることに気付き、高鳴る胸の鼓動を無理矢理押さえつける。 落ち着きなさい。冷静を取り戻しなさい。焦ってはいけない。 私がしばらく黙っていると、火影はニヤニヤ笑って言った。 「まぁ、それについては喋らないでいておいてやる。お前も重々承知の事だしな。どうでもいいことじゃないが、今現在、どうでもいいことだからな」 「…それはどうも」 「戻ってきてくれて感謝するぜ。お前たちがいない間に俺様たちはどれだけ苦労したことか…。操る奴がいないってのは疲れるもんだ、自分で動くしかないんだからな。だがその苦労もこれからはなくなるということか。あぁ、何て喜ばしい事なのだろう! 素晴らしい、実に愉快だ! これほど楽な事はないのだ!」 「…皮肉屋。天邪鬼。全然感謝なんかしていないくせに」 「あぁ、そうだ。感謝などしていない。これっぽっちも微塵も一寸たりとも小指の爪の先ほども、俺様はお前に感謝などしていないな」 「…」 今度はこっちが呆れた。全く…皮肉屋で、天邪鬼で、饒舌で、冷たくて…相変わらずな奴だ。 火影から逸らしていた目を元の位置に戻し、再びその面を睨みつける。奴は再び喋りだす。 「まぁ、それはお前がこっち側に戻ってきちんと仕事をすれば、の話だ。一度逃げ出したお前だ、すんなりと引き受けてくれるわけがないだろうよ。そのぐらい俺様にだってわかるさ。だがな、その前に…」 「何だ」 「聞きたい事が山ほどあるんだ」 「…何だ」 同じ言葉を火影にぶつける。 わかっては、いた。でも、あえて聞いてみた。聞いてみたかった。 「聞きたい事とは、何だ」 「フン――」 ――何故逃げたのか。 ――どうして人間と一緒にいるのか。 ――何故シーグを連れて行ったのか。 ――どうして今ここで俺と対峙しているのか。 ――お前は何がしたかったんだ。 ――お前は何のために戻ってきたんだ。 …様々な言葉が、予想される問い掛けが、次々に脳裏に浮かんでは消えた。 浮かんでは消えて、また浮かんでは消える。浮かぶ。消える。 自問自答し、それを何度か繰り返した。 ――お前は何なんだ。 ――お前は生きていたのか。 ――何故シーグを連れてこなかったのか。 ――人間と一緒にいることは楽しいか。 しかし火影はその間、全く言葉を発していない。何も喋っていない。 ずーっと黙ったまま、鋭い目で私をじっと、目をそらすことなく飽きることなく、睨んでいる。 あんなに饒舌を振舞っていた奴はどこにいったのか。 あんなに私を皮肉り、天邪鬼を演じていた奴は――火影は、どこにいったのか。 私の知っている火影は、どこにいってしまったのだろうか。 × × × 目の前に、無残にも無惨にも荒れ果てた自然の姿がありました。 そこにあったはずの木々はなぎ倒されていて姿が見えず、代わりにあるのは茶色く濁った大量の水でした。 あらゆるものを全て飲み込んで、ごうごうと恐ろしい音をたてて、荒れ狂ったように、竜のように、水は進みます。 その流れは速く、少しでも中に入れば命を落としかねないほどのものでした。 目の前を波に乗って横切っていく木々。木の葉。木の実。誰かの落し物。 濁流。 2匹は足をとめました。 今、自分達が立っているこの場所も、じきに濁流に飲み込まれそうな気がして、彼女は戦慄しました。 ここを渡ることはできない、逃げることなど不可能だったのだ、最初からこんな脱出計画なんて考えなければよかった、と。 しかし、震える彼女の隣で彼は、思いつめたような、真剣な顔をして 「行こう」と言ったのです。 彼女は驚きました。けれど今更、彼の意志を曲げることなど彼女にはできず、力強い眼差しに心を打たれ、黙って頷きました。 彼は濁流に1歩近づきました。 1歩ずつ――1歩ずつ――しっかりと歩を進める彼の後ろ姿を、彼女は心配しながらも見つめ、彼に習って自分も1歩進み出ます。 1歩――1歩――彼女は踏みしめます。 濁流が目の前でごうごうと通り過ぎます。 彼は振り返って、優しい眼差しで彼女に微笑みかけました。 彼女もまた、微笑みました。 そして、彼は―― 「大丈夫、ぼくたちはどこまでも一緒だから」 刹那―― × × × |
らいちゅう★ | #4★2007.01/01(月)10:42 |
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長い時が流れた。たぶん、気のせい…そんな気がしただけだ。実際に流れたのはたったの1分程度だろう。 火影がとうとう口を開いた。 ため息に似た言葉だった。 「まぁいい。本当はわかっているんだ、全部。お前の、俺様が問い掛けてくるだろうと予想がつく質問の答えも、言いたい事も、やった事も、過去も未来も――全部な」 ――全部? 果たしてそれはどういう意味なのか。 聞きたい事があるんじゃないのか。山ほどもあるんじゃなかったのか。 わかっているとは、どういうことなのだろう。 何がわかっているのだろう。 「お前はまだ気付かないのか。俺様は今『全部わかっている』といったばっかりだぞ? 小刀とお前の逃亡を俺様が知っていることぐらい、お前にだってわかるだろう。お前なら百も承知の事実だろう。しかし、普通ならそこから先の事は、見ていない限りわからないことだ。見ていない限り――…俺様の口から何故「しかもその結果」という言葉が出てきたのか、わかるか?」 ――しかもその結果? 頭の中で、火影との話の内容や台詞や仕草を思い出し、巻き戻し、ゆっくりとそしゃくする。 しかもその結果。 あぁ、狂いそうになった私が叫ぶ前の、火影の言葉だ。無意識に叫んだ私を嘲笑う前の、火影の言葉だ。 考える。 しかも、その結果。 その結果。 結果――… 「――!!」 「…気付いたか?」 火影がまた、笑った。 まさか。 シーグがあんなことになることを、 シーグがあんなことになったことを、 何も出来なかった私のことを、 あの手を掴めなくてただ泣いていた私のことを、 シーグと私のことを、 こいつは――すべて。 火影がまた、笑った。 「そう、見えていたからだ…。俺様には、全てが見えていたのだからな。運命――というものがな」 「――貴様…!」 「そうだ、アイツは死んだのだ! シーグはお前に殺されたんだ! お前がシーグを殺したのだ! 俺様はこの目で見ていた!」 「ふざけるなぁっ!!」 私は再び叫んだ。腹の底から叫んだ。 怒りで我を見失いそうになるのを抑えて、けれど震えは止まらず、心の底から叫んだのだった。 悲痛な叫び声だった。 私は叫び続ける。 「じゃあどうしてそれを教えてくれなかったんだ!? こうなることが最初からわかっていたというのなら、何故教えてくれなかった!? 貴様…アイツの死がわかっていて…なおも黙って、嘲笑って見ていたというのか! ふざけるな! シーグは…貴様が教えてくれていたら…私は…私は――」 最後の言葉は、続かなかった。 身体中が燃えるように熱くなって、もう頭がいっぱいだった。 どうしてこうなったのだろう。 どうして今更。 どうして――。 シーグは今、どんな気持ちでこの様子を見ているのだろう。 「――落ち着けよ、白刃。俺の記憶力がピカイチなことはお前も知っているだろう? あの方が見せてくれたのだよ。一度だけ、未来を――そのときに見たんだ、お前たちの行く末をな。それはそれは素晴らしいものだったぞ? 見物だったな」 ――あの方。緑の神様。 その言葉を聞いて、身体から熱がすぅーっと逃げていくのを感じた。 力が抜ける。壊れた人形のように、がっくりと。 ――緑の神様。 四次元の空間を――過去と未来を――自由自在に行き来し、世界のあらゆるもの…森羅万象を見守る神。 別称――時の神様。 小柄で、ふわりふわりと空中をさまようごとにまわりの緑は蘇り、空気がきれいに澄み渡る。 代々この神社を守り抜いてきた、緑色の、あの方。 ――緑の神様。 あぁ、あなたはなぜそのようなことを? どうして火影なんかに私たちの行く末を? その結果、見殺しにされたシーグの気持ちをあなたはおわかりなのですか? あの手を掴めなかった私の醜い姿を、何故黙って見ておられたのですか? 何故…? |
らいちゅう★ | #5★2007.01/07(日)11:46 |
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「なぁ、白刃」 火影の声。 「戻ってこないか? 俺様たちと一緒に、また仕事をしよう。世界のために大地を、海を、空を操り、己のためにあの方に仕えるのだ。…戻ってこいよ、白刃」 ――…。 …私は、答えない。逆に、火影に問うた。 「ひとつ、質問だ」 今度は火影が黙る。 「何故シーグを見殺しにした?」 「…」 火影は、黙っている。 「貴様は見ていたんだろう? その冷酷な紅い目で、私とアイツが神社から逃げ出して洪水に巻き込まれるまでを、否、その先のことまでもを見ていたんだろう?」 火影は――いつもと同じ、いつもと変わらない、いつものニヤニヤした不敵な笑みを浮かべた。 嫌な予感が、した。 火影は言った。 「――必要なかったからだ」 「!?」 言葉を失った。 「あいつは、要らなかったからだ」 …。 ――要らなかった、だと? 「ろくに仕事もせずにへらへら笑っていたあいつは、ここの神社には必要なかったのさ…俺たちの足を引っ張るばかりで、何もしなかった。何も。ただお前と一緒にいただけだったからな…」 …それは。 「無駄に喋り、仕事をサボり、喜怒哀楽が激しく、愛想を振りまくだけのただの子供に、ここの仕事をあれ以上させるわけにはいかなかったのさ。全く使えない奴だった」 …その言葉は。 「たとえ――どんなに能力が優れていようとも、どんなに素晴らしい素材だろうとも、な…」 …アイツの必要性を――。 …アイツの存在性を――。 「――要らなかった、だと?」 その言葉は――無意識に、自然に、必然的に、私の口から出た言葉だった。 もう、さっきの火影の言葉なんて私の耳には全く届いていなかった。火影の言葉なんか、届くはずもなかった。 「シーグが…アイツが、必要性も存在する価値も無い、ただの子供だったというのか?」 「…そうだ。そういうことだ。他に言葉は要らない…ただそれだけだ」 火影は、冷たく笑って言った。冷たい言葉と共に。 「貴様――それが…生命を増やし、この星に美しい自然を蘇らせる者の言葉か?」 私は――限界だった。 叫びこそしなかったものの、声量が少し大きくなり、静かに肩が震えているのがわかる。 「貴様が今言った事は、そういうことだ! 命を切り捨てたんだ! アイツを切り捨てたんだ! 存在する価値は――生きる価値は、誰にだってあるはずなのに!」 だんだんと声が大きくなるのが自分でもわかる。最後の方は叫んでいた気もする。 ――生きる価値は、誰にだってあるはずなのに。 自分が言った言葉を心の中で繰り返す。噛み締めるように、ゆっくりと繰り返す。 ――生きる価値は、誰にだってある。 …。 …本当に、そうだろうか? …必要の無い奴だって、この世には存在するんじゃないか? …現に、ほら、ここに。大切な存在をこの手で掴み、守れなかった奴が、ここに――。 「何をしている」 ハッと我に返る。火影が目の前にいた。 気が付くと、私の周りにはわずかな風が渦を巻いていた。 ――ちょうどいい。 火影を睨みつけ、奴の問いに答える。 「…見ての通りさ。忘れたのか? 私が風を操れることを…」 私のまわりで風が渦巻く。 それらは数を増やし、音を立てて、だんだんと大きく強く育ってゆく。 「無駄だ、私にお前などがかなうわけがない。やめろ、白刃…」 「――白刃ではない…」 頬をかすめる、光る風の刃たち。 体の四方八方で、風が渦巻く。 竜のように。 獣のように。 誰かの心のように。 怒りと悲しみと苦しみと痛みとが絡まり合い、交じり合い、溶け合い、そして―― 「私は…ジンだ!!」 叫んだ。 瞬間、風の刃たちは一斉に火影を襲った。 それは――まるで、生き物。 私の分身かもしれない。たぶん、そうだろう。 銀色に光る風の刃の群――それは、恐怖に価するすさまじい威力だった。 「くっ!」 火影は炎で対抗しようとした。 しかし、強風の威力とスピードにかなうわけもなく、刃たちの餌食となった。 それと同時に、刃は私を縛り付けていたツルを切り裂いてくれた。 私は一目散に駆け出した。 |
らいちゅう★ | #6★2007.01/27(土)13:15 |
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× × × 昔、ある神社に、6匹のポケモンと1匹の神様が住んでいました。 6匹のポケモンたちは神様に仕え、自然界の平和を守るために働いていました。 災いを呼び起こす白い獣、災いを鎮める青い竜、4匹を統率する金の獣、時間を見守る緑の神様。 自然界のバランスが崩れれば、この世の全てが終わる。 そうならないようにするのが、ここに住むポケモンたちの仕事であり、任務であり、使命でした。 しかし―― ――ある日、災いを呼び起こす白い獣が言いました。 『もうこんな仕事はしたくない。苦しみの後に幸せが生まれても、犠牲になったものはもう2度と返っては来ないのに』 これを聞いたもう1匹の白い獣は、彼女と共に神社から逃げ出そうと決心しました。 彼女は臆病な性格からか、最初は逃げ出すのを躊躇しました。 そんな事はできない、しては駄目だ。あの方には逆らえない、逆らってはいけない、と。 けれど、一度決心した彼はもう後に引く事はなく、逃亡する為の作戦を考え、彼女に何度も言って聞かせました。 彼は本気でした。 いつもは能天気でへらへら笑っていて頼りない彼が、この時だけは真剣な表情で――むしろ彼女を元気付けるように――彼女を説得するのです。 彼も、彼女と同じ考えを持っていたのでしょう。 そんな彼に彼女はやっと折れて、2匹は逃亡を決意しました。 彼女は嬉しかったのです。 やがて、2匹の逃亡計画が実践される日が近づいてきました。 彼等が願い、祈り、待ち望んだ日。 彼と彼女の間を切り裂く恐ろしい出来事が待っているとは、誰も知りませんでした――。 その日は朝からずっと雨でした。 豪雨とでもいうべき土砂降りで、地盤が緩くなっていました。 灰色の雲の下、降り止まない雨の中を、白い2匹の獣は走りました。 神社を出て鳥居をくぐり、出口の見えない森の中を一緒に駆け回りました。 誰にも見つからないように、2匹は必死に走りました。 身体に突き刺さる雨粒も、踏むたびにはねて足を濡らす泥水も、目に入ってくる水滴も、彼等は全く気にしませんでした。 彼等は解放されたかったのです。 彼等は自由を手に入れたかったのです。 彼は彼女と一緒にいたかったのです。 彼女も彼と一緒にいたかったのです。 その為なら何だってやる、何でもできる――そう2匹は信じていました。 やがて彼等の走る道は広がっていき、その先には一筋の白い光が見えて―― 目の前に、無残にも無惨にも荒れ果てた自然の姿がありました。 そこにあったはずの木々はなぎ倒されていて姿が見えず、代わりにあるのは茶色く濁った大量の水でした。 あらゆるものを全て飲み込んで、ごうごうと恐ろしい音をたてて、荒れ狂ったように、竜のように、水は進みます。 その流れは速く、少しでも中に入れば命を落としかねないほどのものでした。 目の前を波に乗って横切っていく木々。木の葉。木の実。誰かの落し物。 濁流。 2匹は足をとめました。 今、自分達が立っているこの場所も、じきに濁流に飲み込まれそうな気がして、彼女は戦慄しました。 ここを渡ることはできない、逃げることなど不可能だったのだ、最初からこんな脱出計画なんて考えなければよかった、と。 しかし、震える彼女の隣で彼は、思いつめたような、真剣な顔をして 「行こう」と言ったのです。 彼女は驚きました。けれど今更、彼の意志を曲げることなど彼女にはできず、力強い眼差しに心を打たれ、黙って頷きました。 彼は濁流に1歩近づきました。 1歩ずつ――1歩ずつ――しっかりと歩を進める彼の後ろ姿を、彼女は心配しながらも見つめ、彼に習って自分も1歩進み出ます。 1歩――1歩――彼女は踏みしめます。 濁流が目の前でごうごうと通り過ぎます。 彼は振り返って、優しい眼差しで彼女に微笑みかけました。 彼女もまた、微笑みました。 そして、彼は―― 「大丈夫、ぼくたちはどこまでも一緒だから」 刹那―― 濁流が押し寄せ、一瞬のうちに彼を奪い去っていったのです。 彼女の目の前で、濁流は彼を奪っていきました。 僅かに反応が遅れたのがいけなかったのです。彼女の頭は一瞬真っ白になりました。 物凄い圧力や流れに抵抗する彼の姿を視界に捉えた彼女は、川沿いに彼を必死に追いかけました。 しかし濁流は、彼女を置いていくかのように流れていきます。彼の抵抗も空しく。 それでも彼女は一生懸命追いかけました。 彼のために走りました。 自分のために走りました。 追いかけて、追いかけて、追いかけて――やっと、彼が流されていくスピードが落ちました。何かに引っ掛かったのでしょう。 彼は苦しそうにもがいていました。息をするのも必死です。 彼女は彼を視界に捉えて放しませんでした。彼もその視線に気付き、2匹は生死をかけた場所で再会したのです。 彼は手を――前足を伸ばしました。 天に向けて――彼女に向けて、波に揉まれながらも、その手を伸ばしました。 それが、彼の最後の助けを求めるサインでした。 一生懸命彼が伸ばしたその手を――彼女は掴もうと自分も手を伸ばしました。 しかし――上手く掴むことができませんでした。 届かなかったのです。 あと数センチのところで、お互いの手は空を切りました。 何も掴めなかったのです。 それでも――彼は彼女に向かって必死に手を伸ばし続けました。 しかし、竜のような濁流は、彼等のその数秒のやりとりさえも許しませんでした。 彼等のそのやりとりが、竜の逆鱗に触れたのでしょうか。濁流が彼を襲います。 彼は彼女の目の前を――伸ばした前足はそのままに――再び流れて、濁流に飲み込まれ、もう2度と姿を見せませんでした。 彼女は声も出ませんでした。もう2度と彼に逢うことはできないのです。 彼女は一人になりました。 彼女は独りになりました。 彼女はその場で泣きました。泣き続けました。 泣くことしか、彼女にはできなかったのです。 とりかえしのつかないことをしました。 彼女は悲しみました。 あの手を掴むことが出来なくて、あの瞬間に戦慄した自分に悲しみました。 彼にもう2度と逢えないことを知って、悲しみました。 彼女は悔やみました。 悔やんでも悔やんでも悔やみきれませんでした。 全て自分のせいだ。全部自分が悪いんだ。自分は最悪だ。 自分があんなことさえ言わなければ、彼はあんなことにはならなかったのに。 彼を失うことは、なかったのに。 彼女はそう思い続けました。 それら全てが大粒の涙になって溢れ出します。 彼がいなくなった後も、彼のことを思い出すたびに、自分をこの世から消したい気分にさせられるのです。 そして、彼に逢うことを望むようになったのです。 彼と彼女の間には、一体何があったのでしょう。 × × × |
らいちゅう★ | #7★2007.01/03(水)17:18 |
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どーも、らいちゅうです。 ここは13章の跡地…ですかね。途中です。 まだ最後まで書ききっていませんが、ちゃんと完結させますので;; そして容量確保のため、お掃除です。 きれいさっぱり、過去の事は水に流して(ぇ) どういう話になるのかは自分でもさっぱりd(蹴) 駄目駄目作者で申し訳ないです…。 |
らいちゅう★ | #8★2007.01/03(水)17:20 |
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どーも、らいちゅうです。 どんどんお掃除します。 容量確保のためです。 もう過去のものなんて酷くて見ていられません(ァ) ここは13章の跡地…ですかね。途中です。 まだ最後まで書ききっていませんが、ちゃんと完結させますので;; 申し訳ないですm(_ _)m |
らいちゅう★ | #9★2007.01/03(水)17:21 |
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どーも、らいちゅうです。 どんどんお掃除します。 容量確保のためです。 もう過去のものなんて酷くて見ていられません(ァ) ここは13章の跡地…ですかね。途中です。 まだ最後まで書ききっていませんが、ちゃんと完結させますので;; 申し訳ないですm(_ _)m |
らいちゅう★ | #10★2007.01/03(水)17:23 |
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こんにちは、らいちゅうです。 思い切ってばんばんお掃除します。 容量確保のためです。 もう過去のものなんて酷くて見ていられません(ァ) ここは13章の跡地…ですかね。途中です。 まだ最後まで書ききっていませんが、ちゃんと完結させますので;; 申し訳ないですm(_ _)m しばしお待ちを。 |
らいちゅう★ | #11★2007.01/03(水)17:24 |
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どーも、らいちゅうです。 どんどんお掃除します。 容量確保のためです。 もう過去のものなんて酷くて見ていられません(ァ) ここは13章の跡地…ですかね。途中です。 まだ最後まで書ききっていませんが、ちゃんと完結させますので;; しばしお待ちを。 |
らいちゅう★ | #12★2007.01/03(水)17:26 |
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こんにちはー、らいちゅうです。 どんどんお掃除します。 容量確保のためです。 もう過去のものなんて酷くて見ていられません(ァ) ってかここまで使うのか…? ここは14章の跡地ですね。サーナイトのイリサ、もとい、クルスが出てきます。 まだ最後まで書ききっていませんが、ちゃんと完結させます。しばしお待ちを。 |
らいちゅう★ | #13★2007.01/03(水)17:29 |
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こんにちはー、らいちゅうです。 容量確保のためにお掃除しました。 ここは14章の跡地ですね。サーナイトのイリサ、もとい、クルスが出てきます。 途中でログが飛んじゃったんで、書いてあった15章もぶっとびました。 16章とはあまり関係のない話でした(駄) まだ最後まで書ききっていませんが、ちゃんと完結させます。しばしお待ちを。 |
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