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海王星 | #bak1★2005.01/27(木)17:57 |
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『プロローグ』 ここは、ホウエン地方の離れ小島にある、ロケット団元幹部シラヌイの隠れ家。 10年前にロケット団が解散し、首領は行方不明、元団員も次々と逮捕されて行く中、彼だけは何とか脱獄し、国際警察に追われる毎日を送っている。 「この隠れ家は簡単にはバレないだろう…。しかし…」 彼がいつも考える事は、ロケット団の絶頂期の頃だった。 「サカキ様がいた頃は良かった…。世界中のポケモンが我らの配下にいた。しかし、今はサカキ様の生死さえもわからない…」 その時だった。ノックの音が鳴ったのは。 誰だろうか。もうここがバレてしまったか…。 そう考えながら、シラヌイは粗末なドアを開けた。 「…?」 目つきの鋭い、髪の赤い男がそこに立っていた。年恰好は二十、二十一と言ったところか。風貌からは、警察とは思えない。 「誰だ貴様は!?」 シラヌイはモンスターボールを構える。 「…」 謎の男は何も言わず、ただ立っている。 「どなたか知らんが…消えてもらおう!!行けっっ!!キュウコン!!」 キュウコンが謎の男を襲う。 「…弱い…。ニューラ、切り裂け」 「…!?」 「ニュラァァァ!!」 ニューラがキュウコンに飛びかかる。 「キュコォォーン!!」 シラヌイが指示を出すか出さないかのうちに、キュウコンが高く鳴き、倒れた。 「もどれっ!!キュウコン!…強い…貴様、何者だ?」 「お前…。ロケット団の元幹部だな?」 ニューラを戻し、謎の男は言った。 「俺の名はブラック。サカキの息子だ。」 「今をもって…ロケット団は復活する!!」 ブラックは力強く、そしてどこか厳かに、そう言い放った。 |
海王星 | #1★2005.03/29(火)22:40 |
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>読む前に 見ても分かるとおり、ログ飛んじゃいました。あはは。 流れるのを待って、新たにテーマ建てようと思います。下の方で切れてる分とプロローグは、私のHPにあるのでそちらを読んで下さい。 |
海王星 | #2★2005.01/24(月)13:35 |
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第一話『はじまり』 「あ〜あ、腹減ったなぁ…」 「わん」 声の主はリュウジ、15歳。この物語の主人公である。 彼は、とある町のジムリーダーの息子だった。 とはいっても、そのジムリーダーはこの世にはもういない。 数年前、四天王候補とまで言われた敏腕トレーナーの父が旅立ち、その父と肩を並べるほどの凄腕ジムリーダーの母が病で亡くなってから、彼は母の形見でもあるウィンディと共に、放浪の旅を続けている。 そして今、彼はカナズミでバッジを手に入れるため、トウカの森を歩いていた。 「まあこの森を抜ければポケモンセンターだ。それまで我慢するか」 「わんわん」 ふと、リュウジは立ち止まった。何者かの気配を感じたからだ。 …気のせいか…。 彼はまた進み始めた。 …。 …やはり、何かいる。 「ぐるるるるる…」 ウィンディが強く唸った。 「お前も何か感じるか、ウィンディ」 「だれだっ!隠れていないで出てこい!!」 「ふふふ…」 木の陰から人影がぬっと現れた。 「!?」 「俺の名はゲン。盗賊だ。俺との勝負に負けたら、ポケモン置いて森から出て行ってもらおうか」 リュウジと同年代ぐらいのその少年が、鋭く言い放った。 「(ウィンディ一匹では多少不利か…。ここはひとつ…)逃げるぞ、ウィンディ!!」 「ワン!」 「逃がすな、ニョロボン」 ニョロボンがリュウジ達の前に立ちはだかる。 「逃げようなんてマネは困るぜ兄ちゃん」 「(くそっ、仕方ない…)ゆけっ!ウィンディ!」 「ワオォォーン!!」 「やっちまえ!!ニョロボン!」 「ョロボォォ!」 「ウィンディ!神速だ!」 「ニョロボン!地震!!」 それぞれが指示を出し、ポケモンバトルは始まった。 |
海王星 | #3★2005.01/24(月)13:37 |
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第二話『戦いの幕開け』 地面が大きく揺れ、ウィンディは強い衝撃で吹き飛ばされた。 「ウィンディ!」 「ワン!!」 ウィンディは、心配は無用だと言うように、強く吠える。 「まだいけるんだな?よし、反撃開始だ!!」 「ワン!!」 「ニョロボン!!もう一度地震だ!!」 「同じ手をもらうか!跳べ、ウィンディ!!」 「ワォォーン!」 ウィンディは高く跳んだ。 「ウィンディ、そのまま捨て身タックルだ!!」 「なるほど…。その手があったか。瓦割で迎えうて!!ニョロボン!!」 ニョロボンとウィンディは対峙した。 2匹が強く吠える。 「ニョロボォォ!!」 「ワォォォン!!」 「ゴルダック!!サイコキネシス!!」 突如、謎のゴルダックの放ったサイコキネシスによって、2匹は動きを止めた。 「ロボォォ…?」 「ワォ…?」 「何だ…?」 「何者だ!?」 「ゲン!!こんなところで何をしている!!」 「あ…兄貴…!!」 どうやらこの男とゲンは兄弟らしい。この男のほうが少し色白だが、この2人、確かに似ている。 「戻れ、ゴルダック。…旅の者、弟が迷惑をかけた。私の名はレイ。この森の近くで研究所主任をしている」 「はぁ…」 「さびれた研究所のくせに…」 「なんだと野ザル」 「やるかインテリ野郎」 「ああ、ちょっと2人とも…」 雲行きが悪くなったので、とりあえずリュウジは仲裁に入っておいた。 「…コホン。とにかく、こんな所ではなんなので、私の研究所に来たまえ。お茶くらいは御馳走するよ」 とりあえず、ウィンディを盗られないで済んだことに、リュウジは心から安堵した。 |
海王星 | #4★2005.01/24(月)13:39 |
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第三話『秘密』 「ほう、それで君はこんな所まではるばる…」 レイが、眼鏡を押し上げながら相槌を打った。 ここは、トウカの森の奥にあるレイの研究所。 主任といっても、この研究所にはレイ一人しか居ないらしい。ゲンが「さびれた研究所」というのもうなずける。 「それにしても、なぜレイさんはこんな所で研究をしているんですか?」 「…」 どうやらあまり話したくはないようだ。誰にでも話したくない事はある物だ。そう考えたリュウジは、話題を変えることにした。 「レイさんもトレーナーなんですよね?勝負してもらえませんか?」 「よせよせ。俺に勝てないようじゃ兄貴にゃ勝てねぇ」 「ははは、もうすぐ夜になる。夜の森は危険だから、今日はこの研究所に泊まっていきなさい」 「まあゆっくりしてってくれよ」 ゲンがそう言いながら、レイに囁く。 (おい兄貴、この場所教えていいのかよ。何せここは…) (大丈夫。彼ならここを他人に話したりはしないだろう) (兄貴らしくもない、根拠もなしにそんな事を言って) (何か感じるんだ。彼からは。つべこべ言ってないで、リュウジ君を客間に案内してやれ) (へいへい。) 真夜中。 その女は、森を歩いていた。 「森の奥にある研究所を爆破せよ」それが、ボスの命令だった。 「あそこか」 女は、まだ灯りのちらつくその研究所にむかって、歩き始めた。 |
海王星 | #5★2005.01/24(月)13:41 |
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第四話『ピンチ!』 その頃。レイは、パソコンに向かっていた。 「『…有望な少年発見。ゲンのニョロボンに引き分けた強者。我が組織に加わる素質十分有り。つきましては、もう少し様子を見るつもりである…。No4485 レイ・テネブラリス』…送信っと」 レイは、ふと窓を開けた。レイの鼻は何かの匂いを感じ取った。 (…これは、火薬の匂い…!!まさか…奴らか!!) レイは、大急ぎで外まで駆けて行った。 (これで、奴も終わりだ…) 「待て!!」 「遅かったな。あと一時間で、この研究所は粉微塵だ。」 「R団幹部…、コガラシ!!国際警察の権限で、お前を逮捕する!!」 「フン、私の任務はこの研究所を破壊する事…。行けっ!!ダーテング!!ツルで奴を縛れ!!」 レイは、ツルで身動きが取れなくなってしまった。 「こ…、これは…、」 「お前を本部まで連れて来いと言う命令だ。抵抗するなら、弟の命はないと思え」 「こ…、このままで済むと思うな…」 「兄貴!!」 そこに駆けつけたのは、ゲンだった。 「ゲ、ゲン…」 「ククク…。お前がレイの弟か…」 「兄貴を離せ!!」 ゲンが怒鳴った。 「この研究所の周囲のどこかに、爆弾が仕掛けてある。あと50分程度で爆発し、この研究所は粉々になる。それまでに、爆弾を見つけ、破壊できれば、離してやらないこともないぜ」 コガラシがせせら笑いながら消えた。 「…ゲン…リ…」 「あ、兄貴!?」 「リュウジ…彼に…彼に…」 そう言って、レイは気を失った。 |
海王星 | #6★2005.01/24(月)13:43 |
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第五話『ゲンの悔しさ』 「おいっ!!起きろリュウジ!!」 リュウジが眠そうに起き上がった。まだ真夜中なので無理もない。 「な、何こんな夜中に…」 「いいから表に出ろ!!」 「えっ!?」 「時間がねぇんだ!早く!爆弾が仕掛けられて…兄貴が連れ去られて…とにかく大変なんだ!!あともう少しでこの研究所はコナゴナになる!!」 「何だって!?」 「兄貴が…、居ないっ!?」 ゲンが叫ぶ。 「いったいここは何処で、何があったんだよ!?話が全く読めないじゃないか」 「兄貴は…、国際警察の研究者なんだ」 茂みを覗き込みながら、ゲンが言った。 「…!?」 「俺が盗賊を装って勝負を挑んでいるのも、有能なトレーナーを見つけるため…。でも、俺に勝てる奴ァ一人もいなかったんだ。それを破ったのがリュウジ、お前だ。兄貴はお前に惚れ込んだんだと思う」 「…」 「兄貴はある重要な研究をしていて…、R団はそれを狙っているんだ。その為に…兄貴は連れて行かれた」 「どこに?」 「わからねぇ…。あの時、俺は奴に騙されたんだ…。奴は言った。『破壊できれば、離してやらないこともない』と。でも、もう奴も兄貴もどこにも居ねぇじゃねぇか…。『離してやる』なんて言われて、気が動転してたんだ…。あんな奴の言うことを信じるなんて…。俺…、俺…」 その時。 「おいっ!!爆弾ってこれか?」 指差した先には、銀色の小さな箱があった。 |
海王星 | #7★2005.01/24(月)13:47 |
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第六話『現実逃避と怒り』 鈍く輝く銀色の箱。タイマーには2:00と表示されている。 「きっとこれだ!!これさえ破壊できれば…」 歓声を上げるゲン。 「よし、早速…。出て来いッ!!ハクリュー!!」 「リュー…」 「破壊光線だ!!」 「…リュゥゥゥーッ!!」 「ぱっ」と一筋の光の線が爆弾に命中し、あたりに砂煙が舞った。 「やったか!?」 砂煙の間から見えたのは、傷一つない爆弾の姿だった。 「なんて硬い金属なんだ…」 「よし、ウィンディ、ハクリュー、二匹でタックルだ!!」 渾身の一撃が爆弾に決まった。しかしまだ爆弾にはヒビ一つ無い。 「ゲン、お前もポケモンを出してくれ!!」 「よし、みんな行けぇ!!ニョロボン、ハガネール、オニドリル!!」 ゲンは3つのモンスターボールを投げた。 「ョロボォ!!」 「クエェェ!!」 「ヴォォォ…!!」 「まかせておけ」と言うかのように、3匹は強く吼えた。 「よし!!5匹で攻撃だ!!」 閃光が走り、地面が揺れた。爆弾は…、 「なんで破壊できねぇんだよぉッ!!」 「くそっ…、もう1度だ!!」 「…もう…諦めよう」 ポツリと、ゲンは呟いた。 「な…、何言ってんだよ。これを破壊しないと…兄さんは帰って来ないんだぞ!?」 「分かってる…。でも、タイマーを見てみろ」 タイマーには0:53と表示されている。そのタイマーはどこか、リュウジ達を嘲笑っているように見えた。 「俺たちのポケモン全員の力でも壊せなかったんだぞ!? …今なら間に合う。この森を出て、カナズミへ行くんだ。このままじゃ俺たちまで粉々だ!!」 突然、バシッと大きな音がした。リュウジがゲンを殴ったのだ。 「馬鹿野郎!!お前の兄への想いはそんな物なのか!?お前にどんな事情があるのか俺は知らない。けど、お前がそうやって逃げてる間にも、レイさんは苦しんでいるんだぞ!? …もういい。俺一人でやる。ウィンディ!!ハクリュー!!いくぞ!!」 「…」 タックルを続ける二匹。しかし爆弾は一向に壊れる気配を見せない。 タイマーが10秒を示そうとしたその時、ゲンが突然立ち上がった。 「クソぉぉ!!ハガネール、ニョロボン、オニドリル!!フルパワーで攻撃だぁぁ!!」 さっきとは比較にならない揺れと閃光が走り、爆弾は木っ端微塵になった。 「…すげぇ…」 「なんでぇあっけない。R団の技術なんてこんなもんか」 リュウジは何も言うことができず、ただポカンとしていた。 |
海王星 | #8★2005.01/24(月)13:56 |
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第七話『事実』 「小僧ども、なかなかやる様だな」 さっきからずっと其処に居たのか、コガラシが木の上から言った。 「このクソアマァァッ!!兄貴を、兄貴を何処へやりやがったぁっ!!」 ゲンの物凄い剣幕に、リュウジはたじろいだ。一方、コガラシは全く動じず、 「ククク…キレると口が悪くなるのは相変わらずだな」 (『相変わらず』…?この2人、面識があるのか…?) 「質問に答えやがれっ!!」 「レイさんは何処だ!!」 「レイはR団第6基地に送った。場所は…」 「目覚めの祠…だな」 (何で…何でゲンはR団基地の場所を知っているんだ? まさか…いや、そんな筈…そんな筈は…) 「リュウジ…もうわかっているとは思うが」 リュウジの心臓が高鳴った。 「俺と兄貴は、元R団員だ」 「そうさ!!こいつらは下らぬ偽善から我が組織を裏切ったゴミさ!!」 「女ぁ!!兄貴を馬鹿にするんじゃねぇ!!」 「俺が何か間違ったことを言ったか?戦闘用人工ポケモン『ミュウスリー』の開発を投げ出して逃げ出した、腰抜け研究者とR団の用心棒を、ゴミといわずに何と言うんだ!!」 「人工ポケモン!?お前等、命を何だと思っているんだ!!」 「命!?全てのポケモンはR団の為に存在しているのさ!!クククク…。ところで、私がなぜこうしてR団のことをぺらぺらと喋るかわかるか?」 「…貴様…」 「お前たちは、ここで消えてもらう!!」 ダーテングとユレイドルが、2人に襲いかかった。 |
海王星 | #9★2005.01/24(月)13:57 |
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第八話『過去』 時を同じくして… 「さあ、『ミュウスリー』のデータはどこに隠した」 シラヌイが脅す。 「わ…渡すものかっ!!ミュウツー起動実験での惨劇を忘れたのか!?」 「その実験で滅びたのが君の故郷…。ミュウツーはその後あるトレーナーによって捕獲されたらしいが…。そしてその『ミュウツー』の戦闘能力を極限まで高めたのが…『ミュウスリー』。あれを量産し、軍に売れば、R団にとってかなりの利益になるのだ」 「そしてその金でさらに悪事を働くのであろう」 「分かってるじゃないか。これが最後の問いかけだ。おとなしく『ミュウスリー』を渡せ」 「渡すわけにはいかない」 「ほう…。これを見ても、『No』と言えるのか?」 シラヌイが指を鳴らすと、3つの檻が運ばれてきた。 中に入っているのは、紛れも無いレイのポケモン達だった。 「ウィンディ、リフレクター!!」 リフレクターが、コガラシのポケモンを弾いた。 「少しはやる様だな…。小僧、R団に入らないか?…部隊長くらいにはなれるかもしれないぜ。…ククク…」 「ふざけやがって…!!」 ゲンがボールを構えた。 「ゲン、ここは俺一人に任せてくれ」 「なんでだよ!!こいつは兄貴を…。兄貴をさらわれて黙っていられる弟が何処に居るってんだよ!!」 ゲンが拳を振り回す。それを避けながら、 「さっきの爆弾処理でお前のポケモン達は疲れている。だからここは俺がやる。任せておけ。俺は負けない」 「何をゴチャゴチャと!!ダーテング!神通力!!」 「ウィンディ!!相性ではこっちが有利だ!!うまくかわして火炎放射!!」 ウィンディは横にすぐさま移動、攻撃範囲から離れた。 よし、いける!!少なくとも、リュウジとゲンはそう思っていた。 その時、二人とも予想だにしなかった事がおきた。 今までボールに戻っていたはずだったコガラシのユレイドルが、ウィンディにタックルを仕掛けてきたのだ。 予想外の攻撃に、不意を突かれたウィンディは何mも吹っ飛び、倒れた。 「ウィンディ!!よくも…、よくも母さんのポケモンを…」 「おいっ!!卑怯だぞ!!もう一匹で不意打ちなんて!!」 「『勝つためならどんな事でもする』それが我ら…R団のやり方。さて、お前達も生かしてはおけぬ。覚悟しな」 コガラシが2人に銃口を向けた。 |
海王星 | #10★2005.01/24(月)13:55 |
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第九話『道連れ』 夜が明けようとしていた。 リュウジは目を閉じながら、「俺はこんなところで死ぬのか…」と思っていた。 突然、電子音が鳴り響いた。 コガラシは銃を二人に向けながら、通信機に向かい話し始めた。 「こちらコガラシ」 「直ちに本部に帰還しろ」 「し、しかし…!!」 「これは命令だ。背くようなら…」 「…了解しました」 「ちッ…命拾いしたな、ガキ共」 そう言い残し、彼女は音もなく消えた。 ゲンとリュウジはしばらく放心状態であったが、しばらくしてゲンが、 「俺は今から兄貴を奪還しにR団本部へと向かう」と言った。 「俺も助太刀するよ」 「な…、何言ってんだよ。またさっきみたいに命を狙われるかもしれないんだぜ?」 「いくらお前が強くたって、一人じゃ無理だろ」 「…わかった。旅は道連れ、世は情けだ」 リュウジは自転車を出しながら、 「よし、じゃあ早く行くぞ。一刻も早く…、」 「…待てよ」 「な…なんだよ」 「お前…、自転車で行けるようなところにアジトがあると思っているのか?」 「あ…。で、何処にあるんだ?」 ゲンはついて来いと合図して、南の方角へと歩き始めた。 そして着いたのは…、 「ここって…、ハギ老人の家…だよな?」 着いたのはハギ老人の家。ちなみに、リュウジがホウエンに来たのはハギ老人の船を使ってである。 「見れば分かるだろ」 そう言いながら、ゲンはインターホンを押した。 (こんな朝早くに訪ねていいのかな…) 「はいはいどちらさん…、…おやゲンか」 「ぴひょー」 ピーコが鳴く。 「ハギ爺、例の島へ乗せてってくれ」 「わかった。よし、いくぞピーコちゃん!!」 「ぴひょー」 |
海王星 | #11★2005.01/24(月)14:53 |
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第十話『立ち往生』 ヴゥゥー…ン…と音を立て、ハギ老人の船は出発した。 「早ぇなぁー!」 「当たり前だろ、ハギ爺の船なんだから。ハギ爺の船は世界一さ」 「おだてても何も出んぞ」 「ぴひょー…」 もう何キロも行っただろうか、その時、何か黒い物が物凄いスピードで船に迫ってきた。 船である。 「おい、ぶつかりそうじゃねぇか!?」 「このままだと…」 「わかっとる!!減速!!」 しかし、間にあわなかった。 黒い船はハギ老人の船に派手にぶつかり、ハギ老人の船は大きく凹んでしまった。 「爺い、気を付けやがれ!!」 捨て台詞を残し、黒い船は消えた。 「最近の若いもんは…」 「そんなことより船!!船大丈夫なのか!?」 「大丈夫大丈夫。これくらいの凹み、なんともないわい。さあ、早く出発じゃ」 … 「…あれ?」 「…動かないよ?」 「…どうやらさっきの事故でエンジンに故障が出たようじゃな…」 「なんだよ…!大丈夫じゃなかったのかよ!」 さっきのおだては何処へやら、ゲンが突っ込んだ。 「まあまあ…、ハギさんがやった訳じゃないんだし…。…でも、これからどうする?」 「…今、国際警察に連絡した…。もうすぐ、ヘリが来てくれる。…船が…わしの船が…」 ガックリと肩を落とし、ハギが言う。 「ぴひょー…」 慰めるように、ピーコが鳴いた…。 *** しばらくすると、バラバラバラ…、という音がして、国際警察のヘリが到着した。 「おいハギ爺、俺たちゃタクシーじゃねえんだ。船が壊れたからって軽々しく呼んでもらっちゃ困るぜ」 少し太めのパイロットは、むっつりとした顔で上空から言った。 「それより早くロープ降ろしてくれよ」 「うるせえなぁ。…おい、隣のガキは誰だい」 「俺のダチで、リュウジっつうんだ」 ロープを登りながら、ゲンが言う。 「おい、俺たちゃ天下の国際警察だぜ。部外者を本部に連れてっちゃまずいんじゃないのか?」 「その辺は兄貴が連絡してあるんだ」 「船は…どうすればいい…?」 「…あん?ハギ爺、船が壊れたくらいでそうしょげるなよな。ゼームさんがレッカー船を手配したから安心しろ」 「あの…、ゼームさんて誰ですか?」 今まで黙っていたリュウジが、不意に口を開いた。 「リュウジとかいったな。ゼームさんは、国際警察の重役、俺やゲンの上司だ。 凄腕のポケモントレーナーで、ロケット団の悪事をいくつも暴いてきたベテランなんだぜ。 …おっと、喋ってるうちに着いたようだな。あの島が国際警察本部だ」 カイナの南の、傘の柄のような形の島。 その島に向かい、ヘリはゆっくりと下降し始めた。 |
海王星 | #12★2005.01/24(月)14:54 |
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第十一話『本部にて』 その頃ロケット団第6基地にて… 「ゴルダック!!アリアドス!!フーディン!!」 団員が運んできた三つの檻。その中には、レイのポケモン3匹が、手足を拘束された状態で眠っていた。 「今は私の注射した睡眠薬で眠っている。しかし…、どうしても渡さぬと言うのなら…」 「やり方がフェアじゃないぞ」 「フェア、アンフェアなどどうでもよい。渡すか、渡さぬか」 団員たちが銃を構えた。 「…。分った。遺伝子データは…」 レイは少し間をおき、 「…私の体内にある」 *** 「うへー…」 リュウジが変な声を上げた。それもそのはず、この大きな島全体が国際警察の施設になっているのだ。 トレーニング施設、資料図書館、さらには病院まである。 ヘリは港の近くのヘリポートに着陸し、パイロットが声をかけた。 「はい着いたぜ。ゼームさんのオフィスは西の方にあるから、くれぐれも失礼のない様にな」 「どうもありがとう」 「わしは船を見てくる。悪いが、ゼームんとこへは二人で行ってきてくれ」 「おう。分ったぜハギ爺」 「ぴひょー」 「なあ、こんな所でこんな事聞くのも何なんだけど…。君達兄弟はなんでロケット団にいたんだ?」 ゼームのオフィスに向かって歩きながら、リュウジが訊いた。 ゲンはしばらく押し黙っていたが、 「俺達の父親は、ロケット団で、『ミュウツー』の開発をしていたんだ。 ポケモンが好きだった兄貴も、『ポケモンを造るなんておかしい』って思っていたんだが、父が死んでから生活に困って、嫌々ながらもロケット団の研究者になった。その時に俺も用心棒として雇われたんだ。 そして数年後…俺と兄貴は…逃げ出した。そして、ゼームさんが国際警察に雇ってくれたんだ。…ほら、もう暗い話は終わり。着いたぜ、ここがゼームさんのオフィスだ」 リュウジは、こんな過去を持っているのにも関わらず、ゲンはどうしてこうも底抜けに明るいのだろうか、と思いながら、ビルの自動ドアをくぐった。 |
海王星 | #13★2005.01/24(月)14:58 |
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第十二話『試練』 二人は、エレベーターでゼームの居る最上階に向かった。 木で出来た年代物の扉には、「長官室」と書いてある。 リュウジがインターホンを押すと、部屋の中から声がした。 「入りたまえ」 「ギィィー…」と言う音がして、ドアが開いた。 そして、スーツを着た初老の紳士が、声をかけた。 「リュウジ君だね?かけたまえ」 そう言われて、二人はソファにかけた。 「はじめまして。私はゼーム。国際警察の長官だ。君の事はレイから聞いているよ」 リュウジはちょっと驚いた。 国際警察の長官だというからもっとふんぞり返って威張っている人だと思っていたのに、そこには一人の親切そうな紳士がいた。 「えへ…まあ…どうも…」 「早速だが、レイがさらわれたのは知ってるね?…レイは私の息子のようなものだ。全員でロケット団基地に乗り込みたいのだが…」 「じゃあ早く…」 「話は最後まで聞け。八年前、ルネ付近の海底火山が噴火し、ルネは今無人島になって、立ち入り禁止区域となった。 奴らはそれに目を付けたのだろう。レイはルネにある基地に収容されている」 「じゃあはやく…」 「以前にもルネ基地に乗り込もうとした事があった。 しかし…、ルネ上空まで来たところで、こちらの飛行機は墜落、潜水艦は停止してしまった。 ルネ基地から強力な電磁波が出ているのだよ。それによって、飛行機、潜水艦の計器が狂い、墜落、停止してしまったのだ。そして二ヵ月前、その電磁波を跳ね返す合金、レジメタル製のヘリが完成した」 「だったらなぜ…」 「しかし、レジメタルは貴重な金属だ。その都合で、三人乗りの小さなヘリしか作れなかった。三人ではロケット団ルネ基地を壊滅させる事は出来ない。そこで、ゲンが優秀なトレーナーを探していた。君が最初の合格者だ」 リュウジは、なんとなく事態が飲み込めてきた。どうやら、レイ奪還だけの問題ではないようだ。 「二人には、ルネのロケット団第6基地に行き、電磁波を止め、レイを奪還してもらいたい」 「だったら早く、一刻も早く…」 「その前に、リュウジ君には一つ試験を受けてもらう。正直、私は君の力をまだ信じられないでいる。そこでだ。 …ユーア、来なさい」 ドアが開き、ジーパンに迷彩のTシャツというラフな格好の少女が現れた。 「なんですか父さん。…あらゲン。久しぶりね」 「紹介しよう。私の娘で、ヘリの操縦をするユーアだ。 今から君は、彼女と勝負してもらう。勝てば合格、負ければ…、トウカまで送ろう」 |
海王星 | #14★2005.01/24(月)15:01 |
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第十三話『人は見かけによらず』 「え?あ?何?私はこいつと勝負すればいいの?」 キョトンとした顔で、ユーアが尋ねた。 「そうだ。下にスタジアムがある。そこでこの少年、リュウジ君と勝負してもらう。いいね?」 「…はい」 *** 「女の子だからって容赦はしないぞ」 「フフ…今のうちに吠えてるといいわ。後で泣いても知らないわよ」 二人はモンスターボールを構えた。 「使用ポケモン2体ずつ!!勝負…開始!!」 「ゆけっ!!ウィンディ!!」 「ワン!!」 強く吠えるウィンディ。 「ウィンディか…フフ…なかなかいいポケモン使うじゃない。それじゃ私は…、ゆけっ!!」 リュウジ(どんなポケモン使うのかな…?でも女の子だからやっぱりピッピとかニョロモとか…) 「ヘルガーっ!!」 「グルルルル…」 ヘルガーが強く唸った。 (えぇっ!!) 「何?その顔…。もしかして私がピッピとかニョロモとかそういうの使うと思ってたの?」 「(図星)う…、うるさいっ!ウィンディ!!神速だっ!!」 物凄いスピードでヘルガーに迫るウィンディ。 「かわせ、ヘルガー!!」 ヘルガーは横っ飛びにそれをかわし、 「捨て身タックルだ!」 「リフレクター!!」 タックルを仕掛けるヘルガー。しかし、その攻撃はウィンディのリフレクターによって阻まれた。 「…どうやら小細工は効かないようね。こうなりゃ真っ向勝負よ!ヘルガー、火炎放射!!」 「こっちも火炎放射だ、ウィンディ!!」 二つの火柱が、激突した。 「頑張れ、ウィンディ!!」 「ワォォ…」 「負けるな、ヘルガー!!」 「グルルル…」 激しい光が辺りを包んだ。 先に消えたのは…、ヘルガーの炎だった。 ヘルガーは炎をもろにくらい、倒れこんだ。 「戻れ、ヘルガー!!」 「よくやったぞ、ウィンディ」 ウィンディ「わん!!」 ユーアがボールを構える。 「くそっ…!!ゆけぇっ!!ストライク!!」 「ストラィィーク!!」 ストライクは、目にも留まらぬ速さでウィンディに斬りかかった。 |
海王星 | #15★2005.01/24(月)15:03 |
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第十四話『無』 激しい斬撃を喰らって、ウィンディは気を失った。 (い、一撃…) 「どうしたの?さっきまでの威勢は」 ストライクはカマを舐めた。 「もどれ、ウィンディ!…くそぉっ…!ゆけっ!ハクリュー!」 「リュォー…!!」 「何が来ようと無駄!ストライク、影分身で翻弄してやれ!」 ストライクの姿がたくさん現れ、ハクリューの周りを凄い速さで回転し始めた。 「ハクリュー、惑わされるな!! 心を無にして相手の隙を突くんだ!!」 「かまいたち!!」 何匹ものストライクが、ハクリューに斬りかかる。 「今だ!!アイアンテール!!」 「リュォォー!!」 強烈なテールドロップが、ストライクに炸裂した。 ストライクは倒れかけたが、すぐに体勢を立て直し、ハクリューに襲いかかった。 「そこまで!!この勝負、リュウジ君の勝利!!」 ゼームの一声に、ストライクは動きを止めた。 「なんでよ父さん!あの後の攻撃が決まれば…」 「さっきは反撃されたじゃないか。お前は今は彼には勝てない。いくら国際警察でトップクラスの実力でも、世界にはまだまだ強い人がたくさんいる。お前にとっての世界は、取るに足らないちっぽけなものだったんだ。もっと特訓し、強くなりなさい」 「…はい」 「さてリュウジ君。君はレイ奪還計画のチームに入ってもらう。依存はないね?」 「はい!!」 |
海王星 | #16★2005.01/24(月)15:11 |
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第十五話『出発』 ロケット団第六基地にて 「…ミュウスリーの様子はどうだ」 ブラックがシラヌイに尋ねる。 「完璧です。レイが体内に隠していたミュウスリー細胞。それを組み込んだので、ミュウスリーは80%完成にあります。ただ…」 「クク…めずらしいな。自信家のお前が『ただ…』を使うなんて」 「このミュウスリーには攻撃パターンが何一つインプットされていません。出来たばかりなので仕方はありませんが…。それさえ入力すれば、ミュウスリーは起動できます」 「分かった。その件についてはお前達に少し働いてもらおう。…ところで、国際警察の奴らはまだ来ないのか?」 「国際警察にいるスパイからたった今連絡が入りました。これから向かって来るようです」 「…よし、盛大に迎えてやれ!!」 「はっ!!」 *** 大勢の兵士に見送られ、ヘリは出発した。 「…プハーッ!!おい、もっとスピードあげようぜ、はやくはやく…」 ゲンがせかした。「プハーッ!!」というのはコーラを飲み干した音である。 「うるさいわねぇ。レイを救うまえに私等が事故でくたばったら、元も子もないでしょ」 どこかおかしい理屈だな…と、リュウジは思った…。 しばらくすると、霧に覆われた島が見えてきた。 「ここがルネ島…」 「霧ばっかだぜ、どっから入ればいいんだよ」 「待ってて、いま国際警察に連絡するから」 しかし、モニターに写るのは砂嵐ばかり。 「このヘリって、電波・電磁波を遮断するから…。無線…使えないんじゃないかな?」 ユーア「…」 ゲン「あほ」 ゲンに鉄拳が落ちた。 (そもそも、なんで使えないのに無線なんて積んでるんだ…?) リュウジは思った。 「…にしてもどうするんだ?いつまでもここに止まってるわけにはいかないぜ。誰かさんのせいで無駄な時間食っちまった」 ゲンは足首を蹴られて、顔をしかめた。 「うーん…」 「考える人」のポーズをとりながら、リュウジは唸った。 その時だ。何も写らないはずのモニターに、何か文字が写った。 「…ん?」 「読んでみるぜ。 『ようこそロケット団第六基地へ…』…ん?この字なんて読むんだ?」 「『拙僧(※お坊さんの一人称)はシグレ。ロケット団幹部だ』」 「なんだ?ロケット団にはボーズまでいるのか」 「静かにしてくれ。『どうやって文字を出しているのかと不思議がっている事であろう。拙僧の法力を使ってモニターに念写している』」 「要は超能力ね。それで?」 「『電気霧が効かないという事は、そのヘリはレジメタル製であるな。国際警察の考えそうな事だが、子供がたった三人とは、我々もなめられたものよ』」 「ムカつくボーズだな」 「『その勇気に敬意を表し、霧を解いてやろう。』」 その文字が現れると同時に、霧はみるみるうちに消え、数年前と変わらぬルネの町並みが見えてきた。 |
海王星 | #17★2005.01/24(月)15:13 |
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第十六話『突入』 「あそこに広場がある…そこにヘリを停められそうね」 またモニターに文字が浮かぶ。リュウジがそれを読み上げた。 「『お前達の中に我らの裏切り小僧がおるだろう。道はそいつに訊け』」 「兄貴は無事なのか?」 「文字」がこたえる。 「『レイは地下牢に幽閉してある。さあ、これだけ教えればもういいだろう。さっさと行ったらどうだ』だとさ。じゃあ行くぞ!!」 「おう!!」 「…しかし…遠いなあ…」 歩きながら、リュウジが言う。 「あとたった数キロだぜ」 「私はレディなのよ…。…ん?あれ…誰だろう?」 ユーアが指した先には、杖をついた老人がいた。遠くて分からないが、何かポケモンを連れているようだ。 「ロケット団員かも知れねえぜ」 リュウジ達は恐る恐る、老人に走りよった。 「おじいさん…」 「…」 謎の老人は押し黙っている。 「おじいさーん」 「聞こえている」 ペルシアンを連れた老人は、ピジョットのような鋭い眼で、リュウジを睨んだ。 「じいさんロケット団員か?」 初対面の人にいきなり「ロケット団員か?」もないだろう。 「ロケット団員か…。フフ…」 「何がおかしいんだよじいさん!」 「お前等…なぜここにいる?ここは数年前に、閉鎖されたはずだが…」 「あんたはどうなんだ」 一同で突っ込む。 「俺か?俺はルネ市民さ…」 「ここは数年前、海底火山の影響で閉鎖されたはずだけど」 「そんなことで住まいを離れられるか」 「おい、そんな爺さんほっといて行こうぜ。ロケット団基地…」 「あ、あはは…じゃ、おじいさん、さよなら!!」 「ロケット団基地か…」 老人はそう呟き、リュウジ達の後を尾け始めた。 |
海王星 | #18★2005.01/24(月)15:15 |
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第十七話『探索』 「ゴン」という大きな音がした。 「痛ッ」 「おいゲン、お前元団員じゃないのかよ」 「そう言われたって…、こう暗くちゃ…、いたた」 「だいたい懐中電灯くらい持ってきなさいよ、不用意ね」 ユーアがなじる。 「マッチならあるけど…」 「それだ!」 「てか早く出しなさいよ」 「ボォ…」と小さな炎が灯った。 ゲンが太い木の枝を拾い、火を点ける。 「これでしばらくは大丈夫ね…にしてもどうして洞窟に木の枝が…」 「んな事どうでもいいだろ。よし、あっちだ!!」 *** 一行は、やがて霧の漂う場所に出た。 今度はさっきよりも明るく、たいまつも要らないようだ。池には溶岩がぐらぐら煮えたぎっている。 「行き止まり…」 「ちょっとどういうことよ、方向音痴」 「まあいいから…」 そう言って、ゲンは溶岩池に飛び込んだ。 「ナンマイダブ…」 「ちょっと気は確かなの!?」 「…ぷはぁ」 突然、当のゲンが溶岩から姿をあらわした。 「化けて出るには早いわね…」 「あほか。俺は生きてる。よく見ろ。見せ掛けだけで、ただの水だよ」 「あほとは何よ!!」 「まあまあ…とにかく、先に進もう。で、どう行けばいい?」 …どうして俺はこうケンカの仲裁ばっかしなけりゃならないんだ?と、リュウジは内心で呟いた。 「ここから隠し通路を泳いで行けば、入り口に着くはずさ」 そう言って、またゲンは見せ掛けの溶岩に飛び込んだ。 |
海王星 | #19★2005.01/24(月)15:17 |
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第十八話『罠』 「ぷはぁ!!」 三人がほぼ同時に水面から顔を出した。 向こうには、洞窟の入り口のような穴がある。 「ほら見ろよ、あそこから研究所に通じているんだ。奴らの狙っているのは兄貴の持っているミュウツー細胞のデータだから、兄貴もそこに居る筈だぜ。…よいしょっと」 陸に上がろうとしたゲンの足下に、ぽっかりと穴が開いた。 「!!」 「うわあぁぁー!!」 情けない声を上げて、ゲンは奈落へと落ちて行き、見えなくなった。 「元団員のくせに…」 「俺達も気をつけないとな…」 しかし、時既に遅し。二人とも、足を踏み出した後だったのである。二つの黒い穴が「いらっしゃいませ」とばかりに二人を待ち受けていた。 「わあぁぁー!!」 「きゃあぁーぁ!!」 悲鳴を上げながら、二人は落ちていった。 *** 一方地下牢では、椅子に縛られたレイが閉じ込められていた。 地下牢に、「コツ…コツ…」足音を立てて、影が近づいてきた。 「お前は…、総帥…」 ブラックは何も言わずに、レイの首に手をかけ、首を締め付けた。 「…ぐっ!!」 「貴様の…貴様のせいで俺は…」 ブラックはレイの首を絞めるのをやめると、今度はレイの顔面を強く蹴りつけた。 「許さん…貴様には…貴様には…死すらなまぬるい…」 「何故だ…私が…お前に何をしたというんだ…!!」 |
海王星 | #20★2005.01/24(月)15:18 |
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第十九話『修羅』 「いてて…」 したたかに腰を打ったゲンが呟いた。 「ここはどこだ…」 洞窟のようだが、30mほど先に上へと続く梯子が見える。そしてその間には、大きな泉がある。どうやらこの泉を渡らなければ先には進めないようだ。 「ほう…ヌシが侵入者…元ロケット団研究所主任、そしてルエンの息子、レイ・テネブラリスの弟…」 「誰だ!?どこだ!?」 「ここに居るではないか…」 「…!」 向くと、水面の上に笠をかぶった和服の男が立っていた。 「これくらい気付けないで、よく用心棒などやっておったのう…」 「お、お前は誰だ!!さっきからペラペラ喋りやがって…てかなんで水面に立ってられるんだよ!?」 「私はシグレ…数年前逃げ出したヌシの代わりに雇われた、R団の用心棒だ。さて…ヌシに恨みは無いのだが…こっちは商売なんでな。悪いがヌシには消えてもらう。…凍りつけっ!!」 水面からキングドラが飛び出し、ゲンに青い光線が襲いかかった。 *** 「ここは…」 ユーアが降り立ったところは、小部屋のような所であった。そして向こう側には、やはり梯子が見える。 「どうやらあそこを登らなきゃ先には進めないようね…」 そう呟きつつ、ユーアは梯子に向かい走り出した。 梯子をつかもうと伸ばした手に、ツルが巻きついた。 「…!!」 「ククク…小娘…こんな所で何してる?」 ユーアの後ろに、黒づくめ、緑髪の女が立っていた。 「お前は…R団幹部のコガラシ!!」 「ククク…俺も名が通っているもんだな。さて、このまま締め付ければ、ダーテングのツルでお前の手首は飛ぶぜ。土下座して俺の靴の裏舐めたら、おうちまで送ってやってもいいぜ」 「ぐっ…偉そうに…!!パルシェン!!ツルを斬れ!!」 パルシェンのトゲにより、ユーアの腕に巻きついていたツルは切り離された。 「…クク…普通の人間なら激痛で動けないはず…なおかつ硬いツルを切り離すとは…おもしろい、そのポケモン…俺が貰うぜ」 「やれるもんなら…やってみなさい!!」 |
海王星 | #21★2005.01/24(月)15:21 |
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第二十話『鬼』 ゲンとユーアが幹部達と火花を散らしていた頃、リュウジもまた、小部屋にて、たくさんの団員と戦っていた。 「手強いぞ!!ガキだからといって油断せずにかかれ!!」 指揮官らしき男がわめく。 「いったい何人居るんだよ…これじゃキリがない…」 …不意に、団員達の動きが止まった。と同時に、白衣の男を背負った赤髪の男が歩いてきた。 「ブ…ブラック様…」 「こいつが黒幕…」 「お前達は研究所に戻れ」 呆然と立ち尽くしている団員達に向かって、ブラックは抑揚のない声で言い放った。 「侵入者というのはお前か…」 リュウジは何も言わず、ポケモンたちに攻撃態勢をとらせた。 「お前では、俺には勝てん…。諦める事だ」 リュウジは何も言わず、立ち尽くしている。 「…思い出した。あの研究者…レイ。返してやろう。目が覚めたら…こう伝えておけ。『いつか必ず殺す』とな」 そう言って、ドサリと乱暴にレイを地面に置いた。まだ息はあるが、気を失っている。 「ふざけるな!!お前は罪のない人やポケモンの命を…」 「『罪のない』だと?争い、憎しみあい、殺しあい…そんな人間達を…『罪のない』と…お前はそう思っているのか?」 「うるさい!!」 エビワラー、ハクリュー、ウィンディが、物凄い速さでブラックに飛びかかった。 「勝った」少なくとも、リュウジはそう思っていた。 「…消えた!?」 消えたのだ。それこそ、エスパーポケモンがテレポートするかのように、ブラックは、消えてしまった。…高笑いを残して。 *** 「オニドリル!!吹き飛ばし!!」 オニドリルの起こした風により、キングドラの放った冷凍ビームは方向を変え、消えた。 「ほう…ここまで来るだけの事はあるな…」 (落とし穴にはまって偶然来ただけなんだけどな…) 「しかし、近接戦闘用のオニドリルでは、水中に居るキングドラは倒せまい…」 「想像力が貧困だな、坊さん。オニドリルは近接戦闘だけじゃないんだぜ。トライアタックは炎・氷・雷のエネルギーを持つ攻撃…キングドラは水中に居るので電撃は避けられないぜ…!!」 薄暗い洞窟が一瞬明るくなり、キングドラは黒焦げになって浮かんできた。 「おのれ…!私のキングドラを…」 「どうした?かかって来いよ」 「…いいだろう…ヌシの前にその忌々しいポケモンから…消してやる」 水面からアズマオウが飛び上がり、鋭い角を構え、オニドリルに突進した。 オニドリルは間一髪でかわし、アズマオウは勢い余って天井に突き刺さった。 「ハハハ、刺さってやんの」 ゲンが笑い転げた。 「フン…笑っていられるのも今のうちだ…天井を見てみろ」 アズマオウの突き刺さっているあたりで、「じゅっ」と音がした。天井が溶けたのだ。アズマオウは角が抜けたので、また水中に戻った。 「な、何だこれ…」 「アズマオウの角には硫酸が仕込んである。触れれば…火傷ではすまぬぞ」 「卑怯な…」 また水面からアズマオウが飛び上がり、オニドリルに突進した。 体力を消耗していたオニドリルは避ける事が出来ず、角は翼に突き刺さった。 「クエェェェ…!!」 オニドリルは痛みに耐え切れず高い鳴き声を残し、倒れた。 「もどれっ!!…よくも…ゆけっ!!ニョロボン!!」 ニョロボンは水に飛び込み、物凄いスピードでアズマオウに迫り、角を鷲掴みにした。 「オォォォォ!!」 ニョロボンは雄叫びをあげると、水面からアズマオウを投げた。アズマオウは壁にぶつかり、気を失った。 「フフフ…この時を待っていた…お前が水ポケモンを出してくるのをな!!」 アズマオウを戻しながら、シグレは不気味に笑んだ。 |
海王星 | #22★2005.02/13(日)13:57 |
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第二十一話『凍てつく恐怖』 「負け惜しみも大概にしろよ坊さん。水中戦で俺のニョロボンに勝てた奴なんて…兄貴ぐらいのもんだぜ」 「誰が…水中戦などと言ったかな?」 「は?」 「水中のポケモンが、水面ごと凍らされたとしたら…ポケモンはどうなると思うかな?」 そういいながら、シグレはポケモンを出した。オニゴーリである。 「まさか…水面から上がれ、ニョロボン!!」 「遅い!!オニゴーリよ、冷凍ビームだ!!」 「コォォォ…!!」 ニョロボンは水面から上半身を出した状態で、氷像と化した。 「嘘だろ…ニョロボン…」 「オニゴーリの体重は200kgを越える…そのオニゴーリが、氷像と化したニョロボンに『圧し掛かり』を繰り出せばどうなる?」 「…」 「ロケット団に戻って来い。さすればせめてもの慈悲に、このポケモンは砕かずにここに放置してやろう」 「せっかく…逃げ出せたんだ…もうこんな所に戻ってたまるか…」 「ほう…では何故数年前R団に入ったのだ?本当に生活を続けるにはそれしか方法はなかったのか?ポケモンが好きだなどと言うのなら、ポケモンを使い、悪辣に金を稼ぐR団には入る以外に、何か他の方法を探したはずだ…違うか?」 「…」 「もう分かっているだろう…お前は、私やコガラシ達と同じなのだ…ポケモンを悪用する…私たちとな」 「違う!!…俺は…」 「何が違うのだ?現にお前の兄は、自分の故郷を滅ぼした『ミュウツー』の細胞を使い、『ミュウスリー』を開発したではないか。まだ未完成だがな…」 「ぐ…」 「さて…お喋りは終わりとしよう。そろそろ…、砕くとするかな。オニゴーリよ」 オニゴーリはゆっくりと、ニョロボンの頭上に移動した。 「やれ」 オニゴーリは唸り声を上げ、ニョロボンめがけまっすぐと突進した。 「バゴォォォ!!」と大きな音がして、氷の破片と、白い煙が舞った。 「終わったな…極楽でゆっくりと休むがよい」 シグレはニヤリと笑った。しかしその1秒後、その表情は驚きの表情へと変わった。 「馬鹿な…どこに消えた!?」 煙の晴れた洞窟には、大きくえぐれた氷池しかなかった。ポケモンたちの姿はない。 「かかったな」 今度はゲンがニヤリと笑った。 「上か!?」 シグレが上を見ると、オニゴーリを抱えたニョロボンが居た。 「投げろ!!」 「オォォォ!!」 再び「バゴォォォ!!」と音がして、氷の破片が舞い散った。 「馬鹿な…何故動ける!?」 「いくら硬くたって所詮は物理…壊せねぇことは無ぇんだよ。俺のニョロボンの怪力をなめんじゃねぇ」 「オォォ!!」 「…私の負けだ…。見事」 そう呟くシグレを尻目に、ゲンは梯子へと手を伸ばした。 |
海王星 | #23★2005.01/24(月)15:24 |
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第二十一話『魔森』 「パルシェン、氷柱針連射!!」 「ククク…ダーテング…カマイタチ!!」 パルシェンの放った氷柱針は「ビュン」と空気を裂き、ダーテングに直撃した。しかし、ダーテングは平気な顔をしている。 「クク…この程度か…その辺に飛んでるゴルバットの方がまだ骨があるぜ。シャドーボール…!!」 「ダァァァ!!」 黒い光球がパルシェンにヒットし、砂埃が舞った。 「ククク…死んだかな?」 コガラシが嘲笑う。だが次の瞬間、その表情は凍った。 ダーテングの喉もとに、パルシェンの棘が突きつけられていた。 「骨がないのは…どっちかしら?」 今度はユーアが笑った。 「ククク…こうで無きゃな…小娘、名は何と言う」 「ユーア…私の名はユーア・グラール!!」 「なっ…『グラール』だと!?小娘、貴様ゼーム・グラールの娘か!?」 「そうよ。怖気づいた?」 「ククク…面白い…見せしめだ。ゼームを殺す前に…、見せしめに貴様から殺してやるぜ!!ダーテング、宿木の種!!」 「ダァァァッ!!」 ダーテングが黒い種子を飛ばした。 「かわせ、パルシェン!!…『宿木の種』!?そんな技…通じるとでも…」 「…それが…ただの種じゃねぇんだよな…足下を見てみな」 どこか楽しげに、コガラシは言う。 「…!これは…」 ダーテングの飛ばした種子が、もう芽を出している。 芽は見る見るうちに成長し、瞬く間に洞窟は森へと化した。 「…そんな…ありえない…」 「科学の力さ。我がロケット団の遺伝子技術により、ダーテングの出す種子は森を生むのさ!!」 「…凄い…」 「前にテクノシティへこいつらを放ったときは面白かったぜ。科学力を誇るハイテクの街が、一瞬にして森になっちまったんだ。所詮人間の力なんて自然には勝てねぇ。樹にてこずる御偉方共は見てて最高だったぜ…ククク」 「自然とか言ったり科学でポケモンを殺したり…あんた達の目的って一体なんなのよ…!」 「さぁ、目的なんて俺にはどうでもいい。ただブラック様について行くだけ。俺は所詮、ブラック様の為に動く駒なのさ。さて、樹上戦じゃパルシェンには勝てねえだろ。潔く降参すりゃお家まで送ってやるぜ」 「うるさい!!パルシェン、氷柱針!!」 「無駄無駄無駄無駄ァ!!ダーテング、風起こし!!」 ダーテングの放った豪風によって、方向を変えた氷柱が、パルシェンに直撃した。パルシェンは間一髪で殻を閉じたものの、衝撃で後ろに吹き飛び、殻には大きな亀裂が入った。 「戻って、パルシェン!!…ヘルガー!!」 「グルルル…」 ヘルガーが唸る。 「樹が邪魔なら、燃やせばいい事!!ヘルガー、この森、ダーテングごと焼き払って!!」 「ワォォォー…!!」 ヘルガーは強く吠え、森は一瞬にして赤い炎に包まれた。 「ヤバい!!ダーテング、早く樹から下りろ!!」 しかし、ダーテングは炎に包まれてしまった。 「戻れ、ダーテング!!…ククク…まだまだ終わっちゃいねぇぜ…」 コガラシが不気味に笑んだ。 |
海王星 | #24★2005.02/04(金)19:21 |
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第二十二話『斧の家紋』 「何を負け惜しみ言ってんのよ。あんたの頼りの樹はもう…」 「本当にそう思うかい?小娘。周りを見てみな」 周りを見回すユーア。周りには、さっきと変わらぬ森が…。 「さっき確かに焼き払ったはずなのに…樹が…元に戻っている!?」 「クハハハ!!そうさ!!根が生きている限り…切られようと燃やされようと、0.1秒生きてれば蘇るぜ!!」 「くっ…」 「叩き潰せ!!ユレイドル!!地面に根を張れ!!」 「ヘルガー!!捨て身タックル!!」 しかし、ユレイドルはヘルガーのタックルを避けようともせず、ヘルガーはユレイドルに直撃した。ユレイドルの殻に亀裂が走る。 「ククク…無駄だと言ったはずだ…」 ユレイドルの殻に入っていた亀裂が、ゆっくりと元に戻ってゆく。 「そんな…」 「ククク…さっきユレイドルの張った根は、周りの木々達の根と繋がっている。回復力は自己再生の比じゃねえぜ…。さらに…根の特殊な養分によって、ゆっくりとこいつの殻の硬度は増してゆく…!!」 「何ですって!?」 「終わりだ!ユレイドル、原始の力!!」 ヘルガーの頭上に、大岩が落下する。 「グアァァ!!」 ヘルガーが悲鳴を上げる。 「戻れ!!…行けぇっ!!ストライク!!」 「ストライィークッ!!」 ストライクは甲高く鳴き、ユレイドルに飛びかかる。 「無駄だ無駄だ!!そんな攻撃をしている間にも、どんどん硬度は上っていくぜ!!その程度じゃ…ゼームもお前のような娘を持って哀れだな!!」 「く…こうなったら…周りの樹を斬りまくれ、ストライク!!」 「血迷ったか!?0.1秒で蘇るといったはずだ!!」 ストライクは、ユレイドルの周りをぐるぐると回り、ユレイドルを囲む樹を目にも留まらぬ速さで切り倒してゆく。 「すぐに蘇るなら好都合…回復・硬度の増加はゆっくりとだから…そのまま斬り倒していけば…」 「やばい!!逃げろ、ユレイドル!!」 コガラシが叫ぶ。 「逃げられるはずないわよね…地面に根を張っちゃってるんだから…」 そう言う間にも、ユレイドルは倒木に埋もれてゆく。倒木の隙間から、微かにユレイドルのうめき声が聞こえた。 「うああぁぁー!!」 コガラシが叫ぶ。とうとう、ユレイドルは完全に見えなくなった。 「終わりね。これ以上悪あがきするようなら…私のストライクはあなたの首をはねるわよ…色気のないお姉さん♪」 ストライクは鎌の刃を突きつける。 「ククク…俺の負けだ…お前の力に敬意を表して…一つ…面白い話をしてやろう」 「何よ…聞くだけ聞いてあげるわ」 「あれは…10年程前の事だった…」 *** シロガネ山…最強のポケモンが集うと言われる山岳地帯。そこに、俺と父親は研究の為に来ていた。 まだ子どもだった俺は、父親が大好きだった。「あの事件」があるまでは…。 「父さん、洞窟に入っちゃって大丈夫なの?」 「大丈夫だ。いざという時には、父さんと父さんのポケモン達が守ってやるからな」 「へへへ」 少女は、無邪気に笑っていた。 「キイイィィーッ!!」突然、鋭い音が響き渡った。クロバットの鳴き声だ。それも、一匹や二匹ではない。 「父さん!!」少女が叫ぶ。 「任せておけ!!」父親は、懐に手をやる。その懐に、クロバット何匹か飛びかかり、モンスターボールを一つ残らずさらって行った。 父親は胸に強烈な一撃を喰らい、後ろにのけぞった。 「父さん…助けて…!!」 少女は首筋をクロバットに噛まれ、真っ青な顔をしていた。 「助け…」 「う…うわあぁぁ!!」 父親は娘を見捨てて、来た方向へと駆け出した。 「父さ…父さん…!!」 少女は気を失った。恨みに燃えた眼を、父親の背中に向けながら…。 *** 「…で?お涙頂戴って訳?悪いけど、私はめったな事では泣かないわよ。…『フランダースのデルビル』では泣いたけど。それに、私にその話がどう関係するって言うのよ?」 「ククク…そうでもないぜ…何せその父親は…ゼームなんだからな!!俺の本名は、『サミア・グラール』!!俺とお前は…血の繋がった姉妹なんだよ!!」 「…!!な…何を証拠にそんな事を言うのよ…。貴方がもし本当に10年前に失踪したサミア姉さんなら…左肩に家紋の刺青が入っているはずよ…これと同じね!!」 ユーアは頭の奥に衝撃を覚えつつも、あくまで気丈に振舞おうとした。 まくった袖の下には、戦斧の紋章が見える。 「さあ、嘘も程々にして貰いましょうか!!」 ユーアはそう言いながら、ストライクに命じた。「居合い斬り!!」 ストライクはコガラシの服の左袖を切り裂いた。切れ目の間に紋章は見えない。 「…ほ、ほら。やっぱり何だかんだいって逃げるつもりだったんでしょう。私は先に進むわよ」 そう言って、梯子を上るユーア。 「ククク…まさか奴とこんな所で会うとはな…」 コガラシはそう言いながら右袖をまくり、右肩に刻まれた斧を見つめていた。 |
海王星 | #25★2005.03/29(火)21:56 |
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第二十四話『野獣』 リュウジは、傷だらけのレイを背負いながら、研究所らしい所に出た。 何かの機械が「ガコン、ガコン」と音を立て、妖しげなランプが点滅している。一番奥に一人だけ人間が居た。赤髪の男――ブラックだ。 しかしリュウジの眼は、ブラックの後ろの巨大な機械に向いていた。 さまざまなボタン、レバーが付いた機械から、複雑なコードが延びている。そのコードは、緑色の液体の入った、ガラスの大きなケースに繋がっていた。 そして、ケースの中には、白い体のポケモンが、手足を鎖につながれた姿で眼を閉じている。 「あれは…ミュウツー」とリュウジが呟いた。何年か前、ハナダの洞窟に居たミュウツーを巡って、訴訟問題が起こった。 かつて洞窟に入り、ミュウツーに襲われ片腕を吹き飛ばされたトレーナーが、「あんな凶悪なポケモンを放置しているなんて、どういう事だ」と政府に訴えを起こしたのだ。もっとも、ミュウツーを作ったおもだった研究者は全員死亡、行方不明になっており、当のミュウツーもまた、洞窟から消えていたので、この問題も大衆の記憶の彼方に去っていったが…。 「ポケモンを作るなんて…なんて非常識な人が居るものかしら」と、母親が呟いていたことをリュウジは覚えている。 すると、さっき入ってきた入り口から、誰かが入ってきた。計器の後ろに隠れていたリュウジは、ハッと息を飲んだが、相手は気が付かなかったようだ。 「おじいさん…」 入ってきたのは、ルネで出会ったあの老人だった。老人はブラックに向かって歩いていった。ブラックも別に警戒はしていない様子で、老人を見ている。 「…立派になったもんだな、馬鹿息子」老人が口を開いた。 「フン…今更何の用だ…サカキ。」 「変わったもんだな…昔はほうぼうのR団基地に襲撃をかけていたもんだが…今じゃお前がその総帥だ…血は争えないな…」 「…何とでも言え。何をしに来た。今の俺にとって…お前とて復讐の対象だ」 「R団は一度解散した組織だ。何の為かは知らんが…馬鹿なことは止めろ」 *** 「サカキ…確か何年も前の初代R団総帥…あのおじいさんがまさかサカキだったとは…!! …ということは…あの人がサカキの息子…」 リュウジは頭の中で、人物関係を整理し始めた。すると背後から、 「おい、あいつぁルネのジジイじゃねぇか」 と、声がした。 「…なんだ、ゲンか…大丈夫だったか?」 そこにいたのは、ゲンだった。後ろにはユーアもいる。 「おう。俺にかかりゃ幹部なんて屁みたいなもんさ」 だが、そう言うゲンの頬には、火傷のような跡があった。凍傷である。ユーアの腕にも、傷が目立った。 「どこかで見かけた顔だと思ったら…あのおじいさんがサカキだったのね…」 「おい…まさかサカキさんを…逮捕するんじゃ…」 「いや、サカキがマフィアの総帥として活動してい |
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