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海王星 | #1★2005.08/04(木)20:34 |
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http://www1.interq.or.jp/kokke/pokemon/commu/story/423.htm (→ほかんこ) ↑前ログ。 http://neptune.gozaru.jp/ ↑私のホームページ。小説をまとめてあります。 第二十五話『化け狐』 もう様子を見るなどとは言ってられない。リュウジ達はレイを床に横たえ、ブラックの正面に陣取った。 「フン…国際警察のネズミ共か…」 「やめろ!!その怪物は…お前達の適う相手ではない!!」 サカキが叫んだ。 「んな事言ったって…」ゲンがボールを構え、前に出る。 「黙って突っ立ってられるかよぉぉ!!」 ゲンの放ったハガネールがテールドロップを繰り出す。 「ボウギョ…」 ミュウスリーが女のような声でたどたどしく呟き、ハガネールの前に手をかざす。そして次の瞬間、ミュウスリーの腕は粘土細工のように形を変えた。 うにゃっ…うにゃうにゃっ… 「…!!」 思わず目をそむけるユーア。 ミュウスリーの腕は瞬く間に、見覚えのある形の、硬い鎧へと変わった。パルシェンの殻である。 「コイ…」 ミュウスリーが口元に笑みを浮かべた。 ズガアァァァ!! 物凄い音響が研究所内に響いた。 砂埃の中から、「ヤハリ…、ハガネールノ巨体ヲ完全ニ受ケキルノハ、無理ガアッタカ…」という抑揚のない声と、 「ヴォォォ!!」という唸り声がした。 そして、また凄まじい衝撃が走った。ハガネールが倒れたのである。 「戻れ!!」 ゲンがハガネールをボールに戻す。 「何なんだよあの化け物は…!」 「…あれはミュウスリー…私が産み出した、遺伝子の怪物…」 レイが傷をおさえながら言った。 「兄貴!!」 「目が覚めたか…、レイ・テネブラリス」 *** 「フフ…コイツは最高だ。一度見たポケモンのデータを、瞬時にコピーし我が物にする。このようなポケモンを作れる科学者は、お前以外には居ないだろう。…だが、そうであるからこそ、お前は今すぐ消えねばならない…」 「フン…さっきは縛られていたが、今度はそうはいかない」 そう言ったレイは、横で突っ立って見ているリュウジ達に、手で合図をした。 「そっちは任せた」 そして、ブラックの方に向き、言い放った。 「消えるのは貴様の方だ…ブラック!!」 *** 「オ前達ノ相手…ワタシ」 ミュウスリーが抑揚のない声で言った。 リュウジは腕を組んだ。(そんな場合ではないのであるが) ウィンディもハクリューもエビワラーも、団員達との戦闘で体力を消耗している。そのままの状態でこいつと戦うのは自殺行為だ。さて、どうしたものか…。 そんな様子のリュウジを察したのか、ユーアとゲンが助け舟を出した。 「俺たちの薬を使いな。兄貴の調合した特効薬だ」 「…ありがとう」 リュウジが頭を下げる。持つべきものは友だと痛感した。 「おい、そろそろ始めるぞ」 ブラックがミュウスリーに声をかけた。 「了解…」 ミュウスリーがリュウジたちに手を向けた。紅く光っている。 「何を…!」 ウィィィ…という小さな音が聞こえ、リュウジたちの目の前が真っ暗になった。 |
海王星 | #2★2005.06/15(水)17:25 |
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番外編『ゼーム』 「サミアは?」 ゼームが、妻に向かって訊いた。 「泣き疲れて眠ってるわ。…あの子に何か用なの?」 アマネというその女は、ゼームに尋ね返した。 「…刺青を左右逆にいれてしまってな。それで…」 「いれ直そうって言うの? やめなさいよ。またあの子を泣かせる気?痛いのよ、あれ」 「ウム…しかし…」 「そもそも、あなた昔からの伝統やら何やらにとらわれ過ぎよ。右でも左でもいいじゃない。誰も見ちゃいないわ」 「はぁ…しかし…」 「今更何よ。いまは宇宙の時代よ。科学の進歩よ。時代が…」 「ハハ…わかった、わかったよ」 アマネの迫力に押され、ゼームは笑いながら返事をした。妻にはどうも勝てそうに無い…。 *** 「娘を救わなければ」 ゼームはそう思っていた。モンスターボールは叩き落とされ、このままではサミアを救えない。そんな考えが、頭を駆け巡る。 ゼームは考えた。ここから出てそう遠くはない所に、知り合いの医者の住んでいる小屋がある。そこに行けば、サミアは助かるかもしれない…。 いや、しかし、しかしだ。サミアはクロバットに狙われている。クロバットは執念深いから、サミアを執拗に追ってくるだろう。知り合いにはそんな大群を追っ払う力は無いだろう。クロバットの大群をぞろぞろくっつけていったりしたら、腰を抜かすかもしれない。 では、私一人でこの洞窟を出て、知り合いの小屋に向かったらどうか。小屋のパソコンから私のボックスに回線を割り込ませ、ポケモンを引き出せば…。全速力で走れば、時間はかからないだろう。 だめだ。そんな事は断じてできない。そんな事をしたら、サミアを見捨てる事になる。ゼームは、ずたずたになったサミアの死体を想像して、気分を悪くした。 「父さん…助けて!!父さん!」 サミアは、クロバットに囲まれ悲鳴を上げた。そこらの石を投げ、必死に防御している。 ゼームは今すぐにでもクロバットの大群の中に飛び込みたかった。サミアに覆い被さり、庇ってやりたかった。 しかし、あの数では、二人とも一滴残らず血を吸われ、ミイラ二体のできあがりとなるのがオチだろう。こんなときでも自分の命を考える自分を、ゼームは呪った。 「父さん!!父さん!!」 …五分だ。五分有れば十分なのだ。五分の間にサミアが防御し続ければ、間に合う。二人は助かるのだ。 ゼームは入り口に向かって走り出した。 クロバットが二、三匹追って来ようとしたが、「若い血の方が旨い」と判断したのか、すぐにサミアの方へ戻った。 途中で叫んでいたかもしれないが、ゼームにとって、そんな事はどうでもよかった。ゼームは走った。韋駄天のごとく走った。 「サミアァ!!」 戻ってきたゼームは、力の限り叫んだ。 返事は…無い。 気を失い転がっているクロバットと、消えたサミア。 それを目にし、ゼームはむせび泣いた。獣のように吼えた。 *** ゼームは目を覚ました。風で書類が散っている。どうやら仕事の途中で眠ってしまったらしい。 「夢、か…」 ゼームは、死んだ妻と、消えた娘を思い浮かべ、涙を流した。 ゼームは温かいコーヒーを飲む。 また、一陣の風が書類をさらって行く。まるでゼームに、恨みでもあるかのように…。 「木枯らし…」 ゼームはコーヒーを置き、かがんで書類を拾った。 |
海王星 | #3☆2005.06/17(金)07:24 |
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第二十六話『犠牲』 気が付くとリュウジ達3人は、見たこともない部屋に来ていた。 ここにも複雑な計器がたくさんあり、壁が岩であることから、同じ洞窟の中だということが分かる。 「ここは…」 「ココハ、管制室…」 ミュウスリーが答える。 「ゲン・テネブラリス…、ユーア・グラール…ソシテ、リュウジ・ガーネット。オ前達ヲ、研究室カラテレポートサセタ。ブラック様トレイ・テネブラリスノ戦イヲ、邪魔セヌ為ニナ。サテ…、我ト戦ウノハ誰ダ」 「リュウジ…頼むわよ」 「頼んだぜ」 二人が言う。 「ああ」 リュウジが、モンスターボールを構えた。 *** 「『ブラック』…そうか…今はそんな名を名乗っているのか…」 そう呟き、サカキは微笑んだ。後に、レイはこの笑みの意味を知る事となる。 「奴らは、管制室に送った。これで心置きなくお前を消せる…」 「言ったろう。消えるのはお前だ」 「手負いのお前が、俺に勝てると思っているのか!!」 ブラックの放ったクロバットがレイに飛びかかる。レイは素早く反応し、アリアドスを繰り出した。色違いの、蒼いアリアドスだ。 アリアドスは、白い糸を吐き、クロバットを絡め取った。 「…やはり、無傷では勝てぬか…」 ブラックはクロバットを戻すと、エーフィを繰り出した。 「フィィ――ッ!!」 エーフィはサイコキネシスを放つ。アリアドスも、姿に似合わぬ素早さで、サイコキネシスを放つ。だが、エスパーポケモンには勝てず、叫び声を上げる。 「フォォーッ!!」 「戻れ!!…フーディン!!」 レイは、あせっていた。レイの持っているポケモンは三匹。それだけで、この相手に適うかどうか…。 いや、時間を稼ぐのだ。先程連絡をしたから、もうすぐ国際警察の腕利きたちが集まってくるだろう。それまでに、こいつを足止めしておけば…。 「ウィンディ!!」 ウィンディは炎を吐く。しかし、パルシェンの殻の前では、炎はかき消されてしまう。 「無駄ダ…」 ミュウスリーは笑い、指を構えた。ミュウスリーの丸い指が、一本一本変形し、ストライクの鎌に変わった。 「消エロ!!」 ミュウスリーの斬撃が、ウィンディを襲う。ウィンディは何とか避けるも、風圧で三本の切傷ができた。 「くそ…!!」 このままでは、勝てない。凶大な敵を前に、リュウジもまた、あせり始めていた、そんな時だった。 「今だ!!早く炎を放て、ウィンディ!!」 ふと、ミュウスリーから、声がした。…ミュウスリーが言ったのではない。 「早く!火炎放射だ、ウィンディ!!」 ゲンである。ゲンが、ミュウスリーの四肢を押さえつけていた。 「何ヲ…何ヲスル、人間ヨ!!」 「へへっ…こうでもしねぇと勝てねぇだろ」 屈託の無い笑顔で、にかっと笑う。 「人間風情ガ…我ニ触レルナ!!」 ミュウスリーが電撃を放つ。 「ぐあぁぁっ!!」 ゲンは叫んだ。だが、ミュウスリーは掴んだままである。 「そこまで…」 「やれよ…ウィンディ…」 しかし、ウィンディはためらっている。今火炎放射を放てば、ゲンまで黒焦げになってしまう。 「へへ…心配…すんなよ…俺…もう黒焦げだぜ…これ以上…黒くなりゃしねぇよ…」 「小癪ナッ!!離セッ…離せッ!!」 「がぁぁっ!!」 ゲンは再び電撃を受け、仰け反る。 「やれよ…」 リュウジは決心した。このままでは、ミュウスリーは逃げてしまう。そうすれば、勝ち目は無い。 「ウィンディ、やってくれ」 ウィンディはまだためらっている。しかし、主人の気持ちを察したのか、ミュウスリーに向き直った。 「…馬鹿ナ…ヤメロ…ヤメロ!!」 ミュウスリーは叫んだ。 リュウジは決心した。今は心を鬼にしなければならない。ちょっと前までは、こんな選択を迫られる事はなかった。俺に、何 「やれよ…この野郎ぉぉ!!」 「火炎放射だ、ウィンディー!!」 「ウアアァァ―――!!」 三つの声が入り混じり、轟音と紅い光が舞った。 「へへ…やるじゃねぇか…、…あばよ」 ぷっつりと糸が切れたように、ゲンは眼を閉じた。 ミュウスリーは、煙の中に黒焦げで横たわっている。 「倒した…のか…?」 リュウジは呟いた。しかし、失ったものの代償は大きい…。 いや、ゲンが死んだとは限らない。医者に診せれば、助かるかも知れない。その為には、一刻も早くここから出なければ…。 リュウジはゲンを抱え、ユーアと共に走り出した。 「待テ…」 生きていた。ミュウスリーは手に光を携え、リュウジに襲い掛かる。 「ブラック様ノ…為ニ…」 |
海王星 | #4☆2005.08/04(木)20:34 |
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第二十七話『ぶつかる鋼』 ミュウスリーは、狂った声を上げながら、右手の鎌でリュウジに襲い掛かる。 「死ネ!!死ネ!!死ネェェ!!」 「うるさい…」 リュウジはミュウスリーを睨み付けた。眼には涙が溢れている。その殺気に、ミュウスリーはたじろぐ。 「…!?」 「お前のせいで…ゲンは…」 次の瞬間、ミュウスリーの頬に、リュウジの拳が炸裂した。 「…私ヲ殴ルトハ…!!」 「…」 リュウジは黙っている。拳がまだ固まっている。 「殴ッタ!!殴ッタ!!殴ッタナァ!!」 左手をスピアーの針に変化させ、両腕を無茶苦茶に振り回しながら、ミュウスリーはリュウジに向かって物凄い速さで襲ってくる。 「死ネ」 ミュウスリーがリュウジの喉笛に針を突き立てた、その時だった。 「ヴォォォ…!!」 唸り声と、鈍い音が響く。 「ハガネール…」 倒れたミュウスリーを尻目に、ゲンのハガネールはにっこりと笑った(ように、リュウジには見えた)。 「ゲンは水使いと戦った…だから、ハガネールは使わなかったのね」 ユーアが呟く。 「いっしょに戦ってくれるか、ハガネール」 「ヴォ」 ハガネールは頷いた。 「反撃開始だ!!」 「ククク…忘レタカ…私ハ見タポケモンノ能力ヲ読ミ取リ、吸収スル…」 ミュウスリーの体が、鈍い銀色に染まっていく。 「ハガネールノ硬度…貰ッタ」 両腕をハガネールの尾に変化させ、鞭の様にハガネールに打ちつける。「ガキィン!!」と鈍い金属音が洞窟内に響く。 「ヴォォ…」 ハガネールが鈍い声で呻く。 「ハハハ!!ハガネールゴトキノ素早サデハ、コノ攻撃はカワセマイ!!」 ミュウスリーが笑いながら、ハガネールを打つ。 リュウジは指示も出さず、黙っている。拳が震えていた。 (どうして!?どうして何も指示を出さないの!?) ユーアは心の内で叫んだが、何も言わなかった。何か考えがあるのだろうと思ったのだ。 そんなユーアの考えを見透かしたのか、ミュウスリーは叫ぶ。 「所詮他人ノポケモン!!コイツハ見捨テタノサ、ハガネールモ、可哀想ニナァ!!」 「違うさ」 と、ずっと下を向いていたリュウジが、ミュウスリーを見据え、ニヤッと笑った。 「かかったな」 「…!?」 ミュウスリーの両腕が真っ赤になり、熱を帯びている。 「同じ物質が打ち合うことで、物質は摩擦で熱を放つ…」 「ムゥ…」 ミュウスリーは腕を振り回し、熱を冷まそうとした。だが、真っ赤になった腕の熱は一行に引かない。 「つまり、急激に冷ませば、お前の腕は砕け散る!!」 リュウジは水筒を出し、ミュウスリーの腕に投げつけた。 「ヤメロォォォ!!」 ミュウスリーの鋼鉄の腕がボロボロと音を立て崩れてゆく。 「ありがとう、ハガネール」 リュウジが背伸びして、ハガネールの頭を撫でた。 「面白イ…オ前ヲ今消スノハ惜シイ…次ニ会ウトキニユックリ消ストシヨウ…ポケモン共々…ナ。私ヲ殴ッタ事ヲ…後悔スル事ニナル」 腕のないミュウスリーはニヤリと笑みを見せ、消えた。と同時に、リュウジ達の視界が暗くなった。 「サラバダ、リュウジ・ガーネット…」 意識が遠のく中で、リュウジ達は確かにその声を聞いた。 「…タダイマ戻リマシタ、ブラック様…」 ボールの中に戻ったミュウスリーは、主人に報告した。 「申シ訳アリマセン…奴ラハ殺セズデス」 「いや…いいんだ。ミュウスリー、お前が無事なら…こっちも…」 ブラックは足下に倒れているレイに目を向けた。 「こっちも、今終わった所だ」 |
海王星 | #5☆2005.08/24(水)08:17 |
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第二十八話『時雨、散る』 「レイさん!!」 ユーアが倒れていたレイに駆け寄る。意識はない。割れた眼鏡を拾い、リュウジは言う。 「何で…」 「俺に刃向かったから…それ以外に何がある」 ブラックはニヤリと笑みを浮かべた。リュウジはまたボールを構える。 「ハガネール、まだやれるか」 「…ハガネール…そうか。お前がミュウスリー…俺の『娘』を…」 (『娘』…!?) 「なら尚の事、生かしては置けん!!」 ブラックが、パチンと指を鳴らした。 「忘れたか、ここはR団第六基地…」 ワープタイルから、何十人ものR団員が現れる。 「この数からは、逃げ切れまい!!」 じりじりと迫ってくる団員達。リュウジ達は後ずさりした。 (万事、休す…) リュウジ達は後ろの壁にぶつかった。もう後が無い。 さすがに死を覚悟した、その時だった。 『ガガッ…俺達は…ガッ…国際警察の者だ…』 太い男の声。雑音交じりのその声は、レイのポケットにある通信機から聞こえていた。その声に、R団員達は足を止める。続いて、声は神経質そうな男の声に変わった。 『この洞窟は…ガガ…私達に…よって完全に…包囲されています…ガガッ』 『大人しく…白旗揚げて…ガガッ…降参した方が…罪は軽いよ…』 女の声に変わり、最後に聞き覚えのある懐かしい声がした。 『さあ…どうする…ブラックよ…ガッ』 「ゼームさん!!」 「終わりだな…大人しく降参した方がいいんじゃないのか?」 金縛りにされたままのサカキが、笑った。 「うるさい…俺は、お前とは違う!!」 ブラックは計器に向かい、何やら入力した。入力し終わると、ブザーと共にアナウンスが鳴る。 『R団第六基地…自爆まで、あと10分…』 ブラックはレイのポケットから通信機を抜き取り、足で踏み潰した。部品がそこらじゅうに散乱する。 「この基地は、あと10分足らずで、粉々だ」 「なにっ…!!」 リュウジ達とサカキは、ほぼ同時に叫んだ。ブラックは続ける。 「団員達はくれてやる…もっとも、お前達と一緒に粉々だがな…お前達には随分借りができた…俺自らの手で殺せないのは残念だが…ここで死んでもらう事にする」 「卑怯な…」 「シラヌイ…」 ブラックは不意に振り返り、部下を見た。 「はっ…」 「お前は俺と共に来い…研究者は必要だ…こんな…」 ブラックは汚いものを見るような目つきで、足元のレイを見る。 「こんな役立たずと違ってな…」 そう言い残し、ブラックとシラヌイは消えた。 *** 広い研究室に、20人程のR団員と、リュウジ達、そしてサカキが、ぽつんと取り残された。ブザーが空しく響き続ける。 「…うう…」 「レイさん!!」 レイが意識を取り戻し、起き上がった。 「今から私の言う事をよく聞け…この基地はあと数分で爆発する…。お前達は外に出たら、そのことを伝え、ゼームさんたちの部隊を、出来るだけ退かせてくれ」 「でも、どうやって…」 「私はここに残って、自爆プログラムを書き換える。うまくいけば、爆発も阻止できるはずだ」 レイはポケモンたちに指示を与える。 「ゴルダック、アリアドス、フーディン…サイコキネシスで、三人を洞窟の外へ…」 三匹は黙って頷く。紫色の光が、三人と三匹を包んだ。 「レイさん!!…もし失敗したら…」 「そんな事は考えるな…お前達の方が大事だ」 「レイさ…」 三人と三匹は消えた。 『自爆まで、あと三分…』 「感動しましたぜ、レイの旦那!!」 「あんた、男や…」 残された団員たちから、そんな言葉が漏れる。 「フフ…」 サカキが笑った。それを尻目に、レイは計器に向かっていた。 「…ダメだ!!複雑すぎる!!」 レイは両手で机を叩いた。 「私は、無力だ…」 涙を流し、歯を食いしばるレイの背中に、声をかけることもできず、ただサカキは黙っていた。 重い沈黙が響いた、その時だった。 「あとは拙僧に任せられい」 男の声がしたと同時に、団員たちが消えた。 「貴方は…」 レイは振り向いた。薄暗い洞窟内に、ひときわ光る影…。 「なに、ただの坊主である」 シグレは自分の坊主頭をなで、笑った。 「ご老体…すまぬが拙僧のポケモンを、しばらく預かっておいてはくれぬか…」 シグレはボールをサカキに預けると、手をかざして念仏を唱えた。 「あばよ」 サカキは小さく手を振り、消えた。 「超能力…」 「左様。さあ、ヌシの番だ」 手をかざそうとするシグレの手を払いのけ、レイは言った。 「…駄目だ。このプログラムを解除しなければ、爆発は止まらない」 「だから逃げろと言うておるのだ」 「…それに私は、貴方を完全に信用したわけではない…貴方は、R団員だろう」 「申し遅れた…拙僧はシグレ…」 「そんな事を聞いてるんじゃない!!」 レイは苛立った。もうすぐこの基地は自爆するというのに、何故こんな男と係わり合いにならねばならないんだ…。 「先程、ヌシの弟には世話になったのでな…その礼という訳だ」 そう言うと、有無を言わさず、手をかざした。 「しかし、貴方は…!!」 「安心せい。拙僧には『力』がある」 レイはまだ何か言いたげだったが、諦めたようだった。ゆっくりと消えていく。 「さて…」 シグレは徳利をとりだし、酒を呑み始めた。 「別れ酒、か…」 シグレは呟く。もともと、何もできる気はなかった。20人ものR団員達を送ったせいか、『力』はすっかり失せてしまった。それは、レイを送ったときに気付いていた。「借りを返す」。それだけの事。 とはいえ…奴を…ミュウスリーを圧倒するあの力…。 『自爆10秒前。カウント開始します。10,9,8,7,6…』 「ははは!!末恐ろしい奴等じゃ!!」 それが、最期の言葉だった。岩盤が崩れて行く。 「シグレぇぇ!!」 レイは上空、ユーアが操縦するヘリコプターの中で、窓から身を乗り出して叫んだ。 |
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