ぴくの〜ほかんこ

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[717] ―コード『M』の復讐―『二』

海王星 #1★2005.08/04(木)20:34
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第二十五話『化け狐』

もう様子を見るなどとは言ってられない。リュウジ達はレイを床に横たえ、ブラックの正面に陣取った。
「フン…国際警察のネズミ共か…」
「やめろ!!その怪物は…お前達の適う相手ではない!!」
サカキが叫んだ。
「んな事言ったって…」ゲンがボールを構え、前に出る。
「黙って突っ立ってられるかよぉぉ!!」
ゲンの放ったハガネールがテールドロップを繰り出す。
「ボウギョ…」
ミュウスリーが女のような声でたどたどしく呟き、ハガネールの前に手をかざす。そして次の瞬間、ミュウスリーの腕は粘土細工のように形を変えた。

うにゃっ…うにゃうにゃっ…

「…!!」
思わず目をそむけるユーア。
ミュウスリーの腕は瞬く間に、見覚えのある形の、硬い鎧へと変わった。パルシェンの殻である。
「コイ…」
ミュウスリーが口元に笑みを浮かべた。

ズガアァァァ!!

物凄い音響が研究所内に響いた。
砂埃の中から、「ヤハリ…、ハガネールノ巨体ヲ完全ニ受ケキルノハ、無理ガアッタカ…」という抑揚のない声と、
「ヴォォォ!!」という唸り声がした。
そして、また凄まじい衝撃が走った。ハガネールが倒れたのである。

「戻れ!!」
ゲンがハガネールをボールに戻す。
「何なんだよあの化け物は…!」
「…あれはミュウスリー…私が産み出した、遺伝子の怪物…」
レイが傷をおさえながら言った。
「兄貴!!」
「目が覚めたか…、レイ・テネブラリス」

***
「フフ…コイツは最高だ。一度見たポケモンのデータを、瞬時にコピーし我が物にする。このようなポケモンを作れる科学者は、お前以外には居ないだろう。…だが、そうであるからこそ、お前は今すぐ消えねばならない…」
「フン…さっきは縛られていたが、今度はそうはいかない」
そう言ったレイは、横で突っ立って見ているリュウジ達に、手で合図をした。
「そっちは任せた」
そして、ブラックの方に向き、言い放った。
「消えるのは貴様の方だ…ブラック!!」

***
「オ前達ノ相手…ワタシ」
ミュウスリーが抑揚のない声で言った。
リュウジは腕を組んだ。(そんな場合ではないのであるが)
ウィンディもハクリューもエビワラーも、団員達との戦闘で体力を消耗している。そのままの状態でこいつと戦うのは自殺行為だ。さて、どうしたものか…。

そんな様子のリュウジを察したのか、ユーアとゲンが助け舟を出した。
「俺たちの薬を使いな。兄貴の調合した特効薬だ」
「…ありがとう」
リュウジが頭を下げる。持つべきものは友だと痛感した。
「おい、そろそろ始めるぞ」
ブラックがミュウスリーに声をかけた。
「了解…」
ミュウスリーがリュウジたちに手を向けた。紅く光っている。
「何を…!」
ウィィィ…という小さな音が聞こえ、リュウジたちの目の前が真っ暗になった。
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海王星 #2★2005.06/15(水)17:25
番外編『ゼーム』

「サミアは?」
ゼームが、妻に向かって訊いた。
「泣き疲れて眠ってるわ。…あの子に何か用なの?」
アマネというその女は、ゼームに尋ね返した。
「…刺青を左右逆にいれてしまってな。それで…」
「いれ直そうって言うの? やめなさいよ。またあの子を泣かせる気?痛いのよ、あれ」
「ウム…しかし…」
「そもそも、あなた昔からの伝統やら何やらにとらわれ過ぎよ。右でも左でもいいじゃない。誰も見ちゃいないわ」
「はぁ…しかし…」
「今更何よ。いまは宇宙の時代よ。科学の進歩よ。時代が…」
「ハハ…わかった、わかったよ」
アマネの迫力に押され、ゼームは笑いながら返事をした。妻にはどうも勝てそうに無い…。

***
「娘を救わなければ」
ゼームはそう思っていた。モンスターボールは叩き落とされ、このままではサミアを救えない。そんな考えが、頭を駆け巡る。
ゼームは考えた。ここから出てそう遠くはない所に、知り合いの医者の住んでいる小屋がある。そこに行けば、サミアは助かるかもしれない…。
いや、しかし、しかしだ。サミアはクロバットに狙われている。クロバットは執念深いから、サミアを執拗に追ってくるだろう。知り合いにはそんな大群を追っ払う力は無いだろう。クロバットの大群をぞろぞろくっつけていったりしたら、腰を抜かすかもしれない。
では、私一人でこの洞窟を出て、知り合いの小屋に向かったらどうか。小屋のパソコンから私のボックスに回線を割り込ませ、ポケモンを引き出せば…。全速力で走れば、時間はかからないだろう。
だめだ。そんな事は断じてできない。そんな事をしたら、サミアを見捨てる事になる。ゼームは、ずたずたになったサミアの死体を想像して、気分を悪くした。
「父さん…助けて!!父さん!」
サミアは、クロバットに囲まれ悲鳴を上げた。そこらの石を投げ、必死に防御している。
ゼームは今すぐにでもクロバットの大群の中に飛び込みたかった。サミアに覆い被さり、庇ってやりたかった。
しかし、あの数では、二人とも一滴残らず血を吸われ、ミイラ二体のできあがりとなるのがオチだろう。こんなときでも自分の命を考える自分を、ゼームは呪った。
「父さん!!父さん!!」
…五分だ。五分有れば十分なのだ。五分の間にサミアが防御し続ければ、間に合う。二人は助かるのだ。
ゼームは入り口に向かって走り出した。
クロバットが二、三匹追って来ようとしたが、「若い血の方が旨い」と判断したのか、すぐにサミアの方へ戻った。
途中で叫んでいたかもしれないが、ゼームにとって、そんな事はどうでもよかった。ゼームは走った。韋駄天のごとく走った。

「サミアァ!!」
戻ってきたゼームは、力の限り叫んだ。
返事は…無い。
気を失い転がっているクロバットと、消えたサミア。
それを目にし、ゼームはむせび泣いた。獣のように吼えた。

***
ゼームは目を覚ました。風で書類が散っている。どうやら仕事の途中で眠ってしまったらしい。
「夢、か…」
ゼームは、死んだ妻と、消えた娘を思い浮かべ、涙を流した。

ゼームは温かいコーヒーを飲む。
また、一陣の風が書類をさらって行く。まるでゼームに、恨みでもあるかのように…。
「木枯らし…」
ゼームはコーヒーを置き、かがんで書類を拾った。
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海王星 #3☆2005.06/17(金)07:24
第二十六話『犠牲』

気が付くとリュウジ達3人は、見たこともない部屋に来ていた。
ここにも複雑な計器がたくさんあり、壁が岩であることから、同じ洞窟の中だということが分かる。
「ここは…」
「ココハ、管制室…」
ミュウスリーが答える。
「ゲン・テネブラリス…、ユーア・グラール…ソシテ、リュウジ・ガーネット。オ前達ヲ、研究室カラテレポートサセタ。ブラック様トレイ・テネブラリスノ戦イヲ、邪魔セヌ為ニナ。サテ…、我ト戦ウノハ誰ダ」
「リュウジ…頼むわよ」
「頼んだぜ」
二人が言う。
「ああ」
リュウジが、モンスターボールを構えた。

***
「『ブラック』…そうか…今はそんな名を名乗っているのか…」
そう呟き、サカキは微笑んだ。後に、レイはこの笑みの意味を知る事となる。
「奴らは、管制室に送った。これで心置きなくお前を消せる…」
「言ったろう。消えるのはお前だ」
「手負いのお前が、俺に勝てると思っているのか!!」
ブラックの放ったクロバットがレイに飛びかかる。レイは素早く反応し、アリアドスを繰り出した。色違いの、蒼いアリアドスだ。
アリアドスは、白い糸を吐き、クロバットを絡め取った。
「…やはり、無傷では勝てぬか…」
ブラックはクロバットを戻すと、エーフィを繰り出した。
「フィィ――ッ!!」
エーフィはサイコキネシスを放つ。アリアドスも、姿に似合わぬ素早さで、サイコキネシスを放つ。だが、エスパーポケモンには勝てず、叫び声を上げる。
「フォォーッ!!」
「戻れ!!…フーディン!!」
レイは、あせっていた。レイの持っているポケモンは三匹。それだけで、この相手に適うかどうか…。
いや、時間を稼ぐのだ。先程連絡をしたから、もうすぐ国際警察の腕利きたちが集まってくるだろう。それまでに、こいつを足止めしておけば…。

「ウィンディ!!」
ウィンディは炎を吐く。しかし、パルシェンの殻の前では、炎はかき消されてしまう。
「無駄ダ…」
ミュウスリーは笑い、指を構えた。ミュウスリーの丸い指が、一本一本変形し、ストライクの鎌に変わった。
「消エロ!!」
ミュウスリーの斬撃が、ウィンディを襲う。ウィンディは何とか避けるも、風圧で三本の切傷ができた。
「くそ…!!」
このままでは、勝てない。凶大な敵を前に、リュウジもまた、あせり始めていた、そんな時だった。
「今だ!!早く炎を放て、ウィンディ!!」
ふと、ミュウスリーから、声がした。…ミュウスリーが言ったのではない。
「早く!火炎放射だ、ウィンディ!!」
ゲンである。ゲンが、ミュウスリーの四肢を押さえつけていた。

「何ヲ…何ヲスル、人間ヨ!!」
「へへっ…こうでもしねぇと勝てねぇだろ」
屈託の無い笑顔で、にかっと笑う。
「人間風情ガ…我ニ触レルナ!!」
ミュウスリーが電撃を放つ。
「ぐあぁぁっ!!」
ゲンは叫んだ。だが、ミュウスリーは掴んだままである。
「そこまで…」
「やれよ…ウィンディ…」
しかし、ウィンディはためらっている。今火炎放射を放てば、ゲンまで黒焦げになってしまう。
「へへ…心配…すんなよ…俺…もう黒焦げだぜ…これ以上…黒くなりゃしねぇよ…」
「小癪ナッ!!離セッ…離せッ!!」
「がぁぁっ!!」
ゲンは再び電撃を受け、仰け反る。
「やれよ…」
リュウジは決心した。このままでは、ミュウスリーは逃げてしまう。そうすれば、勝ち目は無い。
「ウィンディ、やってくれ」
ウィンディはまだためらっている。しかし、主人の気持ちを察したのか、ミュウスリーに向き直った。
「…馬鹿ナ…ヤメロ…ヤメロ!!」
ミュウスリーは叫んだ。
リュウジは決心した。今は心を鬼にしなければならない。ちょっと前までは、こんな選択を迫られる事はなかった。俺に、何
「やれよ…この野郎ぉぉ!!」
「火炎放射だ、ウィンディー!!」
「ウアアァァ―――!!」
三つの声が入り混じり、轟音と紅い光が舞った。
「へへ…やるじゃねぇか…、…あばよ」
ぷっつりと糸が切れたように、ゲンは眼を閉じた。

ミュウスリーは、煙の中に黒焦げで横たわっている。
「倒した…のか…?」
リュウジは呟いた。しかし、失ったものの代償は大きい…。
いや、ゲンが死んだとは限らない。医者に診せれば、助かるかも知れない。その為には、一刻も早くここから出なければ…。
リュウジはゲンを抱え、ユーアと共に走り出した。
「待テ…」
生きていた。ミュウスリーは手に光を携え、リュウジに襲い掛かる。
「ブラック様ノ…為ニ…」
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海王星 #4☆2005.08/04(木)20:34
第二十七話『ぶつかる鋼』

ミュウスリーは、狂った声を上げながら、右手の鎌でリュウジに襲い掛かる。
「死ネ!!死ネ!!死ネェェ!!」

「うるさい…」
リュウジはミュウスリーを睨み付けた。眼には涙が溢れている。その殺気に、ミュウスリーはたじろぐ。
「…!?」
「お前のせいで…ゲンは…」
次の瞬間、ミュウスリーの頬に、リュウジの拳が炸裂した。
「…私ヲ殴ルトハ…!!」
「…」
リュウジは黙っている。拳がまだ固まっている。
「殴ッタ!!殴ッタ!!殴ッタナァ!!」
左手をスピアーの針に変化させ、両腕を無茶苦茶に振り回しながら、ミュウスリーはリュウジに向かって物凄い速さで襲ってくる。
「死ネ」
ミュウスリーがリュウジの喉笛に針を突き立てた、その時だった。
「ヴォォォ…!!」
唸り声と、鈍い音が響く。
「ハガネール…」
倒れたミュウスリーを尻目に、ゲンのハガネールはにっこりと笑った(ように、リュウジには見えた)。
「ゲンは水使いと戦った…だから、ハガネールは使わなかったのね」
ユーアが呟く。
「いっしょに戦ってくれるか、ハガネール」
「ヴォ」
ハガネールは頷いた。
「反撃開始だ!!」

「ククク…忘レタカ…私ハ見タポケモンノ能力ヲ読ミ取リ、吸収スル…」
ミュウスリーの体が、鈍い銀色に染まっていく。
「ハガネールノ硬度…貰ッタ」
両腕をハガネールの尾に変化させ、鞭の様にハガネールに打ちつける。「ガキィン!!」と鈍い金属音が洞窟内に響く。
「ヴォォ…」
ハガネールが鈍い声で呻く。
「ハハハ!!ハガネールゴトキノ素早サデハ、コノ攻撃はカワセマイ!!」
ミュウスリーが笑いながら、ハガネールを打つ。
リュウジは指示も出さず、黙っている。拳が震えていた。
(どうして!?どうして何も指示を出さないの!?)
ユーアは心の内で叫んだが、何も言わなかった。何か考えがあるのだろうと思ったのだ。
そんなユーアの考えを見透かしたのか、ミュウスリーは叫ぶ。
「所詮他人ノポケモン!!コイツハ見捨テタノサ、ハガネールモ、可哀想ニナァ!!」
「違うさ」
と、ずっと下を向いていたリュウジが、ミュウスリーを見据え、ニヤッと笑った。
「かかったな」
「…!?」
ミュウスリーの両腕が真っ赤になり、熱を帯びている。
「同じ物質が打ち合うことで、物質は摩擦で熱を放つ…」
「ムゥ…」
ミュウスリーは腕を振り回し、熱を冷まそうとした。だが、真っ赤になった腕の熱は一行に引かない。
「つまり、急激に冷ませば、お前の腕は砕け散る!!」
リュウジは水筒を出し、ミュウスリーの腕に投げつけた。
「ヤメロォォォ!!」
ミュウスリーの鋼鉄の腕がボロボロと音を立て崩れてゆく。
「ありがとう、ハガネール」
リュウジが背伸びして、ハガネールの頭を撫でた。

「面白イ…オ前ヲ今消スノハ惜シイ…次ニ会ウトキニユックリ消ストシヨウ…ポケモン共々…ナ。私ヲ殴ッタ事ヲ…後悔スル事ニナル」
腕のないミュウスリーはニヤリと笑みを見せ、消えた。と同時に、リュウジ達の視界が暗くなった。
「サラバダ、リュウジ・ガーネット…」
意識が遠のく中で、リュウジ達は確かにその声を聞いた。

「…タダイマ戻リマシタ、ブラック様…」
ボールの中に戻ったミュウスリーは、主人に報告した。
「申シ訳アリマセン…奴ラハ殺セズデス」
「いや…いいんだ。ミュウスリー、お前が無事なら…こっちも…」
ブラックは足下に倒れているレイに目を向けた。
「こっちも、今終わった所だ」
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海王星 #5☆2005.08/24(水)08:17
第二十八話『時雨、散る』

「レイさん!!」
ユーアが倒れていたレイに駆け寄る。意識はない。割れた眼鏡を拾い、リュウジは言う。
「何で…」
「俺に刃向かったから…それ以外に何がある」
ブラックはニヤリと笑みを浮かべた。リュウジはまたボールを構える。
「ハガネール、まだやれるか」

「…ハガネール…そうか。お前がミュウスリー…俺の『娘』を…」
(『娘』…!?)
「なら尚の事、生かしては置けん!!」
ブラックが、パチンと指を鳴らした。
「忘れたか、ここはR団第六基地…」
ワープタイルから、何十人ものR団員が現れる。
「この数からは、逃げ切れまい!!」
じりじりと迫ってくる団員達。リュウジ達は後ずさりした。
(万事、休す…)
リュウジ達は後ろの壁にぶつかった。もう後が無い。
さすがに死を覚悟した、その時だった。

『ガガッ…俺達は…ガッ…国際警察の者だ…』

太い男の声。雑音交じりのその声は、レイのポケットにある通信機から聞こえていた。その声に、R団員達は足を止める。続いて、声は神経質そうな男の声に変わった。
『この洞窟は…ガガ…私達に…よって完全に…包囲されています…ガガッ』
『大人しく…白旗揚げて…ガガッ…降参した方が…罪は軽いよ…』
女の声に変わり、最後に聞き覚えのある懐かしい声がした。
『さあ…どうする…ブラックよ…ガッ』
「ゼームさん!!」

「終わりだな…大人しく降参した方がいいんじゃないのか?」
金縛りにされたままのサカキが、笑った。
「うるさい…俺は、お前とは違う!!」
ブラックは計器に向かい、何やら入力した。入力し終わると、ブザーと共にアナウンスが鳴る。
『R団第六基地…自爆まで、あと10分…』
ブラックはレイのポケットから通信機を抜き取り、足で踏み潰した。部品がそこらじゅうに散乱する。
「この基地は、あと10分足らずで、粉々だ」
「なにっ…!!」
リュウジ達とサカキは、ほぼ同時に叫んだ。ブラックは続ける。
「団員達はくれてやる…もっとも、お前達と一緒に粉々だがな…お前達には随分借りができた…俺自らの手で殺せないのは残念だが…ここで死んでもらう事にする」
「卑怯な…」
「シラヌイ…」
ブラックは不意に振り返り、部下を見た。
「はっ…」
「お前は俺と共に来い…研究者は必要だ…こんな…」
ブラックは汚いものを見るような目つきで、足元のレイを見る。
「こんな役立たずと違ってな…」
そう言い残し、ブラックとシラヌイは消えた。

***
広い研究室に、20人程のR団員と、リュウジ達、そしてサカキが、ぽつんと取り残された。ブザーが空しく響き続ける。
「…うう…」
「レイさん!!」
レイが意識を取り戻し、起き上がった。
「今から私の言う事をよく聞け…この基地はあと数分で爆発する…。お前達は外に出たら、そのことを伝え、ゼームさんたちの部隊を、出来るだけ退かせてくれ」
「でも、どうやって…」
「私はここに残って、自爆プログラムを書き換える。うまくいけば、爆発も阻止できるはずだ」
レイはポケモンたちに指示を与える。
「ゴルダック、アリアドス、フーディン…サイコキネシスで、三人を洞窟の外へ…」
三匹は黙って頷く。紫色の光が、三人と三匹を包んだ。
「レイさん!!…もし失敗したら…」
「そんな事は考えるな…お前達の方が大事だ」
「レイさ…」
三人と三匹は消えた。


『自爆まで、あと三分…』
「感動しましたぜ、レイの旦那!!」
「あんた、男や…」
残された団員たちから、そんな言葉が漏れる。
「フフ…」
サカキが笑った。それを尻目に、レイは計器に向かっていた。
「…ダメだ!!複雑すぎる!!」
レイは両手で机を叩いた。
「私は、無力だ…」
涙を流し、歯を食いしばるレイの背中に、声をかけることもできず、ただサカキは黙っていた。
重い沈黙が響いた、その時だった。

「あとは拙僧に任せられい」
男の声がしたと同時に、団員たちが消えた。
「貴方は…」
レイは振り向いた。薄暗い洞窟内に、ひときわ光る影…。
「なに、ただの坊主である」
シグレは自分の坊主頭をなで、笑った。
「ご老体…すまぬが拙僧のポケモンを、しばらく預かっておいてはくれぬか…」
シグレはボールをサカキに預けると、手をかざして念仏を唱えた。
「あばよ」
サカキは小さく手を振り、消えた。
「超能力…」
「左様。さあ、ヌシの番だ」
手をかざそうとするシグレの手を払いのけ、レイは言った。
「…駄目だ。このプログラムを解除しなければ、爆発は止まらない」
「だから逃げろと言うておるのだ」
「…それに私は、貴方を完全に信用したわけではない…貴方は、R団員だろう」
「申し遅れた…拙僧はシグレ…」
「そんな事を聞いてるんじゃない!!」
レイは苛立った。もうすぐこの基地は自爆するというのに、何故こんな男と係わり合いにならねばならないんだ…。
「先程、ヌシの弟には世話になったのでな…その礼という訳だ」
そう言うと、有無を言わさず、手をかざした。
「しかし、貴方は…!!」
「安心せい。拙僧には『力』がある」
レイはまだ何か言いたげだったが、諦めたようだった。ゆっくりと消えていく。

「さて…」
シグレは徳利をとりだし、酒を呑み始めた。
「別れ酒、か…」
シグレは呟く。もともと、何もできる気はなかった。20人ものR団員達を送ったせいか、『力』はすっかり失せてしまった。それは、レイを送ったときに気付いていた。「借りを返す」。それだけの事。
とはいえ…奴を…ミュウスリーを圧倒するあの力…。
『自爆10秒前。カウント開始します。10,9,8,7,6…』
「ははは!!末恐ろしい奴等じゃ!!」
それが、最期の言葉だった。岩盤が崩れて行く。

「シグレぇぇ!!」
レイは上空、ユーアが操縦するヘリコプターの中で、窓から身を乗り出して叫んだ。
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[717]

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