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華苗 | #1★2005.03/24(木)14:44 |
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【番外編其の一、 時には昔の話を…】 四方を森に囲まれた、静かな町、ミシロタウン。 森の向こうには山があり、その合間から朝日が顔を出す。 陽光はやわらかに、町全体を照らす。 ある家の屋根では、ドードリオが高らかに、一声、なきごえをあげる。 この町は朝を迎える。いつもと変わらぬ、のどかな朝を。 つい一ヶ月前にこの町の少年が、ホウエンリーグでチャンピオンを破るという偉業を成し遂げていたのだが。 それでもやはり、いつもと変わらぬ、朝が来る。 「次、アキレス腱伸ばし! いっちに! さーんし!」 『ごーろく! ななはち!』 ある家の前には、少年とそのポケモン達がいた。 まだ寝癖が直っていない白い髪の少年。その隣には、水色の体に、頬にはオレンジのえら、頭とお尻にヒレのついた、ポケモン・ヌマクロー。 まわりには、マッスグマ、頭にバンダナを巻いたオオスバメ、ライボルト、色違いの黄色いロコン、左目にキズのあるアブソル…そして、珍しい鋼ポケモンのダンバルと、ポケモンが勢ぞろい。 少年・ユウキはポケモントレーナー。つい先日、ホウエンリーグチャンピオン、ダイゴを初めて破った凄腕のトレーナーだった。 ヌマクロー・ウォンはユウキのパートナー。一進化形ながらもその力はかなりのもの。 「前後屈ー!」ユウキが声をかける。 体操をしているようだが、実際にやっているのはユウキとウォンだけ。 マッスグマやオオスバメみたいなポケモンが前後屈なんてできません。 まぁ、跳躍くらいはできるかもしれないけど。 『いっちにー、さんし!』ライボルトのルクスが声をかける。 『ごーろく、ななはち。』ダンバルのジークも。 『きゅう、じゅう…』黄色いロコンのユナが続けます。 『あ、ユナちゃん間違えてる。』オオスバメのウィングが指摘する。 『にーに、さんし! だよー!』マッスグマ・カシスが間違いを正した。 『そ、そうでした…』 『間違いは誰にでもある』アブソル・ゲイルがフォローに入る。 『ごめんなさい。にーに、さんし!』 『ごーろく、しっちはち!』 「よーし、深呼吸! すってー、はいてー。」 ユウキは掛け声をかけると、ポケモン達と一緒に、息を大きくすって、はいて。 「よーし、体操終わり!」 『イヤー、気持ちイイよナ! 朝の体操!』 ウォンがすがすがしく笑む。 「そうだなー! じゃあ朝飯だ!」 『わーいっ!』 ユウキの言葉を聞くと、ポケモン達は我先にと、玄関のドアへと「とっしん」。 一番早いのはカシス。次いでウィング、ウォン、ユナ。 ルクスとゲイル、ジークは後からゆっくりと。 『…そんなに急がなくったってゴハンは逃げないのにね。』と、ルクス。 『全くだ…だがのんびりしすぎるとオレ達の分までなくなってしまうぞ』 『でも見てて飽きないなー。ダイゴのトコにいたときは周りがいつもおんなじで。』 ゲイルとジークがそう言った。家の中ではユウキが皿を七つ、用意している。 「今朝はポケモンフーズだぞ。こらウォン、ユナの分取るな!」 ソロ〜っとユナの器に手を伸ばすウォンに、ユウキは注意する。 『あ、バレてタ? ゴメンナ〜…』 手を引っ込めるウォン。ユナはくすくす笑った。 『いただきまーす!』 みんなで声を合わせる。だが。 『あ、ごめん。いただいてまーす!』 …カシスは一足先に手をつけていたようだ。さすがせっかち。 「ふふっ。ポケモンがいるとにぎやかで楽しいわ!」 ユウキの母は食卓に着きながら、ポケモン達を眺めた。 こうして、ユウキの一日が始まるのだ。 さて、朝ごはんが終わってから夕方までは自由行動。 ユウキはというと…ウォンと一緒に、家から少し離れた場所へと向かっていた。 小高い丘の上、ログハウスのような丸太の建物が建っている。 それは、ホウエン地方のポケモン研究家、オダマキ博士の研究所だった。 「おはようございます、博士―!」 『オハヨー、博士!』 研究所に入ったふたりを迎えたのは、博士ではなかった。 「あ、ユウキにウォン! おはよ!」 茶髪にバンダナの少女と、ワカシャモだった。 「あれ、ハルカ? それとアール。」 ハルカと言う少女。オダマキ博士の娘だ。 隣にはハルカのパートナーのワカシャモ、アールが。 ユウキと一緒に旅をし、バッジを集めた、こちらも腕のあるトレーナー。 将来の夢は、父親のようなポケモン研究家になることだ。 「博士は?」 「あー、実はね、パパったら…ポケモン研究家の集まりがあるとかなんとか言って、昨日あわてて出発しちゃったの。カイナの港からカントーまで船で行くらしくて、仕方ないからヒスイ(キルリア)の『テレポート』で送ってあげたけど…ホントにパパったら、昔からおっちょこちょいなんだから…。」 ハルカは肩をすくめてみせた。大変だな、とユウキは返事をする。 「まぁね、そのことに気づいたのもママだし。…ところで、リュクご飯終わった?」 『とっくに。』 研究所の置くから、カラになった皿を持って、ジュプトル・リュクが歩いてきた。 ちなみにリュクはシダケに住む少年、ミツルのポケモン。 ウォン、アール、リュクの三匹は、昔オダマキ研究所に初心者用ポケモンとして暮らしていた。 「あ、じゃあ洗っておくから、置いといてね。」 『わかった。』 短く返事を返して近くの机に皿を置く。 ハルカが皿を持って外に出る。そこをユウキが呼び止めた。 「なぁ、ハルカは何でここにいるんだ?」 「リュクにご飯あげなくちゃ…パパの助手さんもパパについていってていないし。それに散らかってきてるから掃除しといてあげないと。」 「じゃあオレも手伝うよ。やること特にないしな。」 「あ、そう? 助かるわ、ありがとう。」 そんなやり取りをして、ふたりそろって外へ出て行った。 残された三匹のポケモン達。 『アタシ達はどうする?』アールがたずねる。 『オレ達がいては掃除のジャマになるんじゃないか?』リュクがそう返した。 『そうだナー。手伝うったっテ、リュクやアールは書類燃やしたり刻んだりしそうだナ。』 一言多いウォンに、アールの肘鉄が飛んでくる。 『グハァ!』大げさに吹っ飛ぶウォン。 『一言多いのよ! でもリュクの言う事ももっともだし、あたし達は外に出てよーか。』 『賛成だな。…コイツはどうする?』 リュクが床に落ちたウォンをあごでしゃくった。 『ほっといてもいーんじゃない? ウォンなら手伝っても書類びしょぬれにする程度で済むでしょ?』 『まぁな…じゃあ行くか。』 『ア! オイ、待てヨー!』 三匹は研究所の外に出て、そこから少し離れた森の中に入る。 歩くたびサクッと音を立てる芝生は朝露をまとっていて、太陽によってキラッと光る。 森の中は夏とはいえ涼しく、朝の空気と森の冷えた風も混じって肌寒いほどだった。 『なァ。』ウォンが芝生に腰を下ろして言った。 『なに?』 『昔の話! オレ達が出会う前の話! しないカ?』 『まぁ、それもいいかもな…』 『よっし決まり! じゃ、オレからナ!』 ウォンはアールとリュクとの出会う前の事を話し出した。 『オレは、初心者用ポケモンの育成施設で生まれたんダ。』 『あ、アタシも! リュクもだよね。』 『ああ。』 初心者用ポケモンの育成施設は、世界各地にある。そのポケモンは規定の強さまで育てられてから、ポケモン研究家などを通じて、初心者トレーナーの手に渡るのだ。ホウエンではキモリ、アチャモ、ミズゴロウの三種類が初心者用として育てられている。 『ミズゴロウ用の施設で、沼がある湿地なんだ。そこにレインの兄貴と一緒にいたんだゼ。』 アールとリュクは黙って続きを聞いている。 レインとは、ウォンの兄のラグラージである。野生ポケモンとして、海に住んでいる。 『でもサー。兄貴はこっそり自力でヌマクローに進化して、施設抜け出しちまってサ。施設の鈍い連中は気づかなかったみたいだけどナ。それからオレはここに連れてこられたんダ。思えばあのときから旅の途中で会うまで、兄貴に会えなかったんだナ!』 『…オマエの兄貴も、脱走したのか?』 リュクが放った言葉にアールもウォンも目を丸くした。 『エー!? まさか…』 『アーリィも…オレも、アンとレンも、脱走してたんだ。』 リュクが苦々しげにそう言った。 アーリィは、リュクの姉のジュカイン。アンとレンは、リュクの下の双子のキモリ。 野生として、今は119番道路に暮らしている。(第三章、59話参照。) 『アイツもオマエの兄貴みたいに、自力でジュプトルに進化して。まだガキだったオレとアンとレンも巻き込んで、施設から脱走。で、今あいつらの住んでる森まで逃げたんだ。』 『わー、スゲーなァ、オマエの姉貴。』ウォンが吃驚する。 『だが結局は、施設のやつらに気づかれた。アーリィはアンとレンを連れて逃げたけど、オレは施設に戻った。食いモン集めてこいだの…アーリィにこき使われるのがイヤになって…自分からな。』 『へー…苦労したのねー。』 『あぁ、そりゃもう…施設のやつらが見つけてくれて助かった。そうでなくちゃ今頃、ここにはいないだろうさ…』 ため息交じりに、リュクが言い終えた。 『だなー。アールは?』 『え? アタシはアンタ達が言うほど変わった事はなかったよ。ただ兄貴と一緒に、施設で暮らしてただけー。兄貴は先に連れてかれちゃって、離れ離れになっちゃったけど。旅の途中で会えたときは、嬉しかったなぁ。もう会えないかもとか思ってたから…』 一瞬浮かんだどこか寂しげな表情は、次の瞬間には消えていた。 ちなみにアールの兄はバシャーモ・イーグル。リョウというトレーナーとホウエンを旅している。 『さみしかった…のか?』 リュクのセリフにアールは思い切り首を振る。 『そんなこと…あるはずないじゃない。』 『だよナー。さみしいとか言ってるような女々しいアールなんて、気味が悪いゼ。』 ウォン、またしても二言三言多かったようだ。 本日二度目のアールの肘鉄が、ウォンの横腹に炸裂した。 『はうッ…!』 腹を抱えてしばふに倒れこむウォン。 『フン! 気味が悪くてけっこう!』 『すごい威力だよな…』リュクも目を丸くする。 『いてぇナァ…もうッ。』ウォンがむくりと起き上がる。 『オマエが悪い。』リュクはすかさずきっぱりと言った。 『そんなァ〜。』 湿っていたしばふも、太陽が乾かしてくれ、今は暖かい。 どこか遠くのほうから、こスバメの鳴き声が聞こえた。 『さて、』リュクが立ち上がる。『話は終わっただろ。この後は?』 『やっぱり、研究所の掃除手伝いにいこっか?』 『やることないしナー。じゃ、行こうゼー!』 三匹のポケモンは立ち上がり、歩き出す。 オダマキ研究所の前には、ユウキが立っていた。 「あ! もう、どこ行ってたんだよ! 何にも言わないで出てくから心配したぞ!」 『あ、ユウキに言ってなかったナ…ゴメンナー。』 「もういいよ。それより、掃除手伝ってくれないか? かなり散らかっててさあ…」 『あの博士…少しは掃除しろよな…』リュクがこめかみを押さえる。 『まぁ、ちゃっちゃっとやっちゃえばいいんじゃない?』 アールが研究所の中に入る。 後にユウキとウォン、リュクも続いた。 と。 「きゃあー!」 ハルカが悲鳴を上げている。 「な、なんだー?」 「あぶなーい!」 『うわあぁー!』 ドサドサドサッ! 山積みになっていた書類や書物がくずれ、ハルカ達が下敷きに。 「いてて…」ユウキが書類の山から体を起こした。「なんだよ、コレ…」 「もうっ、パパッたらー! こんなに書類積み上げてっ。崩れちゃったじゃない! 使ったものはちゃんと本棚とかファイルとかにしまいなさいっていつも言ってたのにっ…」 『はァ…』ウォンも。 『先は長そうね…』アールも。 『ったく…あのおっちょこちょい学者め…』リュクも。 それにユウキとハルカも。 ふたりと三匹は、もうあきれて物が言えず、ただただ盛大に、ため息をついた… 研究所の片付けは、その日一日では終わらなかったそうな。 『ホント、昔っから、博士のドジは直ってないよナー!』 |
華苗 | #2★2005.03/24(木)14:49 |
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【其の二、 今夜の夢は…?】 あたしは走っていた。目の前にいる、ふたりを追いかけて。 「お父さん! お母さん!」 やさしく笑ってる、かっこいいお父さんに、きれいなお母さん。 あたしという存在を、この世界に創ってくれた。 目の前にいる二人に抱きつこうとする。…だけど、なんで? 届かない… そこで、目が覚めた。今のは、夢… あたしはまだ、お父さんとお母さんの顔を知らないんだ… お日様がまぶしくて、目を開けた。 今日も晴れてて、いいお天気みたい。 あたしはユナ。色違いのロコンなんだって。良く、わかんないんだけど… ソファの上で、ウィング先輩と一緒に眠ってたんだ。 ユウキはまだ寝てるみたい… ほっぺを、つねってみた。 「ン…」ユウキが寝返りを打った。 お、起きるかも… 「ん〜… ユナ…?」 『おはよ、ユウキー。』 「おはよ。」 『ねえ…お父さんとお母さんに、会いに行きたいな。ダメ?』 そうお願いしてみることにした。 「んー、いいよ。そのうち行こうとは思ってたし…今日にしようか?」 『やったぁ! ユウキ大好き! ユナ楽しみ!』 こうして、今日あたしは、初めてお父さんとお母さんと会えることになったのです。 お昼から、そだてやさんに行くことになりました。 ほとんどのみんながついていきたいって言ったので、みんなはモンスターボールの中に入りました。 ウィング先輩の足にユウキがつかまって、背中にはあたしが乗ります。 ミシロタウンを出て、地上の眺めを楽しみながら、キンセツシティのはずれ、そだてやさんに向かいました。 だんだん、そだてやさんの広ーいお庭が見えてきました。 キレイな銀色のキュウコンさんがいる…尻尾にはタマゴがいくつも乗せてあった。 隣にいるのはカッコいいグラエナさん。 『レナ、タマゴの具合は?』 グラエナさんがキュウコンさんに話してる。レナって言うのかな? 『今日は結構調子がいいようね。いくつかは今日孵りそう。』 『そうか。ん…?』 グラエナさん、こっちに気づいたみたい。あたしたちを見上げてる。 「おーい、ジーン!」 『ジンさーん!』 ユウキとウィング先輩が、そのグラエナさんに呼びかける。ジンって言うみたい… 『ユウキ!』 『ユウキさん…?』 ふたりが息を呑む音が聞こえた。 そして、着陸。 ウィング先輩の背中から飛び降りて、ジンさんに飛びつく。 『お父さん…!』 「こら、ユナっ。いきなりダメだろ? まずはあいさつ。」ユウキはそう言ってジンさんに話し始めた。「久しぶりだな、ジン。コイツはユナ。お前と別れた日に、そだてやのおじいさんからもらった卵から孵ったんだ」 『あのタマゴから…!』ジンの目が輝いた。『ユナというんだな…』 『はい! はじめましてっ。』ぴょこりと頭を下げてみる。『あたし、ユナです。』 『あのタマゴが今頃どうなったかって、私達、心配していたんです…ユウキさん、ありがとうございます』 レナさんはユウキに頭を下げた。 『お父さん、お母さん!』 ルネシティでのあのときから、ずっと夢見てた。 お父さんとお母さんに会う。なでてもらう。おはなしする。 そんな、夢… 『ユナ…』 銀色のキュウコンと、真っ黒いグラエナは、黄色のロコンを愛情を込めてなでてやった。 「ウィング、お疲れさまー。」ユウキはウィングに声をかけた。 『ぜんぜーん。』 『えっ…』驚き、顔を上げるジン。『ウィング? 進化したのか?』 「あぁ。カシスも、ルクスも。新顔もいるよ。ウォンは変わってないけどな。」 『そうか。後でゆっくり、話がしたいな。』 その時、でした。 お母さんが尻尾に抱いていた卵のひとつに、ひびが入ったんです! パキッ… パリッ… 『え? ど、どうしたんですか?』 『生まれるのよ…ジン、おじいさんを呼んできて!』 『わかった。』 お父さんは小屋に走っていきます。 その間にも、ヒビは広がって…からの破片が飛んで。 タマゴから、小さなポケモンの顔が覗きました。 『そぉなのーっ!』 水色で尻尾は真っ黒な、愛嬌のある顔をしたポケモンでした。 「お、コイツは初めて見る! どれどれっ。」 ユウキはポケモン図鑑を取り出した。(ピッ☆) “ソーナノ ほがらかポケモン。いつもニコニコ笑顔のソーナノ。怒っているときはしっぽに注目。地面をパタパタたたいているぞ。” 「なるほど〜。かわいいな!」ユウキは図鑑をしまって、ソーナノを抱いてみた。 『そーなのっ。』 「おぉ、君はユウキ君じゃないか!」 小屋からは、お父さんと人間のおじいさんが走ってくる。 「おぉ、それに…卵が孵ったんだな。よしよし…ユウキ君、あがってお茶でも飲まないかい?」 「あ、じゃあいただきます。ユナはレナとジンと一緒にいなよ。ウィングは?」 『ボクもここにいるー。』 「そっか。よし…」 ユウキはボールに入っていたカシスさん、ルクスさん、ゲイルさんと、ウォンさんを出した。ちなみにジークさんはお留守番。 「おまえ達も、ここにいるんだぞ。」 『はーい。』 みんなは返事をすると、「ジン久しぶりー!」とか「元気にしてたカー?」とか、お父さんに話しかけた。 おじいさんはソーナノを抱いて、ユウキと一緒に小屋に入っていった。 『オマエが、ジン…か。オレはゲイルだ。よろしく…』 『君がユウキの言う新入りか。よろしく』 ゲイルさんも、あいさつをしてた。 『やー、レナさんはまた一段とキレイになったんじゃないっすカ?』 ウォン先輩がお母さんをほめてる。 『ふふっ。もう…お世辞が上手ね。』 『お世辞じゃないない! ホント、キレイだよ!』ウィング先輩も。 『このこのー。ジンッたら。こんなきれいな奥さんに、かわいい娘持っちゃって。幸せものめー』 カシスさんがお父さんを小突く。 『な…まぁ、そりゃ、幸せだが…!』お父さんはテレながらそう言ったけど。『お前ら! からかうな!』 『ひゃ、ジンが怒ったーっ。』 そう言ってる矢先で、お母さんも顔を赤くしてた。 『ユナちゃんがうらやましいよ。』 ルクスさんにもそう言われて、なんだか嬉しくなってきちゃうな。 『えへへっ。』 『面白い方々ね。』 『まぁ、な…』 『ジンはここに残ってどんなことしてたんダ?』 『どんなこと、ねぇ…タマゴを狙いに来るポケモンを追い払ったり、おじいさんのお使いに行ったり、…何もなければ、レナのそばにいたが…』 なんでかはわからないけど、お父さんは言い終わったあと顔を赤くしてた。 『ユナ、あなたがユウキさんと旅をして見てきた物のこと、話してくれない?』 お母さんは笑顔でそう言ってきた。紫の目がキレイだなぁ… 『うん。あのね、海を見たよ。飲んでみたけど、しょっぱくてむせちゃった。』 お父さんがくすくす笑ってる。 『おーっきいポケモンさんや、珍しいポケモンさんとも会ったよ。旅って、楽しいの。』 『だろうな。』 『でも、ユナは今が一番嬉しいよ。お父さんとお母さんに会えたから。』 『ユナ…』 本当に、嬉しかった。お父さんとお母さんと、初めて会えたんだもん。 あたしは時間のたつのも忘れて、ふたりといっぱい、お話をしていた。 遠くから、ユウキの呼ぶ声が聞こえた。 「ナ…ユナ…ユナ。」 『あっ、ユウキ?』 そっか、寝ちゃってたんだ…はしゃぎすぎて、疲れちゃったから。 「そろそろ、帰るぞ?」 帰る…? 言われて見れば、空は夕焼けでオレンジ色になってる。 お日様もそろそろお休みの時間だ。 そろそろ帰らないと、ユウキのお母さんも心配するもんね。 『そっか…』 「おまえ達も帰るぞー。戻れ!」 ユウキはウィング先輩と、あたし以外のみんなをモンスターボールに戻した。 お父さんとお母さんから一歩はなれて、最初会ったときのように、お辞儀をした。 『ユウキ、もう行くのか…』 「あぁ。」 『ユナ…あなたも、行くの?』 お母さんに心配そうな顔をされたけど、あたしはこう答えた。 『うん。ユウキやみんなと一緒に、遊ぶんだ!』 お父さんも、お母さんも、なんかつらそう… 「また来るからさ。な、ユナ。」 もちろん。あたしはうなずいた。 ユウキに抱き上げられて、なでてもらった。それが妙にくすぐったい。 『今ならわかる気がします。あの時の…ジンと別れたときのあなたの気持ちが…』 お母さんはあたしをまっすぐ見て言った。声が震えてるみたいだった。 『あぁ。…ユウキ、また来てくれ。』 「わかってる。よし、ウィング、帰るぞ! ユナもな!」 『おっけー。ユナちゃん乗って。』 あたしが背中に飛び乗る。先輩はそのまま上昇して、ユウキに足をつかまらせる。 そのまま、宙に浮いた。 『じゃあね! お父さん、お母さん!』 ふたりに、手を振る。その間にもお父さんとお母さんの姿はだんだん遠ざかって…やがて、見えなくなった。 「ジンとレナに…会えてよかったか?」 『うん! もちろん!』 ふと暗くなってきたお空を見上げると、きらりと光ったものがあった。 『あ、一番星…』 『ホントだ。キレイだねー』 『うん!』 お空の黒はお父さん。光ってる白い星は、お母さんみたいだった。 今日は、どんな夢が見られるかな。 お父さんと、お母さんの夢だったら、ユナ、嬉しいな。 今夜の夢は、いい夢だといいな。 |
華苗 | #3★2005.03/24(木)15:02 |
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【其の三、 孤独の過去】 墨を流したような夜空にたたずむのは、ちかちかと輝く小さな星たち。 星達に囲まれて、細い弓の形を成した月もひっそりと浮かんでいた。 ミシロタウンの夜は静かだった。あたりに聞こえるものは、木々の葉を揺らす風の音。 昼間にはさかんに動く森の野生ポケモン達も、夜中ではおとなしく、森の中で体を寄せ合い、眠りについていた。 そんな中、草原には一匹のポケモンがたたずんでいた。 夜空のように黒く鋭いツメ、頭のカマ。少しくすんだ白い色の毛並み。 開いている右の瞳は深紅色。左目は閉ざされて、傷が走っていた。 わざわいポケモンの、アブソル…ゲイルだった。 ふとゲイルは首をひねって、背後を見やる。 そこには、よく知るエネコロロの姿があった。 「…コローネか。」 「ゲイルじゃない。こんな夜中にどうしたの?」 顔をあさっての方向に向けて、ゲイルは言った。 「…ただの気まぐれだ。オマエこそどうしたんだ?」 「…そう。わたしは眠れなくって。」 ゲイルから、返事は返ってこない。 コローネは小走りでゲイルの隣へ行って、地面に座った。 「ねぇ、あなたは何を見ているの?」 「何も」 そっけないなぁと思いつつ、コローネはまた訊いた。 「なんで独りでいるの?」 「独りが…好きなんだ」 「ウソでしょ」 ゲイルの言葉を否定して、正面に回って顔を覗き込む。 たちまち、ゲイルは目線をそらした。 「オレがオマエに嘘をついて何の得がある?」 無理にでも負ってくる相手の目線をそらしながら、ゲイルは答えた。 「得なことはないと思うけど、ウソなのはすぐわかるわ。やたらと目線そらすもの」 今度はうつむいて、ゲイルは口を開く。 「あぁ、そうだ。ウソだよ…それと、これクセっていうのか?」 「そうでしょ?」 「よく気づくよな…」 「まぁね。わたしは他人のクセとかすぐ気づけるんだ!」 「地味な特技だな」 一言で片付けられたのが残念だったが、コローネはこりずにもう一つ、訊いてみた。 「なんで、独りでいるの?」 「…オレは他のヤツと仲良くなるのが、怖い」 「どういう事?」 「どんなに仲がよくたって、別れは来るから…オレひとり、取り残されるのが怖いんだ。だから…」 胸につかえたものを吐き出すように、彼は言葉をつむぐ。 「はじめから独りでいたかった」 沈黙が落ちる。 先にそれを破ったのはコローネだった。 「…あきれた! そんなこと気にしないでみんなで仲良くやってればいーんじゃないの? そうすればあんたひとりのけ者にもされないでしょ?」 「っ…お前はいいよ。そんな風に考えられるんだから…」 沈んだ口調。コローネはまた話しかけてみる。 「昔なんかあったって言ってたわね。話してくれない?」 「オマエには関係ない」 ゲイルはぷい、とそっぽをむいてしまう。 「そんなこといわずに〜ッ」 「いやだ」 「ねーえーっ」 「ったく…そんなに聞きたいんなら聞かせてやる。オレの昔の話だ。ユウキとウォンにしか話してない。ちっともいい話じゃない。むしろ残酷だ。それでもか」 「もちろんよ。どんな話でも最後まで聞くわ。」 「…いいんだな。」 コローネはゲイルのほうをじっと見て、話を聞き始めた。 「昔…数年前だが…その時は、オレの生まれた山岳地帯のアブソル一族の中で家族と暮らしていた。オレには妹がいた。名はウィズ。まだ生まれて10年もたっていなかったな…そのころはオレもまだ、目には傷も負ってなかった。が… 身勝手な人間どもは、アブソルをわざわいを呼ぶポケモンだと思い込んでいた。わざわいが起きることを知らせるため人里に出向けば、石をぶつけられ、威嚇射撃までされて。挙句の果てには『白い悪魔』とまで呼ばれたものだ」 「そういう人間っていやよね! そのポケモンのことよくわかりもしないで、手ひどく扱ったりするやつら。」 コローネは首を振った。 「…あぁ。それにそのころは法律があるにもかかわらず、アブソル狩りの連中が、オレ達を狩りに来た。狩ったアブソルの毛皮を取るわけでもない。ただ、殺すためだけ、だ… オレの両親は、オレと妹をかばってやられた」 「ひどい…」 「オレ達の、目の前で。そんなことがあったせいで、オレ達はほら穴を見つけて、誰にも見つからないようひっそりと暮らしていた。でも…狩人の連中はオレ達の住処にやってきた。そして、妹と…オレの目が…その時…っ!」 オレの頭の中を駆け抜けた、あの時のビジョン。 …忘れていたかった。 なのにその出来事は、痛いほどに鮮明に、オレの心に焼き付いていたんだ。 ズドォン! 遠くからだが、その銃声はこちらに近づいてくる。はっきりとわかった。 「アブソル狩りだー! 狩人が来たぞー! みんな逃げろ!」 必死に叫ぶ声が聞こえる。大人のアブソルの声だった。 だが、オレ達には逃げる暇などなかった。 ひとりの狩人が、ほら穴に入ってくるのがわかった。 オレとウィズは、息を殺し、男をやり過ごそうと思った。 幸い、男はこちらになかなか気づかず、そのまま帰ってくれるかと思って気を緩めた。 だが…その時立ててしまったわずかな物音で、狩人に気づかれた。 オレ達を狙う銃撃を必死でかわしながら、必死で外へと逃げた。 殺される。そんな恐怖にとらわれそうになった。 オレが最初に狙われた。銃口が向けられ…引き金が引かれる… 妙にゆっくりと、時が流れているように感じた。 次の瞬間、そこら一帯に、銃声が轟いた。 ズドォ…ン! 痛みはこない。体を貫いたはずの銃弾は、当たっていない… まさかと思って顔を上げた、目の前の光景が、信じられなかった。 …ウィズが、オレの前に立ち、銃弾を受けていた… まだ小さいその体が、地面に崩れ落ちる。 ウィズを中心に、じわりと地面に広がっていく、あざやかすぎる真っ赤な血の色。 「お兄…ちゃん、だい、じょう…ぶ…?」 「ウィズ! あんな弾、避けられたのに…! しっかりしろ!」 「よか…った、だい、じょうぶ…ね…」 「バカっ、しゃべるな…!」 致命傷を受けて、それでもまだ、ウィズは…オレに向かって、微笑んだんだ。 見ている方が痛々しくなるくらい、その笑顔は弱々しくて。 「無事で、よか…った…」 それから、ウィズはゆっくりと、まぶたを閉じた。 「おい…ウィズ? …ウソだろ? なぁ!」 ウィズに話しかける。何度も。 どうしても、信じたくなかった。 もうオレの言葉にも、答えが帰ってくることもないのに。 「…ウィズ…っ!」 「へへ、まず一匹! 仲間が死んで悲しいか? 悪魔のクセによ!」 はらわたが煮えくり返るほどに、たぎる怒りと、憎しみと。 「許さない…」 オレの周りで、風が激しく渦巻く。オレの怒りを表すかのように… かまいたちをぶつける。だが男はまた、オレに向けて、銃の引き金を引く…が。 「あ! くそっ、弾切れ!?」 おそらく、ほら穴の中で乱射したのがたたったのだろう。狩人は銃を投げ捨てる。 ブーツからナイフを取り出し逆手に持って、オレに向かってきた。 突然のことで、反応が遅れる。 ザシュッ…! ナイフは、オレの左目を貫いた。とたんに、視界が狭まった気がした。 オレの目の前に…体に…足元に…飛び散った、赤。 目に焼きついて離れない、忌まわしい、自らの血の色。 でも、痛みは感じなかった。 怒りで、オレはほとんど我を忘れていたと思う。 刺さったナイフを振り落とし、オレは目の前の男に向けて、怒りと憎しみを込めた風の刃を浴びせた。 男はたまらず、一目散に逃げていく… その後も、オレは男の後姿に向けて、風の刃を飛ばし続けていた。 だがその後…きっと力を使い果たしたんだろう…オレは倒れてしまった。 仲間に揺り起こされて、オレはやっと我に帰った。 左目はすでに、一切の機能を失っていて、視界は暗く狭かった。 改めてウィズの姿を見て、オレは全身から力が抜けていく気がした。 ウィズにふれる。体はすでに冷たくなり始めていた… 右目から、涙が次々と溢れ出す。ウィズのほほに落ちる。 悲しかった。もう声も出せないほど。 変わり果てたウィズの姿を見て、どうすることもできず…ただただ涙を流していた。 その日、オレは残された唯一の家族…妹さえも、失ったんだって… 「うっ…うぅ…っ…!」 ゲイルは昔の記憶を思い出してしまったことに、我慢ができなかった。 声を押し殺し、泣いた。 ぽたり。ぽたり。涙は次々と、地面にこぼれ落ちる。 コローネが、やさしくゲイルの背をさする。 「悲しかったのね。ひとりって、さみしいのね…」 むせび泣くゲイルを慰めるように、コローネはそばにいた。ゲイルが落ち着くまで… 「今は大丈夫でしょ。わたしたちがそばにいるんだし。さみしくないでしょ?」 「…っ…うぅっ」 涙は、右目からしか流れない。左目を失った時から、ずっとそうなっていた。 「…落ち着いた?」 「…あぁ…なんとか」 ゲイルは涙をぬぐった。右目が赤く充血していた。 「…すまない」 「いいよ。悲しかったんでしょ?」 こくりと、ゲイルはうなずいた。 「…毎晩、夢に見るんだ…ウィズの夢。悲しいことがあったりすると、あの日の夢を見てしまう」 「大丈夫よ。寂しい思いなんてしなくていいの。わたしたちがいるでしょ。」 「まぁな。時々思うんだ。ウィズには友達いなかったんだ。いつもオレとしか遊んでなかった。でもオレだけ、みんなに囲まれて、毎日飽きなくて…」 「素直に楽しいって言えばいーのに。」 「わかったよ…楽しいよ。でもオレだけ、こんなに楽しくて、いいのかって、思うんだ…」 うつむき、黙り込んでしまうゲイル。 「気にすることないよ。」 コローネはゲイルの背を軽くおす。 「生きられなかったウィズちゃんのために、幸せになればいいんじゃないの? そんなヒクツでいたら、妹さん、悲しむかもよ。」 ゲイルは突然顔を上げた。 「…そうだな。最後まで、オレのこと気にしてたアイツだし。…アイツの分まで、生きてやろうか…」 「そうそう。前向きに、生きなくちゃ。」 「前向き、か…」 ゲイルは月を見上げていた。 その横顔を見て、コローネは思った。 ゲイルの瞳は、深い紅色をしている。赤は暖かい色だって、思ってたけど… ゲイルの目は、いまだに悲しみから抜け出せてないような…暗く、冷たい赤だった。 「…そういえば」ゲイルが口を開いた。「なんでオレのクセ、気づけたんだ?」 「なんでって、そりゃ…近くに住んでてほとんど毎日会ってるでしょ。そのうち気づいてもおかしくないと思うわよ。」 「まぁ、そうだろうけど…。」 「いつも見てればわかるんだから、そのくらい。」 そこへ、夜風が吹き抜けた。 季節は夏なのだが、冷えた風が体に吹き付けて、肌寒かった。 「…っくしゅん!」ゲイルはくしゃみをした。 「今夜は冷えるわね。カゼ引かないうちに、帰って寝なくちゃね。」 「そうだな…」 主人と仲間の眠る家に戻ろうと、ゲイルとコローネは立ち上がって、歩き出す。 「「おやすみ」」 見事に重なった言葉に、ゲイルが目を丸くした。 「また明日!」 コローネは小走りで家へと帰っていった。 ゲイルもきびすを返して、帰路についた。 玄関の前で、立ち止まる。 「オレは、あの孤独の過去を捨てることができるかな…」 独り言のようにつぶやいて、取っ手を回し、主の家に入っていく。 寝床について、考えをめぐらせた。 オレには仲間がいる。毎日楽しくて…まぁ、幸せだ…といえるのかな。 妹の分まで生きて、幸せになりたい。 「ウィズは…とうさんやかあさんにも、会えたかな…」 妹のことを思って、やがてゲイルは眠りに入った。 いまだ捨てきれない、孤独の過去を振り切りたい。 今夜見る夢は、幸せだった昔の夢でありますようにと、願いながら… |
華苗 | #4★2005.03/24(木)15:12 |
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【其の四、 幸せの贈り物】 そのジンクスを知っていれば、きっと誰でも一度は、それを探した事があるだろう。 「ねぇ、何お願いするの?」 「秘密〜…」 大勢の人々が、希望に胸を膨らませながら、しゃがんで何かを探している。 「…あっ! 見つけた!」 小さな子供が地面に見つけたものは、細い茎の先にハート型の小さな葉が四つついた植物。四つ葉のクローバーだ。 見つけると幸せになれたり、願いをかなえてくれたると言うジンクスがある。 あなたが幸せを誰かにあげるなら、誰に渡す? …また、願い事は誰のためにする? …それとも、自分のため? 太陽が、空に白く輝いている。 キレイに手入れされているしばふには、まだ朝露が残っていた。 シダケタウンの澄んだ風が吹く中、開けた草原に一匹のマイナンが。 誰かを待っているように、そわそわと辺りを見回している。 『遅いなー…』 さて、マイナンの後ろに忍び寄ってくる気配がある。 抜き足差し足、マイナンに近づいていくのはプラスルだ。 プラスルは、息をひそめて…そのマイナンに目隠しをした。 マイナンはちっとも気づいていなかったらしく、肩をビクッと震わせた。 『だ〜れだ!』 『…! ココアだろ?』 マイナンはすぐに答えを返して、プラスルに怒鳴る。 『ビックリするじゃないか! それにこんなに待たせて。』 『ゴメン、ミルク! ミチルさんのお話聞いてたから、遅れちゃったの!』 『まぁ今回は許すけどっ。』 『とか言っちゃって! いつも許してるくせに!』 ココアとミルクは笑いあう。 二匹はこの町に住む少年、ミツルのポケモンだ。 『ねぇミルク、』 『なぁに? ココア。』 『最近、近くのクローバー畑で四つ葉のクローバー探しがはやってるんだって!』 『四つ葉のクローバーか…見つけると幸せになれるんでしょ?』 『うん! ねぇ、探しにいこうよっ。』 ココアはウキウキとそう言ったが、ミルクは浮かない顔だ。 『でも…そこにたくさん人が来てるんでしょ? もう見つからないかもよ…』 弱気なミルクの背中を、ココアは バン!と叩く。 『そんなの探してみなくちゃわかんないよ! きっとまだあるって。行こうよ!』 ココアの明るい笑顔に励まされたように、ミルクはうなずいた。 そして2匹は手をつなぎ、駆け足でクローバー畑へと向かった。 クローバー畑は、一面に緑の絨毯を敷き詰めたかのよう。 その所々に、模様のようにシロツメクサの白が入っていた。 沢山のポケモンや、そのトレーナーたちが、四つ葉のクローバーを探している。 ココアとミルクはそこで、顔見知りに出会った。 『あれっ…スカイ?』 『あ、ココアにミルク。』 それは空色の体に綿雲の翼を持つ鳥ポケモン、チルタリス。 チルタリスのスカイもまた、ミツルのポケモンだ。 『偶然だね。君達もクローバーを探しに?』 やんわりと微笑んで、スカイは言った。 『うん!』 ココアとミルクはそろって返事を返す。 『そっか。なら、一緒に探そうよ、四つ葉のクローバー。』 『そうだね!』 こうして、三匹のクローバー探しが始まった。 東の空にあった太陽も、今では空の頂点に昇り、力強く地面を照らす。 時刻は正午。三匹はなお、四つ葉のクローバーを探していた。 『ここらでいったん休憩しない…?』 スカイは弱々しくつぶやいた。 『そうだね…』 朝から探し続けていたせいで、三匹ともすっかりへばっていた。 クローバーはまだ見つからない。近くにあった木の木陰に入り、そろって息をつく。 涼しい風が、 ヒュウッ と音を立てて通り過ぎていく。 スカイのリボンのような頭羽が、風にゆれて波打った。 『気持ちいー…』 『そうだねー』 ふとココアが上を見上げると、その木には、オレンの実が生っていた。 『あれっ、オレンの実だ!』 ココアは実を取ろうと背伸びして、手を伸ばすが、やはり身長が足りないらしい。 『ねぇスカイ、取れない?』 『うん』 スカイは上昇し、食べごろの実をクチバシでそっと取る。 いくつか取って背中に乗せると、元の場所に降りて、3人で分け合って食べ始めた。 『おいしいね!』 次々とかじりつきながら、ココアとミルクは満足そうに微笑んだ。 オレンの実のおかげで、体力も、元気も回復したようだ。 そのとき、オレンのヘタをつつきながら、スカイは言った。 『そういえばさ、四つ葉のクローバーってさ、幸せになれるだけじゃなく、願い事もかなえてくれるんだって。』 『そうなんだ!』ココアは驚く。 『スカイは何お願いする? やっぱり リアさんの事?』 ミルクが首をかしげてスカイに問う。 『うーん…お姉ちゃんの事なら、僕は自力でかなえたいな。僕はミツルのことをお願いする。』 『スカイのお願いは無いの?』 『特に無いんだ。』 言い終えてから、強いて言うなら皆いつも仲良しでいられますようにってお願いするよ、と顔を赤らめる。 『そういえば、ミツルは一緒じゃないよね?』 『そういえば、朝から顔も見てないなー…』 ココアとミルクの言葉に、スカイは顔を曇らせる。 『ミツルね、今朝早くに発作起こしちゃったんだ。病院で安静だって。』 『そっか…それなら、ぼくらで四つ葉のクローバー見つけて、ミツルにプレゼントしようよ!』 ミルクの提案に、ココアとスカイの顔もぱっと明るくなった。 『それがいい! ね、スカイ。』 『そうだね。じゃあまた探そっか』 それから三匹は、一生懸命に四つ葉のクローバーを探した。 手足を土で汚しながら捜しているうちに、日も西の空へと傾いていった。 赤い日差しに照らされながら、クローバー畑をかき分ける。 そんな時、ココアとミルクがそろって声をあげた。 『みつけたっ!』 『えっ?』 ココアとミルクの足元に合ったクローバーには、ハート型の緑の葉が四枚ついている。 紛れも無く、四つ葉だった。 三匹の顔は明るく輝いた。スカイがクチバシでその茎をそっと折る。 『うわーい!』 夕暮れも間近、日が西に沈もうとしている中、クローバー畑に三匹の歓声が響き渡った。 『じゃあ、帰らない? みんなに見せてあげようよ!』 『うん、そうだね。』 ココアとミルクは、四つ葉のクローバーをしっかり持って、スカイの背中に乗る。 『いくよ!』 スカイは綿雲の翼で羽ばたき、風を受けてふわりと飛ぶ。 朱色から藍色へ変わりつつある空を眺めながら、スカイはミチルの家を目指した。 『ただいまー!』 三匹はミツルのいとこ、ミチルの家へ着いたようだ。 「あら、お帰りなさい。」 ミチルはミツルとそっくりの笑顔で、優しくそう言った。 『ずいぶん遅かったな…』 読書をしていたリュクが顔を上げ、静かに言った。 『どろどろだよ〜。みんなどうしたの?』 泥だらけのココア、ミルク、スカイを見て、そう言ったのはマリン。 『四つ葉のクローバーを探して来たんだ。ミツルにプレゼントしたくて。』 スカイがそういうのと同時に、ココアとミルクは四つ葉のクローバーをみんなに見せた。 『おや、そんなに泥だらけになるまでがんばったんだね。明日はミツルのお見舞いに行くから、そのときに持っていこうか。』 ミツルのパートナー、サーナイトのミライもそう言って、にっこりした。 「きっとミツルも喜ぶね。さ、シャワーを浴びないとね。マリア、お願い。」 ミチルは手を打って喜んだあと、自分のポケモン、マリルリのマリアを呼んだ。 ちなみにマリアはマリンの親らしい。 『は〜い。さぁココアちゃん、ミルク君、スカイ君、お風呂場に行きましょ〜。』 『は〜い!』 三匹は泥だらけながら、満面の笑みを浮かべていた。 明日は、ミツルを喜ばせてあげれるかな。 頭の中は、その事でいっぱいだった。 翌日、ミツルのポケモン6匹をつれて、ミチルはシダケ病院に来た。 「ミツルの病室は…ここね。」 コンコン☆ ドアをノックすると、 「あっ、どうぞ。」 中から小さくミツルの返事が返ってきた。 ガチャ… ドアを開けて病室に入ると、点滴をした寝巻き姿のミツルがベッドに横になっていた。 「あれっ、ミチルさん!?」ミツルは乱れた若草色の髪をあわてて整えた。 『ミツル、調子はどう?』ミライは心配そうな表情だ。 「大丈夫。明日には帰れるよ」 「そう、よかったわね!」 ミチルがにっこり笑ってそう言うと、ココアとミルクがベッドの上に飛び乗った。 『ミツル! 手、出して。』 『プレゼントがあるんだ。』 ミツルは首をかしげながら、手を差し出す。 ココアとミルクは、ミツルの手のひらにクローバーを乗せた。 「これ…四つ葉のクローバー!」 『うん、そうだよ。』スカイもミツルに言う。『昨日、ミツルのためにがんばって探したんだ。』 スカイの言葉を聞いて、ミツルはそのクローバーを大切そうに手で包んだ。 「ありがとう…ボクのために。大変だったよね…」 いつの間にか、ミツルの頬にこぼれていた涙を、マリンがそっと拭う。 『ミツル、泣かないで。どこかイタいの?』 「ううん、違うよ、マリン。嬉しくって…思わずね。」 『スカイ達、ミツルが早く良くなりますようにって、クローバーに願掛けしてたぜ』 リュクもミツルにそう言った。 「みんな…ありがとう…!」 ミツルはココアとミルクを抱きしめる。 『どういたしまして、ミツル!』 ココアとミルクはミツルの腕の中、照れたような笑顔を浮かべていた。 後日、ミツルが退院した。 ある日、ミツルは机に向かって本を読んでいた。 と。 『ミツル。何を読んでいるんだい?』 後ろから、ミライが姿を現す。 「ちょっとね。今一段落ついたから。」 ミツルは読書を中断し、本にしおりを挟んだ。 『あれ、そのしおり…』ミライは何かに気づいた。 その本に挟まれたしおりには、四つ葉のクローバーが貼り付けてあった。 「こうすれば、いつまでも残しておけるよね。」 ミツルはミライの方を向いて、やわらかく微笑んだ。 「ボクの宝物にするんだ。」 それを見て、ミライも思わす頬が緩む。 「ボク、ココアたちにクローバーのお礼しなくちゃね。ミライ、何がいいと思う?」 ミツルに言われて、ミライは優しく言った。 『ミツルは幸せのクローバーをもらったんだから、みんなにも、幸せになれるようなものをあげたり、幸せになれるようなことをしたりしたらどうかな。』 「そっか。」 ミツルはもう一つ、ミライにたずねる。 「ねぇミライ。」 『なんだい?』 「ミライは、どんな時が一番幸せ?」 その質問にミライはきょとんとした表情を浮かべ、それから、口の端をわずかに持ち上げた。 多分、微笑んだのだろう。 『秘密だよ。』 ミライは意地の悪い笑顔で、そう言った。 「えー! ねぇ、教えてよっ。」 『ダメだよ〜。』 「けちーっ!」 ミツルはそう言いながらも、顔には笑みを浮かべていた。 ミライは思った。 この笑顔を、ずっとずっと、そばで見ていたい。 ミチルさんに聞けば、昔は体が弱いせいで友達もいなくて、ずっと寂しい思いをしてきたそうな。 そのせいか、ミツルが笑うと、どんな人から見てもとっても嬉しそうなんだ。 僕等が周りにいるだけで、ミツルはとっても素敵な笑顔になるんだ。 ミツルばかりが幸せなんじゃない。 君のお返し…言葉と笑顔があれば、僕等も幸せになれるんだ。 ココアとミルク、スカイ。マリンちゃんも。リュクは照れ屋さんだからそれが一番だとは言わないだろうけど、ミツルのそばにいられて嬉しいはずだよ。 もちろん、僕だってそうさ。君は僕の、パートナーなんだし。 だから、僕にとっての一番の幸せは、君と一緒にいられることなんだよ、ミツル。 |
華苗 | #5★2005.03/24(木)15:17 |
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【其の五、 悪の組織のその後】 空は、西の陸地からこれから太陽が昇ってくる東の海の上の空にかけて、紺色から薄い青のグラデーションを作っている。 時が進むに連れ、西の空の低い位置がさらに明るくなる。空色から、薄い水色と…だんだん白に近づいていく。 やがて、空の一部が白くまぶしくなるのと同時に、そこから朝日が顔を出した。 ミナモシティは陸と海の境にある。東の海で、水平線から太陽が昇り、空の頂点を通り、西の陸地へと、沈んでいく。 夜明けと共に、海岸の浅瀬のどうくつめいた穴から、一人の男が現れた。赤い髪をした、目つきの悪い中年の男だ。 「今朝もお天道さんがお出ましだ。今日もいい仕事ができそうだな。」大きく伸びをして、自分が出てきた穴の方に振り返り、誰かに呼びかける。「なぁ、アオギリ?」 すると、穴からもう一人、男が出てきた。頭に青いバンダナを巻いていて、きちんとそろえた口ひげをさすっている。 「マツブサ…まだ六時だ。仕事は九時からなのだから…こんなに早起きしなくても。昨日も遅かったのだし…」 言い終えてから、小さくあくびをする。 「まー、それもそうだがな。オレの一日は、日の出を見ねえと始まらねえのよ!」 マツブサという男は、拳にぐぐ、と力を込めた。 「まぁ、きみらしいと言えば、そうだけれど。」 苦笑をもらし、アオギリと言う男も、海を眺めた。 実はこの二人、かつてはホウエンを壊滅させかけた、悪の二大組織、マグマ団とアクア団のリーダーだったのである。 「ヤローども、行くぞー!」 「おー!!」 部下達に向かって声を張り上げるマツブサ。応じるしたっぱたち。 「皆さん…時間です。出発しますよ」 「はい」 対してアオギリとその部下のやり取りは静かに、だが厳粛に。 ミナモシティのアジトから一斉に、マグマとアクアの団員たちが目的地へ向けて、飛び立った。 かつては対立していた二つの組織は、今では手を結んだ。 その発端は、リーダーのふたり、マツブサとアオギリが自分たちの罪を警察に自首したこと。罰を受ける代わり、伝説の大地と海の化身が起こした天変地異によって出た、ホウエン各地の多数の被害の処理を任されたのだ。 今日も青く澄んだ空の下、マツブサの率いるチームは、キンセツとヒワマキをつなぐ森林地帯、119番道路へと向かった。 山岳地帯と森林が混ざったような、草の茂った険しい山道だ。 大雨によって川が増水し、下流の湖があふれ、周囲の人家などに被害が出ているそうだ。木が腐って倒れ、流されたり…野生のポケモン達も、すみかが荒れたようで、がけの上に避難していた。 「おーし! ホムラ、一班の指揮を取れ。カガリは二班だ。オレは三、四班を。いいな!」 「わかりました、リーダー。」 マツブサの指示に、ホムラとカガリの両幹部は従った。 「復旧作業、開始ィ!」 赤い装束の軍団は、森を元通りにするべく、作業を始めた。 「一班! 倒れた木の処理だ!」 「二班! 上流の様子を確認!」 「三、四班。中流の丸木橋の修理。」 「アイアイサー!」 …ところで。 その様子を、ここら一帯に住むポケモンたちが眺めていた。 大木の天辺に、ボス格のジュカインが座っている。その両肩には、二匹のキモリ。 ナゾノクサ、クサイハナ、ジグザグマなど、森のポケモン達も、木の枝に座ってその様子を見ていた。重いトロピウスは地面から。 「あいつら、何しに来たんだろ?」トロピウスがいぶかる。 「ボクらの森…壊す気かな…」ジグザグマは心配そう。 「いーや、違うね。」 木のてっぺんから、みんなに聞こえるよう、ジュカインはそう言い切った。 「アーリィねぇ?」 「どーしてわかるの?」 その肩に乗る、二匹のキモリが訊いた。 「わかんないかい? アイツらの表情。必死で…真剣だ。壊そうとしてんじゃない。アタシらの森を、直してくれてんだよ。アン、レン、わかるかい?」 アン、レンと呼ばれた二匹のキモリは、大きい目をパチクリさせた。 そして、木のはるか下のほうで働く人間たちを見つめて、うなずく。 「うん、倒れた木をどかしてるね。」 「あの人たち、いい人?」 「そうさ。」 ジュカイン・アーリィはにん、と笑う。 ふと、キモリと一緒に大木のてっぺんから飛び降りた。 すたん、という音がして、アーリィは地面に着地。 「よそ者があんなにがんばってんのに、ここに住んでるアタシらがただ見てるだけって言うんじゃダメだよねぇ。」肩に乗ったキモリがうなずくのを見ると、ジュカインは一匹のトロピウスに振り向き、言った。「…ラディ!」 「え、なに?」 「念のためアタシらが様子見てくるよ。大丈夫そうだったら、アタシが合図するから、みんなを連れておいで!」 ラディは戸惑いながらも返事をした。「…う、うん」 それを聞くとアーリィは、マグマ団たちが作業を続ける湖の周辺へと走っていった。 森でも一番に足の早いアーリィの後姿は、ラディたちからはあっという間に見えなくなった。 アーリィは、マグマ団の前に姿を現した。 「なんだ?」 「あれは…ジュカインか?」 「珍しいな…」 マグマ団員とそのポケモン達は作業の手を止めた。 アーリィはと言うと、ずんずんと相手のほうに前進していき、倒れた木の処理をしている場所へ。 機を縦割りにして、上流の丸木橋を直すのに使うのだが。 アーリィは木を切るのに苦戦しているマグマ団たちに向かって行き… 「やぁっ!」 掛け声と共に、腕を振り下ろす。緑の閃光がはしった。 ジュカイン固有の技、「リーフブレード」だった。 大木を一瞬のうちに真っ二つに割る。今までに人間たちが運んだ大木の数々も、同じようにさばいていく。 切った木を高く積み上げていた所に、マツブサがやってきた。 「オマエは…この森のポケモンか?」 「そうさ。」 無論ポケモンの言葉は特別な機械を通すかしないと人間にはわからない。 だが。 「そうか…手伝ってくれるか?」 アーリィはにっこりしてうなずくと、足元の植物の葉を取り…草笛を吹いた。 無造作な笛の音色が、森全体に反響した。 やがて…アーリィの後に、背の高い草ポケモンが、大きい葉っぱの翼をはためかせ、飛んできた。その背に、森に住むポケモンたちを乗せて。 「森のポケモン達を、呼んだのか…?」 驚き目を丸くするマツブサに、アーリィはまたうなずいてみせた。 「こんなに…そうだよな、おまえ達の森だもんな。よぉし…、みんなで、元通りにしようぜ!」 マツブサの掛け声にあわせて、ポケモン達も、団員達も。そろって同意の掛け声をかけた。 「おぉ―――っ!」 マツブサ達の作業は着々と進んでいった。 正午を過ぎたころには、倒れた木々の処理もほぼ終わり、傷んでいた上流の丸木橋の修理も終わりかけていた。 昼の休憩では、森の木や、野生のトロピウスの首に実った果物を食した。 森のポケモンたちの住むスペースは、アーリィが「ひみつのちから」を使い、木の上や草の塊の中に部屋を作ることで確保した。 だが…。 「はー… なかなか進まないね。」 上流のほうで、カガリが重々しくため息をついていた。 「カ、カガリ様…申し訳ありません…!」 「イヤ…いいんだよ。」 119番道路の川の上流には、流れてくる水をある程度にせき止めておく小さいダムのようなものがあったのだった。大雨による増水で水をせき止めていた柵(さく)が壊れてしまい、水が溢れ出して、ひどい水害を巻き起こしたのだ。 「ココをどうにかしなきゃねえ…」 下流の作業はほとんど終わったので、ホムラとマツブサも上流に移動して作業を続けているのだが…水に関することの知識はマグマ団の専門外。 炎や大地の関連の事や、力仕事は得意分野なのだが。 と、そんな時… アクア団の団員達が、飛行ポケモンで119番道路の上空へ飛んできた。 「マツブサ!」リーダーのアオギリの声が降ってくる。 「私たちの仕事はもう終わりましたが…そちらはまだのようですね。」 「あぁ! ここの柵が壊れっちまってて…ココはダムみたいに水をためとく場所らしいんだが…オレ達はそういうの専門外だしなぁ…」 マツブサがこめかみに手を当ててため息をつく。 上空では、アオギリがなにやら団員達に指示をしていた。 するとアクア団員達は、地上に降りてきて、作業をし始めた。 「手伝ってくれんのか?」マツブサが降りてくるアオギリを見ながら言った。 「まったく…できない事は無理にするものではないのに。」アオギリはマグマ団たちの作りかけの柵を見て、顔をしかめる。「あぁっ、なんなんだ! このむちゃくちゃは…こんなに木を継ぎ足して…隙間がない。こういうのはちゃんと設計図を描くなり計算するなりしないとダメなのだ…」 ぶつぶつ小言を言いながら、アオギリの作業に取り掛かる。 「悪いな…こういうのはカラッキシ苦手でなー。手伝うか…」 マツブサが言いかけたが。 「いりません。余計にこじれるだけですし。木材を運んでくれると助かりますがね…」 「おー、そうだな。よーしお前ら! 丸太運びだ!」 「ラジャー!」 アクア団の作業は手早く、無駄がない。さすが水に関することには詳しいだけある。 団員達が地面にいろいろと計算式を書き、それを元に柵の土台を作る… 柵の材料は、先ほど処理した木材だ。 マツブサはその様子を見て舌を巻いた。 (…やはり最初からこいつらを呼ぶべきだったかな…) マツブサは、どうしてもそう思わずにはいられなかった。 「…さぁ、完成です。」 アオギリが額の汗をぬぐった。 マグマ団たちは感心し、ため息と共に おぉ、と声を漏らす者もいた。 丸太を適度に隙間を入れながらくみ上げた柵が、そこにできていた。 なかなか丈夫そうで、これなら大雨や嵐でため池が増水しても平気だろう。 「…これで仕事は終わりですね?」 「あぁ。後の仕事は午前中に終わっちまったからな。」 「では…これで引き上げるとしましょうか。」 「あ、ちょっと待ってくれ…」 アオギリとそんなやり取りをしたあと、マツブサは下流の森に向かって、叫んだ。 「手伝ってくれてありがとなー! お前ら、元気で暮らせよー!」 マツブサの声は森中に木霊して…やがて、聞こえなくなった。 「…誰に言っているんです?」 「ちょっとな。それじゃ、ヤローども、ひきあげだー!」 「アイアイサー!」 「みなさん…撤収です。」 「了解しました。」 クロバットやオオスバメなど、飛行ポケモンを繰り出し、つかまって、空に飛び立つ。 その日一日の仕事を終えたマグマ団とアクア団たちは、アジトのあるミナモシティへと、帰っていくのだ。 「今日もいい仕事したぜ!」 マツブサはすがすがしく微笑んだ。 「だんだん決まり文句になってきていないか…?」 「いいじゃないか、ホントの事なんだし。」 へへ、と笑うと、マツブサは、自分たちを照らす夕日に向かって、叫んだ。 「明日も、晴れるぞ――!」 そして夕日は、地平線の向こうに沈んでいく。 また明日の、マツブサとアオギリ達は、ホウエン地方の自然を元通りにするべく、働くのだ。 そんな彼らを、西の空に傾いた太陽の、金色の日差しが照らしていた。 Thanks リクトさん! |
華苗 | #6★2005.03/24(木)15:22 |
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【其の六、 空への想い】 近くにアイツの姿を見つけると…自然と、その動きを目で追っている。 暇なとき考え事をしていると、無意識に、アイツのことを考えている。 …もしかして、これが…恋というヤツなのだろうか。 オレはリュク。ジュプトルだ。 この間トレーニング中に、技の切れ味がよくないってミライの奴に指摘された。 『どうしたんだい? キミらしくないじゃないか。』 たしかに、自分でもそう思うときがあった。 対戦相手に技を簡単に受け止められたり、練習の時、標的の木の枝をスカしたり。 『別に。調子が悪いだけだ…』 『くす。原因はなんだろうね。病気かい?』 『知るか』 『恋の病、かな?』 『…!』 顔が紅潮するのを抑えるのは無理だった。 ニヤニヤと意地悪く笑ってるミライの顔を切りつけてやろうかとも思ったが、ミツルがそばにいたせいで結局しなかった。 …あんなヤツにおちょくられるのはかなりの屈辱だった。 気分転換に、シダケの野原にただ寝そべり、空を見上げてみた。 透き通った青い空には、白い雲がいくつかふわりと浮いている。 その様子がどこか、アイツに似てる気がして… 地面には背の低い草。周りには木や花が植わっている。 吹いてくる風を受けて、草原が、木の葉が、ざわめいた。 背の高い木には…数十メートルはあるものもある。 でも、そんな木々でも、届かないものくらいある… 空に、手を伸ばした。そしてつぶやく。 「…草木がどんなに手を伸ばしたって、空に届く事は無いのか…」 言ってから、気づいた。心なしか顔が熱い。 また、アイツのことを考えてる… 空からクスクスといった笑い声が聞こえてきた。通りすがりの鳥ポケモンだろう。 …バカな事をしていると思われただろうな。 手を下ろして、目を閉じた…そのとき。 『ふーん…地上の植物が空に恋をする…いいね!』 となりで、チルタリスのスカイが満足げに、微笑んでいた。 『詩のネタになりそうだよ。』 あっけに取られる。 『おい、いつの間に…』 『リュクさんが空に手を伸ばしてる所くらいかな? 意外とロマンチックな事考えるじゃない。』意地悪っぽく微笑んで、スカイは続きを言った。『そうそう…お姉ちゃんと一緒に、空のお散歩してたんだよね」 『…!』心臓が跳ね上がった。『アイツもいるのか?』 くすくすと笑いながら、スカイは上を見上げて、言った。『お姉ちゃん!』 『どうしたの?』 アイツ…スカイの姉のチルタリス、リアが、オレの前に降りてきた。 青空をそのまま切り取ったような容姿の、鳥ポケモン。 『あ、リュクさんこんにちは。今日も良いお天気ですね。』 『あ…あ』 笑顔を向けられ、返事に詰まった。体が火照ってきた気がする。 となりでやたらとクスクス笑ってるスカイ。 絶対、面白がってるだろ…! そんな時だった。スカイが地面を離れ、飛んでいこうとする。 『スカイ? もう帰るの?』 『ううん。いい詩が浮かびそうだから、ひとりで考えたくて。ボクはもうちょっとその辺散歩してるから、お姉ちゃんはリュクさんと一緒にお話でもしてたら?』 『そうね…たまには、良いかもしれないね。』 『なっ…』 言葉はのどの途中でつっかえた。 『じゃーね、おふたりさーん♪』 そのままスカイの姿は空にとけて、見えなくなった。 後に残されたのは、オレとリアのふたりだけ。 『リュクさん…?』 『何だ』 顔が熱い… 必死で平静を装いながら、返事を返した。 『ええと…何か私に言いたいことあります?』 『…そうだな。とりあえず、敬語やめろ。さん付けも。』 『えっ、はい。わかりまし…じゃなくて、わかった。リュク君?』 『…呼び捨てが良いんだが』 『あ、じゃあ…リュク…でいい?』 『あぁ』 …会話が途切れる。 リアは少し落ち着かなさそうにしていた。 『どうした?』 『あ、あの…スカイ以外の男の子、呼び捨てするの初めてだから…敬語じゃないしゃべり方も、慣れてなくて…変でしょう?』 『イヤ…全然。』 『そう? よかった。』 オレに向かってにっこり微笑むリア。 …いっそう顔が熱くなった気がした。 『リュクは、晴れの日と雨の日、曇りの日…どれが一番好き?』 また妙な質問をするもんだと思いつつ、手短に答えた。 『…晴れ』 『そうですか。私も…晴れてるのが好きです。』 『敬語』 『…あ、すみません…』 つい、クセな物で。リアはそう言って少し顔を赤らめた。 照れる所は、見たことが無かった。 『イヤなら敬語でも良いんだけどな…』 『でも、リュク…、そうしてほしいんでしょう?』 無言で、コクリとうなずく。 『なら、そうさせてくださ…そうさせてほしいの』 敬語を言い直す様子に、出会ったころのミツルを思い出した。 少し、おかしくなった。思わず顔がほころぶ。 『あ!』いきなり、リアが大声を出した。 『…何だ?』 用事でも思い出したのかと思いきや、リアの返事はこうだった。 『…笑った顔見たの、初めてで…さっきからあまりしゃべってくれないから、私といてもつまんないかなって思ってた』 『そんなこと…ない。』 リアはそれを聞いて、ふわりと微笑んだ。 『よかった。』 まるで、花のようなきれいな表情で。 オレは明らかに、心拍数が上がったと感じた。 『あら? リュク…顔が真っ赤。』 『っ…』 きょとんとした表情で、こちらをじっと見つめてくるリア。 ウォンみたいに意味がわかってないから、余計タチが悪い。 『きっ、気のせいだ、ろ…ごほっごほっ!』 声がひっくり返ってしまい、あわててせきをしてごまかそうとするが。 『熱でもあるのかな…? ちょっと、ごめんね。』 そういうとリアは、オレの額に自分の額を合わせてきた。 『…っ!』 ありえないくらい、近づきすぎていた。絶対また心拍数があがってる。 『…ちょっと、熱があるかもね…』 …こいつ。本当に天然だ… こっちは心臓が飛び出るかと思ったんだからな…! アイツが離れたあとも、まだ鼓動がうるさい。 顔から火が出そうだ。オレが炎タイプだったら間違いなくそうなってたな… 『…大丈夫? カゼじゃ…』 『ちがう…カゼじゃない…』 顔を手で覆った。やはり火照っている。 まったく、こいつといると心臓に悪い… だけど。 それでもこうして話ができる事が、無性に嬉しく思うんだ。 『それならいいけど…。リュクってどんな空が好き?』 『…今日みたいな空。』 わた雲がいくつかふわりと浮かんでいる、空。 『そう? 私は…雲が無い空が好き。雲があると、たまにお日様を隠しちゃうから。』 一息ついてから、リアはオレのほうを見た。 『リュクは、何で?』 …返事に詰まった。 『…なんとなくじゃダメか?』 『ダメ。』 …どう答えていいものか。 今日の空は、まさにそんな空。これが、一番好きな空なんだ。 理由は、単刀直入に言えば、リアが…好き、だから。 リアみたいな、空だから。 だからって、このオレが真っ正直に答えられると思うか? だからオレは。 『そのほうが、空らしいんじゃないか?』 こう、答えた。 『そうよね…雲のある空は、空らしいものね。』 『チルタリスが空みたいなのは、翼が雲みたいだからだよな』 『ですよね。』 『敬語』 『あ』 ふたりで、クスクスと笑いあう。 『…植物はどんなに育って、背丈を伸ばしても…空に届く事は、ないのかな。』 ぼそりとつぶやいた、独り言のつもりだったのだが、リアは言葉を返してきた。 『変わったこと考えるのね。』 『変か?』 『ううん。』 リアは空を見上げる。そして口を開いた。 『植物達は、みんな空を見上げながら育つわ。上へ、上へと向かって、一生懸命に。 だから、植物が意思を持ってたら…きっと、目の前がずっと空だから、植物にとっては空が世界だと感じてるのよ。』 淡々と語るリアの横顔を、オレは無意識にまじまじと見つめてしまった。 遠くの空を見つめながら、長い頭羽を風になびかせて。 そんなリアの横顔が、ひどくまぶしく…きれいで。 『…どうしたの? 私の顔、どこかヘン?』 いきなりこちらに振り向かれたときは、一瞬で体中の血が沸いたような感じがした。 曇りのない黒の瞳で見つめ返されて、落ち着いてきていた心拍数はまた一気に跳ね上がる。 『…別に。でもいいな、そういうの』 え? というリアの顔をちらりと見てから、空に視線を移して…オレは答えた。 『空が世界か…いいな、そういうの。空想とか、興味なかったけど…。』 リアの表情が明るくなる。 『でしょう? そういうこと、いろいろ考えるのが好きなんだ…』 『そうか。…いろいろ、聞かせてほしいんだが…』 『…聞いてくれるの? うれしい! もちろんいいよ!』 満面の笑みを浮かべる。 そんなリアを、オレはただ、見つめていた。 くるくる変わる表情、よく通る声。屈託のない、笑顔。 そんなリアを、ずっと、そばで見ていられたら…。 時にオレを困らせたり、気持ちを安らがせてくれたり… いつもオレを上から見下ろして、見守っていてほしい。 オマエは、オレにとって、空のような存在だから。 |
華苗 | #7★2005.03/24(木)15:26 |
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【其の七、 ぼくのふるさと】 ユウキと旅をしてたとき、ちょっとホームシックになったりすることもあった。 でもボクはもうこスバメじゃない。進化できたんだ。もう昔とは違う。 だけど…やっぱり、故郷の森や、一緒に暮らしてた友達が、恋しいんだよね… こんにちはっ。ボクはオオスバメのウィング。 今日は、久々に里帰りでもしてみよっかなって思ったんだ。 『ウィング、これ持ってけヨ!』 ユウキとウォンに何かの大きな包みを渡された。 『これ、何?』 「きのみ。今朝ハルカに会って、ウィングのこと話したんだ。そしたら、『森のスバメたち、きのみに集まってきてたから、もってってあげれば喜ぶかもね!』って。」 ユウキの後にウォンが続けた。 『ハルカが今まで育ててたやつをもらったんダ。大量にあるゼ!』 『ホント! うれしいな。みんなきのみが大好きだから。』 おみやげ持ってってあげるのも、悪くないよね。 きのみの包みを足にしっかりくくりつけてもらって、それからユウキはボクの頭をなでた。 「ひとりで大丈夫か?」 『大丈夫! ボク、そんなコドモじゃないよ。』 「そうだよな。気をつけて行ってこいよ。」 『スバメたちによろしくナ!』 『うん。じゃ、いってきまーっす!』 ボクは、ミシロタウンを後にして、トウカの森に向かった。 きのみの袋の重みも気にならない。 ボクの頭の中には、久しぶりにトウカの森に帰れるってことだけだったから。 前から吹いてきた気持ち良い風とすれ違って、ボクはニッコリした。 トウカの森は、前と変わりはなかった。 大きい木がたくさんあって、木の葉は日に当たってつやつやと光ってる。 森の中に入る。昼間だけど薄暗くて、涼しくて、気持ち良い。 地面は腐葉土でふかふかしてるんだ。 久しぶりに、この森に帰ってきたんだ。 嬉しくなった。みんなもまだ、ここにいるかな? ボクは、みんなを呼んでみた。 『おーい、みんな! ボクだよ! ワローだよ!』 『ワロー?』 『ワローなの?』 ワローって言うのは、森にいたころのボクの名前なんだ。 『みんな!』 トウカの森で、一緒に遊んでたみんな。 やっぱり、変わってないや… 友達のスバメたちが、ボクの周りに集まってくる。 『ワロー君! 久しぶり!』 『進化したんだ…』 『カッコよくなったねー!』 『あ、ありがとう…』 よかった、ボクのこと忘れてるかなーとおもってたけど。 ちょっと嬉しくなった。 『ボク、今は『ウィング』って名前なんだよ。』 『へぇ、ウィングか…』 『ウィング! ウィング!』 こスバメ達は集団ではやし立ててる。 みんなにじろじろ見られて、ちょっと照れちゃうな。 ボクは、ユウキにもらった包みをおろした。 『おみやげ持ってきたんだけど…』 『え、なになに!?』 『きのみなんだ。』 ユウキにもらった包みを開いてみせた。 中からは、いろんな色の、たくさんの種類のきのみがあふれた。 『わぁ…! こんなに、どうしたの?』 『ご主人が持たせてくれたんだ。』 『へぇ、気が利くじゃない!』 『さっそくいただきまーす!』 ちっちゃいスバメ達は、そういうなり集団できのみを突っつき始めた。 みんなにしたら、ボクが来た事よりきのみのほうが嬉しかったりして… まあ、いいや。ボクの事を覚えててくれたし。 ボクはその様子を眺めていた。すると、ボクを呼ぶ声が聞こえた。 『ワロー?』 聞き覚えがあるけど、記憶の中のものとはどこかちょっと違うような、声が。 『誰?』 辺りを見回すと、草の陰からオオスバメが出てきた。 そのコの目つきの鋭さ、やっぱり見覚えがあった。 『誰なの?』 『忘れたか? バロンだよ。』 『…バロン!?』 バロンはこの森で暮らしてたころ、一番仲がよかった♂のスバメなんだ。 目つきが鋭くて、クールな性格だったからかな。♀ポケモンたちにモテてたんだ。 『バロンー、ワローじゃないよ、今はウィングだって!』 『おっと、そうだったな…』 『いいのいいの! わかんなかったよ、昔よりも一段とカッコよくなってて!』 『オマエもな…主人はどんなヤツなんだ?』 『うーんと…ポケモン思いで、明るくて、勇敢で頼もしい…カッコいい男の子だよ。』 ボクはそんなカッコいい男の子のポケモンなんだって、ちょっぴり誇らしくなった。 『そういえばボクがいなくなったあと、スバメ隊の隊長どうなったの?』 『前までオレがやってた。進化したからオレも上の隊に入るけど。だからまた隊長が変わったんだ。』 『そっかー。』 昔はボクがトウカの森のスバメ達の上に立って、この森を見回ってたんだ。 新しい隊長さんにも、かんばってもらわなくちゃいけないね。 でもバロンは『最近、ならず者のケッキングがこの辺をうろちょろしてるんだ』って。 それもかなり強いらしくて、オオスバメ隊の上の人も返り討ちにされたって。 心底不安だった。 『ところでお前、少しは強くなったか?』 『え? うーん、どうかな…』 『ちょっと勝負してみろよ。』 自信ありげに、バロンは首をひねった。コキッ、と音が鳴る。 どうしようかな…あまり乗り気じゃないけど… …あれっ? 草むらの向こうに、何かの大きい影が見えた。 バロンはそっちのほうに背を向けてるし、ボクの方に注意が行ってて気づいてない。 嫌な予感がする…そしてそれは、的中した。 草むらからふらふらとした足取りで出てきたのは、噂の荒くれケッキング。 背を向けてるバロンの首を、太い腕で締め上げる。 不意をつかれて、バロンはケッキングに捕まってしまった。 苦しそうな声を出してもがいている。 『この…っ!』 『バロンを放せ!』 スバメ隊がケッキングに「つつく」攻撃を浴びせるけど…全然効いてない様子だった。 ケッキングが大きく「あくび」をする。飛んできたピンク色のシャボン玉みたいなのに当たったスバメ隊の一部が、たちまち眠りこんじゃった。 『こうなったら…ボクが!』 ケッキングに向かって、身構える。 『く…! ウィング…、こんなヤツに敵うわけない、逃げ…』 バロンのセリフを無視して、ボクは「つばめがえし」をしかける。 スピードを出し、地面すれすれまで急降下し、そして、急上昇する。 すごいスピードを出せば、姿が消えたように見えるはず。 ケッキングがボクの姿を見つけようと、辺りを見回してる、そこへ―― 『…!?』 攻撃を加える。いきなりの事でケッキングは対応ができず、つばめがえしはクリーンヒット。 バロンは解放された。 『…ウィング?』 バロンは目を丸くしてボクを見た。 『何でこんなことするの?』 言葉は柔らかめだけど、ボクはちょっと力を込めて言い放った。 『暴力はいけないよ。それとも…何か理由があるの?』 そう訊いてみたけど、ケッキングは何も言わなかった。 そのまま後に振り返って、茂みの中にもぐっていった。 ボクはふぅっと息をついて、バロンのほうに振り向く。 『バロン、大丈夫だった?』 『あぁ…たいしたことはないけど…お前、そんなに強かったんだな…』 『まぁ、ね! ユウキと一緒に、ホウエンで一番強い人に勝っちゃったもん。』 『…本当か、それ?』 『うん!』 バロンはぽかんとした表情でしばらくボクを見てたけど、やがて、目を細めて微笑んだ。 『そっか。前はそうでもなかったのに…バトルはやめとくよ。大人のオオスバメ達でも敵わなかったあのケッキングを黙らせちゃうんだもんな。勝ち目ナシ!だよ。』 『そ、そうかなー。』 『あ、きのみ食べていいか?』 『うん! 遠慮なくどーぞっ。』 それからスバメ隊が起きて、ボクがケッキングを追い払ったことを言ったら、みんなに尊敬のまなざしを向けられちゃった。 余計照れちゃうな…まぁいっか。 そして夕暮れ時。そろそろ帰らなくちゃ、ユウキが心配するよ。 『じゃあそろそろ帰るよ。』 来る時は重かった包みの中は、今は空っぽ。 『そっか。また来いよな。』 バロンが一歩前に出て、そう言ってくれた。 『うん。また来るよ、みんな。』 そうしてボクは森を飛び立った。 『またねー、ウィングー!』 後から声がした。もう森に、ボクをワローと言うコはいなくなったんだ。 ちょっと寂しい気もするけど、ボクは今はウィングって名前なんだもん。 本当の名前で、呼んでほしいからね。 『今度も木の実持ってきてねー!』 そんなセリフが聞こえて、ちょっとビックリして、空っぽの包みを落としそうになっちゃった。 相変わらず、ちゃっかりしてるよね、みんな。 後日、空のお散歩中に、バロンにばったり出くわした。 あのケッキングはどうなったかと訊いてみると、どうやら友達がほしかったらしいんだって。 今ではこスバメ達の遊び相手として、仲良くやってるらしいって聞いて、ホッとした。 いつまでも、ボクの故郷の森や、友達は、平和で仲良くしていてほしいから。 「トウカの森の平和は、みんなでがんばって守ってね。」 そう、バロンと約束したんだ。 Thanks うずまきさん! |
華苗 | #8★2005.03/24(木)15:30 |
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【其の八、 嵐の日の出会い】 ある、雨の日の話。 『ねーねー、アールちゃん!』 『何? コローネ…』 『雨の日って外で遊べないからイヤよねー。』 『そうね。アタシは炎タイプだからなおさらよ。でも多分ウォンは外で遊んでるわ。』 バケツをひっくり返したような、土砂降りの日。 そろそろ昼時の、現在11時半。 ハルカの部屋ではポケモン達が外で遊べないことを不満に思っていた。 ワカシャモ・アールとエネコロロ・コローネ。それにキノガッサ・ランス。 そのうちの誰かが窓の外を見るたび、ため息をもらす。 チルタリスのリアと、ペリッパーのコーラス、キルリアのヒスイは、ただ静かにその様子を見ているだけ。 『ぴっちぴっち ちゃっぷちゃっぷ らんらんら〜ん♪』 『あぁ、噂をすれば…』 アールが外を見ると、外を陽気にスキップで歩く、ヌマクロー・ウォンの姿が見えた。 水たまりはわざと踏みつけ、それで体に泥が跳ねても気にしない。 雨が汚れを落としてくれるから。 『水ポケモンにとっちゃ、ちょっとしたお祭りみたいなものか…』 ため息交じりに、ランスが。 外をハスボーやハスブレロの行列が、踊りながらねり歩いていたのだ。 そこへ、ヒスイが声をかけた。 『みなさん、雨はお嫌いですか?』 『そりゃそうよ! 雨なんていいことナシよ!』 『ぬれちゃうし、退屈だしっ。』 『雨の日は調子が出ないのよ…』 雨に対する不満をぶちまける、アールとランスとコローネ。 『雨はキライではないですけど、空のお散歩ができませんし…。』 リアも外を見ながら言った。心なしか、頭羽にいつものハリがないようだった。 そこへ、コーラスが。 『そんなことないですよ。雨があれば、植物は育つし。地面は潤うし…雨上がりの時の空は、美しいですよ。虹がかかったり…とか。』 『それに、そんなにため息ばかりついていると、幸せが逃げていきますよ。』 ヒスイもそう指摘した。 「そうね。」それまでパソコンに向かっていたハルカが顔をあげた。 「それに雨の日には思い出があるなー」 『えっ、どんな?』 「ふふっ。コーラスとは、こんな土砂降りの日に出会ったのよねー。」 『そうでしたね』 『えーっ、聞かせて聞かせて!』 コローネは興味津々の様子。 ランスやヒスイ、リアも耳を傾けている。 「あれは…旅に出る数ヶ月前のことだったわ」 ハルカは、昔の事を思い出しながら、出会いの時を語りだした。 雨の日の事。ハルカはこんな日も、外で調査をしていた。 当時アチャモだったアールと一緒に、レインコートを着て。 「チャモォ…」 「ゴメンね、アール…こんな日までつき合わせて。」 そんなハルカに、アールはぶんぶんと首を左右に振った。 「チャモ!」 アールは何かを見つけた様子で、ハルカから離れて走っていく。 「どうしたの? アール…」 ハルカもそのあとを追いかける。すると… そこ…101ばんどうろの真ん中に、一匹のポケモンが。 白い小さな鳥ポケモン…キャモメが、土砂降りの雨に打たれて、地面に倒れていた。 「ピ…ピィ〜…」 そのキャモメは弱々しく鳴き声を上げて、アールとハルカを見つめた。 キャモメは起き上がろうと、足と翼に力を込めた。 …が、動けない。右の翼が引きつっていた。 「…ケガしてる…早く手当てしな…きゃあっ!」 ビュウゥッ! 突然、突風が吹いてくる。 「チャモォ!?」 危うくアールとキャモメは吹き飛ばされそうになる。 ハルカが二匹を両腕で抱え込んだので、吹き飛ばされずに済んだのだが。 「ふーっ…あぶなかったね。」 ハルカが二匹に笑いかける。が、そこへ… ピカ…ッ! 辺りが光る。暗雲で薄暗かった周りの景色が、一瞬白んだと思った、その次の瞬間―― ピシャアアァァンッ! 「…! か、かみなり?」 ハルカがあわてて、周りを見回す。 「は、早く帰らなきゃ…ッ」 長靴でバシャバシャと水をはね散らかしながら、ハルカは走って自宅への道を急いだ。 そこへ…! ガラアアァンッ! 轟音と共に、雷光がはしり、世界を真っ白に染める。 「きゃあぁっ!」 雷はそのあたりで一番高い木に落ちた。 木の一番上の辺りが黒くこげ、ブスブスと煙を立てていた。 「…ハルカ!」 「パパ…?」 オダマキ博士がレインコートを羽織って、ハルカを捜していたようだ。 「早く…帰ろう。かなり天気が悪くなってきてる。」 「う、うん…。」 父親に手を引かれてハルカは自宅へと走っていく。 ケガをしたキャモメをつれて。 「…ってことがあってね。」 『僕、その時の突風で、巣から飛ばされちゃったんです。ものすごく風に流されてしまって、地面に落ちて…翼が折れてしまいました。ケガを手当てしてもらって、一度は住処に戻ったんですが…せめてもの恩返しにハルカさんのお役に立ちたくて、ココに戻ってきたんです。』 『そりゃ大変だったなー…』と、ランス。 『でもそのおかげでハルカと知り合えたのよねっ。』コローネが言った。 ハルカはうなずき、ニッコリとした。 コーラスもうなずく。 『ひっどい嵐だったんだよ。ニュースによると落雷で木が倒れるし、カイナビーチのビーチパラソルも根こそぎ風がかっさらっちゃったとかね。』 身震いするアール。 「そんなことも合ったわね…今日もあのときほどではないけど、かなりの大雨よね。」 『あら…? 外で何か光りましたね。』 ヒスイが窓の外を見て、そう言った。 ゴロゴロゴロ… 獣のうなるような音が響いてくる。 『あら、雷…?』リアも窓の外を見る。 『え…!』 コーラスの表情が引きつる。 ピシャーンッ! 何秒かの間があったあと、そんな音が遠くから響いてきた。 『わあぁぁッ!』 コーラスは部屋の隅っこに縮こまる。 『コーラス、大丈夫だよ。けっこう遠いみたいだし。』と、ランス。 『で、でも…』 ピカッ! 一瞬部屋の明るさが増したようだ。 『ひゃあぁ! おへそはとらないでくださいぃ〜ッ…』 コーラスはがたがたと震えている。 『…コーラス君って雷ニガテなのね…』 コローネは気遣わしげにコーラスを見た。 『うッ…昔、自分の巣の近くに雷が落ちたことがあって…』 コーラスはもはや涙目だった。 『トラウマってことですか…。』ヒスイも心配そう。 そこへハルカが立ち上がり、コーラスの頭をそっとなでてやった。 「だいじょぶ。そのうち雷サマもどっか行っちゃうでしょ。コーラスのトコにはこないよ。コーラス、いいコだから。」 『ハルカさん…』 『あ、晴れてきたみたいだよ。』 アールの一言で、全員が窓の近くに集まった。 灰色の雲の隙間から陽光がもれて、幻想的なうつくしさだった。 『あっ、あれは…虹でしょうか…』 『え、どこ…?』 窓から身を乗り出すと、遠くの山に、大きな虹ができていた。 「わぁ、キレイ!」 『ホントだ…』 それはまるで、夢の世界へと続く架け橋のようで。 やがて虹は、景色にとけるように消えていった。だがその後も、ハルカ達は遠くの空をじっと見つめていた。 『ホラ、雨っていいものですよね。』と、コーラス。 先ほどの泣き出しそうな表情はどこへやら。 『回復したね、コーラス君。』 『…あ、さっきは失礼しました…』 はずかしそうにうつむくコーラス。 『だいじょーぶ。ヒスイさんだってオバケ苦手だもんね。』 アールがコーラスの頭をぽんと叩いた。 『何でそこで私が出るんですかッ!』 真っ赤になるヒスイを見て、みんなで声をあげて笑った。 雨上がりの空は、青空に負けないほどに、白く輝いていた。 その夜。オダマキ一家の夕食中に、博士がテレビのスイッチを入れた。 ニュースのチャンネルを入れると、ニュースキャスターが記事を見ながらしゃべり始める所だった。 “では、次のニュースです。今日午前11時ごろ、キンセツシティで大規模な停電が起こったようです。” 「停電?」ハルカが食事の手を止める。 「あぁ、あの辺りにはコイルとかが多く生息しているからな…」 博士がご飯をほおばりながらしゃべったので、米粒がいくつか飛んだ。 「もうっ、パパ! しゃべる時はちゃんと物を飲み込んでから!」 「あ…すまないね。」 『まったく、どっちが親やら…』アールが肩をすくめた。 “原因はレアコイルの大量発生で、町の発電所に集まり、電気を吸い取っていたようです。昼ごろに起こった落雷は、レアコイル達の「かみなり」だそうです。” 『あれ、ポケモンのだったんだ…!』コローネも驚いた様子で、顔を上げた。 『割とすごい音がしたけどね…』アールはポケモンフーズを食べながら。 “人家に被害はないそうですが、110ばんどうろの木が数本倒れ、現在復興作業中です。詳しい情報は後ほど…” 『技の『かみなり』か…それならあんなに心配する必要なかったですね。』 ホッと息をつく、コーラス。 『あの時の怖がりようはちょっとビックリしたな…』ランスがそう、苦笑い。 『いいじゃないですか! 誰だって苦手なものくらいありますよ!』と、コーラス。 『そうね。私も寒いのは苦手よ。』リアがそう言った。 『それに、ヒスイさんなんてバトルの最中に気絶しちゃうもんね。『おにび』で…』 『だからまたッ、なんでそこで私を出すんですか!』 ヒスイがそう叫ぶ。オダマキ家の食卓はドッと沸いた。 コーラスは食事を終えると、カーテンがかかった窓の外を覗いた。 昼間は雨が降っていたが、今は暗い夜空に星の光がちらちらとあった。 少し痛い目にあったけど、今でもあの日の出会いは忘れてはいません。 でもあのとき、巣から飛ばされてなければ、ハルカさんとの出会いはなかったかもしれない… だからちょっとだけ、感謝しました。 あの日の天気が、嵐だったことに… Thanks ハルカ♪さん! |
華苗 | #9★2005.03/24(木)15:31 |
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【其の九、 以前のあの時間】 晴れた日の朝、涼しい風の吹きぬける、101番道路の野道。 そこをマッスグマ・カシスとライボルト・ルクス、キノガッサのランスが走っていた。 『朝のトレーニング! 目標ーっ トウカシティ!』と、カシス。 『みんなーっ がんばろう!』ランスが片手を振り上げる。 『そうだねっ。』 『ルクスー、そこは おー! でしょぉ。』 『あ、それもそうか。』 にぎやかな会話をしているが、三匹は猛スピードで道を駆け抜けていく。 ふと、三匹は自分たちの足元に見えるもう一つの影に気づいた。 そろって上を見上げると、そこには。 『あれ、ジーク? ついてきたの?』 『うん。』 ダンバル・ジークは、赤いまん丸の目を細めた。 多分、ほほえんだのだろう。 『面白そうだったから、ついてきちゃった。』 『おもしろいよーっ。オレについてこれるかなー?』 カシスはそういうと、さらにスピードアップ。 そのまま、コトキタウンを突っ切った。 そのまま風のように、102番道路へ向かって駆けていく。 『よーし、オイラも!』 『僕らも…』 『行こっか!』 ランス、ルクス、ジークの三匹もスピードを上げ、トウカシティへと走っていく。 そこに住む野生ポケモン達は、あっという間に過ぎ去って行った彼らを目を丸くして見つめていた。 『今日もいっちばん♪』 『僕が二番。』 『オイラが…三番…。』 『ボクが最後か…』 ぶっちぎりのカシスは余裕の表情。ルクスも息を乱さずニッコリと笑った。 ランスは息を切らしている。ジークは飛べるので疲れた様子はない。 『ひー…やっぱカシスには勝てねーな!』 ランスがばたりと地面に倒れた。 『へへへーっ。オレ、昔トウカでやってたジグザグマレース大会でもダントツだったもん!』 えへん! とばかりに、カシスは胸をはる。 『僕も…走りには自信あるけど、カシスにはさすがに勝てないね。』 ルクスもそう言った。 『カシスって走るの得意なんだね。ボクは飛べるけど…それほど速くはないから。』 と、ジーク。 『オイラはかなり足遅いんだよな…かないっこないや。』 ランスも頭を掻きながら言った。 『えへへーっ。』 カシスがてれたように笑う。 その様子を見て、ジークはまたビー玉のような目を細めた。 晴れた青空の下、ジークはミシロの草原で空を見上げていた。 『まわりは森、か…トクサネとはまた違った感じでいいなぁ…』 独り言をつぶやいていると…そこへ。 『どうしたの? ジーク。』 『あ、ルクス。』 ルクスがうしろから歩いてくるのだった。 『こんな所にひとりでいたりして。遊ばないの?』 『うん…ミシロタウンってキレイだなーって。』 『そうだね。森とか、原っぱとか空とか、とってもキレイだよね。』 ルクスはほほえむ。 ジークはルクスのほうをむいた。 『トクサネには海はあるけど、森はないからね。』 『そっか。』 『ここでは毎日楽しいから…飽きなくていいよね。』 『まぁね、トクサネでは退屈だったの?』 『うん…』 ジークはまた空を見上げた。 そのまんまるい目に、澄んだ青空だけを映して。 『ダイゴの家では毎日同じ事ばっかりで…たまに石探しに連れてってもらえる時は良かったんだけど。』 『毎日同じって?』 『例えば、何時起床、何時朝食…とか、やることが決まってるんだ。子供のときにきっちりそう教育されたせいで、クセがついちゃったって。』 『そうなんだー…』 『こっちでは毎日何かあって楽しいよ。』 ジークがほほえむ。 ルクスもつられて、ニッコリした。 『そうだね。僕もここにいてみんなと遊ぶのは楽しいよ。でも…』 『でも?』 ルクスはさびしげな顔をした。 『やっぱり、自分の生まれた場所…自分が前に、長く暮らしてた場所に帰りたくなることもあるよ。ホームシックってヤツかな。この間も、ウィングが里帰りしてたよね。』 『そうだね…でもボクは、さみしくなんかないよ。』 あまり表情の読み取れない顔をルクスから背けてからは、ジークはそれきり何も言わなかった。 『…今日も、ここにいたんだね。』 『遊びつかれたから…休みたくなって。』 翌日二匹はまた、昨日と同じ場所にいた。 『今日は鬼ごっことかかくれんぼとか、みんなでできて楽しかったね。』 『うん。』 ジークはうつむいて、話しだす。 『昨日キミが言ってた、ホームシックって言うの、わかる気がする。』 『なんで?』 ルクスは首をかしげた。 『かくれんぼや鬼ごっこなら、トクサネにいたときも、してたから…なんとなくそのころを思い出したんだ。 いつもはココドラとかダンバルたちと遊ぶんだけど、たまにメタグロスやボスゴドラが遊んでくれる時は、かくれんぼではみんなで一番最初に狙うように示し合わせたりね。鬼ごっこでは…エアームドが鬼になったら誰も逃げられなかったな…』 ルクスは笑みを浮かべながら、それを聞いていた。 『ダイゴはそれを見物してるの。たまにトクサネジムのフウとランが一緒に遊んでくれたりしてね…』 口調から、とても楽しそうなジーク。 ルクスはただ黙って、話を最後まで聞いていた。 『…思い出してみると、けっこう楽しかったのかも。』 『ま、だいたいそういうもんだよ。』 またクスリと笑う、ルクス。 『その話、みんなにも聞かせてあげるといいよ。みんな友達のコトはいろいろ知りたいものだから。』 『そっか。じゃあさっそく。』 くるりと後ろに振り返り、ジークは中をすべるように移動する。 だが一度、いきなりルクスのほうを向き、ジークは言った。 『話、聞いてくれてありがとう!』 『どういたしまして。』 そうルクスが言葉を返すと、ジークはまた、遊んでいる仲間のもとへ飛んでいくのだった。 ルクスと話ができて、良かった。 あの日々を、楽しかったと思えるようになれたから。 以前のあの時間を思い出させてくれて、ありがとう。 宙を滑りながら、ジークは遠いトクサネの仲間を想っていた。 Thanks リオンさん! |
華苗 | #10★2005.03/24(木)15:08 |
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【其の十、 なつかしいあの地で】 活気あふれる港町、カイナシティ。 町には市場やコンテストホール、海辺ではビーチや海の家などがあり、今日もたくさんの人でにぎわっている。 遠い町や他の地方から観光に来る人も多いという、栄えた町だった。 少し日差しの弱まった、過ごしやすい秋の季節のある日。 カイナの港では大きな荷物を抱えて歩く姉弟の姿があった。 姉は背の高い、ポニーテールの少女。弟は姉によく似た顔立ち。 それはキンセツに住む、ナツキとチフユの姉弟だった。 ナツキが船着場を見回す。 「クチバヘの便はどれかな」 「アネキ、人に聞いた方が早いんじゃない?」 「それもそうね…あの、すいません!」 ナツキは船着場に立っていた、キャモメを連れた老人に話しかけた。 「船を捜しているのかい?」 「はい、カントー行きの船を。」 「カントー行きは…船着場の一番奥の大きい船じゃよ。」 愛想良く笑顔で、老人はそう言った。 「でも、確かあと5分ほどで出航してしまうし、乗り損ねたら来月まで同じ便は出ないよ。」 「えっ! そうなんですか。ありがとうございます!」老人にお辞儀をし、後ろに立っていたチフユに振り向く。「急ぐわよ!」 弟の手を引き、あわてて船の場所へ急ぐ姉弟の背中を、老人は何も言わずに見送った。 「はぁー! 間に合った…」 カントー行きの船の中で、ナツキとチフユはそろってため息。 船は出港し、今は広い海の上を、カントーへ向けてゆっくりと進んでいた。 「着くの、明日の朝だっけ。」 「そうね。久しぶりだなぁ、ニビシティに帰るの。」 「お母さん達も来ればよかったのにね。」 「ホントね…」 ナツキとチフユは、ふたりで元住んでいたカントーのニビシティへと里帰りをしに船に乗ったのだった。 甲板に出ると、潮風の香りが鼻をくすぐる。 ナツキの長い髪が、風になびいた。 「キレイ…」 船から海を眺め、ナツキはため息と共にそう言った。 さざなみに陽光が乱反射した様子は、揺れる青のカーテンに光の粒を散らしたよう。 「海の風って気持ちいい!」 チフユも大きく伸びをする。 「出てきて、みんな!」 ナツキはモンスターボールを、空に向かって投げた。 ライチュウ、ピジョット、プクリン、ピクシー、キレイハナ、サンドパンの計六匹が、船の上に立った。 「みんな、明日にはクチバ港に着くからね。ニビへ行く時は…ゼット、お願いね。」 『わかってる。』ピジョットのゼットがうなずいた。 『海がキレイだなー! な、アッシュ!』と、ライチュウのライカ。 『うん。でもまわりが水にかこまれてるかと思うと怖いぜ…』 サンドパンのアッシュはそう言い、身震いする。 『ふふっ。よほどの事がない限りは落ちたりはしませんわ。』 キレイハナのアイリスはフォローに入る。 『セルくん、船酔いとかしない?』 『平気ですよ、リーピット。皆さんは?』 プクリン・リーピットとピクシーのセルフィが他のポケモン達に振り返る。 と。 『う゛っ!』アッシュの顔が蒼白になった。 『あら、どうされました?』 『あ、アイリスのあねさん… オレ気分が悪いぜ〜…』 『船酔いだな。』 「あちゃ〜…仕方ないわね。チフユ、部屋にアッシュ休ませておいて欲しいんだけど。」 「おっけー。アッシュ、大丈夫か?」 『うぷ…』 ぐったりと体をちぢこませ、アッシュはチフユと一緒に船室へ。 『アッくんだいじょーぶかな…ね、ライくん?』と、リーピット。 『ん、多分な。な、ゼット。』 『まぁ、多分、な…』 『大丈夫ですよ。アッシュはたくましさコンテストで優勝したんですし。』 セルフィはあまり心配していなさそう。 『そうですわね〜。』 のほほんとしたアイリス。 船の上でのそんなひと時。 太陽はやさしく、海に光を与えていた。 彼女等の、旅先にも…。 船内で一晩過ごし、船はクチバ港に着いた。 人でごった返す船着場からやっとの思いで脱出し、クチバの町からゼットにのって、ナツキとチフユは故郷のニビシティへと向かった。 ゼットはニビシティの上空まで来た所で旋回し、ナツキとチフユは町を眺める。 自分たちのいたころとはさほど変わりのなさそうなニビの町並みが目に映った。 「アネキ、あそこ! ばーちゃんが立ってるよ!」 「ホントね! じゃあ降りるわよ、ゼット。家の前までね。」 『了解だ。』 ゼットはひとつ羽ばたくと、ゆっくり降下をはじめた。 ゼットが地面に降り立つと、ナツキとチフユはゼットの背を降りた。 ふたりの住んでいた家の前には、老いてはいるが背中がしゃんと伸びている祖母が立っていた。 「よくきたねぇ、ナツキ、チフユ。そのピジョットは…もしかしてナツキのピジョンかい?」 「そうよ!」ナツキはにこっと笑うと、「ただいま、おばーちゃん。」 ぺこっと頭を下げた。チフユも同様に。 「お帰り。さぁさ、お入りなさい。」 ゆったりとそう言うと、ナツキとチフユの祖母は、ふたりを家に招きいれた。 家の中はきれいに片付けられていて、ナツキとチフユの覚えているころとは変わりがないようだった。 「船旅はどうだった?」 「海がキレイだった! 風は気持ちいいし。」 「オレは疲れちゃったかも…ポケモンが船に酔っちゃったし。」 「あら。それなら二階で休みなさい。昨日念入りに掃除しておいたよ。」 「そうするよ。」 チフユは足取り重く、二階へと階段を登っていった。 「ねぇナツキ、ホウエンではどんなことをしていたの?」 「あたしはね、ポケモンコンテストを極める旅をしてたの!」 ナツキは祖母に、旅の思い出を話した。 初めて出たコンテストの事、ユウキとハルカ、ミツルに出会って一緒に旅をした事、コンテストの五部門を制覇して、表彰されたこと…超古代ポケモンや夢幻の竜と戦った事も話そうかと思ったが、ナツキはそのことは心にしまっておこうと思った。 「そう…ナツキはすごいわね。」 「そんなことないよ。」 苦笑いするナツキ。 「ナツキも二階で休むかい?」 「ううん。あたし…外を散歩してこよっかな。」 「そう。気をつけなさいよ。」 ナツキはうなずくと、いってきますと言葉を残し、家のドアを開けた。 青く澄んだ秋晴れの空、気持ちのいいそよ風、それに吹かれてゆれる花畑。 民家の立っている場所、近所のPCにショップ…ポケモンジム。 ほとんど変わりのないようだったが、道にはブロックが敷き詰められていて、昔のようなでこぼこ道ではなくなっていた。 「そんなに、変わったとこはないみたいだ」 まるで数年前の、幼かったころにいるようななつかしさを、ナツキは感じていた。 キョロキョロとまわりを見回しながら、町を歩く。 さて、ナツキはよそみをしていて、前から歩いてきたふたり組に気づかず… ドンッ! 正面からぶつかって、相手を転ばせてしまうこととなった。 「あっ、ごめんね!」しまったという表情で、ナツキはあわてて謝った。「大丈夫?」 「いてて…あ、はい。」 「こっちこそごめんなさい。地図見ながら歩いてたから…」 ナツキが手を貸して立たせた相手は、自分より年下の少年少女ふたり。 顔立ちやその雰囲気など、ふたりともよく似ていた。 旅をするのに適した身軽な服装で、おそろいの赤と白の帽子をかぶっている。 「あなたたち、旅をしてるの?」 「はい。つい先日マサラから旅立ったばかりだけど…」と、少年が答える。 「今日もやっとトキワの森を抜けてきた所なんです。」 少女も口をそろえる。 「そう。よく似てるけど、あなたたち兄妹かな。」 「そうなの。」少女が言った。「私はスイ。こっちはお兄ちゃんのコウ。」 「あたしナツキ。あたしも弟がいるんだ。よろしくね。」 コウとスイの兄妹とナツキはそうあいさつを交わした。 「あ、いきなりでなんですが、相談してもいいですか?」コウはナツキにそう訊いた。 ナツキがうなずくのをみると、コウは少しうつむいて話し出した。 「ボク、ニビシティのジムに挑戦しようかと思うんです。でも相手は岩タイプだというし、ボクの手持ちで勝てるか不安で。」 「そう? コウの手持ちは?」 「ヒトカゲにオニスズメ、ピカチュウです。」 「わー…それは不安ね。とりあえず図鑑で覚える技を調べて、岩タイプに有利なのはないか探してみたらいいよ。」 「そうですね。アドバイスありがとう。ボク、がんばってみます。」 コウの表情は少しだけ和らいだ。 「ナツキさんはニビシティに住んでいるの?」 「そうね。もし勝てたら知らせてほしいな。」 「はい! じゃあボクたちはこれで。」 「さようなら!」 その兄妹と分かれ、ナツキはニビシティの空を仰ぐと、もと来た道を歩き、祖母の家へと戻った。 「あらナツキ、早かったのねぇ。」 「ちょっとね。」 ナツキは階段を駆け上り、上の部屋で休んでいるチフユの所へ。 「チフユー、ちょっといい?」 「何だよアネキ」 ナツキは床に座り、ソファに座っているチフユと目線をあわすと、こう言った。 「旅とかしてみない?」 「いきなり何だよ。まぁオレも10歳になったし、旅も興味あるけど。」 「なんだ。じゃあ旅してみたらいいじゃない、カントーをさ。」 ナツキの言葉にチフユは目を丸くした。 「何でだよ、そもそもオレら里帰りに来たのに。」 「いいじゃない。あたしもカントー旅してみたいって思ってたし。」 「巻き添えにするつもりか…」 「人聞きが悪いわね。アンタにもいい経験になると思って言ってんのに。それともカントーじゃヤダとか?」 「そんなことはないけど…ただ」 「なによ」 「アネキとふたりだと不安だ…」 ボソリとつぶやいたセリフも、しっかりナツキの耳に届いていたらしい。 「ふたりじゃ不安だってんなら、誰かについてきゃいいの!」 「誰についてく気だよ。」 「ちょっとね。あてがあるんだー!」 チフユは大きくため息をついた。 我が姉なからなんて強引なんだろう、と。 「父さんや母さんも了承済みだから、気兼ねなく旅立てるよ! 旅に必要なものはそろえとくよーにっ。」 「了解」 疲れた感じでそう返事を返すチフユ。 だが心の中には、カントー地方での旅を楽しみに思う気持ちもあるのだった。 ナツキとチフユはニビシティで数日を過ごした。 その数日の間にチフユはモンスターボールや薬など、旅に必要なものをそろえていった。 そして…ある日。 「ピンポーン」 家中にインターホンの音が響く。 ナツキが家の戸を開けると、玄関先には数日前にニビの町でであった兄妹、コウとスイが立っていた。 「あら、あなたたち…」 「いきなり押しかけてスミマセン。PCで道を聞いてきたんですけど。」 「それは別にかまわないよ。あ、入ってね。」 ナツキはふたりを家に招きいれた。 「お客さんかい?」家の置くから祖母の声がした。 「うん。座ってね。」 コウとスイをソファーに座らせ、ナツキもその向かい側に座った。 「…で、どう? ジムリーダーには勝てた?」 「はい! ボクのヒトカゲの「メタルクロー」のおかげで、何とか。」 「お兄ちゃんのために、アドバイスありがとうございます。」 「ううん、いいの。」 ナツキがちらりと二階の方を見ると、チフユがこちらの様子を覗いていた。 「あんた何してんの?」 「いや、ちょっと気になっただけだってー…」 「ふーん、ちょうどいいわチフユ。来なさい。」 チフユはしぶしぶナツキの隣に座った。 「コウ、スイ。あんたたちはこれからどこに行くの?」 「えーと、ハナダシティに行こうと思ってます。」 「そう。ねぇ、あたしの弟が着いて行っちゃダメかい?」 「え?」 コウとスイの声は見事にハモった。 きょとんとした表情で、ナツキを見上げる。 「弟…チフユって言うんだけど、10歳になったばっかりで、カントーで旅をしようということになったんだけどね。ひとりじゃ不安だって言うからあたしがついてこうかって行ったら、ますます不安だなんていうのよ。どう?」 「仲間が増えるのは大歓迎だよ。」 「人数は多いほうが気楽だしね。」 コウとスイは声をそろえた。 「じゃ決まりね! チフユ、ふたりに迷惑かけんじゃないわよ。」 「わかってるよ。…よろしくな。かなり唐突な話だけど、許してくれてサンキュ。」 「ううん。」 コウとスイは首を振り、それぞれチフユと握手する。 「あたしは別に旅してみようと思ってんだ。」 「ところでばーちゃんの了解は取ってんのか?」 「ばっちりよ。」 「いつの間に…」 そうして、四人で笑いあった。 ユウキとハルカに出会ったときみたいだな、とナツキは思っていた。 …そして、翌朝。太陽が空に高く上りかけたころ。 旅支度をしたチフユが、コウとスイと並んで祖母の家の前に立っていた。 「じゃあナツキさん、ボクたちチフユ君と行きますね。」 「旅の途中で会えたらいいですね!」 「そうね!」 「じゃあな、アネキ!」 コウとスイとチフユの三人は、ハナダシティへの道を目指した。 ナツキからその姿が見えなくなるまで、手を振り続けて。 「…ナツキも行くんでしょう?」祖母がナツキを見上げて言った。 「うん。」 「さみしくなるねぇ。まぁ、かわいい子には旅をさせよって言うからね。」 「だいじょぶっ。たまに連絡するからね。」 「そうかい。気をつけて、行ってくるんだよ。」 ナツキも祖母に手を振り、チフユとは別の道を歩いていった。 なつかしいこの地で、ナツキは一歩一歩をしっかりと踏みしめて、道を歩いていく。 この旅で、ホウエンでの旅にはなかった何かを見つけるために。 どこへともなく、ただ前を向いて、道を歩むのだ。 Thanks 玲実さん! |
華苗 | #11★2005.03/24(木)15:39 |
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【其の十一、竜兄妹の小冒険】 ラティアスとラティオス、夢幻の竜と呼ばれる、伝説のポケモン。 別のものに姿を変えたり自らを透明にしたり、人に自分の思うことをイメージして見せることができたり、人の夢の中に入れたり、いろいろな能力が使える。 でもそんな彼等にも、禁じられてる事がある。 それは、人間の住む世界へ、許可なしに足を踏み入れること。 ホウエン地方の上空。 そこには、二匹のポケモンがいた。 《いいのか? こんな所まで来ちまって…抜け出した事がバレたら強制的に連れ戻されてお叱り受けて謹慎一ヶ月だぞ。》 とがめるようにそう言ったのは、青の竜。 鋭い真紅の視線は、目の前にいるもう一匹に注がれている。 《だいじょぶ! わかんないうちに戻ればいいのっ。大体お兄ちゃんって心配性すぎるのよ!》 言い返すのは、一方とくらべ体の小さい、赤い竜。 くりっとした大きい琥珀色の目には、好奇心を宿している。 兄妹関係にあるこの二匹は、実は竜達の住む孤島を抜け出し、人間の住む場所へとやってきたのだった。 竜達には孤島を出てはいけないという掟がある。それを破ると、厳しい罰を与えられるという。 過去にそれを受けた者もいるらしい。 《オマエみたいな妹もてばイヤでもこうなるんだよ…》 首を振り振り、青の竜…ラティオスが。 《何それぇー! どういう意味ぃ!》 声を張り上げ、赤い竜…ラティアスが。 《いや…それはだなっ》 《もーいい! ディークスのバカー!》 叫びながら、ラティアスは一回転。 パチン! と破裂音がしたかと思うと、そこにはもう彼女の姿はない。 《…オイ ディアー! オマエまだテレポート下手だろっ…》 ラティオス・ディークスは思わずそう叫んだ。 だがその声は、ディアーに届くはずもなく。 《おにーちゃんなんて大っキラーイ!》 ただ、そんなセリフがテレパシーで頭の中に響いただけ。 《…ったく。兄弟ゲンカもこれで127回目だ…》 まあそのうちの半分以上はアイツが勝手に怒り出してふてくされただけだが。 アイツのテレポートは未熟だから、いつも変な場所まで飛んでるんだよな… 心の中で独り言をしながら、ディークスは音もなく消えた。 だがそれはテレポートではなく、姿を消しただけ。 そばを飛んでいたキャモメがこれに驚き、くちばしにくわえていたエサが落ちそうになって、あわてて降下していった。 《人間のいるところに現れてなきゃいいけど…こういうことにかぎってオレの勘は当たるからな…》 ため息をつき、ディークスは妹を捜しに、地面に向けて降下していく。 《いっ…たあーい!》 ディアーの現れたのは、とある町のゴミ捨て場。 ゴミ袋の山の中に落ちて、ディアーは顔をしかめる。 《もぉっ! 何でいつも変なトコに着いちゃうんだろ…ヘタなのかな… あれ?》 ディアーは人の気配を感じ、とっさに姿を消す。 そこは人の行き交う町。 ブロックを敷いた大通り、道端で騒ぐ子供たちの声、風に吹かれて枝を揺らす街路樹… そんなのどかな町の風景が、ディアーの目の前に広がっていた。 《わーっ! すごぉい…キレイな町!》 ディアーは声をあげそうになったが、心の中でつぶやくのにとどめた。 その一方、体は町を駆け回りたくてウズウズしている。 ディアーは路地裏に入り、人間の姿になって、町へ出た。 風に紅色の髪を揺らし、彼女はスキップで町を歩く。 自分の生まれ育った場所、みなみのことうにはない、人間の作った町を、ウキウキと歩いていく。 近くの公園に目をやると、大きい立派な噴水が高く、低く、水を噴き上げていた。 その水の流れを目で追うディアーの目には、イタズラっぽく踊る光があった。 噴水の近くのベンチに座り、人差し指を噴水に向けて…くるくると回す。 すると…噴水の水はくるくると、ディアーの指の動きにあわせて動く。 弧を描き、不規則な先の予測できないリズムで、噴水の水は踊っている。 宙に舞う水の粒は、陽光を反射して光の粒へと姿を変えた。 公園で遊ぶ子供たちも、ディアーに操られた噴水の水の動きを目で忙しなく追っている。 子供たちの視線をたっぷり集めたところで、ディアーは指を パチン! と鳴らす。 噴水の水の動きは、元のおだやかな流れへと変わった。 たちまち、子供たちから拍手と歓声が上がる。 「すごーい!」 「今の、お姉ちゃんがやったの?」 目を輝かせて、子供達はディアーに詰め寄ってきた。 「手品よ。タネもしかけもありません!」 手の平を裏がえし、何も無い事を伝える。 まぁ、サイコキネシスで操っていたのだから、本当に仕掛けなど無いのだが。 「またなにか見せて!」 子供たちに囲まれて、ディアーはニッコリと微笑んだ。 そのころディークスは。 《ったく…ディアーの奴 どこに行ったんだ…》 ディークスは透明な姿で、人里を上空から見渡す。 ディアーの紅色をした体は目立つのだが…何しろ広いホウエンでは、見つけるのは困難だ。 はたまた、好奇心の強いディアーの事だ、人間に化けて人の町を歩きまわっているかも知れない。 こうしている間に長老に気づかれでもしたら…と思いつつ、ディークスはディアーの姿をさがしている。 そんなとき、ディークスに話しかけた者がいた。 「おや…めずらしい。こんな所でラティオスさんにお目にかかれるとはね。」 《…!》 ディークスは面食らった。 自分は今姿が透明のハズなのだ。 話しかけてきたのは、ネイティオだった。 《…なぜオレの姿が見える?》 警戒しつつ、ディークスはネイティオにそう訊いた。 「コワイですね、そんなににらまなくたっていいでしょう…? こちらには危害を加える気などありませんよ。」ディークスが警戒を解くのを見ると、ネイティオは続けた。「私は貴方と同じ、エスパータイプ。他人の気配には敏感ですし、姿を消していても見つけられますよ。まぁ、それ以外の者は気づかないことが多いですがね…フフフ。」 ネイティオは含み笑いをすると、さらに付け加えた。「何かお困りのようで…」 ディークスはため息をつき、短く応えた。 内心、今は一刻も早く妹を見つけ出したいのだ。 《妹を探している。どうしようもないはねっかえりのな…》 「おや…。はぐれたのですか?」 《そんな所だ》 こいつには詳しく話す気になれない、と重い、ディークスはそう返した。 「兄弟っていいものですよね…」 唐突にそんなことを言い出したネイティオに、ディークスは怪訝そうな目をした。 《そうかな…兄弟の下に手のかかる奴を持つと何かと大変だが。》 「フフ…口ではそう言いますが…こころのふか〜い所では、誰だってとても大切でかけがえのない存在だと思っているものですよ…貴方だって、そうじゃないですか?」 静かにものを言うネイティオに、ディークスは応える。 《当然、大切だよ…妹は。》 相手の心の底まで見透かせそうな、ネイティオの不思議な色に光る瞳が細められる。 《…一応、オレは急いでいるからな。話はここまでだ。》 ディークスはまた、妹を探すため、どこへとも無く空を飛んでいく。 後に残ったネイティオもまた、笑みを浮かべつつ、その場を去った。 公園を抜け、ディアーは街角を歩いていた。 兄の苦労も知らずに、るんるんと、陽気に鼻歌など歌いながら。 (あれっ) 今、かすかに甘い香りがしたような…? ディアーは香りを追い、鼻を頼りに歩いていく。 たどり着いた街角には、クレープを売っているワゴンがあった。 もちろんディアーには人間の食べ物の事はわからない。 だが、そのワゴンの周りで子供たちがそれをおいしそうに食べる姿を、うらやましそうにじっと見つめていた。 「おいしそう…食べたいな〜…」 ワゴンの周りの子供たちは、小銭と引き換えにクレープを受け取って食べていた。 「いいなぁ…よぉし!」 ディアーはワゴンのほうに歩み寄る。 子供たちに笑顔を振りまいていたクレープ売りの女性が、ディアーに気づき、やさしく笑みを浮かべた。 「あなたもクレープ食べたい?」 「えっ…あ、はい!」 クレープという食べ物なのか、と頭の中で解釈をし、ディアーは肯定した。 「はい。100円になります。」 「えっ?」 ディアーは言われたことの意味がわからず、そう聞き返した。 人間界の事を知らないディアーは、もちろんお金を知らないのだ。 「え…っと…」 「あれ、お金持ってない?」 コクリと、ディアーはうなずく。 「そっか、しょうがないなぁ…」 クレープ、食べられないんだ… ディアーは肩を落とす。 …が。 「じゃあ、はい。」 「え?」 目の前に握られた両手を差し出されて、ディアーは驚いた。 「どっちかにお金が入ってるの。そのどっちかを当てられたら、クレープはタダであげる。」 その一言で、ディアーの瞳が輝いた。 「当てたらクレープくれるんですよね?」 「えぇ。」 「やった! よーし…」 うーん、と首をひねり、ディアーは目をつぶって考える。 散々悩んだ後、ディアーは右の方の手を指さした。 こっちね、と聞き返され、ディアーまたうなずいた。 右手が開かれる。 ディアーは息を呑んだ――… 開かれた右手には…銀色に光る小銭があった。 「当たりね。あなた運がいいわ。」 「わーいっ! やったー!」 飛び上がってはしゃぐディアー。 「はい、クレープよ。よかったらまた食べに来てね!」 暖かなまなざしに見送られて、ディアーはワゴンを離れた。 街角の木のベンチに腰かけ、クレープを一口、食べてみる。 甘くてやさしい味が、口の中に広がった。 「おいしーっ。あたしラッキー!」 ディアーは幸せな気分で、クレープを味わった。 ディークスはあせっていた。 《早くしないと島に連れ戻される…そうしたらお咎めを受けなければ…》 それが理由だった。 なるべく早くディアーを見つけ、島に帰らなくては、と。 《ん…?》 ディークスはある町の上空で、気配を察知した。 《ディアー…?》 妹の名をつぶやき、ディークスは急降下し、その町を見下ろす。 その時…ディークスの瞳がスッと細まった。 見つけた。ディアーだ。アイツの紅色の髪は目立つから… 安堵の表情を顔に浮かべ、ディークスは妹のもとへと向かう。 ディアーもディークスに気づいたらしく、互いにその姿を目に写す。 ディークスは地上に近づいた所で人間の姿になり、ディアーの前に着地する。 「お兄ちゃん!」 「ディアー…探したぞ。早く戻らないと、長老に知れたらお咎めを受けてしまう…」 「うん! 早く帰んなくっちゃね!」 やけに素直だな…と、ディークスが眉をひそめる。 「人間の街ってキレイだよねー! おいしい食べ物もあるし。」 「機嫌がいいな…」 「うんっ。お兄ちゃんもクレープ食べない?」 「クレープ…? いや…」 ディークスは首を振る。 そのかわり…ディアーの口元に残っていたクリームを指ですくい、自分の口に運ぶ。 「え? …あれ?」 「甘いな…これか? クレープ…って。」 「うんっ。おいしいのよ! 食べてみない?」 「…オレは今のでいい…それじゃ、帰るぞ。オレにつかまれ。」 「うんっ。」 ディアーはしっかりとディークスの腕につかまる。 「いくぞ。」 ディークスが指を パチン! と鳴らす。 次の瞬間には、ふたりの姿はその場から消えていた。 深く霧に包まれた、みなみのことう。 ディアーとディークスはその島に降り立った。 ふたりとも、もとの竜へと姿を変える。 《ふーっ。気づかれなかったかな?》と、ディアー。 《どうだろうな…》 ディークスが後ろを振り返る。 そこにはディークスよりも老いているラティオス…夢幻竜たちの長老…がいた。 《…やっと見つけたぞ、ディアー、ディークス…島からお前たちの気配が消えたのはわかっていたが、人間界を探し回るのは骨が折れたわい…仕方なく帰ってきたら、ちょうどお前たちと鉢合わせたけれどな。》 《あっちゃ〜! バレてたのか〜…》 ディアーが しまった、と額に手を当てる。 《申し訳ありません、長老…お咎めは受けるつもりでおります。》 ディークスは頭を下げた。 《あ、いや…今回はその、大目に見てやろうと思うのだが…》 《え?》 ディアーとディークスが聞き返す。 《つまりだな、人間界で見てきた事を話してくれたら…お叱りは免除してやってもよいぞ。》 ディアーとディークスはあまりの驚きに、目をパチクリさせて。 それから兄妹そろって、返事を返す。 《はい!》 その後竜達は、長老の許した日だけは人間界に入ってもいいということになったそうな。 《ねぇお兄ちゃん、今度はユウキ達のところに行こうよ!》 《いいけど…その時は勝手に一人でどっか行くようなマネはするなよ。》 《はいはーい。》 |
華苗 | #12★2005.03/24(木)15:57 |
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【其の十ニ、手を伸ばせば】 昔から、目標であり、憧れだった。 そして、一番近いはずの存在でもあった。 いつからだろうね、そんなアナタを遠くに感じるようになったのは。 アタシ、アール。ワカシャモよ。みんなに男勝りとか言われてる。 今日はちょっと遠出して、ミナモ方面のフィールドワークに来てるの。 ハルカと一緒に、生息しているポケモンを調べてるトコ。 「えーと、ここにはジグザグマとマッスグマが多く生息…っと。」 メモ帳片手に辺りを見回し、シャーペンでさらさらと文字を記すハルカ。 将来ポケモン研究者となって、父を越すという夢のある、アタシの主人の真剣なまなざしは、海よりも深い青い色。 アタシがボールの外に出ているのは、たまに縄張り意識の強い野生ポケモンがいたりするから、そういう奴の撃退役。 文字を書き綴るカリカリという音が消えたのと同時に、ハルカの表情はふっとゆるんで、アタシの方に向けられる。 「順調! さっきからずっと続けっぱなしだし、ここらで休もうか、アール。」 「そうね。」 適当な木陰を見つけ、木の根元に腰を下ろせば、木漏れ日がちらちらと上から落ちてくる。 そよ風は心地よくて、時間を忘れそうだった。 そんな休憩場所として最高の木陰に目をつけて、またひとり、誰かが入ってきた。 「あれっ、先客かな…?」 あたしは閉じていた目を開けて、相手を見上げてみた。 どこかで見た覚えのある顔だった。 どこで見たのかは、その人の隣にいたポケモンを見ればすぐに思い出すことができた。 すらりと背の高い、りりしい顔つきをした、バシャーモ。 「アニキ! 久しぶりね…」 「また会ったな、アール。」 アタシの兄貴、イーグル。 そして、その隣の人は、アニキの主人のリョウ。旅先で会ったことのあるトレーナーだった。 「リョウさん? 久しぶりですね!」 「あれ、ハルカちゃん…だっけ。偶然だね、こんな所で会えるなんて。」 相変わらず、人のよさそうな笑顔のリョウ。 「今も旅をしているのかい? それに、一緒にいた子達は?」 「いえ、旅はもうしていないんです。この間旅を終えて、私は今フィールドワークをしているんです。」 「そっか。オレはあの後仲間が増えたんだ。」 リョウはモンスターボールをひとつ手に取り、ポケモンを繰り出した。 ボールから飛び出したのは、金色のキレイな毛並みをしたキュウコン。 「エニンって言うんだ。ロコンのときに人からもらってね。よろしく。」 「エニンかぁ。よろしくね。」 エニンって言うらしいそのキュウコンは、小さく頭を下げた。 「あの後の事、いろいろ聞かせてほしいんだけど。なんでもユウキ君はチャンピオンを倒したそうじゃないか。」 「そうなんです。」 リョウとハルカはそうしてふたりで話を始めた。 「オレ達はオレ達で話をしよう。」 アニキは木の裏側に回っていった。アタシもエニンと一緒にその後についていく。 「じゃあ、改めて。私、エニンです。」 エニンは微笑み、あいさつをした。 笑顔の似合う子だな、とあたしは思った。 「アタシはアール。エニン、よろしく。」 「オレの妹なんだ。」 アタシの名乗った後、アニキはそう付け加えた。 「妹がいたんだ…アールね、よろしく。」 「うん。」 そんなやりとりを交わす。 「エニンはある家で飼われていたんだ。でもエニンは主人に可愛がられてなくてね。」 兄貴がエニンのほうを見ながらそう話した。 何故だろう、こんなにいい子なのに… 「私の前の主人は、なんていうか…飽きっぽくて。ポケモンを飼い始めてもすぐに飽きて、また新しい子を連れてきて可愛がって、しばらくして飽きて…の繰り返し。リョウと主人が知り合った時はすでに私、存在すら忘れられてた有様で。」 エニンは目を伏せる。その時よほど寂しかったのかな、とアタシは思った。 トレーナーに忘れられるなんて、アタシは味わった事無いからわからないけど… でもとても、辛かったんだろうなと感じた。 「だから、もらわれたっていうよりは私からリョウについていった感じかもね。」 エニンはアタシとアニキをかわるがわる見て、また口を開く。 「私にも兄弟がいたら、そんなに寂しくなかったかもしれないね。今ではリョウによくしてもらってるし、イーグルも…一緒だし。ねっ。」 隣に立つアニキを見上げて、エニンは笑った。 さっきあいさつした時とは違って、どこかさびしげな笑顔に見えたけど。 昔の事を、思い出したせいなのか。 「あぁ。エニンは苦労してたんだよな。オレ達と仲間になれて、よかったよな…」 「ホントね。」 ふたりで笑いあうアニキとエニン。 並んでる所を見てて、けっこう仲がいいんだなぁとおもった。 ふと気になったことを、アタシはアニキに尋ねてみる。 「アニキ、エニンって彼女?」 「なっ…!?」 いつも物静かなはずのアニキが、急にうろたえる。 「やだなぁアール。そんなこと無いったらー。」 「…いきなり何を言ってるんだよ…」 そういうふたりとも、少し顔が赤いようにも見えた。 アニキが照れてるのは見たことがなかった。 エニンが隣にいることで、何にでも動じないアニキがこうも変わるなんてね。 その様子が、可笑しかった。 でも同時に、寂しい気もした。 エニンにはこんな風に、アタシの知らない表情を見せているということが。 それでもアタシは、それを顔に出す事はしない。 昔から、アタシはいじっぱりな性格だったから。 太陽が天高く昇り、みんなお腹が空いてきた頃だった。 みんなで一緒に、ハルカは手作りのお弁当、リョウは携帯食料、アタシとアニキとエニンはポケモンフーズの昼食をとった。 お腹も満たされてきた頃に、突然リョウが切り出した。 「ハルカちゃん、ポケモンバトルをしないか?」 「え?」 「この前みたいに、イーグルとアールで一対一でどう?」 「もちろんいいですよ!」 ハルカとリョウは食事の後片付けを始めた。 すでに食べ終わっていたアタシとアニキは、その話を聞いて立ち上がる。 「バトルか。腕が鳴るな…」 アニキは肩を回しながらそう言った。 「えっ? 兄弟なのに、バトルなんて…」 エニンは心配そうにアニキを見上げた。 「大丈夫だよ。アールは強いから…」 「そうそう! アニキも油断してると痛い目見るよ? アタシ、あれからすっごく強くなったんだから!」 「そうか。そいつは楽しみだな。」 そう、アニキは自信ありげに笑う。 「よし! じゃあ広い所に移動しようか。」 リョウとハルカは立ち上がる。 荷物をまとめて、近くの岩場に囲まれた広い場所まで移動した。 「ここなら周囲に迷惑もかかんないしね。始めましょうか。」 「そうだね。イーグル、頼むぞ。」 「アール、お願い。」 アニキと向き合って、距離を取って戦闘の構えを取る。 その場の空気が一瞬で変化するのを全身が感じた。 バトルはこの緊張感がたまんないのよね…! 「バトル スタート!」 掛け声を合図に、バトルが始まった。 「アール、「ビルドアップ」よ!」 まずは相手の様子を見つつ、自分の能力を高める。 相手に対してじっくりと戦うハルカの指示は、的確で迷いが無い。 「イーグル、「かえんほうしゃ」!」 リョウの指示で、アニキが攻撃の態勢をとり…炎を放ってくる! せまり来るその攻撃には、近づいただけでも炎の熱さとうねりを感じさせられた。 「かわして!」 即座に飛んだハルカの一声に従い、宙に跳んで攻撃をよけた。 しっかりかわしたつもりでも、攻撃が少し足をかすめてしまったけれど。 「いいわよ…そこから「でんこうせっか」!」 素早くあたりの岩場に足をつき、弾みをつけて勢いよく相手へと攻撃を仕掛ける! 「ぐっ…」 何かつぶやくような声が聞こえた気がしたが、気にも留めず、また次の攻撃を仕掛ける。 岩場を利用し、軽やかに空中を移動しながら。 アニキを先ほどから防御の姿勢をとっており、連続で幾度も攻撃を食らわせているものの、なぜか一向に攻撃してくる気配が無い。 顔の前で組んだ腕の合間から見えた不敵な笑みに、アタシは嫌な予感がした。 まさか――…! 「今だ、イーグル。「がまん」開放だ!」 「う…おぉ――っ!」 アニキが放ってきた一撃は、アタシを軽々と吹っ飛ばすほどの威力。 今まで一方的に攻撃を受け続けていたのは、この技のため、か… アタシとした事が、油断してたみたい…ね。 「くっ…やるわね。でも今の攻撃で、アールのとくせいが発動よ!」 ハルカがリョウに向けてそう言い放つ。 アタシの体を、赤いオーラが包み込んだ。 体力が削られた事で、アタシの炎技の威力が上がるんだ。 「アール、「かえんほうしゃ」!」 放った炎の大きさ、明るさ。いつもの倍ほどはあった。 同じ炎タイプで攻撃は効きづらいアニキでも、地面に三メートルほど押し戻された足の爪の跡が残る。 「相手は弱ってる…これがとどめだ!「ブレイズキック」!」 アニキは体勢を立て直し、アタシの方に向かってくる! 「こうなったら…「スカイアッパー」よ!」 アニキは炎をまとった右足を振り上げる。 アタシもまた、右腕に力を込めて、天へと突き上げる。 双方の攻撃が、確実に互いに命中していた。 …自分の意識が、遠ざかっていくのを感じた。 遠くで、エニンの息を呑む音が聞こえた気がした。 「…アールッ…!」 そう、アニキの心配そうな声も、聞こえたような…。 目が覚めたとき視界に飛び込んできたのは、木にしげる緑の葉たち。 アタシはさっきのあの木の下で眠っていたらしい。 「あっ! 目、覚めた?」 エニンがこちらを見下ろしてくる。 「気分どう?」 「…うん…アニキは…?」 「イーグルは近くでリョウとハルカさんと一緒にいるよ。」 「そう。」 「ハルカさんはポケモンとでも話ができるんだね。リョウから聞いたよ。」 「うん…」 「…どうしたの? 元気ないね。」 返事はせずに、エニンから顔を背けた。 やっぱりアニキは強いな…また、負けちゃった… あたしもあれから強くなったはずだけど、アニキには全然及ばない。 「イーグルに負けたこと、悔しいの?」 「っ…そりゃあ…悔しいけどっ」 思わず、立ち上がる。 「けど?」 「…っ」目を伏せて、声を低くする。「寂しい…んだ」 何が? と訊かれて、アタシはエニンにしか聞こえないように小さく話した。 「アニキは小さいころから目標で、あこがれで…いつもくっついて歩いてたんだ。でもトレーナーに引き取られちゃってから、アニキを遠く感じるようになって…今もそう。負けたらその分、置いていかれてるみたいで。」 いや、実際…すでに追いつけないのかもしれないけれど。 「それに…エニンといるアニキは、アタシの知らないアニキなんだ。」 「照れてるトコとか、アタシの前では見せたこと無いから。」 「…何だ、そんなことで悩んでたの。」 エニンの言い方にムッときたけど、ここはこらえて、エニンの話を聞くことにした。 「ずっと変わらないものなんてないんだよ。どんなものだってそう。植物は育つし、私たちも成長する。空だって時が過ぎれば、その色や天気が変わっていくし…だから、それって自然な事なのよ。心ってけっこう変わりやすいしね。」 アタシは顔をあげて、エニンをじっと見た。 はっきりと言い切る、エニンの言葉には説得力があふれてる。 「それに、人に対しての振舞い方ってあるよね。イーグルはリョウの前では頼もしそうにするし、私と話すときはさっきみたいに照れたりもするよ。それから…アールといる時は、なんだかとても嬉しそうだし、安心してる。」 「え? アニキが?」 うなずくエニン。アタシはなんとなく思い当たる節があった。 そういう感情はなかなか顔に出さないアニキだけど、声の感じが落ち着いてる。 「…そうだね。」 「ねっ。反対に弱気な所とかは見られたくなかったりもするでしょ。アールはそういうトコ、イーグルに見せないのね。」 「そうかも…」 自分に近い存在だから、自分の強さだけを見て、安心しててほしいんだ。 弱さを見せるのは嫌だということもある。 「そっか。エニンありがと。なんだか肩が軽くなったみたい。」 「どういたしまして。…私も、アールとイーグルがうらやましかったりして。」 「何で?」 意外な返事に目を丸くし、聞き返す。 「兄妹同士でも、全力でぶつかっていけるって事はあまり無いと思うんだ。お互い信頼しあってる印なんだね。…私、イーグルが好きだから。」 「へぇ…どういう所が?」 「えへへ…えっとね。バトルのときのあの真剣な目とか。いつも落ち着いてて、頼もしい所とか。」 顔を赤く染めて、エニンは気恥ずかしそうに笑った。アタシもつられて。 エニンのおかげで、今はもう自然と笑えるよ。 「…アール、目が覚めたんだな。」 「あ、アニキ。」 むこうからアニキがこっちに走ってきた。 その後から、ハルカとリョウが歩いてきてる。 「また、加減がきかなかった…オレもまだまだだな。大丈夫か?」 「平気! それに本気のバトルのほうがいいし。」 「それならいいけどな。」 ほっ、と息をつくアニキ。そこへエニンが口を開く。 「ねぇイーグル、アールのことどう思ってる?」 「どうって…」アニキは答えにつまる。頬を引っかきながら、あさっての方向を向いて答えた。 「自慢のしたたかな妹…ってとこかな」 「え、アタシ強い?」 「…そうだな。かなり強くなったんじゃないか」 「ホント!?」 ほめられたのが嬉しくて、手にぐっと力を込めてみる。 遠いのかなと思っていたアニキを、近くに感じられたみたい。 そこへ、ハルカとリョウがやってきた。 「アール、もう大丈夫?」 うなずいてみせると、ハルカはそっと胸をなでおろした。 「よかった。でもそろそろミシロに帰らなくちゃね。」 「お別れか。あ、そうだ。ポケナビ持ってる? エントリーコールに登録しようよ。」 「いいですよ。」 ハルカとリョウがポケナビを操作してる。 この間に、あいさつくらい済ませておこう。 「アニキ、今度あったときは絶対負けないからね!」 「それは楽しみだな。オレも鍛えとくよ。」 腕をぶつけ合い、再開の約束。 「また今度会おうね、アール。」 エニンとは、笑顔を交換し合った。 「行くよ、アール。」 ハルカはリアを繰り出して、あたしと一緒にその背に乗った。 「じゃあね、アニキ! エニンと仲良くね!」 「リョウさん、また今度!」 リアは羽ばたき、ミシロタウンへと空をすべるように飛ぶ。 リアの背中からアニキとエニンをリョウを見下ろし、姿が見えなくなるまで手を振った。 「なんか機嫌いいね、アール?」 「ちょっとねー。」 決めた。アタシはもっともっと強くなる。 いつかまたアニキとバトルしたとき、勝てればいいな。でもそれはまだ遠い。 でも、アニキに届くくらいなら。まずはそれを目指そう。 いつの日か、目標だったアナタまで。 手を伸ばせば、届くようになれるよね、きっと。 |
華苗 | #13☆2005.03/24(木)15:47 |
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【其の十三、あのときからずっと】 最近はよく、シダケの草原でリアと会い、話をしてる。 ある日リアがいきなり、オレの眼前に突き出した青い羽。 「見覚え、無い?」 その事を思い出すまでに、そう時間はかからなかった。 オレがいつからリアを好きだったのか、それは多分――… 数年前の出来事。 アールとウォンとオレが、研究所で暮らしていたころだ。 オレが木の上に寝そべって考え事をしていたとき、空から、かすかに声が聞こえたんだ。 「ここにもない、ここにも…」 何かと思いつつ空を見上げたが、一瞬見ただけでは、声の主を見つけることができなかった。 なぜって…そいつの体は空と全く同じ青の羽毛に包まれて、翼は綿雲のようだったから。 空に溶け込んでいたんだ。見つけられなくても不思議はない。 「やっぱり、ない。どこを捜せばいいの? 私の宝物なのに…」 「おい」 そいつに聞こえるように声を張り上げた。 その「チルット」と言うポケモンは、オレの声に気づいて辺りを見回した。 「え? どこですか?」 「ここだ、ここ。お前のすぐ下のオレンの木。」 そう教えると、チルットはすぐオレの前まで飛んできた。 「一体どうしたんだ。さっきから…何か探しているのか?」 「えっ、はい、そうです…私の宝物の、青い羽を…」 おどおどとしたようなしゃべり方が、少しイライラしてくる。 「もっとはっきり言えないのか?」 「…すみません」 うつむくチルット。 「おい…」 声をかけても、なかなか顔を上げない。また少しイライラして、顔を覗いてみたら。 泣いて、いた。 夜空のような黒い瞳が涙に潤む。それがあまりに綺麗で、オレは思わず息を呑んだ。 「うぅ…」 「…何で泣くんだよ」 「うっ…う…」 弱った。オレは泣かれるのは苦手だ… なだめるったって、オレは不器用だし。 とりあえず、木に実っていたオレンの実を差し出す。 「…え…」 「泣いてたって捜し物が出てくるわけないだろ。とりあえずこれ食えよ。」 「はい。」 よし。泣き止んでくれた。 チルットはオレの座ってる枝に、ちょんと止まる。 「あ、木の実、ありがとうございます…」 「別に。」 チルットは差し出した木の実を受け取って、ついばみ始める。 ひとまず安心だ。 ほっと息をつきつつ、チルットに話しかけてみた。 「手伝ってやるよ。その…お前の宝物、捜すの。」 そう一言、言っただけなのに、チルットの表情は一変した。 「本当ですか?」 「あぁ。」 「嬉しい! 住んでいるところからはとても離れてしまったし、ひとりじゃ心細くて…あなたはこのあたりに住んでいるんですか?」 いきなりよくしゃべるようになって、少し面食らいながらオレは答える。 「まぁ、そんなようなものかな」 「そうですか! ともかく…ありがとう! 私、リアといいます。あなたには、お名前ありますか?」 「あぁ。オレはリュクって言うんだ。」 「リュク…素敵なお名前ですね!」 そう言って、リアは笑った。 その時の笑顔は今でもはっきり思い出せる。 今のリアの笑顔とそっくり変わらない、無邪気な笑顔。 オレだって、あまり時間はなかったんだ。 少なくとも夕方5時には、研究所に戻ってろってあの博士に言われていた。 それでも、こいつがほっとけなかった。 リアは木の実の最後の一口を飲み込んで、枝から飛び立つ。 オレがひょいと木から飛び降りると、リアは近くまで下りてきた。 「落とした羽は、どんなやつなんだ?」 「私のあたま羽です。」 リアはそういい、頭の三日月形の羽を示す。 何でそんなものが宝物なんだ? そう訊くと、リアはこう答えた。 「私の、初めて生え変わった時のものなんです。二本あったんですけど、一方はけっこう前になくしてしまって…でも、一方は今でもお守り代わりに持っているんです」 一瞬だけ心配そうな表情を浮かべて、リアは頭を振り、こっちを向いて言った。 「私は空から捜しますね。」 「じゃあオレは下から。見つけたら呼ぶからな。」 「はい。」 「早く見つかるといいな。」 「はい!」 そんなやり取りのあと、オレとリアは手分けして、羽を捜し始めた。 …それから二時間ほど探したけど、なぜか羽は見つからなかった。 結局見つからなかったら、あいつ、また泣くのかな… そんなことを考えているうちに、少しはなれた木の枝にコノハナが座っているのを見つけた。 その手には、おそらくリアのものであろう、空色の羽があったのを、オレは見逃さなかった。 「おい、そこのオマエ!」 コノハナに向かって大声で呼びかけてみる。 するとガラの悪そうなコノハナはこっちのほうを向いた。 「あぁ? てめー、なんか用なのか?」 「その羽、拾ったんだろ。オレに渡せ。」 するとコノハナはこちらにつっかかってきた。 きつい目線をもらったが、負けじとにらみかえす。 「あんだとぉ? これがお前のモンだって証拠でもあんのかぁ?」 そいつは木の枝を飛び移り、オレの近くまでやってくる。 「オレのものじゃない。だけど、その羽の持ち主が悲しんでるんだよ」 「ヘン、知った事か! この羽はオレのモンだ。それでも渡せというなら…」 コノハナは ズイ、と長い鼻を突き出して、続きの言葉を口にした。 「オレに、バトルで勝ってみろ」 返答しないオレに、コノハナは鼻で笑ってみせる。 「どうした? 怖気づいたのか?」 「望む所だ!」 オレは羽を取り返そうとその一心だった。 取り返したところでオレに何の利益があるわけでもないのに。 でも、なんとなく、気分がよくなかったのだ。 リアの涙を見ると、自分まで、心が曇ってしまうようだから。 「く…チビのクセにやるな!」 オレの攻撃でダメージを受けているコノハナは、オレに向かってそう叫んだ。 確かにコノハナはオレの二倍くらい背が高いが…「チビ」はないだろ? 「黙れ…バトルに集中できないのか。」 そう、短く返事を返しとく。そして、互いに技を繰り出した。 オレは相手の体力を吸い取る攻撃をする。 その直後にコノハナはじんつうりきを放った。オレは不覚にも攻撃を受けてしまう。 エスパー技の直撃で頭が割れそうに痛かった。 だけど、オレも負けっぱなしというわけじゃない。 あいつの攻撃で受けたダメージはまだ残っていたが、コノハナに思いっきり体当たりをかましてやる。 コノハナは衝撃で近くの木に叩きつけられた。 「うっ…」 そのまま、地面に倒れる。 「オレの勝ちだ。羽を渡せ。」 「チ! しゃあねえな、ほらよ!」 コノハナは、リアの空色の羽をこちらに投げて渡した。 「おぼえてろよ!」 捨て台詞を吐いて、あいつは森の奥へと逃げていく。 すると不意に、リアが目の前に現れた。 「…! リア、見てたのか?」 「はい。あのコノハナさんが、私の羽を?」 「あぁ。あっちからバトルを仕掛けてきてな。羽は取り返した。これだろ?」 羽をリアに差し出す。 「よかった! これに間違いありません。」 リアは羽を受け取ると、また泣き出した。 「お、おい…」 「よかった! 見つからなかったら、どうしようかと…」 まったく、どうすればいいのか。こいつの扱いは難しい。 とりあえず、リアの頭をなでてやる。 「リュクさん…」 「羽、見つかってよかったな」 「はい。本当に、ありがとうございます! ご恩は一生忘れません!」 「そんな大した事じゃないだろ」 「あ、そうですよねっ。…あらっ」 リアがオレの頬を羽でさわった。そのとたん、痛みが走る。 「っつ…」 「さっきのバトルの傷でしょうか。切りキズになってます…」 あぁ、そういえばさっきコノハナの「かまいたち」をかすったな。 気づいたら急に痛くなってきたな… 「どうしよう…」 「いいよ。帰ったら手当てしてもらえるから。」 「いえ、でも近くに実のなる木もないですね。」 恩返しでもしたいのか、しばらくリアはあたりを見回していた。 結局、何もないのがわかると、リアはオレの隣に座った。 「あ、そうだ」 何か思いついたように、リアはオレの傷にふれて。 「いたいのいたいの飛んで行け」 「な…!」 まさか、そう来るとは思わなかった。 思わず、飛び退ってた。 「あ、お気に障りました? すみません…弟が怪我するといつもこうするので。」 弟がいるのか…ってそうじゃない。 まさかそんなこと言われるとは思っていなかったんだ。 「でも、痛くはなくなったでしょう?」 笑顔で言われて、そういえば、と思った。 びっくりして、本当に痛みが吹き飛んだのかもしれない。 「ふふっ。けっこう効果的でしょう?」 くすくすと笑いながら、リアはそう言った。 心の底から、リアにはかなわないかもしれない、と思った。 気づけば、日もけっこう傾いてきているころだった。 リアが大切そうに羽を持っているのを見て、思わず、一言。 「キレイな羽だな…」 「そうですか?」 太陽の光を受けて、羽はにぶく光る。 三日月形の細い羽は、リアの綿雲の羽毛の中にしまわれた。 「そう言っていただけると嬉しいです。」 リアは、ふわりとほほえんだ。 そのときの笑顔は、本当にかわいいなと思った… 胸が大きく高鳴った。 顔が熱くなってくるのを感じた。 照れ隠しにとんでもない方向を向きながら、オレはリアに訊いてみた。 「帰らないのか?」 「え? もしかして迷惑ですか?」 「いや、そんなことはないんだが。」 「ならここにいさせてください。あと一時間あるんでしょう?」 時間はあるけど…これ以上用はないはずだろう? そう思ったのが顔に出ていたらしく、リアはオレのほうを向いて、言った。 「なんだか、今日の空…いつも見てるのと、少し違う気がするんです。」 「そうか?」 オレには、そうは見えないけど… 天を見上げれば、いつもと同じような空色が広がっている。 「でも、キレイな空だよな。」 オレの言葉に、リアもうなずいてみせる。 「リュクさんと、出会えたからでしょうか。」 またそんなはずかしいセリフ、よくも平気で言えたものだ。 「どうしました?」 どうやら無意識にリアのほうを見つめていたらしい。 こっちを覗き込んでくる。オレはあわててそっぽを向いた。 「べ、別にっ…」 こっちを見つめてきた瞳は、夜空みたいに黒かった。 それからは互いに何も言わず、ただ、ふたりで空を見上げていた。 それからさらに太陽が傾き、西の空は、ほんのりと赤く染まり始めるころ。 オレの体内時計では、そろそろ、研究所の門限が迫っていた。 「帰らなくちゃな」 言いながら、立ち上がる。 傾いた太陽によって、地面に長く、オレの陰が映し出される。 「そうですね、そろそろ、お別れでしょうか。」 リアもそう言って、オレと視線を交えた。 「また会えるといいですね。」 「あぁ。」 リアは綿雲の翼で羽ばたき、空に浮かんだ。 「さようなら!」 一言残し、リアは西の空へ飛んでいく。 その空に溶け込むような姿も、今度ははっきりと見分けられた。 オレはリアに向かって、手を振った。その小さな後姿が、見えなくなるまで… 旅の途中でリアに会った時には、初対面だという気がしなかった。 名前を聞いたときも、やっぱり聞き覚えがあると思ったけれど。 あの時は、思い出せなかったんだな。 「まだ持っていたんだな。その羽…」 「なくしたらリュクに申し訳ないもの。」 「そりゃな。」 オレは苦笑いした。 でも今度また羽をなくしても、相手がどんなヤツだろうと、オレはすぐに取り返しにいく気でいるけどな。 「私は、すぐに気づいたよ。旅の途中であった時。」 「すまない…オレは思い出せなかった」 「いいの。忘れてはいなかったでしょ。」 そしてまた、あのときのような笑顔。 自然とこちらも顔がほころぶ、心からの笑顔。 「あの時出会わなかったら、今こうして話していられたかしら。」 「さぁ、どうかな。」 「運命だったのかもしれないね。」 「ロマンティストだな」 「ふふっ。スカイの影響かしら。」 「だろうな…」 さらりと「運命」などというセリフを放つリアは、ここまで来ると羞恥心が無いんじゃないかとも思った。 さすがにそれは失礼か。 「でも、よかった。」 「何が?」 そう問い返したオレに、リアは夜空のような深い瞳を向けてくる。 あの別れたときのように、オレとリアの、視線が交わる。 リアは歌うように言葉をつむいだ。 「羽も、あのときの思い出も、なくさずに持っていられてよかったな、って。」 少しほほを染めて、ニッコリ微笑んで、そう、リアは言った。 そんな事言われて、オレがどれだけ嬉しく思ったかわかるか? そりゃあ、言葉に出来ないほどに、嬉しかったさ… 「オレも、忘れなくてよかった。」 その一言で、リアは驚いたように目を見開き…それから、嬉しそうに目を細めた。 「ありがとう」 「別に」 なんだか照れくさくて、オレはそっぽを向いた。 思えばきっと、オレはリアの事を好きだったんだろうな。 あの本当に嬉しそうな笑顔を見たときから、心を奪われていたんだ。 初めて出会った、あのときからずっと… |
華苗 | #14☆2005.03/24(木)15:56 |
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【自然を大切に!】 海は好きなんダ。水のあるところは居心地がいいからサ。 一面真っ青で、深くて底が無いようで、なんていうかカッコイイし、キレイなんダ。 大自然あふれるホウエン地方の見所のトップを争うほど、キレイな部分だと思ってた。 でも最近、そのキレイな海が汚れているらしい。 そんなことをするのは、やっぱり、オレの好きな人間たちなんだよナ… ある朝、やけに物音がうるさくて目が覚めた。 起きてみると、窓の外にはコーラスが。さっきから窓をつついてたんだナ。 「ウォンさんウォンさん、起きましたね。おはようございます」 なぜか誰にでも敬語なコーラスは、窓越しにオレに向かって行儀よく一礼。 「ああ、オハヨ…ってカ、あいさつだけのために来たのカ? ちがうだロ?」 「はい、何でも水ポケ連盟の召集があるそうで。僕もついさっきキャモメさんに起こされたんです。ふわぁ…」 大きな口で小さくあくびをして、コーラスはそう返事をした。 水ポケ連盟と言えば、レインとかリプルスの入ってるやつカ。 あぁ、一応説明しとくと、水ポケ連盟ってのはホウエン地方の水ポケモンの助け合いグループみたいなモンらしいゼ。オレとコーラスも一応加入してるんダ。 「なんかあったのカナ。とりあえずコーラス、乗せてってくれヨ」 「いいですよ。」 「じゃ、行こうゼ!」 窓を開けて、コーラスの背中に飛び乗った。それから、勢いよく海へ向かって飛び立つ。 開け放たれたユウキの部屋の窓は、そのままにして。 コーラスの背中に乗って、ミナモシティの上空辺りまで飛んでくる。 上から見下ろせば、青く広がる広大な海が見えるんダ。 自慢の視力で、海に紛れた色のラグラージ・レインと、その隣にランターンのリプルスを見つけた。 ま、リプルスが触角の先のライトを点滅させてたおかげもあるけどナ。 「おー、ウォンにコーラス!」 レインがこっちに向かって手を振るのが見えた。 コーラスは急降下。海面ぎりぎりでブレーキをかけ、レインとリプルスの前に着水。オレも海に飛び込んだ。 水の中に入ると、かーさんの腕に抱かれてるみたいな気分になるんダ。 それは、母なる海の優しさってヤツなのかもな…なんて。 「しばらくぶりだね。その後どうだい?」 リプルスはそう訊いてきた。 「あぁ、あの後ユウキはポケモンリーグに挑戦して、ホウエンのチャンピオンに勝ったんダ。今じゃホウエン地方でユウキを知らないヤツはいないんだゼー! すごいだロ!」 「そうなのか!? お前の主人はとことんすごいヤツだな…天変地異の騒動も収まったばっかりだったってのに」 レインも相槌を打つ。オレはそれに笑顔で応えた。 「だロ!」 オレ達のユウキにはできないことなんて無いんだゼ! 「あ、そうだ。朝早くからいきなり呼び出したりして、どうしたんですか?」 コーラスがそう言い出した。 と。 「お〜い」 遠くから低くて大きい声が聞こえてきた。 声のした方向を見ると、巨大な青い体が見える。 「レ〜イン〜 リプルス〜」 それは、ホエルオーのホールだった。その背中にはサニーゴのコーラルちゃんも乗っている。 「お、来たな!」 レインはホールに手を振った。 「やぁ〜。待たせちゃったかな〜?」 相変わらず、のんびり口調のホール。 「大丈夫さ。」 レインはそう返事をすると、いきなりまじめそうな顔をして口を開いた。 「さて、みんなそろったな。まずは今日の任務を説明するぞ。一回しか言わないからな。よく聞くこと!」 みんなの「はい」って返事が重なる。 「今日の任務はミナモ、トクサネの海岸のゴミ拾い。子供のポケモンが間違って飲み込んだりして大変なことになったことがあるから、念入りに頼むぞ。漂流物の中にビニール袋を見つけたんで後で配る。その中にゴミを集めて、砂浜に集めて置いとけば、人間たちが持ってってくれるから。わかったな。」 ここでまた、みんなの返事が重なる。 「それと海に漂流しているゴミもあるから回収しなくちゃいけない。釣り人のつかう釣り糸や釣り針、あみの切れ端とかな。そこで、役割を分けようと思う。海は広いしな。」 「海岸のゴミ拾いはボクとレイン、ウォン君。海の方はホールとコーラス君、コーラルさんだ。キャモメ空軍隊も手伝ってくれるから。くれぐれも協力してやってくれよ。」と、リプルス。 「ではそれぞれ作業開始!」 いつもよりちょっとえらそうなレインの一声。 ホールはコーラスとコーラルちゃんを乗せて、広い海を泳いでいく。 「オレ達はミナモシティの海岸でゴミ拾いだ。行くぞ!」 「お、オゥ!」 レインに背中を押されて、オレ達はミナモシティの海岸へ向かった。 「ひゃー…すごいなァ。」 現場に到着した、第一声がコレだった。 「こんなにひどいとは思ってなかったゼ」 ミナモシティの白いキレイな砂浜を、散乱した空き缶などのゴミが台無しにしてた。波打ち際には半透明のビニール袋がぷかぷか浮いてる。 こんなになるまで放っておいたのは何故なんだろうと、少し悲しくなった。 最近は寒いし、海にくる人もいないんだろうけど。だけどここまで汚れて気にならないことは無いだろ? と。 「ウォン君は、その辺の空き缶拾って集めておいて。」 「あ、ウン」 レインと一緒に空き缶を拾って、砂浜のひとところに積み上げる。 リプルスは海に漂ってるゴミを、弱めの「みずでっぽう」で砂浜まで押しやる。 缶はたくさん積み上げられていく。山積みにされたそれは、あっという間にオレの目線ぐらいの高さになった。 あれ? 視線の端に人間の姿が。こっちに来るみたいダ。 背の高い、茶色い長い髪の男だった。年はナツキと同じくらいかナ。 オレを見下ろして、そいつはつぶやく。 「へえ、ポケモンがゴミ拾いか」 レインとリプルスのほうを見やり、そしてまたこっちに目を向けてきた。うっすらと笑みを浮かべて、そいつは独り言のようにそう言った。 「変わってるな」 クスクスと笑いながら、そいつはオレの頭をなでた。 「ちょうどいいや。オレもゴミ拾いに来たんだ」 そう言うとそいつは大きいゴミ袋を取り出して、そこに空き缶を入れ始めた。 いい奴みたいで少し高感度アップ。なんか目つきが悪かったから、大丈夫かなーッテ。 人間ってやっぱり物をつかみやすい手を持ってるナ。さっさか仕事を進めてくそいつを見ながらそう思った。 オレの積み上げた缶の山は、程無くそいつのゴミ袋の中にみんな納まった。 「お前たち野生かな? やっぱり自分たちの住んでる場所が汚れるのは嫌だろ。」 口を動かしながら、手もよく動くのにオレは少し感心した。 今度はリプルスがみずでっぽうで飛ばした缶を袋で受け止めている。 オレは野生じゃないけど、キレイな自然が汚されるのは確かに良くは思わないナ。 「こういう風に海を汚すのって、やっぱり人間なんだよな。」 そいつの言った言葉が、なぜか心に突き刺さる。 オレは、人間が好きだから…こんなことをするのは人間だって、あまり思いたくはなかっタ。 作業はけっこう進み具合も早くて、ちょうどお日様が頭の真上に来たころに休憩を取った。 キャモメ空軍隊って言うやつらが言うには、漂流物はほとんど片付いた、っテ。 ホールやコーラス、コーラルちゃんはトクサネの海岸で作業を続けてるらしい。 さっきから手伝ってくれてる男はカナタって名前で、この町に住んでるって言った。 ポケモンフーズももらったし。高感度さらに上昇、だゼ。 ふと、カナタが口を開く。 「野生のポケモンがこんなこと出来るなんてすごいな。」 「野生のポケモンにだって、できることはあるんだよ」 リプルスが言い返した。表情がどことなく気に障ったようだった。 「悪い。怒らせたなら、ごめんな。」 そう、カナタは言った。 …って、あれ? こいつインカムつけてないよな。なのに、リプルスの言ったことがわかったのカ? リプルスも目を丸くしてた。 「オレ、大体だけどポケモンの言ってることわかるから。」 「そっカァ。そんなヤツもいるんだナ。」 このセリフには、笑顔を返された。 カナタの宝石のような緑の目は、やさしい光を宿していた。 「それと…さっきから思ってたけど、お前は野生っぽくないな。」 何でわかったんだろう。カンかナ? 「空き缶分別できる野生ポケモンなんて聞いたことないしな。」 またさっきのようにクスクス笑いながら、「違うか?」と言うように目線を向けてきた。 オレは首を横に振る。勘じゃなくて缶でカァ。 「教えてもらったのか? それとも自分で出来たのかな。そうならすごい利口だな。」 「そうかナ? ユウキがカンを確かめながら捨ててたけどナ。オレは字ぃわかんないから、軽くつぶして見分けてたゼ。」 ユウキには「「あるみ」と「すちーる」は分けて捨てるんだ。硬さがちがうだろ?」って言われたナ。でもオレにはそれが何だか分かんないし。 「まぁどっちにしても、お前らはいい奴らだよ。」 リプルス、レインの頭も順繰りになでながら、カナタはそう言った。 (なぜかリプルスは不服そうだった。この前もハルカしか背中に乗せなかったし、男は嫌いなのかも) 「さてー。作業再開と行こうかァ」 軽く伸びをして、空を見上げる。 直視した太陽のまぶしさに、思わず目を細めながら。 「みなさーん!」 空からコーラスの声が聞こえた。 コーラスはかなり猛スピードでここまで飛んできたようで、なんだかあわててた。 「どーしタ? 作業は終わったのか?」 「そ、それが…ホールさんがいきなり苦しみだして…」 「なんだって?」 レインが反応する。 「どうしたんだ?」 カナタが進み出る。オレが事情を伝えると、カナタは顔色を変えた。 「仲間が、苦しんでる?」 コーラスがうなずくと、カナタはモンスターボールをひとつ取り出して、海に放る。 モンスターボールからあふれた光と共に現れたのは、サメハダー。 凶暴なポケモンのはずだけど、カナタはひょいとサメハダーの背に飛び乗る。 「案内してくれないか?」 「ホールを、助けてくれるのか?」 レインの問いにカナタがうなずくのを見ると、コーラスは振り返り、トクサネの方角へと飛んでいく。 オレ達はコーラスの後を追い、ホールの元へと急いだ。 「『なみのり』だ、ソウガ。なるべく急いでくれ」 猛スピードで泳ぐサメハダーの背に、どこにつかまることもなく、バランスを保ちつつ立っていられるカナタには心底感心するゼ。 よほど、ポケモンの扱いが上手と言うか…付き合いが長いんだろうな、ってネ。 ミナモとトクサネ、ふたつの町はそう遠くはない。水ポケモンが全速力を出して海を泳げば、一時間もかからない。 まぁ、人間たちの場合は船やポケモンのなみのりでゆっくりと行くからそうは感じないのだろうが。 しばらく海上をすべるように泳いでいくと、だんだんとトクサネの島の影が現れる。 「見えてきました!」 目を凝らして、トクサネの海岸を見る。 そこには、浜辺に横たわるホールがいた。 「あ、みんな着てくれたのね! あれっ」 ホールの顔の近くで飛び跳ねる小さいピンク色の体はコーラルちゃん。 カナタをみて、とびきり驚いたような顔をした。 「こいつか?」 コーラスがうなずくと、カナタはホールの様子を調べる。 「なんで、人間の男の子が?」 心配そうなコーラルちゃんに、レインが答える。 「ホールを助けてくれるって言うから、連れてきたんだ」 「…あまり信用しないほうがいいけどね」 リプルスは相変わらず邪険だ。 「どこか悪いんでしょうか…」 オロオロしているコーラスに、カナタは静かに答える。 「なんか異物を飲み込んで、のどがつっかえてるんだな。」 「異物だっテ? 取れるのカ?」 「心配するな」カナタのサメハダーが応えた。「カナタはポケモンレンジャーをやってる。ポケモンを助けるのが仕事だ。このくらい朝飯前さ。」 「レンジュ、頼む」 カナタが繰り出したのは、ブーピッグ。 「『サイコキネシス』でホエルオーの口を開いてやれ。なるべくそっとな」 カナタのブーピッグはサイコキネシスをホールに施し、無理のない程度に口を開かせる。 そして次に繰り出したのは体の小さなラクライ。 「ホエルオーの口の中にゴミかなんかがあるはずだ。取ってこれるな?」 ラクライはうなずくと、ホールの口の中に飛び込み、フラッシュで中を照らし、ホールの飲み込んでしまったであろう異物を探しに行った。 しばらくラクライのオウカはホールの口の中を探索してた。 その間、あのブーピッグはよくサイコキネシスを持たせてられるナァ、と思った。 強そうだ。育て方が良いんだろうネ。 レイン、リプルスとコーラス、コーラルちゃんが心配そうに見守る中、ようやくラクライがホールの口の中から出てきた。 口にくわえられていたのは、底に大きい穴の開いた、大きいバケツだった。 「…なんでこんなものが?」 ラクライはまたホールの口の中に入っていく。それから片方だけの長くつと、ボコボコにへこんだ鍋、紙の入った空き瓶などをくわえて戻ってはまたゴミを取ってくる。 やがてカナタの足元に、ホールの口の中にあった大量のゴミが山を作った。 オレは驚き呆れた。こんなに飲み込んでたなら苦しくもなるよ。 「…コレで全部か?」 ラクライがうなずく。 「よし。もういいぞ、レンジュ」 ブーピッグがサイコキネシスを解く。 カナタはブーピッグとラクライをボールに戻した。「お疲れ様、ふたりとも」 と。 いきなりホールが背中の穴から潮を吹いた。 「あ〜…苦しかったぁ」 ホールは大きく息をつく。それによって近くにいたカナタの髪がかなり乱れた。 ホエルオーのタメイキの威力は半端じゃない。 「ホール君、大丈夫?」 コーラルちゃんが心配そうに言ったけど、ホールはあっけらかんと言った。 「うん〜。ゴミを口で集めてたら…間違って飲み込んじゃってねぇ〜」 「あぁ、それでか…」 コーラスは目を丸くし、ぽかんと大きく口を開けている。 レインとリプルスは頭を抱えた。 「ホール…前にも同じようなことがあっただろ。」 「口で物を集めるのはよしなよ。いつも間違って飲み込むんだから」 「あ〜、心配させちゃった〜? ごめ〜ん」 「いいよ。もう気にするな。」 申し訳なさそうなホールに、レインはそう言った。 レインはくるりと振り向くと、カナタのほうに向かっていく。リプルスも。 「ホールを助けてくれて、ありがとう」 「なに、このくらい訳無いさ」 カナタはそういい、片目をパチッと閉じて見せた。 「君や…この間のお嬢さんがたみたいに、やさしい人間も、いるもんだね」 リプルスが言った。素直じゃないナァ。 「…いろんな人間がいるさ。自然を汚したり壊したり、ポケモンを傷つけても平気な奴もいる。でも…自然を守ったりポケモンを助けたりする奴もいる。例えばオレとか、な」 その時のカナタは、とってもやさしい表情だったナ。 ユウキがオレ達を見るみたいな、親しげで楽しそうな、表情。 日が傾き、海を赤い夕日が照らす頃。 「終わった〜!」 ミナモシティのゴミがやっと片付いて、みんなで歓声を上げる。 ゴミのなくなった海岸は、見違えるほどにキレイに見えた。 「おまえ達のおかげで一日で片付けれた。助かったよ。ゴミ袋はオレが持ってくから。」 ひとりじゃ抱えキレイないほどのゴミ袋を、カナタのブーピッグがサイコキネシスでお手玉していタ。エスパーの力はすごいヨ。 「じゃあな。元気で暮らすんだぞ。」 カナタはそういうと、ブーピッグと一緒に街の方に走って行った。 やがてあいつの背中が見えなくなる。 「アイツ、いい奴だったな!」 レインの一言に、みんなうなずく。 「みんなおつかれさま。それじゃ、解散!」 その言葉を合図に、みんな散り散りに自分の住む場所へ戻っていく。 オレは来た時と同じように、コーラスに乗せてもらって、ミシロへと。 「いい人でしたね、カナタさん。」 「そうだナ!」 オレの好きな海を、ポケモンたちが住む自然を、守ろうとする人もいるんダ。 それはとってもすてきなことだとオレは思うゼ。 決して自分たちの都合で、汚したり壊したりしていいものじゃナイ。 だからみんなも、ポイ捨て厳禁、ゴミは持ち帰って捨てようナ! オレ達にとってかけがえのない、世界の宝物。 そんな自然を大切ニ! |
華苗 | #15☆2005.03/24(木)16:04 |
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【番外編其の十五、誰もが持っているもの】 このホウエン地方を旅して、学んだことは多い。 ポケモンについて、ホウエン地方について、いろいろなことを知ることができて。 たくさんのライバルと、仲間と、心の通じ合える仲間ができたわ。 旅の終わった後も、このホウエンの豊かな自然から、また新たな事を学ぶの。 爽やかな風の吹きぬける、いつものような晴れ空の昼下がり。 木漏れ日が地面をちらほら照らす、101番道路の森の中。 ポケモン達は、今日もみんな仲良く遊んでいる。 私は、大きい切り株に腰かけて、静かに本を読んでいた。 ごくおだやかな、そんなひととき。 ふと、本の上に、大きな影が落ちた。 それから、読んでいた本の上に影を作った、背後に立つ少年を見上げる。 「ユウキ、どうしたの?」 ユウキのルビー色の目は、きらきらと楽しげに光ってる。 走ってきたのか、軽く息を弾ませていた。 「ほら、あっち」 ユウキが、言葉とともに後ろを振り返る。 ミツルくんがこっちへ走ってきていた。 私の前で立ち止まり、やさしく微笑みかける。 それは、思わず微笑み返したくなるような、すてきな表情だった。 「ハルカさん、しばらくだね。」 「そうね。」 風になびくミツルくんの若草色の髪は、背景の森によく映えていた。 「で、ハルカは何してたんだ?」 「読書よ。そろそろ読み終わりそうなんだけどね。」 「そっか。ところでさ、景色のいいとこ見つけたんだけど、いまから行かないか?」 景色のいいところとひとくちに言っても、そんなのホウエン中に数多くある。 「それって、遠く?」 いぶかしみつつ、聞いてみるけど。 「案外近くかもな。」 そう、短く返事を返されただけ。 それから、ユウキはウィングを、ミツルくんはスカイを繰り出した。 「ハルカも来いよ!」 そのまま、鳥ポケモンで飛んでいってしまう。 私はあわててみんなをボールに戻し、コーラスに乗ってふたりの後を追った。 「ちょっ…まってよぉー!」 前を行くふたりにようやく追いついた頃には、ミシロタウンの北の広い森を越えていた。 「へぇ、ミシロタウンって意外と海に近いんだな」 眼下に広がる海を見て、ユウキが驚いたように言う。 「そうよ。ミシロは森に囲まれてるから気づきにくいけどね。」 「じゃあ降りるか。」 えっ、とユウキとミツルくんを見ると、ふたりはまっすぐ下、海に面した低い崖になっている場所に降りていく所だった。 私もコーラスに指示をして、ふたりのもとへと、降りてゆく。 「着いたー!」 ユウキが伸びをし、ミツルくんはスカイをなでてやりながら、海のほうを見ている。 風になびいて、目にかかる髪を払いながら、私もその景色を目に留めた。 思わず、息を呑む。 海は、深く静かな輝きをたたえている。 さざなみは光を照り返し、きらきらと七色に輝く。 空はどこまでも澄んだ青い色。流れる雲、風を切って飛んでいくキャモメ達。 空と海の境は、くっきり分かれているようで、でも溶け合っているようで。 一言で表すなら、これしかない…絶景、だった。 「すごいだろ。こないだ、ウィングと空中散歩してたら偶然ミツルに会ってさ。この辺で飛行レースやってたとき見つけたんだ。」 「ハルカさんにも、絶対見せてあげたくて。どうですか?」 私のほうを振り返るユウキとミツルくん。 「うん、とってもキレイ…」 感動のあまり、言葉がでてこない。 ユウキは、そんな私の肩に、ぽんと手を乗せて。 「今度はさ、ナツキを連れてこような。」 太陽のような笑顔で、私に微笑みかけた。 私は何もいえず、ただユウキに向かってかくかくと頭を上下に振っただけ。 「ポケモンたちも出してあげようよ。」 「そうね。」 ユウキとミツルくんと私の手持ちポケモンみんなを、ボールから繰り出す。 ポケモン達は、思い思いの行動を取る。 私もまた、読みかけの本を手にとった。 太陽が、西の空に傾きかけた頃。 「ふぅー!」 長時間同じ姿勢でいたため、固まった体をほぐそうと伸びをする。 大きなため息と共に出た声に、ユウキは目を丸くする。 「どうしたんだ?」 「本、読み終わったの。」 手のひらサイズの、小さいけど重みのある本を、私は静かに閉じた。 西の空には赤く染まった太陽が、じっとたたずんでいた。 「なんだ…で、どんな本だったんだ?」 本の内容に興味を示したみたいに、ユウキは訊いた。 私は言いかけて、口をつぐむ。 ちょっと、みんなに聞いてみたくなったコトがあったから。 「命って、誰もが持っているものだよね。」 「…? あぁ」ユウキは不思議そうな顔をした。 「でも、当たり前みたいに思っている人が多いよね。」 「そういえば、そうだよね…」と、ミツルくん。 周りのポケモンたちも、不思議そうに私を見つめていた。 「ねぇ、『誰もが持っているもの』ってなんだと思う?」 「誰もが持っている…?」 うーん、と首をひねったり、腕を組んだりして、みんな考えこむ。 「何でこんな事聞くんだ?」 そう、ユウキに問われる。 私はさっきまで読んでいた本を取り出した。 「この本に、それについて書いてあったの。」 「へぇ…なんか難しそうだな。」 「最初はそう思うけど、読んでみると結構面白いのよ。」 「ふーん…ハルカはなんか思いつくのか?」 「そうね…」 実の所は、私もよく考えてなかったんだけど。 でも、すっと頭の中に浮かんできたものがあった。 「友達、とかどうだろ」 「友達かぁ、いいかもなー。」 「現に、ここにいるみんな、友達同士だもんね。」 「そうね。」 このままみんなで、ずっと一緒で仲良く暮らせたらいいな。 そう、願わずにはいられない。 「心、とかもそうじゃないかな?」 サーナイトのミライがそう口にする。 口の端を、微笑みの形に持ち上げながら。 「嬉しさや悲しさ、怒りみたいに、感情って、みんな持っているものだよね。」 「そうだね。ボクはミライをゲットしたときが一番嬉しかったし、みんなと旅が出来てとっても楽しかったもん。」 ミツル君は顔に満面の笑みを浮かべた。 「あと…恋心なんかも?」 小声で、リュクを見やり言うミライ。 リュクはギクリと肩をふるわせた。 「リュクも恋とかするのかな? おや、顔が真っ赤だよ」 わざと驚いたような顔をするミライを、リュクは恨めしそうににらみつける。 「…しらじらしい…」 ユウキとミツルくんはそのやりとりを不思議そうに眺めていた。 リュクとリアの視線が合って、リュクが顔を真っ赤にして、あわててそっぽを向いたのを、私は見逃さなかったけれど。 「好きなもの、っていうのもアリかな。」 アールがそう言い出した。 「多分、誰でもあるものだと思うし。」 「そうだな! オレは走るの大好きー!」 カシスが飛び上がってはしゃぐ。 「ボクらは応援が好きだよね、ココア。」 「そうだねー、ミルク!」 ココアとミルクは仲良さそうに手を取り合う。 「オイラはやっぱりひなたぼっこが好きだな!」 地面に寝そべり、ランスが。 「私は甘いものとか好きだなっ。」コローネはそう言うと、ゲイルにも話を振った。 「ゲイルには、好きなものってある?」 「オレは…風、かな…」 「風かぁ。そーいえば今日はいい風ね!」 「あぁ」と、ゲイルは答える。 吹いてくる風に、私の長めの髪がなびく。 そよ風が、草をざわめかせ、野の花を揺らし、吹き抜けていく。 海に吹く風は、水面をなでて、さざなみを立てて、通り過ぎてゆく。 「好きなものがあれば嫌いなものもあるだロ?」ウォンが指(?)を立てて言う。「確か、ヒスイはオバケ嫌いだったっケ。」 話を振られて、ヒスイは「はい」と小さくうなずく。 「どうも、ヒトダマとかそういうのはダメなんです…」 「あ、ユナも…火はこわくないけどオバケは嫌かもです」 「オレは火はこわいな。そういえば、アールにこわいものなんてあるのか?」 リュクがアールのほうを見た。 「そんなのないわよ!」 アールは胸を張って見せるけど。 「本当ですか? 前にウォンさんから『アールは地震が怖いんだゼ!』って聞きましたが」 ヒスイの言葉で、アールは凍りついた。 振り返りざま、ユウキのかげに隠れようとしたウォンをにらみつける。 地震が嫌いだってコト、そんなに知られたくなかったのかしら。 「…ウォン…!」 「なんだヨォ、ホントのコトじゃんカ…」ウォンは反論するけど、アールが発する殺気を感じて、たちまちさーっと青ざめた。「す、すいませン! ごめんナ! 悪かっタ!」 謝るけど、時すでに遅し、のようね。 「うわ、スカイアッパーはやめろヨォ!」 「問答無用よぉーっ!」 ウォンとアールの追いかけっこを遠巻きにながめながら、ルクスが苦笑い。 「ボクも地震は苦手なんだけどな」 「でも、怖いものがあるっていうのは恥ずかしいコトじゃないと思うよ。」 その場にいるほとんどみんなが、ウィングの方を見る。私もつられて。 ウィングはいきなりみんなに注目され、少し照れながら話し始めた。 「誰にだって、嫌いなものや怖いものは絶対あるだろうし。それに、それを克服できたら、その分強くなれると思うから。だから、苦手なコトとかって必要なんじゃないかな、ってボクは思うよ。」 「そうだナァ、ウン。じゃあアールも地震を克服できるように、オレと特訓…」 「調子に乗らないのッ!」 ウォンはうなずき、アールの肩を叩くが、間髪を容れず、アールの肘鉄が入った。 ウォンはお腹を抱えてうずくまる。ものすごい痛そうね… 「さすが、先輩はいいコト言います!」 一方ユナは、ウィングに尊敬のまなざしを向けている。 ウィングは顔を真っ赤にして、照れていた。 他人に尊敬されるのは何か照れくさいよね、まして知り合いだったら特に。 不意に、それまで座り込んで何かを考えてたユウキが、突然立ち上がった。 「どうしたの?」 「うん、オレも見つけたんだ。『誰もが持っているもの』」 ユウキは海の近くに駆け寄る。 両手をいっぱいに広げるようにして、空気を吸い込んで、大声で叫ぶように。 「この、世界だよ!」 「世界…?」 「そう。この世界が、誰もが持っているものだって、オレは思う。」 世界を、誰もが持っているなんて、想像もつかないコトをユウキはさらりと言ってのけた。 「生きているものならみんな、自分の世界を持ってるんだ。なんて言っていいか、わかんないけど…例えば、同じ景色でも、人によって見え方は違うだろ。」 「同じものでも、人に与えるイメージはそれぞれ違うってコトですね。」と、コーラス。 上手な説明に、みんなが おぉ、なるほど、と声をあげた。 それに、とユウキは一度言葉をとぎらせる。 「オレ達がここにいるから、ポケモン達がいたから、今のこの世界があるんだ。世界中で生きている皆の世界がひとつになって、この世界があるんだろうなって、オレは思う。」 真剣な声で、そう、ユウキは語る。 ふっ、と息をつく音が聞こえたかと思うと、ユウキはこっちに振り向いた。 「まぁ…かっこつけすぎかなって思うんだけどな。」 ユウキは、照れたように笑む。 朱に染まる空と、夕日を浴びた海を背にした彼は、なぜか、とても、まぶしく見えて… 思わず、見とれてしまうほどだった。 「そんなこと…ないよ。そんな風に考えれるユウキって、すごいと思う。」 ユウキは、私を見て、目を丸くして、それから… 「そっか。」 私に、笑顔を向けた。 「あ、そろそろ暗くなるし…帰ろうよ。」と、ミツルくん。 「そうだな。」 ポケモンたちをボールに戻すと、ミツル君はスカイの背にまたがって、ふわりと中に浮いた。 「じゃあね!」 手を大きく振って、ミツルくんはシダケタウンの方角へと飛んでいった。 「じゃあ、オレ達も帰るか。」 私とユウキも、ポケモンたちをボールに戻す。 私はコーラスに乗り、ユウキはウィングにつかまった。 ミシロへの帰路の途中、先ほどまでいた場所の景色を眺めた。 世界の全てが、太陽によって、いとも美しい色に染められている。 燃え上がらんばかりの赤に照らされた森、金色のさざなみを立てる海…そして、夕日の力強い輝きに染められた、空。 それぞれの調和のとれた、お互いを引き立てあう、美しく素晴らしい景色。 私は、感嘆のため息をつきながら、その眺めに見入っていた。 今、この目に見える景色の美しさは、私だけにしか見えない、私にしか感じられないものなんだ。 他のどんな人が見ても、私と完璧に同じな感じ方をする人はいないんだ。 私だけの世界は、私の生きる間だけの存在。 生きているもの全ては、その世界を大切に慈しんで、生きるんだ。 今も、昔も、そしてこれからも… 気づけば、見慣れたミシロの町の地面に足を下ろしていた。 毎日目にしてきた景色なのに、今は、どこかとても新鮮に感じた。 ユウキと私は、お互いの家の近くで別れる。 そこで交わされた、言葉が重なった。 『またあした』 ユウキとハルカの冒険 番外編集 ―完― |
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