ぴくの〜ほかんこ

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[349] ユウキとハルカの冒険 〜頂点への道

華苗 #1☆2004.05/08(土)18:56
第五章の始まり…
【第100話 →128番水道 南の海の道案内】
大きい海。水面は静かにゆれている。
ホウエンの海はおだやかである。
「はぁ〜…平和だよなぁ。」
その海を泳ぐ4匹のポケモン。その背に乗るのは少年少女の3人組。
そう、ユウキ、ハルカ、ミツルの3人だった。
「平和ねー…」
「平和だねー。」
ポケモンの背に寝そべり、似たような独り言をつぶやく。
仰向けになれば、空にはキャモメの群れ。
「クロ〜。」
「ペリッ。」
ユウキの乗るヌマクロー・ウォンとハルカを乗せるペリッパー・コーラスも、同意するように声をあげる。
ぽかぽか暖かい日差しを浴びながら、一行は海を渡る。
と、そのとき。
いきなり日差しがさえぎられ、日なただったはずが、あたりは一瞬で日かげに。
「ラグ!」
「ラン。」
ミツルの乗っていたラグラージ・レインとランターンのリプルスが、日かげを作った何かに声をあげた。
3人もあわてて起き上がり、インカムのスイッチを入れた。
『おや〜? キミ達、レインにリプルスかい?』
落ち着いたしゃべり方をしたのは、日差しをさえぎった張本人。
図体の大きな、くじらのようなポケモンだ。
『よぉホール!』レインが気さくに言った。
『ちょっと頼まれてほしいんだけど、いいかな?』
リプルスは、その相手―ホールに言う。
『なんだ〜い?』
の〜んびりと、ホールは聞き返した。
『それは…おっと! 紹介がまだだったね。』用件を言いかけて、リプルスは3人の方を向く。『こいつはホエルオーのホール。南の海についての知識で、こいつに勝てる者はいない。』
「へぇ〜。すごいな!」
『よしてくれよ〜。照れるじゃないか〜。それに、ボクだってラルス長老には勝てないよ〜。』
ラルス長老とは、ルネの海に住むジーランス。
ホウエンの海についての知識はほとんど持ち合わせているらしい。
『そいつはどうかな?』レインはにやりと笑う。『じーちゃんは最近物忘れが激しいって言うしな。』
『ふ〜ん。…ところで、そっちの人間は? 見ない顔のポケモンもいるけど。新入りかい?』
ホールはその巨体に比べてとても小さなビーズのような目を、ユウキ達に向ける。
『新入り?? 何のこっちゃ。』ウォンは首をひねった。
『僕はコーラス。こちらはハルカさん、ユウキさん、ミツルさん。』
『ホール、この人たちをサイユウまで連れて行ってくれないか。』
リプルスがホールに言った。きっと用件はこの事なのだろう。
『いいよ〜。お安い御用さ〜。さぁ、乗って。』
ホールは快く引き受けてくれた。
そして、3人が乗れるように海に深く沈んで、背だけを水面から出す。
3人はホールの広い背中に乗った。ついでにウォンとコーラスも。
『ありがたいぜ。オレ達もこっから先はあまり詳しくないからな。』
レインは苦笑いする。
『それじゃ、ボクらはこれで。』
そう言ってレインとリプルスは、ホールに背を向けた。そして肩越しにこう言う。
『じゃあなユウキ、ウォンをよろしく! ミツルも元気で!』
『また会いましょう、ハルカさん!』
そして、2匹は来た道を戻っていく。
「レインー! リプルスー!」
「また会いましょうね!」
「お元気で!」
『兄貴も元気でナ――ッ!!』
3人とウォンは大声で、レインとリプルスに別れを告げた。
2匹の後姿が見えなくなるまで、大きく手を振って。
「あいつらには世話になったからな。」
「そうよね…。」
『お別れはすんだかい? …それじゃぁ、出発だよ〜っ。』
ホールはゆっくりと方向転換し、東の方角へ、ゆっくり進み始めた。
ふとホールは目を上に向け、話し出す。
『そういえばキミ、ウォンって言ったっけ〜?』
『オレか? そうだゼ。』
ホールはウォンの返事を聞くと、こう続けた。
『なんだかレインの前の姿に似てるな〜と思ってさ〜。』
そんなホールに、ウォンはこう言った。
『そりゃあ当然だヨ。レインはオレの兄貴だからナ。』
ウォンが言い終えたとたん、いきなりホールの頭に開いた穴から水が吹き出て、一行は驚いた。
『なんですか、今の!?』コーラスは後ずさりした。
「ハルカ、その穴なんなんだ?」
「この穴ね…ホエルオーの鼻の穴よ。たまに海水を勢いよく吹き上げる事があるの。」
「へぇ〜…」ユウキは図鑑を開いてみる。(ピッ☆)
“ホエルオー うきくじらポケモン ホエルコの進化系。見つかった中では最大のポケモン。大海原をゆったりと泳ぎ、大きな口で一気に大量のエサを食べる。”
なるほど、ホールの体は体長軽く10メートルを超えている。
『ゴメンよ〜。びっくりしたもんだからさ〜。レインの弟クンか〜。それとコーラスくんだっけ? キミもよろしくね〜。』
『えっ、僕ですか?』コーラスは目をパチクリ。
『ボクはホウエン水ポケ連盟、南受付係のホールさ。あ、ちなみに北受付係がリプルスなんだ。』
ホールは言いたい事は一気に言ってしまうタイプらしい。そのまま話は続いた。
『この海に住んでいる奴らはほとんどが加盟してるんだ。もちろん他のところのポケモンも入れるよ。よそ者は歓迎しない奴もいるから、入っとけば狙われなくてすむよ〜。どうだい?』
『どうしましょう、ウォンさん?』コーラスはウォンのほうを向いた。
『いーんじゃねーノ? 面白そうだしナ。』
『じゃあ決まりだね〜。2名様加入だよ〜。』
そう言いホールはもう一度、鼻から海水を吹き上げた。
『それじゃあ〜、サイユウシティへ〜。出発だよぉ〜!』
広い広いホウエンの海を、少年少女とポケモンを乗せて、ホエルオーのホールはのんびりと進んでいく。
太陽は今日も、3人の旅を見守るように、さんさんと照り続けていた。
 つづく
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華苗 #2★2004.06/18(金)18:39
【第101話 ユウキVSハルカ!海上での対決】
128番道路を東に進めば、両脇を岩に挟まれた道になる。
さながら海の道というような光景だ。
その道を、ホエルオーのホールはゆっくりのんびり進んでいた。
そしてユウキは…
「ウォン、『マッドショット』!」
『アイアイサー!』
ウォンは口から泥のかたまりを吐き出す。
その狙いは、低空飛行をするウィングだ。
『よっ、ほっ、と…うわっ!?』
ウィングはかろうじてウォンの攻撃を避ける。
「ウィング、『かけぶんしん』!」
『オッケー!』
ウィングは素早い動きで、何匹もの自分の分身を作り出す。
「よーし…ゲイル、『かまいたち』だ!」
『御意…!』
ゲイルのまわりを風がうす巻き、空気の刃となんて、ウィングの分身に切りかかる!
1匹、また1匹と次々に分身を消していき…残るはウィング本体だけ。
「よぉし、ひと休みだ!」
ユウキの掛け声に合わせて、ポケモン達は体を休めた。
「ユウキ、技の練習もいいけど…」海を眺めていたハルカが、こちらに振り向く。「ホールに当てないようにね。」
「わかってるよ! でもさ、やっぱりリーグに向けて特訓の1つもしなくちゃと思って…」
「その考えはいいと思うけど…」ミツルも声をあげた。
ハルカはホールの背中をぐるりと見回し、そしてこう言った。
「ねぇユウキ、私とバトルしましょうよ!」
「そりゃできるならいいけど…」
「大丈夫よ。ホールの上って結構広いし。」
『ボクは別にいいよ〜。だけど、フィールドを使う技をしたりボクに攻撃を当てないでくれたら、だよ〜。』
「だって。どうする、ユウキ?」
「それなら…やってやろうじゃん!」
「じゃあ、使用ポケモンは3体ずつ。先に2対を戦闘不能にしたほうの勝ち。それじゃあ、始めましょう!」
「オッケー! じゃあ今回は…ウィング、ユナ、カシス!」
オオスバメ、色違いロコン、マッスグマが場にでる。
「こっちは…ヒスイ、コーラス、アールよ!」
対してハルカは、キルリアとペリッパー、ワカシャモ。
こうして、2人のバトルが始まった!
「まずはユナ、行け!」
『うん…がんばる!』
「ヒスイ、GO!」
『わかりました。』
「どっちもがんばれー!」ミツルは声援を始めた。
「ユナ、『おにび』!」
ユナはしっぽの先に、青白く不気味に燃える火の玉を作り出す。
合計6つのおにびがヒスイを取り囲む!
『…来ないでください!』
ヒスイは負けじとサイコキネシスでおにびを追い払う。
が、手を「やけど」してしまったようだ。
「ヒスイ、がんばって!『かげぶんしん』!」
ヒスイは無言のまま、分身を作り出してユナのまわりを取り囲む。
「ユナ、『ほのおのうず』!」
『よーし…えいっ!』
ほのおのうずは、ヒスイの分身をかき消す。
そして本体にも攻撃がヒット!
『きゃあ!』
「大丈夫、ヒスイ!?」
ヒスイはやけどのダメージも重なり、苦しそうだ…
「『サイコキネシス』!」
『わかりました…!』
ヒスイは強い念力をユナにぶつける。
ユナは大きいダメージを受けた。
「がんばれ、ユナ!」
『うん…負けないよ!『おにび』!』
再び、青い火の玉がヒスイにせまる!
『…!! こ…来ないで…』
ヒスイは体中ががくがく震えている。そして、そのまま倒れてしまった。
「ヒスイ!?」ハルカはヒスイに駆け寄って、抱き起こす。「どうしたの?」
『私…オバケとか、ダメなんです…恥ずかしいですけれど、こればかりは苦手で…』
「なるほど、だから『おにび』で恐がってたんだな。」
ユウキは腕を組み、うんうんとうなずいた。
『ヒスイさん、大丈夫ですか〜?』
ユナのセリフと同時に、残っていたおにびがヒスイの目の前で小さく揺れる。
『…き…ゃあぁぁ!!』
これにはヒスイもたまらず、かん高い叫び声をあげて、ばったりと気絶した。
「ヒスイ! …これじゃあ続行は無理みたいね。」
ハルカはヒスイをボールに戻した。
その様子を見ながら、ユナはこう言った。
『ユナにはヒスイさんの悲鳴の方が恐かったなぁ…』
「まぁ、よくやった。ユナ、戻るか?」
『うん。』
ユナもボールに戻った。
「まずは1勝だな…次はウィング、行け!」
「こっちはコーラスよ!」
鳥ポケモン同士のバトルだ。
『ボクもがんばらなくちゃ!』意気込むウィング。
『お手柔らかに。』コーラスは落ち着いた物腰だ。
こうして第2回戦が始まった!
「ウィング、『つばめがえし』!」
「コーラス、『ちょうおんぱ』よ!」
ウィングはコーラスに攻撃を決める。
が、コーラスは反撃にちょうおんぱを浴びせ、ウィングを「こんらん」させた!
『肉を切らせて骨を絶つ…です!『つばさでうつ』!』
「ウィング、かわせ!」
だがウィングはユウキの指示が聞こえない!
そこへ、コーラスの攻撃がヒット!
「ナイスよ、コーラス!」
「くそ〜…ウィング、しっかりしろ!」
『あれっ!?』
ふらふら飛んでいたウィングは我に返ったように声をあげた。
「よーし…ウィング!『がむしゃら』!」
ウィングは力任せのがむしゃらな攻撃をする。
『えぇぇ〜い!!』
『うわ…っ!?』コーラスはバランスを崩した!
そして墜落しそうになるが、かろうじて持ちこたえる。
「コーラス!『なみのり』よ!」
コーラスは大波を起こし、ウィングにたたきつけた!
「ウィング!」
ウィングはこの攻撃を受けて、ホールの上に落ちてきた。
『くぅ〜…もうダメ…。』ウィング、戦闘不能。
「私も1勝ね! 次で決まるわよ!」
「く…ウィング、戻れ!」
ユウキはウィングをボールに戻した。
「アール、GO!」
『やっと出番ね!』
「カシス、行け!」
『待ちくたびれたよ!』
アールとカシスがにらみ合う。
「最終戦 スタート!」
ミツルのセリフを合図に、バトルが始まった!
「アール、『きりさく』のよ!」
アールは長く鋭いツメを振りかぶる!
「カシス、かわして『ずつき』!」
切りつけようと振り下ろされたアールツメをかいくぐり、カシスはずつきを決めた!
『うっ…!』
「大丈夫、アール?」
『だいじょうぶよ!『かえんほうしゃ』!』
アールの炎攻撃!
『うわっ!』
かえんほうしゃの衝撃で、カシスはホールの尾に落ちてしまう!
「カシス!」
『ふふん、どんなもんよ!』アールは得意げだ。
アールはホールの尾の方に歩いて行き、カシスの様子を見ようとした…その時!
『え〜い!!』
ものすごいスピードの、白い影がアールに直撃!
それはしんそくを使ったカシスの姿だった。
『きゃあ!』アールは吹き飛ばされる。
「アール!」
そこへ、カシスは突っ込んでいく!
『『ずつき』ぃ〜!』
ドカッ!! カシスの攻撃はクリーンヒット!
アールは倒れる。
『く…っ。』小さく声を漏らすアール。
「戦闘不能みたいだな…」
「お疲れ様。戻って休んでね。」
ハルカはアールをボールに戻した。
『やったねー! 勝ったよ!』カシスは飛び上がって喜んでいる。
「そうだな。」
喜びながら、ホールの背中を駆け回るカシス。
だが、ふとしたはずみで足をすべらせ、海に落ちる!
『うわっ!?』
『あぶない!』
すんでのところでコーラスがカシスを受け止めた。
『全く…はしゃぎすぎは禁物ですよ!』コーラスが顔をしかめた。
「ははっ…。カシス、戻れ。」
ユウキは苦笑いしながら、カシスをボールに戻した。
「カシスって元気だね。」ミツルがユウキに言った。
「あぁ。なんか突っ走るのが好きみたいだな。」
その時、ホールがまた水を噴き上げた。
『明日にはサイユウに着くよ〜。』
『おぉ! ようやくだな! よっしゃぁ!』
ウォンは意気込み、片腕を振り上げる。
ホールはそんな一行を乗せて、白い水尾を引きながら泳いでいく。
そして真っ直ぐに、サイユウシティに向かっていく…。
 つづく
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華苗 #3☆2004.05/13(木)20:43
【第102話 →サイユウシティ 目的地に到着!】
翌朝のユウキ達一行は、サイユウシティの海の道へと入った。
ここに生息するサニーゴたちは、さんご礁の中に住みかを作って暮らしている。
海面から除くピンク色の角が、陽光にきらめき、美しい。
水中ではラブカスが、群れをなして泳いでいる。
『コーラルちゃ〜ん。』
ホールはのんびりとした口調で、誰かの名を呼んだ。
すると海の中から、1匹のサニーゴが飛び出した。
大きくジャンプしてユウキ達を見下ろすと、海面に落ちてホールを見上げた。
『あら、ホール君。そっちの人間さんとポケモンさんは?』
『コーラルちゃん、紹介するよ。こっちはウォン君。レインの弟クンだよ。』
『レインさんの!』サニーゴ―コーラルは驚いた顔をした。『弟がいるなんて知らなかった。よろしく!』
『オッス!』ウォンも片手を上げて挨拶する。
『それとペリッパーのコーラス君…おや、1文字違いだね〜。』
『くすっ。本当ね!私と似た名前! よろしくね。』
『はっ、はい。』コーラスも頭を下げた。
『あなた達も、リーグに挑戦するの?』
「そのつもりで来たんだ。」
コーラルの質問に答えるユウキ。
『そう。それなら…ホール君、行くわよ!』
『お〜っけ〜。』
コーラルは道にそって泳いでいく。一行を乗せたホールもそれに続く。
少し進めば、そこには音を立てて流れ落ちる滝があった。
水しぶきが冷たい。そして、高さも半端じゃなかった。
『この上が、サイユウシティなの!』コーラルが説明した。
「すごい滝だね…。」ミツルは目を丸くした。
「こんな滝、どうやって登るの?」
ハルカが言うと、コーラルは、飛んでいるコーラスの上に飛び乗った。
『しっかりつかまっててね〜。』ホ−ルに言われ、3人とウォンはホールの背につかまる。『いくよ〜。『たきのぼり』〜!』
ホールは勢いに任せ、滝を登り始めた!
コーラルを乗せたコーラスは、それにあわせてゆっくりと上昇する。
「ひゃあ〜! ほとんど垂直じゃん!」ユウキが叫ぶ。
「落ちませんよね〜!?」ミツルはぎゅっと目をつぶった。
『大丈夫よ、安心して。ホール君、ガンバ!』
『すごいですね…僕は飛べてよかったです…。』
応援するコーラルに、肝を冷やした様子のコーラス。
「あとどのくらいなの〜!?」ハルカもねを上げたようである。
『もうすぐ〜…よ〜し!』
ホールはやっと滝を登り終える。
『ふゥ〜…! やっと着いたゼ!』
息をついて、ユウキ達は辺りを見回す。
地面には野の花が咲き乱れている。
と、コーラルはぴょんと陸に降り、こう言った。
『ようこそ、サイユウシティへ!』

PCで休んだあと、一行はコーラルの道案内で、チャンピオンロードへ向かった。
ちなみにホールは水辺で休んでいる。
試練の場であるというそこへ行く間にも、道の両脇ではたくさんの花たちがユウキ達を迎えてくれていた。
「なんだか試練を受けに行くって感じがしないわね。」
ハルカがまわりを見回しながら歩く。
「そりゃ、こんなに綺麗な風景じゃね。」ミツルも肩をすくめた。
『それがサイユウシティの売りなのよ!』コーラルが得意そうに言った。
「そうだな。おっ、見えてきたぞ!」
そこは大きい岩山だった。多少人の手を加えてあるようだが、見た目は天然の洞窟そのもの。
入り口が見えたころ、コーラルは言った。
『案内もここまでで充分ね。それじゃあ、健闘を祈るわ!』
「あぁ。ありがとうな、コーラル!」
そしてコーラルは、ガケから海へと飛び込んだ。
『じゃあね!』
コーラルは仲間のサニーゴたちの元へ、帰っていった。
そして一行は、洞窟の入り口まで来た。
そこには、フーディンを連れた男が立っている。おそらくリーグ関係者だろう。
「君達、チャンピオンロードに挑戦するのか?」
男は言った。ユウキが答える。
「挑戦するのはオレだけです。」
「そうか。君はバッジを見せてくれ。」
ユウキはバッグに止めつけてある8つのバッジを見せた。
「わかった。君はこの試練を受ける事ができる。挑戦者以外は挑戦を必要は無いので、後の2人は『テレポート』でむこうのゲートまでお送りする。」
「そういうことね。ユウキ、1人でも負けないでね!」
「ユウキ君、絶対、向こうのゲートで会おう。」
「あぁ!」
言葉を交わしたあと、2人はチャンピオンロードの出口にテレポートで送られた。
「…さて、覚悟はいいな。」
「はい!」
「それでは…行くのだ、挑戦者よ!」
激励を受けて、ユウキは1人、チャンピオンロードに足を踏み入れた。
そこで待つ試練とは、いかに…?
 つづく
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華苗 #4★2004.05/30(日)10:49
【第103話 チャンピオンロードの道のり〔前編〕】
暗く冷たい洞窟の中。試練の場といわれる、チャンピオンロード。
闇に包まれた中を、ユウキは1人、歩いていた。
「それにしても暗いな〜…明かりがほしいな。ユナ、頼む!」
『まかせて!』
ユナは6本のしっぽの先に青白い火を灯し、まわりを照らした。
「サンキュー、ユナ。」
それにしても、やけに静かである。嵐の前の静けさのように。
…と、その時だった!
 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…!
洞窟を揺るがすような激しい音が聞こえ、地面が震える。
「なっ、何だ!? 地震か!?」驚くユウキ。
『一体何…?』ユナも身構える。
音がやむと、壁のほうから大きな岩玉が転がってきた!
それをすんでの所でかわす。
「何なんだよ…もしかして、これが試練!?」
『その通りだ』
いきなり聞こえた太い声が洞窟の中に反響する。
そして、さっきかわした岩玉がユウキの前に現れる。
それは…がんせきポケモン、ゴローンだった!
「さっきの声はお前か!?」
『そうだ。人間よ、試練はもう始まっている。最初はここ…奇襲の間だ!』
言い終えたゴローンは、闇の中に姿を消した。
「奇襲の間…!?」
すると、またさっきのような轟音が聞こえる。
その後、再びゴローンが転がってきた!
しかも1体や2体ではなく、数十という数で!
「うわっ!?」
『きゃあ!』
一体かわしても、またすぐ次の奴をかわさなくてはいけない。
一方向に気を取られていては、背後から狙われる。
そのうちにゴローンたちは、8方向からこちらを囲んで…転がってきた!
「く! 走って逃げるのがダメなら…ウィング!」
「オッケ−!」
ユウキとユナはウィングの足につかまって、天井近くへ急上昇。
そして標的のなくなったゴローンたちは衝突し合い、そして…!
ドッカーン!! 大爆発を引き起こした!
「ひゃあ! 巻き込まれなくて良かったな…。」
ユウキは冷や汗をかく。
『ホントだよね〜。』ユナも相槌を打つ。
『助かってよかったね。行くよっ!』
ウィングは部屋の奥まで滑空する。
「出口出口…っと。あれ? なんだありゃ!」
ユウキが見たものとは、小山ほどの大きさのありそうな、相撲の力士のような風貌のポケモンだ!
そのポケモンは平たく大きい手の平で、ユウキ達を「はたきおとす」!
「うわぁ〜っ!」
ユウキとユナとウィングは、地面に叩き落されてしまう。
『その程度か、挑戦者よ。』
そのポケモンがしゃべる。
「なんだと…!」と、図鑑が説明を始める。(ピッ☆)
“ハリテヤマ つっぱりポケモン マクノシタの進化形。いろんな場所で張り手のけいこにはげむ。強烈な張り手攻撃をくらうと電信柱も一撃でまっぷたつだ。”
『わしはこの部屋の番人じゃ。何人たりともここは通さぬっ!』
ハリテヤマは、辺りを照らしていたおにびをかき消す。
そのため、辺りは闇に包まれた。
『闇の中、どこまで戦えるかな…? ゆくぞっ!』
「くそっ…ユナ、『かえんほうしゃ』!」
ユナは炎を吹いて攻撃する。が、ハリテヤマには当たらない。
『そこかぁっ!』
ハリテヤマは大きな手でユウキ達をなぎ払う。
『きゃあっ!』
『うわぁ!?』
ユウキは立ち上がりながら、ハリテヤマをにらみつける。
「何であいつはオレ達の場所がわかるんだ?」
『きっとユナちゃんの炎だよ!』ウィングが答えを返す。
こうして話している間にも、ハリテヤマの攻撃が闇の中から飛んでくる!
ユウキはダメージを受けながらも、指示を出す。「ユナ、『ほのおのうず』!」
『え〜い!』
ユナは自分の炎でハリテヤマの姿をとらえ、相手を炎で包み込む!
『ぬぅっ!』ハリテヤマは顔をしかめる。
「周りが明るく、離れた場所が暗いと、遠くの物はよく見えないんだ!」
『ユウキ、やるぅ! ボクも行くぞ、『がむしゃら』〜!』
ウィングはがむしゃらでハリテヤマに攻撃!
『く…っ!』ハリテヤマは地面に手をついた。
『『つばめがえし』!』
ウィングはハリテヤマの足を狙い、見事に攻撃を決めた!
『ぐぅ…ッ!』
ハリテヤマはバランスを崩し、どうと倒れた。
「やったぜ!」ユウキは歓声を上げた。
『ウィング先輩、すごーい!』
『えへへ…』ユナにほめられ、ウィングは顔を赤くした。
『おぬしら、なかなかの腕だな…』ハリテヤマは倒れた姿のまま、ユウキに言う。『だが、わしを倒した所であとの奴らに勝てるとは限らぬぞ…。』
「忠告ありがとう。よし、行くぜ!」
ユウキはそう一言残し、ユナとウィングと一緒に奥に進んだ。

そのあとの迷路を抜けた先にはまた、広い部屋のような場所があった。
「また強い奴が出てくるのかな…」
ユウキがつぶやくと、ユナが答えを返した。
『多分ね。油断は禁物だよ。』
と、その時だった。突然ユウキが立ち止まる。
『どうしたの、ユ…』
「しっ!」ユウキはユナの口を押さえる。「何かの気配がする…」
すると、闇の向こうから声が聞こえた。
『ほ〜ぅ。オレ達の気配を感じられるとはなぁ。』
『誰だ!?』ウィングは声を張り上げた。
ユナは炎で辺りを照らす。
すると、部屋の奥には体の小さい、ヨロイを背負ったポケモンが。
そして古文たちを従えるように、そのふたまわりも大きい奴が3体。
『オレ達、ココドラ&コドラの防衛部隊!』
「ココドラ、コドラ?」ユウキは図鑑を開いた。
“ココドラ てつヨロイポケモン。はがねの体を作るため鉄鉱石を山から掘り出して食べているが、たまに橋やレールを食べてしまう困りものだ。”
“コドラ てつヨロイポケモン ココドラの進化形。栄養満点のわき水をお腹いっぱい飲むことで、はがねの体がきたえられる。おいしいわき水の近くに巣を作る。”
「はがねタイプか…」ユウキは図鑑をしまう。
『少しは骨のある奴だといいなぁ。』コドラの1匹が言った。
『ココッ!』ココドラたちは鋭く鳴く。
『ひょひょ〜! オレ達の守る鉄壁の間、抜けれるモンならやってみなー!』
別のコドラもそう言った。
「今度は守りか…ウィングは下がってろ。行け、ウォン!」
『がってんでぃ!』ウォンは威勢良く言う。
そしてコドラたちにマッドショットを仕掛けた!
『フン…『てっぺき』!』
相手は体に力を込めて防御の態勢になり、攻撃をはねのけた!
『なんだとッ!?』
『その程度の攻撃で我々を倒そうと言うのか…フン、早々に片付けてくれるわ…』
3匹目のコドラが静かに言った。
『かまえっ!』この一声で、ココドラ達はユウキ達に頭を突き出す。
『攻撃〜!』
ココドラ達のとっしんが、ユウキ達にせまる!
『ユウキ、ユナちゃん、ふせロ!』ウォンに言われ、2人は地面に伏せる。
ウォンはその上に覆いかぶさり…『『まもる』!』
ウォンは防御の態勢になり、攻撃を受け付けない。
とっしんがやんだ所で、ウォンはこう言った。
『片付ける、だっテ? オレはお前らには負けないゼ。こんな所で…負けてたまるかってんだヨッ!』
ウォンの琥珀色の目には、闘志の炎が燃えていた。
この大軍を、どう攻略するのか…?
 つづく
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華苗 #5★2004.06/18(金)18:29
【第104話 チャンピオンロードの道のり〔後編〕】
『こんな所で…負けてたまるかってんだヨッ!』
ウォンのセリフに、相手は一瞬たじろいだが。
『かまわぬ。行けっ!』
コドラの一声により、またもやとっしんの嵐!
『『まもる』っ!』
ウォンは攻撃を防ぎ続けているが、それもいつまで持つか…?
そしてついに!
『うわぁッ!』
「ウォン!」
まもるが解けたスキをつかれ、ウォンはダメージを受けた。
「わあっ!」
『きゃっ!』
ユウキとユナも、相手の攻撃を受け、地面に倒れる。
その様子を見て、コドラの1匹が言った。
『フフン、もう終わりかい? やっぱり大した事なかったな。』
「そいつはどうかな?」ユウキは立ち上がった。「ユナ、『ほのおのうず』!」
『オッケー!』
ユナはほのおのうずで、自分たちの周囲を炎で囲む。
炎が苦手な相手は、攻撃してこられない!
「ウォン、炎に『みずでっぽう』!」
『了解だゼ!』
ウォンはユナの炎に水を吹き付ける。
すると…シュウゥッ! 水が炎の熱で水蒸気になり、部屋を包んだ!
『何だと〜! これじゃ前が見えねぇ!』
コドラがそう叫ぶのが聞こえた。
そして、空中で待機していたウィングに指示を出し、ユウキとユナは空中へ。ウォンもウィングの足につかまっている。
「いまだ、ウォン!」
『よーし…『じしん』だゼ!』
ウォンはウィングから手を離し、地面へと落下していく。
そして全体重とエネルギーで、地面に衝撃を加えた!
それは部屋を揺るがすような威力の、すさまじい攻撃だった。
『うわああぁ!!』
コドラたちの叫びが聞こえ、水蒸気の霧が晴れると…
相手の大群は、全滅していた。
『み…見事だ、挑戦者よ…』コドラがユウキに話しかける。『先に進め、最後の試練が待っているぞ…』
「あぁ!」ユウキはうなずくと、部屋の奥へと走っていく。
ポケモン達もそれに続き、鉄壁の間を後にした。

いくつかの橋を渡り、いくつものはしごを伝い、邪魔な大岩をどかして進むうち、みたび広い部屋に出た。
『最後の試練カ…』ウォンがつぶやいた。
「そうだな。」
すると、あたりに声が響いた。
『久々の挑戦者か』
『手厚く迎えてやらんとなぁ。』
闇の中から2匹の虫ポケモンが、大きい羽音を立てながら現れた。
さらに、もう1匹。虫の抜け殻のような奴だ。
「こいつらは…?」図鑑が説明を始めた。
“テッカニン しのびポケモン。高速で動き回り姿が見えない。鳴き声しか聞こえてこないので、長い間透明なポケモンと考えられていた。”
“ヌケニン ぬけがらポケモン。かたい体はぴくりとも動かない。背中から体の空洞をのぞくと、たましいを吸い取られると信じられている。”
相手は、テッカニン2体にヌケニン1体だった。
『我らの守る回避の間…果たして抜けられるかな?』
ヌケニンがそういったのと同時に、テッカニンはフッと姿を消した。
「なにっ!?」
…とその時、いきなり攻撃がこちらに飛んできた!
見えない相手から飛んでくる、黒いエネルギー弾。
間一髪でかわすが、今度はヌケニンがユウキ達の周りをかげぶんしんで取り囲む!
逃げ道がふさがれた…!
「くそっ…ウィング!」ユウキは空中に逃げようとウィングを呼ぶ。
『まかせ……っ!?』
ウィングは疾風のごとく目にも留まらぬ攻撃をもらい、地に伏す。
『くっ…油断してた…』
「ウィング…戻れ! 行け、ルクス!」
『見えない敵か…』ルクスはそうつぶやいた。
『くそッ! どこダ!?』
『あわてちゃダメです!』
ユナの言葉に、ウォンはハッとする。
「ユナの言う通りだ。落ち着け…みんな。」
とたんに部屋は静まり返る。その中で、テッカニンのかすかな羽音が、耳に飛び込んでくる。
ルクスは背後に迫る気配を…感じた。
『そこかっ!『10まんボルト』!』
『ぎゃあぁぁっ!』
ルクスは放電し、テッカニンを1体仕留めた!
「ナイスだ、ルクス!」
気絶したテッカニンが、地面に落ちる。残るはテッカニン、ヌケニン1体ずつ。
テッカニンは相変わらず、こうそくいどうで影も残さず飛び回る。
『無駄だゼ、オレのヒレにかかりゃア…! ユナ、そこダ!』
『はいっ!』
ウォンの指示した方向に、ユナは炎を吹き付ける!
『ぐわあっ!?』
見事テッカニンに命中。効果は抜群だ!
テッカニン2体とも、戦闘不能になった。
残るはヌケニンだけなのだが…影分身でまわりを取り囲まれ、本物がどれかわからない。
『くそーっ こうなったらやけくそダッ!『みずでっぽう』!!』
ウォンはやけっぱちにみずでっぽうを乱射する。
みずでっぽうはヌケニンの影を消していき…本物に命中!
『やったゼ!』
『ふん、我にはこのような攻撃は効かぬ…』
なんと、みずでっぽうははじかれていた!
そしてまた、かげぶんしんで影にまぎれてしまう。
『なんだとッ!?』ウォンは歯噛みする。
『これでどうだ、『10まんボルト』!』
ルクスは四方八方に電撃を放つ!
本物にも当たったが…やはりはじかれてしまった。
「どういう事だ?」ユウキは再び図鑑を手にする。(ピッ☆)
“ヌケニン むし・ゴーストタイプ。とくせい、ふしぎなまもりで弱点以外のタイプの攻撃を受け付けない。”
「あいつの弱点をつけばいいんだな!」
『そういう事か。』ルクスが言った。『よしユナちゃん、頼むよ!』
『えっ…は、はい!』ユナはいきなり指名されてビクっとした。
『ふ…ふふ…よく気づいたな。』そういうヌケニンの声には、焦りが混じっていた。『だが、攻撃を当てなければ意味は無いぞ!』
かげぶんしんは数を増やす。
『それなら…当ててみせますっ!『おにび』!』
ユナの6本の尾に人魂のような青白い炎がともる。
6つのおにびは意思を持っているかのように、ヌケニンたちに向かっていく!
ヌケニンの影を次々と消していき、ついには逆に本物のヌケニンを取り囲んだ!
『う…!』
『とどめです!』
おにびがヌケニンに襲い掛かる!
『ぐわぁーっ!!』
ヌケニンはおにびで体中焼け焦げ、ぶすぶすと煙を出しながら地面に落ちた。
「やったぜ! ユナ、よくやった!」
『えへへっ。』ユウキにほめられてユナは照れている。
『ぐっ…見事だ、我を倒すとは…さあ、この部屋の奥へ進め。』
「よーし…いくぞ!」
ユウキはルクスの背に乗り、ウォンとユナと共に、走る。
辺りはユナの炎で照らしながら。
ほとんど一本道だったが、気を抜かずに走り続けると…前方に、光が見えた。
『出口かな?』ルクスが首をかしげる。
『きっとそうだゼ!』ウォンがぐっと手に力を込めた。
『行こうよ、ユウキ!』ユナはユウキに笑いかける。
「あぁ!」
闇色に染まる洞窟の中を、仲間と共にユウキは走る。
前方の、一点の光を目指して…!
 つづく
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華苗 #6☆2004.06/18(金)18:32
【第105話 リーグ目前!ミツルとのバトル】
ブロックのしきつめられた道の両脇には、野の花達が風にゆれる。
澄み渡る空の下、リーグへ続く道にはリーグ本部側のゲートが大きく口を開けていた。その下では、ハルカとミツルが落ち着かない様子で立っている。
ユウキを待っているのだ。
「ユウキ君、大丈夫かなぁ…」
「大丈夫よ! ユウキ…無事に抜けてきて!」
気分が落ち着かないまま、しばらくゲートの下にいた2人。
「あれっ、ライボルト…?」
ミツルは向こうに、ライボルトらしき黄色い影を見つけた。
徐々にこちらに近づいてくる。そして、ライボルトに乗る人影は…
「ユウキ!」
ハルカが呼びかけると、ライボルトに乗った少年は手を振った。
脇にはヌマクローと色違いのロコンも。
「よぉ!」ユウキはライボルトのルクスから飛び降りながら言った。「クリアしたぜ!」
「よかった…! ウォンもユナも無事ね!」
『おぅヨ!』ウォンは威勢良く返事をする。
『はいです!』ユナもぴょこんと頭を下げた。
「ウィングがやられちまったけどな…。」気絶したウィングの入っているボールを見やるユウキ。「でも、抜けられてよかったぜ!」
『そうだね、ボクも少しヒヤヒヤしたよ…』
ルクスが苦笑いする。そこへミツルが口を開いた。
「ユウキ君、ボクとバトルしてくれない?」
「えっ? ミツルとかぁ。」
「ボクとでもすこしは特訓になるだろうし…どう?」
「いいぜ! じゃあ手っ取り早く、一対一のシングルな。」
「はい。」
「じゃあインカムはOFFにして…と。」ユウキはウォンに振り向く。「行け、ウォン!」
「クロォ!」ウォンが前に進み出た。
「ボクは…リュク!」
「ジュールッ。」
ミツルが出したのはジュプトルのリュクだ。
「相性悪いけど、がんばるぞ、ウォン!」
「クロッ!」ウォンはまかせろ、と言うように腕を振り回す。
「それじゃ、バトルスタートよ!」
ハルカの声を合図に、一対一のバトルが始まった!
「ウォン、『だくりゅう』!」
「クロォ!」
ウォンは泥水の波を起こし、リュクにたたきつける!
「リュク、かわして!」
「ジュルッ。」
リュクはひらりと攻撃をかわすと…そのままウォンに「でんこうせっか」!
「クロッ!?」
攻撃は素早く、かわすことができないほどだった。だが、ダメージは少ない。
「反撃だ!『みずでっぽう』!」
「クローッ!」
「ジュプ!?」
ウォンはリュクの顔面に水を浴びせる!
「クロクーロ!」ウォンはベーっ、と舌を出した。
「『やーい、ザマーみろ』…?」ミツルがつぶやく。
「ミツル君、どうしたの?」ハルカが尋ねた。
「いや、今ウォンがそう言ったんだけど…。」
「そうなのか?」
ユウキの言葉にミツルはうなずいて見せた。
ちなみにミツルはインカムなしでポケモンと話す事ができるのだ。
「ジュプ…」一方リュクはこめかみに青筋を立てている。「ジュールッ!」
そのままリーフブレードの体制に入り、両腕の葉の刃でウォンに切りかかる!
「クロッ!」ウォンはとっさに横とびになって攻撃をかわした。
だが、ウォンの右のえらには鋭い切り傷が走る。
「かまいたち…!」ハルカが小さく言った。「『リーフブレード』によって起こったものね。」
「ウォン、大丈夫か?」
ユウキが声をかけるが、ウォンは怒っているようだ。
「クロォ! クロックーロ!」
「何て言ってるんだ?」
インカムに手をかけるユウキだったが、ミツルが言う。
「どうやら、『くぉのー、リュクめ! オレのチャームポイントを傷つけやがったな!』って言ってるみたい。」
「ジュプ。ジュールッ。」リュクも何か言い返した。
「今度は…」ミツルが通訳する。「『フン。傷つけられたくないならさっさとボールの中に戻ればいいさ。』だって。」
「すごい会話ね…。」ハルカは少しあきれた様子だ。
「クロクーロ!」ウォンはまた言い返した。
「『リュク来いっ オレがお前を倒してやる!』って、ウォンが…。」
ミツルも通訳に疲れた様子だ。
「ジュルッ!」
そして2匹は指示無しにバトルを再開した。
「クロォッ!」
ウォンのみずでっぽう連射攻撃を、
「ジュプッ。」
リュクは全てかわし、そのままウォンのふところに飛び込み…!
ザシュッ!! リーフブレードを至近距離で食らわせる!
「クロ……。」ウォンは倒れる。
「あっ、ウォン!」
「戦闘不能ね。」ハルカがウォンを見て言った。
「ったく…ダメだろ、勝手につっこんでっちゃ。」
「クロゥ…」
ユウキに注意され、ウォンはいじけたような顔をした。
「ジュププッ。ジュルッ。」リュクが何か言った。
「今度は?」ハルカがミツルに言った。
「『このオレを倒せるとでも? お前がオレを倒そうなんて百年早いぜ。』…。」
ミツルは通訳したセリフに言葉を無くした。
「ウォンとリュクって仲悪いのね。」ハルカが肩をすくめた。
「同期なのにな…。とりあえず戻れ、ウォン。」
「クローッ!」
最後は悔しそうに鳴き声をあげて、ウォンはボールに戻った。
「あはは…。リュクもいちいち言い返さないほうがいいよ。」
「ジュル…。」
ミツルに言われて、リュクもしぶしぶうなずいた。
「とりあえずこのバトルはミツル君の勝ちって事ね。」
「まぁほとんどあの2匹が勝手にやってた感じだけどな…。」
「まぁね。あ、リュクは戻ってね。」ミツルはリュクをボールに戻した。
そして3人は笑いあう。
「よーし、リーグまで競争だー!」ユウキが走り出す。
「負けないわよ!」ハルカもあとを追いかける。
「あっ、待って…」言いかけて、ミツルは足を止める。
いきなりボールからサーナイトのミライが飛び出したのだ。
「サ〜ッ。」
「ミライ、どうしたの?」
「サ〜ナイッ。」ミライはミツルに何か伝えた。
「…そっか! そうなるといいね。」
ミツルはにっこりした。ミライも一緒に笑顔になる。
「ミツルく〜ん! 早く!」
「あっ! 待ってよ〜!」
ミライに手を引かれ、ミツルはハルカとユウキに追いついた。
3人は笑い合いながら、リーグへの道を駆けていった。
 つづく
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華苗 #7☆2004.06/18(金)18:36
【第106話 リーグに向けて!ユウキの決意】
日は傾き、すでに夕暮れが近い。
夕日は赤く染められた空の下にたたずむ、巨大ビルのような建物…サイユウシティポケモンリーグだ。
「ここがポケモンリーグね。」
「ここが…」
ここが屈指の強さを誇る四天王とチャンピオンが集う場なのだ。
そう思うと、ユウキの心は躍った。
「さぁ、行こうぜ!」
真っ直ぐに入り口に向かうと、自動ドアが開く。
頂点に立つものたちの領域に、3人は足を踏み入れた。

「ポケモンの回復をお願いします。」
「はい、確かにお預かりしました。今日はここで泊まるといいですよ。」
「はい。」
ジョーイとそんなやり取りを交わし、ポケモンを預けたあと。
「それじゃオレ、ショップ行ってみるよ。」ユウキは財布の中身を確かめながら言った。
「そうね。回復道具はそろえておくといいわ。」
「ボク達はここで待ってるよ。」
「わかった。」
ユウキはショップのほうに走っていく。
その場には、ハルカとミツルが残された。
「私達は待ってるとしましょうか。」
「そうだね。」
2人は近くにあった席に腰掛ける。
すると、その近くを通ったトレーナーの話が耳に入った。
「なぁ、リーグに挑戦してみた感想はどうだ?」
「ダメダメ。最初の奴にも勝てなかったよ…」
「練習不足なんじゃねーのー?」
「うるせーなー…」
その会話に耳をそばだててみるハルカ。トレーナーは自分達よりも年上の、少年2人組だった。
「『ボウズ、オレに負ける程度の力じゃ、チャンピオンに挑戦するのは無理だぜ。』だとさ。くやしー!」
「オレはそいつの言う通りだと思うぜ。まぁがんばりな!」
「くそーっ!」悔しそうに歯軋りする少年。
そしてその2人は近くを通り過ぎていく。
そのときミツルが口を開いた。
「ホウエンガイドに載ってないかな、リーグの事。」
「リーグの事かー…どれどれ。」
ハルカはウエストバッグからガイドブックを取り出して、最初のページから最後のページまでパラパラとめくってみるが…
「だめね。ぜんぜん載ってなかったわ。」
ハルカのセリフに、ミツルもがっかりした様子だ。
…と、今度は少女の声が。
「ホウエンのチャンピオンって素敵よねー! 強いしカッコいいし!」
「あたしファンになっちゃおうかなー!」
そんな少女達の会話に、ミツルがつぶやく。
「チャンピオンか…。どうやらけっこうカッコいい人みたいだけど。」
「どんな人かしら。」
その時。
「ミツル、ハルカ!」
「あ、ユウキ君。」
大きい紙袋を抱えて、ユウキがショップから戻ってきた。
席について、袋の中身を確かめている。
「すごいキズぐすりにかいふくのくすり、なんでもなおしとげんきのかけら…これでOKか?」
「それだけあれば安心ね。」
薬類をバッグの中に流し込む、ユウキ。
「よーし…明日だ! 明日は絶対負けないっ!」
ユウキは天井に向かってこぶしを突き上げた。
窓から差し込む日差しが、3人の顔を赤く照らしていた。

…早朝のサイユウシティ。
ユウキはベッドを抜け出し、外に出て風をあびていた。
日が昇ってくる直前の、薄い青のグラデーションに彩られた空。
ユウキは東の空に目を向け、夜明けを待ちながら考えにふけっていた。
 …オレがポケモンリーグに挑戦するなんて…
旅を始めたきっかけは、ただなんとなく、面白そうだったから。
まずは、父さんと勝負したかった。
そのためにバッジを集めて、父さんと戦った。
引き分けだったけど、自分が強くなった事を認めてもらえて、とても嬉しかった。
そのあとバッジを全部そろえて、リーグに挑戦すると決めた時…
勝てる保証はないけれど、自分の実力はどこまでなのか知りたくて、だからここまで来たんだ。
 …もう今は、ただ上を目指すだけ…
迷いや後悔なんてものは、何一つないさ。きっとリーグで負けてもな。
でもどうせなら、負けるより勝つほうが断然いいよな。
ここまでくれば、ただ上を見上げて、仲間と一緒に戦って行こう。
仲間との絆のつながり、自分の力、確かめるために…!
「オレは…やるぜ!」
ちょうどその時、東の海から朝日が顔を出した。
半分水平線に隠れながら、太陽は白くまぶしく輝いた。
ユウキのルビーの瞳の奥には、まだ見ぬ強敵への期待と不安が見え隠れする。
ユウキは笑みを浮かべて、大きく深呼吸して。
  「やるぜぇ―――っ!!」
太陽に向かって叫んだあと、すがすがしい気分でユウキは仲間の場所へと足を運ぶ。
朝日はそんなユウキの背中を、後押ししてやるように照らしていた。

リーグ1階の一番奥に、重々しい扉がある。
その扉の向こうに、四天王とチャンピオンが挑戦者を待っているのだ。
門の前には、リーグ関係者であろう2人の男が立っている。
「挑戦者よ、この門の向こうに待つ強敵に立ち向かう覚悟はあるか?」
2人は声をそろえて、ユウキに問いかけた。
「はい!」
ユウキの返答を聞くと、2人は脇に退ける。
同時に、その扉が音を立てて開いていく。
「勇気ある挑戦者よ。」
「己と仲間を信じ、この先へ進め!」
力強いセリフに励まされ、
「ユウキ、がんばって!」
「負けないで!」
大切な仲間に勇気付けられ。
「あぁ。行ってくる!」
ユウキは門の向こうへと、駆け出した!
モンスターボールに入った、6匹の頼れる仲間と共に―…。
 つづく
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華苗 #8☆2004.06/19(土)18:02
【第107話 一番手カゲツ!悪の美学!〔前編〕】
ユウキのリーグへの挑戦。
四天王の部屋に向かうまでの階段を登る。
「この先に四天王が…」
階段を登りきると、そこには重たそうな扉がある。
取っ手に手をかけ、深呼吸して。
「…よし!」
ユウキは扉を開いた。向こうの部屋には、男が1人立っていた。
「おっ? チャレンジャーだな!」
モヒカンヘアーのその男は、白い歯を見せてニッと笑った。
「オレは四天王、一番手のカゲツ!」カゲツはビッとユウキを指さす。「お前は?」
「オレはユウキだ!」
「ふふん、ユウキか。いい顔してるな。なかなか楽しませてくれそうだ!」
いかにも楽しそうに、カゲツは笑う。
「よぉし、さっそく始めよう! オレとお前とで、このバトルを楽しむとしようぜ!」
「望むところだ。」
脇に控えていた審判員が2人の間に進み出て、口を開いた。
「四天王カゲツ対挑戦者ユウキ! これよりポケモンリーグの公式戦を始める。時間無制限、使用ポケモン数の制限はなし、道具の使用許可。途中、ポケモンの交代は挑戦者のみ認める。両者、準備は良いか!」
「「おぅ!」」ユウキとカゲツの声が重なった。
「それでは…始め!」
「まずは…行け、グラエナ!」
「ガルルッ!」
「こっちは、カシス!」
「マッス!」
両者、ポケモンを場に繰り出した。
「マッスグマか…グラエナ!」
「ガルルッ!」グラエナは鋭いキバをむきだしにし、カシスに向かってうなる。
「マッス…!」
カシスはグラエナににらまれて、ひるんだ様子で後ずさりした。
「どうした、カシス?」
「教えてやろうか。グラエナのとくせい、『いかく』でマッスグマの攻撃力を下げたのさ!」
カゲツが説明する。
「くそ…それなら! カシス、『はらだいこ』!」
「マーッスッ!」
カシスは自分の体力を削り、攻撃力を限界まで高める。
「ほぅ。こりゃますます楽しめそうだな!」

そのころ…ハルカとミツルは、モニターからユウキのバトルを見ていた。
「ユウキ君、勝てるかなぁ…?」ミツルは心配そうにモニターを見つめていた。
「そうだ!」突然ハルカが声をあげる。「パパに知らせなくちゃ!」
ちょうど近くにテレビ電話を見つけて、ハルカはオダマキ研究所の番号を押す。
“プルルル… プルルル…  カチャッ☆”
『もしもし? あっ、ハルカお嬢さん。』
テレビ電話に映ったのは、オダマキ博士の助手だった。
「パパはいる?」
『えぇ。博士―! お嬢さんから電話です!』
そして間もなく、電話の相手は博士にかわる。
『ハルカ。そんなに急いだ様子で、どうしたんだい?』
「パパ、ユウキがね…」
その時、モニターから審判員の声が聞こえた。
『グラエナ、戦闘不能!』
『ユウキ、オレのグラエナを倒すとは…やるな。『しんそく』でふところに入って『ずつき』で決める…くぅ〜! いいねぇ!』
電話越しに四天王カゲツの声を聞いて、博士の様子が変わった。
『ユウキ君が…リーグに挑戦しているのか?』
「そうよ! 今私のポケモンを送るから、こっちに来て!」
『わかった。』
ハルカはチルタリスのリアのボールを手に取り、転送マシンにセットする。
ボールが消え、博士の元へと送られた。
『確かに受け取ったぞ。今すぐ出発する!』
そして、電話は切れた。
「これでよし…と!」
「オダマキ博士を呼んだの?」とミツル。
「えぇ。さぁ、私たちはユウキの応援をしましょう!」

そしてユウキはと言うと。
「マッスー… マッス…」
カシスは息を切らしている。
「スタミナ切れだな。サメハダー、とどめだ!」
「サメーッ!」
「カシス、かわせ!」
だが、カシスはその攻撃をかわせない!
「マッス…。」
「く…カシス、『ねむる』んだ!」
サメハダーの攻撃を受けたカシスだが、何とか耐え、体力回復のために眠り始めた。
「カシス、戻れ。」カシスをボールに戻すユウキ。
「ちっ…おしいな!」と言いつつも、カゲツはなおこのバトルを楽しんでいるようだ。「さぁ、2番手は何だ?」
「よーし…ルクス!」
「ライボルッ!」
「ライボルト対サメハダー、試合続行!」審判がそう言った。
「行くぞ、ルクス!『スパーク』!」
「ラァーイ!」
バチバチッ! ルクスは体中に電気をまとわせ、サメハダーにタックル!
「サメ…。」
サメハダーはそれまでの戦闘で弱っていたせいもあり、倒れた。
「サメハダー、戦闘不能!」
「ご苦労様、サメハダー。戻って休んでな。…行くぜ、オレの3番手…ダーテング!」
「ダーテンッ!」
両手はうちわのような大きい葉。天狗のような長い鼻のポケモンだ。
「ダーテング…」
“ダーテング よこしまポケモン。樹齢100年をこえた大木のてっぺんに住むといわれる謎のポケモン。葉っぱのうちわで強風を巻き起こす。”
ダーテングはいかめしい表情で、こちらをにらんでくる。
「グラエナ、サメハダー…両方悪タイプだけど、こいつも…?」
「おっ、よく気づいたな!」カゲツはまた、ニッと笑う。「そうさ。オレは悪タイプのエキスパート! 悪の美学をお前に教えてやる!」
「望むところだ! ルクス、『でんじ…」
「『ねこだまし』!」
電気を放とうとするルクスの鼻先で、ダーテングが両手を打ち合わせる。
ルクスはその攻撃にひるんで、行動できなかった。
「続けて…『じんつうりき』!」
「ダーテンッ!!」
「ライ…!? ボルッ!」
突然、ルクスは苦痛の叫びをあげる。
それが落ち着くころ、ルクスは荒い呼吸をしていた。
「ルクス、大丈夫か!?」
「ラ…ライ…。」
「『じんつうりき』…悪タイプの技じゃないが、イイ技だぜ。」
もう2匹も倒されているというのに、カゲツはなお笑顔のままだ。
(なんで…なんで、あんなに余裕なんだ? まだ、もっと強い奴が残っているからか…!?)
額に汗がにじむ。
ユウキが顔をゆがめて考えているのを見て、カゲツが言った。
「そんなコワイ顔すんなよ。もっとバトルを楽しまなくちゃ!」
(…! バトルを、楽しむ…)
そうか。オレにはそれが足りなかったんだ。
熱くなりすぎて、バトルの楽しさを忘れるところだった。
ユウキは汗をぬぐい、カゲツのように、ニッと笑って見せた。
「おっ!」カゲツはユウキの変化に気づいた。「イイ顔だ。こっからが、本当の、バトルだぜ!」
「あぁ!」
「ダーテング、『だましうち』!」
「ダーッ!」
ダーテングはルクスに向かってくる。
「そうは行かないぜ!『でんじは』!」
「ライッ!」
全身から電気を発し、それをダーテングにぶつける。
これによってダーテングは「まひ」したようだ。
「なんの! ダーテング、『かげぶんしん』!」
「ダー…テン!」
ダーテングはかげぶんしんでルクスのまわりを取り囲む。
「つづけて『だましうち』で挟み撃ちだ!」
「ダーテンッ!」
無数のダーテングたちが、ルクスを四方八方から追い詰めた。
「ルクス! 跳べ!」
「ライッ!」
ルクスは間一髪、攻撃をかわして空中に飛び上がる!
「『10まんボルト』だ!」
「ラァイ…ボールッ!!」
バチバチバチッ! 電撃がダーテングの頭上に降り注ぐ!
「ダー…テ…。」
この攻撃で、ダーテングは倒れた。「ダーテング、戦闘不能!」
「戻れ、ダーテング!」ボールにダーテングを戻し、カゲツは言った。
「こんなに楽しいバトルは久しぶりだ! ユウキ、オレも本気を出すぜ。お前も全力で、かかって来いよ!」
「言われなくとも…そのつもりだぜ!」
「ラァイ!」
2人の視線がぶつかり合い、火花が散りそうな緊張が走った。
リーグ初戦、ユウキはカゲツを倒せるか!?
 つづく
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華苗 #9☆2004.06/20(日)15:25
【第107話 一番手カゲツ!悪の美学!〔後編〕】
リーグ本部の1階ロビーでは、ハルカとミツルがモニターからユウキのバトルを見ていた。
「ユウキ君、がんばれ!」
「負けないで、ユウキ!」
2人は片時もモニターから目を離さず、バトルを見守る。
心の中は、ユウキに勝ち進んでほしいという気持ちだけがあった。

「出番だぜ、ノクタス!」
「ノクーッ。」
カゲツの4匹目は、体中にとげの生えた、かかしのようなポケモンだ。
「こいつは…」ユウキはバッグから図鑑をとりだす。(ピッ★)
“ノクタス カカシぐさポケモン サボネアの進化形。さばくの日ざしで水分を失わないように、昼間はじっと立ちつくしている。気温の下がる夜に活動をはじめる。”
「なるほど…サボネアの進化形ってことは、草タイプも持ってそうだな。」
「察しがいいな! そうさ。こいつは草・悪タイプ。電気タイプでこいつに勝てるかな?」
「やってやるさ!」強気に、ユウキは言い返した。
「ライッ!」場に出ていたライボルトのルクスも、同意の声をあげた。
「よく言ったな…だが、簡単には勝たせてやらないぜ! ノクタス、『ねをはる』!」
「ノクーッ。」
ノクタスはフィールドの下に根を張って、養分を吸い取り始めた。
「これで少しずつ体力を回復していけるんだ!」
「でも根を張ってんなら、動けないだろ?」ユウキはにやりと笑う。「ルクス、『スパーク』!」
「ラァーイ!」
ルクスは体中に電気をまとい、ノクタスに向かってとっしんしていく!
「おっと…ノクタス、『ニードルアーム』で防げ!」
「ノクッ!」
ルクスのスパークを、ノクタスはニードルアームで振り払う。
「ライ…!」
「なにっ!?」
「続けて…『やどりぎのタネ』!」
「タース!」
ノクタスはルクスにタネを植え付けて、体力を吸い取っていく。
「ラ…イ…!」
「大丈夫か、ルクス!?」
ルクスがうなずくのを見て、ユウキは指示を出す。「ルクス、がんばれ!『10まんボルト』!」
「ラァーイ!!」
ルクスの放った電撃は、ノクタスに直撃!
「やったか!?」
だが、ノクタスの受けたダメージはほとんどないようだ。
「へへ…草タイプにはもともと電気技は効きづらい。加えて『ねをはる』でダメージを地面に逃がしたのさ!」
「なんだって!」
「ノクタス、とどめだ!『ミサイルばり』!」
「ノクーッ!」
「くっ…戻れルクス!」
攻撃が当たる寸前、ユウキはルクスを引っ込めた。
「さぁユウキ、次はどいつでくる?」
「よし…ウィング、行け!」
「スバーッ!」
「オオスバメか…」カゲツはつぶやく。「よし、ノクタス!『やどりぎのタネ』!」
「タスッ!」
ノクタスの飛ばしたタネを、ウィングは素早くかわし…
「『つばめがえし』!」
「スバーッ!」
そのままノクタスに攻撃を決めた!
「すっげースピード! やるね!」
カゲツはひゅう、と口から音をもらした。
「まだまだだぜ! ウィング、速攻だ!」
「スバスバーッ!」
「ノクッ…!?」
あまりに素早い攻撃に、ノクタスはついていけない!
その隙をついて、ウィングはつばめがえしを決める。
「ノ…クー。」ドサッ、と音を立て、ノクタスは倒れた。
「ノクタス、戦闘不能!」審判はそれを見て言った。
「戻れ、ノクタス。」ノクタスをボールに戻し、「いよいよだぜ、オレのチームのトップだ! 行くぜ、アブソル!」カゲツはボールを投げた!
「アブルルッ!」
「オレのアブソルに勝てるかな…? まずは『よこどり』だ!」
「アブ…」
アブソルはこちらの出方をうかがっているようだ。
「どんな技なんだ…? ウィング、ここは『かげぶんしん』だ。」
「スバッ!」
ウィングはかげぶんしんをしようとする。が…!?
「アブルッ!」
カゲツのアブソルは素早い動きでウィングの目の前を通り過ぎた。
まるで、風が駆け抜けたようだった。
「スバ!?」
「な…なに?」
ユウキの目の前には、かげぶんしんでぶんしんを作り出したアブソルが。
しかも…ウィングはかげぶんしんをしていない!
「『よこどり』は相手の補助技の効果を自分の物にしちまうのさ。そこんとこ、気ぃつけな! アブソル、『かみつく』!」
「アブルッ!」
ウィングの技で増えたアブソルたちが、次々にウィングに襲いかかる!
ガブッ! ウィングはダメージを受けた。
「スバ…!」
「くっ…戻れ、ウィング。」
「お? もう引っ込めちまうのか。」と、カゲツ。
(強敵と立て続けに戦う長丁場だ…あまりポケモンに疲れをためさせないようにしなくちゃな…)
腰につけた6つのボールを見やり、ユウキは心の中で言った。
そしてあごに手を当て、考える。
(あのアブソルを倒すには…)
こちらが補助技を使えば、その効果を持っていかれてしまう。
どうすれば…
(…! そうだ、逆にそれを利用すれば!)
ユウキの頭の中で、何かがひらめいた。そして…
「行け、カシス!」
「Zzz…」
ボールから出たマッスグマ・カシスは、まだ眠り続けていた。
「よし…『ねむけざまし』を使うぜ!」
スプレー式の薬をカシスに使うと、たちまち目を覚ました。
「マッス!」
「いくぜ…カシス、『はらだいこ』!」
「マーッス!」
「おっと…アブソル、『よこどり』!」
「アブーッ!」
再び、アブソルはこちらの補助技を奪い取った。
はらだいこで、アブソルの攻撃力が限界まで上がる。
「へへ…ユウキ、忘れたのか? お前が補助技を使えば、オレがそれを『よこどり』して、自分のモンにするんだ。お前から奪った攻撃力で、まずはそのマッスグマを倒すぜ!」
「アブッ!」
だが…ユウキはそれに対して、笑みさえ浮かべていた。
「残念だけど…その言葉、そのままあんたに返すぜ。オレはこの瞬間を待っていたのさ!」
ユウキは自信たっぷりに、そう言ってのけた。
「なにっ?」
「決めるぜ、カシス…!『しんそく』!」
「マーッス!」
気がつけば、カゲツのアブソルのぶんしんは消えかけていた。
カシスは力いっぱい、本物のアブソルに向かってたいあたり!
「アブッ…!」
カシスの攻撃を受け、壁まで吹っ飛ばされるアブソル。
その一撃で、アブソルは力尽きたようだ。
「アブソル! …なんで、この一撃で…」
「オレはアブソルに、技を『よこどり』されたんじゃなく、させたのさ。『はらだいこ』は自分の体力を大幅に削って、攻撃力を上げるからな。」
「分身が消えたのは、『はらだいこ』を使ったことでアブソルがかげぶんしんのほうに集中できなくなったってトコか… まいったぜ!」
カゲツは少し悔しそうに…だがやはり楽しそうに…そう言った。
このとき、ジャッジが宣言した。
「アブソル、戦闘不能! よって勝者、挑戦者ユウキ!」と。
「やったぜ、カシス!」
「マッス!」
「戻れ、アブソル。」カゲツはアブソルをボールに戻すと、ユウキに言った。
「負けたオレから一言。お前ならもっと先に進めるぜ。この先で、もっと戦いを楽しんで来いよな!」
カゲツが指を パチン! と鳴らす。
すると、カゲツの後ろの扉が開いた。
「わかってる! いくぞ、カシス!」
カゲツの横を通り過ぎ、ユウキは扉をくぐりぬける。
そして次なる強敵のもとへと、長い階段を登っていった。
  ・ ・ ・
霧に包まれた、おくりびやまの山頂。
2つの珠玉(たま)を布で磨いていたフヨウのもとへ、フーディンが1匹、現れた。
「フーッ。」フーディンには、リーグ関係者の印のリボンがついている。
「…あら? リーグのポケモンね。」
「フーディンッ。」
フヨウはフーディンの額に手をかざし、念じるように目を閉じた。
フーディンの思念を読み取っているのだ。
「…わかったわ。」手を引っ込め、目を開けてフヨウが言った。「挑戦者が来たのね。カゲツちゃんを倒すなんて、どんなコなのかしら。楽しみっ♪」
「フーッ。」
フヨウはフーディンと共に、テレポートでサイユウへと向かう。
これから戦う相手の姿を、いろいろ想像しながら。
 つづく
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華苗 #10☆2004.06/25(金)18:14
【第109話 二番手フヨウ!ゴーストの誘惑〔前編〕】
カツ…   コン…
あたりに響くのは、長い階段を登る足音。
ユウキはカゲツを倒し、次の相手の元へと向かう。
カツ…   コトン。
足音が止まる。階段を登り終えたのだ。
ユウキは静かに息をつき、扉を開く。
そこで待っていたのは、見覚えのある人だった。
小麦色の肌に、ショートカットの黒い髪。瞳は美しい海の青。
服を着ている…と言うよりは、布を体に巻きつけたような格好だった。
「…フヨウさん!?」
「あら? ユウキ君だったのね、挑戦者って。」
フヨウは小首を傾げて、そう言った。
「えっ…てことは、フヨウさんも四天王!?」
「その通りよ。それじゃぁさっそく、あなたの腕前、見せてもらおうかな?」
「それなら…望むところだ!」
ユウキが言い放ったところで、審判がしゃべりだす。
「これより、四天王フヨウ対挑戦者ユウキのバトルを開始する。ルールは先ほどのバトルと同じだ。では、始め!」
「行くよ、サマー!」
フヨウがポケモンを繰り出す。
「サマッ!」
黒い包帯を巻いたような体で、宙に浮いた2つの手と真っ赤な一つ目が印象的だ。
「こいつは…?」ユウキは図鑑を開いた。(ピッ☆)
“サマヨール てまねきポケモン ヨマワルの進化形。体の中身は空洞で何もない。ブラックホールのようになんでも吸いこみ、吸いこまれると戻ってこれないと言われる。”
「なるほどな」図鑑を閉じ、ボールを手にとるユウキ。「オレはこいつだ!」
「アブルッ!」
ユウキはアブソルのゲイルを繰り出した。
「ゴースト使いのアタシに対して、悪タイプを出したのね。いい選択だと言えるけど、それでアタシに勝てるかな?」
「やってみなくちゃわからないさ! ゲイル、『つるぎのまい』!」
「アブッ!」
ゲイルは自分の攻撃力を高め…
「『きりさく』!」
「アブルッ!」
鋭いツメを振りかぶり、サマヨールのサマーに向かっていく!
が…  スカッ!
「なにっ!?」
「アブ…!?」
ゲイルは、サマヨールの体をすり抜けてしまったではないか!
「ノーマルタイプの攻撃技は、ゴーストタイプには効果がないの! まさにつかみ所がないってわけ!」得意げにそう言うと、フヨウは指示を出した。
「今度はアタシの番! サマー、『のろい』よ!」
「マヨゥ!」
サマーは自らの体力を削り、ゲイルにのろいをかける。
そのとたん、ゲイルは身をよじり、苦しみだした!
「アブ…!ル…ル…ッ!」
「!? ゲイル、どうした?」
「『のろい』は相手にのろいをかけて体力を大幅に削っていく技よ! 続けて…『あやしいひかり』!」
「サマッ!」
サマーの一つ目があやしいひかりを放つ!
これを受けて、ゲイルは「こんらん」してしまう。
「アブ…ル!」
ゲイルは暴れて、自分に攻撃をする。
「くっ…もどれ、ゲイル!」ユウキはゲイルを引っ込める。
「あれっ、もう交代? 次はなーに?」
「よし、ウィング!」
「スバァ!」
「オオスバメね。でもアタシのサマーを倒せるかな?」
「やってやるさ!『のろい』で体力が削れてる、今なら…!」
「…しまった!」フヨウはボールを取り出したが…
「おそいぜ! ウィング、『つばめがえし』!」
「スバァー!」
疾風のごとく、ウィングはサマーに攻撃を決めた!
サマーは倒れる。
「サマヨール 戦闘不能!」審判が旗を揚げた。
「あっちゃー…アタシとした事が。サマー、戻ってね。…次はあなたよ、ジュリ!」
「ジュッ。」
「ジュペッタ対オオスバメ、試合続行!」
「ジュペッタ?」審判のセリフに首をかしげるユウキ。
ユウキは図鑑を開いた。(ピッ☆)
“ジュペッタ ぬいぐるみポケモン カゲボウズの進化形。自分の体を針でキズつける時、強い呪いのエネルギーが発生する。もとは捨てられたかわいそうなぬいぐるみ。”
「そっか…よし!『つばめがえし』だ!」
「スバッ!」
ウィングはジュペッタに向かっていく。
「させないわ!『おにび』!」
「ジュペッ!」
ジュリはおにびでウィングを取り囲む!
だが、ウィングはそこから抜け出した。
「それなら…これでどう?『サイコキネシス』!」
「ジュッ!」
サイコキネシスでおにびを操作し、ウィングを包み込む。
「スバッ…!」
ウィングは「やけど」してしまった。
「これで、オオスバメの攻撃力ダウンよ!」
フヨウはそう言ったが…
「それはどうかな。」ユウキは笑ってみせた。「ウィングのとくせいは『こんじょう』…その効果、わかるよな?」
この一言で、フヨウの表情がさっと変わった。
「行けウィング!『つばめがえし』!」
「ス…バーッ!」
ウィングはやけどの痛みをこらえつつ、つばめ返しを決める。
「ジュペ…ッ」
「大丈夫? ジュリ…」
「ジュペ…。」ジュリはガクリと首をたれた。
「ジュペッタ、戦闘不能!」
「お疲れ、ジュリ。戻って。」
ボールにジュリを戻して、フヨウは言った。
「まさかこんな簡単にやられちゃうとはね。さすがね! …でも、まだこれからなんだから! ミヤ、行ってきて!」
「ヤ〜ミ。」
顔には目だと思われる透明な結晶。体にも宝石のような結晶がついている。
「ヤミラミって言うのよ! ダイゴからもらったんだ♪」
「ヤミラミか…」 ピッ☆
“ヤミラミ くらやみポケモン。どうくつの奥でひっそりと生活する。暗闇で瞳があやしく輝くとき、人のたましいを奪うと恐れられている。”
「なるほど…」ユウキは図鑑を閉じた。
(しかし…やっぱりフヨウさんにはダイゴさんとつながりがあるのかな。)
考えているユウキに、フヨウが声をかけた。
「考え事してる暇はないわよ! ミヤ、『くろいまなざし』!」
「ヤ〜ミッ。」
ヤミラミ・ミヤの、宝石のような目が黒く光る。
その光がウィングをとらえると、ウィングは身をすくませた。
「スバ…!」
「どうした、ウィング?」
「『くろいまなざし』は相手を逃がさない技! つまりもう交代はさせないって事よ! 『サイコキネシス』っ!」
「ヤミ〜ィ!」
サイコキネシスがウィングに命中!
「スバ…!」
「くそ…ウィング、『つばめがえし』!」
「スバァ!」
ウィングはミヤに攻撃をしかける!
「『だましうち』で迎撃よ!」
「ヤラ!」
ウィングとミヤの攻撃がぶつかりあう!
「ヤミッ。」
「ス…スバ…。」
ドサッ。ウィングはこの攻撃を受け、倒れた。
「オオスバメ、戦闘不能!」
「あっ…ウィング!」
「ゴーストタイプの怖さ、少しはわかったかな?」フヨウは笑う。
「くっ…!」
フヨウの戦術に、ユウキは勝てるのか…?
 つづく
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華苗 #11★2004.06/27(日)10:41
【第110話 二番手フヨウ!ゴーストの誘惑〔後編〕】
「ウィング、ゆっくり休めよ。…ルクス、頼むぞ!」
「ライッ!」
ユウキはポケモンを入れ替える。
「ライボルトね。ミヤ、『シャドーボール』!」
「ヤミ〜ッ!」
「ルクス、かわして『10まんボルト』!」
ミヤがシャドーボールを打つが、ルクスはひらりとそれをかわし…電撃を放つ!
「ラ〜イッ!」
「ミヤ、かわして!」
「ヤミッ…!」
だがミヤは攻撃をかわせなかった。10まんボルトを受けて、よろめく。
「ルクス、『スパーク』!」
「ラァイ!」
そこへルクスがアタック! ミヤは倒れた。
「ヤ…ミィ〜。」
「ヤミラミ、戦闘不能!」
「あっ、ミヤ! …さっきオオスバメとぶつかりあった時のダメージが残ってたのね…」
言い終えてから、フヨウはボールにミヤを戻した。
…そのころ、ロビーでモニターを見ていたハルカとミツルは…。
「フヨウさんって…四天王だったんだ!」ミツルは驚いた表情だ。
「本当に、びっくりよね…」
2人とも、モニターに目を釘付けにしている。
『ジュネ、お願い!』
モニターには、2匹目のジュペッタを繰り出すフヨウの姿。
ルクスと一緒に身構えるユウキと、審判員も映っている。
『ルクス、『10まんボルト』!』
『ラァイ!』
10まんボルトを出すが…
『ジュネ、かわして『どくどく』!』
『ジュペッ!』
ジュペッタのジュネは攻撃をかわし、フィールドにもうどくをまきちらす!
ルクスは「もうどく」を浴びてしまった。
『くっ…ルクス、がんばれ!『10まんボルト』!』
『ラ…イィッ!』
10まんボルトはジュネに直撃!
「がんばって、ユウキ!」
「負けないで!」
ハルカとミツルは、モニター越しにユウキの応援を続けた。

「ラ…イ…。」
「がんばれ、ルクス!『10まんボルト』!」
「ラ…イッ!」
「ジュペ…!」
2発目の10まんボルトをくらい、ジュネは倒れる。
「ジュペッタ、戦闘不能!」
「ジュネ、戻って。」フヨウはジュネをボールに戻した。
「アハハッ! アタシにはもう1匹しか残ってないけど…この1匹に、あなたの力をぶつけて! マヨウ!」
「サマ〜ッ。」
2匹目のサマヨール。
「(さっきは別のと戦ったけど、こっちの奴はどんな技で来るかわからない。気をつけなきゃ…)ルクス、『でんじは』!」
「ラ…イ!」
でんじはをマヨウにぶつけようとするが…!
「かわして『じしん』よ!」
「なにっ!?」
「サマッ!」
マヨウはでんじはを飛び上がってかわし、そのままじしん攻撃をした!
じしんはフィールドを揺るがし、ルクスに大ダメージを与えた。
毒のダメージも加わり、ルクスはかなり苦しそうだ。
「ラ…イ…!」
「くっ…戻れ、ルクス…」
「おっと。『くろいまなざし』よ!」
「サマッ!」
マヨウにくろいまなざしをかけられ、ルクスをボールに戻せない!
「…! くそっ…」
ルクスの体力はもう限界だ。マヨウを倒そうにも、毒で体力が削られていく…!
「こうなったら…! ルクス…」
ルクスに小さく指示を与える。
「ライ…ッ!」
「あなたは、もう逃げられないよ! マヨウ、とどめの『シャドーパンチ』!」
「サマヨッ!」
影がこぶしの形をなし、ルクスに殴りかかった!
「ラ…イッ。」
攻撃を受け、ルクスは倒れた。「ライボルト、戦闘不能!」
「よくがんばったな、ルクス。ゆっくり休んでいてくれ。」
ユウキはルクスをボールに戻し、もう一度ゲイルのボールを手に取る。
「行け、ゲイル!」
「アブルルッ!」
「のろいとこんらんは回復したようね。」しゃきっと立っているゲイルを見て、フヨウが言った。「マヨウ、『れいとうビーム』よ!」
「サマーッ!」
「ゲイル、かわせっ!」
ゲイルは攻撃をかわそうとしたが、頭のカマを冷気がかすめた。
薄く凍りついた部分を溶かし、ゲイルは次の指示を待つ。
「『つるぎのまい』だ!」
ゲイルは戦いの舞をおどり、攻撃力を大幅に上げる。
「いいか、ゲイル……」ユウキはゲイルに耳打ちし、指示を出した。「『かまいたち』!」
「アブルルッ!」
空気が渦巻き、風の刃となって、マヨウに切りかかる!
「忘れたの? ノーマルタイプの技は、ゴーストには効かないの!」
フヨウはそう言うが…
「サマッ!?」
かまいたちは、マヨウにダメージを与えた!
「!? なんで…」
「何でだと思う?」ユウキはニヤリと笑った。「ルクスが倒される直前、『かぎわける』を使って弱点を調べたのさ!」
「アブッ。」
「そんな…!」
「ゲイル、『きりさく』だ!」
「アブルルゥ!」
ゲイルの漆黒のツメがギラリと光る。
それを大きく振りかぶり、マヨウのを切りつけた!
「サマ…!」
マヨウは大ダメージを受け、よろける。
「マヨウ、耐えるのよ!」
だが…マヨウは仰向けに、フィールドに倒れた。
「サ…マ…。」
「サマヨール、戦闘不能! よって勝者、挑戦者ユウキ!」
「やった…やったぜ! ゲイル、よくやった!」
「アブルッ。」
「マヨウ、戻って。」
フヨウはポケモンを戻して、ユウキに向き直る。
「ユウキ君、いいバトルができて楽しかったよ! アタシ、あなたたちの力がどこまで通じるか見てみたいな。」
そしてカゲツもやったように指をパチンと鳴らす。
すると奥に通じる扉が開いた。
「さぁ、この先に進みなよ。」
「ありがとう! ゲイル、戻れ。」
「アブルッ。」
ゲイルのボールをしまい、ユウキは扉へと駆け足で向かっていく。
その後姿を、フヨウは澄んだブルーの瞳で見やる。
「彼なら、もしかして王者のままでたどり着く事ができるかも…」
あとに残るのは、部屋を包み込む静けさばかり。
フヨウは何食わぬ顔をして、またそこにたたずんでいた。
 つづく
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華苗 #12☆2004.07/01(木)17:28
【第111話 三番手プリム!氷の情熱!〔前編〕】
階段の途中に座り込み、ユウキはポケモンのダメージを回復させていた。
ウィングとルクスにげんきのかけらを与え、元気を取り戻させる。
あとはいいきずぐすりなどを使って、体力を回復させておく。
「よし…これでいいかな。」
薬でダメージは回復できても、疲れはあとに残すとやっかいだ。
ここらで少し休めてやらなくちゃ…
ユウキは息をつき、目を閉じた。

数分のち。
奥の部屋で挑戦を待っていたのは、紫のロングスカートの女性。
クセのついた金髪に、淡い緑色の目、色白の肌。
その人は薄く化粧をほどこしたその唇に、かすかに笑みを浮かべて。
「…来たわね。」
一言、つぶやいた。
すると、下の部屋から少年がやってきた。 …ユウキだ。
「ようこそ、挑戦者さん…。」
「あんたが三番目の四天王か?」
「そう…わたくしはプリムと申します。氷の技を極めたくて、遥かホウエンまでやってきました。」
「氷使いか…」
ユウキはつぶやいた。プリムは小さくうなずく。
「ですがここに来るのは、やわなトレーナーとポケモンばかり…。」
薄青い瞳でちらりとユウキを見、プリムは続けた。
「久しぶりね、カゲツとフヨウを倒したトレーナーは…。あなたとのバトル、本気を出しても大丈夫だと嬉しいのですが…!」
「もちろん、受けて立つぜ!」ユウキは意気込んだ。
「そうこなくては。こちらも面白くありませんしね…」
プリムはその整った顔に笑みを浮かべ、ユウキを真っ直ぐに見つめた。
「…!」
ユウキは背筋を震わせた。
それは、氷のように冷たい微笑みだったのだ…。
「これより、四天王プリム対挑戦者ユウキのポケモンバトルを開始する。ルールはこれまでのバトルと同じだ。では、試合開始!」
「ではわたくしから…。行きなさい、オニゴーリ!」
「オニ〜ッ。」
体は氷の塊で、ギラつく青い目がユウキをにらんでくる。
「オニゴーリ…?」ユウキは図鑑を開いた。(ピッ☆)
“オニゴーリ がんめんポケモン ユキワラシの進化形。岩の体を氷のよろいでかためた。空気中の水分を凍らせて自由な形に変える能力を持つポケモン。”
「そうか…よし、ユナ!」
「コォン!」光をまといながら、ユナが場に出る。
「色違いですね…珍しい。でもだからといって、わたくしの氷の技に勝てるでしょうか…?」
「勝ってやるさ! ユナ、『とおぼえ』!」
「コオォーン!」
とおぼえで攻撃力を高める。そして…
「『かえんほうしゃ』!」
「コォーン!」
ユナの炎はまっすぐに、オニゴーリに突き進む!
そして、オニゴーリが炎に包まれた!  …ように見えた。
「やったか?」
「…どうでしょうね。」
炎が消えると、そこに残っていたのはただの氷の塊だった!
オニゴーリはユナの頭上にいる。
「『れいとうビーム』!」
「オニーッ!」
オニゴーリから冷気が発射され、ユナを襲う!
「かわして『かえんほうしゃ』!」
「コォン!」
ユナはオニゴーリの攻撃をかわすと、反撃に炎を浴びせる!
「『ひかりのかべ』。」
「オニッ。」
オニゴーリは防御壁を作り出し、ユナの炎攻撃を防いだ。
「『ひかりのかべ』は特殊攻撃のダメージを半減させるわ。」
「それなら…作戦変更だ!『おにび』!」
「コォン!」
青白い炎がオニゴーリを取り囲み、「やけど」を負わせ…
「つづけて『あやしいひかり』だ!」
「コン…ッ!」
さらにあやしいひかりでオニゴーリを「こんらん」させる。
「オニ…? オニッ!」
オニゴーリはこんらんのせいで、自分に攻撃を始める。
徐々にやけどによって、体力も減っていく。
だが、プリムはただ無言で、微笑を浮かべていた。
「オ…ニ。」オニゴーリの体力はやがて、底をつく。
そのままオニゴーリは倒れた。
「オニゴーリ、戦闘不能!」
「…戻りなさい、オニゴーリ。」
「いいぞ、ユナ!」
「コン!」
だがプリムはなお、口の端をわずかに持ち上げ、こちらをまっすぐ見つめている。
「これはほんの小手調べよ…見せて差し上げるわ、氷タイプの恐ろしさを! トドグラー、行きなさい!」
「トドッ!」
「トドグラーか…よし、ユナはいったん休んでろ。ゲイル、行け!」
「アブルッ!」
「フフ、他にも有利なポケモンはいるのではなくて…?」
プリムの言葉が飛んでくる。
(確かにまだルクスがいるけど…さっき回復させたばかりで、まだ少し疲れが残っているはずだからな。)
ユウキは考えをめぐらせて…言い放つ。
「ゲイル、『つるぎのまい』!」
「アブルルッ!」
戦いの舞で攻撃力を高め…
「『かまいたち』!」
ゲイルの周りで空気が渦を巻き、風の刃となって相手に切りかかる!
「『こなゆき』。」
「トドッ!」
プリムは冷静に、次の指示を出した。
かまいたちはトドグラーの粉雪に押され、相殺されてしまう!
「『あられ』。」
「トドォ!」
トドグラーが一声ほえると、フィールドの上から氷のつぶてが降り注ぐ!
以前に見た小石ほどの大きさのあられとは、威力が違うのがよくわかる。
そのあられときたら、いがぐりほどの大きさがあるのだ。
「アブ…!」
「それなら…ゲイル、風をまとえ!」
「アブルッ!」
かまいたちを撃つ時のように、自分の周りに風をまとわせる。
空があられの落ちてくる邪魔をして、ゲイルに当たらない。
「ほぅ…」
「『きりさく』だ!」
「アブルルッ!」
ゲイルはトドグラーに近づき、鋭いツメできりさく!
トドグラーにダメージを与えたが…
「トドッ。」
「アブ!?」
トドグラーに足を抑えられ、動きが取れない!
「『オーロラビーム』!」
「トドォー!」
至近距離での攻撃をくらい、のけぞるゲイル。
「アブル…!」
ゲイルは顔を振り、相手をにらみつける。
「よぉし…『かまいたち』攻撃!」
「アブルッ!」
「何度やっても同じこと…『こなゆき』で相殺させなさい。」
「トドォ!」
ゲイルの周りで、風が力強くうなる。
そこへトドグラーがこなゆきをぶつけたが、ゲイルを取り巻く強風にはねのけられる。
「トド!?」
ゲイルは高く飛び上がり、渦巻く風の刃と共に、頭のカマから白い衝撃波を放つ!
「アブルルゥーッ!」
かまいたちはトドグラーの急所を狙い、見事に命中させた!
「ト…ド。」
トドグラーはズシン、と倒れた。
「トドグラー、戦闘不能!」
「フフ…やりますね。トドグラー、戻りなさい。」
プリムはトドグラーをボールに戻す。
「ですが…あなたとポケモン達のきずなが、わたくしとポケモン達の氷点下の情熱に、かなうでしょうか…?」
プリムの薄緑色の瞳は、こちらに挑戦的なまなざしを送ってくる。
視線は冷たく、透き通る氷のような色の薄い虹彩だが、同時にその奥でバトルに対する情熱が渦巻いているようだ。
「絶対かなわない相手なんていない! だから…あんたにも勝ってみせる!」
ユウキの鮮やかな紅色の目は、赤々と燃える炎のよう。
対照的な2人の瞳が、交錯する――。
 つづく
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華苗 #13★2004.07/20(火)21:21
【第112話 三番手プリム!氷の情熱!〔後編〕】
「フフ…行きなさい、トドグラー。」
「トドッ。」
プリムは相変わらず微笑を浮かべたまま、3匹目のポケモンを繰り出した。
「ゲイル、続けて行けるか?」
「アブルッ。」
ゲイルが小さくうなずいたのを見ると、ユウキは指示を出した。
「『きりさく』だ!」
「アブルル!」
ゲイルはジャンプして勢いをつけ、鋭いツメで切りかかる!
「『なみのり』です。」
「トドー!」
トドグラーは大波を起こし、ゲイルにたたきつける!
だがゲイルはツメで波をきりさき、そのまま攻撃を決めた。
「トド…!」
「フフッ…今の『なみのり』はあなたのポケモンにダメージを与えるためだけのものでは無いのよ…」
「どういうことだ?」
「今にわかるわ…『ふぶき』!」
「トドォー!」
トドグラーは口から冷たく激しいふぶきをはきだした!
ゲイルの体に雪が吹き付ける。
その時、ゲイルの足元が凍り付きだした!
「アブ…!?」
フィールドも徐々に凍り付いていく。
「先ほどの『なみのり』でフィールドをぬらしておいて、『ふぶき』で凍らせる。これであなたは動けない!」
「アブッ!」
ゲイルは必死にもがくが、ツメがしっかり凍り付いてしまっている。
「直接攻撃が封じられたってわけか…それなら『かまいたち』!」
「アブ!」
ゲイルはかまいたちの体勢に入るが…
「させません!『れいとうビーム』!」
「トドーッ!」
激しい冷気がゲイルを包み込み…ゲイルは全身氷付けになった!
「…!」
「凍ってしまっては成すすべはないわ。引くより他には…倒されるしかね。
ゾッとするような冷たい笑みを浮かべて、プリムは言ってのけた。
「くっ…戻れ、ゲイル。」ゲイルをボールに戻し、「ユナ、頼む!」
「コォン!」
ユウキはユナを繰り出した。
「水タイプもあわせ持つトドグラーに、炎タイプで対抗するとは…。返り討ちにしておしまいなさい!」
「トドォ!」
トドグラーはなみのりで攻撃をしかけてきた!
だがユナはそれをひらりとかわし。
「『かえんほうしゃ』−!」
「コォォーン!」
ユナの炎はトドグラーにダメージを与える。
だが、大ダメージには至らなかったようだ。
「トドグラーのとくせい『あついしぼう』は炎や氷のダメージを半減するわ!」
「それなら…『ほのおのうず』!」
「コォン!」
ほのおのうずで、トドグラーの動きを抑制する。
「いくら相性がよくても、これならダメージを受けずにはいれないだろ! ユナ、行け!」
ユナはトドグラーに向かって、力いっぱいタックル!
「ト…ド。」
トドグラーはこの攻撃を受けて、倒れた。
「トドグラー 戦闘不能!」
「戻りなさい、トドグラー。」
トドグラーをボールに戻し、プリムは次のボールをかまえて、言う。
「ですが…このまま勝てると思ったら、大間違いです!」

そのころ、オダマキ博士はと言うと。
チルタリスのリアの背に乗り、キンセツの上空のあたりを飛んでいた。
「見えてきたぞ…ポケモンリーグが!」
「チルッ。」
海の向こうの陸地に、たたずむリーグ本部。
「まさかユウキ君がそこまで腕を上げていたとは…」
博士の真剣そうな表情。
だがそれも、次の瞬間には笑顔に変わる。
「もしもユウキ君がチャンピオンに勝ったら…ふふっ。ありえないことではないはずだからな…。」
博士は前方の陸地を見つめる。
風を受けて、横にはねた茶髪がゆれた。
「センリも驚くだろうなぁ! 楽しみだ!」
「チルゥ。」
もうひとがんばりだぞ、とリアの背をなでると、博士はひたとリーグの方を見つめた。
がんばれよ、ユウキ君。
君なら、きっと勝てるから…!
まぶたの裏に映るのは、意志の強いまなざしをした少年。
博士は心の中で、ユウキに精一杯のエールを送った。

「『ひかりのかべ』!」
プリムは苦しそうなオニゴーリに指示を与える。
「オ…ニ!」
オニゴーリはひかりのかべを作り出した。
「(特殊攻撃のダメージは半減させられる…でも相手が弱ってるしな…押し切れる!)ユナ、行け!」
「コォン!」
ユナはオニゴーリに炎を浴びせる!
「…ゴー…リ。」
力尽きて、オニゴーリは倒れた。
「オニゴーリ、戦闘不能!」
「戻りなさい、オニゴーリ。」プリムはオニゴーリのボールと最後の五つ目のボールを取り替えた。「フフ…さすがですわね。ですがわたくしも、最後のとっておきが残っているわ…行くのです!」
「トドゼ〜ル!」
ボールから飛び出たのは、長く太い牙が特徴的なポケモン。
「トドグラーに似てる…進化形かな?」
ユウキは図鑑を開いた。(ピッ☆)
“トドゼルガ こおりわりポケモン トドグラーの進化形。”
「やっぱり。」図鑑の説明は続いた。
“発達した2本のキバは10トンもある氷山を一撃で粉砕する。志望が分厚く、氷点下でも平気。”
「よし…ユナ、戻れ。」ユナをボールに戻し、「行け、ルクス!」
「ライッ!」ルクスが場に出る。
「『あられ』です。」
「トド〜ォ!」
トドゼルガがほえると、あられが降ってきてルクスを襲う!
「ライ…!」
「負けるな!『10まんボルト』!」
ルクスは電撃を放って攻撃するが…
ひかりのカベが電撃をはじき、トドゼルガにダメージはほとんどみられない!
「なにっ!?」
「『ひかりのかべ』はポケモンが倒れても残ります…さぁ、氷の怖さ、思い知らせて差し上げましょう…『ふぶき』!」
「ゼ〜ルッ!!」
トドゼルガは思い切り息を吸い込むと、白く輝く吹雪をはいた!
あられと混ざり、冷たい吹雪といがぐりほどもあるあられがルクスにびしばし打ち当たる!
「ラ…イ!」
「くっ…ここは『でんじは』!」
ふぶきとあられが吹き荒れる中、ルクスは弱い電撃を相手にぶつけ、「まひ」させる。
「トド…!」攻撃がやんだ。
ルクスとユウキも息をつくが…
「まだまだよ…」プリムはニヤリとした。「この技なら、あなたを一撃で倒せるわ!『ぜったいれいど』!!」
「ト…ドォ〜!!」
トドゼルガは冷気を放つが、その威力は今までと比較にならない。凍てつく冷風が、肌を刺すように吹き荒れる。
「究極の一撃技よ…これにはどう抗ってもムダ!」
「くそ…! ルクス…!」
ユウキはルクスにこそりと指示し、その場を耐えさせる。
「フフッ…そのまま凍り付いておしまいなさい!」
「そいつはいやだね。」ユウキはプリムをまっすぐ見据えた。「ルクスはこんなにがんばってくれてるんだ…オレ達の熱い力で、氷なんて逆に溶かしてやろうぜ、ルクス!」「ライッ!」ルクスも力強く応える。
その時…ぜったいれいどの攻撃が止まった。
「うそ…! 外したというの!?」
プリムの瞳が驚きにすぼまる。
「ラァイ!」ルクスは電気を体中にまとっている。
「『ぜったいれいど』を耐えてる間に、こっそり『じゅうでん』させておいたぜ! ルクス、決めるぞ!『かみなり』!!」
「ラァイ!」
ルクスは高く跳躍し、攻撃の体勢に入る。
「よぅし…行けぇーッ!」
「ラァーイッ!!」
ルクスの放った稲妻は獣のようなうなり声を上げ、ひかりのかべをも打ち破り、トドゼルガに激突する!
トドゼルガはおしかえそうと頭を突き出すが…逆に感電させられてしまった。
「ト…ド。」トドゼルガはどうと倒れた。
「トドゼルガ、戦闘不能! よってこの勝負、挑戦者ユウキの勝利!」
「そんな…。」プリムはこぶしを握り締めた。「あなたとポケモン達の魂のあつさ…何よりも熱く燃えるような強い意志。それはわたくしの氷の技が通じるものではなかったのですね…。」
目を伏せて、トドゼルガをボールに戻し、ユウキに白い手を差し出す。
ユウキは握手に応じた。
「久々に熱くなることができました。いいバトルをありがとう。…さぁ、先に進むといいわ!」
最後の一言に合わせて、奥の扉が開いた。
「こっちこそ、ありがとう!」
そういい残し、ユウキは扉をくぐりぬけた。
 つづく
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華苗 #14☆2004.07/20(火)21:23
【第113話 四番手ゲンジ!ドラゴンの底力!〔前編〕】
スポットライトで照らされた広間の中、1人たたずむその男。
いかつい顔つきに、白く染まった口ひげ。
堂々と仁王立ちをする姿は、年老いている事を感じさせない勇ましさ。
…と。それまで閉ざされていた目がカッと見開かれ、扉に向けられる。
ユウキが四番目の部屋にやってきた。
「来たな、挑戦者よ。」
低く、力強く響くその声に、ユウキも言葉を返す。
「あんたも四天王か。」
「さよう…わしは四天王最後の1人、ドラゴン使いのゲンジ!」
ゲンジはユウキを見つめ、話を続けた。
「ポケモンはもともと自由気ままな野生の生き物…時として我らを助ける事もあれば、逆に困らせられる事もある。そんなポケモンと暮らすには何が必要か、きさまにはわかっているのか?」
ゲンジに鋭い視線を向けられ、ユウキは負けずに睨み返した。
「これより四天王ゲンジとチャレンジャーのバトルを始める! ルールはこれまでと同様だ。試合、開始!」
「ゆけ、コモルー。」
「コモ〜。」
ゲンジは体がかたいカラに覆われた、コモルーを繰り出した。
「こっちは…頼むぞ、ウォン!」
「クロォ!」
ウォンは「やっと出番か!」というように腕を振り回し、身構えた。
「よし、『みずでっぽう』だ!」
「クロー!」
みずでっぽうで攻撃するが、コモルーはほとんどダメージを受けていないようだ。
「フン、その程度か? コモルー、『すてみタックル』!」
「コモッ!」
コモルーはものすごい勢いでこちらに突っ込んできた!
「かわして『じしん』だ!」
「クロォ!」
ウォンは飛び上がって攻撃をかわし、そのままフィールドに衝撃を加え、じしんを起こす!
「コモ…!」
「ぬぅ。きさま、なかなかやるな…。」と、ゲンジ。
「いいぞ!『みずでっぽう』!」
「クロォー!」
みずでっぽうがコモルーにせまる!
「そうはいかんぞ。『まもる』!」
「コモッ!」
コモルーは硬いカラに手足を引っ込めて、攻撃をはじいた。
「『りゅうのいぶき』!」
「コモーッ!」
コモルーはりゅうのいぶきで攻撃してきた!
「こっちも『まもる』だ!」
「クロッ!」
防御の態勢になり、りゅうのいぶきを防ぐウォン。
「『だくりゅう』だ!」
「マクローッ!」
ウォンは泥水の波を作り出し、コモルーにぶつける!
「コモ…!」
「大丈夫か、コモルー…」
「コモ…。」
ドサッ。コモルーは倒れた。
「コモルー、戦闘不能!」
「ほぅ…」ゲンジはため息をもらした。「戻れ、コモルー。」
コモルーをボールに戻し、ゲンジは言った。
「きさま、もう3人を破っただけあってなかなかの腕のようだな。だが…だからと言えわしにも勝てるとは思うな! チルタリス、ゆけ!」
「チルッ!」
鋭くなきごえを上げて、チルタリスは宙に羽ばたく。
「『りゅうのまい』じゃ!」
「チルーゥ!」
チルタリスは力強く舞い踊り、能力を高める。
「続けていくぞ、ウォン!『だくりゅう』!」
「クロォ!」
泥水の波で攻撃するが、チルタリスの綿雲のような翼にはじかれてしまう。
「ドラゴンは抵抗力が強い! 弱点といえば同じドラゴン同士か氷タイプくらいなものだ…」
「ドラゴンに、氷…」ユウキはつぶやく。
ユウキの手持ちにはその2つのタイプの攻撃技を持ったポケモンがいない。
…だが。ユウキは力強く、言った。
「相性が何だ! そんなもん、ひっくり返して見せる!」
ハルカがルネのジム戦で教えてくれたからな…!
「ほぅ…だが水タイプでどうやって勝つというんだ? チルタリス、もう一度『りゅうのまい』だ!」
「チルゥ!」
さらに能力を高めるチルタリス。そして…
「『りゅうのいぶき』!」
「チルーッ!」
黄金色に燃える息吹きが渦を巻き、ウォンに襲いかかる!
「クロ…!」
ウォンはとっさに腕で攻撃をしのごうとした。が、攻撃の勢いが強く、吹き飛ばされそうだ!
「がんばれ、ウォン!」
「クロッ!」
ウォンはフィールドに四つんばいになって、攻撃を防いだ。
「クロォ!」
「たえぬいたか…。」ゲンジは静かに言った。
「よし。『みずでっぽう』だ!」
みずでっぽうはチルタリスに命中する。ダメージはほとんどないようだが、羽毛に水がしみ、しずくがしたたっている。
「この程度でチルタリスを倒そうなど…片腹痛いわ!」
「そうかい? ウォン、ルクスと交代だ!」
「クロォ!」
ウォンをボールに戻し、ルクスを出すユウキ。
「ライボッ!」
「なに…?」ゲンジはつりあがり気味の目を見開いた。「まさか…」
「ルクス、『10まんボルト』!」
「ライボォル!」
バチバチッ!! 電撃はチルタリスに直撃!
「チルルゥ…!?」 そして…ドサッ。
チルタリスは倒れた。「チルタリス、戦闘不能!」
体の周りではまだ電気がパチパチと音を立てている。
「電気もドラゴンには聞きづらい、だがこの威力…そうか。『みずでっぽう』は電気攻撃への布石というわけだな。」
「そうさ! ウォンだけの力で勝ったことにはならないけどな…。」
ゲンジは倒れたチルタリスをボールに戻すと、口を開いた。
「やるな、若造…。次は2対2だ。フライゴンたちよ、ゆけ!」
「フラッ!」
「ゴン。」フライゴンが2匹。
「こっちも2体出せってことか。よし…ルクス、戻れ。ウィング、ユナ、頼む!」
「スバァ!」
「コン!」
「オオスバメにロコンか。フライゴン、手始めに『すなあらし』!」
「フラッ!」
フライゴンの1匹が、フィールドの砂を翼の羽ばたきで巻き上げる。
すなあらしがウィングとユナを襲う!
「ウィング、押し返せ!」
「スバァ…!」
ウィングはユナをかばいながら、砂を羽ばたきで押し返す。
「ならば…フライゴン、すなあらしをまとえ!」
「フラァ!」
フライゴンは自分たちの周りに砂を巻き上げ、バリケードにする。
「『じしん』じゃ、フライゴン!」
「フラーッ!」
もう一匹のフライゴンは、長いしっぽでフィールドをたたき、ゆれを起こして攻撃する!
「ウィング、ユナを乗せて飛べ!」
「スバッ!」
その指示で、ウィングは背中にユナを乗せて空中高く羽ばたいた。
2匹へのダメージはない。
「ほぅ…やるな。だがこれはどうかな…? 『かえんほうしゃ』!」
「フラァ!」
相手のフライゴンたちが、ウィングとユナに炎を浴びせてきた!
「コンッ、コォン!」
「スバ!」
ユナとウィングは何か話し合った。そしてユナはウィングから飛び降りて、かえんほうしゃを受けた! ウィングは降下する。
ユナは受けた炎を体にまとい、フライゴン達を守るすなあらしに大きな炎を吹き付ける!
「フラ…!」
「なんと…!」ゲンジは目を丸くした。
「『もらいび』のとくせいで炎の威力が上がってる…ユナもウィングも、オレの指示なしでもがんばってる…!」
その炎の熱で、宙に舞う砂が熱を持つ。
そして…ゴオォッ! 炎がうなる。
「!?」
ついにはすなあらしが発火し、炎のたつまきとなって燃え上がる!
ユナが攻撃を止める。落下するところを、ウィングがしっかり受け止めた。
「スバッ。」
「コン!」
すなあらしが収まると、フライゴンたちは「やけど」している状態だった。
「ほぅ…これはますます面白くなってきた。…こい、若造! ここからは、わしも本気を出そう!」
「望むところだ!」
竜使いの四天王、ゲンジとのバトルの行方は…?
 つづく
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華苗 #15★2004.07/21(水)11:21
【第114話 四番手ゲンジ!ドラゴンの底力!〔後編〕】
「フラ…ッ」
バトルフィールドに足をつき、フライゴン達は苦しそうにうめいた。
やけどのダメージを受けている。
「フライゴンになんでもなおしを使う。」
ゲンジはスプレー式のくすりをフライゴンに使う。
たちまちフライゴンは回復して、力強く羽ばたいた。
「あれ…フライゴンの羽…」
ふとユウキは気づいた。片方のフライゴンの翼には、破れた跡のようなものがあった。
「こいつの事か。」ゲンジはそのフライゴンを見上げる。「若いころにちょっとした事故があってな…わしもそのころはまだトレーナーとして未熟だった…。さて、それはそうと…」
ゲンジは目線をユウキに戻した。「ポケモンと接するために必要なもの…なんだかわかるか?」
「わかるさ! さぁ、バトルを続けるぜ!」
「スバッ!」
「コォン!」
ウィングとユナはユウキに応えた。
「では…ゆくぞ!『りゅうのいぶき』!」
「「フラッ!」」
2匹のフライゴンは、りゅうのいぶきでウィングを狙う!
「かわして『つばめがえし』!」
「スバッ!」
ウィングの翼にりゅうのいぶきがかすったが、負けじと持ち前の素早さで相手を翻弄し…攻撃を決める!
「フラ…!」
「ポケモンと接するには…正しい心が必要だろう?」ユウキが言った。「悪い奴がポケモンを扱ったら…ポケモンは悪い事や、卑怯な戦い方ばかり覚えちまう。でも正しい心を持ってりゃ、そうはならない。本当の強さを、身につけられる!」
「よくわかっているな、きさま…ならばその力、わしにぶつけてみるがいい!」
「よし…ウィング! あいてにぶつかっていけ! ユナも一緒だ!」
「スバーッ!」
「コォン!」
ウィングはフライゴンをめがけて、一直線に飛んでいく!
「『りゅうのいぶき』!」
「フ…ラーイ!」
2匹のフライゴンの攻撃がウィングに向かってくる。
「押し返すんだ!」
「ス…スバー!」
ウィングは羽ばたきで風を起こし、りゅうのいぶきを押し返す!
「いいぞ、ウィング!」
「ぬぅ…ならばこちらも、パワーアップじゃ!」
「フラァー!」
りゅうのいぶきの勢いがさらに強まった。
「コォーン!」
ユナもウィングに加勢し、炎攻撃をぶつける!
と…!? ユナの炎がウィングの風とからまり、炎はいっそう強く、白く、熱く燃え上がる!
「いいぞ…行けーっ!!」
「フラッ!?」
そして…炎は相手の攻撃を押し返し、フライゴン達を包んだ!
「フ…ラァ…!」
炎に包まれたフライゴンたちが、フィールドに墜落する。
…ドサッ!
「フライゴン…大丈夫か?」ゲンジが声をかけた。
「フ…ラ。」
炎が消える。2匹はもう体力が残っていないようだ。
「フライゴン、2対とも戦闘不能!」
審判が宣言する。
「フライゴン…よくやったな。戻れ。」
ゲンジは2匹をボールに戻した。そして、ユウキにこう言った。
「ならば…トレーナーとして必要な事はわかるか?」
「って言っても…そんなのトレーナーの思いつくだけあるだろ? これが正解ってのはないはずだよな。」ユウキは少し考えるように腕を組む。「オレはやっぱり…ポケモンを信じる事だと思うな。どんな奴があいてだろうと、ポケモンを信じて、信じて、信じぬく! これが大事だと思うな。」
「…なるほどな…やはりきさまは強い。名をなんと言う?」
「ユウキ。ミシロタウンのユウキだ!」
ユウキはゲンジに名乗った。
「ユウキか。よし…こいつが、わしの最後のポケモンだ! いでよ、ボーマンダ!」
「ボマーッ!」
ボーマンダは赤く大きな翼で羽ばたき、空中に飛ぶ。
「最後は一対一か。なら…ユナ、戻ってくれ。ウィング、続けて頼む!」
「スバッ!」
ウィングもボーマンダのように飛行する。
「ゆくぞ!『かえんほうしゃ』!」
「ボマーッ!」
「ウィング、かわして『つばめがえし』!」
「ス…バッ…」だが、なぜかウィングは動けない!
そのまま、炎の直撃を受けてしまう。
「どうした、ウィング?」
「ス…スバ…」
ウィングの翼は引きつって、ピクピクと動いている。
「…! まさかさっきのりゅうのいぶきで、まひしたんじゃ…」
「チャンスだ!『ドラゴンクロー』!」
「ボマァー!」
ボーマンダのツメが、ウィングにおそいかかる!
攻撃をかわすことができず、ウィングはドラゴンクローを受けて墜落する。
「ウィング! ごめんな…気づいてやれなくて…」
「ス…バ。」ウィングは弱々しく、首を振った。
「オオスバメ、先頭不…」審判が言いかけたが。
なんと、ウィングは起き上がろうとしている!
「!」審判員とゲンジは目を丸くする。
「そうだ、ウィング! こんじょうで立て!」
「スバッ!」
ウィングは立ち上がり、そして羽ばたき、ボーマンダのところまで飛んでいく。
「まだ、やるというのか…」ゲンジがつぶやいた。
「当たり前だ。ポケモン達ががんばってくれる限り、オレはやる!」
「…最後にもう1つだけ聞こう。」ゲンジは言った。「ユウキ、なぜリーグに挑戦しようと思った?」
何のため…?
そんなの、決まっているさ。
ユウキは口を開いた。
「オレはオレの力を試すため、ここにきた。上に登れるなら、行けるだけ行ってやる。たとえこのあと負けても、悔いる事はないと思う。それと、もう1つ。ポケモンとのきずなの力、確かめたい。どこまでポケモンと一緒に戦って行けるか、試したい!」
そこまで行って、ユウキはウィングを見上げる。
「ウィングのこんじょう…みせてやるよ。体力を削られたりする事で、普段以上の力を得ることもあるんだ!『からげんき』!」
「スバァァーッ!」
バシッ! ウィングの攻撃は力強く、ボーマンダを跳ね飛ばす!
「ボマッ…!」
今の一撃で、かなりのダメージを与えたようだ、
「見たか、オレ達の力!」
「スバ!」
「あぁ…確かにな。」
ゲンジはそういうと、ボーマンダを見やり、ユウキ達に目をむけた。
そして、審判員に一言、言った。
「わしの、負けだ」と。
少しの間、その場に沈黙が流れた。やがて審判が口を開く。
「し…四天王ゲンジ、敗北を宣言。よって、挑戦者ユウキの勝利!」
審判がそう告げる。
ユウキは呆然となった。
「負けって…まだ戦えるのに!」
「バトルで負けるのは自分のポケモンが全て倒された時とは限らない。」ゲンジは静かに言った。「わしはお前の心の強さに負けた。…わしはユウキ、お前の力を見たい。だから進め。この先でお前を待つ、チャンピオンと戦うのだ!」
ゲンジは指で、奥に通じる扉を示した。
「…わかった。オレは行く!」
ユウキはウィングをボールに戻し、いつの間にか開いていた奥の扉の前でくるりと振り向く。
「ゲンジさん、オレのバトル、見ていてな!」
そういい残し、ユウキは奥の階段に向かった。
ゲンジは無言でそれを見送り、ボーマンダをボールに戻す。
そして、口の端にニヤリと笑みを浮かべて。
「あいつなら、あるいはあの男を倒せるやもしれんな…」
そう、一言。
走っていくユウキの背中は、まもなくゲンジからは見えなくなった。

「四天王全員に、勝った…!」
1階でモニターの画面を見ながら、息を呑んだハルカ。
「じゃあ…ユウキ君が、チャンピオンに挑戦するんだ!」
ミツルは明るい笑顔を見せる。
「ココア、ミルク。君達も応援だ!」
「プラッ!」
「マイー!」
ボールから飛び出すなり、プラスルのココアとマイナンのミルクは両手に火花のポンポンを持って、応援を始めた。
「…それにしても」ハルカは窓からミシロの方角を見やる。「パパったら、遅いわね…リア、大丈夫かな。」
早く来なくちゃユウキのバトルを見損ねちゃうわよ、とハルカは心の中でつぶやいた。
「またどこかでドジしてなくちゃいいけどね。」
 つづく
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華苗 #16☆2004.07/21(水)11:22
【第115話 いままでの旅路】
カツン…  コツン…  ユウキの階段を登る足音だ。
全員、コンディションはバッチリ。薬で全快させたしな。
ユウキは上を見上げる。扉まではまだ遠い。
階段が長すぎて、足が疲れてきた。
立ち止まり、階段に腰を下ろした。自分の疲れも取らなくちゃ。
…目を閉じる。まぶたの裏に浮かんで見えるのは、あの日の出来事。
オレがホウエンに引っ越してきた日の――…
引越しのトラックにゆられて眠っている間に、ミシロタウンに着いた。
前に住んでたジョウトの町とは雰囲気が全然違ったけど、ミシロタウンはいい町だって、空気を感じてすぐわかった。
ハルカと出会って…ミズゴロウのウォンと出会って。
ホウエンでの最初の友達、初めて手にしたポケモン、初体験のポケモンバトル。
いろんな「はじめて」がつまった、オレの旅の始まりが、ミシロタウンだった。
父さんとバトルをしようと約束して、バッジを集めるためにジムをめぐった。旅はハルカと一緒だった。ハルカは物知りで、すごく頼りになるんだよな。
…バッジをゲットして、次は海を越えて、ムロ、カイナと進んだ。
カイナではナツキと出会えた。そこから、一緒に旅をした。
カイナではウォンも進化して、今の姿になった。
そして、ナツキとも出会えた。そこから一緒に旅をしたんだ。
キンセツまでの道でミツルが倒れていたっけ。すぐ病院に連れて行ってやったな…
シダケからカナズミへ向かって、インカムを手に入れた。
いまオレがポケモンと分かり合えているのも、インカムのおかげだ。
ミツルが加わって、ハジツゲ、フエンと進んだ。いろんなポケモンと出会い、仲間になったり。いろいろあったけど、ここでバッジを四つ集めて、父さんとバトルした。結果は引き分けだったけど、父さんに自分が強くなった事を認めてもらえた。
バッジを五つ集めたんだから残りのも、と、ヒワマキを目指した。そこまでに仲間と別れたりしたけど、それもトレーナーとしての成長にかかわってると、今は思う。
ヒワマキから、ミナモ。ここでナツキと別れて、陸をめぐる旅から海に切り替わった。
トクサネで夢幻竜の夢を見た。ルネでは三大化身の一匹、レックウザと一緒に、グラードンとカイオーガをの暴走を鎮めた。
勝利を収めて、悪の二大組織を解散させる事もできた。
そして最後のバッジを手にし、海を渡ってトクサネシティへ。
…それから、今に至る。
目を開ける。薄暗い階段のまわりを、下からライトが照らしてくれている。
…そろそろ行こう。
ユウキは立ち上がり、階段を登った。
カツン…  コツン…
登りながら、ユウキは考えた。
…やっぱりポケモンって、すごい奴だよな。
そして、いまここにいるのも、ポケモンがいたから…だ。
1段登る。照明とすれ違って、まぶしさに目をおおう。
ふと、ユナの炎の明るさを思い出した。
色違いの、黄色のロコン。少しおくびょうだけど、しっかり者。
小さい体のわりに、とっても強くて、そしてかわいい。
そんな炎の明るさ、強さが、ユナ自身の心を表すよう…。
…さらに2段。まわりは薄暗く、カベはどこなのかよくわからない。
ふと、ゲイルの暗い表情が浮かんだ気がした。
隻眼のアブソル。暗い過去を持つ、さみしがりや。
左の目は、深い傷によって失われた。
瞳の色は、悲しみを宿しているような暗い紅色。
目だけではなく心にも、深い傷を負ったポケモン…。
唇をきゅっと結んで、さらに3段、4段。
ここから落ちたら、どうなるんだろう…
階段に手すりが着いているにもかかわらず、やはり高いところだと思うと、ついつい考えてしまう事だ。
ケガじゃすまないな…そこまで考えて、ルクスのことを思い出した。
ライボルトのルクス。まじめで頼れる奴だ。
であったときは足にケガをして、木の下にうずくまっていたよな。
手当てした恩返しのつもりか、オレについてきたんだ。
オレの気持ちにいつも応えてくれる。お前ほど頼れる奴ってあんまりいないと思うぜ。
5段、6段、7段…登っている途中で振り返ると、登ってきた段が下に連なっていた。
ウィングは飛べるから、こんな風にいろいろ見下ろせるよな。
オオスバメのウィング。やんちゃで少し幼い。
トウカの森でであった時は、スバメの大群の指揮取ってたな。
幼い感じで敬語使われた事はほとんどないけど、ユナに先輩って呼ばれた時は嬉しそうだったよな。
頬をゆるめて、さらに駆け上る。
カシスなら、もっと早く登れるのかな。
マッスグマのカシス。せっかちで突っ走るのが好きらしい。
父さんからもらった、珍しい「しんそく」を使えるジグザグマだった。
いつもハイテンションで、走りたくてうずうずしてる。
そういった性格のせいで、失敗する事もたまに…。
…ようやく扉が見えてきた。あと十数段ほどか。
そこで立ち止まり、上のほうを見上げた。
ジン、元気にしてるかな…。
ジンはグラエナ。この種族には珍しく、おとなしく、落ち着いている。
オレが初めて自分でつかまえたポケモンだ。
旅の途中で別れて、育てやさんに残っている。
育てやさんの老夫婦と、銀色をしたキュウコンのレナを守るため…。
最近、ユナの親らしいということがわかったんだよな。
そして…。後の階段を駆け上る。もう扉はすぐそこだった。
ここまで、やっと来れた。
もしウォンに出会えなかったら、ホウエン中を見てまわるのもできなかったと思う。
オレのパートナーのヌマクロ−。うっかりやだけど、にくめない奴。
お調子者で、でも真剣にがんばってるときもある。
負けず嫌いで、トラブルメーカーな、ウォン。
1進化形だけど、きっとそんなの関係ないぐらい強いんだ。
オレ、お前達にずいぶん助けられたんだよ……
この頂点への道だって、オレだけが登っているワケじゃない。
うまくは言えないけど、いろんな人の期待や…ポケモン達と一緒に、ここまでの階段を登ってきた。
ここに限らない。ポケモンをもらって、トレーナーとしてデビューしたその時から、オレも、みんなも、この頂点への道を登っていくんだ!
すぅ、はぁ。 深呼吸して、オレは最後の1段を登る。
オレの前にあるでかい扉には、「王者の間」と刻まれていた。
「王者…チャンピオンのいる場所、ってことか…よし!」
もう一度大きく深呼吸して、扉をにらみ…押してみる。
キキィ… とこすれる音がして、開いた扉の向こうの部屋を見る。
こっちの暗い階段に慣れた目には、奥の部屋は少々明るすぎたため、目がくらんだ。
ユウキは王者の間に、一歩、踏み出した。
 つづく
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華苗 #17☆2004.07/22(木)17:24
【第116話 最終決戦の幕開け】
ユウキは王者の間に足を踏み入れた。
広い紫のバトルフィールドの向こうに、チャンピオンと思われる男が立っていた。
「ようこそ、王者の間へ…」
「えっ…まさか…」
ユウキは目の前にいる人物の姿を見て、絶句した。
色白で銀髪の、背の高い青年。
こちらを見つめてくるのは、プリムに負けないほど薄い青色の瞳だった。
「まさか…チャンピオンって…ダイゴさん!?」
「ご名答。」
さらりと言う、ダイゴ。ユウキは開いた口がふさがらない。
「ルネから君達がココに向かったすぐあと、僕もココに来た。君を待っていたんだ、ユウキ君。」
ちょっと驚かせすぎたかな、とダイゴはクスクス笑った。
そして、こう続ける。
「ユウキ君、君はこのホウエンを旅して歩く中で、何を見てきた? ポケモンと一緒にココまで来た中で、何かを見つけなかったかい?」
「何か…?」
口は閉じた。頭は今になってようやくちゃんと働き始めた感じだ。
「フフッ…君の心に芽生えた何か、それを僕にぶつけてほしい!」
心に芽生えたもの…か。
「…はい!」
ユウキは力強く、返事をした。
「いい返事だ。僕は誰が相手だろうと、手加減はしない。それが相手に対しての礼儀だからね…さぁ、はじめよう!」
審判が進み出て、話し始めた。
「これよりチャンピオン・ダイゴ対、挑戦者ユウキのバトルを開始する。6対6のフルバトル。時間無制限。どうぐの使用禁止。途中、ポケモンの交代はチャレンジャーのみ認める。それでは…試合、開始!」
審判の言葉を合図に、ダイゴとユウキの間に緊張した空気が流れる。
決戦の、始まりだ。
「まずは…行くんだ、エアームド!」
「エアー!」
ダイゴの一番手は、鋼のヨロイをまとった鳥ポケモン、エアームド。
「こっちは…行け、ユナ!」
「コォン!」
ロコンのユナも、体から光を発しながら場に出た。
「やはりね。鋼には炎で来るだろうと思っていた。でも…。エアームド、まずは『まきびし』で相手の動きを抑制(よくせい)するんだ!」
「エアッ!」
エアームドはトゲトゲした小さなまきびしをフィールドにばらまく。
ユナはそれに囲まれてしまう。
「踏んだらダメージを受けるよ。続いて…『はがねのつばさ』!」
「エアーッ!」
エアームドは翼に力を込めた。そして両翼をいっぱいに広げて、ユナにぶつかってきた!
「コン…!」
今のは翼をぶつけたというより、翼で切りつけたというほうが正しいかもしれない。
エアームドの羽は平たい鉄で、刀のような切れ味を持っている。
相性がいいにもかかわらず、ユナのダメージは大きかった。
「がんばれ、ユナ!『あやしいひかり』!」
「コォン…!」
「エアッ!?」
ユナはあやしいひかりでエアームドを惑わせ、「こんらん」させた。
「いいぞ、よし…『ほのおのうず』でエアームドをしばるんだ!」
「コォン!」
ユナは炎をうまく操って、エアームドを炎で縛り付けた。
エアームドはあまりの熱さに、もがき、暴れる。
「エ…ア…!」
エアームドはそのまま、フィールドに落ちた。
「しっかりしろ、エアームド!『どくどく』!」
「エ…ア!」
エアームドはもうどくをフィールドにばらまく。
ユナはどくどくを受けてしまった。
「く…がんばれ、ユナ!『かえんほうしゃ』!」
「コ…ォーン!」
かえんほうしゃはエアームドに直撃!
苦手な炎の攻撃には耐えられず、エアームドは倒れた。
「エ…ア。」
「エアームド、戦闘不能!」
「ご苦労、エアームド。ゆっくり休んでくれ。よし…行け、ボスゴドラ!」
「ゴッドーラ!」
黒金と白銀のヨロイを体重にまとったような、威圧感のあるポケモン、ボスゴドラ。
「ボスゴドラ…コドラに似てるな。」ユウキは図鑑を取り出す。
“ボスゴドラ てつヨロイポケモン コドラの進化形。山ひとつを自分の縄張りにしていて、荒らした相手はようしゃなく叩きのめす。いつも山の中を見回りしている。”
「なるほど…」ユウキは図鑑をしまった。
「ひゃ…それにしてもでかいなー…」ボスゴドラを見上げるユウキ。
「コン…」
ユナも、自分の身長の3倍以上はある相手を見上げていた。
「でも、体が大きいイコール強いってことにはならないよね。その小さな体の中の強さを、存分に発揮してほしい!」
「よぉし…ユナ、『おにび』!」
「コンッ!」
青白い火の玉がボスゴドラにゆっくり近づく。が…
「ふりはらうんだ。」
「ゴド!」
ボスゴドラはおにびに長い尻尾を思い切り打ち付けた!
おにびはあっけなく消されてしまう。
「そんな…!」
「ボスゴドラ、『じしん』攻撃!」
「ゴドォォー!」
ボスゴドラは重たい足で地面を打ち鳴らす。
「コン…!」
ユナはもうどくで体力がどんどん削られていく。
さらにじしんの揺れでまきびしがはねて、うずくまっているユナにビシバシ当たる。
「くそ…どうすれば! …そうだ!」
ユウキは何かを思いついた。ちょうどボスゴドラが足を持ち上げてじしんを起こそうとしているところだ。
ズゥン!! 重い衝撃がフィールドに加わる。
「ユナ、『じしん』のゆれを利用して、ジャンプだ!」
「コン!」
ゆれが起こる。地面が縦に揺れるのをバネにして、ユナは大きくジャンプした!
「ゴド!?」
そのまま、ボスゴドラの腕に着地して、ユナはさらにボスゴドラの頭の上に這い登った!
「『かえんほうしゃ』―!」
「コーンッ!!」
ボスゴドラの鋼鉄の体に、思い切り炎を浴びせかける。
頭を炎で熱せられて、ボスゴドラは熱さに苦しみ、もがく。
「コ…ォ…!」
いまやユナは激しく暴れるボスゴドラにつかまっているだけで精一杯のようだった。
頭を左右に揺さぶっているボスゴドラに、ユナは吹っ飛ばされそうだ。
「がんばれ、ユナ!」
「コ…オォーン!」
負けじとユナも、炎を吹いた。
ボスゴドラに直撃する。
「ゴドォー!!」
いよいよボスゴドラはたまらなくなり、ユナを振り落とそうと、自分の尻尾で自身の頭を殴りつけた!
「ゴド…!」
「コォ!?」
自分の攻撃に倒れるとはボスゴドラも思っても見なかっただろう。
ドシン、とその巨体が倒れた衝撃で、「じしん」並みのゆれが起こった。
ユナもフィールドに落ちる。どくのダメージで体力も限界のようだ。
ここで、審判が言った。
「ボスゴドラ、ロコン、共に戦闘不能!」
「ボスゴドラ…。よくがんばったな。戻ってくれ。」
「ユナ、ナイスファイトだ! 戻ってゆっくりしててな。」
ユウキもダイゴもボールにポケモンを戻した。
ダイゴは三つ目のボールを構える。
「さて…。僕の三番手は、こいつにしよう。アーマルド!」
「アマッ!」
頑丈そうな青いコウラに全身を覆われた、2本の大きく鋭いツメを持つポケモン…アーマルド。
「さて、君の次のポケモンはなんだい?」
ダイゴは微笑みながら、そう言った。

一回ロビーで、モニター越しにユウキを見守るハルカとミツル。
応援にはサーナイトのミライも加わっていた。
「プラァ!」
「マイー!」
プラスルのココアとマイナンのミルクは、体から青白い光を発した。
「てだすけ」だ。
「こらこら。」ミツルが2匹に言った。「モニター越しなんだから、技は届かないんだよ。」
「プラ…」
「マイ…」
2匹はしょんぼりしたようだ。
『フフッ。ミツル、ココアちゃんとミルク君はホントに応援が好きなんだね。』
ミライは声を出さずに、ミツルにテレパシーでそう伝えた。
『そうだね。ねぇミライ、ユウキ君、きっと勝てるよね?』
ミツルも思念でミライにたずねた。
『さぁ、どうかな…僕の見る限りではあのダイゴって人も相当の腕だね。』
『そりゃ、マグマ団とアクア団の幹部を簡単にやっつけちゃったんだもんね。』
『そういうことで、僕はまだ、わからないよ。』
『そっか…』
ミツルは会話を切って、モニターのほうに目をやった。
(フフッ…サーナイトが主人にウソをつくのはやっぱりいけないかな。でも、先の展開を教えてしまったら面白くないだろう? ミツル。)
ミライは心の中でそうつぶやいた。
(『みらいよち』でちょっと予知してみたけど…どこまであっているかな。未来が変わるコトだって、十分ありえる話だから…。)
ミライはモニターを見つめながら、また心の中でそう言った。
いかにも楽しんでいるような口ぶりで。
そして、人知れずほくそえんだのである。
 つづく
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華苗 #18☆2004.07/22(木)17:26
【第117話 チャンピオンとの戦い】
「行け、ルクス!」
「ライボッ!」
ユウキの2体目は、ライボルトのルクスだ。
交代早々、まきびしによってダメージを受けてしまうが。
「アマ…」
アーマルドは針のように細い瞳で、ルクスをにらんだ。
「ボルッ!」ルクスもアーマルドをにらみ返す。
「ライボルト対アーマルド、試合再開!」
「ルクス、『スパーク』!」
「ラァイ!」
ルクスは体を電気で包んで、アーマルドへ突っ込んでいく!
「『げんしのちから』!」
「アーマッ!」
アーマルドは、無数の岩を投げつけてきた!
岩はルクスの目の前に降ってきて、攻撃を妨害する。
「ライ…!」
「岩に向かって『みずのはどう』だ!」
「マルドッ!」
アーマルドは岩にみずのはどうをぶつける。
その衝撃で岩が吹き飛ばされ、みずのはどうと一緒にルクスに命中する!
「ボル…!」
「『きりさく』!」
「アーマッ!」
間髪いれず、次の攻撃が来る!
「かわせ、ルクス!」
「ライッ!」
ルクスはそれを横跳びになってかわす。
アーマルドのきりさくはルクスを外したが、近くの岩を真っ二つに割っていた!
「アマーッ。」
「なんて破壊力だ…!」ユウキは息を呑む。
「フフ。アーマルドのツメは鉄板をも串刺しにするよ…『きりさく』!」
「アマーッ!」
アーマルドが力任せに、ルクスにツメを振り下ろした!
ズドゥ…ン!
すなけむりが立ち込める。きりさくは、ルクスをとらえていた…はずだった。
すなけむりが収まる。ルクスの姿は見当たらない。
「アマ…!?」
目の前には、ボールを構えたユウキだけだった。
「ふー、あぶないとこだった…。」ユウキはひたいを袖でぬぐった。
「攻撃が当たる寸前に、ボールに戻していたのか。」ダイゴが言った。
「そうさ。次は…ウィング、お前だ!」
「スバッ!」
「岩タイプに対して、飛行タイプで挑むとはね。よし、『げんしのちから』だ!」
「アマッ!」
フィールド全体に、大岩が降り注ぐ!」
「一気に上昇してかわせ!」
「スバーッ!」
ウィングは岩をすり抜け、急上昇して直撃をまぬがれた。
「そこから…急降下!」
「スバァ!」
げんしのちからが止んでから、ウィングは一気に急降下!
それはあまりに素早くて、一瞬だけウィングの姿が消えたかと思わせたくらいだ。
「アマッ!?」
「早い…!」
「『つばめがえし』!」
「スバァー!」
ウィングは矢の落ちるように素早く、鋭く攻撃を決めた!
「ア…マル…ッ」
アーマルドは、フィールドにひざを着く。
「ウィング、行っけぇー!」
「スバァーッ!」
アーマルドの頭部へ、思い切りたいあたり!
「アー…マ。」
この攻撃で、アーマルドは ズシン、と後ろに倒れた。
「アーマルド、戦闘不能!」
「アーマルド…ご苦労。戻るんだ。」
ダイゴはアーマルドを引っ込めた。
「これで僕の残りは3体か…でも、まだまだこれからだ! ネンドール!」
「ネーン。」
土でできた人形のようなポケモンが、岩だらけのフィールドに降りた。
「ネンドール、『リフレクター』!」
「ネーンッ。」
ネンドールは自分の前に透明な壁を作り出す。
「さらに『ひかりのかべ』!」
「ネンッ。」
そしてさらに、青い半透明の壁を重ねた。
「『リフレクター』は物理攻撃のダメージを半減する。」ダイゴが説明した。「『ひかりのかべ』の方は…言わなくてもわかるね。」
プリムに説明してもらっただろうしね、とダイゴが小さく言った。
「ダブルで守りに入ってきたか…それなら、真正面から行くまでだ! 『つばめがえし』!」
「スバーッ!」
ウィングはまっすぐにネンドールに向かっていく!
が…!?
「『サイコキネシス』!」
「ネン…!」
「スバ…!」
サイコキネシスで、ウィングの体がゆっくりと持ち上がっていく!
「フィールドにたたきつけろ!」
「ネン!」
ネンドールはウィングを地面にたたきつけた!
「スバ…!」
フィールドに落ちたせいで、残っていたアーマルドの岩がウィングを傷つける。
さらに「まきびし」がウィングにダメージを与えた。
「ス…バ…!」
「こんじょうだ! 立ちあがれ、ウィング!」
「スバッ!」
何とかウィングは起き上がる。
「『がむしゃら』だ!」
ユウキの指示に、ウィングは攻撃の構えを取ったが…
「そうはいかない。『はかいこうせん』!」
「ネーン…!」
ネンドールの両手にエネルギーが集まっていき…そこから螺旋状の光線が放たれる!
ズドォンッ!!
ウィングは、直撃を受けた!
「ウィングッ!」
ウィングは、フィールドに倒れていた。
「スバ…。」
「オオスバメ、戦闘不能!」
「くっ…ウィング、よくがんばったな。戻れ!」
ウィングをボールに戻すユウキ。
こんなに簡単に、やられてしまうなんて…
そこでダイゴが口を開いた。
「僕はモニターで君の戦いを見ていたんだ。そう何度も同じ手ばかりじゃダメだよ。じきに誰かに破られてしまうんだからね…」
「そうか…よし。ゲイル、頼む!」
「アブルルッ!」
「アブソルか。ここは様子を見ようか…。」
ダイゴは不敵な笑みを浮かべながら、腕を組んでゲイルの方を見た。
「ゲイル、『つるぎのまい』から『きりさく』!」
「アブルルッ!」
つるぎのまいをおどり、攻撃力を高めて…ネンドールに飛びかかる!
「アブーッ!」
だが、手ごたえはほとんどない。
与えるはずだったダメージの半分は、リフレクターに吸収されてしまった。
「さて…こちらも行くとしよう。『サイコキネシス』!」
「ネン…!」
えっ? エスパー技は悪タイプのゲイルには効かないのに…
ユウキはそう思ったが、ネンドールがサイコキネシスをかけたのはゲイルではない。
フィールドの大岩にサイコキネシスをかけて、ゲイルにぶつける!
「アブル…!」
ゲイルはそれをよけるが、あらゆる方向から向かってくる攻撃に、対処しきれない!
「ネンドールは防御能力の優れたポケモンで、攻撃力はあまり高くない…だけど、さほど強くない攻撃も、使いかた次第では破壊力を持つ! そこだ!」
「ネン!」
ネンドールが岩を操り、逃げ惑うゲイルを追わせる! そして…
ゴッ…! ゲイルは岩に正面衝突し、鈍い音が響く。
「アブ…ゥ…!」
ゲイルのダメージは大きい。
「もう一度…『はかいこうせん』だ!」
「ネェーン!!」
ズドォ――ン!! はかいこうせんは、ゲイルに直撃した!
「ア…アブ…」
「『はかいこうせん』を受けて、果たして立ち上がれるかな?」と、ダイゴ。
「くっ…ゲイル、立つんだ!」
「ア…ブ…」ダメージが大きく、ゲイルは立ち上がれない…
「立ってくれ、ゲイル! そんな攻撃、お前なら耐えられるだろ!」
そのとき…。ユウキには、ゲイルの言葉が聞こえた。
『言ってくれるじゃないか…まあ、この程度…昔受けた痛みに比べれば…!』
よろめきつつも、ゲイルは立ち上がり、力強く言葉を放つ。
『どうってこと…ない!』
「…!」
あれ…? 頭にゲイルの声が響いた?
インカムのスイッチ、入ってないはずなのに…
「根性は大したものだね。」立ち上がったゲイルに、ダイゴが言った。「だがもうすぐ、ネンドールの反動も消える!」
「…!」ダイゴの声で、ユウキはハッとした。指示を出す。「ゲイル、『つるぎのまい』!」
「アブルッ!」
もう、声は聞こえなくなったようだ。ゲイルはつるぎのまいをおどる。
「『はかいこうせん』!」
「ネーン!!」
ネンドールの両手から、はかいこうせんが放たれる!
「ギリギリまでひきつけて…かわすんだ!」
「アブッ…!」
ゲイルは攻撃が当たる寸前、大きくジャンプしてそれをかわす。
「なに…!」
ネンドールは反動で動く事ができない。
いまが、チャンスだ!
「『かまいたち』!」
「アブーッ!」
風の刃が渦巻き、ネンドールめがけて切りつける!
「ネン…!」
ネンドールはよろける。
「とどめの『きりさく』攻撃!」
「アブッ!」
ザシュッ!! ダメージの半分はリフレクターに吸収されてしまったが、手ごたえはあった。
「ネーン…。」
ネンドールは力尽きて、フィールドに落ちた。
「ネンドール、戦闘不能!」
「ネンドール、戻れ。よくやったな。」
ボールにネンドールを戻して、ダイゴが続けて言った。
「君は…やはり強い。僕を相手にしてここまで戦えたトレーナーはなかなかいなかった。次は…お前だ! ユレイドル!」
「レイ…。」
頭に目のような模様のついた、八本の触手を持つポケモン。
ユレイドルは黄色い目を、ギラリと不気味に光らせた。
「ゲイル、続けていけるか?」
「アブッ。」ゲイルはうなずく。
「よし…『つるぎのまい』!」
「アブルッ!」
三度目のつるぎのまい。攻撃力はいまやもとの数倍に跳ね上がっていた。
「『きりさく』攻撃!」
「アブルルーッ!」
ゲイルはツメを大きく振りかぶり、ユレイドルに飛びかかる!
だが…!
「ユレイドルに近づきすぎるのは禁物だよ…」
不適に笑うダイゴ。そして…!
「『ギガドレイン』!!」
「レイ…ユゥ〜!」
ユレイドルの触手がゲイルに絡みつき…体力を吸い取っていく!
シュルルル… 触手が引っ込む。
「ア…ブ…ルゥ…」
ゲイルは力なく、くず折れた。
「アブソル、戦闘不能!」
「くっ…もどれ、ゲイル!」
ユウキはゲイルをボールに戻す。
「ユウキ君、君の力はそんなものかい…?」
ユウキは黙って、ダイゴの言葉を聞いた。
「四天王を破ったその力を、限界まで、見せてくれないか…」
ダイゴのセリフに、ユウキは唇を噛む。
次のポケモンを繰り出そうと、ユウキはボールを手に取った。
 つづく
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華苗 #19☆2004.07/22(木)17:28
【第118話 相棒とのきずな】
ウィーン…  1階の自動ドアが開いた。
駆け足で建物の中に入ってくるのは、白衣を着た中年の男と、1匹のチルタリス。
あわてて駆け込んできたため、男は足がもつれて転びかけた。
「チルッ!」
チルタリスが男の服のそでを引っ張り、ロビーへと連れて行く。
ベンチに座ってモニターを見ている少年少女とその周りのポケモン達を見て、男は言った。
「ハルカ!」
「…! パパ!」
「オダマキ博士!?」
それはオダマキ博士だった。息を少し切らしながら、口を開く。
「すまない…遅れたようだね。」
「もうっ! どこで道草くってるのかと思ったわ!」と、ハルカ。
「そう怒らないでくれよ、ハルカ。強風にあおられて、進路がそれてね…。チルタリスが頑張ってくれたけれど。」
「チルゥ…」
見ると、リアの綿雲のような翼や、空色の羽毛が、かなり逆立っていた。強風のせいだろう。
「そういうことね。リア、ご苦労様。」
チルタリスのリアをなでてやって、ハルカは話を続けた。
「さ、ユウキのところに行かないと! もうチャンピオンと戦ってるのよ!」
「な、なんだって!? だが、まだ受付に行ってないんだよ…」
「えー!? もーっ、パパったらぁ!」
モニターを横目で見ながら、ハルカは父親に大声を浴びせた。

「『ヘドロばくだん』!」
「ユレ〜イ…!」
ビシャバシャッ! ヘドロのかたまりがルクスを襲う!
「ライ…」  ドサッ。
「ライボルト、戦闘不能!」
「ルクス…よくがんばったな。」
倒れたルクスをボールに戻す、ユウキ。
「これでお互い、残り2体…か。面白くなってきたね…」
ダイゴが言った。守りの壁はすでに消えている。
弱っていたルクスは、結局相手にダメージを与えられないうちに倒されてしまった。
「でんじは」を当ててユレイドルをまひさせることはできたが。
「よし…」ユウキは五つ目のボールを投げる。「カシス!」
「マァース!」
「マッスグマか。よし…ユレイドル、『げんしのちから』!」
「ユ…レイ!」
ユレイドルはたくさんの岩を持ち上げ、フィールドに落下させる。
「かわして『ずつき』だ!」
カシスは落ちてくる岩をたくみにかわし、ユレイドルに攻撃!
「ユレ…!」
ひるみ効果が出たようだ。ユレイドルは動かない。
「チャンス…! 『はらだいこ』だ!」
「マッス!」
カシスは攻撃力を限界まで高める。
「『しんそく』!」
「マァーッス!」
カシスのスピードがものすごいため、一瞬だけカシスが消えたかと思うと…次の瞬間には、ユレイドルの目の前に現れる!
「く…『ギガドレイン』だ!」
「ユレ…イ!?」
だがユレイドルは、まひのせいで体がしびれて動けないようだ。
「ユレ…!」ユレイドルはよろける。
「く…だが岩タイプを持つユレイドルには打撃系の攻撃は効果が薄い…」
ダイゴは言うが。
「それが何だ!」ユウキが言い放った。「相性が何だ! カシスなら…岩だって、砕いてやれる!」
と、その時。
『やってやろうじゃんッ! たぁ――ッ!』
カシスは掛け声と共に、ユレイドルに飛びかかる!
「レイ…!」ユレイドルの目は、間近に迫ったカシスを見た。
『『ずつき』−ッ!』
ゴォッ! 鈍い音を立てて、カシスとユレイドルの頭同士がぶつかった。
「ユ…レ。」
ドシャッ。 この攻撃で、ユレイドルは倒れた。「ユレイドル、戦闘不能!」
「ユレイドル…ご苦労様。戻るんだ。」
「マス…。」
ユレイドルの頭がかなり硬かったらしく、こちらのもずつきの反動が来たらしい。
頭を抱えるカシス。
「(また、カシスの声が…?)よくやった、カシス!」
ユウキは首をかしげつつ、カシスの頭をそっとなでてやった。
「ユレイドルを倒すとはね…こいつは僕の手持ちの中でも特にバトルが得意なやつなんだよ。」ダイゴはユレイドルのボールをしまい、最後の、六つ目のモンスターボールを取り出して、続きを言った。「さて、こいつが…僕の最後のポケモン。初めて手にした、僕の信頼できる、パートナーだ!」
ダイゴは、モンスターボールを繰り出した!
「メタ…!」
場に出たのは、青っぽい色の金属でできた体を持つ、四本足のポケモン。
その赤い瞳は、ひたとこちらを見つめてきている。
「こいつは…?」ユウキは図鑑を開いた。(ピッ☆)
“メタグロス てつあしポケモン メタングの進化形。四つの脳みそは、スーパーコンピュータよりも速く、難しい計算の答えを出す。四本足を折りたたみ空中に浮かぶ。”
「こいつは手ごわそうだな…」
ユウキが低くつぶやいた。
「フフ…いくよ。『サイコキネシス』だ。」
「メタッ!」
強力な念力攻撃は、カシスの頭に直撃した!
「マッス〜!!」
「カシス!」
カシスは、この攻撃で気絶してしまう。
「マッスグマ、戦闘不能!」
「く…っ、カシス、よくがんばったな。」
カシスをボールに戻す。
そしてユウキは、最後のボールを手に取った。
もう…後がない。頼むぞ…!
「ウォン! 行くんだ!」
「クロォ!」
ユウキの最後のポケモン、ヌマクローのウォンは、腕を前に突き出し、身構える。
「いままで温存しておいた力…存分に使うんだ!『だくりゅう』!」
「クロォー!」
泥水の波で、メタグロスに攻撃をする!
だがダイゴは、落ち着き払って、メタグロスに指示を与えた。
「フフ…『サイコキネシス』だ。」
「グローゥ!」
メタグロスはサイコキネシスでだくりゅうを止めた!
「なにっ!?」
「クロッ!?」
攻撃を止められ、ユウキとウォンは驚愕する。
「押し返すんだ!」
「メッタ〜!」
ザバァンッ! 波は進路を変え、こちらに向かってくる!
「それなら…『まもる』!」
「クロッ!」
ウォンは波に飲まれて一瞬姿が見えなくなったが、自分へのダメージは受けていない。
「いいぞ、ウォン…『じしん』だ!」
「クロオォー!」
ウォンは大きく跳躍し、落ちてくる勢いも上乗せして、フィールドにじしんを起こす!
「ならば、こちらも『じしん』!」
「グロスッ!」
メタグロスは前の2本の足を振り上げ、地面をたたいた!
じしんのゆれはさらに強まり、ウォンは立っていられない!
だがメタグロスは足のツメをスパイクのように地面に食い込ませ、倒れない。
「ク…クロッ!」ウォンは転んでしまった!
「今だ、『はかいこうせん』!」
「メタ…グロ――スッ!」
凄まじい威力の攻撃が、ウォンに直撃する!
「ウォン…!」
同時に舞い上がったすなけむりが、視界をさえぎる。
やっとフィールドが見えるようになってくると、そこには立ち上がったウォンの姿があった!
「『はかいこうせん』を耐えたというのか…」ダイゴが驚き、そうつぶやいた。
「クロ…!」ウォンはそれに対して、ニッと笑って見せた。
「よく耐えた、ウォン! よし…『だくりゅう』!」
「クロォー!」
だくりゅうはメタグロスにヒット!
ユウキは続けて指示を与えた。
「がんばれ、ウォン!『じしん』…!」

一方1階ロビーでは、アールがモニターに向かって叫んでいた。
『ウォン…アンタはアタシを倒したんだからねッ! 負けたら承知しないんだからッ! がんばるのよー!!』
「アール、応援はいいけど…まわりに迷惑だよ。」
ハルカは逆立ってしまったリアの羽を直しながら、そう言った。
『ゴメン、ハルカ。 …リュクも応援!』
アールは半ば命令するようにリュクに言ったが。
『オレが? アイツの応援…? フン。やるだけムダだな…』
オレが応援した所であいつががんばると思うか? と、リュクは付け足した。
その答えにアールはつかつかとリュクのほうに歩いていき、首を絞め上げる。
『つべこべ言わずにやるっ! 焼かれたい!?』
脅し交じりの文句に、リュクは青ざめた。
『う゛…っ!』かなり苦しそうである。『わかった…わかったから…はな…せっ』
『クスクス。暴力はよくないね、アールちゃん?』
ミライがやんわりと指摘した。
アールに放してもらい、リュクは息をつく。そこへ、羽が整ったリアが。
『リュクさん…ウォンさんはあんなにがんばっているのに…応援もしてあげないんですか…?』
リアに見つめられて、リュクはたじろいだ。
『ぐっ…わかったよ、やればいいんだろ!』
リュクはモニターをにらみつけて、言葉を放った。
『このオレが応援してやるんだからな…ウォン、負けるなよ!』
『素直じゃなーい』アールはつぶやいた。『がんばれって言えばいーのに』
『アールこそ…』リュクはジト目でアールをにらんだ。
まぁね、とアールは笑った。 そのとき…
「受付、済んだぞー!」博士の声がする。
「よっし! 行くわよ、みんな!」ハルカが立ち上がった。
「ポケモン達は戻した方がいいかもね。」ミツルも言う。
「ポケモンをボールに戻して、2人は博士と一緒に、ユウキのもとへ向かった。

「クロ… ク…」
ウォンは苦しげに息をつく。
「くそ…どうすれば…!」
ユウキは追いつめられたような、切羽つまった表情だ。
「メタグロス、『コメットパンチ』!」
「グロォォ!」
ドゴッ! コメットパンチがウォンにクリーンヒット!
衝撃でウォンは吹っ飛ばされる。
「クロ…」
「ウォン…しっかりしろ! …っ」
―ここで…負けるのか?
そんな考えが、つのる。
「オレは…ダイゴさんには…かなわない……?」
そうつぶやく。…そんな、時。
『バカ言うんじゃねェ!』
ウォンは立ち上がりながら、言う。そのセリフは、ユウキの頭に響いた。
「ウォン…!?」
『お前は言っただロ! ぜったいかなわない相手なんかいねぇっテ!』
「でも…! こんな状況で、どうやって!」
その時。ウォンの体を、青い光が包んだ。
「…! これはヌマクローのとくせい『げきりゅう』…」
ダイゴが目を見開いた。
『絶対とは言えねーケド、勝てる可能性は、ゼロじゃないんダ。』
ウォンは笑う。
『さァ、アイツらに見せてやろーゼ、オレ達の、きずなの力をサ!』
何でだろう…心に勇気があふれてくる。
ウォンの言葉…たった一言、二言なのに、こんなにも自信がわいてくるのはなぜなんだろう。
ウォンはこっちを振り返って、ニッ、と笑ってみせた。
『オレ達は、一緒に、戦うんだゼ!』
ウォンの言葉に、オレはハッとした。
「…よし!『だくりゅう』―!!」
『行くゼェ! うるぁ――ッ!』
とくせいが発動したウォンの力は凄まじかった。だくりゅうの波が、メタグロスを飲み込む!
「メタ…!」
「よし…『じしん』攻撃ぃー!!」
『おうヨ!』
ウォンはフィールドに衝撃を加え…じしんを起こす!
じしんの揺れはメタグロスに大ダメージを与えた。
「メタグロス!」
「グ…ロ…」
メタグロスの足はふらつき、今にも倒れそうだった。
と。 下から足音が聞こえる。
バタバタ… 次第に足音が近づいてきて、
バン! 王者の間の扉が、開いた。
「ユウキ…!」
「ハルカちゃん、ミツル君に…オダマキ博士?」
ダイゴが扉の方を見て、言った。
だが、ユウキは、ハルカ達の方を振り向かなかった。
「ラストだ、ウォン。」
「クロー?」
もう、普通のポケモン語に聞こえたけど、オレにはウォンが何て言ってるかわかる気がした。
『何の技にするんダ?』
何がいいかな…? そうだ、「みずでっぽう」がいい。
オレが初めてお前に指示した技だから…あのときのことが、今でも目に浮かぶんだよな。
そしてオレは、メタグロスをまっすぐに見据えた。
「ウォン!『みずでっぽう』だ!」
「クロォ――ッ!」
ウォンはみずでっぽうを発射する。おそらく今までのものよりも、遥かに威力が高かったに違いない。
ウォンのみずでっぽうが、ふらつくメタグロスに直撃した!
「グ…ロ…。」
ズシン…。 メタグロスは、倒れた。
決着が、ついた。
なぜウォンの言葉はあんなに、オレの心に響くんだろう。
それが、わかった気がする。
それはきっと、ウォンだから…オレの大切な、パートナーだからだ。
審判員は、ユウキの方に旗を揚げた。そして、こう宣言する。
「メタグロス、戦闘不能! よって…勝者、挑戦者ユウキ!」
「勝ったのね…!」
「ユウキ君!」
後ろから、ミツルとオダマキ博士の声も聞こえた。
終わったんだ…。
緊張が解けて、オレは全身の力が抜けていくのを感じた。
 つづく
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華苗 #20☆2004.07/22(木)17:33
【第119話 勝利者の決断】
ヘタリと、ユウキは床に座り込んだ。
「勝ったんだ…」
「どうしたの、ユウキ君?」ミツルが隣に来た。
「いや…終わったんだーって思ったら、力が抜けてさ…。」
「きっと強敵との連戦で、気持ちが張りつめていたんだろうな。」
オダマキ博士がそう言った。ハルカはこちらを覗き込む。
「お疲れ様…ユウキ!」
ダイゴも口を開く。
「チャンピオンであるこの僕が負けるとはね…さすがだ、ユウキ君! 君は、本当に素晴らしいポケモントレーナーだよ!」
「メタ〜。」
メタグロスも小さくうなずいた。
そして、ウォンがユウキの前に歩いてきて、手を差し伸べた。
「クロッ。」
「ウォン…ありがとう。」
ウォンの手を借りて、ユウキは立ち上がる。
ダイゴは一歩進み出て、ユウキに言った。
「君の実力、確かに見せてもらったよ。君こそ…ホウエン地方の新しいチャンピオンにふさわしいトレーナーだ!」
「え…!?」
ユウキは驚きのあまり、ぽかんと口を開けた。
確かに、チャンピオンのダイゴさんに勝ったんだから、オレが次のチャンピオンになるんだろうな…。
「チャンピオンって、どんなことをするんですか?」ミツルがダイゴにたずねた。
「ここで、挑戦者を待つんだ。まぁ、たいがいはカゲツやフヨウのところどまりだけど…。他にもいろいろあるんだけど、主にはこればっかりさ。」
退屈な仕事なんだよね、とダイゴは苦笑いする。
「ユウキ君、見事だ!」博士がユウキの肩に手を置いた。「センリが君にバッジを渡したと聞いたときはとても驚いたよ。でも…まさかチャンピオンになってしまうとはな!」
「は、はぁ…。」
そう応えながらも、ユウキは複雑な気分だった。
オレが、チャンピオンだって?
このホウエンの、チャンピオンになるのか…?
「では…行こうか、栄光の間へ。ユウキ君、ついて来てくれ。」
「えっ?」いきなりそう言われて、ユウキは答えた。「あ、はい…」
ユウキとウォンをつれて、ダイゴは奥の扉を開けた。
「あ、私も…」
そうハルカがついてこようとしたが、ダイゴは首を振る。
「残念だけど…ここにはリーグを勝ち抜いた者だけが入る事のできる部屋だ。ハルカちゃんはここで待っていてくれないか?」
「えっ…」
「ダイゴさん、どうしてもダメなんですか?」ダイゴに訊いてみるユウキ。
「あぁ、そういう決まりがあるんでね…。」
ダイゴがそう言った。博士がハルカを引き戻す。
「ハルカ。私たちはひとまずここで待っていよう。」
「うん…パパ。」
そして、ハルカはユウキに向かって笑いかける。
「ユウキ…本当に、おめでとう!」
「あぁ。」
「さぁ…行こうか。」
ダイゴにつれられ、ユウキとウォンは栄光の間へと入っていった。
中は薄暗く、一歩ごとに足音が部屋中に響いた。
部屋の奥へと進みながら、ダイゴが言った。
「ここはリーグチャンピオンの栄光をたたえるための部屋…それを記録するための場所だよ。」
部屋の奥には、コンピューターのような機械があった。
そこにある台の上には、モンスターボールをセットするようなくぼみが六つあった。ダイゴは機械のスイッチを入れながら口を開く。
「これが、君の事を記録するための機械だよ。歴代チャンピオンのデータも全部、入っている。ここに記録されるのは殿堂入りといって、大変名誉なことなんだ。」
機械を起動させて、ダイゴは続きを言った。
「リーグを勝ち抜いた君の名前と、ともに戦った君のポケモン達を、ここに記録しよう!」
だが…ユウキは。
「ダイゴさん、やっぱりオレ、やめてもいいですか?」
「と言うと?」ダイゴは聞き返した。
「オレ、まだまだ知らない事が多すぎるし、チャンピオンなんてまだつとまらないと思うし…それに何より、まだやりたいことが多すぎて。
まだ見たこともないポケモンを探したり、つかまえたり。博士にもらった図鑑もまだまだ全然埋まってないし、コンテストとかにも興味あるし…そういうわけで…ダイゴさんに押し付けちゃうみたいだけど…オレじゃなくて、またダイゴさんがチャンピオンを続けるってのは…ダメですか?」
「クロクーロ?」
ウォンがユウキに何か言った。
「『そりゃ無理な話なんじゃねーノ』…か。やっぱムシのいい話だよな。」
「いや、そんなことはない。」
ダイゴの一言に、ユウキとウォンは「えっ、」と息をのんだ。
「わかるよ、君の気持ち…まだまだやりたいことがあると言うのなら、ここにチャンピオンとしてとどめておくのはかえって良くないね。君にはまだ、無限の未来があるから。」
「それじゃ…」ユウキは期待に顔を輝かせた。
「あぁ。引き続き僕がチャンピオンをつとめるよ。負けた僕がまたチャンピオンとしてここにとどまると言うのもおかしな話だけどね。」
一息ついて、ダイゴは続けた。
「さて、君がチャンピオンになるにしろならないにしろ、この栄光の間に記録しなければ。ユウキ君、トレーナーカードを貸してくれ。」
「はい。」
ユウキはトレーナーカードをダイゴに渡した。
「これをセットして…」機械にトレーナーカードを差し込む。「よし。あとはこのくぼみに君のポケモン達の入ったモンスターボールを置いてくれ。」
「はい。」
ユウキはモンスターボールを取り出す。
まずは…ユナ。
お次は…ゲイル。
三つ目…ルクス。
四つ目…ウィング。
そして…カシス。
五つまでを置いた。最後の六つ目のボールを取り出して、ウォンに向ける。
「クロッ。」
ウォンをボールに戻して…台に置く。
六つのボールを置くと、機械が光を発しながら動き始める。
“ポケモントレーナー・ユウキの殿堂入りデータを記録します。しばらくお待ちください…”
そんな音声が流れた。
ダイゴがユウキにたずねる。
「記録が終わったら、どうするんだい?」
「ミシロタウンに帰ります。ハルカと、博士と一緒に。母さんの待ってる家に…早く帰って、元気な姿をみせてあげなくちゃ。」
「そうか。僕もたまには親父に会いに行かなくちゃなぁ…」
“…殿堂入りを成し遂げた、リーグチャンピオン・ユウキ。おめでとうございます!”
最後にそう音声が流れて、その巨大コンピューターのような機械の電源が落ちた。
ダイゴはトレーナーカードを機械から取り出して、ユウキに渡した。
「あ、ありがとうございます。」
「それじゃ、もうここには用がないね。さぁ、戻ろうか。」
ユウキは台の上のボールを回収し、ダイゴと一緒に、王者の間に戻った。
「…ユウキ!」
「ハルカ、ミツル、オダマキ博士!」
三人はそこで待っていた。
「さて…これからどうする、ユウキ君?」オダマキ博士が言った。
「ひとまずは、ミシロタウンに帰りましょう。」
「そうだな。」
そこでくるりと振り向いて、ユウキはダイゴに言った。
「それじゃダイゴさん、さようなら!」
「あぁ。」
手を振って見送るダイゴをあとに、ユウキはハルカ達と、ロビーに向かう。
王者の間を出ようとした時、ダイゴの声が聞こえた。
「マスコミ連中には気をつけなよ!」

4人は、建物の外に出た。
飛行タイプのポケモンに乗って、それぞれの住んでいる町に向かって飛んでいく。
ウィングに捕まって空を飛びながら、ユウキはこう思った。
これが、オレの旅してきた世界なんだ…。
キンセツの上空に来たあたりで、ミツルと別れる。
「それじゃ、ボクはシダケの方だから、ここでお別れだね。」
「あぁ。ミツル、元気でな!」
「じゃあね、ミツル君!」
キンセツから、南の方角へ。やがて、ミシロの町が見えてきた。
家が見える。人が立っている…あれっ。あれは、もしかして…母さんかな。
地面に降りた。するとその人…母さんは駆け寄ってきて、抱きしめてくれた。
「おかえりなさい…ユウキ!」
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華苗 #21★2004.07/25(日)12:23
【第120話 →ミシロタウン 懐かしい風に吹かれて】
朝日が山から顔を出し、野道を、街を、まぶしく照らす。
ドードリオが日の出にあわせて、一声鳴いた。
こうして、町の朝は始まる。
ユウキの家の二階、ユウキの部屋では、ちょうど窓から朝日が差し込んでくる。
ユウキは顔を照らしてくる日差しのまぶしさのせいで、目を覚ました。
「ん… ふぁ〜っ…  何だ、まだ五時半か…」
ユウキは部屋の壁掛け時計を見て、目をこすりながら起き上がり、寝巻を着替えた。
あれから一週間か…ユウキはボサボサに乱れた白い髪を手櫛で梳きながら、そう考えた。
まだ少し寝ぼけている頭を、顔を洗ってシャッキリさせて、外に出た。
早朝の澄んだ空気を思いっきり吸い込み、はき出し。
深呼吸を何度かして、伸びをしたあと、ポストを調べた。
中にはオレ宛のふうとうが2つ。
家に入ってまた自室に戻り、机の上で封を切った。まずは二枚のうち大きい方を開けてみる。
ナツキからだった。中を探ってみる。手紙か…どれどれ。
“ユウキへ
やっほー、ナツキだよ! 元気?
ミツル君に聞いたんだけど、旅も終わったみたいだね。
チャンピオンに勝ったんだって? ホント、ユウキってすごいよね! おめでとう!
あたしは今度、カントーのばあちゃんちに行くんだ。
久しぶりにニビシティに帰れるんで、今から楽しみよ!
あ、何でポケナビ使わなかったのかって?
実はプレゼントがあるからなんだよね。ふうとうひっくり返してみればわかるよ。”
「プレゼント?」まだ手紙を読む途中だったが、ふうとうを取った。
どおりで大きかったわけだ。ふうとうをひっくり返すと、赤い布にくるまれた硬いものが出てきた。
開いてみると、それはオレンジ色に光るほのおのいしだった。
ユウキはまた手紙に目をやった。
“ほのおのいし。ユウキのロコンに使えるよ。もしかしたら、使わないかもだけど。
布のほうはあかいバンダナ。つけるとかっこよく見えるんだ!
本当はライカにつけてあげようとしたんだけど、『オレはもう十分カッコいいから、いらないよ!』って。
じゃーこの辺でね! バイバイ!
                      ナツキより 友情をこめて!”
「ふぅん…こっちはバンダナか…カッコよさそうだし…誰かにつけてやろうかな。」
誰がいいかな… ユウキは腕を組んで、考えた。
みんなの答えを想像してみた。ウォンは、多分こう言う。
『オレはそんなのつけなくたっテ、元からカッコいいゼ!』
なんかライカみたいだ。そう考えて、少しおかしくなった。次はカシス。
『うーん…走るときジャマそー…』きっとこう言うだろうな。
『オレはいい。』これはゲイルだ。
ユナとルクスは…燃えたり焦げたりしちゃいそうだからダメだ。
となると…ウィングか。うん。それがいいな。
『うわーっ カッコイイ! つけてみたいなぁ…』
うん、バッチリだ。あとでバンダナつけてやろうっと。
そしてユウキは、もう一方のふうとうに取りかかった。
ハギさんからだ。メモと…なんだろ。チケットみたいのが入ってる。
メモのほうに目を走らせる。ハギさんの字は丁寧だった。
“ユウキ君へ
久しぶりじゃな、ユウキ君。大ニュースじゃよ。
なんと、カイナシティの造船所で、豪華客船タイドリップ号がついに完成したんじゃ!
そこで、船のチケットをプレゼントじゃ。それを持っていれば、何回でも乗れるからな。
二枚入れておいたから、ハルカちゃんにも分けてあげてくれ。
それじゃあ、また会えるといいの。
                        ハギより”
「船のチケットか。カイナ⇔ミナモ って書いてある。この間を往復するのかな。」
ユウキはニッコリした。
そして、開いた封筒を整理し始めた。

朝食をすませたあと、ユウキは外に出た。
ミシロの朝の、気持ちのいい風が吹いてくる。
ユウキは辺りを見回した。…よかった、今日はいないな。
ミシロに帰ってきた次の日から、うちの周りにはマスコミの連中がゾロゾロ。リーグ制覇のインタビューをしたいんだとか。
ダイゴさんのセリフを思い出す。
『マスコミ連中には気をつけなよ!』
ホント、あの人たちって、どこから情報を仕入れるのかな…。
ため息をついたその時、上から声がした。
「ユウキ! おはよう!」
見ると、隣の家の二階の窓からハルカが顔を出していた。
「おはよう、ハルカ。」
「うん! 今日はどうする?」
「うーん…普通にのんびりしたいな。」
「それなら、いい場所があるわよ。ちょっと支度してからそっちに行くね! 待ってて!」
ハルカの顔が家の中に引っ込み、窓が閉まった。
待ってる間、どうしようかなぁ。そう思ったとき、バンダナのことを思い出した。
ポケットから赤いバンダナを取り出して、
「ウィング、でてこい!」
オオスバメのウィングを繰り出した。インカムのスイッチを入れる。
『ユウキ、朝早くからどうしたの?』
「ナツキからプレゼントだ。あかいバンダナ。きっと似合うぞ。」
『ボクにくれるの? やったぁ! つけてくれる?』
「あぁ。動くなよ。」
ウィングは言われたとおり、じっとしていた。
バンダナは首に巻こうとしたが、ありきたりだよな、と思い直し、結局、頭に巻いてやることにした。
「よし! これでいい。」
『ねぇ、ボクカッコいい?』
「うん。」
ウィングが嬉しそうに顔を赤らめる。
そして数分後、ハルカが家から出てきた。
冒険をしていたときの服装で、腰にはいつものウエストバッグ。
「おまたせ! あ、ウィング、バンダナ巻いてるんだ!」
「あ、うん。」ユウキが答えた。
「カッコいいね。(ハルカに言われて、ウィングはますます赤くなった)じゃせっかくだし、コーラス!」
ハルカがボールを投げた。出てきたのはペリッパーのコーラス。
『おはようございます、みなさん。』コーラスはお辞儀をした。
「鳥ポケモンに乗っていきましょ。コーラス、あの場所までお願い。」
『はい。』
ハルカを背に乗せて、コーラスは飛び立った。ユウキもウィングにつかまってコーラスの後を追う。
「どこ行くんだー?」ユウキはハルカにたずねた。
「私のお気に入りの場所よ!」
向かった先は、ミシロタウンのはずれの小高い丘だった。
そこに降り立つふたり。そこからは、ミシロタウンの町並みが一望できた。
「おわっ、すげー! どうやって見つけたんだ?」
「ふふっ。実はパパに教えてもらったの。昔はあんまりこれなかったけどね。」
『僕もまだ一度しか来たことがなくて…。』と、コーラス。
ユウキはミシロの町を見下ろして、口を開く。
「この町に引っ越してきた時のこと、思い出すよ。トラックにゆられて、ミシロタウンまでやってきたんだよな。そして…」
『オレ達に出会っタ。』
『だよね?』
「ウォン、アール…」
ウォンとアールの二匹が、ボールから出ていた。
『オレの事も…忘れんなよ。』
リュクもいた。ユウキは驚く。
「え!? ミツルもいるのか?」
『ちがう。あの博士が少しだけおれを預かりたいってさ。』
リュクがそういった。ユウキは納得したようだ。「なるほど…」
『ま、リュクはリアちゃんに合えるから嬉しいだろうナ…キヒヒ! …イテッ!』ニヤニヤと笑ったところで、横からアールに肘鉄を食らった。『何すんだヨ アール!』
『いーかげんにそう言うのやめたら? リーフブレード食らうわよ。』
アールににらみつけられ、ウォンは縮こまった。
『アハハ…ごめんなさ〜イ…』
『あれ?』ふとコーラスが上を見上げた。『あれは…ダイゴって人のエアームド?』
「え?」
ユウキが見上げると、空をエアームドが飛んでいた。
エアームドがちょうどユウキの真上に来た時に、何かが上から落ちてきた。
「…うわ!?」ユウキはそれをキャッチする。小包のようだ。
『ダイゴ様からだ。私はこれで失礼する。』
エアームドの声が降ってきた。そのまま、エアームドはトクサネシティの方角へ飛んでいった。
ユウキはダイゴからの小包を開けた。中にはモンスターボールが1つと手紙が入っている。
ユウキは手紙に目を通した。
“ユウキ君へ
この間はおめでとう。マスコミの連中はもう来ないだろうね。
さて、僕からリーグ制覇のお祝いに、プレゼントがあるんだ。一緒に入っているモンスターボールのことだが。
中には僕のお気に入りのポケモンが入っている。よかったら育ててみてくれ。
それじゃ、エアームドによろしく。
                         ダイゴより”
「ユウキ、そのポケモンを出してみて!」
「あ、うん。」
ユウキはボールを取り、開閉スイッチを押した。
出てきたのは…メタグロスのたねポケモン、ダンバルだった。
『君が、ユウキ…』ダンバルがそう言った。すでにユウキの名を知っている。
『ダイゴから聞いた。ボクの主人になるんだってね。よろしく。』
「おぅ。」
短く答えて、ユウキは微笑んだ。
「そういえばユウキ、チャンピオンにならないって本当?」
ハルカに言われて、ユウキはうなずいた。
「うん。オレにはまだ、やりたいことがいっぱいあるから。」
「よかった。ユウキがチャンピオンになっちゃったら、あまり会うことができなくなっちゃうかもしれないし。」
「そうだな。」
ハルカに返事をして、ふとユウキはハッとしたようにダンバルのほうをみた。
「そうそう、お前の名前を決めなくちゃー…」
“ダンバル てっきゅうポケモン。体の中では血液のかわりに強力な磁力がめぐっている。磁力の波動で仲間と会話する。”
「磁力か…」ユウキは腕を組んで考えた。
「んー… よし! ダンバル、お前の名前は『ジーク』だ!」
『ジークか…悪くないな。ありがとう。』ダンバルが言った。
『よろしくナ、ジーク!』
『よろしくねーっ。』
ウォンとウィングは、新しい仲間に挨拶する。
『うん…よろしく。』
ジークも、返事を返した。
ユウキとハルカはほかの手持ちを全部ボールの外に出して、言った。
「みんな、あとは自由に遊んでていいよ!」
『やったぁ!』ポケモン達はみんな、飛び上がった。そして、丘の下へと駆けていく。
「ところでさ、ハルカ。」ハルカに話しかける。
「なぁに?」
「ゆうべ、父さんが帰ってきたんだ。」
「本当!? ジムのほうはどうしたんだろう。」
ハルカは驚いた様子だった。
「オレが家に帰ってきたから、父さんもジムを閉めてきたんだって。」
「そうなんだぁ。」
「夕飯食べようとした時に、テレビででニュースやってたんだ。それがさ、オレのリーグ制覇のインタビューで。父さんったらさ、目ぇ丸くしてたよ。もっとも、そのことはもう父さんの耳には入ってたみたいだけどね。」
センリの驚いた顔を想像して、ハルカはくすくす笑った。
「あんまりにもマスコミの連中がうるさいから、一回だけ受ければ収まるかな、と思って受けたときのやつだった。」
「あれはすごかったもんね〜。」
数日前まで、ユウキの家の前はマスコミに囲まれて、ドアも開けられなかったのだ。
「あぁ。それで父さん、言ったんだ。『これからもいろいろな事に挑戦するといい。だけど、絶対に無理だけはするな。お前だけの道が、必ず開けるから』って。」
「センリさん、いい事言うわね!」
「あぁ。」
風が静かに、ふたりの髪をなでた。
ユウキは話を続ける。鮮やかな赤の瞳で、自分の旅立った町を見下ろして。
「オレ、またホウエン地方をめぐり歩きたいな。オレはオレの夢を見つけるために。」
「うん。私はパパ以上のポケモン研究者になりたい。そのために、もっと勉強しなきゃ!」
ハルカも、海よりも深い青の瞳で、むこうの空を見つめていた。
「そうだな。」
ふたりのあいだに、風がひとつ、吹いた。
風はそっとふたりを包んで、やがて通り過ぎていく。
それは懐かしさを感じさせる、やさしい風だった。
「いこうぜ、ハルカ!」
ユウキは立ち上がった。
「行くって、どこに?」
ハルカは首をかしげる。
「どこだっていいさ。またこの地方で、冒険をしたいんだ!」
「そうね…。行きましょう、みんな!」
『おー!』
ポケモン達も、呼びかけにこたえた。

澄んだ青空のもと、ユウキとハルカとポケモン達が、草原を駆け抜けていく。
どこへともなく、目的地も何もない、気ままなたびに出よう。
いつかはきっと、自分だけの道が見つかるから。

 オレとハルカの、
 私とユウキの、
 この冒険は…ずっとずっと、仲間と一緒にいられる限り、きっと終わらないんだ。

   「オレ達の冒険は…」
   「これからまた、始まるのよ!」

  ユウキとハルカの冒険  ―― 完 ――
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ぴくの〜ほかんこ