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金銀晶 | #1★2004.12/19(日)22:16 |
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無謀ながら、私も物語りに挑戦してみたいと思い、執筆してみました。 気の利いたタイトルの一つも思いつきませぬ(大汗) カントー・ジョウト地方を主な活動範囲として悪事の限りを尽くして回っていた、ポケモンマフィア 「ロケット団」が、勇気ある少年たちの活躍により、完全に解散となったのも、もう随分と昔の話と なっている。ロケット団のボスであり、元トキワジムのジムリーダーだった男、サカキは、現在では 一介のトレーナーとして己を一から鍛え直そうと、各地を転々として回っているらしい。警察でも全国 に包囲網を張って、この男の行方を追っているそうだが、何故だが足取りがつかめないそうだ。 ロケット団の再興を目論んでいた幹部やその他大勢の下っ端たちも、大半は姿を消すか、警察に身柄を拘束されており、もはや組織の面影はこれっぽっちもない。 アサギシティの港には定期的に連絡船がくる。その港で、二人の若い男が話し合っていた。実を 言うとこの男たち、彼らは元ロケット団員の下っ端である。この二人は、ロケット団に入団していた ころからの、俗に言う「マブダチ」で、今日はここジョウトからホウエンに旅立つ一人を、もう一人が 見送りにきていたのである。 「そうか……お前はホウエンに行くのか。何にせよ、自由に旅が出来るってのはいいもんだな。」 「ああ、具体的な目的地は決めてないんだけどな。お前はどうするんだ?」 「今更だけど実家に戻って家業を継ごうと思うんだ。俺んち、田舎でメリープ牧場やってるんだよ。」 「そうか、そう言えば、お前がロケット団に入団したとき、メリープ連れてたんだっけ。」 二人が取り留めの無い会話をしていると、港に放送が流れた。 『間もなく、出航の時間でございます。連絡船をご利用の方は、乗船してお待ちください。』 「っつーわけで、どうやら時間みたいだ。俺はもうそろそろ行くぜ。」 「おう、達者でな。」 お互いに軽く挨拶を交わすと、旅に出るほうの男が、空に向かってピィーッ!と口笛を吹いた。 すると、町の上空から、こちらに向かって飛んでくる一つの影が飛んできた。男がロケット団に入団 していた時代から、ずっと連れ添っていたこうもりポケモンのクロバットである。 「クロー!」 クロバットは羽音を立てずに羽ばたきながら、男の肩の上に降りた。 「そういや、お前だけだったよな。幹部からズバットもらった奴の中で、クロバットまで進化させる ことができたの。」 「ああ、そうだったっけ?まあいいや、もう俺は行かねえとならんから、じゃあな。」 男はクロバットをモンスターボールに戻すと、船に向かって歩き出した。 「せっかくロケット団から足洗って堅気のトレーナーとしてやってくんだ、せいぜい気合入れろ!」 「おう、任せとけって!」 『本日はジョウト〜ホウエン間連絡船をご利用いただき、ありがとうございます。この船は、アサギ シティからカイナシティに向けて出発します。』 めざすは、ホウエン地方、カイナシティ! |
金銀晶 | #2★2004.12/19(日)22:18 |
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「うえっぷ……や、やっと着いた……おえ〜(汗)。」 アサギシティから威勢良く出発した元ロケット団員にして、トレーナーのショウであったが、港を 出た直後に猛烈な船酔いに襲われ、船がカイナシティに到着したときには、この体たらくであった。 港を出るときのあの張り切りっぷりはどこへやら、である。 「う〜、気持ち悪い……なんか冷えたジュースでも飲みてぇなぁ。」 ショウが多少おぼつかない足取りで歩いていくと、前方に海の家を発見した。お昼から少し時間が たっているためか、客の入りはそこそこといったようで、そんなに混雑してはいないように見える。 「助かった……あそこで休憩してこ〜っと……おえっ。」 が、海の家に向かってフラフラと歩いていたショウの前に、人影が立ちふさがった。 「よーう、兄ちゃん。あんた、トレーナーかい?よかったら俺とポケモン勝負しようぜ!」 「ああ?」 だるい表情で顔を上げると、どうやら船乗りのようだ。胸には「連絡船○○号乗組員」と書かれた ネームプレートがある。が、船酔いでヘロヘロ状態だったショウには今はポケモン勝負をする気も ほとんどなかった。 「わりぃが、他の奴をあたってくれ。船酔いでヘロヘロになっちまっててよぉ、てんでやる気が でねぇんだよ……うぇっぷ。早いとこ、そこの海の家で休みたくてしょうがねぇ。」 「おいおいおい、大の男がだらしねーなぁ。よし、だったら、俺と勝負して勝ったら、俺があの海の 家でお前におごってやる。これでどうだ?」 船乗りの男はどうしても勝負したいらしい。頑固に断る理由も無いため、ショウはため息をつき ながらボールを取り出した。 「わーったよ。やりゃいいんだろ?俺、ポケモン一匹しか持ってないし、あんまり時間がかかるのも しんどいから、1対1のシングル勝負でいいか?おえっ。」 「そうこなくっちゃな!それで構わないぜ!……とその前に、俺、気付け薬持ってるけど、もし どうしても我慢できないってんなら、よかったら飲むか?」 「……すまんな、頂こうか。うっぷ。」 船乗りからもらった気付け薬でいくらか気持ちを落ち着けた後、ショウは改めてボールを構えた。 「おっしゃ、大分落ち着いたみたいだし、そろそろ行こうぜ。」 「おっ、それじゃ、お手並み拝見と行こうか!勝負スタートだぜ!」 ふなのりの ヨシヒロが しょうぶを しかけてきた! ふなのりの ヨシヒロは ワンリキーを くりだした! ゆけっ!クロバット! 「あちゃー、クロバットか。こりゃきついなぁ。」 船乗り……ヨシヒロが頭をかきながら言った。クロバットは毒タイプと飛行タイプを持っていて、 どちらのタイプも格闘タイプには強い耐性を持つ。 「ま、いいや。とりあえずやるだけやってみようぜ。ワンリキー、空手チョップだ!」 「リキャー!」 ワンリキーがクロバットに向かってきた。 「クロバット、避ける必要もないぜ。エアカッターで迎撃だ!」 「クロー!」 バババババッ! 直進してきたワンリキー目掛け、クロバットが翼を羽ばたかせて無数の空気の刃を放った。 ワンリキーはエアカッターを受けて大きく後ろに吹っ飛び、そのままダウンした。どうやら勝負は あっけなく、一発でついたようだ。ワンリキーが目を回して倒れている。 「うーん、クロバットまで進化させてると、流石に強いな、手も足も出ないや。ははは……。 ワンリキー、戻ってくれや。」 ヨシヒロが参ったなあ、という感じの表情でワンリキーをボールに戻した。とりあえず、ホウエン での始めてのトレーナー戦は白星を飾れたようである。 「おっしゃ、それじゃあ約束だ。おごってやるから、海の家へ行こうぜ。俺もちょうど腹が減って きたところだ。」 「それじゃ、ご馳走になるぜ。」 ショウとヨシヒロは、そろって海の家へ向かった。 |
金銀晶 | #3★2004.12/19(日)22:19 |
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「へー、ジョウトからはるばるホウエンまで武者修行の旅か。」 「はあふぁ(まあな)。」 「ホウエンもカントーやジョウトに負けず劣らず広いし、何よりホウエンにしかいないポケモンも たくさんいる。積極的に色んなとこを見て回ったほうが断然いいぜ。」 「へっ、そんはおひわえはうらっへははっへあ(へっ、そんなの言われなくたって分かってら)。」 「……なあ、食いながらしゃべるの、やめたほうがいいぞ。」 「……うわへぇ(…済まねぇ)。」 海の家に到着したショウとヨシヒロは、早速メニューを注文して、少し遅めのお昼ご飯タイムを 取っていた(ヨシヒロも偶然、お昼を食いっぱぐれていたとのことだ)。船酔いで少々意識がもうろう としていたショウも、冷たいジュースと昼飯のやきそばをかっこんでやっと完全回復したようだ。 「ところでショウ、お前、これからどっかに行こうってアテはあるのか?」 「アテ?うーん……特には無いが。」 「そうか。それなら、カイナシティを北に進んで、110番道路を通ってキンセツシティに行くと いいぜ。あそこは東西南北に道が通じていて、交通の要所となってるし、ポケモンジムもあるから 色んな人やポケモンに出会えるぜ。何かと情報を集めるのにも便利だと思うんだ。」 「キンセツシティか。ありがとうな。メシ食い終わったら早速向かってみるよ。」 のんびりと食事をしながら、他愛も無い雑談をして時間を潰していると、ヨシヒロが気になる話を 持ちかけてきた。 「そうそう、旅をするんだったら、気をつけておけ。最近は、ホウエンにも物騒な連中がちょくちょく 出るって話だからよ。」 「物騒な連中?」 「ああ、強いポケモンや珍しいポケモンがいれば、野生のだろうとトレーナーのだろうと、問答無用で 捕まえまくっては、高値で売りさばいたりする、密猟や密売が専門の組織らしい。」 ショウの脳裏には、すぐさま自分が所属していたロケット団のことが浮かび上がった。だが、先にも 言ったとおり、ロケット団はもうずいぶんと前に完全に解散しているはずだ。 「それ以前には、アクア団とマグマ団っていう、2つの組織がホウエン地方一帯に勢力を測ってたって いう話なんだが、そいつらが2年ほど前に解散して最近になってから、あちこちでちらほらやらかし はじめたって言うらしいぜ。」 「ふーん……。ま、一応用心しとくわ。」 その話題は、それで終わりになった。 ショウとヨシヒロは、海の家を出てすぐに分かれることにした。ヨシヒロが勤務している連絡船に そろそろ戻らなくてはならない時間だ、とのことで、二人は海の家を出て別れの挨拶をした。 「そんじゃ、本当に短い間だったが、世話になったな。」 「なに、気にするな。またどっかで会うことがありゃいいな。」 「そん時は俺がおごってやるよ。」 「その前に船酔いでダウンしてんじゃねーぞ?」 「もうよせよ……。」 「ハッハッハ。……そいじゃ、俺はおさらばするぜ。またな!」 「おうっ!」 ショウは船の方に戻っていくヨシヒロに手を挙げ、くるりと後ろを向くと、110番道路を目指して 歩き始めた。目指すは次の目的地、キンセツシティである。 |
金銀晶 | #4★2004.12/19(日)22:45 |
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「クロバット、エアカッターだ!ひたすらエアカッターッ!」 「クロ〜ッ」 ビシッ!バシッ! 「あ〜、まだ倒れてくれそうにないぜ……。なんだこいつは?」 ショウは110番道路でまだ少年の短パン小僧のトレーナーに勝負を挑まれ、快く引き 受けてクロバットを出したまでは良かったが、相手が少々悪かったようである。 「どうだ、俺のポケモンはノーマルタイプと飛行タイプにとっても強いんだいっ!」 短パン小僧が出してきたのは、鉄ヨロイポケモンのココドラであった。鋼タイプと岩タイプの2つ のタイプを持つこのポケモンには、的確に有効となるタイプの攻撃技で攻めないと、生半可な攻撃ではまともなダメージを与えられない。幸い、短パン小僧のココドラはそんなにレベルも大したことなく、覚えている技もあまり威力が高くないものばかりだったため、ショウのクロバットもほとんどダメージを受けてないが、ショウのクロバットが使える攻撃技だけでは、ココドラに決定的なダメージを与え られないため、相手の体力を削るのに時間がかかることこの上ない。 「今度はこっちが行くぜ!ココドラ、メタルクロー!」 「ドラッ!」 ココドラが短い手から鋭い鉄のツメを出して、クロバットに飛び掛る。 「クロバット、右に飛べ!」 苦労する様子もなく、クロバットはココドラの攻撃をひょいっと回避する。耐久力では向こう側に 軍配が上がるが、スピードなら断然負けていない。ココドラ自身も、あまり足が速くないポケモンの ようで、クロバットのスピードにはついていけないようである。 「こっちから攻撃するだけじゃ厳しいな。クロバット、怪しい光を使え!」 クロバットの目から、文字通りの怪しい光が人魂のような形で放たれ、ココドラに襲い掛かる。 「ああっ!混乱しちゃった!」 相手のココドラはもはや前後不覚のようで、あらぬ方向に走り回ったり、道路沿いの壁に自分から 激突したりしているが、ショウの追撃は終わらない。 「いいぞ、次は嫌な音だ!」 キーンッ! と、これまた文字通りの嫌な音が辺りに響く。 「コ〜ッ!」 直接的な打撃に対してはかなりの防御力をほこるココドラの装甲も、こう言った種類の技は防げない らしく、ココドラもあからさまにイヤそうな表情をして悶絶する。加えて、さっき放った怪しい光の 効果もまだ消えていない。ココドラはあちこちをドタバタと飛んだり跳ねたりしたあげく、そのまま ぐったりとその場に目を回してひっくり返ってしまった。 「ああ、僕のココドラ、もうスタミナ切れでダメみたい。負けを認めるよ。」 短パン小僧が残念そうに言いながらココドラをボールにしまった。とりあえずはショウの勝ちだ。 「ふぃ〜、時間のかかる戦いだったぜ。クロバット、お疲れさん。」 ショウもクロバットをねぎらいながらボールに戻す。 「はぁ、ホウエンにはあんなポケモンもいるのか。正直、クロバットだけじゃこの先きついかも しれないな……。キンセツに着いたら、新しいポケモンでもちょっくら探してみるか。」 ショウは独り言をいいながら、キンセツシティへと足を進める。目的地はもうすぐそこである |
金銀晶 | #5★2004.12/19(日)22:47 |
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ヨシヒロが言っていたとおり、各地の交通の要所となっているキンセツシティは、なかなかの活気 を見せていた。さらに、このシティにはポケモンリーグ公認のポケモンジムもあり、バッジを求める ポケモントレーナーの数も多く、あちこちにポケモンを連れて歩いている者の姿も多く見かけられる。ショウが見たことも無いポケモンを連れているトレーナーも少なくない。 (まずはポケモンセンターで情報収集するか……。) ショウは辺りを見回しながら、とりあえずは情報収集のために、ポケモンセンターへと向かった。 一応、先ほどの短パン小僧とのバトルで、クロバットもいくらか疲れているようなので、ついでに 休ませてやることにもした。 「いらっしゃいませ、ポケモンセンターへようこそ!」 「こいつを頼む。」 「それでは、お預かりさせていただきます。……これくらいでしたら、すぐに元気になりますので、 少々お待ちください。」 受付のジョーイさんにクロバットを預けると、ショウはポケモンセンターに備え付けられてある パソコンを借りた。ショウがロケット団に入団をする前から、よく利用していたあるサイトに接続 するためである。 このサイトは、様々なジャンル別に多数の掲示板が設置されており、利用者は特定のHNを使用 しなくても、名無しのままで匿名性を高めて書き込みできるという特徴がある。ショウはそれらの 掲示板から「ポケモン」を扱う掲示板を探し、ワード検索をかけて何か適当なテーマはないか、と 探してみた。すると、わりと上のほうに「自分のポケモンのパーティに誰を入れるか迷ってる香具師が 書き込め!Part4」というタイトルを見つけた。 (おお、これが一番良さそうだな。) ショウが一通り内容を見てみると、結構色んな地方から書き込みがあるようで、 『今ヤマブキシティのポケセンからカキコしてます。これからジムに挑戦したいんで、おすすめの ポケモンとかいたらアドバイスきぼんぬ。』 『アサギシティで釣りをしているんだが、ここって結構いろんな種類の水ポケモンがいるんだな。 メノクラゲとシェルダーとチョンチー釣ったんだが、おまいらならどれを連れてく?ちなみに漏れの 今のパーティは……。』 などと言った書き込みが続き、それに他の閲覧者が返答する、という形式が続いている。 ショウはどんな風に書き込みしようか、と少し考え、次のように投稿することにした。 『キンセツシティからカキコ。俺の手持ちはクロバット一匹だけなんで、他にも色々パーティを充実 させておきたいと思うんだが、ジョウトから来たのでホウエンのポケモンに関してはいまいちよく 分からん。キンセツの近くでゲットできるポケモンで、おすすめのポケモンがいたら教えてくれ。』 いわゆるチャットと違って、書き込んでからすぐに返答が来るというわけでもないので、ショウは 一度パソコンの接続を切って、しばらく時間を潰すことにした。 ショウが備え付けの雑誌を読んでヒマを潰していると、受付のジョーイさんから呼び出しが来た。 どうやら、クロバットの治療が終了したようである、 「お待ちどうさまでした。お預けになったポケモンはすっかり元気になりましたよ!」 「お世話になりました。」 「さて、まだレスがつくには時間が早いだろうし、街中でも散歩してくるか。」 ショウはクロバットを肩に止まらせて、街中を歩き回ることにした。別にクロバットをボールから 出しておく特別な理由も無いのだが、なんとなくこうしてみた方がサマになるかな、とちょっと カッコつけてみているだけである。 さて、どこに行こうかとショウは考えてみる。このキンセツシティには、ポケモンジムだけでなく、 町の観光名所としても有名なゲームコーナーがあるが、ショウはあまりギャンブルだとか賭け事だとか いうようなものはあまり好きではない。まあ、以前タマムシシティのゲームコーナーでボロ負けした ことがトラウマ(と言ったら大げさか)になっているのもあるのだが。 (気にはなるが、ヘタに挑戦して、すっからからんに負けるのも面白くないな……。) となると、後はポケモンジムあたりが候補である。ショウは特にジムバッジを集めてポケモンリーグに 参加しようとは思っていないが、まあ見学くらいはしていってもいいかな、と思っていた。 (ちょっくら、冷やかしにいって見るか……。) |
金銀晶 | #6★2004.12/19(日)22:49 |
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「やあ、挑戦者の方ですか?あいにく、まだ整備中なんですよ。」 ショウがポケモンジムの扉を入ってみると、どうやらまだ整備中だったらしく、あちこちをトレーナー やポケモンたちがいそいそと動き回っている。床などを掃除する者、ジムの仕掛けを調整するもの、 ポケモンと準備運動をするものなど様々である。 「いや、別に挑戦とかはしないで、ただ見学だけにしとこうかと思ったんだが……。」 「そうですか、でもリーダーのテッセンさん、今は出かけちゃってて……。たぶん、もうそろそろ お帰りになる時間だと思うんですけど。」 「そっか……。それじゃ、準備のジャマしても悪ぃし、出直してくるわ。」 ドシン! ショウが後ろを向いて帰ろうとした途端、何かにぶつかった。 「っ!?」 「おうっ、びっくりさせてすまんかったな!大丈夫かね?」 ショウが見ると、そこには一人の老人が立っていた。ヒゲも髪の毛も真っ白だが、声に威勢がある のと、体格のよさで随分と年より若く見える。 「あっ、テッセンさんお帰りなさい。ジムの準備、もうすぐ終わります。」 「うむ、ご苦労さんじゃったな。終わったらみんなで少し休憩にしようかの。」 「はいっ。」 この老人こそがジムリーダーのテッセンらしい。ショウに応対したトレーナーも、すぐ持ち場に 戻っていって、後にはショウとテッセンが残った。 「ときに、君はどちら様かな?わしのジムに挑戦か?」 「あ、いや……。挑戦とかは無しで見学だけにしようと思ってるんだが。」 「なに、見学?若いもんがそう遠慮するもんでない。公式戦でなくても良いから、ぜひ勝負していくと いい!何事も経験じゃ、経験じゃ!」 テッセンがショウの肩をバンバンたたきながら促すが、ショウはいまいち乗り気になれない。 「うーん……でも、俺が連れているのはこのクロバットだけなんでな。こいつはあんたらの使う 電気ポケモンとは相性がよくないし、あまり戦いたくはないんだが……。」 「なんじゃ、そんなことか。ワッハハハ、心配するな!相性だけが勝負を決めるわけじゃない。現に 今までジムに挑戦してきた者の中にも、相性の不利を技や実力で覆して、わしに勝ったトレーナー だってたっくさんおるわい。わしの見る限りじゃ、お前さんのクロバットは十分育っているよう じゃし、引っ込み思案になっとらんと、ぜひ勝負していけ!」 まあそう言われれば、自分もさっき110番道路で短パン小僧のココドラを倒すことが出来ていた のだし、テッセンの言うことも一理ある。ショウはとうとう折れて、勝負することにした。 「分かった、そこまで言うならぜひやらせてもらおう。勝負は1対1で頼む。」 「ワッハハハ、もちろん構わないぞ、それでこそトレーナーじゃ。……うむ、わしらが立ち話をして いるうちに、ジムの準備も大体終わってるようじゃし、早速始めるとするか。」 ショウとテッセンはバトルフィールドに立った。ジムトレーナーの一人が審判となって状況を確認 する。 「それでは、これよりショウとジムリーダー、テッセンの非公式試合を始めます。使用ポケモンは両者 1体。準備はよろしいですか?」 「バッチリ充電完了しとるぞ!」 「こっちもOKだぜ。ま、成り行きとは言え、やるからにはきっちりケジメつけねぇとな。」 (相性の不利だけじゃなく、ジムリーダーと言うからには、手持ちのポケモンもそれなりにレベルが 高いはずだ。さっきのココドラみたくはいかんだろうな。ちっと気合入れて行くか。) ジムリーダーの テッセンが しょうぶを しかけてきた! ジムリーダーの テッセンは ライボルト をくりだした! ゆけっ!クロバット! |
金銀晶 | #7★2004.12/19(日)22:52 |
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勝負開始と同時にお互いがほぼ同時に指示を出した。 「クロバット、怪しい光だ!」 「ライボルト、電光石火で行くぞい!」 先に動いたのはライボルトの方だった。どんな相手よりも素早く行動できる電光石火で、ショウの クロバットに鋭い体当たりを食らわす。 「クロッ!」 電光石火の一撃でクロバットが後ろに飛ぶが、この程度では無論へこたれない。クロバットはすかさず 態勢を整え、反撃でライボルトに怪しい光を放ってその感覚を乱す。 「ラ、ライッ!?」 「むっ、そう来たか!ライボルト、念のために相手と距離を取っておけ!」 ライボルトが後ろに飛んでクロバットから離れるが、五感が乱されたままのようで、あちこちを キョロキョロして落ち着きが無い上、足もいくらかフラついている。明らかに平常の感覚を失って いるようだが、それでもココドラの時のように見境なく暴走したりしないあたり、さすがジムリーダーのポケモンだけある。 「クロバット、エアカッターだ!」 「クロロッ!」 クロバットの作った無数の空気の刃がライボルトの体に切り傷をつけていく。相性の都合で効果は 今ひとつとはいえ、ダメージもそれなりにあるようだ。 「ぬぬ、ライボルト、電磁波で動きを封じるんじゃ!」 テッセンの指示でライボルトが電磁波を放ったが、混乱の効果でうまく狙いが定まらず、電磁波は クロバットの真下を通っていった。 「残念、外れおったか。」 「いい感じだ、クロバット、後ろに回って噛みつけ!」 シュン!という音を立てて、クロバットがライボルトの視界から消える。 「ライッ!?」 目の前からいきなり標的が消えて慌てるライボルトの真後ろにクロバットが音もなくサッと現れ、まだ 自分に気づかないライボルトの尻尾にガブリと噛み付いた。 「ライ〜ッ!?」 いきなり尻尾に激痛が走ったライボルトが思わず飛び上がって悲鳴を上げる。 「なんじゃショウ君、バトルに乗り気じゃなかった割りにはなかなか張り切ってくれるのう!」 「へっ、ありがとよ。一応、俺のたった一匹の大事なポケモンなんでな。それなりにしっかり育てて きた分の自信はあるぜ。」 「ワッハハハ、それで良い!」 「クロバット、もう一度噛みつけ!」 クロバットがライボルトの尻尾から口を離し、再び姿を消す。 「ライッ!」 噛み付かれたショックで混乱が解けたライボルトも、二度は同じ手は食らわん、とすぐ態勢を立て 直して辺りを警戒する。 「む、ライボルト、真上じゃ!」 「ライ!」 が、ライボルトが上に顔を向けた瞬間、反応するひまも与えず、クロバットがその鼻先に噛み付く。 「ラギャッ!」 敏感な部分を攻撃され、ライボルトもかなり苦しそうだ。 「おおっ、なんと言うスピードじゃ、わしのライボルトがついていけんとは!」 (これならいけるか……?) ショウがそう思った次の瞬間であった。 クロバットが突然、何かに弾かれたようにライボルトから離れると、そのままフラフラと空中を きりもみしながら地面へ降りていってしまった。 「なにっ?クロバット、どうした!?」 よく見ると、クロバットは全身をヒクヒクさせている。何とか羽を動かして羽ばたこうとするが、 思い通りに体が動かないようだ。 「ワッハハハ、どうやら形勢逆転みたいじゃなショウ君!君のクロバットは、どうやらライボルトの 静電気に引っかかったようじゃな。」 「静電気!?」 「じかに体に触ってきた相手を痺れさせることがあるんじゃよ。」 「な、なんてこったい……。」 麻痺で体の自由を封じられてしまうと、相手の行動に対する反応も遅くなってしまう。スピードが ウリのクロバットには特に痛い。 「くっ……クロバット、頼む!動いてくれ〜!」 クロバットも必死で羽をバタつかせて宙に浮こうとするが、すぐに地面にへな〜と這いつくばってしまう。 「ワッハハハ、すまんが、一気に決めさせてもらうぞ。ライボルト、電光石火!」 「ライ!」 完全に態勢を立て直したライボルトが、再びクロバットに鋭い先制の一撃をお見舞いする。 「クロッ!」 今度はまともに当たってしまい、クロバットが大きく吹っ飛ぶ。 「とどめじゃ、電撃波!」 「ラ〜イッ!」 ライボルトのたてがみに火花が走ったかと思った瞬間、たてがみの先端から放たれた電撃が、波打ち ながらクロバットに直撃した。 「ク、クローッ!」 「くそっ……!」 苦手な電撃を浴びたクロバットが地面に力なく落下した。だれがどう見ても明らかに戦闘不能だ。 「そこまで!クロバット、戦闘不能!よってこの勝負、テッセンの勝ち!」 「NO〜っ……。」 |
金銀晶 | #8★2004.12/19(日)22:54 |
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「参りました。トホホホ……。」 ショウはクロバットをボールに戻した。ついさっきポケモンセンターで元気にしたのに、またすぐお 世話にならなければならんとは、何とも情けない。 「ワッハハハ、まあそう落ち込むな。お前さんもなかなかいい線いっておったよ。もしあそこで静電気 が発動せんかったら、負けていたのはわしの方だったかもしれん。」 テッセンもライボルトをボールに戻しながら言った。 「どれ、ひとまずポケモンを元気にさせてきなさい。」 「ああ、そうするよ。悪いな、公式戦でもないバトルにジムリーダー自ら付き合ってもらって。」 「なになに、そう気にすることはない。またいつでも来るといいぞ。」 ショウはテッセンに挨拶をして、ジムの外に出てポケモンセンターへと向かった。 「確かにお預かりいたしました。治療が終了するまでしばらくお待ちください。」 ジョーイさんにクロバットを預けると、ショウはまた備え付けのパソコンに接続した。先ほど書き 込んだ掲示板で、自分の質問にレスがついているかどうかを調べるためである。 「おっ、来てる来てる。」 どうやら、いくらか回答がきているようだ。 『クロバットとは渋いの連れてるんだな。それは置いといて、キンセツにいるなら、キンセツから北に あるエントツ山の近くのドンメルマジお勧め。相性的にもクロバットと組みやすいぞ。ちなみに、 ゲットしたポケモンは117番道路で修行させろ。あそこら辺はトレーナーがよく集まるから、 ポケモンを戦わせて鍛えるにはもってこいだ。』 『釣りざおは持ってるか?パーティを組むなら水ポケモンは入れておいたほうが絶対バランス良いから 一本は持っとけ。』 『ホウエンを回るならジグザグマ神、これ最強。ものひろいマンセー。』 ……とまあ、ショウが外出している間に、色々アドバイスは集まっているようだ。とりあえず、 『みんなアドバイスどうも。色々試してみるわ。』 と簡単にお礼のレスをして接続を切った。後はクロバットの治療が終わるのを待つだけである。 「ありがとうございました!またのご利用お待ちしております。」 ポケモンセンターを出るとショウはまっさきにフレンドリィショップに向かった。とりあえず色々と 道具を買い揃えておきたいところである。 「えーと、モンスターボールは5つほどあればいいか?後はいい傷薬に毒消し……はいらねぇな。 俺のクロバットは毒になんねえし。……いや、やっぱ買っておくか。新しく仲間を増やすんだし。 麻痺治しと穴抜けのヒモと……。こんなもんかな。金は大丈夫だよなっと……。」 ジャラジャラチーン☆ 「毎度ありがとうございました!」 |
金銀晶 | #9★2004.12/19(日)22:55 |
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さて、買い物を済ませたショウがショップから出てきた瞬間である。 「どけどけえーい!」 「ぬおっ!?」 いきなりショウの目の前を大きな風呂敷を背負った数人の男が猛ダッシュで走り抜けた。 「あぶねーよ、バーロー!」 と、走り去っていく男たちに罵声を浴びせるショウだったが……。 「誰かー!そいつらを捕まえてー!泥棒よー!」 すぐに後ろから、叫び声が聞こえてきた。それから少し後に声の主と思われるトレーナーの女性が息を切らしながら走ってきた。見た目はどうやらショウよりちょっと若いくらいの水色の髪をポニーテールにした女の子である。リーグ公認のトレーナースーツを着ているところからすると、エリートクラスの腕前の上級トレーナーのようだ。 「あーん!待ちなさいよー!あたしのポケモンー!」 そう言いながら後を追おうとするが、どうやら体力の限界らしく、ショウの前でへばってしまった。 「はあ……はあ……。も、もうだめぇ〜……。」 「おいおい、エリートトレーナーの格好してんのに、情けねぇな。」 ショウが呆れたように言うと、その声に気づいた女の子はムカッとした表情でショウを見上げ、 「何よっ、人事だと思って!それに、ポケモン取られたのはあたしだけじゃないのよ!117番道路で 勝負してたら、いきなりあいつらがみんなのポケモンとモンスターボールを……!」 そこまで言うと、女の子の目が涙でうるんできた。 「ぐすっ……あたしのポケモン……一番大事にしてた子なのに……ぐすっ。」 「わーったわーった。ちっと落ち着け。泣いてもわめいても何にもならねぇだろが。」 ショウはすぐにモンスターボールからクロバットを取り出した。 「クロバット!向こうの方角にでっかい風呂敷しょった野郎が何人がいるはずだ。追いかけて奴らを 力ずくででも足止めしとけ!俺もすぐに追いつく!」 「クロロ!」 がってん任せんしゃい!といわんばかりに、クロバットは男たちの後を追った。 「クロバットのスピードなら人間の足なんざ目じゃない。行くぞ。」 「え……なによ、助けてくれるつもり?」 「ボサッと見てるわけにもいかんだろ。おら、お前も来い。大事なポケモン取られたんだろ?」 「そ……そうだけど……って、待ってよ、置いてかないで〜!」 女の子は少々混乱しながらも、すぐにショウの後を追って走り出した。 一方、男たちを追って行ったクロバットは、すぐに男たちの頭上に到着していた。が、男たちは クロバットが真上にいることには一向気づいていない。 「はあ、はあ……おい、まだ走るのか?そろそろ疲れたぜ……。」 「この先に仲間が自動車で待機しているはずだ。そこまでもうちっと辛抱しろっ。」 「とりあえず、今回は大漁だったな……う、うわぁ!?」 「クロー!」 走っていく男たちの前に、クロバットが突然音もなく舞い降り、羽を大きく広げて通せん坊をした。 いきなりのことに男たちもさすがにびっくりして、足を止める。 「なんだ、このクロバット!」 「くそっ、邪魔だ、どけ!」 男たちのうちの一人がクロバットに掴みかかろうとするが、クロバットはそれをいいように軽く あしらい、さらに男がクロバットを掴もうと伸ばしてきた手にお得意の噛みつき攻撃をお見舞いした。 「ギャアーッ!いてて!か、かまれたっ!」 「なにっ!?やられたか?」 「い、いてぇーよ〜!」 クロバットが男の手のひらから口を放すと、大慌てで男がクロバットから後ずさりした。結構思いっきり噛み付いてやったせいか、手の甲からかなり出血している。 「おい、大丈夫か!しっかりしろ!……くそっ、ヤロウめ、やってくれるぜ!」 「どうする?もし毒毒の牙だったりしたら、すぐに治療しないとやばいぜ?」 「何だったら、救急車呼んでやろうか?今なら退院後にお巡りさんがもれなくセットでつくけどな。」 |
金銀晶 | #10☆2004.12/19(日)22:56 |
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男たちが後ろを向くと、そこには追いついたショウと女の子がいた。 「クロバット、よくやったな。グッジョブだぜ。」 「なにぃ、そのクロバットはお前のポケモンだったか……。」 「畜生、てめぇのポケモンに噛まれたおかげで血が止まらねぇぜ。いててて……。」 「はん、ザマぁ無いな。安心しろ、それはただの噛みつきだからよ。痛いだけで毒とかは無いぞ。」 クロバットを肩に止まらせながら、男たちに向かって余裕で軽口を叩くショウの一方で、女の子は 手の甲から血を流している男を見て目を丸くしていた。 「うわ、かなり血が出ちゃってるよ……。ねえ、ちょっとやりすぎなんじゃない?」 「なーに、こーいう手合いの連中に情け容赦は無用だ。お灸はちっとキツめに据えないとな。」 「そういうもんなのかなぁ。」 もともと、かく言うショウ自身が「こーいう手合いの連中」だっただけに、この手の連中に対して どういう対処をすべきか、よく分かっているつもりだ。 「さて、どこのセコいこそ泥だか知らんが、大人しくぶん取ったポケモンは返してもらうぜ!」 ショウが言うと、男たちはお互いに顔を見合わせてうなずくやいなや、クロバットに手を噛まれた男 以外の残りが一斉に自分のモンスターボールを取り出した。男たちもポケモンを持っているようだ。 「おあいにくだが、返せと言われて、はいそうですかと大人しく引き下がってたまるか。それに俺たち をそんじょそこらのこそ泥呼ばわりしてもらいたくないもんだ。」 「屁理屈はやめときな。こそ泥じゃなきゃ、何だって言うんだよ。」 すると男たちはニヤリとして、とんでもないことを言い出した。 「ふっふっふ。聞いて驚け。俺たちは泣く子も黙る恐ろしくて強いポケモンマフィア『ロケット団』の 後継組織、その名もズバリ『ネオ・ロケット団』さ!!」 そう言う男たちの胸には、見れば見覚えのある赤い「R」の文字の上に、新たに「N」が書き足されて組み合わさったようなマークがくっきりとプリントされていた。 「あたし知ってる!確か、もう何年も前にカントーとジョウトで暴れまわっていたポケモンの密猟と 密売が専門の秘密結社でしょ!?うっそ〜!」 女の子もさすがにびっくりした表情で声を上げた。 「なにっ……!?バカな、ロケット団はもうとっくの昔に完全に解散したはずだぞ。幹部や重役連中 も根こそぎお縄につくか、行方不明になるかしているし、組織の財産だの資産だのも全部没収されて ほとんど一文無しのはずだ、今更新しく組織を立ち上げるなんて、まずできっこねえ!」 「だが、俺たちはやり遂げたのさ!まあ、どうやってやり遂げたかとかは秘密だがな。と言うか、俺ら 下っ端には関係ないことだし、詳しいことを知ってるのは上役くらいなもんだが。」 「おい、もうおしゃべりはそこまででいいだろ。さっさとカタをつけたらどうだ?」 ショウと男の会話を別の男がさえぎった。 「おっと、悪い悪い。つい乗っちまった。すぐに終わらせるって。」 男は再びショウと女の子の方に向き直り、改めてモンスターボールを構えた。 「さっきは油断してたが、今度はそうもいかねえ。仲間のカタキは取らせてもらうぜ。」 「俺も助太刀するぜ。」 「はっ、2対1でやるつもりか?上等、下っ端がカッコつけてないで、さっさと尻尾まいて帰んな!」 ショウがクロバットを差し向けようとした時、横から女の子がショウを小突いてきた。 「ちょっと待ってよ、あたしのこと忘れてない?あたしのポケモンも取られてるんだし、参戦させて もらうからね!」 「なに?別にあんたの勝手だが、大丈夫か?足手まといになっちゃ困るぜ。」 「大丈夫。ポケモン取られたときみたいなヘマはしないって。」 「そんならいいぜ。それじゃ……え〜っと、そういやあんたの名前を聞いてなかった。」 女の子が少々バランスを崩した。 「がくっ……。も〜、こんな時に。……あたしはナルよ。」 「ナルか。覚えておこう。俺はショウっていう。」 「ショウね。あたしも覚えておくわ。それじゃ、準備OK?」 「おう、にわかコンビだが、ザコの下っ端ごときにゃ負けないだろうよ。一発かましてやろうぜ! ……元祖と本家の違いを見せてやらあ!」 「?」 「あ、いや。こっちのことだ。」 ネオロケットだんの したっぱと ネオロケットだんのしたっぱが しょうぶを しかけてきた! ネオロケットだんの したっぱと ネロロケットだんのしたっぱは ポチエナと アーボを くりだした! ゆけっ! クロバット! でばんよ! キノガッサ! |
金銀晶 | #11☆2004.12/20(月)15:21 |
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「それじゃ、あたしからいくよ!キノガッサ、ポチエナにマッハパンチ!」 「キノー!」 ナルの指示でキノガッサがポチエナの間合いに一気に詰め寄り、鉄拳を叩き込んだ。 「ポチ〜ッ!」 「なに?は、早いっ!」 ビシッ!という鋭い音と共に、ポチエナは大きく吹っ飛んで目を回す。進化ポケモンと未進化ポケモンというだけでなく、さらに相性の有利とレベルの差という要素もあり、一撃で勝負は決まった。 「へっへーん。軽い軽いっ♪」 「ぐぬぬ、まさか1ラウンドKO負けとは!」 「ならば、いけ、アーボ!キノガッサに溶解液!」 「シャー!」 アーボの口から毒々しい色の液体がキノガッサに向かって吐き出された。 「あっ!キノガッサ!……だめ、間に合わない!」 「クロバット!キノガッサをかばえ!」 ショウの指示でクロバットがキノガッサの前に立ちはだかり、体に溶解液をもろに浴びてしまった。 が、もともとアーボと同じ毒タイプであるため、大したダメージも受けてない。 「今度はこっちの番だぜ。クロバット、アーボに嫌な音!」 「クロッ!」 クロバットが発した何とも言いがたい音がカラカラの頭に響き、思わずアーボも長い体をくねらせて 悶絶した。ついでに、団員たちの頭にも結構響いているようだ。 「シャ〜!」 「ぬぐぅ〜、脳みそが引っ掻き回されそうだっ。」 「こいつぁたまらんっ!」 「傷にしみるぅ〜っ!」 「今だクロバット、エアカッター!」 クロバットが放った空気の刃が容赦なくアーボに切りかかる。嫌な音に気をとられて防御の体勢を 取るのが遅れたアーボは、全身にまともにエアカッターを受けて倒れてしまった。 「シュゥ〜……。」 「ま、まさかこんな早く勝負がついちまうとは……。しかも俺らのボロ負け……。」 「くそー、この役立たずどもめ!」 「幹部連中め、自分らばっかりいいポケモン持ちやがって、俺らにゃこんなんばっかし!」 あっさり全滅してしまった下っ端団員たちがポケモンをボールに戻しながら悪態をつく。 「けっ、ポケモンよりもてめえらの方が未熟なんだよ。」 「かっこわるーい。」 と、遠くからサイレンの音がウーウーと聞こえてきた。見ると、パトカー数台がこっちに向かって 走ってきている。 「げっ!おい、警察が来やがったぜ!どうする?」 「まずいな……。しょうがない、ぶん取ったポケモンは諦めて、ここは引き上げだ!これでもくらい やがれ!そりゃっ!」 団員の一人が服の中からなにやら黒いボールのようなものを取り出し、地面に叩き付けた。すると、ボーンッ!!という派手な音と共に、真っ黒な煙があたり一面に広がる。 「げほげほっ!な、なによいきなり!」 「ごほっごほっ!こりゃどうも煙玉に催涙ガスを仕込んであるらしいな!目がつーんとしやがる!」 「こんなクズポケモンなんざこっちから返してやらあ!今回はしくじったが、これで終わったと 思わないことだな!あばよ!!」 「ネオ・ロケット団と読○巨○軍は、永遠に不滅です!」 「待ってくれ〜、逃げるのはいいけど、俺の手の怪我はいつ治療してくれるんだよ〜?ついでに言うと 俺は横浜ファンだこのやろ〜!」 「……。」 煙球の煙が消えた頃には、すでに団員たちの姿はどこにもなく、後にはモンスターボールがしこたま 入った風呂敷がいくつか置いてあるだけであった。到着したパトカーからジュンサーさんを始めとして 警官が続々と集まってくる。 「大丈夫、怪我はない?ポケモンを盗まれたトレーナーたちからの通報で駆けつけてきたけど…… この風呂敷包みにモンスターボールが入っているのね?」 「あ、はい。泥棒たちには逃げられちゃいましたけど……。」 「そうだったの。でも、みんなのポケモンを取り戻しただけでもお手柄よ。ありがとう!」 「どういたしまして。でも、ポケモンを取り戻せたのもこのショウのおかげ……って、あらら?」 ナルがあたりを見回すと、すでにショウはどこかに行ってしまっていた。 |
金銀晶 | #12☆2004.12/21(火)20:55 |
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翌日。朝の喫茶店でのんびりコーヒーを飲みながら新聞を読んでいるショウがいた。昨日の一件が 一面トップのスクープ記事として掲載されている。無理もない。数年前に解散したはずのロケット団の後継を名のるネオ・ロケット団の出現は全国に少なからず衝撃を与えたようで、警察でも全力をあげてネオ・ロケット団の調査に乗り出すと発表していた。 「ったく、つくづく迷惑な懐古主義だよな……。」 などと、独り言を言いつつ、新聞をめくりながら朝のまったりとした時間を過ごす。コーヒーを飲んで はいるが、まだ脳みそが完全に目覚めてないようで、少しぼーっとしておもむろにでかい欠伸を一つ。 「すいませーん。ここ、相席いいですか?」 ショウの脳みそに、突然明るい女の子の声が響いた。相席せにゃならんほど混んでたっけ?とショウが 思いながら顔を上げて声の主を見ると……。 「は〜い。ショウ君、お・は・よ・うっ!目ぇ覚めた?」 そこにいたのは、昨日ネオ・ロケット団と一緒に戦ったトレーナーのナルであった。声こそ明るいが、 微妙に怒っているような表情に見えるのは気のせいだろうか。ショウの寝ぼけた脳みそが一気にフル 稼動するくらいに覚醒した。 「うおっ!びびった!誰かと思えばあんたか!」 「あんたか!じゃないわよ。なんであの時あたしに黙ってどっか行っちゃったのよ!?」 ナルはショウの席にどっかり座りながらショウを睨みつける。ついでに注文を取りにきたウェイト レスにちゃっかり朝っぱらからチョコパフェなんかを注文していた(しかも特大サイズ)。 「昨日あれから大変だったんだからね。事情聴取をうけたり、現場検証に立ち会ったり、テレビとか 新聞の取材にもいろいろ答えなきゃならなかったりで、大忙しだったんだから。」 「で、俺のことは警察に言ったのか?」 「もちろん言ったわよ。そしたら、見つけたらぜひ証言が欲しいから出頭するよう言ってくれって。」 「勘弁してくれ……。本音を言っちまうが、あんまし警察とは関わりたくないんだよ。」 「なに、指名手配でもされてんの?」 「んなわけねーだろ。昔色々あったんだよ。」 「なによ、その昔あった色々って?」 「悪いが、詳しくは教えられない。ま、誰にでも秘密はあるってことで一つ頼むよ。」 まさか、自分は元ロケット団員だったなんてことは、なんで口が裂けても言えない。一応、それなりに 悪いことをしてきてるだけに、もし何かの拍子に身元がバレたら、まずお縄につくのは目に見えてる。 時効が完全に成立してるわけではないのだ。 「ふ〜ん……、秘密ねぇ〜。」 ナルはうさんくさそーな目つきでショウを見ている。なんか気まずいな、と思ったショウは話題を そらすことを思いついた。 「ああそうだ。ナル、昨日はお前もポケモンを盗られてあいつらを追いかけてたんだよな?」 「へ?うん、そうだけど?」 「で、結局お前が盗られたポケモンって、何だったんだ?」 そう聞くと、ナルが嬉しそうに答えた。 「ふふっ、知りたい?私の一番のお気に入りよ。……ほら、この子なの!」 ナルがそう言ってモンスターボールからポケモンを取り出した。そのポケモンとは……。 「チルー!」 「おおっ!チルタリスか!しかも色違いの金色!ゴールデンデラックスバージョンッ!」 普通、チルタリスの体の色は空色だが、ごくまれに生まれる色違いのチルットとチルタリスは、体が 金色(ただの黄色じゃないか、とヤボなこと言うやつもいるが)に輝くと言う。ショウも以前テレビか なにかで金色のチルタリスが出演していたのを見た記憶があるが、実物を見るのは初めてだ。 |
金銀晶 | #13☆2004.12/22(水)16:47 |
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さすがにとても珍しい色違いのポケモンなだけあって、ナルのチルタリスはショウだけでなく、他の 客の注目も集めた。 「おい、見ろよ。色違いのポケモンだぜ!」 「へー、初めて見るな。あれってチルタリスだろ?」 「きれー。」 「かわいいー。」 「うまそー。」 「!?」 なんか物騒な感想が出てきたような気がするが、気にしないでおこう。 「なるほどなー。阿呆どもを追いかけてでも取り返したい気持ちも無理はないぜ。」 「あたし、ヒワマキシティって町の出身でね。そこのジムのジムリーダーのナギちゃんって子が飛行 タイプのポケモンの使い手なのよ。あたしと同じ年くらいで、ちっちゃい頃からよくジムにお邪魔 してたんだけど、あたしが新米トレーナーとして旅立つときに、記念にもらったタマゴからかえった のがこの子だったというわけ。」 「ほほう。しかし、何故にタマゴ。」 「ちょうどその頃は飛行ポケモンのタマゴと技の遺伝っていうのかな?それをナギちゃんが研究して いたのよ。このポケモンとこのポケモンのペアだとどんなポケモンが生まれて、どんな技を覚えて くるか、とかそんな感じのやつ。」 「ふむふむ。じゃあ、そのタマゴはその研究のときに出来たやつか。」 「ピンポーン。まさか捨てちゃうわけにもいかないけど、だからって全部のタマゴの面倒は見切れない じゃない。だから、ジムに挑戦したトレーナーとかに半分おまけで配ってたりしたんだって。…… 言っておくけど、今はもうやってないと思うから、行ってももらえないよ?」 「なんでぃ、残念だな。」 「いいじゃん、あんたは飛行ポケモンならクロバットがいるじゃない。」 「ま、それもそっか。」 こんな感じで、しばらくナルの一方的な話が続いた。ナルにとってこのチルタリスは、ただ珍しいと いうだけでなく、旅立ちのときからの思い出も積み重なった大事な一匹である。それだからこそ、昨日 ネオ・ロケット団に盗まれたときも、必死になってでも取り戻そうとしたのだし、こうして自慢話にも 力が入るというものだろう。だが、力を入れすぎるのも考え物で。 「それでね……そのときチルットがね……。」 「ふむふむ。」 「そしたら……そんでもって……。」 「へー。」 「それでもうね……なんていうか……。」 「……。」 「ねえ、ちょっと聞いてる?まだ話はこれからなんだよ?」 「勘弁してください。」 結局、ナルのおしゃべりがおさまったころには、お昼近く(!)になってしまっていた。 「あらら、もうこんな時間になっちゃったんだ。時間が経つのって早いねー。」 「(ナルがおしゃべりに熱中しすぎてただけだろーが……。)」 「そうそう、ところでさ。」 「何だよ。おしゃべりに付き合うのはもう御免だぞ。」 「そうじゃなくって。なんだかんだ言ってもさ、昨日あんたには色々お世話になっちゃったし、今日は その御礼っていっちゃ何だけど、あたしの好きなお店に連れてってあげようと思って。」 「店……どんな店だ?」 「ケーキ屋さんよ!キンセツじゃ有名なところなんだから。」 「(それはお前が適当な理由つけて、自分がケーキ食いたいだけちゃうんかと、小一時間(略))」 「どしたの?もしかして、甘いものとか嫌い?」 「いやいや、そういうわけでもないが。」 「だったら、すぐ行こうよ。あたし、先にお店の外で待ってるからね〜。」 そう言うやいなや、ナルは一人でさっさと店の外に出て行った。その姿を見送って数秒後。ショウは ハッと気が付いて叫んだが、もう外に出たナルには無駄だった。 「おいコラ、せめててめぇが注文した分の代金は置いてけっ!俺に全部払わせるかっ!?つーか、お前 特大チョコパフェ注文しといてまだ食うのかよっ!」 「気づくのが遅いのよ♪それに、甘いものは別腹〜♪」 「くううっ、このアマ、どうしてくれようっ(泣)!」 |
金銀晶 | #14☆2004.12/24(金)11:45 |
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キンセツシティに本店をかまえる、フルーツポケモンのトロピウスをシンボルマークとする老舗の ケーキ専門店「スイートブリーズ」は、新鮮なフルーツをふんだんに使用したフルーツケーキが目下の目玉商品となっている。そのバリエーションは、全てあわせると、なんと100種類を越える。 さらにスイートブリーズでは、店のシンボルポケモンであるトロピウスを全国の支店に数匹配置しておき、空を飛ぶを使った宅配システムで、遠くの町の注文にも素早く対応できるネットワークを形成 することで、全国各地のファンから、根強い支持を得ている。 当然、その本店ともなればいつ来ても混んでいるのは至極当たり前のことで、ショウとナルが来た ときには、すでに店の中にはかなりの客が入っていた。やはり女性が多いようだが、男性の姿も結構 多くみかける。 「うへぇ〜、さすがに混んでやがるな。」 「すごいでしょ、人気のケーキとかは開店してから10分で売り切れちゃうことだってあるのよ。」 感嘆するショウとナルの前に、ずしずしと足音を立てて一匹のトロピウスがやってきた。もちろん、 この店で飼われているもので、首のフルーツからただよってくるクセのないフレッシュな甘い香りが なんとも心地良い。 「ト〜ロ〜ピィ〜。」 「あら、こんにちは。」 人懐っこくお客のところに寄っては、頭をなでてもらったりして可愛がられているようだ。トロピウス は結構大型のポケモンではあるが、店の間取りがかなり広めに取ってあるため、トロピウスが邪魔に なることもあまりないようである。 「はぁ〜ん、いい香りぃ。これにつられてついついたくさん買っちゃうのよね〜。」 「おい、やっぱりてめぇがケーキ食いたいだけだったんじゃねえか。」 「もう、この際細かいことは言いっこ無し!ケーキのお金はあたしが払ってあげるから、ショウも 好きなの選びなよ。……だからってたくさん買いすぎちゃやーよ。」 ガキじゃあるまいし、と思いながらも、ショウはウィンドウの中のケーキを物色してみる。なるほど さすがにたくさんの種類のケーキがあるが、どれもこれも職人の気合が感じられる見事な一品ばかりで美味しそうである。ショウがケーキを物色している間にも、どんどん売れていく。 「さて、どれにすっかな……。2、3個くらい買ってみるか。」 結局、ショウが買ったのはシンプルなモンブランに、フルーツサンドとイチゴのムースであった。 「俺はこんなもんでいいか、と。ナルはどうしたかな?」 ショウがナルの方を見ると、まだどれを買おうか迷っているようであった。 「う〜ん、今日はどれにしよっかな〜。あれはこないだ食べたし〜。迷うな〜♪」 「おいナル、まだ決まらないのかよ?」 「だって〜どれもこれもみんな美味しそうなんだもん〜。いっそ全部買いた〜い。」 「……気持ちは分かるが、そりゃ無理だ。」 「そういうショウは何にしたの……って、あら、フルーツサンドを選ぶとはなかなかお目が高いわ。 ここのフルーツサンド、中に入っているフルーツの組み合わせが日替わりで変わるのよ。」 「へぇ、そうなのか。」 「先にレジに行ってお会計済ませてきて、お店の外で待ってれば?お金は……1000円もあれば 大丈夫みたいね。はい、これお金。」 「そんじゃ、先に行って待ってるぜ。」 |
金銀晶 | #15☆2004.12/26(日)18:26 |
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会計を済ませたショウは、ナルにお釣りを渡すと店の外に出て、店の前に備え付けてあるテーブルと イスに腰掛けてナルを待つことにした。 「さて、早速人気のケーキとやらを頂いてみるか。……と、その前に。」 モンスターボールからクロバットを出して、肩に止めると、ショウはまずフルーツサンドを出して、 中のフルーツをいくつかクロバットに食べさせた。 「どうだクロバット、上手いか?」 「クロッ!クロッ!」 とっても喜んでいるようだ。ショウも早速フルーツサンドを味わう。 「うん、確かに美味い。」 もくもくとケーキを食べながら、店に出入りする人々をぼんやりと眺めていると、店の前に一台の 車が停まった。いかにもお金持ちが乗ってます、といった感じの黒い高級車で、ドアが開くと、中から 品の良さそうな中年の男性と、男性のポケモンと思われる舐めまわしポケモンのベロリンガが降りて きて、店の中に入っていった。それと入れ替わりにナルが店の外から出て来て、ショウの席に座った。 「ねーねー、今お店の中に入っていったおじさんとベロリンガがいたでしょ?」 「ああ、あのおっさんがどうかしたのか?」 「あのおじさん、テレビでも有名な料理評論家よ。サトウさんって言うんだけど、特にお菓子関係が 専門で、お菓子屋さんのガイドブックなんかも本にして何冊も出しているわ。」 「甘物評論家のサトウさんね。偶然にしちゃ、よく出来たシャレだ。」 「もともとスイートブリーズは、それほど有名なお店じゃなかったんだけど、サトウさんが自分の本で お店のことを紹介したのがきっかけでお客が集まるようになったんだってさ。それ以来、サトウ さんもすっかりお店の常連になっちゃってて、よく仕事帰りにケーキを買うんだって。」 「はぁ〜。で、あのベロリンガは?」 「もちろん、サトウさんの相棒よ。料理の美味しさを正しく評価するには、ベロリンガの敏感な舌の 感覚が必要らしいんだってさ。」 「なるほどね。」 -------------------------------------------------------------------------------------------- ガシャーン!ドタドタドタドタ! 店の中がいきなり騒がしくなって、思わずショウとナルがびっくりした。 「どうした?」 「お店で何かあったのかしら?」 ショウとナルが急いで店の中に入ると、なんと店の中を一匹のジグザグマがとてとてと走り回っては 大事な商品のケーキを食い荒らしていたのである。 「クマー!」 店の中にはジグザグマが食い散らかしたケーキやらパンやらの残飯があちこちにこぼされて、床や 商品棚、ウィンドウの中などがひどい有様になっていた。 「うわっ、こっち来たわよ!」 「おい、早く捕まえて店の外につまみ出せ!」 数人の客がジグザグマを捕まえようとするが、ジグザグマは棚や客の足元をすばしっこく走り抜けて 逃げ回る。店のトロピウスもおろおろ足踏みするばかりで、役に立ちそうにはない。 「ありゃりゃ、あれはジグザグマね。最近はよく野生のが街中に入り込んでくることが多いらしいって 話よ。見た目は可愛いんだけど、お店の残飯や生ゴミをあさったり、食い散らかしたりするのも いて、最近社会問題になってるってことは聞いたことがあるんだけど、まさかリアルタイムで遭遇 しようとは思わなかったわ。」 ナルがショウに解説をしている間にも、ジグザグマはせわしなく店内を走り回っている。このまま 放っておけば、すぐに店がメチャクチャになるのは想像に難くない。お店の人が悲鳴を上げた。 「誰かそいつをなんとかしてくれー!」 と、走り回るジグザグマの前に、ズン!という感じで立ちふさがるものがあった。 「あ、サトウさんのベロリンガだ!」 「ベロ〜ッ。」 「どれ、このままお店が荒らされるのを黙っているわけにも行かないでしょう。ポケモンの扱いは デザートの評論ほど得意ではありませんが、私がなんとかやれるだけやってみましょうか。」 穏やかな口調でサトウが言った。 |
金銀晶 | #16☆2004.12/27(月)17:27 |
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「では、参ります!ベロリンガ、舌でジグザグマを捕まえなさい。」 「ベロ〜リッ。」 ベロリンガが自分の身長の何倍もある舌をジグザグマに向けて伸ばした。が、ジグザグマはこれを ちょこまかと動いて回避する。 「うーん、なかなかすばしっこいですねぇ……。ベロリンガ、頑張って!」 「ベロッ!ベ〜ロ〜ッ!」 ベロリンガもジグザグマを捕まえようと躍起になって舌を伸ばすが、ジグザグマは器用にこれを かわしていく。そして、方向転換してベロリンガの方に一直線に向かっていったかと思った次の瞬間。 「クマッ!」 ゴチーン!という鈍い音と共に、ジグザグマの頭突きがベロリンガに炸裂した。 「ベ、ベロ〜ッ……。」 「ああっ、ベロリンガ、大丈夫かい?よしよし、痛かっただろう?」 舌を引っ込めて頭を抱えてベロリンガがうずくまった。頭のてっぺんに、みごとなタンコブが一つ 出来てしまっている。サトウがそれをかばってベロリンガの頭を撫でてあげた。 「ったく、見てらんねえな。ちょっと俺が行ってくるぜ。」 「えっ?ちょっと、ショウ!」 もう見てられない、とばかりにショウがクロバットと一緒に店の中に突入した。そして、サトウと ベロリンガのもとに来ると、持っていた傷薬を出してサトウに手渡す。 「そんなに大したケガじゃないと思うが、一応念のためにそいつにこれを使ってやるといい。」 「おや、親切にどうもありがとう。君はポケモントレーナーですか?」 「ああ、そうさ。ここは俺に任せといてくれ。」 そう言うと、ショウはクロバットに指示を出した。 「よし、行って来い、クロバット!」 「クロー!」 音もなくクロバットがショウの肩から飛び立ち、店の中を旋回する。 「お客さん、これ以上お店が荒れるようなことだけはしないでくださいよ!」 「わーってるって。」 この場合、飛び道具で攻撃範囲の広いエアカッターは店全体を巻き添えにしかねないため使えない。怪しい光も、もしジグザグマが混乱した場合は店内をメチャメチャに暴走する危険性があるため、そう 安易には使えないだろう。となると、後はなるべく嫌な音と噛み付くでどうにかする必要がある。 「クロバット、ジグザグマに噛みつけ!」 ショウの指示でクロバットがサーッとジグザグマの真上に忍び寄り、背中にガブリと噛み付いた。 「ザグッ!?」 背中にいきなり痛みが走って、ジグザグマが思わず飛び上がった。 「みなさん、耳をふさいでいたほうがいいですよ!……次は嫌な音だ!」 客に注意を促してから、クロバットに指示を出した。クロバットが嫌な音を放つ。 「ザグ〜ッ!」 これはたまらんとばかりに、ジグザグマがひっくり返りそうになる。 「うわあ、耳をふさいでてもやっぱりいくらか聞こえてきます!」 「こっちの脳みそが荒れそうだ〜!」 「すまん、だがもうちっと我慢しといてくれ!クロバット、もう一度噛みつけ!」 クロバットが今度はジグザグマの尻尾に噛み付いた。 「ク、クマ〜ッ!」 尻尾を噛まれてバランスを失ったためか、ジグザグマはよろけてその場にごろんと倒れこんだ。 「おおっ、やったみたいだぞ。」 「さすがですね!」 「よし、最後の仕上げだ!」 ショウはそう言うと、モンスターボールを取り出し、ジグザグマに投げつけた! 「行けっ、モンスターボール!」 モンスターボールがジグザグマに命中すると、ジグザグマを赤い光の塊に変えて、ボールの中へ収納 した。ボールはしばらくスイッチ部分を点滅させてピクピクと動いていたが、やがてピコッ、という音とともに動かなくなった。ポケモンをボールに収納することに成功した証拠である。 やったー! ジグザグマを つかまえたぞ! 店の外と中から拍手が巻き起こった。ショウがジグザグマのボールを少し照れくさそうに拾う。 「へぇー、ショウったらやるじゃん!」 ナルが店の中に入ってきて言った。 「なに、これくらい朝飯前さ。それに、ちょうど手持ちのポケモンを増やしたかったんでね。」 そんなショウのもとに、サトウとベロリンガもやってきた。 「いやはや、特と拝見させていただきましたが、なかなか鮮やかなポケモンの使い方でしたね。私も ポケモンを連れている身として、見習わなければ。」 「いやいや、そんな大したことじゃないって……。」 と、そこへ店の主人がケーキの箱を持ってやってきた。 「はぁー、一時はどうなるかと思いましたが、おかげさまで助かりました。大したものでは無いです けど、これはほんの感謝の気持ちです。ぜひ召し上がってください!」 箱の中には、やっぱりたくさんのケーキが入っていた。 「どういたしましてってんだ。それじゃ、こいつぁありがたくいただくぜ。」 いいことをして気分が良いっていうのは、ロケット団にいた時代にはまず味わえない感覚だな、と 密かに思ったりするショウであった。 |
金銀晶 | #17☆2005.01/03(月)22:14 |
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「うーん、それにしても昨日のネオ・ロケット団のときと言い、今日のジグザグマのときと言い、 あんた何か大活躍しちゃってるじゃない!」 ぱくぱくもぐもぐ。 「しかもジグザグマをゲットしてお店を助けただけじゃなく、念願の仲間も増えて正に一石二鳥!って 感じだよね〜。」 はぐはぐあぐあぐ。 「それにしても、美味しいわねこのケーキ。流石有名店のは違うわ。」 もぐもぐ……ごくん。ぷはぁ。 「……おい。」 「どしたの?ケーキ食べないの?美味しいよ。」 「あのな、このケーキはあくまで俺がもらったもんだぞ。」 「知ってるよー。」 「一個も食うなとは言わんが、せめてもう少し遠慮して食え。ぶっちゃけ食いすぎだお前。」 「ぶぅ〜。なによ、ケチ。」 スイートブリーズでの騒動の後、二人はポケモンセンターで、先ほど捕まえたばかりのジグザグマを 預け、治療が終わるまでの間、お店自慢のケーキを堪能していた。が、ナルがケーキを食べるペースがどう見てもショウより早い。すでに4個以上は平らげている。 「というか、お前が自分用に買ったケーキはどうした。」 「あれ?もう全部食べちゃった。」 お前の腹はカビゴン並みの底なしだな、と心の中で呆れるショウ。 ケーキを食べながら雑談していると、ナルがこう聞いてきた。 「あ、そうだ。ところでショウってさ、どこの町の出身なの?」 「俺か?俺はコガネシティだ。ジョウトの生まれなんだよ。連絡船でホウエンに来たんだ。」 「そうなんだ。じゃあ、ホウエンのことはあんましよく分からないでしょ。」 「おう。特にこれと言った目的があって旅をしてるわけでもないんだが、このキンセツからだとどんな 町とかに行けるんだ?」 「そうねぇ……ここからだと……。」 ナルが教えてくれたのは3つのコースだった。 一つ目は、キンセツの西側にあるシダケタウンから、カナシダトンネルを通過してカナズミシティや トウカシティに向かうコース。 二つ目は、111番道路を通過して北に向かって、フエンタウンやハジツゲタウン、エントツ山などに向かうコース。 三つ目は、118番道路から東に向かい、ヒワマキシティやミナモシティに行くコース。ちなみに、 ミナモシティから出ている定期船に乗れば、トクサネシティやルネシティにも行けるとのことだ。 「ふーん。結構分岐があるんだな。」 「そうよ。急ぐ旅じゃないんなら、全部のルートを通っていくのも面白いかもよ?」 「そうか……。まあ、ゆっくり考えてみるとするか。」 ちょうど話に区切りがついたところで、ショウのジグザグマの治療が終わったと言う放送が入った。 受け付けでモンスターボールを受け取って戻ると、ナルがこう切り出した。 「ねえ、ショウ。突然でなんだけどさ、ちょうどいい機会だから、あたしのお願い聞いてくれる?」 「なんだ、お願いって?いっとくが、またなんかおごってくれとかは却下だぞ?」 「違うってば。……ショウの旅に、あたしも一緒に同行させてほしいの。」 意外な言葉に、ショウもちょっぴり驚く。 「俺の旅にくっついて行きたいってのか?」 「そうだよ。ホウエンは初めてなんでしょ?あたしがツアーガイドの代わりに案内したげる。それに、 今あたし、ポケモンリーグに挑戦するために色んな町のジムを訪ねているの。一緒にくっつくついで にバッジ集めもしていこうって思って。何より、旅は一人より二人の方が楽しいじゃない。」 「そんなもんかねぇ?」 ショウが釈然としない、といった表情で残りのケーキを口に入れる。 「それに、あんたが昨日言ってた『秘密』ってのも知りたいもんね♪」 「ぶふっ!?」 思わずケーキを吹き出しそうになった。 「やんっ!汚いなぁ、クリーム飛ばさないでよ!」 「おいこらナル、人の秘密ってもんはあれこれ詮索したりするもんじゃないっつーの!」 「えー、いいじゃん。だいじょぶだいじょぶ、あたしはこう見えても口は堅いからさ!」 そういう問題じゃねぇ、というか、お前がそう言ってもイマイチ信用ならん、とショウは思った。 「ついてくのは構わんが、秘密はあくまで秘密だぞ。そこんとこ分かっておけよ?」 「つまんなーい。……冗談だって。それでいいよ、あたしは。」 こうして、ショウとナルは二人で旅をすることと相成った。思いがけない相棒の出現だったが、 ことわざに曰く「袖刷りあうも他生の縁」。こういうのもまた旅の醍醐味だ、ということで。 「さて、とりあえずどっち方面に行けばよいのやら、と来たもんだ。」 「そーねぇ……。」 どうしたものだろうか? |
金銀晶 | #18☆2005.01/11(火)16:02 |
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CMタイム すたすたすた。ぺこり。 「えー、皆さんどーも。主人公のショウでございます……と。」 「にわか相棒のナルでーす。」 「クマー。」 「おら、お前はボールん中で大人しくしてろ。ったく、いつ出てきやがったんだ?」 「ままま、それは置いといて。」 「今回は、この作品を読んで下さった方々に読者参加企画……は大げさだな。ま、とにかく アンケートのご協力をお願いしたい。」 「作品中ではあたしたちがこれからどっちに行くかで迷うところで終わってたね。と、言うわけで みんなにはあたしたちのこれからの進路を決めてもらいたいわけ。」 「もう一度確認しておくが、ルートはキンセツからの以下の3つだ。」 A:カナシダトンネルからカナズミ、トウカ方面へ B:111番道路からフエン、ハジツゲ方面へ C:118番道路からヒワマキ、ミナモ方面へ 「……なあ、ナル。」 「なあに?」 「なんだかんだ言っても、結局は全部のルートを通る予定なんだろ?」 「作者の構想上はね。」 「だったらわざわざ次のルート決めるアンケート取る必要もあんまし無いと思うんだが。適当に 総当りで通っていきゃいいだけだろ。」 「……。」 「……。」 「……何とか言えや。」 「……。」 「……おい。」 「ナルちゃん流マッハパンチ!」 ご す っ 「へぶし!」 どさり…… 「じゃ、そういうわけで皆さんからのアンケート、お待ちしてまーす♪」 「……(ひくひく)。」 「クマー。」 「あ、そうそう。肝心の締め切りは1週間後の1月18日だからねー♪」 |
金銀晶 | #19☆2005.01/19(水)15:18 |
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「……なに?キンセツに出張していた連中がしくじった?男女のトレーナーに妨害されて 収穫をほっぽってきた……。ふん、腑抜けた連中め。処罰?どーせ失敗したところで大して 損になるような仕事でもないのだろう?適当に減給して油を絞っておくくらいで釈放しとけ。 ……ふふ、ホウエンにも随分と見上げた度胸のトレーナーどもがいたものだ……。」 「マリル、水鉄砲よ!」 「リルー!」 「くっ、負けるなジグザグマ、頭突きだ!」 「クマ!」 ゴチーン!という鈍い音が響くと共に、ジグザグマの頭突きがマリルの水鉄砲を押し切って、 マリルの脳天に直撃していた。 「り、りるぅ〜……。」 でっかいタンコブを作って、マリルがその場にしゃがんで泣き出してしまった。 「あ〜ん、あたしのマリルがぁ〜。降参します。」 「おーし、よくやったなジグザグマ。」 「クマ〜。」 ここはキンセツから東側にある118番道路。キンセツを出発したショウとナルは、まずはヒワマキ 方面へ向かおうということになって出発した。118番道路は数年前は橋のかかっていない大きな 川があって、秘伝マシンで波乗りを覚えさせたトレーナーなどでないと向こう岸に渡れなかったの だが、現在では立派な橋が作られて自由に交通が出来るようになっている。 ショウはその橋の上で、スイートブリーズでゲットしたジグザグマを修行させていた。先ほども、 勝負を挑んできたミニスカートのマリルに余裕で勝ったところである。 「クマクマッ。」 「ん?おおっ、タウリンを拾ってきてくれたんか。サンキュ。……お前飲めや。」 「クマクマ〜。」 好奇心旺盛なジグザグマは、よくトレーナーの元へどこから拾ってきたのやら、様々な道具を持って きてくれる習性がある。これは一般的に「物拾い」という特性と言われており、この特性がもたらす 恩恵は、初心者からベテランまで多くのトレーナーを魅了してやまない。ショウもすっかり魅了されて しまった一人で、カントーから持ってきたナップザックの中はすでにジグザグマが拾ってきた道具で、 早くも一杯になりかけていた。 「ねえ、クマちゃんが拾ってきた道具、随分たまったんじゃない?ちょっと整理しなさいよ。」 ショウのナップザックを覗き込み、ナルがアイスをなめながら(また食ってる)言った。 「ああ?そういや結構集まってきたな。とりあえず、いい傷薬と何でも治しはいくつか取っといて、 不思議なアメとポイントアップはパソコン行きで、金の玉も売り払うか。」 とりあえず、これからの旅に必要な分を残し、あとはパソコンに預けたり、フレンドリィショップに 引き取ってもらっていい感じに換金しておいた。これでいくらか旅も楽になるだろう。 さて、バッグの整理を終えて橋の上を通ろうとすると、ショウは今度は橋で釣りをしていた釣り人に 話し掛けられた。 「やあ、さっきの勝負見ていたよ。なかなか強いじゃないか。ぜひ私と勝負してくれないか?」 「おぅ、構わないぜ。今日は調子がいいからな、じゃんじゃんやったるぜぃ。」 「ショウったら、ノリノリね。」 つりびとの リョウヘイが しょうぶを しかけてきた! つりびとの リョウヘイは ホエルコを くりだした! ゆけっ!ジグザグマ! 「ホッホ〜ッ!」 「で、でかっ!なんだよそのポケモンはっ!?」 「クマー……。」 ショウがびっくりするのも無理は無い。リョウヘイが出してきたのは体長2mにもなる、玉鯨ポケモン のホエルコである。あまりのでかさにショウのジグザグマもびっくり。 「わはは、驚いたかい?玉鯨ポケモンのホエルコだよ。これでもまだ子供なんだ。」 「マジすか。」 「進化して浮き鯨ポケモンのホエルオーになれば、全長14m以上にもなるそうだ。」 「14m!?もはや『ポケット』モンスターじゃねぇな。」 とりあえず、いつまでも相手のデカさにびっくりしてはいられないので、勝負を始める。 「ジグザグマ、頭突きだ!」 「クマッ!」 ジグザグマが真正面からホエルコに頭突きをお見舞い……しようとしたが、ホエルコのボールの ように弾力のある体にぼよよ〜んとはじかれてしまった。あまりダメージも無いようだ。 「ホエルコ、反撃だ。体当たり!」 「ホォーッ!」 ホエルコが体を大きく弾ませてジグザグマに向かってくる。見た目以上にかなり素早い動きだ。 「かわす……のは間に合わねぇな。ジグザグマ、砂かけだ!」 「クマクマッ!」 ジグザグマが向かってくるホエルコ目掛けて、後足で大量の砂をぶっかけた(橋の上で戦っているのに どこにそんな砂があるんだ、というツッコミは無しにして頂きたい)。 「ホホッ!?」 ホエルコの目に砂が入り込んだらしく、思わずホエルコが目をつぶった。そのせいで体当たりの 軌道が外れ、間一髪でホエルコの巨体がジグザグマのギリギリ横を素通りしていった。 「チャンスだ、ジグザグマ!ホエルコの横から頭突き!」 「クーマーっ!」 隙が出来たホエルコ目掛け、ジグザグマの頭突きが決まった。ホエルコはそのまま大きくバランスを 崩し、その場にごろりんと仰向けにひっくり返ってしまった。 「ホ、ホォ〜ッ……。」 「あわわ、ホエルコ、頑張っておくれ!」 ひれを一生懸命ぱたぱたしてもがくが、どう頑張っても起き上がれないようで、やがて諦めたのか つまらなそうな表情でくたっとなってしまった。 「こりゃあかん。……分かった、私の負けだ。改めて強いなぁ君は。」 「絶好調。流石だよな俺ら。」 「クマー。」 |
金銀晶 | #20☆2005.01/25(火)20:16 |
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「なにっ?賞金が払えないだぁ?」 「ははは、御免御免。どうやら家にサイフを忘れてきてしまったみたいなんだ。」 ポケモントレーナー同士の勝負のあとは、勝った方に負けた方から賞金が支払われることになって いる……はずだったが、なんとリョウヘイはサイフを忘れて賞金が支払えなかった。 「なんだよ、せっかくポケモン戦わせたのに、無駄骨かよ……。」 「ちょっとショウ、そーいう言い方はないでしょ!」 「あ……すまん。」 「気にしないでくれ。サイフを忘れた私の方が悪いんだ。」 「だが、何もあげないのも何だし……良かったら、これを賞金代わりに受け取ってくれないか?」 リョウヘイはそう言うと、自分の釣り道具を入れてあるバッグから、一本の釣りざおを取り出した。 「釣りざお……?」 「ああ。この118番道路から119番道路にかけて大きな川が流れているんだが、その川は絶好の 川釣りポイントとして有名なんだ。よかったら、この釣りざおで水ポケモンでも釣ってくれ。 なに、家にもまだ釣りざおはたくさんあるし、一本くらい減ったってどうってこたないさ。」」 「なるほど……それじゃ、ありがたく頂くぜ。ちょうど水ポケモンが欲しかったから、こいつぁ 都合がいいぜ。」 「お役に立てれば嬉しいよ。それじゃ、私はそろそろ釣り場所を変えるんで、この辺で。」 「ああ、達者でな。」 「おじさん、わざわざ有難うね。」 さて、ところ変わって119番道路。ここは118番道路とは景色が一変し、まるで熱帯の密林にでも 迷い込んだかと思うような、熱帯の植物や背の高い雑草が生い茂っている。ショウとナルは雑草の中を 頭半分までも埋もれながらもこもこと進んでいた。 「くそっ、うっとおしい雑草だぜ……。」 「う〜ん、秘伝マシンで『居合い斬り』を覚えたポケモンがいれば、こーいう草むらを刈り取って 進めるんだけど……。あたし居合い斬りのマシン持ってないのよね〜。」 「ったく、……ん?今何か踏んじまったような?……あ、ナゾノクサだ。」 「気をつけてよ。ここら辺のナゾノクサ、怒らせると色々厄介な粉を撒き散らすから。」 道端では、虫取り少年や大人の昆虫マニアが捕まえた虫ポケモンを見せ合ったり、鳥ポケモンを訓練 している鳥使いの姿を多く見かける。また、遠くの方には何やらドーム状の建物の屋根も見える。 ナルが言うには、この辺りで訓練している鳥使いのほとんどはヒワマキのジムに通っているらしい。 また、遠くのドーム状の建物は、ホウエン全体の天気を観測している研究所で、現在は人工的に天気 をコントロールする研究をしているそうだ。そんな話を聞きながら、更にもこもこと草むらを進む こと数分。やっとのことで道が開けてきたようだ。 「うぃ〜、やっと草むらから抜けられたぜ。」 「あ、ほら。さっきの釣りおじさんがいってた川よ。」 「おお、確かにでかい川だな。」 ショウとナルの目の前に、広大な川が広がっている。流れも穏やかで澄み切っており、あちこちで ポケモンと一緒に休憩しているトレーナーの姿もちらほら見受けられる。 「おし、それじゃ早速さっきもらった釣りざおを使ってみっか。」 ショウがそう言いながら、ナップザックからリョウヘイにもらった釣りざおを取り出した。 「結構いろんなポケモンが釣れるんだよ、この川は。」 ひゅっ。ぽちゃん。 ショウは手ごろな岩の上に腰を下ろし、釣り糸を垂らす。 「さ〜て、何が釣れるか……。」 そう言った次の瞬間、糸が強く引かれた。釣りを始めていきなりのヒットである。 「おおっ!いきなり来たぜ!こいつぁ結構でかいぞ!……そりゃあ!」 ザバーッ!と景気良く釣りざおを引き上げた。……が。 「ありゃ?……何もかかってねぇ?」 「勢い良く引き上げたから、糸が切れちゃったんじゃない?」 「いや、糸はどこも切れてねぇ。針もルアーもちゃんとついてるぞ。一体どこにいって……。」 ひゅるるる……かぷっ。 「うぎゃあぁ!」 |
金銀晶 | #21☆2005.02/01(火)16:07 |
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突如、上空から降ってきた謎の物体がショウの頭にかぶさったかと思うと、ショウがとんでもない 悲鳴を上げながらその場で騒ぎ出した! 「いてて!いてぇ!なんだなんだっ!?ぬおぉ!突発性の頭痛かあぁ〜!」 「ショ、ショウ!頭!頭にポケモンが食いついちゃってるっ!」 「キバァー!」 なんと、ショウの頭に一匹のキバニアががっぷし食いついていた。おそらくショウが勢い良く川から 釣り上げたはいいが、そのまま勢いに乗って空高く飛び上がり、ショウの頭にジャストミートして しまったものと思われる。 「いて!いて!いてぇ!……でぇーい、離れんかーいっ!」 キバニアのアゴを強引にひっぺがして、ショウは怒りに任せて思いっきりキバニアを放り投げた。 「キバァ〜ッ……。」 放り投げられたキバニアが、そのまま川原にぽとっと着地した。ヒレを激しくバタバタしながら ぴょんぴょん小刻みに飛び跳ねている。どうやらかなり怒っている様子だ。 「はーっ、はーっ……。くそっ、この野郎、なめた真似してくれやがって!」 「ちょっと、大丈夫?……あ〜あ、噛み跡がくっきりついちゃってるわね。でも出血しなかった だけまだマシだわね。ショウって結構石頭?」 「変なとこに感心すんな。なんなんだよ、このポケモンは?」 「獰猛ポケモンの『キバニア』っていうの。この辺りの川に結構たくさん住んでるのよ。タイプは 水と悪。時々集団で小船やボートを襲って船底を食い破っちゃうこともあるわ。」 「ちっ。けったいなヤツだぜ。……うおぁ!?」 噛まれたところを抑えながらブツクサ言うショウに向かって、いきなりキバニアがジャンプして 飛び掛った。すんでのところで大きくのけぞって回避する。 「キバッ!キバキバ!」 「っ……。とことんやろうってか。よーし、そっちがその気なら俺も黙っちゃいねぇぞ! 出て来い!ジグザグマ!」 「クマー!」 戦闘開始! 「キッバ〜……。」 先手を取って動いたのはキバニアの方だった。が、攻撃をせずに姿勢を低くして唸っている。 どうやらこれは気合溜めのようだ。気合溜めを使い終わったキバニアが俄然張り切りだす。 「キバッ!キバッ!」 「ジグザグマ、一気に頭突きで決めるぞ!」 「クマー!」 ゴ チ ー ン ! 「キバァ〜……。」 張り切りだした甲斐もなく、キバニアはジグザグマの頭突き一撃で、あっけなく吹っ飛んでいった。 そのまま、ぽちゃんと川のド真ん中に着水して、ぶくぶくと沈んでいってしまった。 「へっ、何だ思ったよりあっけなかったな、ジグザグマ……。」 ジグザグマの方に向き直ったショウが異変に気づいた。なぜか、ジグザグマの頭に傷がついている。 傷口は大きくはないが、何かにかすったかのような傷である。 「クマ〜……。」 「どうした?ジグザグマ。」 「きっと、キバニアの『鮫肌』にやられたのよ。」 「『鮫肌』?」 「キバニアの特性。さっきのクマちゃんの頭突きだとか体当たりみたいな、体に触れる攻撃をすると こっちもダメージを受けてしまうのよ。」 「そうだったのか……。すまんな、ジグザグマ。」 「でも、これくらいの傷なら大したものでもないわね。ちょっと傷薬を塗っといてあげればすぐに 治って……あっ!」 ……おや? ジグザグマの ようすが…… 突然、ジグザグマの体が白い光に包まれ、ナルが驚きの声を上げた。 「おい、今度は何だ!?」 「これ……ひょっとしたら進化かもしれない!今のキバニアとの戦いで、進化に必要な経験が 溜まったのよ!」 「本当か!と、言うことは……。」 白い光に包まれたジグザグマの姿が、徐々に変化を遂げていく。そして……。 「クマーッ!」 おめでとう! ジグザグマは マッスグマに しんかした! 「やったじゃない!クマちゃんの進化よ!」 光が消え、そこに現れたのはジグザグマの進化系、突進ポケモンのマッスグマ。ジグザグマの頃とは 対照的に、なるほど、体のラインや模様が名前のとおりまっすぐで直線的なものになっている。 「へぇ〜、お前いい感じにイメチェンしちまったな。」 「クマ〜。」 「よし、クマも景気良く進化したところで、ヒワマキへ向けて出発すっか!」 「出発進行ー♪」 威勢良く歩き出したショウが、とあることに気づいたのは数分後のことだった。 「なあ……よくよく考えりゃ、俺は水ポケモン持ってないんだから、ついでにあのキバニアゲット しときゃ一石二鳥で、もっとよかったんじゃねえかと思うんだが。」 「……。」 「……。」 釣り逃がした魚は大きい、とはこのことだろうか。 |
金銀晶 | #22☆2005.02/09(水)17:45 |
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「さあ、着いたわ。ここが私の故郷、ヒワマキシティよ!」 「うへぇー、こりゃまたワイルドな町だなおい、」 自然との共存を目指す町、ヒワマキシティの住民は、昔からの伝統に乗っ取ったツリーハウスに 住んで生活している。また、町の環境が環境なだけに、街中でも野生のポケモンがひょっこりと 顔を出したり、空を飛べる鳥ポケモンや虫ポケモンが家のベランダの手すりにのんびりととまって くつろいでいたりする。二人はちょうど町の入り口に入ってきたところだ。 「そいじゃ、まずはお父さんとお母さんに顔見せてくるわ。ショウは適当にヒマ潰してて。」 「あいよ。で、ここに何かヒマ潰せそうな場所があるのか?」 「たぶん無い(即答)。この町、都会に見えて結構田舎なのよね。」 「がくっ……。マジかよ。」 「なんなら、ジムにでも行ってみれば?あんた、クロバット持ってたでしょ?前も言ったと思うけど、 ヒワマキのジムには飛行ポケモン使いが集まるから、仲良くしてもらえんじゃない?」 「やれやれ、またジムか。」 『ヒワマキシティ ポケモンジム リーダー ナギ:世界にはばたく鳥使い!』 と、言うわけで、ナルと別れてヒワマキジムに到着したショウである。 「鳥使い、か。……そういやクロバットって飛行タイプだけど『鳥』の仲間なんかねぇ?」 分類上は「蝙蝠ポケモン」と呼ばれているクロバットであるが、タマゴグループ上の分類では、 ポッポやスバメなどの鳥ポケモンと同類だ、という話を以前どこかで聞いたことがあった。一応 蝙蝠ということなら、「鳥」よりも「動物」に近い種族なんじゃなかろうか、とも考えてしまうが、 そう単純でもないあたりが、ポケモンの謎をより深いものにしている……気がする。 「ま、難しいこと考えるのはやめとこうか。」 「おお、やっとるやっとる。」 ヒワマキジムの内部は、飛行ポケモンがのびのびと過ごしやすいように、自然環境が丁寧に再現 されていて、また、空を飛ぶ飛行ポケモンにより有利になるようにするためか、ジムの天井には 屋根が無く、吹き抜けになって青空が広がっている。そんなジムの内部で、ジムトレーナーたちが 飛行ポケモンたちと過ごしている。そして、ジムの中心にあるバトルフィールドでは、おそらくは 挑戦者なのだろうか、一人のトレーナーとジムトレーナーが対戦している真っ最中であった。 フィールドに出ているのは磁石ポケモンのコイルと小鳥ポケモンのネイティ。コイルが挑戦者側、 ネイティがジムトレーナー側のポケモンであることは容易に想像できる。単純なタイプの相性では 挑戦者のコイルが有利ではある……はずだったが。 「ネイティ、怪しい光!」 「ティティ〜。」 ネイティが先手を打って目から怪しい光を発射し、コイルを混乱させた。 「コ、コ〜?」 「頑張れコイル、電気ショックだ!」 「コ〜?」 しかしコイルは混乱して自分を攻撃してしまった。 「あっ、何やってんだよ!」 「チャンスだ、ナイトヘッド!」 「ティー!」 ネイティが追い討ちをかけて、コイルにナイトヘッドで奇怪な幻覚を見せつけた。 「コ〜!」 コイルはもう嫌だ、と言わんばかりにふらふらしながらフィールドの外に飛び出し、とうとうジムの 外にまで出て一目散に逃げていってしまった。 「コイル、戦闘放棄!よってネイティの勝ち!」 「うわー、待ってくれコイル〜!くそ〜、せっかくニューキンセツまで行って捕まえたのに!」 コイルのトレーナーも慌てて後を追うい、ジムから猛ダッシュで出て行った……。 「へ〜、苦手な電気タイプのコイル相手になかなかやるな、そのネイティは。」 ショウがジムトレーナーたちに近づきながら声をかけた。 「へへん、大体飛行タイプと聞くとほとんどのトレーナーが電気ポケモンを出すからね。対策は みんなバッチリしているのさ。」 「君もジムに挑戦しに来たのかい?あいにくリーダーのナギさんは留守だけど、よければ僕らが 相手をするよ。」 「いや、えーと……。」 ヒマ潰し、冷やかしで来て見ただけ、などとは流石に言えない。ショウはとりあえず自分のクロバット をダシにすることにした。 「実は俺も飛行ポケモン一匹いるんだが……こいつなんだ。」 そう言って、ボールからクロバットを取り出すと、ジムトレーナーたちの間におおっ、とどよめきが 響いた。たちまちショウとクロバットの周りに人だかりが出来る。 「そうか、君も飛行ポケモンが好きなのか!それじゃ僕らの仲間だね!」 「あ、いや、特別好きってわけでもないが……ま、一応俺の一番の相棒ってことで。」 「いやいやいや、クロバットとはなかなか渋い!」 「なあ、クロバットって確かゴルバットがトレーナーに良くなつかないと進化しないんだろ? っていうことは君のクロバットって、君との信頼関係がバッチシってことじゃん!」 「すげー。俺も今度どっかでズバット捕まえて来ようかなー。」 わいのわいのと騒がしいが、とりあえずは友好的に接してもらえたようである。結局、ショウは ご丁寧にもお茶とお菓子まで出してもらって、ジムトレーナーたちと打ち解けたひと時を過ごした。 |
金銀晶 | #23☆2005.02/19(土)16:13 |
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ガシャアァーン!バリイィーン! 突然、まったりした一時を打ち破るかのような大音響が響いたかと思うと、ショウたちの目の前に 大量の煙が押し寄せてきた。 「くそっ!いきなり何だ?火事でも起きたか?」 「そんなバカな、火の気はどこにもないはずだ!」 「ゲホゲホ、この煙じゃ何も見えない!」 「とにかく、鳥ポケモンたちに煙を吹き飛ばしてもらうんだ!」 「みんな、力を貸してくれ!」 ジムトレーナーたちの呼びかけに一斉にジムの飛行ポケモンたちが集結し、風起こしや吹き飛ばし を使って瞬く間に煙を押し流していった。 「いいぞ、みんな……あぁっ!」 煙が消え去った後に姿を表したのは、いかにも怪しげな黒尽くめの服装をした人物たち。ざっと 見た限りでは7,8人前後いるかどうか、と言った所だ。そして、彼らの服の胸の部分には、あの NとRを組み合わせた独特のマーク……そう、ネオ・ロケット団だ! 「はっはっは、ヒワマキジムの諸君ごきげんよう!我々は悪のポケモンマフィア、ネオ・ロケット団 の者たちだ!大人しくジムの飛行ポケモンを全部よこせば乱暴なことはしない!だが、もし少し でも逆らったりするようなら、痛い目に会ってもらうぞ!」 「悪のポケモンマフィアだと!?ふざけんな!」 「俺たちの大事なポケモンを、そうやすやすと渡せるか!」 「欲しけりゃ腕づくで取ってみなさいよっ!」 「何だと思えば、うざったいのがまた来やがったな。おい、クロバット。」 悪者たちを前にいきり立つジムトレーナーたちの後ろで、ショウはボールからクロバットを出すと、 ひそひそと小声で何か命令してから、クロバットを空中に放った。そして、ジムトレーナーたちより 一歩前に出て、ネオ・ロケット団たちと対峙する。 「けっ、いちいち時代遅れなことしてんじゃねーよ。」 「なっ、なにぃ!?我々のどこが時代遅れだっ!」 「全部だよ、全部。仮面ラ○ダーのショッ○ーじゃあるまいし、今時どこに自分の所属を大声で 名乗って強盗しようとするアホがいるってんだよ。てめえら、安っぽい特撮物の見すぎじゃ ねえのか?」 「ぬぎぎ……。い、いちいちどーでもいいことに突っ込むな!」 「本当の悪役ってのはな、忍者のように音無く影無く、静かに確実にターゲットに忍び寄るもんだぜ? ……こんな風にな。」 サァーッ。 か ぷ っ 。 「……。」 「……。」 「ぎゃあぁ!」 ショウが指をパチッと鳴らして合図すると同時に、挑発に乗っていた団員の頭に、先ほどから空中に 放たれて待機していたクロバットが、真上から急降下してがっぷしと噛み付いた。そのザマは例えて 言うならば南国少年パ○ワくんで、チャッ○ーがシ○タロウの頭に食いつくがごとし。どちらかと 言えば、つい先ほど、川でショウが釣り上げたキバニアに、頭をかじられた様にも似ている。 「うわあぁ!いて、いててて!」 「げっ!いつの間に!」 「そいつをとっ捕まえろ!」 他の団員たちが慌てて頭をかじられた団員を助けようとするが、クロバットはさっさと団員たちの 元を離れてショウのもとへ戻っていっていた。 「ぎゃははは!なさけねぇー!」 「最低ー!」 「どんくさっ!」 頭をかじられた団員は、ジムトレーナーたちの笑いものにまでされてしまい、色んな意味で顔を 真っ赤にしてしまっていた。ショウをそれを見て、わざと聞こえるように笑いながら言った。 相手をわざと挑発させて、冷静さを失わせようという魂胆だ。 「わははは、偉そうなこと言ってた割にゃ、どんくせーなぁオイ。そんなんじゃポケモンマフィア なんて務まらねえぜ?諦めてとっととおうちに帰んな!」 「くっ、くそー。調子にのりやがって〜……。もう許さんぞ!お前らまとめて、ポケモンもろとも メタメタに叩きのめしてやるっ!……おいっ、みんなポケモンを出せ!」 「勝負する気か?上等、てめえらまとめて叩きのめしてやるぜ!」 戦いの火蓋が切って落とされた! |
金銀晶 | #24☆2005.02/20(日)19:49 |
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「ネオ・ロケット団をコケにしたことを公開させてやる!行け、我らがポケモン軍団!」 団員たちが一斉にモンスターボールを投げつけ、ポケモンたちを呼び出す。 「うわっ、何なんだ、あいつら!見たこともないぞ?」 「おい、あのポケモン、なんてデカさだ……。」 ジムトレーナーたちが動揺の声を上げた。 (そうか、こいつらカントーやジョウトのポケモンにゃ詳しく無いんだな……。えーと、ひい、 ふう、みい、……敵は全部で7匹か。コイル以外は皆カントーとジョウトの奴ばっかだ。) ネオ・ロケット団が繰り出してきたのは、コイルが二匹にいのししポケモンのイノムーが一匹、鉤爪 ポケモンのニューラが二匹、岩蛇ポケモンのイワークが二匹だ。電気、岩、氷と、いずれも飛行 タイプの弱点となるタイプを持つポケモンたちばかりだ。 (一応それなりに連中も考えて来てるってことだな。) 「まずはコイルからだ、スパークで行け!」 団員の指示で、コイル二匹が体に電気をまとってショウたちに襲い掛かった。 「電気タイプ来たぞ!大丈夫だろうな?」 「任せてくれ!チルットチーム、集団で歌う攻撃だ!……味方のみんなは耳をふさいで!」 「チ〜ル〜チルルル〜♪」 「チルチル〜チ〜ルル〜♪」 「チルル〜ルル〜チ〜ル〜♪」 鳥使いたちのチルットが集合して群れを作り上げ、得意の歌うの大合唱を披露した。チルットたちの 歌声はすさまじい大音響となってジム中に響き、あっという間に二匹のコイルを眠らせてしまった。 「くそっ、眠ってしまってはどうにもならんか!」 「だが、安心するのは早いぜ。これならどうだ、行け、イワークとイノムー!」 「ワァーク!」 「ムゥー!」 「うわぁ、あのポケモン、改めてデカいぞ!」 「……強そう。」 イワークの巨大さに少しひるむジムトレーナーたちに、ショウがアドバイスを与えた。 「あれなら俺に任せておけ。あのでかいのは岩蛇ポケモンのイワーク。タイプは岩と地面。んでもって 真ん中のやたら毛深いのがいのししポケモンのイノムーだな。タイプは氷と地面だ。どっちも飛行 タイプの弱点をつけるが、地面タイプを持ってるから水や草の攻撃にゃ弱いし、割と鈍足だ。」 「へぇ、詳しいんだな。」 「ジョウト出身なんでね。あっち方面のポケモンに関してなら、結構細かいことまで知ってるぞ。」 「なるほど。それはともかく、アドバイスサンキュー!水に弱いならこっちのもんだ!」 「頼むぞ、キャモメ、ペリッパー!」 「キャモー!」 「パァ〜!」 今度はウミネコポケモンのキャモメと水鳥ポケモンのペリッパーたちが、指示も無いのに見事な 編隊を空中で組みながら登場した。 「こいつらは飛行ポケモンだけど、水タイプも持っているんだ。」 「なるほど、そいつぁ都合がいいな。」 「今度はさっきみたいにいかんぞ!イノムーは冷凍ビーム、イワークは岩落しだ!」 「ムゥー!」 「ワァーク!」 団員のイノムーが鼻先に冷気を集中して、冷凍ビームを放った。イワークも口から岩石弾を放って 迎撃してくる。 「ペリッパー、守るで防御だ!キャモメたちはペリッパーの後ろへ回って超音波を!」 瞬時にキャモメ・ペリッパー部隊が隊列の配置を組替え、ペリッパーたちがキャモメを守るでかばい ながら、冷凍ビームと岩落しを防ぎきる。と同時にキャモメたちがペリッパーの影からイノムーと イワークに向けて超音波を一斉に発射した。 「ムムゥ〜!?」 「ワァ〜クッ!?」 「な、なにぃ!?くそっ、お前ら正気に戻らんかぁ!」 超音波で混乱したイノムーとイワークが団員の指示も聞かずに同士討ちを始めてしまった。 「チャンスだ!水鉄砲で一斉攻撃!」 「キャー!」 「パァー!」 キャモメ・ペリッパー部隊が渾身の力で水鉄砲を放つ。苦手な水を大量に浴びせられ、イワークと イノムーは、轟音を立てながらその場に崩れ落ちるように倒れた。 「これで残り二匹だぜ?もう降参したらどうだ?」 「まだまだぁ!行け、ニューラ!」 「ニュー!」 「ニュニュー!」 残った二匹のニューラが、鉤爪を振り上げながら踊り出た。 「最後のありゃ鉤爪ポケモンのニューラってんだ。確かタイプは悪と氷だったな。炎とか格闘の技を 使えるやつがいれば楽勝なんだが……。」 「あいにく、うちのジムにはそこまで器用な鳥ポケモンはちょっと……。」 「じゃ、力押しが手っ取り早いな。クロバット!それとマッスグマ!」 「クロー!」 「クマー!」 ショウのクロバットがニューラたちの前に舞い降りた。その横にマッスグマが並ぶ。 「おおっ、クロバット出たね!」 「こいつらは俺がやるぜ。行け、クロバットは……。」 「チルタリス、火炎放射よっ!」 「エアームド、鋼の翼っ!」 |
金銀晶 | #25☆2005.03/10(木)18:09 |
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突然、一同の頭上から二人の女性の声が響いたかと思った次の瞬間、ニューラたち目掛けて すさまじい勢いで上空から伸びてきた炎の帯が襲い掛かった! 「ニュー!」 「ニュニャー!」 苦手な炎をもろにかぶり、これはかなわんとニューラたちが地面に伏せて顔を覆う。炎はニューラ たちだけでなく、ネオ・ロケット団員にも容赦なく放たれた。周りを炎に囲まれた団員たちが パニックに陥る。 「ぎゃあぁー!あち、あちっ!」 「くそっ、いきなり何なんだ!」 「おい、早く水をかけろ!」 「バカ、水ポケモン連れてきてねぇ!」 そこへ、上空から大きな鳥の影が空気を切って舞い降りてきたかと思うと、炎の中で右往左往 している団員たちに向かって突っ込んでいった。そして、広げた翼で次々と団員たちをビシビシと 打ちのめしていく。打たれた衝撃で吹っ飛ばされた団員たちが、次々と炎の外へ飛ばされてきた。 「ぐあぁ!……くそっ!」 「うぅ、今度は何だってんだ!」 団員たちとショウの間に降り立ったのは、どこかで見たことのある、金色に輝く色違いのチルタリス、 そして、それと対をなすかのように、メタリックボディを銀色に光らせるエアームド。その背中に 乗っているのは……。 「ショウ、やっほーっ♪」 「ナル!てめえ、美味しいところ持っていきがったなっ。……でも助かったぜ。」 「あたしだけじゃないよ、ほら!ヒワマキのジムリーダー、ナギちゃんよ。」 そう、ナルと共に、エアームドに乗って現れたもう一人の女性こそ、ヒワマキジムのジムリーダー、 飛行ポケモン使いのナギであった。ジムトレーナーたちもリーダーの帰還に湧き上がる。 「リーダー!」 「みんな、遅くなってごめんなさい。久しぶりに昔の友達と会って盛り上がっていたところに、 町の人からジムが襲われたという話を聞いて、急いで駆けつけたの。みんな、よくやってくれたわ。 後は私たちに任せておいて。」 ナルとナギが表情を引き締めて団員たちに向き直った。殺気立った表情に、思わず団員たちが ギクリとする。 「さてと……。私がいない間に随分とまあ、派手にやってくれたじゃない?」 「くぅう……。」 「今回はもうずいぶんお仕置きされたみたいだから、これ以上追い討ちをかけるのだけは勘弁 してあげるわ。でも今度私たちに手を出そうものなら……容赦はしないわ。」 「やるんだったら、あたしたちはとことんやるからね。」 「き、今日のところはこの辺にしといてやる!覚えてろー!」 「撤収だー!」 「コ〜……。」 「ムゥー。」 団員と団員のポケモンたちは、我先へと出口から猛ダッシュで逃げていった。後には、団員たちが ジムの壁に派手に開けた大穴と、立ち込める煙とくすぶる炎だけが残っていた。 「ふう、行ったわね。やれやれ……。」 逃げていったネオ・ロケット団を見送りながら、やれやれといった感じでナギが一息ついた。 「あーあ、ジムがめちゃくちゃね。後で修理頼まないと……。」 「ま、いいんじゃない?みんなとポケモンたちは無事だったんだしさ。」 「それもそーね。」 「よう、ナル。まさかお前が天井からやって来るとは思わなかったぜ。」 ショウがナルとナギに声をかけた。 「へへーん、カッコ良かったでしょ。」 「しっかし、お前のチルタリスが火炎放射が使えたとはびっくりしたな。どこで覚えさせた?」 「キンセツシティのゲームコーナーの景品に、火炎放射の技マシンがあったの。ずっと欲しくて 毎日通いつめたんだから。」 「で、あんたがジムリーダーのナギか。俺はショウだ。腐れ縁でナルと一緒に旅をすることに なった。ナルとは古い友達なんだってな。」 「ええ、そうよ。あなたがショウね。ナルから聞いたわ。何でも、ここの近くの川でキバニアに 頭をがっぷしかじかじされて、アタマのてっぺんがカッパになったんですって?」 「ぐはぁ!……ナル、てめぇ!どーでもいいようなことをしゃべんじゃねぇっ!しかもなんだよ カッパって!俺の毛髪は無事だボケッ!」」 「きゃははは、茶目っ気よ、茶目っ気。どんまいどんまい♪」 「茶目っ気になっとらんっ!ロクでもねぇこと教えやがって……。」 ジムにショウ以外のみんなの笑い声が響いた。 |
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