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金銀晶 | #1☆2005.03/24(木)17:57 |
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「無題的ホウエン駆け巡り記(↓)」の続編です。 http://www1.interq.or.jp/kokke/pokemon/commu/story/573.htm (→ほかんこ) 話がちょうどいいとこで区切れて、ついでに容量がやばくなって きたので、続編という形で物語を続行いたします。 ・前回までの大まかなお話 ポケモンマフィア・ロケット団が解散してからはや数年。 元下っ端団員だったショウは、ポケモントレーナーとして新しい 道を進むため、相棒のクロバットと共にホウエン地方へやってきた。 だが、ホウエン地方では解散したはずのロケット団の残党が再び 結集、「ネオ・ロケット団」を名乗って以前のように悪事を働いて いることを知る。ショウはキンセツシティで知り合ったトレーナーの 女の子、ナルと旅を続けたり、ケーキ屋でジグザグマをゲットしたり しながら、ヒワマキシティへと到着。訪れたジムで再び出現した ネオ・ロケット団を、ジムトレーナーや仲間たちと共に何とか 撃退したのであった……。 |
金銀晶 | #2☆2005.03/24(木)17:58 |
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ネオ・ロケット団が去った後のヒワマキジムは、それはもう後片付けやら何やらで、てんてこまいの 忙しさになった。ガレキを片付けたり、ジムに他の以上が無いか点検したり、後は当然ながら警察の 取り調べを受けたり(流石に今回はショウもこっそり逃げることは出来なかった。まあ、簡単な 聞き取りをするだけで済んだけどね)エトセトラ、エトセトラ……。 結局、ごたごたが一段落したのは日もとっぷりと暮れた夕方になってからであった。現在、夜の 7時。もうジムトレーナーたちも家路についていて、ジムにはショウとナルとナギの三人が残って、 一息ついていた。 「はぁー、ショウにナルちゃん、こんな遅くまで付き合ってもらってごめんなさいね。せっかくの お客さんにまで手伝ってもらって、申し訳ないわ。」 「気にしないでよ。昔っからの仲じゃない。」 「それにしても、連中も派手にやらかしたなぁ。こんなんじゃ、しばらくジムは営業できんだろ。」 それを聞くとナギは、ふふっと笑った。 「それなら大丈夫。もともと、明日からジムはお休みにする予定だったから。」 「?……何だ、どっか旅行にでも行くのか?」 「ちょっと待ってて。面白い物を見せてあげるわ。」 そう言ってナギが立ち上がり、どこからか一枚のポスターを持ってきた。そこには……。 『ヒワマキシティ主催 ポケモン トライアスロン 大サバイバルリレー大会!』 「何じゃこれは。」 「ヒワマキシティで毎年やってる、三匹のポケモンを使った大レース大会よ。その名のとおり、 出場者は三匹のポケモンを使ったトライアスロンレースに挑戦するの。」 「ほほう。具体的には?」 ナルとナギ曰く、このレースの大まかなルールは次のようなものだった。 ・使用できるポケモンは3体。 ・出場するポケモンは、それぞれ 1:飛行能力があるもの、もしくは空中を浮遊して移動できるもの 2:水泳ができるもの 3:陸地を走ることができるもの をそれぞれ一体ずつ準備しなければならない。 ・コースは全3行程。スタート地点から順番に、スカイコース、リバーコース、ランドコースの 3つのコースをリレー方式でクリアしていく。 ・スカイコースでは規定のルートを飛行能力を有するポケモンを、リバーコースでは泳げる ポケモンを、最後のランドコースで陸地を走れるポケモンをそれぞれ準備させる。 ・大会は2日間に渡って開催。1日目は予選を行い、2日目の本選に出場する10名のトレーナー を決定する。 等等……。 「このレースには、私達ヒワマキジムも全面協力しているの。だから、レースが近い時期には、 ジム業よりも大会を優先させて頂いてるってわけ。ちなみに、人間のトライアスロンは自転車、 水泳、マラソンの3種目だけど、ポケモンは自転車はこげないでしょ?だから、自転車の代わりに 飛行ポケモンを使った空のレースを採用してるの。」 「なるほど。……ちなみに、優勝するとなんかあるか?」 「一応、ベスト5まで賞品を用意させてもらってるわ。去年優勝した人にはマスターボールが 賞品として贈呈されたわよ。」 「ほほう、なかなか豪華なこって。」 「ちなみに、開催日は……。」 「なに、それじゃ後一週間後じゃねえか。ふむふむ……。」 「それでね……。」 こんな感じで、しばらく三人は、レースの話題で盛り上がったのであった。 「……ってオイ、気が付けばもう夜の9時じゃねえか!」 ショウが時計を見て慌てて言った。レースの話題で盛り上がっているうちに、もうすっかり夜も 更けてしまったようで、お空にはまん丸お月様が輝いていたりする。 「あら、もうこんな時間なのねぇ。」 「そういや晩ご飯食べるの忘れてたわ。道理でお腹が空くと思ったら……。」 「どうするよ?」 「うーん、あたしは今日は実家で過ごすわ。」 「私ももう帰宅した方がいいみたいね。……ショウは?」 「俺は……ポケモンセンターで一晩だ。さっさと行かねえと、宿泊用のベッドが埋まってそこらで 雑魚寝せにゃならなくなる。……と、言うわけで一足お先に失礼するぜ。」 「んー、じゃ気をつけてね。明日はまた適当な時間に、あたしがポケモンセンターにお迎えに来て あげるー。」 「あいよ。そんじゃー、おやすみなさいっと!」 ポケモントライアスロンレースまで、あと一週間……。 |
金銀晶 | #3☆2005.03/26(土)12:02 |
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翌日。 ヒワマキジムには「勝手ながら、しばらくジムはお休みよ♪」という看板がかけられ、町を上げて レースへの準備が始まっていた。ショウがポケモンセンターから寝ぼけ眼でパンをかじりながら 起きてきた時には、町の住人たちがもうてきぱきと動き回っていた。 「ショウ、おはよーっ。……ほら、いつまでもねむそーな顔してないの。」 ショウと対照的に朝っぱらからやたら元気なナル。 「うーい……。俺、寝起き悪い方なんだよ……。」 「だらしないわねぇ。でも、寝グセが可愛いわ。」 「ほっとけ。それより、朝っぱらなのに町がにぎやかだな。」 「今日からレースの本格的な準備に入るの。コースの下見とか賞品のチェックとかね。町の人が 一丸になってやるから、しばらく賑やかよ。」 空を見上げると、たくさんの飛行ポケモンたちが荷物を持ってあちこちを飛び交っていた。更に よく見ると、特に高い木のてっぺんにナギがいて、手旗信号を使って飛行ポケモンたちを上手に 誘導していた。 「ナギちゃんはたぶん、一日中あれで忙しいわね。」 「ご苦労なこった。」 「ところでね、実はあたしとナギちゃんも今度のレースに出場するの。でね、もしあたしが ベスト5に入れたら、特別にジムバッジくれてもいいってことになったのよ。」 「おいおい、調子のいいやっちゃな〜。」 「せっかくだから、ショウもレース出て見たらどう?あんたのクロバットとマッスグマなら、結構 いい線いけるんじゃないかしら?」 「レースか……。それもいいが、確かレースにゃ泳げるポケモンがいないとダメなんだろ?」 「だったら、119番道路に釣りに行けば?あそこの川で何か適当な水ポケモン釣ってきて いらっしゃいな。」 「そういや、昨日はキバニアに頭かじられて、それっきりだったからなぁ……。」 「そうそう、釣りをするんだったら、これをあげるから使って。」 そう言ってナルが取り出したのは、網目模様の青いモンスターボールが数個。 「モンスターボールか?」 「そう。ホウエンだけで作っている『ネットボール』っていうボールなの。水タイプと虫タイプの ポケモンが捕まえやすくなるんですって。」 「ほほう。そいつぁ便利。」 「あたしのパソコンにはまだたくさんあるから、いくらかタダであげる。」 「サンキュー。」 と、いうわけで119番道路の川。前回とは違うポイントでショウは釣り糸を垂らしていた。 「ま、気長にやるか。」 天気は心地良い快晴。川のせせらぎはサラサラと流れ、遠くにはトレーナーとポケモンの声。 おやつ代わりにそこらの売店で買ったサンドイッチをつまみながら、のんびりと釣りをするショウ。 ときどき、ボートや小船に乗った釣り人や、通りすがったトレーナーたちと声をかけあい、 「釣れるかーい?」 「ぼちぼちだねー。」 と、他愛も無い会話をしながら、時間を気にせず、暖かい日差しを浴びながらひたすら獲物が かかるのを待つのみ。 ググッ、と釣りざおが強く引かれた。 「おおっ、来たーっ!」 手応えあり。タイミングを合わせて一気にサオを引きあげる。が。 「……コイキングかよ。」 かかったのは、最弱ポケモンとして有名なコイキング。力なくぴちぴちと跳ねる。どうにも頼りない。 「……キャッチアンドリリース。」 釣り針から外して逃がしてやった。 何時間かねばって、数匹ほど水ポケモンを釣って良さそうなポケモンをゲットしてみたが、この辺り でつれるのはコイキングにメノクラゲ、キバニアばかりのようで、特に目立ったような水ポケモンは 釣れなかった。 「この辺りじゃ釣れるのはこんなもんか……。残ったネットボールは後一個。よし、後一匹 釣ったら引き上げるとするか……。レースに出すとしたら、メノクラゲかキバニアあたりが 妥当だろうな。流石にコイキングを使いこなす度胸は俺には無い。」 などと色々ショウが考えていた、次の瞬間。 ぐいぐいっ、と再び手応えあり。 「おっしゃ、最後の一匹来たーっ!」 勢い良く釣りざおを引き上げると……。 「バ〜ス〜。」 |
金銀晶 | #4☆2005.03/28(月)14:46 |
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「なんじゃこいつぁ?」 ショウが釣り上げた最後の一匹は、コイキングと良く似た格好の魚ポケモンだった。ただ、体の あちこちにはシミのような模様がついている上、ヒレもかなりボロっちい。コイキングのように 跳ねてはいるが、その跳ねるにも、あまりやる気が感じられない。 「……弱そうだぞ、おい。」 確かに、お世辞にも強そうですねとは言えない外見。正直、レースでも活躍できるかどうか、すごい 不安になってきた。ポケモンは釣り上げられたまんま、ぼけーっとするばかりだ。 「さて、どうしたものか。」 ショウが頭をかきながら悩んでいると。 「ああぁぁっ!そ、そ、それはヒンバスッ!」 不意に素っ頓狂な叫び声が響いた。ショウが声の方に振り向くと、ショウと同じ年齢くらいの小太りの 男性がショウの釣ったポケモンに見入っていた。どうやら、このポケモンはヒンバスと言うらしい。 「そ、そのヒンバスはどこで手に入れたんですかっ!」 「いや、どこでって。ここで今釣り上げたばっかりだが。」 「そうですか!でしたら、ぜひぜひ、僕にそのポケモンを譲ってくれませんかっ!?」 ……男性がここまで興奮してこのヒンバスとやらを欲しがっている。 これは何かあるな。ショウは直感した。ロケット団に所属した頃の鋭い勘が、今になって冴えてきた、 ような気がする。とりあえずカマをかけてみることにした。 「なあ、あんた随分とこのポケモンが欲しいようだが、こいつってそんなすごいのか?」 「も、もちろんですとも!」 男性は、意気揚揚と語りだした。 「貴方が釣ったポケモンは、魚ポケモンのヒンバスと言うのですが、このポケモンはすごい可能性を 秘めたポケモンなんですよ!」 「ほほう。詳しく聞かせてくれ。」 ショウにそう言われ、男性はまくし立てるように話した。 「はい。例えば、世界一弱いポケモンとして有名なコイキングはある程度経験を積むと、 凶悪ポケモンのギャラドスに進化するのはご存知ですよね?」 「ああ。それは聞いたことがあるな。」 「それと同じで、ヒンバスは進化すると慈しみポケモンのミロカロスというポケモンに進化すること が分かっているんです。丁度、ギャラドスと対照的なんですね。」 「慈しみポケモンのミロカロス、ねぇ。」 「このミロカロスは、ポケモンの中でも最も美しい種族だと言われていて、ポケモンコレクターなら 家を質に入れてでも欲しがる垂涎の一匹なんです。おまけに戦闘能力も高く、バトルでもコンテスト でもオールマイティに活躍させることができる、スーパーポケモンなんですよ!さらに、コイキング と違って、ヒンバスの頃から技マシンなどを使って技を覚えられるため、育てるのも楽!」 「なるほど、こいつにそんな可能性が秘められていたとは……。」 「そういうわけですから、そのヒンバスを譲ってください!」 「やなこった。」 ショウは顔を紅潮させて両手を差し出してきた男性の手を、にべもなく払いのけた。 「そ、そんな!」 「ベラベラとこいつの能書きをくっちゃべったのが失敗だったな。そこまですげえポケモンだと 聞かされておいて、はいそうですかとむざむざ他人に渡すアホがいるかってんだ。……こいつは 俺のポケモンだ。元々俺が釣り上げたんだしな。」 「僕のポケモングッズコレクション差し上げます!レア物のおまけカードとか!だから!」 「そんなけったいなもん、いらんわ!」 「じゃ、じゃあ!僕が5年間集めつづけてきたポケモン切手シート全部でどうですか!」 「いらんと言ってるだろうが!」 ケンケンガクガク。 「くそぉ〜。こっちが下手に出ていれば調子に乗りやがってえぇ〜。」 段々と、男性の声に怒気がこもってきた。 「別に調子に乗ってるつもりは無いぜ。せっかく珍しいポケモンを手に入れたんだ。誰だっておいそれ と手放したくなくなるのが人情ってもんだ。そうだろ?」 「うるさい!黙ってよこせよ!」 「うるさいのはお前だろ。いい加減諦めて、自分で探したらどうだ。」 「黙れ!畜生!偉そうに言いやがって!くっそー!なめんじゃねえぞ!」 男性の顔が今度は怒りで真っ赤になってきた。ショウもこれには呆れる。 「これ以上あんたに付き合ってらんねぇよ。……こいつがそんなに欲しけりゃ、腕づくで 奪い取ってみな。もちろんポケモン勝負でな!」 「よぉーし!乗ってやる!お、お、俺のポケモンがいれば、お前んとこの雑魚ポケモンなんか 30秒で倒せるんだからな!すごいんだからな!」 「言ってくれるじゃねえか。雑魚かどうか……その目で確かめてみやがれ!」 ポケモンコレクターの クニヒコが しょうぶをしかけてきた! ポケモンコレクターの クニヒコは エーフィを くりだした! ゆけっ!クロバット! |
金銀晶 | #5☆2005.03/28(月)22:20 |
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「エーフィか……こいつぁちっとばかし厄介だな。」 進化ポケモン、イーブイの5種類の進化系の一つにして、エスパータイプを持つ太陽ポケモンの エーフィ。毒タイプを持つクロバットには戦いづらい相手だ。 「だ、だ、だから言ったんだバーカ。それにエーフィはとっても珍しいポケモンなんだぞ。お前の クロバットみたいな、そんじょそこらの奴らとは違うんだぞ!」 「ほざけ、珍しいだけで勝負に勝てれば世話は無えよ。」 「エーフィ、サイケ光線だぞ!」 「フィー!」 先手を取ったのは相手のエーフィ。額の宝石から、サイコパワーをビームにして発射する。 「クロバット、左方向に旋回しながら接近しろ!」 「クロッ。」 クロバットはエーフィのサイケ光線を大きく動いて回避しながら、一気にエーフィとの間合いを 詰め、エーフィの頭上に到着した。 「フィ!?」 「よし、噛みつけ!」 ガブリ、とクロバットがエーフィに噛み付いた。 「フィーッ!」 噛み付かれたエーフィが声を上げてひるんだ。 「あっ!バカバカ、何ひるんでんだよっ!」 「文句言ってるヒマがあんなら、さっさと指示を出してやるんだな。」 「ぐあぁー!うるせぇー!エーフィ、砂かけだよ!」 エーフィがクロバット目掛けて砂埃を舞い上げた。ただし、ジグザグマやポチエナがやるような、 後足で地面を蹴って砂を巻き上げるような単純なものではなく、エーフィのそれは念力を使って 砂を操り、相手に浴びせ掛ける高度な技術のものだ。たちまち、ショウとクロバットの視界が、 砂の壁に遮られてしまう。 「ぶわっ!なんつーマネしやがる!げほっ。……クロバット、エアカッターで吹っ飛ばせ!」 「ク、クロー!」 クロバットが翼を羽ばたかせてカマイタチを作り上げ、同時に風圧で砂埃を一気に吹っ飛ばした。 「フィッ?」 と同時に、クロバットが放った空気の刃がエーフィに炸裂する。 「いいぞ、次は嫌な音!」 「クーロロロ……。」 超音波を発する要領で、キィーンと金属がこすれるような不快な音を発射する。 「フィ〜!」 「ぐえああぁ、耳が、耳がうwがふtけんgなあwgないwんわ!」 エーフィは耳を伏せてイヤイヤしながら耐えるが、その後ろでは肝心のトレーナーであるクニヒコが ひっくり返って手足を派手にバタバタさせながら、指示を出すのも忘れて悶絶していた。 「とどめだ、怪しい光!」 ショウからの指示で、クロバットが怪しい光を飛ばし、エーフィを錯乱させた。 「フィ!?フィ〜!」 目を回しながら、前後不覚になってフラフラするエーフィ。そこへ、クニヒコがようやく悶絶し 終わって、多少よろめきながら立ち上がった。 「エ、エーフィ、サイケ光線っ!」 「フィ〜!?」 エーフィがクラクラしながらも、額から渾身のサイケ光線を放つ。が。 「ぎゃああdrcftvyぐhにjmこlp!」 混乱していたために目標を見失ったエーフィは、サイケ光線を自分の主人に向かって、思いっきり 発射してしまったのであった。 「も、もう……だめ……ぽ……(がくっ)。」 エーフィのサイケ光線をもろに浴びたクニヒコは、その場に倒れて気絶した。 「けっ、阿呆にゃふさわしい負けザマだ。相性だけで勝負が決まりゃあ、苦労はしねえよ。…… そこでしばらく頭冷やしてろ。賞金は勘弁しといてやるよ。」 ショウは冷たく言い放つと、改めてさっきから釣り上げたまんまだった(バトル中ずっとほったらかし だったのか)ヒンバスを、ナルから貰ったネットボールの中へ収納した。 ショウは ヒンバスを かちとった! 「さーて、バカはほっといて昼飯にでもすっか。」 今だに混乱が解けず、目を回してフラフラするエーフィと、ぶっ倒れたままのクニヒコを後にして、 ショウはヒワマキシティへと戻っていった。 |
金銀晶 | #6☆2005.03/29(火)21:21 |
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と、いうわけでヒワマキシティへと戻ってきたショウ。時計を見ると、12時をちょっと過ぎた くらいの時刻である。 「何食おうかな。ポケモンセンターの食堂でレトルト食うのも飽きたし……。」 空を見上げると、飛行ポケモンたちも休憩タイムのようで、飛んでいるのはわずか。 「なんか美味いメシの店探すか……ふわぁ〜、むごっ!?」 ショウが空を見ながら大きな欠伸をしていると、その大きく開いた口の中に、何かがぽとりと 落ちてきた。 「むが、もぐもぐ……お、これはエビフライ?」 なぜか、欠伸をしたショウの口の中に入ってきたのはエビフライ。 「……今日の天気は晴れのちエビフライなのか?」 少々間の抜けたことを言いながら上を見上げると、そこには木の上で枝に腰掛けながら、お昼の お弁当を食べているナギがいた。ナギもこっちに気づいたようである。 「あら、ショウじゃないの。」 「よー、あんたか。ランチタイムか?」 「そうよ。ショウはこれからお昼?」 「ああ。ちょうどレース用の水ポケモンもいいのが捕まえられたしな。」 「レース用?ははーん、はあなたもトライアスロンレースに出場するのね?」 「おうよ、出るからにゃあ、せめてベスト5入りくらいは狙うつもりだ。」 「へぇ、頑張ってね。ただし、当日は私も出るから、そう簡単には入賞させてあげないわよ?」 「上等。矢でも鉄砲でも自爆ビリリダマでも持って来いってんだ。」 そこまで言ったところで、ショウの腹の虫がぐぅ〜と鳴った。 「……んじゃ、俺も昼飯食いに行くわ。」 「それなら、ここからちょっと言ってすぐの交差点を左に曲がると、美味しい手作りお弁当のお店が あるわよ。」 「そんじゃ、そこに行くか。ありがとな。」 ナギに言われた方角にショウは歩き出した。それを見送りながらナギがお弁当の続きを食べようとして 一言つぶやいた。 「……あれ〜?私の食べかけのエビフライ、どこに行っちゃったのかしら?……どこかに 落っことしちゃったのかな〜?」 「……!」 (ひょっとして、さっき口の中に入ってきたのって……。) 柄にも無くショウの顔が赤くなったような気がした。 「と、とにかくメシだメシッ!」 ごまかすように言いながら、その場を立ち去っていった。 「おー、ここだな。『手作り惣菜・弁当の店 山菜堂』。」 ショウがナギに言われたとおりの道を行くと、すぐに揚げ物の美味しそうなにおいと共に、意外と モダンな造りの店を見つけた。 「あー、こりゃ天ぷらっぽい匂いだな?揚げ物食うの久しぶりだな。こんちわーっ。」 そう言いながら店の中に向かって声をかけた。。 「はーい、いらっしゃーい……ってショウじゃない!」 店野中から、元気な女の子の声が響いた……と思いきや、なんと店から出てきたのはナルだった。 頭に三角巾とエプロン姿で普段のトレーナースーツ姿とぜんぜん違う印象だ。 「あぁ?ナルじゃねぇか。こんなところで何やってんだ?バイトか?」 「バイトも何も、ここはあたしの実家よ。今日はお店のお手伝い。お父さんとお母さんは調理場で お弁当の仕込みで大忙しなのよ。」 「世間って狭いな。」 「それで?どのお弁当にするの?言っておくけど冷やかしは許さないわよ。」 「それじゃ……このかき揚げ弁当くれ。さっき天ぷらのいい匂いがしたんでな。」 「はーい、ちょっと待っててね。」 ナルが調理場に引っ込み、すぐに注文された弁当を持ってきた。 「お待ちぃ。ちょうど出来たてのがあったわよ。750円ね。」 「早いな。ほれ、代金。」 お金を渡して、ナルから出来立てのまだまだあったかい弁当を受け取った。 「毎度ありぃ。……ねぇ、ショウ?」 「ん、何だよ?」 「物は相談なんだけど……お店の売り上げに貢献するためにさ、お釣り返さなくていい?」 「ふざけんなっ!」 お粗末♪ |
金銀晶 | #7☆2005.03/30(水)18:28 |
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「まー、このー、あれだな。かき揚げに限った話でもないが、揚げ物ってのは、こう衣がサクサク しててだ、中身はふっくらと仕上がっているのが理想なんだが、このかき揚げはなかなかいい線 行っているな。」 ショウは町の広場のベンチで、そこらの自販機で買ったお茶と一緒に、山菜堂で買ったかき揚げ弁当 を開けて、かき揚げをサクサクと食べていた。現在の時刻は12時45分をちょっと過ぎたころ。 ショウの目の前には、ショウと一緒にランチタイムを取って、ポケモンのエサ、とも言うべき ポケモンフードを食べているクロバットとマッスグマ、そしてさっき捕まえたばかりのヒンバスが 仲良く並んでいた。ヒンバスは一応魚ポケモンだから、水の中から出たら弱ってしまうのでは ないか、と思いがちだが、実際はそう単純でも無い様で、結構陸地でも平気でいられるようだ。 ただ、やっぱり水の中とは勝手が違うのか、動きは鈍い。それでも食欲はあるようだが。 弁当を食べながら、ショウはレースについて考えていた。 「んー、このメンツだと……クロバットがスカイコース担当でヒンバスはリバーコース担当、 クマが最後のランドコース担当だな。クロバットとクマはスピードに関しては問題ないとして、 最大の課題はやっぱヒンバスをどうすっかだな……。」 ヒンバスをかけて戦ったバカ(ポケモンコレクター)いわく、ヒンバスはコイキングと違って、 技マシンを使って技を覚えさせることができる、とのことだが、生憎なことにショウはヒンバスが 覚えられそうな技マシンを持っていなかった。 「やっぱ適当な攻撃技はあったほうがいいよな。」 念のため、ランチタイムにする前に一度ポケモンセンターに立ち寄り、パソコンでヒンバスの データをチェックしてみたのだが、これが見事に、流石はコイキングと似たもの同士、と言った ようなステータスな上、技も覚えているのは「跳ねる」と「体当たり」のみで、やっぱり頼りない。 「どーすっかなぁ……。」 首をひねって悩むショウ。 「うーん……おいヒンバス、ちょっくらこっち来な。あとマッスグマもな。」 「バス〜。」 「クマ?」 ショウに呼ばれてヒンバスとマッスグマが寄ってきた。 「マッスグマ。ちょっと我慢しててくれ。……ヒンバス、マッスグマに体当たりしてみろや。」 「バスッ。」 ほよん ほよん べちっ。 しーん……。 「……。」 「……。」 「……。」 「……。」 気まずい空気が一同の背中を駆け抜けた。 「おいクマ、さっきの体当たり、どうだった?」 「クマ〜。」 いや、どうって言われても……とでも言いたそうな、困った表情のマッスグマ。 再び、一同の背中を寒い空気が駆け抜けた。 「ああぁぁ、どうすりゃいいんだってんだ一体!」 頭を押さえて、泣きそうな声でがっくりするショウ。 「……とりあえず、弁当食い終えてから考えるか。」 で、弁当食い終えた後もショウはヒンバスをどうするか考えたが、ちょっと考えたくらいでいい アイディアが出てくれば苦労はしない。 「どっかの親切なトレーナーが技マシンゆずってくれるとか、たまたまそこらへんに落ちていた 技マシンを拾うとか……あるわけねぇよなぁ……。」 そこまでご都合主義な展開になるほど、世の中甘くない。悩むことしきり。 結局、いい考えは思い浮かばず、ショウは午後1時を知らせる時計の音を聞くと、ポケモンたちを ボールにしまってベンチから立ち上がった。 「しょうがねぇ、性に合わないが地道に育てるしかねぇみたいだな。」 本音を言ってしまえば、いっそそこらに捨ててしまうか逃がして別のポケモンを釣ろうかとも思った のだが、なまじ先の戦いでコレクターから、ヒンバスの希少価値を教わっているだけに、こいつを 逃がしてしまうなんてことは勿体無くて出来ない。 ため息をつきながら、ショウは広場を後にした。 |
金銀晶 | #8☆2005.03/31(木)13:36 |
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ショウが向かったのは、ヒワマキシティとその先になるミナモシティをつなげる120番道路。 こっちの方で、何か新しい収穫が無いか探しに来た、というわけである。ナルからもらった ネットボールは全部使ってしまっていたが、以前にマッスグマが拾ってきてくれたボールなどは まだまだ十分ストックがあるので、いいポケモンがいたらついでに捕まえようというわけだ。 「んーと、見かけるのはどいつもこいつも見たことあるやつばっかだな。」 120番道路でショウが見かけるのは、ジグザグマやマッスグマ、マリルにナゾノクサと言った 平凡なポケモンたちばかり。しばらくそこらの草むらを歩き回っては見たが、出くわす野生の ポケモンは、ほとんどこいつらだった。 「この辺じゃ、大した奴は見つからないみたいだなぁ。……よし、それじゃ。」 ショウはモンスターボールを取り出すと、マッスグマを呼び出した。 「クマー。」 「マッスグマ。『嗅ぎ分ける』を使ってみてくれ。何か怪しいブツの匂いがしたら俺に知らせろ。」 「クマクマー。」 ふんふんくんくん、とマッスグマが地面に鼻を近づけて匂いを探り始めた。 「どうだ、何かありそうか?」 「クマ〜……。」 「!クマッ、クマクマ!」 反応あり。マッスグマが何か怪しい匂いを嗅ぎ当てたようだ。マッスグマは匂いを追って草むらの 奥へと進み始めた。 「おっ、何か見つけたか?」 「クマ〜クマクマ〜ク〜マ〜……。」 匂いを追って前へ前へと進むマッスグマと、その後を慎重についていくショウ。 マッスグマは少し進んでは立ち止まり、また少し進んでは立ち止まりを繰り返しながら、やがて 近くの池のほとりまでたどり着いた。遅れてやってきたショウがあたりを見回す。 「うーん、池か。……まあ、水辺には生き物がたくさん集まるって言うしな。」 マッスグマは嗅ぎ分けるのをやめてあたりをうろうろしている。 「クマー。」 「このあたりに何かあるってのか?」 そう言いながらショウが近くの草むらに足を踏み入れた瞬間。 バチンッ!グイィーン! 「のおおぉっ!?」 「ク、クマ〜ッ!?」 気がついたときには、ショウは大きなネットの中に捕まって、木の枝に宙ぶらりんになってしまって いた。慌ててショウの真下までマッスグマがやってくる。 「クマッ!クマッ!」 「くそっ……こいつぁ、たぶんポケモンを捕獲するための罠だな。ロケット団にいたころに同じ ような罠を仕掛けてポケモンを捕まえたことがあったが……。ポケモン用の罠に人間様の俺が 引っかかるとは情けねぇなぁ。」 「クマー。」 マッスグマは心配そうにショウを見上げている。 「マッスグマ、俺は大丈夫だから心配するな。……この網、お前に破れそうか?」 「クマ?……クマーッ!」 マッスグマはネットにぶら下がり、なんとかネットを破ろうとツメや歯を立てるが、ネットには ほとんど傷もつかない。マッスグマはあきらめてネットから一旦飛び降りた。 「クマー。」 「ちっ、ダメか。」 「クマ〜。」 「どうやらこのネット、特別なワイヤーで出来ているようだな。こりゃ道具が無いと切るのは無理 だぞ。参ったな……。」 途方にくれるショウとマッスグマ。しかし、災難はこれで終わらなかった。 シャアァーッ! 「ク、クマーッ!?」 「何っ!?」 突然、マッスグマの頭上から大量の白い糸が降ってきたかと思うと、瞬く間にマッスグマの体を がんじがらめに拘束してしまった。 「クマッ、クマッ!」 マッスグマは必死でもがくが、糸はますますこんがらかってまとわりつく。とうとうマッスグマは 動けなくなってしまった。 「おい、マッスグマ!……畜生、一体何がどうなってやがるんだ!?」 「ほほう、罠が作動したから何がかかったと思って来てみれば……。トレーナーとそのポケモン が引っかかっていたとはなぁ。」 |
金銀晶 | #9☆2005.04/01(金)13:50 |
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「ふっふっふ……。今回はターゲットは捕まえられなかったが、その代わりに間抜けなトレーナー とそのポケモンが収穫か。まあ、財布や道具袋の中身はなかなかリッチなようだし、これはこれで よしとしておこう。」 「うっせぃ。間抜けは余計じゃ。」 ショウは120番道路の外れにある、人目につかない場所に建てられた古い小屋の中に連れ込まれ、 両手を縄で縛られて小屋の天井からミノムシ状態になって吊るされていた。持っていた道具と所持金、 モンスターボールまで全て没収され(マッスグマもボールに無理やり戻された)、まったくの丸腰 状態である。ショウの持ち物は全部小屋に備え付けてあるテーブルにきちんと並べられている。 捕まっているショウの目の前には、不適な笑みを浮かべながら自分のものであると思われる様々な 道具……もっとはっきり言ってしまえばトラバサミやロープなどの罠に囲まれながら無線機を 手入れしている男と、毒々しい色彩が特徴的な足長ポケモンのアリアドスがいる。おそらく男の ポケモンだろう。さっきマッスグマを捕らえた糸も、このアリアドスが出した「クモの巣」である ことは想像に難くない。 「てめぇ、さては密猟者だな?こんなとこで一体何を狙ってやがんだ?」 「ふっ、そんなことをベラベラとしゃべるとでも思うかね?」 「……思わん。」 「あまり余計な詮索はせん方がいいぞ。私にはこれがあるからね。」 そう言いながら無線機の手入れを続ける男の横には、物騒なことに一丁のライフル銃まで壁に立てかけ られている。男がその気になれば、ズドーンと一発やられかねない。状況は圧倒的にショウが不利。 「で、俺はこれからどーなるわけだ?」 「まあ、私も鬼じゃないからな。そこで大人しくしていれば、持ち物と所持金、そして君の ポケモン全部没収する程度で解放してやる。それで命が助かれば安いもんだろ?」 「けっ、早い話が強盗じゃねぇか。」 「何とでも言いたまえ。どっちにしろ、君の不利は変わらない。」 ガーガー、ガガー……。 男が手入れをしている無線にノイズが入った。誰かが通信してきたようだ。 「少し黙っていろ。」 「わーったよ。」 と男はショウに釘を刺してから通信を始めた。 「私だ。どうした?」 「ガ、ガー……幹部、ついに見つけました!奴です!ガー……。」 「何、本当か!それで、どうした?」 「ガー……取り逃がしてしまいましたが、都合のいいことに奴は幹部のいる小屋の方に向かって 逃げていったようです!発信機をくっつけたので間違いありません、ガー……。」 「そうか、でかしたな。すぐに私もいく。」 (こいつ、幹部って呼ばれてたな。ってことは、どっかの組織の上役に属しているのか?) 男は通信を終えると、いそいそと道具をまとめて、ライフル銃をかついで立ち上がった。 「そういうことで、ちょっと席をはずさせてもらう。くどいようだが、そこで大人しくしていろ。 ……行くぞ、アリアドス!」 「アドース!」 男はアリアドスと一緒に、小屋の外へ出て行った。 男とアリアドスが出かけて少しすると、ショウはため息をついて独り言をもらした。 「はぁ……奴が行っちまってる間に何とかして脱出しねぇとなぁ。」 ショウが縛られているロープは普通の縄で出来ているので、何か刃物のようなものがあれば何とか なりそうだ。しかし、ショウ自身は縛られているので、自分の手ではどうにもできない。 「よし、困った時のポケモン頼み……クロバット、マッスグマ!出てこれるか!?」 ショウの呼びかけに反応してモンスターボールが開き、クロバットとマッスグマが出てきた。ボールの 中に入っているポケモンは、基本的にトレーナーからの呼びかけに反応してボールから出てくるので、 わざわざボールを投げなくても、こうやって遠くから呼びかけてポケモンを出すことも出来るのだ。 「クロッ。」 「クマー。」 「このロープを切ってくれ!なるべく急いで頼むぞ。」 「クロクロッ!」 クロバットが天井に吊るされたロープをエアカッターでバッサリと切り落とした。ショウが縛られた まま床にドサリと落下する。したたかに背中を打ったが、痛がっているヒマは無い。 「いててて……クマ、次はお前がこのロープを切ってくれ。クロバットも手伝え。」 「クマー!」 「クロ!」 クロバットとマッスグマが二匹がかりで、ツメと歯を使ってショウのロープを切っていく。やがて ロープのあちこちが食いちぎられて、ショウはやっとロープの拘束から抜け出せた。 「ふぅっ、何とか自由になれたぜ。二匹ともありがとよ。」 |
金銀晶 | #10☆2005.04/02(土)14:19 |
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自由になったショウは道具と所持金、モンスターボールを手早く回収すると、そっと小屋のドアを 開けて周囲を見渡した。ショウから見える範囲には、出て行った男の姿は見えない。小屋の周囲に 誰もいないのを確認すると、ショウはドアを閉めて小屋の中を見渡した。 「このままトンズラしてもいいんだが……やられっぱなしなのも何か癪だしな。……よーし、 ちっとばかり仕返ししてやるか。」 念のためマッスグマを見張りにつけておき、ショウは小屋の中に何かいいものがないかどうか 調べ始めた。 「何か使えそうなものは……お、工具入れ発見。」 道具などの修理にでも使うのだろうか、大工道具一式が揃った工具入れを見つけた。 「よし、まずはこいつで行くか。」 ショウは男が使っていた無線機を、工具入れに入っていた道具でメチャクチャに分解し始めた。 ドライバーでネジを外し、ペンチやハサミを使って中のコードや配線を片っ端からちょんぎり、 トドメにハンマーでガツン。あっという間に無線機は見るも無残な姿へ早変わりだ。 「けっけっけ、いい気味だぜ。さて、次は……。」 次にショウが目をつけたのは、男の持ち物であろうと思われる大きな袋。 「何か目ぼしいものが入っていればいいんだが。」 中を開けてみると、出てきたのは傷薬などの薬品から携帯用のレトルト食品や缶詰、そして 大量のモンスターボール。おそらくこの袋は男の道具袋なのだろう。 「あんにゃろう……さては俺以外の奴からも道具だのポケモンだのを分捕ってやがったな。 えーと……おっ、技マシンもあるぜ。いただいておくか。何か使えそうなのあるかな?」 袋の中からは技マシンも出てきた。袋を逆さにして中に入っている道具を出して、他にもないか 探してみると、出てきた技マシンは全部で4枚。時間がたつと、どんどんダメージが増えていく 猛毒をあびせる毒タイプの「毒毒」、ポケモンを戦わせる場所によって、違った追加効果を出す ノーマルタイプの「秘密の力」、黒いエネルギー弾を発射するゴーストタイプの攻撃技の 「シャドーボール」、そして秘伝マシンの一つ、水タイプの攻撃技「滝登り」である。 「よっしゃ、滝登りの秘伝マシンがあるとはありがたいぜ!ヒンバスに使おうっと。」 手早くボールからヒンバスを呼び出し、秘伝マシンを起動させる。 「バス〜?」 「良かったな、これでお前も人並みに戦えるぜ。」 ヒンバスは あたらしく たきのぼりを おぼえた! 「ついでだ。おまけにこれも覚えさせておくか。」 ヒンバスは あたらしく どくどくを おぼえた! 残りの秘密の力とシャドーボールの技マシンは、とっておくことにしておいて、ショウは道具袋から 高級そうな道具を選び、持っていけるだけ頂戴して自分のナップザックに詰め込んだ。 「よーし、これだけ取れば十分だな。クマ、そっちはどうだ?」 「クマ〜……クマクマッ。」 「異常なしってところだな。よし、それじゃさっさとトンズラするぞ。」 ショウはそっとドアを開けた。 |
金銀晶 | #11☆2005.04/03(日)12:09 |
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「えーと……よし、誰もいねぇな?」 あくまで慎重、かつ大胆に小屋の外に出たショウ。だが、足を一歩踏み出した次の瞬間。 「いたぞー!そっちだぁー!」 「逃がすな!」 などという叫び声と共に、大人数の足音がこちらに近づいてくるのが聞こえた。 「げっ、やべっ!隠れろ!」 「クマー。」 慌ててドアをバタンと閉めてマッスグマと一緒に身を潜めた。 窓に近づいてそっと外の様子をうかがってみると、外ではあの密猟者と、それに従うように数人の 黒服の男女があちこちをせわしなく駆け回っている。彼らが着ている揃いの黒服には、なんとあの アルファベットのNとRを組み合わせたマーク。 (ネオ・ロケット団か!ってことはあの密猟者はネオ・ロケット団の幹部だったのか。) 団員たちは小屋の周囲を取り囲むようにせわしなく駆け巡っている。これでは隙を見て脱出する ことも出来ない。もう少しよく見てみると、走り回る団員と密猟者の他に、おそらくは連中の ターゲットであろうと思われる、ポケモンらしき影も見える。かなり素早い動きで動いていて、 窓の外をサッと通り過ぎてしまうので、どんなポケモンかはよく分からないが、どうやら白い色 で四本足のポケモンのようだということだけは何とか分かる。 (あれがどうやら無線機で話していたターゲットとやらのようだな。ネオ・ロケット団の連中が狙う ということは、珍しいとか強いとかで、それなりの価値があるポケモンってことか?) などとショウが考えていたその時。 ドターン!という派手な音と共に、ショウのすぐ横で小屋のドアが派手に吹っ飛んだ。 「うおっ!?」 「クマッ!?」 続いて、小屋の窓のガラスがピシピシッ!と音をたてながらヒビ割れた。 「ガラスの破片が刺さったら危ない。お前は戻ってな。」 そう言ってマッスグマをモンスターボールに戻したその直後、バリーン!という盛大な音がして 窓ガラスの破片が飛び散る。あわてて顔を手で覆った。 「ったく、一体どんなハンティングやらかしたら、こんなことになるんだよ!」 このまま小屋の中にいたら、そのうち小屋ごと吹っ飛ばされるんじゃなかろうか。ショウは思い切って 外に飛び出ることにした。が。 ドシン! 小屋から出たとたん、出会い頭に何者かとぶつかってその場に尻餅をついてしまった。 「ってぇ!……くそっ、どこ見てんだ!……って、あぁ!?」 「お前は!一体どうやって出てきた!?」 運が悪いことに、ショウがぶつかったのはなんとライフル銃を抱えているあの密猟者だった。 「けっ、外であんだけドンパチやってりゃ、ロープだって切れるわ!」 「どさくさ紛れに何をほざいて……まあいい。今はそれどころじゃないしな。」 「一体、何を捕まえようとしたらドアが吹っ飛んだり窓ガラスが割れたりするってんだよ?」 「ふん、あれを……小屋の屋根の上を見てみろ。」 そう言われてショウが屋根の上を見上げると……。 そこには、雪のような白い毛皮と、鎌のようなするどい角を頭の片方につけた、どこか凛々しい表情 のポケモンがいた。 「あれが私の今回のターゲット。災いポケモンの『アブソル』だよ。」 「災いポケモン?」 「アブソルは予知能力を持っていてな、自然災害を予測すると、普段は滅多に近寄らない人里近く に出没して付近の人間やポケモンに警告する習性を持っている。だが、それが昔の人にはあたかも アブソルが災害を引き起こすように見えたことから、災いポケモンと呼ばれてるそうだ。」 「なるほどねぇ。」 「アーブーッ……。」 ショウと密猟者を見下ろしながら、アブソルがどこか哀愁漂う声で一言鳴いた。 「この120番道路で張り込んではや半年。もう何十回奴に逃げられたことか……。だが、今回 こそは必ずしとめる!」 そう言って密猟者がライフルをアブソルに向けた。 「おいおい、お前アリアドス持ってたんじゃないのか?ポケモン捕まえるならちゃんとポケモン 出して戦えってんだよ。」 「ふん、そんなまどろっこしいことしていられるか。ボールからポケモンを出している間に 逃げられるのがオチだ。……食らえっ!」 |
金銀晶 | #12☆2005.04/04(月)18:13 |
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ズダーン!とライフルが轟音を発したが、それより一瞬早くアブソルは姿を消し、次の瞬間には もう小屋の屋根から下りていた。 「早いな。」 「さっきも言ったとおり、奴には予知能力があるからな。自然災害だけでなく、自分の身に危険が せまったときにもその能力を発揮したとて、不思議は無い。」 そう言いながらも、密猟者はすでに二発目の弾を発射する準備を終えて、再びアブソルにライフルを 向けていた。 「奴は本当に賢い、いやずる賢い。自分で言うのも何だが、私は罠を仕掛けることに関しては 人一倍自身があってね。一部の人間は私のことを『トラップマスター』とも呼んでいたほどだ。 だが、そんな私の仕掛けた罠を、あのアブソルはいとも簡単に見破っては次々と軽くあしらって いったんだよ……。」 「要するに、あいつを捕まえられないことには、自分のプライドが収まらないってことか。」 「まあ、そういうことだ。」 そう言いながら、すかさず密猟者が二発目を発射。しかし、これも一瞬の差でアブソルに回避されて しまった。 「くそっ!いまいましい!……ん?」 アブソルの周囲の空気がふいにざわめき始め、やがていくつもの無数の小さな竜巻が、アブソルの 周りで回り始めた。 「いかん、伏せろ、アブソルのかまいたちだ!」 「でぇっ!?」 ショウと密猟者が伏せた瞬間、アブソルの鎌から放たれた空気の刃がいくつも頭上を通り過ぎて いくのが、はっきりと分かった。 「さっき小屋のドアや窓をぶっ壊したのも、あのかまいたちだ。奴は戦闘能力も高い。私の仲間も、 そのポケモンたちも、まとめてあれにやられて気絶しておねんねだ。」 「仲間……無線機で話してた連中か。」 そう言いながら立ち上がったショウと密猟者の前に、アブソルがいきなり間合いを詰めてきた。 「何っ!」 アブソルはショウには目もくれず、一目散に密猟者目掛けて体当たりを食らわす。 「ぐわっ!」 ぶつかった勢いで、密猟者の手からライフルが空中に放り投げられた。アブソルがジャンプして すかさずライフルを口で咥えてキャッチすると、再び小屋の屋根の上に登っていって、ライフルを 屋根の上にそっと置いた。 「ぐうぅ……『電光石火』とは、小ざかしい真似を!」 「だから最初っからポケモン出してやりゃあ良かったんだよ。」 「ふん、やむをえんな。」 そう言われて、密猟者がモンスターボールを取り出そうとしたその時であった。 「シュロ様〜っ!」 密猟者……どうやらシュロという名前らしい……を呼ぶ声がすると同時に、数人の男女と連れの ポケモンが続々と集まってきた。もちろん、さっき小屋の外を走り回っていたネオ・ロケット団の 団員たちである。服のあちこちに鋭利な刃物で切ったかのような後がある。シュロも言っていた ように、アブソルのかまいたちでコテンパンにされた証拠だ。 「シュロ様、遅れまして申し訳ありません!」 「ふん、遅いぞ。……ここでアブソルと決着をつける。お前たちも準備しろ。」 「はっ、そ、それが……。」 「何だ?」 「私どものポケモンは、もうほとんどが戦闘不能状態でして。道具もトラップもほとんど残って なくって、もうあとはシュロ様だけが頼りというか、その……。」 「お、お前たちというやつは……。いざという時に限って役に立たない……。」 「あぁーっ!て、てめぇはっ!」 シュロが話していると、団員の一人がショウを見て叫んだ。 「どうした?」 「シュロ様、こいつです!ヒワマキジムを襲ったときに、ポケモンを俺の頭に噛み付かせた奴は!」 「ん?……ひょっとしてお前、ヒワマキジムでクロバットに頭を噛まれた奴か!?」 ショウの方もびっくり。 「ひょっとしなくてもそうだよ!……そういうわけでシュロ様、こいつぁ我々の敵でさぁ!」 「ほほぅ、そんな因縁があったとはな。となれば、私も君に対して態度を改めなければならんな。 ……多少痛い目にあってもらおうか?覚悟しておきたまえ。」 「ちっ、多勢に無勢か……。」 並々ならぬ殺気と共に団員とシュロに包囲されたショウ。四面楚歌の状態だ。 |
金銀晶 | #13☆2005.04/05(火)17:22 |
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絶体絶命、と思われたその時だった。 「アブーッ!」 おいおい、俺を忘れてもらっちゃ困るぜ、とでも言っているかのように屋根の上のアブソルが 一声鳴いて跳びあがり、団員たちの後ろに着地した。 「おい、あのアブソルはどうすんだ?このまま俺にかまけて逃がすか?」 ショウの問いかけにシュロはにやりと笑う。 「まさか。……お前たちはあのアブソルをなんとしてでも捕獲せよ!私はこの不届き者に お灸を据えてから後で合流する!」 「えぇっ!?でももう私らのポケモンが……。」 「だったらお前たちが自分の体張ってでも捕まえろっ!とっとと行けっ!」 「ひぃ!分かりましたー!」 その声を合図にしたかのように、アブソルがさっと駆け出し、その後を団員たちが大勢で慌てて 追いかけていった。後にはショウとシュロが残るのみ。 「……ふん、これでいい。どうせあいつらはここにいたところで何の役にも立たんだろうしな。」 「あいつらの服のマークから察するに、てめえはネオ・ロケット団の幹部だな?」 「さすがに気づいていたか。そう、私はネオ・ロケット団幹部のシュロ。罠使いの腕を見込まれて 入団してな。気がつけばこのとおり、幹部にまで昇進さ。」 「ちっ、厄介な奴がいたもんだぜ。」 「以前のロケット団は、たった一人の少年トレーナーによって解散させられたそうじゃないか。 だが、今度のネオ・ロケット団は私を初めとした実力派ぞろいの奴ばかりだ。どこの馬の骨とも 分からんやつに、そうそう邪魔はさせんぞ。……かかってこい!我らの恐ろしさ、見せてやる!」 「調子こいてると後で泣くぜ!」 ネオロケットだんかんぶの シュロが しょうぶをしかけてきた! ネオロケットだんかんぶの シュロは アリアドスと ダグトリオを くりだした! ゆけっ! クロバットと マッスグマ! 「クマ!お前はアリアドスと戦え!クロバットはダグトリオを迎撃しろ!」 「ふっふっふ。そうお前の都合どおりにはいかんぞ。ダグトリオ、やれ!」 「ダグダグ!」 シュロの指令を受けたダグトリオがひょこっと地面に潜ったかと思った次の瞬間、地面がいきなり 陥没を起こし、すり鉢上の大穴を作り上げた。空を飛んでいるクロバットには何とも無かったが、 マッスグマが穴の中に転げ落ちて入ってしまった。 「なにっ!?」 「ダグトリオの特性の一つ『蟻地獄』だ。空でも飛ばん限りはこのトラップからは逃げられんよ。」 「なるほど。てめぇは罠使いだから、持ってるポケモンも罠仕掛けが得意な奴ばかりってことか。」 「まあ、そういうことだ。」 「クマックマッ!」 マッスグマは必死に穴の外へ出ようとするが、さらさらと砂が崩れて上へと進めない。穴の底には ダグトリオが顔を出して獲物を待ち構えている。 「くそっ、あれじゃクマはまともに戦えないな。……クロバット、マッスグマを引き上げろ!」 「クロー!」 「バカめ、飛んで火にいる何とやら……アリアドス、クモの巣だ!」 マッスグマの元へ向かおうと、下降してきたクロバット目掛けて、アリアドスの糸が噴射された。 「クロッ!?」 たちまち、クロバットの体にアリアドスの糸が絡み付いて離れなくなった。 「よし、アリアドス、穴に飛び込め!まとめて蟻地獄に引きずり込んでしまえ!」 「アドース!」 アリアドスがダグトリオの蟻地獄の中に、自分から飛び込んでいった。糸に捕らえられている クロバットもつられて穴へと引きずり込まれそうになるが、必死に羽ばたいてふんばる。 「クロバット、ふんばれ!穴に落とされたら相手の思うツボだ!」 「アリアドス、一気に引っ張り落とせ!ダグトリオも砂地獄で援護するんだ!」 「ダッグー!」 アリアドスが力をこめて糸を引き、ダグトリオが穴の底から猛烈な砂の竜巻を巻き上げる。 「はっはっは、どうする?お前のポケモンとて、そうふんばってはいられんぞ。」 「くそっ……。ダグトリオの蟻地獄さえどうにかなれば……。」 マッスグマも一生懸命砂を掻いて上がろうとするが、やはり乾いた砂が足場では思うように足に力を 入れてふんばることもできず、もう少しでダグトリオとアリアドスが待ち構える穴底にまで落ちそう になっていく。クロバットの顔にも疲れの色が出始めてきた。 「無駄だ無駄だ。私と、私のポケモンによる罠地獄から抜け出せたものはいない。あがくだけ体力を 余計に消耗させるぞ。」 「くぅ……やべぇな、早いとこ勝負を決めねぇと……ん?待てよ?」 ショウの頭が何かを閃いた 「勝負を決める……。そうだ、肝心なこと忘れてたぜ。……これならいけるか!?」 |
金銀晶 | #14☆2005.04/06(水)18:05 |
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「マッスグマ、穴の底へ向かって砂かけだ!」 「何っ?」 「クマ?……ク、クマーッ!」 ショウの指示で、マッスグマが後足で砂を穴の底目掛けてぶっかけた。 「ダ、ダグッ!?」 「アドース!」 突然の奇襲に反応が遅れ、ダグトリオとアリアドスは砂の猛攻をまともに浴びて思わず目をつぶった。 ショウはその隙を逃さない。 「今だ、マッスグマ!ダグトリオに頭突きだ!」 「クマー!」 マッスグマが蟻地獄を一気に駆け下り、勢いをつけてダグトリオに頭突きを食らわす。砂かけに やられて目をつぶっていたダグトリオは、マッスグマの頭突きをまともに浴びてしまった。元々 打たれ強くないダグトリオにとっては、この一撃だけでもかなりの痛手となったようだ。 「ダ、ダグ〜……。」 「くっ、ダグトリオ、穴の中に逃げろ!」 「クマ、逃がすな!」 「クマッ!」 「ダグダグッ!?」 穴の中に引っ込もうとしたダグトリオの頭を、マッスグマの前足ががっちりと抱きかかえた。頭を 固定されては、動くことができない。 「よし、いいぞ!そのまま連続で頭突きだ!」 「クマッ!クマッ!クマッ!」 身動きのとれないダグトリオに、ガツンガツンと頭突きを食らわす。たちまち、ダグトリオの三つの 頭にたくさんタンコブが出来上がり、これがトドメとなってダグトリオが気絶した。 「くっ、だがこっちにはアリアドスもいるぞ!……毒針を食らわせろ!」 「アードーッ!」 マッスグマ目掛けて、アリアドスが毒針を仕込んだ一本角を突きたてようとする。 「クマッ!?」 「クロバット、エアカッターだ!くれぐれもクマには当てるなよ!」 「クローッ!」 そうはさせるか、と言わんばかりに、クロバットが糸に絡まれながらも、エアカッターをアリアドス に向けて発射した。鋭い空気の刃の猛攻は、あっという間にアリアドスの糸を切り裂きながら、 アリアドスに直撃する。 「ア、アドースッ!」 虫タイプであるアリアドスに、飛行タイプのエアカッターは効果バツグンの致命傷だ。アリアドスも ついに力尽きて、ダグトリオの上に重なるように倒れた。 「ば、ばかなっ!私のポケモンが!」 「へっ、逆転勝ちってやつだな!ざまあ見やがれ!」 「ぐっ……一体どうしてだっ!?」 「簡単なことだよ。ポケモン勝負の基本は『相手にダメージを与えて倒す』ことだ。だがてめぇは、 相手を罠にかけて捕らえることだけ考えてて、相手を攻撃することを忘れてたろ?どうしても 罠から抜け出せないってんなら、いっそ罠を作った奴ごとぶちのめせばいい話だ。ま、早い話が 先手必勝ってやつだな。」 「くっ、そう言われれば……。」 「確かに、アリアドスの『クモの巣』も、ダグトリオの『蟻地獄』も強力なトラップだが、それ自体 には相手のポケモンにダメージを与える力は無いし、完全に動きを封じることも出来ない。 ……まさか、相手が自分から罠にはまりながら反撃してくるなんて、思ってなかったろ?」 「うかつだったか……無念!」 「シュ、シュロ様ぁ〜……。申し訳ありませ〜ん……。」 ショウがクロバットにマッスグマを引き上げさせ、シュロが倒れたアリアドスとダグトリオをボール に戻していると、後ろから情けない声が聞こえてきた。見れば、さっきアブソルを追っていった団員 たちだが、さっきよりも数段ひどくボロボロになっている。アブソルに返り討ちにされたのは、 言うまでも無いことだろう。 「お、お前たち……。」 「やっぱし……生身でアブソルを捕まえるのは無理が……。」 「く、もういい。どうやら我々の完敗のようだ。」 「か、完敗?まさか、シュロ様……。」 「ああ、私も負け組さ。」 「そ、そんなぁ〜。」 その場にヘナヘナとへたりつく団員たち。シュロは悔しそうな目でショウを睨んだ。 「悔しいが、仕方あるまい。負けを認めて、この場は引き下がってやる。だが、我らネオ・ロケット 団はこの程度ではへこたれんぞ。それだけは覚えておけ!……撤収だ!」 「ちくしょぉ〜!」 |
金銀晶 | #15☆2005.04/09(土)11:22 |
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お決まりとも言える捨て台詞を吐きながら、シュロと団員たちはふらつきながら走って逃げて いった。それを見送りながら、ショウははぁーっとため息をついた。 「やれやれ……行っちまったか。ったく、いい迷惑だったぜ。何だか、あいつら相手に 張り合ってたら、妙に疲れちまったぜ。今日はもう戻るか……。」 「クマ〜。」 ショウの足元に、すまなそうな表情をしてマッスグマが寄ってきた。自分がとんでもないものを 嗅ぎ分けたおかげで、みんなに迷惑をかけてしまったのが気になるのだろう。 「あ?大丈夫だって。お前は悪くないんだから、そんな気にするこたないさ。」 「クロ〜。」 ショウがマッスグマの頭をなでてやる。 不意に、近くの草むらがガサガサと音を立てて動いた。 「ん?何だ?団員がまだ残っていたのか?」 ショウたちが草むらを見ると、そこから出てきたのはさっきのアブソルだった。 「アブー。」 「アブソルか。お前もご苦労さん、お互いえらい目にあったなぁ。」 アブソルは草むらから出てくると、ショウたちとはちょっと距離を置いた場所に腰を下ろした。 その表情は、へぇ、あんたらも結構やるじゃん、と言っているかのようだった。 「お、珍しいな。お前って自分から人間には近寄らないんじゃないのか?」 「……。」 「……何だよ。」 アブソルは黙ったままだ。ショウはしばらく考えていたが、やがてシュロが言っていたあることを 思い出した。 『アブソルは予知能力を持っていてな、自然災害を予測すると、普段は滅多に近寄らない人里近く に出没して付近の人間やポケモンに警告する習性を持っている。だが、それが昔の人にはあたかも アブソルが災害を引き起こすように見えたことから、災いポケモンと呼ばれてるそうだ。』 「おい、もしかしてこれから何かやばいことが起きるってのかよ?」 「アブーッ。」 ショウの問いかけに、アブソルは一声鳴いて答えると、すっくと立ち上がった。 「何が来るってんだ?地震か?雷か?火事オヤジか?」 「……。」 アブソルはヒワマキシティの方へと歩き出す。ショウとポケモンたちもその後を追った。 「クマッ、クマッ。」 「ん?どうしたクマ?」 マッスグマは空を見上げている。ショウたちも顔を上げて空を見ていると、いつの間にやら黒い雲 が湧き出て太陽を隠そうとしている。程なく太陽は雲の陰にかくれ、辺りが少し暗くなってきた。 「なんか急にいやーな雲が出てきたな。こりゃ早いとこ戻った方がいいぞ。お前ら、少し急ぐぞ。」 ショウたちは小走りで急ぎ始めた。アブソルはそれを見て、 「アブーッ。」 先に行ってるぜ、とでも言っているのだろうか、大きくジャンプしてヒワマキシティ目指して一目散 に駆け出した。空はだんだん暗さを増して、心なしか嫌な感じの風も吹いてきたように感じる。 「なあ、もう少し急いだ方がいいような気がするのは俺の気のせいか?」 「クロッ。」 「クマッ。」 クロバットもマッスグマも、動物特有の感覚が『何かヤバそうだ』と言う事を察知しているのか。 ともあれ、ショウたちはヒワマキシティに向けて帰路を急いだ。 |
金銀晶 | #16☆2005.04/11(月)18:07 |
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さて、そのころのヒワマキシティでは……。 「みんなーっ、お天気が悪くなりそうだから、今日はもうお仕事は終わりよ。今運んでいる荷物を 届けたら、ジムに戻ってー。」 木の上で手旗信号を使って鳥ポケモンたちに指示を出していたナギが、旗をしまいながら空の ポケモンたちに呼びかけた。 「ナギちゃーん、なんか雲行きが急に変になってきたねー。」 木の下からナルが呼びかけた。ナギが軽やかに木を降りながら答えた。 「そうね。このぶんだと、久しぶりに嵐が来るかもしれないわ。天気予報だと今日は晴れるって 言ってたはずなんだけれど。」 心配そうに空を見るナギ。と、遠くのほうからゴロゴロゴロ……という音が聞こえてきた。 「ねぇ……あれって雷?」 「みたいね。念のために外にいる人に避難するよう言ってくるわ。」 「あっ、ちょっと待って!」 走り去ろうとしたナギを、ナルが呼び止めた。 「どうしたの?」 「ナギちゃん、あれ見て!あれ、アブソルじゃない?」 「えっ?……あっ、本当だわ!」 ナルとナギの目の前を、一匹のアブソルが走っていった。二人だけでなく、アブソルを目にした 町の人々があちこちで騒ぎ始めたようだ。 「確か、アブソルって災いポケモンって呼ばれてるんでしょ?」 「ええ。私は専門じゃないから詳しくは分からないけど、アブソルが出てくるのは自然災害の前触れ だって言われてるわね……。」 「うぉーいっ、ナルとナギかぁーっ。」 「ほへ?……あら、ショウじゃない。今まで何してたのよ。」 アブソルの後を追うように、ショウとポケモンたちが猛ダッシュしながら走ってきた。 「ちょっとな。それより、さっきこっちにアブソルが来ただろ。」 「ええ、確かにアブソルなら来てるわ。あのポケモンがわざわざ街中にまで来るっていうことは、 どうやらかなり強い嵐になりそうね。レースの準備に影響しなければいいけど……。」 ピシャーン!ガラガラガラガラッ! 「きゃーっ!」 突然鳴り響いた雷の轟音にナルが飛び上がって、思わず近くにいたショウに後ろから抱きついた。 「うぉっ!?おいナル、飛びつくな!」 「だってー!雷怖いんだもーん!」 「とりあえず離れろっ、重くてかなわん。」 「何だとー?女の子に向かって重いとは失礼ねー!」 「ほらほら、二人とも……。」 騒いでいる三人の頭に、ポツンポツンと雨粒が落ち始めた。 「げっ、とうとう降ってきやがった。どしゃぶりになんねーうちにどっか屋内に避難しねぇと。」 「私は自宅に戻るわ。」 「じゃ俺はポケモンセンターだ。ナルも早いとこ家に戻れよ。」 「えー、雷鳴ってるのに一人でおうち帰るの怖くてやだ〜。ショウが連れてって〜。」 「ガキみたいなこと言ってんじゃねぇ、なんで俺がそこまでせにゃ……。」 そんなことを言ってるうちに、とうとうバケツをひっくり返したかのような大雨がドザーッと 降ってきた。 「だああっ!と、とにかく俺はポケモンセンターまで全力疾走だ!ひっついていたきゃ、勝手に ひっついてやがれっ!」 「とにかく一時解散ね!また後で会いましょう!」 「カゼ引くなよ!」 「そっちこそね!」 大雨が降る中、結局背中にひっついたままのナルを背負いながら、ポケモンセンターまで猛ダッシュ をかけるショウであった。 「ショウ〜、濡れちゃうじゃない、もっと早く走ってよ〜。」 「お前が降りれば、もっと早く走れるわいっ(怒)!」 |
金銀晶 | #17☆2005.04/15(金)16:34 |
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「かぁーっ、ひでぇ目にあったぜ……。」 ものすごい音を立てながら雨が降り続けるのを、ショウはポケモンセンターの中から見ていた。 結局、ポケモンセンターにたどり着いた時には全身びしょ濡れで、ショウは濡れた頭をタオルで 吹きながら、ぼやいていた。ちなみに、一緒にひっついて来てしまったナルは、ポケモンセンターの 貸しシャワー室に行っている。 備え付けのテレビから流れている天気予報では、この雨は長く続くものでないが、それでも1〜2 時間は降り続けるだろう、というようなことを放送している。時々雷がゴロゴロと鳴るたびに あちこちでびっくりしたような声も聞こえたりする。 「あーすっきりしたっ。シャワールームがめちゃくちゃ混んでたのは参ったけどね。」 さっぱりした、という感じでナルがシャワー室から出てきた。 「この雨だ、そりゃ混むだろ。俺もさっき服乾かそうと思って、乾燥機のとこに行ったんだが、 あっちもまあすげぇ混みようだぞ。まともに並んだら、まず一時間は待たされかねん。」 二人がそんなことを話している間にも、ポケモンセンターにはずぶ濡れになった人たちが雨を しのごうと、走りながら中に入ってくる人が後を絶たない。中にはカサを差しているのに 全身びっしょりな人も少なくない。この雨ではカサもあまり役に立たないということか。 「とりあえず、食堂で何か飲み物買ってくるぜ。」 「それじゃポカリスエット買ってきて〜。」 「しょがーねぇやっちゃなー。……金は?」 「えー、飲み物くらいおごってよ。」 「調子のいいのは相変わらずだな。」 ぶつぶつ言いながらショウが食堂に行こうとした時であった。 これまた全身びっしょりになったポケモンレンジャー数人と、上等なスーツを着たジェントルマンが 他の人より慌てた様子でポケモンセンターに駆け込んでくると、大声でポケモンセンターにいる 人々にこう呼びかけた。 「急にすまない!ここにいる人の中で、誰か119番道路でロコンを見かけた人はいないか?」 「いきなりどうしたってんだ?」 室内の人の問いかけに、困り果てた表情のジェントルマンが答えた。 「実は、119番道路で私がロコンと一緒に水辺で遊んでいたんだが、ちょっと目を離したときに どこかに一人で行ってしまったんだ。ポケモンレンジャーの方々にも手伝ってもらって今まで 探してたんだが、一向に見つからない。もしかしたら、どなたか親切な方がポケモンセンターに 届けてくれているんじゃないかと思って、ここまで来たんだが……。」 「そうでしたか……。でも、こちらではそういったポケモンはお預かりしていませんが……。」 受付のジョーイさんも頬に手を当てながら考える。ショウがジェントルマンに呼びかけた。 「おいおっさん、ここで預かってないってことなら、ひょっとしたらまだ119番道路のどっかに いるんじゃないか?だとしたらヤバいぜ?」 「ヤバいってもんじゃないわよ!ロコンは炎タイプのポケモンよ、この大雨の中に取り残されてる としたら、早く助けてあげないと命に関わりかねないわ。」 「おお……どなたか、私のロコンを助けてくれる方はいませんか?お礼は何でもいたします!」 ジェントルマンがその場に頭を抱えてうずくまる。ポケモンセンターにいる全員が同情を込めた 目をするが、誰一人として名乗り出ようとしない。この大雨では、数分も探さないうちに自分らの 体力がなくなってしまうだろう。第一、もうびしょ濡れはこりごりだ。 ぽんっ。 不意に、ショウのモンスターボールの一つが勝手に開いて、中からヒンバスが出てきた。 「バス〜。」 「おい、ヒンバス、勝手に出てくるんじゃねぇ。一体どうしたってんだ?」 「バスッバ〜ス〜。」 ヒンバスはぴちぴち跳ねながらポケモンセンターの自動ドアの前に行くと、ドアの前でショウを 身ながら、さらに多角跳ねた。 「お前、何がしたいんだよ?」 「ねえ……ひょっとしたらあんたのヒンバス、ロコンを探しに行きたいんじゃない?」 「バスッ。バスバス!」 どうやらナルが言ったことが正解だったようだ。ヒンバスはしきりに跳ねながら、大雨が降り続く 外を見た。 「……うーむ……。」 ショウはそんなヒンバスをじっと見ていたが、すぐに腹を決めた。 「よし、分かった!正直お前だと流されそうで不安だが、ここはいっちょお前に任せてみる!」 「バスバスー!」 |
金銀晶 | #18☆2005.04/16(土)12:19 |
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「よし、それじゃ行ってこい、ヒンバス!」 ショウが声をかけると、ヒンバスは激しい雨の中に出て行った。 「おお、なんと勇敢なポケモンだ!……君がトレーナーだね?感謝するよ。」 「へっ、礼ならあのヒンバスに言ってくれや。……おろ?」 雨が降っている外に出た瞬間、それまでぼーっとしていたようなヒンバスの表情に変化が起こった。 顔全体がシャキッと引き締まり、目に光がともったその様はどことなく凛々しさを感じさせる。 そして、 「バスーッ!」 ヒンバスはすさまじい勢いで水しぶきをドバババッとあげながら、信じられないような猛スピードで 一気に119番道路へと突っ走っていった。まさに、水を得た魚とはこのことか。 「す、すげぇ。あいつにあんなパワーがあったなんて……。」 びっくりするショウ。 「あれはきっとヒンバスの特性『すいすい』ですね。ヒンバスは雨が降っている時には行動スピード が普段の倍になるそうです。この悪天候も、ヒンバスにとっては逆に有利な状況と言えますね。」 ジョーイさんが解説する。 「そうだったのか……。もしかしたらあいつ、本当にやってくれるかもな。」 「今は、あんたのヒンバスを信じましょう。」 さて、ポケモンセンターを出発したヒンバスが119番道路に到着するのに、数えても数分も かからなかった。雨で水かさと流れの速さが増した川の中に、ためらうことなく自分から飛び込む。 「バスー。」 水面から顔を出して、川辺の草むらや岩陰を見渡し、どこかにロコンが隠れて雨をしのいでいないか、 丹念にチェックするが、今のところそれらしい影は見つからない。 一通りの場所を川の流れにそって探してみたが、ロコンを見つけることは出来なかった。そこで ヒンバスは、手ごろな岩場の上に飛び乗ると、すーっと大きく息を吸い、 「バースーッ!」 と、ありったけの力で大声を出して叫んだ。早い話が、ヒンバスは鳴き声を使って、直接ロコンに 呼びかけようとしているのだ。雨の音でヒンバスの声もかなりかき消されてしまうが、それでも 力一杯叫び続けるヒンバス。声がかれそうになるのもかまわない。 「ーン……コーン……。」 「バス!?」 手ごたえあり。随分と弱弱しいが、それでもはっきりとロコンの鳴き声が聞こえた。 「バスバスー!」 ロコンの鳴き声が聞こえた方角に急行するヒンバス。 ロコンが隠れていたのは、川辺に立っている木の根元にある穴ぐらの中だった。ヒンバスがロコンの 元に到着したときには、川が増水して水が穴の中にまで入り始めている状況だった。もうちょっと ロコンを発見するのが遅れていたら、どうなっていたか分かったものではない。 「バスバスー!」 「コーン!」 思いもかけない救助の手が差し伸べられ、素直に喜ぶロコン。ヒンバスはロコンがいる穴ぐらまで 泳いでくると、ロコンに自分の背中を差し出した。 「バスー。」 どうやら、背中に乗れ、ということらしい。 「コーン!」 ロコンはヒンバスの背中に乗ると、しっかりとしがみついた。それを確認すると、ヒンバスは 「バスーッ!」 と気合の一声と共に、出発したときと同じくらいのスピードで川を上っていった。 降り続く大雨と、ヒンバスがあげる水しぶきがロコンの全身にかかるが、ロコンはそれでも必死に ヒンバスにしがみつく。今、頼りになるのはこのヒンバスだけだ。 「バスッ?バスバス。」 「コーン……。」 ヒンバスはロコンを気遣っているのだろうか、少しスピードを落として、自分があげる水しぶきが 少しでもロコンにかからないようにした。 川を上るヒンバスの目の前に、流木や大きなゴミが流れてくるが、ヒンバスは得意の「跳ねる」と 特性の「すいすい」で発揮されるスピードをいかし、ある時は華麗な大ジャンプ、ある時は見事な ドリフト泳法(?)で確実に障害物を回避していく。 「バスー、バスッ。」 「コーン。」 がんばれ、もう少しだとでも言っているのだろうか。目前にせまるヒワマキシティの町並みに向けて、 ロコンを乗せたヒンバスは泳ぎ続けた。 |
金銀晶 | #19☆2005.04/18(月)22:44 |
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背中にロコンを乗せたヒンバスがポケモンセンターの自動ドアを開けて入ってくると、人々から 歓声が湧き上がった。随分長い時間がかかったように思えたが、数えてみればヒンバスが出かけて 戻ってくるまで10分もたっていなかったりする。自らの特性を活用してのスピード解決、まさに お見事と言う他無い。 「やるじゃねぇかヒンバス!」 「バスバスー。」 「おお、それはまさしく私のロコンです!どうもありがとう……。」 ジェントルマンはロコンを抱き上げると、すぐにジョーイさんに渡した。 「この子をお願いします。」 「だいぶ水をかぶったようですね、すぐに緊急治療の準備をしましょう。」 ただちに、緊急治療の手配が始められた。 「お前お手柄だったな。」 「バス〜。」 「一時はどーなるかと思ったけど、無事に見つかってよかったわね。」 「まったくだ。ま、それもこれも全部ヒンバスのおかげだけどな。俺も鼻が高いってもんよ。 ……おーいジョーイさん、大丈夫だとは思うが、念のために俺のヒンバスも見てやってくれ。」 「はい、ではこちらでお預かりしますね。あ、ちょうど治療の準備が出来たようですので、 これで失礼させてもらいます。」 ヒンバスを預かったジョーイさんは、他の職員に一旦受付を任せておいて、ジェントルマンと 緊急治療室の方へ行ってしまった。 騒動が一段落ついて、ポケモンセンターに元の落ち着きが戻ってくると、ナルがレースの話を 持ち出してきた。 「ところでさ、ショウはあのヒンバスをレースに出すつもりなの?」 「ああ、もちろんそのつもりさ。スカイコースがクロバット、リバーコースがヒンバス、最後の ランドコースはマッスグマ。うん、これで行くか。正直言って、ヒンバスを入れて大丈夫かどうか 迷ってたんだが、あいつのあの活躍ぶりを見たら入れないわけにいかんだろ。」 「それもそーねぇ。……でもよりによってヒンバスだなんて、ショウも物好きねぇ。」 ナルが首をかしげながら言った。ポケモンエメラルドをプレイしてヒンバスの図鑑の説明を見た方 ならお分かりかと思うが、ヒンバスは外見がボロっちくてみすぼらしいので、育てるトレーナーも あまりいないのだ。 「ふふん、甘いなナル。このヒンバスは進化させると、ミロカロスっつーポケモン一美しい種族に 進化するそうだぜ。」 「えーっ、ミロカロス!?あたし前にテレビで見たことあったけど、すごい綺麗なドラゴンっぽい ポケモンだったわよ。このヒンバスがねぇ……うーん……。」 「まあ、あのコイキングだって育てりゃ凶悪なギャラドスになるしな。」 「あっ、それもそうよねぇ。」 二人がそんな話をしていると、静かになったはずのポケモンセンターが、少しだけ騒がしくなった。 「あっ、あそこにいるの、アブソルじゃないか?」 誰かが発した声を聞いてポケモンセンターの外を見てみると、そこには少し勢いの弱まった雨の中に たたずんで、こちらをじっと見ているあのアブソルがいた。 「あらやだ、また何かあるのかしら?」 「まさか。そんな立て続けに災害が起こってたまるか。」 「……ねえ、あのアブソルってショウのこと見てるんじゃない?」 「そうか?」 アブソルはいつも通りのクールな表情でしばらくこちらを見つめていたが、やがて振り向いて雨の中 を歩き出した。そして最後にもう一度振り向くと、大きく跳躍してその姿はあっという間に見えなく なった。 「……あいつ、何がしたかったのかしら?」 「さあな。おおかた帰る前に挨拶でもしたかったんじゃないか?」 「そーなの?」 ガラガラピッシャーン! アブソルが姿を消していきなり、本日最後の一発と言わんばかりの特大の雷が落っこちた。 「きゃーっ!」 「だからなぜ俺に飛びつくっ!」 雨がやんだのは、それから20分ほどたってからのことである。 |
金銀晶 | #20☆2005.04/24(日)11:52 |
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次の日のこと。 「そこの君っ!僕らと一緒にイーブイに萌えないかっ!?」 「?」 広場にやって来たショウに、突然こんな声がかけられた。 「な、なんだお前ら……。」 話しかけられて、振り向いたショウが引きつった表情になったのも無理は無い。そこにいたのは、 いわゆる「特撮戦隊もの」のコスチュームを着た、謎の五人組。戦隊もののお約束で、全員顔にマスク をつけているので、顔はよく分からんものの、それぞれのコスチューム(ちなみに色は赤、青、黄、 桃、黒となっている)の頭にはイーブイの耳を模した飾り、お尻にはイーブイの尻尾を模したお揃いの ふさふさをつけていて、胡散臭さと怪しさ大爆発な連中がそこにいた。 「えーと……テレビの収録かなんかっすか?それともドッキリとか?」 「我々は全世界に『イーブイ耳萌え』を広めるべく、全国各地を回っている。その名もっ! イーブイ戦隊『ブイレンジャー』!ちなみに私はリーダーのブイレッドだ、よろしく。」 「同じく、ブイレンジャーの一員、ブイブルー!」 「同じく、ブイイエロー!」 「同じく、ブイピンク!」 「同じく、ブイブラック!」 「は、はぁ……。」 「君っ!イーブイこそこの世で一番可愛いポケモンだ!そう思うだろ!?」 「イーブイ萌えっ!」 「イーブイ萌えっ!」 「イーブイ萌えっ!」 「イーブイ萌えっ!」 「……。」 「ピカチュウなんて飾りです!ちょっとアニメでレギュラーやってるからって調子こきすぎです! 偉い人にはそれが分からんのです!」 「イーブイ萌えっ!」 「イーブイ萌えっ!」 「イーブイ萌えっ!」 「イーブイ萌えっ!」 「と、言うわけで、イーブイ萌えの第一歩として、僕らが作った『コスプレ用特製イーブイなりきり スーツ』を装着して、君もイーブイ萌えの仲間だっ!……って、ぬおっ!?」 「死んでもコスプレなんぞするかーっ!」 叫びながら、ブイレッドを殴り飛ばしたショウ。 「い、痛いな君ぃ。だが、恥ずかしがることはない。我ら『イーブイ耳同盟』は、老若男女を問わず 全国各地から幅広く、会員を集めているのだからな。」 「……具体的に言うと?」 「7人。」 「思いっきり内輪の趣味の範囲じゃねーかぁ!」 ブイレッドをげしっと蹴っ飛ばすショウ。 「ったく、朝っぱらからわけのわからん連中に付き合ってられるか。」 ショウの何気ない一言に、ブイレンジャーたちがぴしっと固まった。 「君……我らの『イーブイ耳萌え』を……『わけが分からん』と言ったな……?」 「我々の崇高な理念を理解できないとは……。」 「貴様さてはっ!悪の秘密結社『ピカピカチュウ教団』のものだな!?」 「何を意味不明なことを言っているー!」 ショウは問答無用で、げしげしとブイレンジャーたちを蹴り飛ばした。 「あぁんっ。」 「い、痛いねんて……。」 「誰がお前らみたいな胡散臭さ大爆発な連中に興味持つってんだよ。」 「えー、でも、ほら。あっち。」 「?」 「きゃーっ、イーブイ可愛いー♪」 「でしょー、このピクピク動く耳、ふさふさの尻尾、純真そのものの瞳っ。」 「うん、貴方は我々の崇高な『イーブイ耳萌え』を理解してくださるようだ。」 「そんなお嬢さんには、我らブイレンジャー特製のイーブイなりきりセット!今なら税込みでたった 4500円!」 「あー、それなんか面白そう。買うー。」 「……。」 「あら、ショウじゃない。どうしたの?」 「ナル、お前に人としてのプライドっつーもんはあるのか?」 「……?」 他のブイレンジャーから買ったイーブイなりきりセットを手にしてはしゃぐナルがいたりした。 |
金銀晶 | #21☆2005.04/29(金)20:49 |
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何はともあれ、これ以上この集団と関わっていたら、脳みそが爆発を起こしかねない。ショウはそう 判断して、さっさとブイレンジャーたちのもとから立ち去ろうとした、が。 「ちょぉーっと待ちなさい!誰が帰っていいと言ったぁ!」 と、ブイレンジャーたちに進路をふさがれてしまった。 「我々は、君をイーブイ萌えの道に引きずり込むまでは帰さんぞっ!」 「さあ、君も一緒にイーブイ萌えっ!」 「でぇーい、てめぇらいい加減にしやがれぇーっ!」 「そう照れることないではないか。」 「照れてなどいないっ!」 「それじゃ、本物のイーブイあげるから。」 ブイレンジャーたちを再び殴り飛ばそうとしたとショウの動きが、ぴたりと止まった。進化ポケモン のイーブイは、確認されているだけで5種類の分岐進化があり、しかも野生の個体数が多くない。 いわゆる珍しいポケモンに分類されているので、一般の人がイーブイを入手するのは困難だと 言われている。それを、何でかは知らないがくれると言うのだ。 「……まじで?」 「まじで。ほら。」 「ブイー。」 どこから出したのやら、ブイレンジャーたちはイーブイを取り出して抱きかかえている。 「イーブイの魅力は、実際に飼ってみなければ分からない!」 「イーブイ萌えっ!」 「うーむ……イーブイ萌えとやらはよく分からんが、珍しいポケモンが手に入るんだったら、 お前らの考えも理解してやらんでもないなぁ。」 「ねーねー、見て見てショウ〜。」 「ん、どーしたナル……って。」 ナルの呼びかけに振り向いたショウは、そのまま固まった。そこには、イーブイなりきりセットを 早速着て、イーブイコスプレをしているナルがいたからだった。 「どー、似合う〜?ぶいぶいー♪」 「……お前の年でそのコスプレは痛いと思うぞ。」 「……ぶいぶいー。」 「ぐぇっ!?ぐ、ぐるじぃ、首をしめるなっ!息がっ息がああぁぁ……。」 「ぶいぶいー。」 「ぐはああぁぁ……逆エビ固めはやめれええぇぇ……骨が折れるううぅぅ……。」 ショウがナルの関節技から解放されたのは5分後であったと言う。 「ま、まあとにかくだ。これで君もイーブイに萌えたくなっただろう?」 地べたでぴくぴくしているショウに向かって、多少引きつったような声でブイレッドが呼びかけた。 「あ、ああ……。分かったから、イーブイくれ。」 「よし、ではこのモンスターボールを受け取りなさい。」 何とか立ち上がりながら答えたショウに、ブイレッドがイーブイのボールを手渡した。 「それじゃ、今度は今君が持っているポケモンを全部出しなさい。」 「……はぁ?」 「我々がイーブイを君にあげる代わりに、君が持っているポケモンは全部我々が没収させて いただきます。」 「ちょ、ちょっと待て!何だそりゃ、いきなり!」 突然のとんでもない要求に、思わずショウも声を荒げた。 「イーブイ萌えとなったからにはっ!」 「使っていいのはイーブイとその進化系のみっ!」 「じょ、冗談じゃねぇ!別にいいじゃねぇかよ、他のポケモン連れてたって!」 「なりません!」 「イーブイ萌えを名乗っておきながらっ!」 「他のポケモンに浮気するとは不届き千万!」 「そんなやつにイーブイ萌えを語る資格はありませんなっ!」 「もういい、話にならんっ!」 いい加減、脳みそが煮えそうになってきたショウは、くるりときびすを返して帰ろうとした。 「あっ、こら。待ちなさいっての!せめてイーブイ耳帽子だけでも装着して……。」 「しつこーい!」 ショウは足元にあった石ころをつかんで、ブイレッド目掛けてぶん投げた。 スカーン! 「へぶし!」 石ころ、見事命中。ブイレッドのヘルメットのイーブイ耳飾りが根元からぽっきりと折れた。 「ああぁぁーっ!わ、私のイーブイ耳がああぁぁーっ!」 「き、貴様!我らの神聖にして犯すべからざるものたるイーブイ耳を、こともあろうに折るとはっ!」 ずずい、とブイレンジャーたちがショウに迫ってきた。 「無礼の数々……もはや堪忍ならんっ!。」 「イーブイの神に代わって……我々ブイレンジャーが天誅を下す!」 「何じゃそりゃーっ!」 ざざざっ! ブイレンジャーたちが一斉に自分のボールを取り出し、同時にポーズを決めたりする。 「イーブイの耳っ!」 「萌えっ!」 「イーブイの尻尾っ!」 「萌えっ!」 「イーブイのお目目っ!」 「萌えっ!」 「イーブイの肉球っ!」 「萌えっ!」 「とにかくイーブイ!」 「イーブイ萌えっ!」 「我ら、イーブイ戦隊ブイレンジャー!萌えの大いなる力、とくと味わっちゃいなさい!」 「くっ、何だか知らんがこいつらにだけは、絶対負けたくねぇっ!」 イーブイせんたいの ブイレッドが しょうぶを しかけてきた! イーブイせんたいの ブイレッドは ブースターを くりだした! ゆけっ!ヒンバス! |
金銀晶 | #22☆2005.05/21(土)12:13 |
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ブイレッドが繰り出したのは、やはり自分のコスチュームと同じ赤い色のポケモン、ブースター。 ショウは素直に水タイプのヒンバスで応戦する。 「はっはっは。赤と言えば炎!炎でイーブイと言えばブースター!」 「ちっ、イーブイ戦隊なんて言うからまさかと思ったら、案の定か……。」 「では早速行くぞ!ブースター、萌え的火の粉!」 「ブー!」 ブースターが口から火の粉を吐き出してヒンバスに浴びせかけてきた。 「ヒンバス、滝登り!」 「バッスー!」 ヒンバスが全身に水をまといながら、猛烈な勢いでブースター目掛けて突進し、ブースターが吐いた 火の粉を打ち消しながら、一気にブースターに激突した。 「ブッ!?」 「あぁーっ、私の萌え的ブースターに何するんじゃぁーっ!」 すると、バトルの最中なのにブイレッドは倒れてもいないブースターの元へ猛ダッシュで駆け寄ると、 ブースターの頭をなでくりなでくりし始めた。 「おーよしよし、痛かったでちゅかー?今お薬塗ってあげますからねー。」 「ブ〜ス〜……。」 「あーかわいそうに。あんな変な人とお魚さんごときに乱暴なことされちゃってねー。ほんと何 考えてんだろーねーあの人たちはー。」 「ブー。」 「よもやお前らに『変な人』呼ばわりされるとは思わなかったぞ。」 ショウの至極もっともなツッコミも、二人(性格には一人と一匹)だけの世界に浸っている ブイレッドにはまったく聞こえていなかったりする。 「ああっ、この首まわりの黄金に輝くふさふさっ。抱きしめればぽかぽかほっこり。」 「ブ〜。」 「おい……。」 「そして、イーブイ系のみ許される、純真無垢な瞳のきらめき……。それすなわち!」 「イーブイ萌えっ!」 「さすがリーダー!」 「愛を……深い愛を感じますっ!」 残りのブイレンジャーたちは、なんか感動して涙まで流し始めた。 「……おい。」 「何か?」 「お前ら、真面目に勝負する気あんのか?」 「勝負するくらいなら、イーブイ系に萌えます。」 「……。」 ショウは無言でヒンバスを抱きかかえた。そして、 「超絶秘奥義、ヒンバスストライクッ!」 ズドゴーン! 「みぎゃああぁぁ!」 「ブ〜ッ?」 ショウが渾身の力で投げつけたヒンバスが、ブイレッドの顔面に見事直撃。ブイレッドはばったりと その場に倒れこんだ。 「ば、ばたんきゅう。」 「ああっ、リーダー〜!」 「もう付き合ってられんっ。お前ら帰れっ。っていうか、むしろ俺が帰る!」 ショウはさっさとヒンバスをボールにしまうと、くるっときびすを返して帰ろうとした。が。 「ちょおぉーっと待てぃ!」 「よくもリーダーをやっつけてくれたな!」 「イーブイ萌えの名にかけて、このまま引き下がるわけにはいかん!」 「リーダーの敵討ちじゃーっ!行けっ、我らの萌え萌えイーブイ軍団!」 残りのブイレンジャーたちが、一斉にモンスターボールを投げた。 「シャワワーッ!」 「ダースッ!」 「フィーッ!」 「ブララー!」 あっという間に、ショウの周りをシャワーズ、サンダース、エーフィ、ブラッキーの4匹のポケモン が取り囲む。大方予想はついていたが、やっぱり全員イーブイの進化系ポケモンだ。 「なっ……!?」 「ふはは、まさかこのまま無事に帰れるなんて思ってないだろーな?」 「イーブイ萌えの真髄、たっぷりと味わわせてやる!」 「……俺たち、正義の戦隊風なのに、なんか悪役みたいなんすけど。」 「気にしない!」 にじり、にじりとショウを取り囲むポケモンたちの輪が、徐々に小さくなっていく。 「ちっ……てめぇら、汚ぇぞ!」 「勝ちゃいいんだよ、勝ちゃ。」 「うわっ、黒っ!」 「ふっふっふ、イーブイに萌えながら断末魔の悲鳴を上げるがいい。」 「やな断末魔だな、おい。」 ポケモンたちの包囲網は、そうこうしているうちにもさらに小さくなる。 「くそっ……こんなやつらにピンチにさせられるとは……。」 ショウの手持ちポケモンで応戦することもできるだろうが、それでも3対4と数の上で不利だ。 「うーん……どうしたものか。」 「大人しく、我らと一緒にイーブイ萌えっ!」 「絶対やらんわっ!」 「……そうか、ならば仕方ない。では……やれ!我らの萌え萌えイーブイズ!」 「シャアァー!」 「ダァー!」 「フィーッ!」 「ブラァー!」 イーブイズたちがショウに飛び掛ろうとしていた、まさにその時。 「キノガッサ、スカイアッパー!」 |
金銀晶 | #23★2005.07/09(土)11:02 |
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「キノーッ!」 「ブ、ブラーッ!?」 「な、なにぃ!?」 突然、ブラッキーの背後に出現したキノガッサのスカイアッパーで、ブラッキーは大きく吹き飛んだ。 ほとんど不意打ちに近い一撃であったため、さしものブラッキーも防御の姿勢を取れず、地面に ドサリと落ちると共に、目を回してダウンした。 「うおおぉぉ!誰じゃ、俺のブラッキーたんに無体なことするやつぁ!」 ブイブラックが慌ててブラッキーを介抱する。 「おーよしよし、大丈夫かいブラッキーたん、どこか痛いところは(以下省略)。」 ほとんどブイレッドと同じリアクション。流石は似たもの同士の集まりだ。 「はーい、なんかやばそーな雰囲気になってきたみたいだから、助太刀してあげるっ。」 「キノキノー。」 「ナル!お前、いいタイミングで美味しいとこを持っていきやがったなぁ。」 そう、ブラッキーを殴り飛ばしたのは、ナルのキノガッサだったのだ。 何はともあれ、これでブイレッドのブースターと、ブイブラックのブラッキーがダウンして、相手の 残りは3匹。さらにナルが助太刀として加わってくれたので、一気に形成逆転だ。 「ぬおおぉぉ、いきなりなんてことしやがりますかあんたは!シャワーズたん、やれ!キノガッサに オーロラビームだ!」 「シャワワー!」 ブイブルーの手持ちである、泡吐きポケモンのシャワーズがキノガッサの正面に躍り出て、口から 冷たい七色の光線を発射した。 「キノガッサ、かわして!」 「キノッ!」 とっさにキノガッサは地面に伏せ、シャワーズのオーロラビームがキノガッサの頭の傘をかすって 飛んでいく。 「おおっと!なかなかやるな!」 「今度はこっちよ。キノガッサ、痺れ粉!」 「キノーッ!」 キノガッサの傘の両端にある粉袋からオレンジ色の粉がぶわーっと広がり、シャワーズの全身に ぱらぱらと降りかかった。 「シャ、シャワ〜……。」 シャワーズは体が痺れて手足に力が入らない。その場にへたってしまった。 「むむっ、麻痺してしまうとは!」 「続いて、宿り木のタネよ!」 さらに、キノガッサの尻尾の袋がはじけて中からピンポン玉くらいの大きさのタネが飛び出てきた。 タネはシャワーズの周囲にぽたぽたと落っこちると、ぱっかりと口を開いて中から木の芽を出し、 シャワーズに絡み付いて体力を奪い始めた。 「うおぉ、あんたは鬼ですかいっ!?俺の、俺のシャワーズたんにいいぃぃ!」 「『戦略』って言って欲しいわね〜。……さあキノガッサ、とどめのタネマシンガンよ!」 「キノー!」 キノガッサが口から硬いタネを撃ち出し、シャワーズにビシビシと命中させる。 「ひいぃ!ま、待て待て!分かったから、降参するから!これ以上俺のシャワーズたんに傷を つけないでええぇぇ!……戻ってくれ、シャワーズたん。ごくろーさん。」 ブイブルーはシャワーズをボールに戻した。 「な、なんということだ。我らに残されたポケモンは僕のサンダースと……。」 「私のエーフィだけ……。」 「うふふ、どうする?降参するの?」 「くっ……こうなったら……!」 「お嬢さんも我らと一緒にイーブイ萌え……。」 「キノガッサ、マッハパンチ。」 げしげしどかどか! 「ああっ、痛い痛い、グーはやめてグーはやめて、せめてパーにしてええぇぇ。」 「そ、走馬灯が見えるよ、青い海、白い空、ジョニーが、ジョニーがああぁぁ……。」 (ジョニー!?) わけのわからん台詞を吐きながら、マウントポジションのキノガッサに殴られる二人。ようやく 解放されたときには、二人とも顔が真っ赤に腫れ上がっていた。 「ふぃ、ふぃんふぇんあいへいふぉえおんあほうおふふふっはらいへあいんあおー。」 (に、人間相手にポケモンが暴力ふるったら行けないんだぞー) 「ふーふいはんひあへいいおみかあおひえ、おひおひをひあえれああうあい。はうおあいいあ?」 (ルール違反には正義の味方として、お仕置きをしなければなるまい。覚悟はいいか?) 「こいつら、ここまでボコられてんのにすごい根性だな。」 「ふっ、いーふいもえあはえはえひふえんおはあーをあはえへふえうおは!」 (ふっ、イーブイ萌えは我々に永遠のパワーを与えてくれるのだ!) 「……だそうだが、どうする?」 「トレーナーとして、売られた勝負はもちろん買うつもりよ!」 「おーひ、いっはは!ほうあいうふあお!」 (よーし、言ったな!後悔するなよ!) 「……ポケモンより先に、こいつらのほうがダウンしそうだな(汗)。」 イーブイせんたいの ブイイエローと イーブイせんたいの ブイピンクが しょうぶを しかけてきた! イーブイせんたいの ブイイレローと イーブイせんたいの ブイピンクは サンダースと エーフィを くりだした! でばんよ! チルタリスと キノガッサ! |
金銀晶 | #24☆2005.07/09(土)11:03 |
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ナルの呼び声に答えて、モンスターボールからナル自慢の、金色に輝くチルタリスが優雅に現れる。 日の光を浴びてキラキラと輝くさまは、とても美しい光景だ。 「あーっ、色違いのポケモン!いーなぁ……。」 「なっ、何を言うかね、ブイピンク!相手が例え色違いだろうと何だろうと、最終的には我らの イーブイズが一番萌えなんだぞ!」 「はっ……いかんいかん、あやうく敵の術中に陥るところだったわ……手ごわい!」 どうにもピントがずれているブイレンジャー二人の会話をはさみつつ、2対2のダブルバトルが 始まった。 「即効で弱点を突くわ!エーフィ、キノガッサにサイケ光線!」 「フィーッ!」 エーフィの額の宝石から、サイケ光線が放たれる。以前ショウとクロバットが戦ったエーフィの サイケ光線とは勢いもパワーも全然違う。かなりレベルは高いようだ。 「チルタリス、キノガッサをかばって!」 「チルルッ!」 チルタリスがキノガッサの前に立ちはだかり、体を張ってエーフィのサイケ光線を受け止めた。 「な、なんですってぇ!?」 「なるほど、あの綿みたいな羽がクッションになって、攻撃のショックを和らげてダメージを抑えて いるってわけか。よく出来てんなぁ。」 説明的な台詞を言いながら、納得するショウ。とは言え、さすがにそれなりのダメージは受けている ようだ。そう何発も受け続けてはいられないだろう。 「キノガッサ、エーフィに宿り木のタネよ!」 「キノー!」 キノガッサが勢いをつけて尻尾を振ると、尻尾の先の袋からタネが勢いよく飛び出し、シャワーズの ときと同じように、芽を伸ばしてエーフィに絡みつき、体力を吸い取り始めた。 「フィ、フィ〜……。」 エーフィはじたばたともがいてタネを振りほどこうとするが、タネはがっちりとエーフィに絡まって 離れない。 「よくもやったなこんにゃろ!サンダース、チルタリスに10万ボルトだ!」 「ダァースッ!」 ブイイエローのサンダースが反撃に出た。逆立ったタテガミに静電気がバチバチと音を立てて 一気に集約して、激しい電撃をチルタリスに思いっきりぶつける! 「チルーッ!」 10万ボルトを真っ向から浴びたチルタリスが後ろにふっとぶ。 「あっ、チルタリス!」 「チ、チルルッ!」 吹っ飛ばされながらも、チルタリスは空中で器用に体勢を立て直してバランスを取り戻す。 「おぉ、飛行タイプのくせに俺のサンダースの10万ボルトを耐えるとは。」 「チルタリスは飛行タイプだけでなく、ドラゴンタイプもついてるのよ。ドラゴンタイプは電気 技が効果今ひとつだから、うまい具合に飛行タイプが苦手な電気技を相殺してくれるの。」 「へぇー、可愛い顔してなかなかやるな……。」 「さあ、チルタリス、こっちも反撃よ!サンダースに火炎放射!」 「チッルーッ!」 すーっと大きく息を吸い込んだチルタリスが、すさまじい勢いの灼熱の炎を吐き出した。 「ダ〜ス〜ッ!」 「うおお、あちちっ!灼熱のファイヤーダンス〜っ!」 「エーフィ、砂かけで火を消してあげなさい!」 「フィ〜!」 エーフィが念力で砂を巻き上げ、サンダースの周囲で燃え盛っている炎めがけて、大量の砂を一気に 降り注がせた。 「ダ、ダースゥ〜……。」 火は消えたが、今度は砂が目に入ってしまったようだ。なみだ目になりながら、ぶんぶんと頭を ふる。 「あーっ!おいコラブイピンク!お前俺のサンダースに何余計なことしてくれんじゃ!」 「何よ、その言い草はっ!人が良かれと思ってしたことなのにっ!」 ブイイエローがブイピンクに向かって文句を言い、ブイピンクがそれに言い返す。ナルはこのスキを 見逃さなかった。 「チャーンス!キノガッサはサンダースにマッハパンチ!チルタリスはエーフィに龍の息吹!」 「キノーッ!」 「チッルー!」 目に入った砂に気を取られていたサンダースに、キノガッサのマッハパンチが炸裂し、チルタリスの 強力なブレスがエーフィを吹き飛ばした。必殺の一撃を食らった二匹は大きな放物線を描いて、 公園の真ん中にある噴水の中に、見事な池ポチャを果たした……。 「あーっ!俺らのイーブイズが全滅するとわぁー!」 「うふふ、あたしの勝ちよ!」 「あ、あべしっ!」 試合終了。 |
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