ゆうま | #1★2005.07/02(土)07:42 |
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≪序説≫ ポケットモンスター、略してポケモン。 それはポケモンワールドに住む、様々な形態をした生物の総称である。 これら全てはモンスターボールと呼ばれる特殊な装置で捕まえることが可能であり、またポケモンワールドでは、捕まえたポケモンを使ってバトルやコンテストなどもおこなわれている。 舞台はポケモンワールド南西部、ホウエン地方。 今まさにひとりの少年が旅立とうとしていた。 少年の名はアオイ。今年で10才をむかえた今日、アオイはポケモントレーナーとなるべく旅だつのだ。 「アオイ、忘れ物は無い?大丈夫?」 心配性のお母さんが心配そうな顔で聞いてくる。その質問はもうこれで5回目だ。 「元気でやるんだぞ。」 お父さんはぼくの頭をぽんぽん叩いて笑った。 「うん。ぼくがんばるよ、お父さん、お母さん!」 ぼくはとびっきりの笑顔でそう答えた。 「じゃあ、行ってくるね。」 そう言って踵(きびす)を返そうとした瞬間、お母さんに呼び止められた。 「アオイ、これを持っていきなさい。」 渡されたのは2つのモンスターボール。 「これは…?」 ぼくが不思議そうな顔をして聞き返すと、お父さんが答えた。 「お母さんのナゾノクサの”はづき”と、お父さんのジュプトル”もりよし”だ。お前の夢にきっと役立つだろう。」 「ぼくの…夢…。」 ぼくはモンスターボールを見つめた。 ナゾノクサと、ジュプトル。 「ありがとう、お父さん!お母さん!」 モンスターボールをベルトにつけて、もう一度笑顔で答えた。 そして今度こそ、手をふりながら走り出す。 手をふっているお父さんとお母さんが、並んで小さくなる。 見えなくなったころ、ぼくは手をふるのをやめて、まっすぐ前を見て走った。 春のお日様がさんさんと、緑あふれるこの道を照らす。 吹き抜ける風が気持ちいい。 ぼくの夢…そう、草ポケモンをきわめて、このホウエン地方に草ポケジムをつくるんだ! ぼくの胸の中は、夢と希望でいっぱいだった。 「行っちゃったなぁ、アオイ。」 お父さんはそう言って、先ほどまでふっていた手を下ろす。 お母さんはまだ心配そうに、アオイの去った方向を見つめ続けていた。 「本当に、あれを渡して良かったのかしら…。」 アオイに渡したポケモン。お母さんとお父さんは、アオイにあのポケモンを渡すか渡すまいか、最後まで悩み続けていた。 結局お母さんは心配で渡してしまったのだが、果たして…。 「まぁ、いないよりはマシだろう。そんなに心配しないでも、アオイは強い子だから大丈夫だよ。」 お父さんは安心させるようにお母さんの肩を抱いて、そして二人は家の中へと戻った。 |
ゆうま | #2★2005.07/02(土)07:42 |
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≪第1説≫ アオイは木陰の大きな岩に座り、PHSを取り出した。 Pokemon ポケモン Handy ハンディ Sampuling サンプリング 略して、PHS−ピッチ−。 手のひらにおさまる程度のその機械にはポケモン図鑑が内蔵されており、ポケモンに関する様々なデータを調べることができる。またそれ以外にも、メールや電話をしたり、タウンマップGPSで自分の居場所を確認することもできるすぐれものだ。 かんたんな操作をして、現在位置を割り出す。浮かび上がったホログラムには近辺の地図が描かれ、アオイの居る位置は緑色に点滅している。 ちなみに家のパソコンでもアオイの位置は確認できる。だからこそ、10才という幼い息子を旅に出せるのだ。 「えーと、今ここに居るから…最初につく町は、キンセツシティだね。」 ホログラムを指でたどる。現在位置はシダケタウンとキンセツシティの真ん中あたり。 PHSをポケットにしまうと、キンセツの方向へ歩き出した。なだらかで平坦な道が続き、道の両側には草むらが広がっている。 のんびりてくてく歩いていると、突然左側の草むらがガサガサと動き出した! え?とアオイがふりむいた瞬間、それはとびあがった。 体長30センチほどの小さなポケモン。両腕の先、手にあたる部分がバラの花になっていて、右側が赤色、左側が青色だ。 「ポ、ポケモンだぁ!」 目の前にすとん、と降り立ったそのポケモンを、アオイはきらきらした目で見つめる。 「えっと、PHSにとらなきゃ。」 アオイはポケットからPHSを取り出すと、現れたそのポケモンに備え付けのカメラを向ける。 「よぉし…ショット!」 カチリとボタンを押すと、ぴぽん♪という軽い音と共にフラッシュがたかれた。 PHSでは、こうやってポケモンをカメラに撮ることで外観からデータを拾い、そのポケモンが何のポケモンなのかを判断する。 PHSから目の前のポケモンと同じ姿のホログラムが浮かび上がり、ゆっくりと回転しはじめた。 機械音声がそのポケモンの名前と特徴を言う。 『ロゼリア、いばらポケモン。タイプ1、くさ。タイプ2、どく』 「ロゼリア…くさタイプか。よし、ゲットだ!」 |
ゆうま | #3★2005.04/30(土)15:27 |
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アオイはベルトにつけたモンスターボールをひとつ取り、真ん中のボタンを押す。するとモンスターボールはひと回り大きくなる。この状態の時に投げれば、モンスターが出てくるしくみだ。 「いけッ!」 いきおいよくボールを投げる。放物線の頂点にたっした瞬間ボールが開き、光の線を描いてポケモンが現れた。 するどい目つき、両腕につけた計6枚の葉っぱ、頭から生えた長い葉が特徴のポケモン。 「えぇと、こっちはジュプトル、だよね…。てことは”もりよし”か。」 父のジュプトルの名前を思い出す。アオイはジュプトルを見たことは無かったが、ナゾノクサは見たことがあるので、このポケモンがジュプトルだと分かったのだ。 ジュプトルがロゼリアをにらみつける。 ロゼリアはその眼光に恐れをなしたのか、こころなしか後ずさりしている。 「…っと、あ!ジュプトルの使える技って何だっけ!?」 技の指示が出せなければポケモンは動かない。それは分かるのだが、なにせ初めて見たポケモンである。技も当然、わからない。 「あちゃー、先に調べておけば良かった…」 ところがアオイがそう呟いている間に、指示を出してもいないのにジュプトルがロゼリアにおそいかかった! 腕の葉っぱをするどい刃に変えての攻撃をロゼリアはまともにくらってしまい、後ろにふっとぶ。 勢いが強すぎたのか、そのまま草むらの中に入って見えなくなってしまう。 ジュプトルはそのロゼリアを追いかけようと、走り出す。 「ちょ、ちょっと待っ…!」 突然のことに反応出来なかったアオイは、わけがわからないまま、それでも走り出したジュプトルを押さえようと手を伸ばした。 だが同時に、もうひとつのモンスターボールから黒い身体に5枚の葉っぱが生えたポケモン…ナゾノクサが飛び出し、ジュプトルにむかって粉をふりかけた。 ジュプトルはその粉をもろに浴びてしまい、ふらりとよろけて、そのまま倒れてしまった。 「も、もりよし!」 倒れたジュプトルを仰向けにする。ジュプトルは―…ぐぅぐぅ寝息を立てて、眠っていた。 ちょこちょことナゾノクサが近づいてきて、アオイを見上げる。 「あ、ありがとう…えと、は、はづき…だっけ?」 勝手に飛び出したことはさて置いて、ジュプトルを止めてくれたことに礼を言った。ナゾノクサが止めてくれなければ、ジュプトルはどこかに行ってしまって二度と帰ってこなかったかもしれない。 アオイはナゾノクサをなでようとしたが、ぷいっとそっぽを向かれてしまった。 「あ、あれ?」 きらわれてるのかな…とショックを受けながらも、とりあえず2匹をモンスターボールに戻す。 またてくてくと歩き出しながら、アオイは悩んだ。 (おかしいなー…。トレーナーがいるポケモンは、指示を出さないと何もしないんじゃなかったっけ…?) 先ほどのバトルでは、アオイが何も言わないでいたのにジュプトルが技を出していた。 (まだまだ、わかんないことだらけだ…) はぁ、とためいきをつく。 はじまったばかりの旅路は、早くも順調とは言えなくなってしまった。 |
ゆうま | #4★2005.07/02(土)07:42 |
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≪第2説≫ いまだ、シダケとキンセツの間。 立ち止まったアオイは、道のはしの方に寄って、ジュプトルとナゾノクサを出した。 自分のPHSに自分のポケモンを登録すれば、ポケモンの状態や使える技がわかるようになる。 もらった時点で登録しとけばよかった…と軽く後悔しながら、アオイは2匹を登録した。 使える技を確認する。どうやら、さっきジュプトルが使ったのは”リーフブレード”という技らしい。 ナゾノクサがジュプトルにふりかけた粉は”ねむりごな”だろう。 アオイはナゾノクサがジュプトルを眠らせていてくれて良かった、と心底思った。 もしまた勝手に走り出したりしたら、カメラに撮るどころではなくなってしまう。 ナゾノクサは一応、大人しくはしていたが、相変わらずそっぽを向いて、カメラにも後ろ向きで写った。それでも読み取りはできるからいいが、なんともふくざつな気分である。 「はぁ…」 アオイはもう一度大きくためいきをついて、2匹をボールにしまった。 お父さんとお母さんからせっかくもらったポケモンは問題児のようだ。アオイは気が重かった。 「おい!そこのお前!」 アオイの希望に満ちあふれていたはずの心はしゅるしゅるとしぼみ、不安が背中にずどん、とのしかかった。 「ちょ、ちょっと待てよ!おい!」 うつむいて、とぼとぼ歩くアオイの耳には、何も入ってこない。 「おい!お前だよ!そこの緑の服着て黄色い帽子かぶったお前!」 「…へ?え、えーと、ぼく?」 どなり声にやっと気付いたアオイは、あたりをキョロキョロ見回してから自分を指差す。 目の前には同い年くらいのつんつん髪の少年が居た。赤いハチマキがひたいに巻いてある。 「そうだよ!ったく、この俺様が声をかけてやってるのに無視してすたすた歩きやがって!」 そうは言われても、呼び止められる覚えのないアオイはぽかんとしていた。 「おら、さっさと勝負すんぞ!」 少年がアオイと少し距離をとる。 「え、勝負って、何の?」 ぽかんとしたまま聞いてみる。すると少年がつかつかとアオイに近づき、全力で言った。 「ポケモン勝負に決まってんだろこのボケッ!!その腰についてるモンは飾りか!?」 耳元で叫ばれて、びっくりしてとっさに耳をふさぐ。鼓膜が破れるかと思ったが大丈夫そうだ。 「ポケモン勝負…?」 まだキンキンする耳を押さえながら、腰についているもの…モンスターボールを手に取る。 「そう!まさか知らねぇわけねぇだろ?」 少年はふんっ、と鼻を鳴らした。偉そうに腰に手を当てて、にらみつける。 「い、一応は分かるけど…」 自信無さげにアオイが答える。お互いのポケモンを戦わせて優劣を競うという、話だけは聞いたことがある。だが、実際にやった事は無い。 「わかってんならとっととやるぞ!」 |
ゆうま | #5☆2005.04/23(土)23:14 |
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少年はまたアオイと距離をとり、モンスターボールをかまえた。 アオイもあわててモンスターボールをかまえる。ジュプトルはまだ眠ったままなので、ナゾノクサの方だ。 「俺はたんパンこぞうのエンビ!お前は!?」 「あ、え、ぼ、ぼくは…シダケタウンのアオイ!」 とっさに自分の紹介が思い浮かばなかったアオイは、とりあえず出身地を言っておいた。 「バトルは1対1、交代は無し!時間は無制限!・・バトル開始だ!」 少年は叫ぶと、モンスターボールを投げた。 アオイも一歩遅れてモンスターボールを投げる。 ぽん、ぽんっ、と音を立てて2匹のポケモンが現れ、対峙(たいじ)する。 相手は鳥の姿をしたポケモンを出してきた。全体的に黒い身体で、額と胸の部分だけ赤色で目立っている。腹の部分は白だ。小柄だが、ぱっちりした目は闘志にあふれている。 「あれは・・」 アオイはPHSを出してショットした。 『スバメ、こつばめポケモン。タイプ1、ノーマル。タイプ2、ひこう。』 電子音声がそう告げる。 「ひこう、か・・。」 アオイが呟く。 「おいおい、ぼやっとしてるヒマはねぇぜ!スバメ、でんこうせっか!」 「あっ!」 PHSに気をとられている間に、相手のでんこうせっかがナゾノクサにきまってしまった。 ナゾノクサが勢いに耐え切れず、よろける。 「は、はづき!」 だがよろけたのはほんの一瞬のようで、ナゾノクサはすぐに体勢を立て直した。 アオイはほっとするのもつかの間、ナゾノクサに指示を出そうと気合を入れる。 「はづき!ようかいえき!」 今度こそ、大丈夫。 ナゾノクサはようかいえきを出す・・ …はずが。 ナゾノクサはアオイの指示を無視して、ねむりごなをふりまきはじめた。 しかし相手は鳥ポケモンだ。舞い上がった時の風圧で粉は吹き飛ばされてしまう。 「あ…れ?」 それを見てアオイは固まってしまい、気合を入れた顔は一瞬でまぬけ顔へと変わった。 スバメはそのままナゾノクサめがけて、エンビの指示通り”つつく”攻撃をする。ナゾノクサは避けきれず、モロに当たってしまった。 |
ゆうま | #6★2005.04/25(月)20:40 |
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ナゾノクサはダメージは受けているようだが、こんどはよろめきはしなかった。 「はづき、ようかいえきだ!」 聞こえていなかったのかと思って、もう少し大きい声で言ってみる。しかしナゾノクサはやはり、ねむりごなを出した。 わけがわからなくて、思考が止まる。絶句したままじっと見ていると、やっぱりナゾノクサは勝手にねむりごなをふりまいて闘っている。 しかもずっとねむりごなである。やけにねむりごなに執着している。 だがしかしまったく当たらず、ナゾノクサばかり攻撃されている。 「このナゾノクサ、しぶといな…。」 エンビが舌打ちをする。くさタイプのポケモンはひこうタイプに弱いはずだ。ナゾノクサ程度なら”つつく”の一発で勝負がつくと思っていたが、なかなか倒れない。 「それなら…スバメ!つばさでうつ!」 スバメは大きく羽ばたくと、ナゾノクサ目掛けて急降下した。強靭な翼でなぎ倒す! ナゾノクサは強烈な攻撃に倒れ、そのままぐったりしてしまう。 「はづき!」 「勝負ありだな!」 エンビが得意そうに言う。PHSを見てみると、ナゾノクサはひんし状態になっていた。アオイはうなだれて、ナゾノクサをモンスターボールへ戻す。 その後、賞金を受け取ると、エンビは鼻歌を歌いながらシダケタウンの方向へむかっていった。 賞金といっても、アオイはまだ子どもなのでたいした額ではない。せいぜい、アイスが1本買える程度だ。 アオイはエンビが立ち去ったあとも、ずっとその場に立ちつくした。 ひんしのナゾノクサが入ったボールを見つめながら、じっと考える。 …どうしてぼくのポケモンは、ぼくの言う事をきかないんだろう。 そりゃあまだはじめたばかりで、慣れてないだろうけど。 たしかにこれはお父さんとお母さんのポケモンで、元々ぼくがゲットしたわけじゃない。 でもそれでも、今のトレーナーはぼくだ。PHSにもちゃんと登録して、そういう認識がされてるはずだ。 なのに、何で言う事を聞かないんだろう。 ぼくはそんなに信用されてないのかな? こんなんで、本当にポケモントレーナーになんてなれるのかな… そんなことばかりが頭の中をぐるぐる回る。そのうちに悲しくなってきて、涙が出てきた。 一粒でもこぼれ落ちると、あふれるように出てくる。 こんな場所で泣いちゃ駄目だ、と思っても、止められなくて。 そんな自分が余計に情けなくて、さらに涙が出た。 |
ゆうま | #7★2005.07/02(土)07:43 |
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≪第3説≫ 「君、どうしたんだい?」 突然、肩に触れられて、ビクッとして顔を上げる。 すぐ横に、背の高い男の人が立っていた。 青い髪、青い瞳・・不思議なもようの入った薄い水色のバンダナを巻いている。 知らない人だ。 男の人はアオイの顔を見ると、少し笑った。 「ほら、顔がぐしゃぐしゃだよ。」 男性から青いきれいなハンカチが差し出された。ハンカチにはわたのような羽を持つ大きな青いポケモンが、優雅に空を飛んでいるイラストが描かれている。 「あ、いや、いいです。」 アオイは泣き顔を見られたことが恥ずかしくて、慌てて顔を隠しながら片手をぶんぶん振った。 「遠慮しないの。」 心なしか楽しそうに・・男性はアオイの顔を無理矢理自分の方に向かせ、ぐいぐいと顔をぬぐう。 うわわ、と声をあげるアオイ。一瞬、抵抗しようともがいたが、すぐにあきらめておとなしく顔を拭かれることにした。 「こんなもんかな。」 男性が手を離すと、真っ赤になったアオイの顔がよく見えた。 目と目元は泣いたせいで赤くなり、ほっぺたは恥ずかしさで赤くなっている。 「あ、ありがとうございます。」 ぺこりと頭を下げる。 「ちゃんとお礼が言えるなんてえらいね。」 男性はにこにこ笑って、帽子の上からアオイの頭をぽんぽん、となでた。 「・・それで、どうして泣いてたのかな?」 「えっと、その・・」 どこから、何から話すべきか迷って、アオイは目線を下に向けた。 男性はその様子を見て少し考え込んでから、 「立ち話もなんだし、とりあえず座ろうか。」 そう言って、道のわきの古びたベンチを指さした。 シダケとキンセツの間の道はさんぽやジョギングにも使われるため、ベンチが何箇所かに設置されている。 二人はそこに並んで座った。 しばらくは何も話さないまま、沈黙が続く。 高い空に、どこかの鳥の鳴き声が遠く響き、風が穏やかに木々の葉をゆらす。 数分して、アオイはうつむいたまま、それでもぽつぽつと先ほどまでのことを話し出した。 「その・・ぼくは、今日旅に出たばっかりのトレーナーなんですけど・・ お父さんとお母さんからポケモンをもらったけど、言う事を聞いてくれなくって。 何も言わないのに勝手に技を出したり、モンスターボールから自分で飛び出してきちゃったり・・。 さっきもエンビっていう男の子と戦ったけど、はづき…えと、ナゾノクサのことです…そのはづきが、ようかいえきを使えって指示したのに、ずっとねむりごなばっかり使うから結局負けちゃって…。 ぼくって、トレーナーの才能ないのかな・・とか、ちょっと落ち込んでたら、泣けてきちゃって・・。」 アオイは話しているうちにどんどん情けなくなってきて、また涙が出そうになった。 |
ゆうま | #8★2005.05/15(日)17:28 |
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男性は考え込むような顔をして聞いていたが、話が終わると泣きそうなアオイの頭を撫でて、にっこり笑って言った。 「大丈夫。だって君は今日、ポケモンをはじめたばっかりなんだろう?最初はそんなもんだよ。」 そう励まされても、アオイは不安そうな表情のままだ。 「ところで、ちょっと気になることがあるんだけど・・君のポケモンのデータを見せてもらえるかな?」 「ぼくのポケモンのデータを?いいですよ。」 アオイはPHSを取り出し、男性に渡す。 男性は難しい顔をしてジュプトルとナゾノクサのデータをじっくり眺めた。 「・・やっぱり、そうか。」 小さな声で呟くと、ありがとう、と言ってPHSをアオイに返す。 「君…ええと、名前を聞いてなかったね。」 「あ、ぼくはアオイっていいます。」 「アオイ君。いい名前だね。僕はセージュっていうんだ。」 セージュさん。アオイは確かめるように口の中でそう繰り返した。 「アオイ君は、レベルのことは知ってるかな?」 「はい。ポケモンの攻撃力とか耐久力を総合して、そのポケモンの強さを分かりやすく数値化したものですよね。」 「よくできました。そのレベルが高いポケモンほど強く、そして扱いづらい。強いポケモンは、自分に見合ったトレーナーでないと言う事をきかなくなるんだ。」 「だからもりよしもはづきも、ぼくの言う事を聞かなかったんですか?」 「そう。ジュプトルの方はレベル30、ナゾノクサにいたってはなぜかレベル60まで育ってるね…これじゃあちょっと、初心者トレーナーには扱えないかな?」 男性…セージュはそう言って苦笑した。 「そうか、そうだったんだ・・。」 アオイは複雑な表情をした。原因が分かったのはいいものの、どのみちこの2匹以外のポケモンは持っていないのだから、先行き不安なことに変わりは無い。 |
ゆうま | #9★2005.05/15(日)17:35 |
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「そうだ、いいものをあげよう。」 セージュは立ち上がっておもむろにジャケットの内側に手を差し込むと、ひとつのモンスターボールを取り出した。 「出ておいで、るんるん。」 かるく放り投げると、ポケモンが現れた。 まず目に入るのは、大きな帽子のような形の頭。体はまるでポンチョを着ているかのように茶色の長い毛に包まれ、そこから緑色の手足が生えている。大きく開かれたくちばしは、笑っているようでかわいらしい。 「わぁ…」 アオイは自分の身長より頭ひとつ分高いそのポケモンを見つめた。 ポケモンは楽しそうに、くるくる踊り始めた。 「…あははっ、おもしろーい!」 その様子がおかしくって、アオイは笑い出した。ポケモンはますます調子にのって、とびはねて踊りまわる。 セージュはまるで我が子を見るような優しげな目でポケモンを見ながら、自慢げに言った。 「かわいいだろう?ルンパッパっていうポケモンなんだ。名前はるんるん。」 「ルンパッパ?」 アオイはPHSを取り出して、ルンパッパをショットする。 カメラを向けられたルンパッパは、得意そうにポーズをした。 『ルンパッパ、のうてんきポケモン。タイプ1・みず、タイプ2・くさ。』 「へぇ…、ルンパッパもくさタイプなんだ。」 浮き上がったホログラムごしに、ルンパッパを見る。その瞳には、興味の2文字が輝いていた。 「良かったら、この子をあげるよ。」 「…え、えぇ!?あげる、って…」 いいんですかそんな簡単に! あっけらかんと言い放ったセージュの言葉に、アオイは固まった。 ルンパッパの頭を撫でながら、セージュはさらに続ける。 「いやいや、遠慮しなくていいんだよ?るんるんは今レベル15で性格もおっとりしてるから、君にもじゅうぶん扱える。今居る2匹じゃ、ろくに戦えないでしょ?」 「そ、そうですけど…」 ルンパッパをあげる、というのは、アオイにとっては大変ありがたい申し出だ。 しかし、セージュは今出会ったばかりの人だし、素性もよく知らない。 その上ただでさえハンカチをぐしゃぐしゃにしてしまったり、色々アドバイスをもらっているのだ。これ以上迷惑をかけるわけにもいかない。 「るんるん、今日からこの子が君のトレーナーだよ。」 戸惑うアオイを置き去りにして、勝手に話をすすめるセージュ。 ルンパッパは元気よく頷くと、アオイに抱きついた。 「う、うわわわわ!」 そのまま手をとって踊りだす…アオイにとっては、ふりまわされているだけなのだが。 「うん、るんるんもアオイ君が気に入ったみたいだね。」 セージュはそう言って、にこにこ笑っている。 「セージュさん、笑ってないで止めてください〜!」 半泣きになりながら助けを求めるアオイ。このままじゃ目が回りそう…というかすでにちょっぴり気持ち悪くなってきている。 「るんるん、戻って。」 セージュがモンスターボールをかざすと、中心から出た光に包まれてルンパッパがボールにおさまった。 アオイはよろよろとよろけて、ぺたんと地面に座り込んだ。 そんなアオイに近づいて、セージュはルンパッパの入ったボールを差し出す。 「もらってくれるね?」 「う…、や、やっぱり申し訳ないですよ…。いただけません…」 下を向いてふるふる首を横に振るアオイ。 セージュはアオイの手をとり、その手に包み込ませるようにしてボールを渡した。 「いいんだ、この子は君に必要な子だから。僕が持っているよりも、君が持っていたほうがこの子も幸せだと思うよ。」 「でも・・」 困って返そうとするアオイの手を止めて、押し返す。 「大事にしてあげてね?」 にっこり笑顔でそこまで言われると、受け取らないわけにはいかなくなってしまう。 「何から何まですみません、ありがとうございます!」 今日で3度目のお辞儀をして、アオイはふと思いついて言った。 「あの、何かお礼させて下さい!ここまでしてもらって何もお返しできないんじゃ、申し訳無いです・・。ぼくに出来る事なら何でもします!」 セージュはそれを聞いてちょっと考えてから、言った。 「それじゃあ、ひとつだけお願い。君のPHSを僕のPHSに登録していいかな?」 「え?それでいいんですか?」 「うん。時々、るんるんの様子を見に行くから、連絡用に教えてもらえると嬉しいな。」 「わかりました、じゃあ、ぼくの方も登録させてもらっていいですか?何かあったら連絡します。」 「もちろんいいよ。」 二人は自分のPHSを出すと、光通信をしてお互いのPHSを登録した。 「じゃあ、僕はもう行くから。」 セージュはそう言って、ベンチの前にポケモンを出す。それはセージュのハンカチに描かれていたのと同じ、大きな綿の羽を持つポケモンだった。セージュはひらりとそのポケモンに飛び乗ると、またね、と手を振りながら去っていった。 アオイは、その姿が空の彼方に見えなくなるまでずっと手を振っていた。 |
ゆうま | #10★2005.07/02(土)07:43 |
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≪第4説≫ 「ここがキンセツシティかぁ・・」 がやがやとにぎわう人並みをながめて呟く。 人々が行き交い、行き過ぎる町…キンセツシティ。 ホウエン地方の中心部にあるこの町は規模としては小さいが、東西南北すべてをつなぐ中継点なので人の往来がはげしい。 ついた頃には日は沈んでいたが、人波は途絶えない。 昼夜問わず人の行き来が多い上に、小さな町にしては大規模なゲームコーナーがあるため、この町は夜でも賑やかだ。 「とりあえず、ポケモンセンターに行かなくちゃ。」 ひんしのままのナゾノクサと、眠ったままのジュプトルを回復させなければならない。 案内板を見て場所を確認すると、小さなアオイは人の流れにのるようにして、えっちらおっちらポケモンセンターを目指した。 ポケモンセンターはすぐに見つかった。町の中心地にある、大きな建物がそうだった。 キンセツシティの人口は少ないが、ここで一泊して各地へ向かう、という人が多いため、ポケモンセンター等の宿泊設備があるところは大きくつくられている。 自動扉をくぐると、センター自体の大きさの割にはあまり広くも思えないロビーに入る。 扉の目の前にはカウンターがあり、その中には看護服を着た女性と、ピンク色の可愛らしいポケモンがいた。大きなたまご型の体で、耳はくるんと巻いている。おなかのあたりに袋のようなものがあり、その中にはたまごのようなものが入っている。 女性の背後には大きな機械があった。あれがポケモンセンターの主な役割を果たす、ポケモンの回復装置なのだろう。 「えっと、あの…」 とまどいながら、カウンターごしに看護服の女性…ジョーイに声をかける。 ジョーイというのは女性の、ポケモン専門の看護士や医者のことである。 昔、ジョーイという名前の一族がポケモン医療をになっていたため、その時のなごりでこの職業の女性を”ジョーイ”と呼ぶのだ。 ジョーイはにっこり笑って近づいてきた。 「ようこそポケモンセンターへ。ポケモンの回復ですか?」 「はい。」 「それでは、モンスターボールをどうぞ。」 アオイは言われたとおりに、ボールを渡す。 ジョーイはモンスターボールをカウンターの上にある箱型の機械に入れ、カタカタとキーボードを操作する。 「ねむり状態と、ひんし状態と…あとの一匹は体力回復ね。ハピナス、ナゾノクサにきずぐすりを塗ってあげて。」 ハピナスと呼ばれたピンク色のポケモンは、そう言って渡されたボールをすぐ後ろにある台の上に置いた。 大人が寝転がれるくらいの大きさのその台の、はしっこにあるくぼみにモンスターボールを置いて、真ん中のボタンを押す。 すると、台の上にぐったりしたナゾノクサが出てきた。 きずぐすりや包帯を取り出して治療を始めるハピナス。 「あの、そのポケモンは…」 アオイはハピナスを横目に見ながら、ジョーイに質問した。 「しあわせポケモンのハピナスよ。ポケモンセンターには必ず居るポケモンで、治療のお手伝いをしてくれるの。」 「ハピナス…。そっか、なんだかかわいい名前だね。」 アオイがハピナスに向かって笑いかけると、ボールを設置し終えたハピナスも、アオイを向いてにっこりと笑い返してくれる。 その場に、ほんわかした空気が流れた。 |
ゆうま | #11★2005.05/15(日)19:47 |
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「では、ポケモンが回復するまでロビーで待っていてくださいね。」 ジョーイはカウンター越しに、アオイに向かって言う。 「あ…えっと…」 アオイは口ごもりながら、ちらちらと機械の方を見て、それからジョーイを見上げていった。 「見学させてもらっちゃ駄目ですか?」 ジョーイはにこっと笑うと、いいですよ、と言ってアオイをカウンターの中へまねきいれた。 「まず、ジュプトルを起こしますね。」 そう言って、壁に埋め込まれるように設置されている機械の扉を開き、中にボールをセットした。 「ポケモンを起こす時は、この装置を使うの。」 「何でですか?」 そのまま起こせばいいのに、とアオイは思った。 戦闘中に眠らされるとやっかいではあるが、他の状態異常に比べれば簡単に治りそうな状態だ。 「普通に起こそうと思っても、中々起きない場合が多いのよ。忙しい時なんかは起こすために時間を使っている暇がないから、こうやって機械で治すの。」 「そうなんですか…。」 やがて、ぽーん♪という音とともに、装置の扉が開いた。 ボールをのぞきこんでみると、ジュプトルの目は覚めていた。 ジョーイはそのボールを真ん中の一番大きい機械に移し、ルンパッパのボールも一緒に並べて設置する。 そこへハピナスが、治療の終わったナゾノクサをボールに入れて持ってきた。 それも並べて、機械を動かし始める。軽やかなメロディが流れ始めた。 「この機械はポケモン回復装置。ポケモンがとてもリラックスする状態にして、少しずつ体力を回復させるの。」 ジョーイが機械を操作する。アオイは興味津々に、液晶画面をのぞき込んだ。 「へぇ…すごい。」 画面の動きを見ながら。感嘆の言葉をもらすアオイ。 「君、コンピュータがすきなの?」 そのきらきらした目を見て、ジョーイがたずねた。 アオイは照れて頭をかきながら答える。 「あ、はい。ぼく、小さい頃から機械やコンピュータに囲まれて育ったので…やっぱり、興味ありますね。」 「そうなの。じゃあ、ぞんぶんに見ていってね。」 「いいんですか?」 そう言われたので、せっかくだからアオイは機械の周りも見てみることにした。 うきうきと、コードの配線や隅っこの製造者等が書かれたプレートを見て回る。 ふと、機械の横に扉があることに気がついた。”関係者以外立ち入り禁止”と書かれた張り紙がしてある。 「…あの扉はなんですか?」 気になったので、そこを指さして聞いてみた。 「あの奥は集中治療室よ。重い怪我をしてしまったポケモンや、病気のポケモンを治すための機械があるの。残念だけど、精密機械が多いから一般の人はそこに入れないのよ…ごめんね。」 アオイは、ちょっと中を見てみたいな…と、ちらりと扉を見た。 だがしかし、もちろん入りたいなどとは言わない。機械は結構デリケートだし、壊れてしまったらばくだいな修理費用がかかることも、アオイはちゃんと分かっている。 「あと3時間ほどは休ませておいた方がいいわね。」 機械を動かしながら、ジョーイさんが言う。 「あ、じゃあ…宿泊させてもらっていいですか?」 外の様子を見たら、もう真っ暗で子どもが出歩くような時間では無かった。 「宿泊ですか?申し訳無いけど、相部屋になってもいいかしら?今日はお客さんが多くて。」 ちょっと困った顔をしながら言われて、アオイは構わないです、と答えた。 「ではポケモンは預かっておきますので、寝る前か明日の朝にお迎えに来てくださいね。」 「わかりました。」 「部屋番号は203です。鍵は相部屋の人が持ってるから。」 アオイはうなずいて、部屋へ向かった。 |
ゆうま | #12★2005.05/22(日)17:18 |
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ポケモンセンターの2階のろうかを歩きながら、ジョーイに言われた通りの部屋番号を探す。 「…あった!」 探していた番号を見つけて、少し緊張しながらノックをする。 「はーい。」 ぱたぱたと走る音が近づいてきて、がちゃり、と扉が開かれる。 扉を開けたのは、アオイよりほんの少しだけ背の高い…アオイと同い年くらいの少年だった。 「えーと、あんたが相部屋の?」 部屋のインターホンを通じて、ジョーイから話は通っていたようだ。アオイがこくりと頷くと、少年に部屋の中に招き入れられた。 部屋の中には2段ベッドが2つ。右側の1段目に荷物が散乱しているので、そこはこの少年が使っているのだろう。 「どこでも好きなの使いなよ。」 そう言われたので、荷物を左側のベッドの1段目に置いた。 少年は自分のベッドのふちに腰かけて、目線でアオイも座るよう促す。 アオイも自分のベッド、少年の真向かいに座った。 「俺の名前はトウマ。でもチョマって呼ばれてる。お前は?」 「ぼくはアオイ。」 「アオイか。よろしくな。」 握手を求められて、素直に応じる。 「アオイもポケモントレーナーなのか?」 「い、一応ね。でも今日旅に出たばっかりだし、ポケモンについてもよく知らないんだ…。」 「今日!?それじゃあ、新米トレーナーか。これから大変だぞ〜。」 意地の悪い笑みを浮かべて、チョマはおどかすように言った。 その言葉に、アオイは大きなため息をつく。 「どうしたんだ?」 「いや、確かに大変だろうなーと思って…」 少し遠い目をしながら、アオイは今日一日の出来事を話した。 ロゼリアをゲットしそこねたこと、エンビとの初戦で負けたこと、セージュという人に色々教えてもらって、ルンパッパをもらったことなど。 「…なんていうか、お前それで本当にポケモントレーナーになる気か?」 アオイの話を聞いて、チョマが呆れ顔で言った。 普通、ポケモントレーナーを目指す者ならどんな小さな子でもポケモンについて勉強する。 他人からもらったポケモンやレベルの高いポケモンはなかなか人の言う事を聞かない。そんなこと常識中の常識だ。 そのチョマのセリフにちょっぴりアオイは傷ついた。でも確かに、トレーナーに向いてないかもしれないと一度自分でも思ってしまったのだ。 「いいの…これから強くなるんだから。」 でもやっぱり少し悔しくて、アオイはくちびるをとがらせながらそう言った。…実際そんなに自信は無かったが。 すねたように言うアオイが面白いのか、チョマは笑いながら 「ま、がんばれや!」 そう言ってアオイの肩を力強く叩いた。 |
ゆうま | #13★2005.06/20(月)23:26 |
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「そういやアオイ、ジム戦には挑戦するのか?」 突然チョマが話題を変える。 ジムとは各地にあるポケモンジムのことで、たいていのトレーナーはチャンピオンを目指しジム戦に挑戦する。 ジムリーダーに勝ってジムバッジを8つ集めれば、チャンピオンを決めるリーグ戦への挑戦権が得られるのだ。 キンセツシティにも大きなジムがあり、連日トレーナーが挑戦している。 「そのつもり…だけど」 チャンピオンを目指すわけではないにしても、ジムバッジは実力の証。 実際のジムを体験したい、という意味でも、アオイはジム戦に挑戦するつもりはあった。 しかし、今使えるポケモンは一体だけ…挑戦したところで、結果は目に見えている。 「もうちょっと修行してみてからにするよ。」 苦笑しつつそう言うと、チョマもうんうん、と頷いた。 「そうした方がいいだろうな。キンセツはでんきタイプポケモンのジムだし…。くさタイプとでんきタイプって、お互いに相性が悪いんだよな。しかも使えるポケモンはルンパッパだけだろ?みずはでんきに弱いから…もしキンセツジムに挑戦するつもりがあったら、もう1匹か2匹ぐらい、ポケモンゲットした方がいいぜ。」 「う…うん。」 タイプのことをずらずらと並べ立てられ、戸惑うアオイ。ポケモンのタイプなんて、それほど気にしていなかった。 とりあえず、くさタイプを集めて育てて…その程度しか頭に無かった。 「ちょうどいいや。俺明日砂漠の方に行くから、アオイも一緒についてこいよ。」 「砂漠?」 チョマの提案に、アオイは首をかしげた。 昔、ホウエンのどこかの場所に砂漠があると聞いた事はあった。 どこにあるのかは知らなかったが…。 「こっから北に行った所に砂漠があるんだ。ちょっと遠いけどな。」 「でも、砂漠に草ポケモンなんて…居るかなぁ?」 アオイはしぶい顔をしながら言った。 砂漠は写真でしか見たことが無いが、一面砂だらけの荒涼とした土地だ。 水が絶対的に必要な草ポケモンが、そんな所に生息しているとは思えない。 チョマはその言葉をきくと、ちっちっち、と指をふった。 「居るんだなー、これが。」 「えっ!ほんとに!?」 アオイは身を乗り出した。草ポケモンが居るのなら、ぜひ行きたい。 「ほんとほんと。たしか、サボネアって名前だったかな?なかなか面白そうなポケモンだったぜ。」 サボネア。どんなポケモンなんだろう。 「どうする?ついてくるか?」 「うん、行ってみたい!」 アオイは前に乗り出し、力強く頷いた。 「よっし、決まりな!」 そう言ってチョマはにかっ、と笑った。 |
ゆうま | #14★2005.06/03(金)23:38 |
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いったん話を切り上げて、二人はモンスターボールを取りに行った。 PHSでポケモンの状態を見てみる。皆大体回復しているようだ。 そして部屋に戻ってから、チョマといろいろな話をする。 偶然相部屋になってついさっき会ったばかりだけれど、アオイとチョマはすぐに仲良しになった。 チョマはアオイと同い年の10歳だったが、アオイよりも8ヶ月ほど誕生日が先らしい。トレーナー暦も同じだけ上だった。 しかしほとんどポケモンと触れ合うことのなかったアオイとは違い、チョマは物心ついたころからポケモンと一緒で、ポケモンについての知識も多い。 「ところで、どうして砂漠に行くの?」 ベッドの上に寝そべりながらアオイが質問した。 チョマも寝っころがったまま答える。 「俺の親父、古代ポケモン研究者でさ。地層の調査とかによく連れて行ってもらってたんだ。その影響かな…俺、地層とか岩石とか好きなんだよ。で、時々砂漠に行って、石の調査とかしてんだ。」 「へぇ…なんか凄いや!」 「そ、そっか?」 チョマは照れているのか、鼻の頭をかいた。 「何かいいもの見つかるといいね。」 「そだな。…さて、そろそろ寝るか?」 気づけば、もう大分遅い時間になっている。 二人は電気を消して眠った。 アオイとチョマが寝静まった頃。 アオイのベッドの下で、カタカタ、と小さく音がした。 ベッドの下に置いたモンスターボールのひとつが動いている。 やがて、光とともにポケモンが飛び出した。 50センチほどの黒い体、赤い瞳、ゆらゆら揺れる5枚の葉っぱ…ナゾノクサ。 夜行性のナゾノクサは本来、昼は土に埋まっていることが多く、夜になると土からはい出して動き出すのだ。 ナゾノクサは窓を見上げる。 扉の真向かい、2つの二段ベッドに挟まれる形でその大きな窓はある。 ちょうど月が目の前に昇っていて、窓から入り込む光がナゾノクサを照らし出していた。 ナゾノクサは月の方向に体を向けて、目を閉じる。 すると、体のまわりに光の粒子が集まり、明滅して…きらきらと輝いた。 寝返りをうったアオイは、枕元がまぶしい気がしたので、目をこすりながら上半身を起こした。 「―!」 きらきら輝くナゾノクサを見て、びっくりして声をあげそうになったが、チョマが寝ているのであわてて口をふさいだ。 目を閉じて、気持ちよさそうに月光をあびるナゾノクサ。 「つきのひかり…」 小さな声でつぶやいた。たしか昼間見たナゾノクサの使う技の中に、そんな名前の技があったはずだ。 キレイだな・・ アオイはそう思いながら、その様子を眺めていた。 そうするうちにだんだん眠くなってきて、とろとろとまぶたが沈みはじめる。 ぱたん、とベッドに倒れこむと、アオイはそのまま眠ってしまった。 |
ゆうま | #15☆2005.06/07(火)23:14 |
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≪第5説≫ 翌朝。 「ふ…ふえっくしゅん!」 アオイは、自分のくしゃみで目が覚めた。 寝ぼけまなこで目の前を見ると、鮮やかな緑の葉がかけぶとんの中からはえている。 多分、これに鼻のあたりをくすぐられてくしゃみが出たのだろう。 そぉっ・・とふとんをめくってみると、葉っぱの下に黒い体と、同じ色の小さなあんよが見えた。 ふと、昨晩のことを思い出す。 ナゾノクサがつきのひかりを浴びていた…きっとその後、ふかふかのふとんが気持ちよさそうだったので潜り込んだのだろう。 小さく呼吸を繰り返し、呼吸と同じリズムで小さく上下する体。 かわいいなぁ… すやすやと眠るナゾノクサを見ていたら、自分も眠くなってきた。 ナゾノクサを抱きしめてそっと自分の胸元へ寄せると、アオイはまた目をつぶり… 「朝だぞ!さっさと起きろ!」 …かけたところで、かけぶとんをチョマにひっぺがされた。 仕方なく起き上がる。 「おはよー、チョマ。」 チョマはすでに着替えを終えていた。 「はよ。さっさと準備して、朝飯行こうぜ。」 「うん。」 アオイはとりあえずナゾノクサをモンスターボールに入れた。 それから着替えて、シーツを元通りにして。 「あ、そだ。これ貸しとく。」 荷物整理をしている時に、チョマに何かを投げ渡された。 鉄色のふちに厚めの大きなレンズがはまっている…ゴーグルだ。 「これは?」 「ゴーゴーゴーグル。砂漠は砂嵐が酷いから、ゴーグルは必需品なんだよ。それ、予備用のやつだから。」 俺のはこっち、と、同じデザインのゴーグルを見せられる。 「ありがとう。」 アオイは借りたゴーグルを落とさないよう、かばんの見える所にひっかけた。 「忘れもん無いな?行くぞ。」 外に出て部屋を見渡し、鍵を閉め、それをジョーイさんに返しに行く。その時に会計も行う。 ポケモンセンターではポケモンの治療は無料でやってくれるが、宿泊にはお金がかかってしまう。 といっても他のホテルやなんかに比べればはるかに安いので、トレーナーの大半はポケモンセンターで宿泊する。 そして2人は、ポケモンセンターと繋がっている隣の食堂に行った。 チョマのメニューはご飯に味噌汁、目玉焼きとサラダ。 アオイの方はロールパンがふたつにミルクと、同じくサラダ。 『いただきまーす。』 きちんと手を合わせてから、ふたり同時に食べ始める。 チョマはひたすら食べることに集中し、アオイは食事中は喋らないように教えられているので、食べているときはお互い、終始無言だった。 |
ゆうま | #16★2005.06/27(月)23:16 |
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ご飯を食べ終えた二人はポケモンセンターを出て、北へ通じる出口へ向かった。 朝のキンセツシティは夕方とは打って変わって、とても静かで爽やかだった。 キンセツシティをえんとつ山方面から出ると、左右は岩盤に囲まれる。 ホウエン地方の東北はえんとつ山を中心にほとんどが岩山なので、キンセツシティを抜ければこんな風に岩石に囲まれることが珍しくない。 それでも、緑溢れるシダケタウンで育ったアオイにとってみれば今まで無かった経験で。 「凄いね、何か今にも落ちてきそう。」 上を向いてそんなことを言っていたら、石につまづいて危うく転びかけた。 「気ィつけろよー。一応道が整備されているとはいえ、ここら辺は石っころが多いからな。」 「うん、ごめん。」 「あと、イシツブテにも気をつけろよ。石と間違えてけったりなんかすると怒って襲ってくるからな。」 「イ…イシツブテ?」 なにそれ、といった感じでアオイは聞き返した。 チョマは一瞬、不意打ちを食らったように目を丸くして、…それから立ち止まり、呆れてため息をついた。 「お前…イシツブテも知らねぇの?」 「うん…ごめん。」 「や、謝られてもさ。」 言いながら、チョマは腰につけたポシェットからモンスターボールを取り出した。 「イチロー、出てきな。」 現れたのは、確かに石のようにごつごつしたポケモン。 「これがイシツブテ?」 じゃがんで、イシツブテの体を触ってみるアオイ。 「おうよ。俺のイシツブテのイチローってんだ。ゴツくてかっこいいだろ?」 「うん、カッコいいね。」 にこっと笑いかけながらアオイが言うと、イシツブテはふんっ、と腕を振り上げてかっこつけてみせた。 「おっと、こんなことしてる場合じゃないな。早く行かないと日が暮れちまう。」 チョマはイシツブテをしまうと、また歩き始めた。 アオイも立ち上がり、歩き出す。 |
ゆうま | #17☆2005.06/27(月)23:32 |
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どれくらい歩いただろうか。 日はすでに頂点を越え、ゆっくりと下降をはじめている。 あまり変わらない、道と岩と草だけの景色では、どのくらい進んだのか見当もつかない。 しかし、風に混じる乾いた土の匂いが、砂漠が近いことを示していた。 「そろそろだ。」 風のビュウビュウ吹きすさぶ音が聞こえた。 音はすれども姿は無く、風の走りを感じることもない。 アオイ達の居るところではなく違う場所で、すさまじい強風が吹いているのだ。 「ほら、あそこだよ。」 チョマが指差した先に、岩壁が途切れ、そこから砂に侵食された地域が見えた。 今まで歩いてきた道は左に逸れ、そのまままっすぐ山の方へ向かっている。 頭につけていたゴーグルをずらし、目を覆うように装着するチョマ。 アオイもそれにならって、ゴーグルをつけた。 そして砂漠地帯に足を踏み入れた瞬間、砂を含んだ風がアオイの右頬を叩く。 「いたっ!」 声を出した瞬間に口の中にも砂が入ったので、アオイは苦い顔をして砂を吐き出した。 岩壁に囲まれて区切られた砂漠地帯には風が吹き荒れ、その風が砂埃を巻き起こす。 その砂埃のせいで視界が悪いが、砂漠は結構広いようだ。 「行こうぜ。」 砂が入らないよう、あまり口を開かずにそう言って、チョマが歩き出す。 アオイもその後についていく。 サボネア、見つかるかなぁ… アオイは歩きながらキョロキョロと視線を動かして、周囲を観察した。 ゴーグル越しに見る世界は、いつもより視界も狭く見えにくい。 しかしゴーグルが無ければ目も開けられなかっただろう。 風が弱い時はいいが、強い時は砂嵐だ。 ゴゥッ! 風がうなり、吹きつけてくる。 アオイはとっさに立ち止まり、両腕で顔をおおった。 風にあおられた砂が舞い上がり、強く叩きつけてくる。 瞬間的に目をつぶろうとした、その時。 「…!?」 砂の嵐の向こうに、何かが見えた…気がした。 さっきまで何も無かったはずの場所に、まるで塔のように高い建物のシルエットが… 風が吹きすぎ、あたりが次第に見えてくる。 「…すごい風だな。」 少し手前では、チョマが体についた砂をはたき落していた。 アオイは砂に足をとられながらも走り寄る。 「チョマ、今の見た?」 「は?何を見たって?」 「今、大きな建物があそこにあったんだよ。」 そう言ってアオイが指差した先には、何も無かった。 建物など、影も形も見当たらない。 「なんもねーじゃん。何かを見間違えたんだろ。」 チョマは取り合わず、さっさと歩き出した。 アオイは何かが見えたあたりをもう一度見てから、見間違いだったのかな…?と首をかしげた。 |
ゆうま | #18★2005.06/29(水)02:53 |
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砂漠には砂だけでなく、あちこちに岩が点在していた。 チョマはところどころの岩の付近にしゃがみこんでは、大きさや硬さを調べている。 時々、砂に埋もれた石を掘り起こしたり、それをじっくり見てから鞄に仕舞い込んだりしている。 チョマは楽しそうだったが、アオイには何が楽しいのかさっぱり分からなかった。 「…あ。」 ふと右の方向を見ると、岩の陰からこっちを伺っているポケモンが居た。 アオイはPHSを取り出そうとして…手を止める。 ここは砂漠。砂が吹き荒れている。 PHSは丈夫に出来ているが、それでも精密機械である。 隙間から砂が入ってしまえば、故障の原因になってしまうだろう。 仕方なく、チョマに聞いてみる。 「あぁ、あれはサンドだな。」 チョマはほんの少し形を見ただけで答えた。 「サンド?」 「あぁ。砂漠に住むポケモンで、タイプはじめん系。俺も持ってるよ。」 そう言ってチョマはボールを出して、地面に向かって投げる。 光と共に、体のほとんどが硬い甲羅のような皮膚におおわれた、黄土色のポケモン…サンドが現れた。 「俺のサンドで、名前はジローだ。」 サンドは名前を呼ばれると一声鳴いて、くるん、と体を丸めてみせた。 (イチローの次はジロー…) 多分、この後はサブロー、シロー、と続いてくんだろうな…。 特に意味もなくそう思った。 ついでにイシツブテのイチローも出して、チョマは自分の作業に戻った。 ちゃっかり、サンドとイシツブテに手伝わせている。 2匹とも慣れているようで、穴を掘ったり、石をチョマの所へ持って行ったりと、チョマが何も指示しなくてもよく働いた。 その様子が、アオイには少しうらやましかった。 言葉を交わさなくても、自分の意思でトレーナーのお手伝いをするポケモン。 よっぽどなついていないと、こうはいかない。 無意識にベルトのモンスターボールに触れた。 ぼくもいつか君達と…あんな風になれたらいいな。 |
ゆうま | #19★2005.10/03(月)09:40 |
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≪第6説≫ 「チョマー、ぼくちょっとそのへん見てくるねー。」 チョマがあんまり石の発掘に熱中するものだから、アオイは暇になってきた。 砂ばかりの砂漠の光景にもそろそろあきたし…それに、アオイがココに来た目的はサボネアを探すため。 チョマに付き合っていたら日が暮れてしまう。 岩や石が多くある場所を見つけてからは、ほとんど動いていないのだ。 「あぁ。」 チョマは聞いているのかいないのか、適当な返事を返した。 アオイはしょうがないな、と肩をすくめてから、チョマから離れて歩き出す。 風が少し弱くなって砂埃も多少晴れてきたので、周囲が見渡せるようになった。 改めて、広い場所だな、と思った。 歩きながらくるりと一回転するように辺りを見回す。 すると、遠くの方にぽつんとひとつ、緑色のものが見えた。 形からすると人間では無い。それは植物のようだったが…わずかに、動いた! アオイは瞬間的に走り出した。 また風が勢いを増してきて、それはかすかに見える程度になってしまったけれど。 砂に足をとられてしまうので速くは走れなかったが、その緑のモノ自体がその場を動かなかったので、アオイはそれに追いつくことが出来た。 (居た!) それはもう、見た目からしてサボテンのようなポケモンだった。 サボテン。サボネア。…間違いない! サボネアはまだこちらに気づいていないようだ。 アオイはすぐ側の岩に身を隠した。 ルンパッパのボールをベルトからはずし、中央のボタンを押して大きくする。 心臓がどくん、どくんと脈打っている音が聞こえる。 アオイは緊張した。 昨日のロゼリアのように取り逃がすわけにはいかない。 (いけっ!るんるん) 心の中でそう叫んで、鋭くボールを投げた。 ボールの中からルンパッパが現れる。 「るんるん!おどろかす!」 まずは先手必勝。アオイは風の音にかき消されないように、大声で言い放った。 口に砂が入るので、言った後でぐいぐいと口をぬぐう。 だが、ルンパッパは動けなかった。 ボールから出てすぐに、その大きく開いた口にとたんに砂が入ってしまい、苦しそうにせきこんでいる。 そしてさらに悪いことに、アオイの声でサボネアはこちらに気がついてしまった。 (あちゃー…) サボネアは戦闘体勢に入った。 目つきをぎらっ、と鋭くさせてルンパッパをにらみつける。 ルンパッパはそれにおびえて数歩後ろへ下がった。 また強い風が吹きつけ、砂嵐が襲う。 すさまじいその砂嵐に、アオイは顔を腕でおおって耐えた。 砂がバチバチと体にぶつかって痛い。 幸い砂嵐は一瞬のことで、すぐにアオイは戦闘に意識を戻した。 |
ゆうま | #20☆2005.07/05(火)13:22 |
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見ると、ルンパッパも砂嵐でダメージを受けていたようで、体の表面のところどころが赤くなっている。 サボネアはさすが砂漠のポケモンなだけあって、あの砂嵐を受けてもぴんぴんしていた。 (この状況じゃ、不利だな…) 砂漠という地形は予想以上に戦いにくい場所だった。 相手に地の利がある上に、普通でない場所なので動くことすらままならない。 せめて、この砂をなんとか出来れば… (そうだ!) ルンパッパはみずタイプでもある。技で水をまき散らせれば、砂嵐は起きないはず。 乾燥している日の校庭にスプリンクラーをまくのと同じ要領でやればいい。 砂が水を含んで重くなれば、風が吹いても砂は巻き上がらない。 アオイは、昨日登録したルンパッパの技を思い出した。 その中で水に関係のありそうなのは… 「るんるん!”あまごい”だ!」 指示を聞いたルンパッパはぴくり、と反応して、そのままその場で踊り始めた。 腕をあげたりさげたりしながら、軽い足取りでくるくると回る。 サボネアは一瞬呆気にとられたが、すぐに気を取り直して腕の先からどくばりを発射する。 だがルンパッパは不思議なステップでひらりとそれをかわした。 そして踊りつづける。 だんだんあたりが暗くなってきた。 アオイが空を見上げると、どこから来たのか分からない暗雲が、四方から集まり始めていた。 やがて砂漠の上空をおおいはじめ、その中でも特にルンパッパの周辺に集中する。 …はじめの一粒が、アオイのほほに当たってはじけた。 そして、雨が降り出す。 ザアアァァ… 一気に雨はどしゃ降りになった。 ルンパッパは嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねている。 アオイは空に向かって口を開け、口の中に入った砂を洗い流した。 「よぉし、るんるん!”しぜんのちから”だ!」 砂が入ってくる心配も無いので、張り切って大口を開け、大声で叫んだ。 ルンパッパはそれに応えるように大きな声で鳴いて、ぴょんッと飛び跳ねる。 同時に両手を振り上げて、そのまま地面を力強く叩いた! ゴゴゴゴ… 「うわっ!」 アオイはさっき隠れていた岩にしがみついた。 ルンパッパが叩いた衝撃で、地面が大きく揺れ始める。 ”しぜんのちから”は”じしん”になったようだ。 ぴし。 「えっ?」 アオイは嫌な音を聞いて、足元を見てみた。 足の間の地面に、亀裂が入っている。 それはみるみるうちに大きくなって、次の瞬間。 ゴガァン!! 轟音と共に、地面が抜けた。 「うわああぁぁ!」 アオイは悲鳴をあげながら落ちていく。ルンパッパとサボネアも一緒に。 (し…死んじゃう!) アオイはぎゅっと目をつぶった。いやだ、怖い、誰か助けて! そして、次の瞬間。 |
ゆうま | #21★2005.07/09(土)00:57 |
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どすん! 「痛ぁ!!」 アオイは地面にしりもちをついた。 終着点は意外と近かった。 どうやら下が空洞になっていたらしく、それで地面が割れて落っこちてしまった、というわけだ。 思いっきりお尻を打ってしまったので、涙目になりながら必死で痛みをこらえる。 それでも、先に落ちた地面がクッションになったからその程度で済んだのかもしれない。 お尻をさすりながら、ルンパッパとサボネアの方を見た。 ルンパッパは見事に着地成功したようで、元気いっぱいに踊っている。 サボネアの方は目を回して地面の上に転がっていた。 「おーい!どうしたのー!?」 アオイの耳に、微かに反響する声が届いた。 誰かが上から声を掛けているのかと思って見上げたが、ぽっかり開いた穴を覗いている人は誰も居なかった。 それに、声の聞こえる方向が違う。アオイは聞こえた方向…右手側を見た。 落ちた場所は洞窟だったらしい。 道が奥の方までずっと続いている。 ぽっかり開いた暗い闇から、一人の男性が姿を現した。 アオイはゴーグルをはずして、その人を見る。 「セ…セージュさん!!」 「あれ…アオイ君!?」 男性は、昨日出会ったばかりのセージュだった。 「やぁ、偶然だね…って、それは置いといて。アオイ君、大丈夫?ケガは無いかい?」 セージュはアオイに近づくと、助け起こそうと腕を差し出した。 アオイはその腕にすがって立ち上がる。 「大丈夫です…お尻は痛いけど。」 苦笑しながら言うアオイ。 セージュは一通りアオイの体を眺めて、大きなケガの無い事を確認した。 「良かった、大きなケガはないみたいだね。」 それから、穴が開いてしまった天井を見上げ、未だ暗雲立ち込める空をあおいだ。 「しかし、はでに落っこちたねぇ。…何があったのかな?」 「えーっと…」 アオイは事のあらましを手短に話す。 「そっか、サボネアを捕まえに来たのか。」 納得して、セージュはうんうんとうなずいた。 「はい。でもこんなことになっちゃって…」 穴を見上げながら、ため息をつくアオイ。 「いや、むしろ良かったかもしれないよ。」 「え?」 にっこり笑いながら、セージュはサボネアが倒れている方向を指した。 |
ゆうま | #22☆2005.07/12(火)16:04 |
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「今がチャンス、じゃないかな?」 アオイもサボネアの方向を見る。 しかし、遠慮がちにセージュを振り返って聞いた。 「え、いや、でも、いいんですか?まともに戦ってもいないのに…」 セージュは穴の開いた天井を指しながら、にっこり笑って答える。 「ルンパッパの技でこうなったんだから、アオイ君は立派に戦ったよ。さ、ゲットゲット。」 後押しされて、アオイは空のモンスターボールを取りだした。 (まぁいいか、目的はゲットなんだし。) とりあえずそう開き直っておくことにして、じり…とサボネアに詰め寄る。 なぜだか、また心臓がばくばくしてきた。 ただボールを投げればいいだけのことなのに、ひどく緊張する。 無意識に手が震えて、モンスターボールがカタカタと小さな音を立てた。 「えいっ!」 覚悟を決め、目をつぶって力いっぱいボールを投げた。 しかし勢いが良すぎて、ボールはサボネアの上をひゅーんと通過してしまった。 そのまますぐ後ろの壁に当たり、はね返る。 ボールは勢いを失わないまま、セージュの顔面めがけて真っ直ぐ駆けていく。 セージュはパシッ、と事も無げにボールをキャッチすると、ひざをついて、アオイにボールを渡した。 それから肩に手をかけ、アオイの瞳をまっすぐ見据える。 「アオイ君、力が入りすぎてるね。もっとリラックスしていいんだよ? 肩の力抜いて…。 それから目は閉じちゃいけない。捕まえる対象をきちんと見るんだ。 今は相手が動けない状態にあるから、至近距離で軽ーくボールを放る感じで投げれば良いよ。」 そう言って立ち上がり、数歩後ろに下がる。そしてそのまま見守る体勢に入った。 アオイはボールを持ったまま、不安そうな顔でセージュを見上げる。 セージュは安心させるように、笑顔で言う。 「やってごらん。軽い気持ちでいいんだよ。」 こくんと頷いて、一度、深呼吸をした。 深く息を吸い込んでゆっくりと吐き出すと、心が落ち着いて体が楽になった気がする。 半回転して、サボネアの方に向き直る。 言われたとおりに近づいて、ひょいっとボールを投げた。 ボールはサボネアに当たるとぱかっと開き、中から光の筋が出てきてサボネアを捕らえた。 そのままサボネアはボールに吸収される。 ボールは多少、カタコト動いたが、それもすぐにおさまった。 アオイはその様子をじっと見つめる。 ボールの動きが止まっても、見つめ続ける。 セージュが後ろから近づいて肩をぽん、と叩いた。 はっ、として、振り向くアオイ。 「おめでとう。」 セージュがそう言ってから初めて、自分がポケモンをゲットできたのだと気付いた。 「や…」 アオイは震える両手で、ボールを拾い上げた。 「やったぁ!!」 そしてそのまま、頭上高くかかげる。 本当に嬉しそうなその笑顔を見て、セージュもほほえんだ。 「そうそうアオイ君、ニックネームはつけるのかい?」 「あ、そっか。ニックネーム…う〜ん…。サボネアだから…ネア、なんていいかも。」 ボールを両手で大事そうに持って、にこっと笑いかけるアオイ。 「よろしくね、ネア。」 セージュもそれを嬉しそうに眺めていた。 |
ゆうま | #23★2005.10/03(月)09:41 |
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≪第7説≫ 「そういえば、何でセージュさんはこんな所に居るんですか?」 アオイは今更ながら、当然の疑問を口にする。 「そっか、言ってなかったっけ。ここは”さばくのちかどう”って言ってね、ハジツゲタウンの方から続く洞窟なんだ。 結構前に、ホウエンではここにしか生息していない、青くて珍しいポケモンが居るって聞いたから探しに来たんだけど…。」 「居なかったんですか?」 「いやね、紫色だったんだよ。」 そう言って肩をすくめるセージュ。 アオイはその言葉の真意を理解できずに、 「…紫色、ですか。」 何とか、それだけ言う。 「うん。残念だけど、紫じゃね…。確かに面白いポケモンだし、青に近い事は近いんだけど…。」 どうやら、青いポケモンでなければ駄目なようだ。 それを悟ったアオイは申し訳無いけれど率直に、変な人だなぁと思った。 強さでもなく、タイプでも無く、色でポケモンを選ぶらしい。 ふと思ったことがあって、アオイはセージュに質問しようとした。 「セージュさん、もしかしてぼくにるんるんをくれたのって…。」 「そうそう、るんるんは元気にしてるみたいだね♪」 しかし言い終わらない内に、セージュはまだ出っ放しだったルンパッパの方に向かってしまった。 ルンパッパは嬉しそうにぴょーんと跳びはねて抱きつく。 その様子を横目で見ながら、アオイはPHSでルンパッパのデータを出す。 そして、ルンパッパの進化前の姿を検索してよび出した。 『ハスブレロ、ルンパッパの進化前。ハスボー、ハスブレロの進化前。』 ホログラムに映し出されたポケモンのうちの”ハスボー”というポケモンの方は、体が綺麗な青色をしている。 「セージュさん…」 予想は当たっていたかもしれない。 だがルンパッパの手前上、アオイは思ったことを口に出しては言えなかった。 「とりあえず、ここから出ようか。」 セージュはルンパッパをはい、とアオイに差し出して、空を指差した。 雨は既に止んでおり、雲も晴れてきているようで、外は明るかった。 「でも、どうやって出るんです?」 アオイはルンパッパをモンスターボールに入れて、セージュの指した先を見る。 そこまで深くは無いとはいえ、ジャンプして届きそうな距離では無いし、登れる場所も無い。 「簡単だよ。」 セージュはそう言ってモンスターボールを取り出し、投げる。 出てきたのは、あの綿の羽を持つ青いポケモンだった。 「このポケモンは…」 アオイはPHSをかまえて、ショットした。 『チルタリス、ハミングポケモン。タイプ1、ドラゴン。タイプ2、ひこう。』 「この子はちるちるっていうんだ。上まで運んでもらおう。」 セージュは鞄からゴーグルを取り出して装着した。チョマのゴーゴーゴーグルよりもすっきりした印象で、フレームは青銀色だ。 アオイもゴーグルをかける。 セージュはアオイを軽々と持ち上げてチルタリスの首の根元に乗せると、アオイを抱えるようにして後ろに乗った。 「ちるちる、”そらをとぶ”!」 チルタリスは嬉しそうに鳴いて、ふわりと飛び立つ。 さすがハミングポケモンと言われるだけの事はあり、とても綺麗な声をしていた。 |
ゆうま | #24★2005.07/22(金)22:53 |
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表に出ると途端に風が吹き付けてきたが、砂はそこまで酷くは無かった。 まだ周辺は濡れているようで、土が暗い色をしている。 気付くともう夕方に近くなっていた。空はまだ青いけれど、太陽が大分低い位置にある。 チルタリスはある程度の高さまで上昇して、降りる場所を探した。 「あっ!チョマだ!」 アオイは上空からチョマを発見して、思わず身を乗り出す。 「危ないよ。」 セージュがアオイの前に手を回して、落ちそうになった体を支えた。 「えっと、ぼくの友達があそこに居るんです。」 わてわてと慌てた様子で地上のチョマを指差しながら、セージュを振り返った。 チョマはアオイを探しているのか、あちこちキョロキョロと見回している。 「ちるちる、あの少年の所に降りてくれるかい?」 チルタリスは言われた通りチョマへと近づいて、目の前にゆっくりと着陸した。 「アオイ!?」 チョマは吃驚して目を丸くしながら、チルタリスに近づく。 「お前、突然居なくなったと思ったら…どういう事なんだ?」 アオイとセージュを見比べながら、不思議そうな顔をして首を傾げた。 「んーとね…」 「長話なら、ここではやめた方がいいな。とりあえず砂漠を抜けよう。」 アオイが言いよどんでいると、セージュがそう提案する。 セージュはチルタリスをボールにしまうと、先導きって歩き出した。 続けてアオイが歩き出そうとした…が、チョマに止められてしまった。 ひそひそ声で、セージュを指差しながら聞く。 「…おい、あいつ何者なんだよ?」 「あの人は昨日話してたセージュさんだよ。ほら、ぼくにルンパッパをくれた…」 「あぁ、あの…」 一瞬、納得した顔をするが…すぐに苦い顔になる。 「あいつ、信用できんの?」 「何言ってるのさチョマ。」 セージュをけなされたようでアオイは気分を害したのか、非難するように言う。 「どうしたの?」 二人がついてこないのに気がついたのか、当のセージュが立ち止まって振り返った。 「あ、チョマにセージュさんのこと話してたんです。」 アオイは慌ててそう言うと、セージュに駆け寄った。 「チョマ、ほら、早く。」 手をぶんぶんと振って急かされたので、チョマはしぶしぶながらも二人について歩き出した。 |
ゆうま | #25★2005.10/03(月)09:54 |
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≪第8説≫ やがて砂漠を抜けて、通常の道路に出た。 「ふぅ…」 アオイは一息ついて、ゴーグルをはずす。 やっと、砂地獄から解放されたのだ。 砂漠は砂漠で面白かったが、砂嵐は正直辛かった。 もう一度砂漠を振り返ると、大地は赤く染まり、沈む夕日は岩壁に突き刺さっているかのように見えた。 「そろそろ暗くなるね…今日はこの辺で一泊かな。」 セージュが夕焼け空を見つめながら言う。 その青い髪や瞳も、オレンジ色に染まっていた。 「えーと、じゃあ、テントをはれる場所を探さないとですね。」 アオイはきょろりと辺りを見回した。 周辺は段差が多くて、テントを張れるような平らな場所が無い。 「いや、その必要は無いよ。ついておいで。」 そうして数分も歩かないうちに、大きな木の前で立ち止まった。 ぽんぽん、と木の幹を軽く叩き、横に縦に広く伸びた立派な枝葉を見上げる。 「うん、ここにしよう。」 そう言って、ジャケットからモンスターボールを取り出す。 投げると、まるっこいポケモンが出てきた。 縦に長い楕円の体に手足をつけたようなポケモンで、特徴的な長い耳が生えている。 しっぽはギザギザで、先端が泡のような水色の球体だ。 全体的に青い体で、体の下の方は白の水玉模様になっている。 「…マリルリか!」 思わず、チョマが言う。 「そう。この子はマリルリのるりるり。…るりるり、”ひみつのちから”!」 マリルリはちょこちょこと木に近づくと、両手を木の幹に当てた。 そして、澄んだ鳴き声を響かせる。 その鳴き声に呼応するようにして、木の全体が輝き出した。 「!?」 アオイは吃驚して木を見上げる。巨大なその木が、穏やかな光を放っている。 鳴き声が止んだ。 「…今、何をしたんですか?」 「るりるりの”ひみつのちから”でね、木の上に空間を作ったんだ。…行けば分かるよ。」 言いながらマリルリをしまい、鞄からロープを取り出す。 その先に鉤爪をしっかりと結びつけ、木の枝に向かって放り投げる。 ロープは見事に太い枝に巻きつき、鉤爪が枝に噛み付いて止まった。 何度か引っ張ってきちんと固定されていることを確かめてから、セージュはそのロープをつたい、登り始めた。 枝にたどり着くと今度は縄梯子を取り出し、端を枝に固く結んでから下に落とす。 それから投げつけた方のロープを回収し、二人に上がってくるよう指示した。 えっちらおっちら登っていくと、途中にぽっかり丸い穴が開いている。 「そこが入り口だよ。」 そう示されたので、アオイはおそるおそる首をつっこんだ。 中は薄暗いが、それなりに広さはあるようだ。 転がり込むように入り、その後にチョマが続く。 最後にセージュが入って、鞄からランプ型の電燈を取り出し部屋を照らす。 |
ゆうま | #26☆2005.07/30(土)23:18 |
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「わぁ…」 アオイはタタッと壁に駆け寄り、木目をなぞった。 自然の造形。誰かが意図して作り上げたわけでもないのに、木々は美しい模様を持つ。 息を吸い込むと、木の香りがする。…木の中に居るわけだから当然なのだが…アオイは目を閉じて、深呼吸をした。 「アオイのやつ、何やってんだ?」 「どうやら、気に入ったみたいだね。」 電燈を部屋の中心に置き、二人はそれを囲むようにして座る。 セージュはごそごそと鞄をあさり、出したものを目の前に置いていく。火がつかないタイプの携帯コンロ、鍋、野菜、缶詰、食器、その他色々… その様子をチョマは絶句して見つめた。 「…ずいぶん、色んなもの入ってるんスね…」 「そお?」 にこにこ笑いながら、料理を始める。 「二人とも、僕が夕飯作ってる間に、ポケモン達にご飯をあげてくれるかい?」 「あ、はい。わかりました。」 差し出されたセージュのモンスターボールとポケモンフードを持って、子ども二人は下に下りた。 3人分合わせて総勢12匹のポケモンが並ぶ。 「うわすげぇ、あの人こんなポケモンまで持ってるのかよ!」 現れたポケモンに、チョマは興奮して駆け寄った。 セージュの持っているポケモンは、知らないものばかりだった。 しかし、見事に青いポケモンばかりなことは分かる。 (ぼくも緑のポケモンばっかりだけどさ…) 草ポケモンだけ集めていれば、必然的にそうなるだろう。 皿をいくつか置いて、そこにポケモンフードをざらざらと乗せていった。 ポケモンたちは喜んで、皆でぱくぱくと食べ始める。 先ほどの洞窟での考えがアオイの頭をよぎる。口に出してはいえなかったこと。 ちらりと見れば、ルンパッパは昔の仲間と楽しくご飯を食べている。 「何ぼけっとしてるんだよ。」 「あ、い、いや…その…」 「…何かあるんだろ?言えよ。」 促されて、アオイはこのもやもやを言葉にすることにした。 きょろきょろと辺りを見てから、チョマにそっと耳打ちする。 「セージュさんは青いポケモンにこだわってるみたいだなんだ。 ぼくにるんるんをくれたのは、進化して青くなくなったからなのかと思って…」 「…それはあるかもな。」 にらみつけるような目つきをして、重く言うチョマ。 「そんな酷い人には見えなかったけど…」 「いや、あーゆーいつもへらへら笑ってるやつは信用しないほうがいいぜ。どーもあいつはうさん臭いと思ってたんだよな俺は…」 「あいつって、誰だい?」 「だからあの、セージュってい…ぉ、おわあぁ!」 「セ、セージュさん!いつの間にッ!!」 一瞬前までは居なかったはずなのに! 驚かれた当の本人はにこにこ笑いながら鍋を持っている。 「気配を消すのは僕の7つの特技のひとつだからねー。」 「の、残り6つは…」 「企業秘密です。」 恐る恐る聞くアオイに、満面の笑みでセージュは答えた。 |
ゆうま | #27☆2005.08/02(火)21:28 |
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「…で、聞いてました?今の。」 「うん。」 さらり、と答えるセージュ。 「その…実際のところどうなんですか?」 ごくりとつばを飲み込み、緊張して聞く。 「そこまで考えてなかったや。」 答えはあっさり返ってきた。 ぽかんとする二人をよそに、セージュは鍋を地面に置いて自分も座り、皿に料理を分け始める。 「どーせなら皆で食べようと思って持ってきちゃった。下で料理した方が早かったね。」 のほほんとして、どこまでもマイペースな人だ。 二人はどうにもふに落ちない様子で、セージュを見下ろしている。 ちら、とそれを見て…セージュは苦笑しながら、理由を話し始める。 「…確かに僕は青いポケモンにこだわってるけど、青くなくなったからって愛情が変わるわけじゃないよ。 るんるんをアオイ君にあげたのは、アオイ君が…その…」 笑顔のままで、いいよどむ。 アオイはセージュの言いたいことがなんとなくわかって、頭をがっくり下げた。 「ぼくがあんまり哀れだったからですね…。」 「まぁ…つまりそういうことだけど。」 肯定されて、アオイはがっくり肩を落とした。 何だかバカにされてるみたいに思えてちょっぴりしょげる。が、 「君の力になりかたかったんだよ。」 ふいに言われて、改めてセージュを見た。 一点の曇りも無く、まるで陽だまりのように暖かいその笑顔。 (…ぼくのためを思って、るんるんをくれたんだ…) 妙に嬉しくなって、頬が熱くなる。 でもなんだか、恥ずかしいような申し訳ないような気分でもあった。 セージュが話を戻す。 「それにそこまでこだわってたら青くなくなった時点で捨てるだろうし、そもそも進化なんてさせないよ。」 「そ、そうですよね!」 アオイはほっとして、笑顔になった。 やっぱりセージュさん、そんなにひどい人じゃなかったんだ。 だがチョマは、納得していない様子だった。 いつまでもセージュを疑いにかかっている。 実際はセージュ自身の人柄が好きでないので反発しているだけなのだが、本人は気づいていないようだ。 ともかく二人とも鍋を囲んで座り、差し出された皿を受け取る。 ポケモンたちも一緒の夕食が始まった。 |
ゆうま | #28★2005.08/09(火)23:40 |
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食べ終わってから、ポケモン達をしまい3人は上へ戻った。 そしてやっとアオイがチョマと別れた後の顛末(てんまつ)を話し出した。 10分後。 「で、アオイ君。今更だけど、こちらのお友達を紹介してくれるかな?」 話が終わったようなので、セージュがそう切り出した。 「あ、そうですね。えーと…」 「紹介する必要なんざねーよ。」 アオイがチョマの紹介をしようとした矢先、チョマはぶっきらぼうにそう言ってそっぽを向いた。 「朝になったら俺はすぐカイナシティに帰るからな。別に紹介されたって意味ねーから。」 「でも…」 チョマはそっぽを向いたまま、アオイの言葉を聞こうともしない。 「カイナシティ?」 そのやりとりを全く気にせず、セージュが声をかける。 「チョマ君、カイナシティ出身なのかい?」 のんきに聞くセージュを、チョマは嫌そうな顔でにらみつけた。 「…そですけど。」 一応年上なので、いやいやながらも敬語を使って話す。 セージュはチョマの”にらみつける”をものともせず、自分のカバンを引き寄せて、ごそごそとあさり出した。 そうして取り出したものは、一見ただの大きめの石。 しかしその石には不思議な模様のようなものが浮かび上がっている。 「…あ…」 それを見た瞬間、チョマの表情が変わった。 「あ、あの、それッ!」 次の瞬間には目を輝かせて、セージュにつめよる。 セージュはにこにこ笑いながら、その石をチョマに差し出した。 慎重に受け取り、色々な角度からまじまじと見る。 ポケットから虫メガネまで取り出して、じっくり丹念に見回す。 「どうしたの?」 チョマに聞いてみる。が、夢中になって聞こえてないみたいだ。 しかたなく、セージュの方を向いてみる。 「僕にもよく分からないんだけどね。」 セージュはそう言って肩をすくめた。 色々と見終えたチョマが、顔を上げてセージュを見すえる。 「これ…どこで?」 「さっきの”さばくのちかどう”で見つけたんだ。 他の石と色がちょっと違うし、模様が浮き出てるから…もしかしたら、化石なんかじゃないかと思ってね。」 セージュは笑いながら、冗談半分、といった風な口調で答える。 こくこくとうなずいて、チョマはその石をうっとりと見ながら、夢みるように言った。 「はい、これは…化石です。年代はよくわからないけど、相当古い…ポケモンの、化石。」 「化石!?」 アオイはびっくりして、チョマの手の中にあるそれを覗き込んだ。 だが、アオイにはやっぱりただの変わった石としか思えない。 「…チョマ君は、もしかしてバンショウ博士の息子さんかな?」 その様子を見ながら、ふとセージュが聞いた。 「バンショウ博士?」 聞きなれない名前に、アオイが首をかしげる。 「な、何で親父の名前を!?」 「あぁ、やっぱり。」 「お、親父?」 二人の真ん中に居るアオイは、にこにこ顔のセージュと、驚いて目を丸くしているチョマを交互に見た。 「これを見て化石だと分かる子どもなんてそうそう居ないよ。 世界的にも有名な古代ポケモン研究家のバンショウ博士の息子さんなら頷けるけどね。 ところでチョマ君、それを君のお父さんの所へ持っていってくれないかな?バンショウ博士に渡しに行こうと思ってたんだ。」 「あ、は、はい!」 チョマは嬉しそうに言って、早速化石を丁寧に鞄の中へ入れた。割れないように毛布で包む。 そのうきうきした様子を見て、アオイはくすっと笑った。 (チョマって案外、単純だな…。さっきはセージュさんのこと、あんなに疑ってたのに。) 「な、なんだよ気持ち悪いな」 にやにや笑うアオイから、チョマはほんのちょっと後じさりする。 「えへへ、チョマとセージュさんが仲良くなってくれて良かったなって思って。」 「べ、別に仲良くなったわけじゃ…」 チョマの顔がかぁっと赤くなった。 「たまたま、利害が一致しただけだ!…たく、もう寝るぞ!」 照れ隠しのようにそう怒鳴って、さっさと寝じたくを始める。 アオイとセージュは目を合わせてにこっと笑い、そして同じように寝るしたくをした。 そして、夜はふける… |
ゆうま | #29★2005.10/03(月)09:54 |
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≪第9説≫ アオイはまた夜中に目覚めてしまった。 昨晩と同じく、ナゾノクサがごそごそと出てきたのだ。 すぐに気付いたのは、モンスターボールを寝袋の中に入れていたからだった。 「…?」 ナゾノクサは入り口に向かっていって、外に出てしまう。 入り口のすぐ向こうはハシゴがある。 ナゾノクサはハシゴを降りられるのだろうか…? ちんまりした体に足だけが生えた姿をぼんやりと頭に思い浮かべて、どうやって降りるつもりなのだろうと思案に暮れる。 やっぱり手が無いと、難しいんじゃないだろうか。 アオイも夢うつつで起きだして、入り口から外を見た。 ハシゴを見るが、そこにナゾノクサは居ない。 あれ?と思って下の地面を見渡してみるが、やっぱり居ない。 ふと、上を見た。 上の方には枝が広がり、暗い色の葉が、夜の風に吹かれてザワリとゆれていた。 その中に、周りと多少色味の違う5枚の葉っぱを見つけた。 揺れ方も、風に吹かれているというよりは、ぴょんぴょん跳びはねている感じだ。 じっと目をこらしてみると、一瞬、赤い小さな点が見えた。 「はづき?」 アオイはつぶやいて、それを追いかけ始めた。 まず、一番近くて太い枝に片足をかけて、それからそれより少し上にある細めの枝を掴む。 そして枝の上に移動して、また次の枝をさがして、足をかけて…を繰り返す。 闇の中の木登りは、なかなかスリルがあった。 ほとんど真っ暗で何も見えない上に、足元が不安定で、危険だ。 それでも、じっと目をこらして、決して足を滑らせないように注意しながらアオイはずんずん登っていった。 「あれ?」 突然、目の前に居たナゾノクサが消えた。 アオイは不思議に思いながらも、登り続ける。 そして、ナゾノクサが消えた辺りについた… ザッ! アオイは葉っぱをかき分けて、木のてっぺんから頭を出した。 結構高い所まで登っていたようで、遠くの方にちらちらと、キンセツシティの明かりが見える。 そして、空にはまあるいお月様。 「…そっか、また、”つきのひかり”を浴びにきたんだね。」 目の前の、同じように頭を突き出しているナゾノクサに話しかける。 ナゾノクサはそうだ、というように頭の葉っぱを揺らしてから、目をつぶった。 そして、きらきらと光の粒子が体をおおいはじめる。 (…不思議だな…。) アオイはその光を見ながら、思った。 ポケモンという、未だ謎の多い生物が起こす、神秘的な現象。 ”ひみつのちから”や”つきのひかり”等、ポケモンの使う技はどういうメカニズムで発動できるのか、良く分かっていない部分が多い。 人間の長い歴史の中で、まだその生態もはっきりとは解明されていないのだ。 それら謎を解き明かすために、多くの研究者が努力を積み重ねてきた。 『今の科学がここまで発達したのは、そういった人たちがよりポケモンを知るために、色々な装置を開発してきたからだよ。』 いつかお父さんの言っていた言葉が、アオイの脳裏に蘇る。 お父さんもその内の一人なんだ、と、自分の開発したPHSを見せてくれた。 それが、ポケモンに興味が湧いた最初の出来事だったんだっけ…。 |
ゆうま | #30☆2005.08/22(月)21:46 |
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「…ん?」 回想に浸っていたアオイは、何かの遠吠えで現実に引き戻された。 高いようで低いようなその遠吠えは、どこか悲しげな音色であたりの木々を震わせる。 出所を確かめようとしたが、周りが岩山に囲まれているため、声が反響して場所が掴めない。 アオイはなんだか寒気がして、鳥肌が立つのを感じた。 「はづき…そろそろ戻ろう。」 つきのひかりを吸収し終わったナゾノクサも、その声に警戒しているのか身を固くしている。 アオイはナゾノクサを片手で抱き上げると、木の中へ戻った。 下に降りる時は、登る時の何倍も注意が必要だった。 不安のためか、心臓の音がやけに耳につく。 呼吸も荒くなり、手がカタカタと勝手に震えだす。 気のせいか、闇が先ほどより深くなった気がする… アオイは焦りはじめた。早く降りないと、何か怖いものが襲ってくるかもしれない。早く、早く… 「わぁっ!」 その焦りがアオイの視界を狂わせた。間違えて、何も無いところに足を踏み出してしまったのだ。 がくん、と体が揺さぶられ、その衝撃で握っていた枝を離してしまう。 「うわあぁぁ!」 叫びながら、とっさに体を丸めて、ナゾノクサを抱きしめた。 枝がばきばきと折れる音が耳のすぐそばで聞こえ、体中に痛みが走る。 (あぁ…今日は落ちてばっかりだ) だが、心のどこかは冷静にそんなことを思っていた。 ガザッ! 枝の密集する部分を抜けて、そのまま落ち続ける。 このままいけばすぐに地面に叩き付けられてしまうだろう。 アオイはこれからくるであろう衝撃に耐えるために、目をぎゅっとつぶって歯を食いしばった。 「?」 しかし不思議なことに、一瞬風を感じたかと思うと、落ちるスピードが少しだけゆるんだ。 びっくりして目を開けると、視界が赤い何かで埋め尽くされていた。 その赤い何かはもの凄い勢いで回転しながら、量もどんどん増していく。 (これは…花びら?) 胸のつまりそうなほどの花の匂いに、アオイはこれが花びらだと気づいた。 赤い花びらはアオイの腕から、風を巻き起こしながらあふれ出ている。 ぼふっ、とアオイは無数の花びらが折り重なった上に落ちた。 花びらのクッションのおかげで、落ちたときの衝撃はほとんど無い。 巻き上げられた花びらがひらひらと舞い降りる。 月の光に照らされたその光景は、ぞっとするほど美しかった。 腕の中を見ると、すでに花びらはおさまり、ナゾノクサがくるくると目を回していた。 (そっか…はなびらのまい、か。) くさタイプポケモンの技のひとつ、はなびらのまい。 なかなか強力な技であるが、使うと目をまわしてしまい、こんらんしてしまう危険な技でもある。 ナゾノクサはアオイを助けるために、自分の身をかえりみずこの技を使ったのだろう。 それも、こんな大量の花びらを出してまで。 (ありがとう、はづき) お礼を言おうと口を動かしたとたん、ふっと意識が遠のいた。 そしてそのまま、アオイは気を失ってしまった。 |
ゆうま | #31★2005.10/03(月)09:48 |
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≪第10説≫ 「ん…」 ゆっくりと、その目は開かれた。 だが瞳の焦点はあっておらず、おそらく、自分が目覚めたことも分かっていないだろう。 目の前に見えるのは、落ち着いたクリーム色の壁。 細長い蛍光灯が埋め込まれている…ということは、天井か。 「あ…れ?ここは…」 ようやく脳が目覚め始めたアオイは、頭を左右に巡らせた。 周りには、大人の男の人がたくさん居た…誰もがどこかしらに包帯を巻いていて、ベッドの上に横たわっている。 そしてアオイ自身も、白いベッドに寝かされていた。 しばらく、ぽかんとしてその光景を眺める。 状況がまったく分からない。 ぼくはどこにいて、どうなってるんだろう? 頭の上にクエスチョンマークを大量に浮かべながら、とりあえず昨晩のことを思い出してみた。 えーと、えーと、そうだ…ぼく、木から落ちたんだよね…。 ナゾノクサに助けられたことはぼんやりと覚えている。 しかしその後の記憶があいまいで…あぁ、ぼくは気絶したのかも。 それでセージュさんとチョマがここに運んできてくれたんだ…そうに違いない。 なかなか洞察力は鋭いようだ。アオイの推理はずばりその通りで、セージュがアオイをチルタリスに乗せてここまで運んできたのだった。 だけど”ここ”の場所が分からない。 アオイは思い切って、隣のギプスをはめた足を吊っているおじさんに声をかけてみた。 「あ、あのー。ここ、どこですか?」 おじさんは顔をしかめながら 「見てわかんねぇのか坊主、病院に決まってるだろ。」 と、ぶっきらぼうに言った。 「あ、いやその…そうじゃなくて。」 病院だということは周りを見ればすぐわかる。 もっと別のことを聞きたかったのだが… |
ゆうま | #32★2005.09/04(日)20:20 |
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そのとき、病室の扉が開いた。 現れたのはセージュだ。アオイがおきているのを見ると、すぐさま近づいてきた。 「アオイ君、大丈夫かい?」 とても心配そうな顔で言うセージュに、アオイはなんだか申し訳なく思ってうなだれた。 「傷、痛むの?」 ところがセージュは余計に心配そうな顔になって、アオイにずいっと顔を近づけた。 「い、いえ…そうじゃなくて、その…。ぼく、また迷惑かけちゃいましたね…。」 「迷惑だなんて、そんな…」 「ほんっと、迷惑だぜ!」 アオイの言葉を否定しかけたセージュのセリフをさえぎって、いつの間にか来ていたチョマがアオイのベッドにずんずんと進んできた。 「何やってんだよお前!」 「チョマ君、ここは病院だよ…」 周囲を気にして、セージュは大声を出すチョマを止めようとする。 しかし、隣のおじさんがセージュの背中をついつい、とつついた。 ふり向くと、おじさんは黙って首を横に振る。 止めるな、やらせてやれ。 病室の全員が同意見のようで、セージュが見渡すと皆が皆うなずいた。 チョマとアオイはその様子に気づかない。 セージュはチョマの肩に差し出しかけた腕をすっ…と引き、固唾(かたず)をのんで見守った。 「昨日の夜…よくはわかんなかったけど、とりあえずお前が木から落っこちて、ナゾノクサがそれを助けたってことだけは分かったよ。 …何でそんなことしたんだ?夜で周りもよく見えないのに木に登ったら、落っこちるに決まってんだろ!?」 呆然と、アオイは怒りで顔を真っ赤にしたチョマを見上げた。 「お前もナゾノクサも、2,3日は絶対安静だとよ!」 「はづきも…!?」 アオイの顔から血の気が引き、真っ青になった。 「大きな音がして外を見たときは、お前もナゾノクサもぐったりしてた。俺…」 チョマの声が震える。 体も、カタカタと小さく震え始めた。 「赤い、花びらが…血に見えて…。お前がし、死んでるかと思って…」 うつむきながら言う途切れ途切れの言葉は…泣いている様にも聞こえた。 「チョマ君…」 セージュは心配で、震える小さな両肩に手を置いた。 「いや、下手すりゃ死んでたかもしれないんだぞ!!」 怒りのためか、それとも恐怖を追い払うためか…チョマは必死で叫んだ。 ひと呼吸おいて、続ける。 「ナゾノクサだって、死にかけてたぜ… ”はなびらのまい”なんてただでさえ疲れて混乱しちまうような技なのに、あんなに大量の花びらを出してたんじゃ…当然だけどな。」 アオイはぐっ、と唇を噛み、目を伏せた。 チョマの言葉のひとつひとつが、突き刺さるようで。 「ポケモンに無茶させやがって…トレーナー失格だ! それだけじゃない、危機感の無いお前に旅なんか出来ない!」 はぁ、はぁ… 思うままに叫んだため、呼吸が乱れる。 息を整え、少しだけ冷静さを取り戻したチョマは静かに言った。 「アオイ、お前…家帰れよ。その方がお前のためだ。」 ばしっ、とセージュの手を振り切ると、ふり返りもせず病室を出て行った。 |
ゆうま | #33☆2005.09/13(火)14:50 |
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しばらく、沈黙が降りた…。 しかし次第にざわざわしはじめ、あちこちで話し声がする。 「おい、今のってバンショウ博士の三男坊だよな?」 「凄い剣幕だな。さすがバンショウ博士の息子!」 「ありゃでかい人間になるぞー。」 チョマの父・バンショウ博士はハジツゲタウンではちょっとした有名人だ。 彼は、ハジツゲの近くの”りゅうせいのたき”での調査のため何度もこの町に足を運んでいる。 研究者とはとても思えない、町の力自慢も驚くほどの屈強なその肉体と粋な性格が評判を呼び、この町では人気者になっている。 「アオイ、くん…」 セージュには、その喧騒が耳に入らなかった。 てっきり泣き出すかと思っていたのに、アオイは泣いていなかった。 ただ黙って、静かに天井を見上げている。 それに少し…違和感を覚えて。 「大丈夫かい?アオイ君。」 笑顔を作って、なぐさめるように灰色の髪をさらりと撫でる。 「ごめんなさい…少し、一人にしてください。」 痛々しげな様子で言うアオイ。 さっき唇を噛んだ所為で、すこしだけ口の端に血が滲んでいる。 沈痛な面持ちで、少しだけためらいながら…セージュはアオイから手を離した。 そして、ほんの少しだけ振り返ってから病室を出た。 いまだ続くざわめきを後にして。 「トレーナー失格、か…」 がやがやと騒がしい中、アオイはぼそりとつぶやいた。 「はづき…大丈夫かな」 窓の外に目を向けて、アオイはナゾノクサを思った。 頭の中にフラッシュバックする…赤いはなびらがうずまく光景。 アオイを助けたために、ナゾノクサは傷ついた。 そもそもアオイが好奇心でナゾノクサを追わなければ…こんなことにはならなかっただろう。 「ぼくのせいで…。」 アオイは泣きたくなった。でも、泣けなかった。 なぜだか分からないけれど涙が出ない。恐らく、もう泣けるほどの気力も無いのだろう。 疲れた… ひとつため息をつくと、目を閉じた。 考えることはたくさんある。でも、今は多分無理。 今は、休まなきゃ。色々なことは目が覚めたときに考えればいい。 そうしてアオイは、睡魔に身を任せた。 |
ゆうま | #34★2005.10/03(月)09:48 |
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≪第11説≫ ゆらゆらと揺れる景色が、目の前に現れる。 どこか遠いような世界。 あぁ、これは夢だ… 昔のぼくの夢。 まだ旅に出るずっと前、ポケモンの存在すらあいまいにしか知らなかったあの頃。 少年は暗い部屋の中に居た。 カーテンは閉められ、ほんの少し開いた隙間から差し込む光がまぶしい。 静かに静かに蠢く、無数の発光ダイオードの光達。 部屋の壁ぞいに並ぶいくつもの機械の塊。 ばらばらにされた部品、基盤、プラスチックの外装、たくさんの工具… 少年は、それらをおもちゃのように弄んでいた。 静かに静かに、扉が開かれる。 少年は持っていた部品を投げ捨て、扉の向こうから現れた女性に抱きついた。 軽い少年の体をふわりと受け止めると、女性は座り、その膝の上に少年を乗せた。 彼女は少年の頭をゆっくりと撫でながら、問いかけた。 『ねぇ、アオイ君…今は楽しい?』 少年は笑顔で返す。 『うん。きのうもおとうさんから、あたらしいのもらったんだよ。でももうこわしちゃった。』 その言葉に彼女はほんの少しだけ眉をひそめて…けれどそれを少年に悟られないように、笑顔になった。 『アオイ君、お外では遊ばないの?』 『んー、あんまりきょうみないし…』 『そう…。でもお外には、いっぱいポケモンがいるよ。』 『ポケモン?このあいだみせてくれた、はっぱのついたやつ?』 『えぇ、あれはナゾノクサというポケモン。ポケモンは他にも色んな種類が居るの。 ポケモン達はこの世界中のどこにでも居る、人間の大切なパートナー…。 きっとアオイ君とも一緒に遊んだり、お友達になってくれるわ。』 女性の言葉を分かっているのかいないのか、少年はただきょとんとして彼女を見上げていた。 それを見て、女性の瞳が哀しみに陰る。 『…アオイ君、私はもうここには来ないわ。』 『!?な、なんで!?』 少年は思わず叫んで、女性の洋服を掴んだ。無表情に近かった顔はあと少しで泣きそうな顔になる。 『私の所で育てているナゾノクサが増えてきたから、場所を移動するの。ヒワマキシティの方向だから、大分遠くなるわ。』 『ぼく、ゆかりさんにあえなくなるのやだよぅ…』 大きな目に大粒の涙が盛り上がって、ぼろぼろと崩れ落ちる。 女性は凛とした瞳で少年を見つめて言う。 『もしもアオイ君が10才になってポケモントレーナーとして旅立ったら…そのときは私に会いにきて。』 触れる暖かい手が灰色の髪から離れて、紫色の残照を残しながら女性の姿が消えていく。 うん…ユカリさん、ぼくポケモントレーナーになるよ。 それで、ユカリさんの夢を叶えてあげるんだ。 「ユカリさん…」 アオイはぱちっ、と目を覚ました。 そのまま、思考が停止する。 「あ…」 あれ? 今なんか、夢見てた気がする… どんな夢だっけな? |
ゆうま | #35☆2005.09/26(月)21:06 |
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「アオイ君、起きた?」 「セージュ…さん…?」 何となく、目に見えたものが信じられなかった。 記憶があいまいで、何が起こったんだか良くわからない。 寝ているのに頭がくらくらして…気持ち悪い。 「大丈夫?まる1日寝てたんだよ。」 あぁ、だからお腹空いてるのか… と、思った瞬間、お腹がぐぅと鳴った。 「あ…」 恥ずかしくなって、あわててお腹を押さえる。 真っ赤になったアオイの顔を見て、セージュはくす、と笑った。 「良かった、元気みたいだね。」 「うぅ…」 からかわれてる… アオイの顔はさらに赤くなり、いまにも蒸気が登りそうだった。 「今、ご飯もらってくるから。」 立ち上がって病室を出るセージュの後ろ姿は、何となく嬉しそうだ。 「…はぁ。」 何となくため息をついてから、とりあえず状況判断につとめた。 まず、今いる場所。 周りはケガ人ばかりなので、おそらく病院だろう。 ぼく自身もところどころ体痛いし、包帯が巻かれているのも感触で分かる。 で、何でぼくがケガしてるのかというと… 「…何となく、思い出せてきた…」 絡んだひもがほどけるように、混乱していた記憶がはっきりしてくる。 チョマに言われた言葉も、思い出した。 思い出してまたずぅん…と暗くなる。 「トレーナー失格かぁ〜」 ながーいためいきと共に、ダルそうに言う。 そこへ、セージュが病院食を持ってやってきた。 「あれ?どーしたのアオイ君、具合悪いの?」 「あ、いえ…お腹空いて力出なくて。」 「じゃ、いっぱい食べて元気出してね。」 ベッドの上にテーブルが設置され、そこにトレーに置かれたご飯が乗せられる。 セージュの手を借りて上半身だけ起こし、アオイは手を合わせて挨拶をして、はしを取った。 量はそこそこ。味はうす味だったけれど、想像していたよりも良かった。 「ごちそーさまっ!」 あっという間にたいらげて、感謝を捧げるように手を合わせ、目を閉じる。 「これだけ食欲があれば、傷もすぐに治るね。」 アオイの食べる様子を終始嬉しそうに見ていたセージュは、食べ終わった食器とトレーをさげにまた病室を出た。 セージュが戻ってきてから、アオイはこれまでの状況を聞いた。 まず、最初のアオイの予想通り…アオイが落ちる音を聞いたセージュとチョマの二人は、倒れているアオイとナゾノクサを発見して慌てて病院に連れて行った。 チルタリスに3人は乗れないので、セージュがアオイをつれてハジツゲタウンへ飛び、チョマはセージュのライボルトに乗ってその後を追う形になった。 ハジツゲタウンについたとき、病院は大変な騒ぎになっていたそうだ。 ハジツゲ近くの”りゅうせいのたき”で事故が起き、そこで化石の調査をしていた研究員、土木作業員らが生き埋めになってしまったらしい。 セージュはアオイを病院に預け、アオイのポケモン達をポケモンセンターに運んでから、その救助作業を手伝っていた。 それが終わった頃にチョマがやってきて、一緒にアオイの様子を見に行ったときに丁度、アオイが目覚めた… そして昨日に至る、というわけだ。 |
ゆうま | #36☆2005.10/03(月)03:08 |
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「…結局あの後、チョマ君はカイナシティに帰ったよ。 僕が預けた化石を、一刻も早くバンショウ博士の元に持っていきたいって。」 「そう、ですか…」 何だか、嫌な別れ方になってしまった。 ケンカしたまま仲直りも出来ず、チョマは帰ってしまったのだ。 (せっかく…初めて出来た友達だったのに…) 原因が自分にあるので、自分を責めるしかない。 結局、ため息をつくしかなかった。 「それにしても事故、ですか…。だからこんなにケガ人が…」 きょろりと周りを見渡す。 確かに、ごつくていかにも力仕事していそうな人しかいない。 ここの病室が割り当てられたのは土木作業員の人たちだろう。 「どうやら、人為的(じんいてき)らしいんだけど、ね…」 「人為的?人がやったってことですか!?」 「確証は無いらしいんだけど…」 「いいや、あれはアブソルがやったんだ!」 突然、隣の足を骨折したおじさんが話に割り込んできた。 鼻で荒い息をして、興奮しているようだ。 「あのわざわいポケモンのアブソルが、俺達にわざわいを呼びやがったんだ!…いまいましい!」 「アブソルだけじゃない。人間も居たぜ!あのガキがアブソルに指示して岩盤を崩しやがったんだ!」 別の人も声を荒げて騒ぎ出した。 とたんに喧騒がわく。 「あの、セージュさん、アブソルって…」 「えぇと…わざわいポケモンに分類される、あくタイプのポケモンだよ。」 「あくタイプ?そんな属性もあるんですか?」 「うん、だけど…アブソル自体は、本来は”わざわいを教えてくれる”とても良いポケモンなんだよ。」 「でも、みんなはアブソルがわざわいを呼んだ、って…」 「そう誤解されることもあるんだ。…どうやら今回のは、誤解じゃないみたいだけどね…」 セージュが悲しそうな顔でそう言ったとき。 バタン!! 「何を騒いでるんです!病院ですよ!」 大きな音を立てて扉が開き、婦長さんが現れた。 とんがった眼鏡の奥の目がぎらりと光り、恐ろしい形相で病人達をにらみつける。 途端に皆静まった。 |
ゆうま | #37☆2005.10/09(日)19:05 |
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≪第12説≫ それから2日が経った。 五月晴れというにはまだ早いが、陽の光は暖かく、日光浴には良い日和の今日。 ハジツゲタウンの病院の中庭からポケモン達の楽しげな笑い声が聞こえてきた。 サボネアはごろごろと転がり、それをジュプトルが追いかけ、ルンパッパはきれいな花の匂いを楽しんでいる。 今朝ポケモンセンターから戻ってきたばかりのナゾノクサと、パジャマの上に上着を着たアオイは、まるで子どもを見守る母親のようにベンチに座ってそれを眺めていた。 ナゾノクサは大分弱っていたらしいが、養生させたおかげでそこそこ元気は戻ってきているようだ。 アオイのケガも大分良くなり、動いても支障はない程度に痛みも引いている。 ここに来てから、時間はのんびりと過ぎた。 最初の2日に、あまりに色々な事があったせいもあるだろう。 ただ、ゆっくりと緩やかに流れる時間が…とても幸せに思えた。 ほんの数日前にも同じような時間の流れの中で生きていたのに。 また…チョマのセリフが、アオイの頭をかすめた。 『家帰れよ。』 そう、家に帰れば、また元に戻る。全てが。 だけど、ぼくの決意ってそんなもんだったっけ。 ナゾノクサをひざに乗せて日向ぼっこをしながら、アオイは考えていた。 すぐに家に帰れるから、なんて生半可な気持ちで旅に出たわけではない。 けれど、もう二度と帰れなくなる覚悟で…というほどせっぱつまった気持ちでもなかった。 ただ…そう、ユカリさんの夢を叶えたかったから…。 だから、草ポケモンのジムを作りたかった。 ユカリさんの望みを叶えてあげたいと…その一心で旅に出た。 「はづきは、どうしてぼくについて来てるの?」 ふと疑問に思って、ナゾノクサに問いかけてみた。 ナゾノクサはじっと目をつぶり、光合成にいそしんでいる。 「あんな目にあって、嫌じゃなかった?ぼくのこと、嫌いにならなかった? …うーん、好かれてたわけでもないのにこの表現は変かな…?」 ナゾノクサは答えるそぶりを見せずただ黙っている。 アオイはナゾノクサをベンチに置いて、他のポケモン達にも質問してみた。 「るんるんは、どうしてぼくについてきたの?セージュさんの方が良いだろうに。」 「ネアはぼくに捕まったけど…逃げたいなら今だって逃げていいんだよ?」 「もりよしも、どうしてぼくについて来てるの?」 皆一様にぽかんとして、アオイの言葉を聞いていた。 いつのまにかポケモンに囲まれつつ、アオイはPHSを取り出した。 「ねぇ、もしも君達が望むなら、今すぐ野生に戻ってもいいよ。 ぼくはすぐさまPHSから登録を解除する。 ぼくが君達のトレーナー、とは言っても…ポケモンにだって、トレーナーを選ぶ権利はあるんだ。 ぼくなんかより…きっと、他の人のところの方が…」 後半の方は泣き声混じりで、言った。 どれほど伝わっているのかもわからない。 しかし、ポケモン達はおとなしく話を聞いてくれていた。 アオイがPHSを持ったまま立ち尽くしていると、ルンパッパがその肩をぽんぽん、と叩いた。 目をうるませながら顔を上げると、ルンパッパはにこっと笑って… みずから、ベンチの上に転がっていたモンスターボールに戻った。 アオイが、へ?と呆気にとられた横で、ジュプトルも肩をすくめながらモンスターボールへと戻っていく。 サボネアもあわてた様子でモンスターボールに入った。 「みんな、どうしたの?」 アオイはうろたえて、ボールを手に取り、中をながめる。 ナゾノクサがちょいちょい、と葉っぱでつついてきた。 アオイが振り向く。 …ナゾノクサはこくりと頷くと、やはりモンスターボールの中へ入っていった。 「どういうこと…?」 その意図が分からずに、アオイは首を傾げた。 |
ゆうま | #38★2006.02/17(金)22:58 |
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「ようは、ついて行くっていう意思表示じゃないかな?」 「うわっ、セージュさんいつの間に!?」 突然背後にセージュが現れた。 彼は土砂崩れのあったりゅうせいのたきの復旧作業を手伝っているはず… 「昨日の夜に終わって、今帰ってきたんだ。アオイ君の様子を見に行こうと思ったら中庭に居るって言われたから。」 「じゃあ、今の聞いて…」 「盗み聞きするつもりじゃなかったんだけどね、ごめん。」 片手で謝罪のポーズをして、セージュは素直に謝った。 「いえ、気にして無いです。それよりあの、意思表示って…。」 「モンスターボールに入ったということは、アオイ君を自分のトレーナーとして認めているってことだよ。」 言いながらモンスターボールを指差すセージュ。 その動きにつられて、アオイも自分の持っているモンスターボールを見下げた。 赤と白の2色で構成された、4つのモンスターボール。 そのひとつひとつに、自分からすすんで入ったポケモン達。 これ以上の答えがあるだろうか。 アオイは嬉しくて、泣きたくなった。 こんなにダメなぼくにだって、一緒に居てくれる仲間が居る。 はじめて、自分のポケモンをただの”ポケモン”ではなく、”仲間”だと思えた…その、瞬間だった。 アオイはうつむいて、ずっとボールを見つめていた。 けれど少したってから、小さく話し出した。 「セージュさん、ぼく…」 そこで一旦、言葉が途切れる。 ほんの少しのためらいの後、続きの言葉をつなげた。 「ぼく、トレーナーでいいのかな…?」 その様子を穏やかな瞳で見つめながら、セージュは聞いた。 「アオイ君はどうしたい?」 そこでまた、間が空いた。 えんとつやまから降りてきた風が中庭の木々を揺らす。 「ぼくは…」 「ぼくは、ポケモントレーナーでいたいです。」 まっすぐ上げた顔、その瞳は、強い意志に溢れていた。 「まだ何も分からないから失敗したり、色んな人に迷惑かけたりするけど… でもぼく、だからもっと色んなこと知りたいです。 ポケモン達の事も、もっと…もっと理解したい。 何より、こんな駄目なぼくにだってついてきてくれる皆の気持ち、無駄にしたくない。 皆と一緒に、夢を叶えたいです。 だからぼく…旅を、続けたいです。」 頭の上に、大きな手のひらが乗った。 「その気持ちを忘れなければ、きっと夢は叶うよ。 人は皆、大きな可能性を持っているんだから。」 優しく暖かい笑顔。 彼はいつもその笑顔で、アオイを包んでくれる。 「…はい!」 アオイも笑顔になってうなずいた。 昼過ぎに準備を整えて、二人は病院の前に立っていた。 「アオイ君はこれからどこに行くんだい?」 「ぼくはチョマに会いに、カイナシティに行こうと思います。…まだ、ゴーグル返してなかったし。」 チョマに借りたゴーグルはアオイが持ったまま、リュックにぶら下がっている。 「セージュさんはどうするんですか?」 「うん、例の事故を起こしたっていうアブソルと人間が気になるから、カナシダシティの方に行くつもりだよ。 位置的に見て、カナシダ方面に向かったはずだからね…。」 「そうですか…」 「それじゃあまたね、アオイ君。」 セージュは笑って言った。 「…はい、また。」 アオイは少しさびしそうに笑って言った。 そして二人は同時に振り向き、互いに反対方向へ歩き出した。 アオイの行く先には、灰に包まれた草むらがある。 けれどそれよりずっとずっと先―…これからの旅路には、きっと多くの出会いがあり、多くの喜びがあり、多くの困難もあるだろう。 (だけど、ぼくは…ぼく達は、行くんだ。) 緑あふれるこの世界を、どこまでも歩いていく。 ―緑の旅路を。 <緑の旅路‐GREEN ROAD− 第一部・完> |
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