ぴくの〜ほかんこ

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[68] テイルズオブクライシス 改訂版

ミャル #bak1★2003.11/22(土)06:39
第11章 決意 - The Resolution -


 サカキの放った2つのボールは、空中で開き、赤い閃光を放つ。
 その先に出てきたポケモン―――ニドキングとガルーラだ。
「やれ」
 サカキは自分のポケモンたちに冷たく言い放った。
 2匹はただうなずき表情を作らずに、向かってくるクレナたちの前に立ちはだかった。
「とりあえず建物の中は不利だ! 外へ連れ出すんだ!」
 ストライクが走りながら叫んだ。
 2匹のポケモンたちの前へと来る前に、クレナとポッポは前衛のストライクとピカチュウと距離を置いた。
 いつも通りの戦いのスタイルだ。
「ピカチュウ、どっちか吹っ飛ばせるか!?」
 ストライクが言い放つ。
「やってみるピカ!」
 ピカチュウはそういうと立ち止まり、自分の体の前で手を向かい合わせる。
 みるみるうちに白い光の玉ができあがり、だんだんと大きくなっていく。
 その間ストライクは前の2匹をできる限り食い止めている。
 時々バチバチとスパークがほとばしるピカチュウの作り出した気が、作った本人並みまで大きくなる。
 その気の玉を、腕を前に出すのと同時に前へと放つ。
「双撞掌底破(そうどうしょうていは)!」
 ピカチュウが叫んで放った双撞掌底破は、まっすぐにガルーラに向かっている。
 その体に当たり、光が四方八方へと発散していく。
 ぎりぎりでガルーラはピカチュウの攻撃を、両腕を使ってガードしていた。
 だが当たってから時間が経つにつれてその威力が増しているようで、やがてガルーラは気の爆発とともに後ろに吹っ飛び、建物の外へと強制的に突き出される。
「ポッポ、思いっきり『かぜおこし』できる?」
 後衛のクレナが隣にいたポッポに訊いた。
「…わかったっぽ!」
 今まで魔術を専門的につかっていたポッポは一瞬とまどったが、ここぞというときに使える本来自分に備わった技を使うことを了承した。
 ポッポは飛ぶ高度を少し高くして、翼を思いっきり横にのばす。
「ぽおっぽぉお!」
 声を上げて翼を何度も思いっきり羽ばたかせ、ポッポは風をおこし始めた。
 だが普通のポッポ並みの『かぜおこし』にはとどまらない威力だった。
 父親の力を受け継いだのだろうか、台風がきたかのような風の強さだ。
 部屋にあったいろんなものが吹き飛びはじめる。
 横にいたクレナも、自分の体を支えるのがやっとだった。
 その風下にいるニドキングの重い体も、だんだんと後ろへと足が引きずられていく。
 そして、やがて建物の外へと追い出され、ガルーラが吹き飛ばされたところまで引きずられた。
「よし、みんな本気で頼むぞ!」
 敵が建物の外へと追い出されたのを確認して、ストライクが仲間たちに言い放った。
「まっかせて!」
「はいピカ!」
「いきますっぽ!」
 クレナたちは元気のよい返事をし、ピカチュウはストライクの方へと走り出し、クレナとポッポは魔力を高め始める。
 ストライクは自分の鎌に力を集中させ、魔神剣の時の体勢をとる。
 だがそれはクレナたちと出会ったときに放った力よりもずっと大きなものだ。
 体勢の整ったばかりの2匹にむかって、ストライクは離れた位置で鎌を横になぎ払い、衝撃波を作り出す。
「魔神剣・双牙(まじんけん・そうが)!」
 ストライクが叫び、なぎ払った時に生まれた衝撃波が2匹めがけて押し寄せる。
 その衝撃波がヒットすると同時に、ストライクは鎌を真上から縦に両断し、第2の魔神剣を繰り出す。
 第2の魔神剣が2匹にヒットすると、その衝撃波が体を切り刻むのを2匹は感じ取る。
 ストライクの攻撃でひるんだニドキングとガルーラが上を見ると、ピカチュウが自分たちめがけてジャンプしている。
 ある程度の高さからピカチュウは足を突き出してガルーラめがけて斜め前へと急降下した。
「散華猛襲脚(さんかもうしゅうきゃく)!」
 跳び蹴りでガルーラの懐に飛び込んだピカチュウはそのままガルーラの体に三連回し蹴り―――三散華を浴びせる。
 小さいからだから繰り出される、想像つかない威力の蹴りを食らい、ガルーラの体は後ろへとのけぞる。
「エアスラスト!」
 ガルーラの方に気をとられていたニドキングに向かって、ポッポの放った風属性の魔術が押し寄せる。
 体に当たった風の玉はその場でニドキングの体を切り刻む。
 相当のダメージを負った2匹は完全にその場でふらついた。
 それをみて不意にストライクは後ろにいるクレナの方に振り返った。
「クレナ、オレの真上にファイアボールを撃ってくれ!」
 急にいわれてクレナはどきっとした。
「え!?」
「いいから早く!」
 なぜそんなことを、と思いながらもストライクなりの考えがあるのだろうとクレナは思い、魔力を高めた。
「いくよ!」
 クレナが合図を送り、右手をばっと上に突き出した。
「ファイアボール!」
 クレナが叫び、手のひらから火の玉が数発飛び出し、ストライクの真上に向かっていく。
「…今だ!」
 それを見計らったかのように、ストライクは少しずれたところから上に高くジャンプし、上下の二段切り―――虎牙破斬の上に向かって斬るような動作をした。
 そしてちょうど横にきたクレナのファイアボールを、虎牙破斬の振り下ろしの攻撃にあわせてファイアボールを弱った2匹に向かって押し出す。
「紅蓮剣(ぐれんけん)!」
 高いところから勢いをつけられた大きな炎の玉が2匹のいるところに落ち、そして爆発が起こる。
 同時に煙が上がり、2匹の様子は見えなくなる。
 やがて煙が晴れ、2匹の横たわる様子が映し出された。
「よし、終わり終わりっと」
 地面に降り立ったストライクは鎌を横で縦に素早く振り、顔を反対の腕でぬぐった。
 その陰からは笑顔が見える。
 横にいたピカチュウや、後ろにいるクレナとポッポにも安堵の表情が浮かぶ。
「もう、びっくりしたー。いきなり自分の方に魔術ぶっ放せだなんて」
 クレナがストライクに向かって愚痴を聞かせるように言った。
「ああ、なんも打ち合わせもしてねえからな。ぶっつけ本番でできるかどうか試してみた」
 ストライクは少し得意げに言った。
「でも結構いいピカね、協力技って」
 ピカチュウがにっこりしていった。
 物理攻撃と魔術のコンビネーションは場合によっては威力・使いやすさ共にシングル状態で放つ個々のものより優れることを今回クレナたちは思い知った。
「あれ? サカキは?」
 クレナが辺りを見回していった。
 ストライクたちもサカキの姿を見つけようとしたが、どこをみてもサカキの姿はない。
 クレナが後ろを振り返ってもカツラの姿しかなかった。
「…逃げられた…か」
 ストライクが静かに言った。
「でもなんでだろ…サカキは自分のポケモンにまったく技の命令を与えなかった」
 クレナが不思議そうに言った。
「…おそらく感情を殺させたのだろう」
 クレナの後ろからカツラが言った。
「彼にとってはこのポケモンたちは単なる操り人形にすぎないのだろう。自分のポケモンが瀕死の状態なのに帰ってくる気配はない。おそらくこのポケモンたちは捨て駒だろうね」
 カツラは倒れている2匹のポケモンたちを見ていった。
「もしこのポケモンたちが捨て駒で、私を狙ってきたというのも本来の次の目的であったならば…」
 クレナたちの方をじっと見てカツラは続けた。
「よほど大切なことがあってそちらを優先した可能性が高い」
 カツラの言葉を聞いてポッポははっと何かに気づいた。
「…もしかして、完成しちゃうっぽ…!?」
「そんな…!」
 クレナは口を手でふさいだ。
「は、早くタマムシシティに行くピカ!」
 ピカチュウがまくし立てていった。
「カツラさん、タマムシシティにすぐ戻る方法はありませんか!?」
 クレナがせわしくカツラに訊いた。
「うーん…」
 カツラは少し考えを巡らす。
「…そうだ! ちょっと待っていなさい」
 そう言ってカツラは奥の部屋へと出て行った。
 少し経って戻ってきたカツラの手にはモンスターボールが。
 カツラは上にボールを放った。
 ボールは空中で開き、赤い閃光を放ち、空中で一つの物体を形成し始めた。
 光がだんだんと、灰色の皮膚を形成し始め、形もはっきりしてくる。
 そしてその姿が明らかとなった―――大きな口、そして翼。
「プテラだよ」
 カツラは微笑んでいった。
「プテラって…あの化石からよみがえったっていうあれですか?」
 クレナが少々驚いていった。
 プテラといえば10年前にさんざんニュースで話題になった、コハクから古代に絶滅したとされるポケモンをよみがえらせる装置によって、現代にその姿を再び現したというポケモン。
 たまにオーキド博士からそのような話を聞かされる程度のクレナにとってはプテラを見るのは初めてだった。
「そうだよ。このプテラに乗ってタマムシシティまで行けばだいぶ時間はかからないだろう」
 カツラはクレナたちに言い聞かせた。
「頼む…ミュウツーはこの世界に生まれてきてはいけない存在だ…なんとしてでも食い止めてくれ」
 急にカツラは真剣みをいっそう強く増して言った。
「…わかりました」
 一瞬カツラの言った言葉にクレナはとまどった。
 『ミュウツーはこの世には生まれてはいけない存在』と言ってたが、もしも結果的に生まれてしまったら。
 いくら人の手によって生まれたからといって生きてることにはかわりない。
 だとしたら――――。
「おい、クレナ行くぞ!」
 はっとクレナが気がつくと、ストライクたちとプテラが建物の外へといつの間にか出ていた。
「…あ、うん」
 クレナが意識なく返事をした。
「あの、カツラさん…さっきの話の続きなんですが…」
 クレナは先ほど中断された話を最後に続けた。
「ミュウツーの弱点…教えてください」
 クレナは静かにカツラに訊いた。
「……」
 カツラは一瞬黙ったが、少し経ってその口を開けた。
「雷にだけは耐性をもっていないはずだ」
「雷…電気ですか…」
 クレナは静かに言った。
「だが生ぬるい威力の雷ではだめだ。ミュウツーの体力を一気に奪うなら…上級魔術しかない」
 カツラは最後の言葉をすこし間を開けていった。
「上級…魔術」

「上級魔術なんておまえ使えるのか?」
 空を飛ぶプテラの上でストライクは訊いた。
「ううん、前まで初級魔術に手こずってたのに、ましてや上級魔法だなんて…」
 クレナは元気なさげに言った。
「ポッポくんは?」
 プテラの横でスピードをあわせてまっすぐ飛ぶポッポの背中に乗ったピカチュウが訊いた。
「うーん、中級ならもしかしたらできるかもだけど、上級はまだむりっぽ」
 飛びながらポッポは言った。
「上級魔法は初級魔法と違って、呪文の詠唱をしないと極端に威力が落ちるの。それに…」
「それに?」
 クレナはうつむいて続ける。
「雷の上級魔術は数々の魔術の中でも絶大な威力と高度な詠唱を必要とするとして、封印された」
「封印…?」
 ストライクが自分の後ろでプテラに乗るクレナに訊いた。
「もうどんな魔術の本にも載ってないよ。禁魔術として確かに世の中には存在はするけど、それを知るすべはないの」
 クレナは落ち込んでいった。
「ミュウツーを倒すにはこの方法しか…本当にないのかな…」
 今までは本にあった魔術を放てばよかったが、今回は放つべき魔術の名前さえわからずにいる。
 また落ち込むクレナを見てストライクは話題を少し変えようとした。
「そう言えばクレナ、おまえあのときの腕の傷は?」
 ストライクがクレナに訊いた。
 夕方、ミュウとの戦いで、ミュウのレイトラストを腕で防ぎ、赤黒く変色した腕をクレナは見た。
「…まだ少しズキズキするかな…」
 痛々しいものをみてクレナは言った。
「…自分で買ってきたものを使ってみる価値はありそうだな」
 ストライクが少しそっけなく言った。
「あ、そっか!」
 そう言ってクレナは自分のリュックを目の前に持ち出し、その中を手で探る。
 少ししてその手には、ハナダシティで買った、ストライクに「無駄遣い」とまで言われたアップルグミがあった。
「えーと…一個食べればいいのかな」
 急いで説明書きをみてクレナは言い、自分の左手に出した一つのアップルグミを口に入れた。
 食べてみたその味は紛れもなくリンゴ味。
 普通のグミとかわらないのかな、とクレナは思ったときだった。
 急に自分の腕の痛みが晴れた。
「あれ…?」
 傷ついていたはずの腕をクレナが見る―――やけどの跡がなくなっている。
「すごーい! やっぱりこれは無駄遣いじゃなかったね!」
 クレナの喜ぶ声を聞いてストライクは笑顔をクレナに見せずに前に向かって出した。
「食べすぎんじゃねえぞ、一応薬なんだからな」
 ストライクがいつもの調子で言った。
「わかってる!」
 そう言いながらもこっそりオレンジグミを口に入れた。
 するとだんだんと疲れがとれていくような感じがした。
 あとで説明書きを見ると、アップルグミは傷の治療、オレンジグミは疲労や精神の治療のためのものだった。
 魔術を今日何回も放ったクレナにとって、オレンジグミを食べることはよい選択だったのかもしれない。
「カントーの大陸に入ったピカ!」
 ピカチュウが大きな声を上げた。
 下を見ると、最初に出発した町マサラタウンが見える。
 そして行き先には夜のネオンを放つ、タマムシシティ。
「もうすぐだな…」
 ストライクが静かに言った。
 クレナ以外の、ストライク、ピカチュウ、そしてポッポは決意はまっすぐに、一つの方向を目指している。
 プテラとポッポはそこへとまっすぐにためらいなく飛ぶ。
 ―――すべてはミュウツーを止めるために。
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ミャル #bak2☆2003.11/24(月)13:15
第12章 悪夢 - The Nightmare -


 暗く、暗く広い部屋。
 嫌気がさすような様相を放つ建物の中。
 黒の世界に一部分、ほのかな光を放つ場所。
 その光は真っ白ではない―――不気味に紫がかった白い光。
 黒い服を着た人間たちがたくさん、そして一部白衣を着た人間たちが、その光を放つものの周りに集まっている。
 光を放つもの…それは人工的に作られたであろう、ポケモン。
 首や腕、脚をつながれ、養分がとけ込んでいる液体で満たされるカプセルの中で眠っている。
 ゴポッ…ゴポッ…、と液体が泡を作りだし、上へと上がる。
 ふと周囲が少し騒がしくなる。
 白衣を着た人間たちが何かの装置を動かす。
 すると低い音とともにカプセルに一瞬バチバチと閃光が走る。
 あまりのまぶしさに、周囲の人間たちは目を一瞬覆った。
 そして再びその目を開ける。
 カプセルの中のポケモンが、その目をゆっくりと開けているのが見えた。
 体の色よりも深い、紫がかった黒い、冷たい目。
「目覚めたか、ミュウツーよ」
 スーツを着た男が前に出て言った。
 紛れもない、ロケット団のボス、サカキだった。
「……ミュウ…ツー…? …私の名か…?」
 目を半開きにしてそのポケモンが静かに訊いた。
 その声は低く、カプセルを通じて部屋全体に響く。
 周りの人間たちの一部には、歓声を上げるものがいた。
 その大部分は団員の方だった。
 科学者たちは団員たちとは違って絶望的な表情をかもし出していた。
「そうだ…お前は我々が造り出した忠実なポケモン。我々の命令を聞くためだけに生まれたのだ」
 いやみったらしいあの声でサカキは言った。
「…お前たちの命令…だと…?」
 ミュウツーの眉がぴくっと動く。
「お前は『最強』の称号を持つポケモンとして我々とともに行動してもらう」
 サカキは冷たく言い放った。
「…私に何をしろというのだ…何のために私を造り出した…?」
 ミュウツーは考え深げに言う。
 サカキはミュウツーの入ったカプセルに向かって一歩一歩歩み出る。
「お前は数々の実験を経て生まれ、究極の力を持つ。すべてのポケモンを超える力を持つのだ」
「…究極の…力…」
「そう、ポケモンの技はもちろん、お前は魔術の力をすでに得てある。この世を屈するほどの威力を持つ力をな」
 サカキはそう言って冷たく笑い、続ける。
「お前の力を持って世界を支配する…。長年かけて築き上げてきた我々の望みを―――10年前は潰(つい)えた望みをついに達するときが来たのだ!」
 サカキは両腕を広げて高笑いする。
 声は部屋中、いや、アジト中に広がって反響する。
 それにつられて、団員たちも一斉に歓声を上げる。
 声は何秒も、何十秒も、何分も続いたように思えた。
 その中でミュウツーは静かに目を閉じた。
 生まれてきたからには自分で今後を生きていくことができる―――。
 だが自分は利用されるために生まれてきた―――。
 究極の力を持って生まれてきた故に自分は利用される―――。
 そのためだけに自分は利用され、そして目の前にいる人間たちの欲望のままに振り回されることになる―――。
「……るな…」
 ミュウツーが静かに言葉を放った。
 それを聞いて団員たちがだんだんと静まりかえる。
「…ふざけるな…」
 ミュウツーは目を開き、団員たちをまじまじと睨みつけた。
「何…?」
 サカキは笑っていた顔を、人を疑うような顔へと変えた。
「…お前たち人間の望みを叶えるために私は生まれた、だと…?」
 深々とした声でミュウツーが訊く。
「それが何だというのだね?」
 サカキはまた冷笑する。
「ポケモンは人間の言いなりにすぎないのだよ。我々はそうやってポケモンたちを利用して我々の目的を達成しようと努めた。お前も所詮我々に利用される存在だ。今更何を言うのだね?」
 サカキが平淡とした顔で話す言葉がミュウツーの心に深く刺さった。
 自分の中でわき上がるものを感じる。
 サカキは自分の懐から紫色のモンスターボールを取り出す。
「我々に逆らうことは不可能だ。そのカプセルから出たらお前はこのボールの中に入ることになる」
 サカキはミュウツーにボールを見せながら言い放った。
「マスターボール…ヤマブキシティに本社のあるシルフカンパニーに作られた特注品だ。どんなポケモンでも接触したら最後、このボールの中に収まる」
「なぜお前がそんなものをもっている…?」
 ミュウツーが冷たく訊いた。
「…言わなくともお前は分かるだろうと思ったのだがね」
 サカキはため息をついて言った。
「我々はカントーにある様々な企業とは裏で結びついているのだよ。少し脅迫すればどんな企業でもこちらに乗ってくれるものだ。その中でも特に大きいのがシルフカンパニーというわけだ。カントー全土の物品のほぼ全部を売り出す大企業と結びつけば、このようなボールなど簡単に手に入る」
 ボールを何回か真上に放り投げながらサカキは言った。
「…なるほどな」
 ミュウツーは初めて笑いを見せた―――冷たい笑い。
「ではそろそろ始めるとしようか、ミュウツー」
 サカキが冷淡な笑いとともに切り出した。
「ボールに入れ」
 ミュウツーは目を閉じた。
 しばしの沈黙。
 そして答えを出す。
「…断る」
「…それがどういうことを意味しているのか分かっているのかね?」
 サカキの顔から笑みが消えた。
「…それはこっちの台詞だ、人間ども」
 ミュウツーが静かにそう言うと、ミュウツーの体が光り出した。
 まぶしい閃光故に、みな目を覆う。
 その直後に激しくガラスの割れる音。
 ものすごい風が吹き、サカキをはじめ、団員たちがみな目を開ける。
 ミュウツーが入っていたカプセルが割れ、押さえていた鎖がすべて壊れている。
「おい! ミュウツーの機能を停止させろ!」
 サカキが脇の方にいる科学者たちに大声で言い放つ。
 とっさに科学者のうちの一人が装置のレバーのうちの一つを倒す。
 ―――何も起きない。
「だめです! 完全に装置が故障しています!」
 科学者のあわてふためく大声が響き渡る。
 カプセルの残骸の上でミュウツーは右手をサカキたちのいる前方にゆっくりと突き出した。
 サカキはそれを見てとっさに団員たちに言い放った。
「力ずくでとめろ!」
 その言葉を聞いて団員たちは一斉にボールに手をかける。
 ―――が、遅かった。
 一瞬まばゆい閃光が走った。
 光が何秒か続いたかと思うと、次の瞬間一気に大爆発を起こす。
 爆風が吹き荒れ、周囲のものがどんどん壊れ、吹き飛ぶのが、目をつぶっていて見なくても分かる。
 しばらくその状態が続く―――地獄だった。
 爆風が止んだような感じがして、目をゆっくりと開けていく。
 天井は吹き飛び、上にあったゲームセンターも一緒に吹き飛んだらしい。
 周りは火の海だった。
 団員たちの倒れ込んで全く動かない体がいくつも横たわっている。
 ミュウツーを維持していた装置もほとんど吹っ飛び、今にも爆発しそうに火花を散らしている。
 ふと自分の横を見た。
 白衣の下に横たわる体…顔は見えなかったがスーツであっただろうものが見えた。
 そこへ聞こえる不気味な足音。
 靴の音ではなかった―――自分たちの造り出したポケモンが歩み寄ってきている。
「ま、待ってくれ…私はこの者たちに脅されて…!」
 後ずさりしながら必死に抵抗する。
「…脅された…そんな理由で私を造り出した…」
 冷たい声が聞こえる。
「人間たちの欲望…そんなものに私は振り回されるつもりはない」
 そう声が聞こえた。
 自分に向かって手を突き出す。
「や…やめてくれ…!」
 その言葉が聞き入れられるはずもなかった。
 自分の目の前にいるポケモンの顔は恐ろしいほど自分を睨みつけていた。
 造り出された憎しみ…最後の最後で痛切な気持ちを理解できた―――だがもう遅かった。
 ふたたび閃光があたりを包む。
 ――――――。
 沈黙が流れた。
 光が収まり、さっきの場所はもう跡形もない状況だった。
 微風の中で数カ所で黙々とあがる煙。
 その中でミュウツーは孤独に立っていた。
 自分の手のひらを見つめる。
 足を、そして体を。
「……私は…生まれてきてしまったのだ…」

「…ねえ、ストライク」
 タマムシシティへ一直線に向かうプテラの上でクレナは前にいるストライクに話しかけた。
「…何だよ」
「この戦いが終わったら…あなたどうするの?」
 真剣に訊いたクレナの問いにストライクは黙り込んだ。
 横を飛んでいたポッポは疲れていたせいか、今はプテラの背中に乗ってピカチュウと一緒に眠りに落ちていた。
 クレナはとばされないように小さな二匹を支えていた。
「…さあな」
 ストライクの答えはそっけなかった。
 間の抜けた返事にクレナはカチンと来た。
「ちょっとお! 人がまじめに訊いてるのにそれはないでしょ!」
 大声でクレナはストライクを一喝した。
「お前次第だっていってんだよ」
「え?」
 急な言葉にクレナはとまどいを隠せなかった。
「お前が本当にオレのことが必要ならば止めればいい。自分を見つける旅、それにオレが必要ならば、な」
「……」
 ストライクの言葉にクレナは言葉を失った。
「私は…」
 今までの冒険がクレナの脳裏に浮かぶ。
 初めてストライクと会ったとき、自分のことをストライクは助けてくれた。
 お月見山で自分がいなくなっても、ハナダシティで寝たきりだった時も、いつもストライクは自分のことを優先してくれていた。
 自分と同じ、記憶を持たない境遇を持ち、自分に尽くしてくれるストライクに対して、クレナは少しずつ心が広くなりつつあった。
「本当だったら、私はあなたと別れたくはないよ…」
 急に自分の声がかすれる。
 自分の目がかすんでいるのが分かる。
「でも、あなたも自分を探さなきゃならないじゃない…」
 ストライクははっとした。
 今まではロケット団のことしか考えてなかったが、クレナと同じ境遇を持つ以上、一番気になるのは自分の過去。
 もしこの戦いが終わったら自分はそのことを知るために旅をしなければいけないのではないだろうか。
 一瞬そういう感じがストライクの心の中に入ってきた。
「私のわがままであなたの意志を変えたくはないよ、ううん、変えられない」
 クレナはかすれる声を振り絞って言った。
「でもね…」
 クレナの言いかけにストライクは不意に耳を貸す。
「もしこの先自分探しの旅ができるなら、私とこの三匹でそろって旅がしたいな…」
 ストライクの心にクレナの言葉が響く。
 何も言えなかった。
 今後のことなんて考えてもなかったからだろうか。
「……クレナちゃん、ストライクさん、あれ!」
 いつの間にポッポが起きていた。
 今の話を聞いていたのかは分からなかったが、真剣な顔で一転を翼でさしている。
 翼でさす方向、そこへクレナとストライクが目を移すと、タマムシシティの高層ビルが建ち並んでいる。
 が、いつもと違う。
 夜のネオンで輝いているのではなかった。
「炎…」
 クレナがつぶやいた。
 紅くそまるタマムシシティ。
「間に合わなかったか…」
 ストライクが歯を噛みしめて言った。

 タマムシシティの入り口へと、プテラは降下し、低い音とともに地面に着地する。
 まだ眠気のとれないピカチュウを無理矢理おこし、ポッポが一番最初にプテラの背中から降りた。
 ストライクとクレナも続いて降りる。
 目の前に広がる炎の海。
 ピカチュウもその光景をみてぐっと息をのんだ。
「ありがと、プテラ」
 クレナがプテラの頭をなでながら言った。
「ギャア!」
 うれしそうにプテラは鳴き声を上げた。
「プテラ、カツラさんのところへ戻って」
 急に真顔でクレナはプテラに言った。
「ギャ…?」
 どうして?、と言わんばかりにプテラが首をかしげた。
 目の前の状況を見てどうにかしたいという気持ちがあることに代わりはないはずだった。
「あなたじゃ危険すぎるの。それよりカツラさんが今一人なの。ジムリーダーだから何とかなるとは思うけど心配だから…お願い」
 クレナが願うようにしてプテラに言い聞かせた。
 プテラはしばらくして深くうなずき、翼を広げる。
 そしてクレナたちにさよならを言い聞かせるようにまた一声あげ、もと来た方向へとスピードを上げて飛んでいった。
「犠牲は…増やしたくないから」
 クレナはプテラの飛んでいった方向を見つめてつぶやくように言った。
「行くぞ、クレナ!」
 ストライクの威勢のよい声。
「…うん!」
 クレナは真剣帯びた表情とともに返事をして、走り出した。
 ピカチュウとポッポもそれに続いた。

 暑い炎の海。
 周囲の建物は燃え盛り、周りの温度は異常に高かった。
 また一つ崩れ落ちる建物。
 街路樹は燃えさかる大きなたいまつのようだった。
 しばらくして町の中心と思われる広大な広場に出た。
 都会には似つかわしくない、白い石が敷き詰められた円形の広場。
 そばには噴水も見られ、今も絶えず水を上に噴き出させている。
「人がいない…?」
 クレナが最初に異変に気づいた。
 中心に向かって結構走ってきたのに誰ともすれ違わない。
「もう避難したか、それとも…」
 ストライクがそう言いかけた時だった。
 目の前から黒いエネルギー弾が自分たちめがけて飛んできているのが目に入った。
 クレナもピカチュウも、ポッポもそれにいち早く気づいた。
「みんな、跳んで!」
 クレナの合図とともにクレナたちはその場で高く跳んだ。
 地面にぶつかったエネルギー弾は爆発し、煙を上げた。
 ぶつかったところの後ろに着地したクレナたちは、その煙の向こう側に何かの陰を見つける。
 煙が晴れ、その姿が映し出される。
 紫がかった白い体、冷たい目、不気味に動く尾。
 両者は初めて出会った。
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ミャル #bak3☆2003.12/25(木)19:25
第13章 理由を求む - Give a Reason -


 わき上がる炎。
 タマムシシティを赤く火が染める。
 建物の外壁はだんだんと崩れていく。
 燃える柱が倒れる度に火の粉が宙に舞う。
 そして大きな低い音とともに地面が揺れる。
 周りが地獄と化している中で無事な場所―――街の中心にある噴水広場。
 いつもであれば、昼間は人通りが多く、夜は多くのカップルが集うこの場所に、今は誰もいない。
 ―――今向かい合う、2つの勢力を除けば。
 広場のほぼ中心で向かい合う彼ら。
 しばらくの沈黙が流れる。
 時々吹く風が炎の熱を運び、彼らの体にあたる。
「あなたが…ミュウツーなの…?」
 先に口を開いたのはクレナだった。
 声の先にいる紫色のポケモンの尻尾がかすかに動く。
 彼は誕生したときに聞いた名前に反応した。
「ミュウツー…確かに私はそう呼ばれていた」
 静かに口を動かしてミュウツーは喋った。
「くっ…間に合わなかったのか…!」
 クレナの隣にいたストライクが歯をかみしめて言った。
「ロケット団の人たちは…どこピカ!?」
 ピカチュウが声を張り上げた。
 目をつぶり、ミュウツーは表情一つ変えない。
「もうあの者達はいない」
「いないって…ど、どういうことっぽ!?」
 クレナの肩の高さで飛んでいるポッポが叫んだ。
「それにこの街の人たちはどうしたっぽ!?」
 クレナやストライクにとって始めてみるこれまで以上のポッポの真剣なまなざし。
 それはこの街に来てから全くあうことのない街の人々に対する不安から来ていた。
「それをどう解釈するか、それはお前達次第だ」
 かすかにミュウツーの口元がつり上がった。
 クレナたちが見つめる先で、ミュウツーはクレナたちをざっと見回した。
 クレナからストライクへ、下へ行ってピカチュウ、そして飛んでいるポッポ。
「…お前たち、私に何の用だ…?」
 ミュウツーは冷たく訊いた。
「私たちは…」
 クレナが口を開いた。
 だがそれ以降の言葉が出てこない。
 あなたを倒すため、その一言が出てこない。
「クレナちゃん…?」
 下からピカチュウがクレナの方を見上げて小さく言った。
「オレ達は…お前を倒すために来た」
 何も言えないクレナを見たのかどうかは分からないが、ストライクがクレナの言葉を補った。
「私を…倒すだと…?」
 かすかにミュウツーの目が動く。
 睨みつけるようなまなざしがクレナ達の方に注がれる。
 ピカチュウやポッポはその目だけでも恐怖感を感じ取っていた。
 かすかに2匹の体は震えている。
 そばにいたクレナはその様子を肌で感じ取れた。
「…何故…だ」
 ミュウツーは静かに訊いた。
「何故お前達が私を倒す必要がある…?」
 声のトーンが低いまま変わらない。
「それはお前が…!」
 ストライクがすぐに口を開いた。
 が、そこで止まった。
「私が…何だというのだ?」
 ミュウツーの問いにストライクは答えることができない。
 何でもない問い、それなのに答えることができない。
「…分かったでしょ?」
 うつむき加減のクレナが静かにストライクに対して口を開いた。
「私達がミュウツーを倒す理由なんてないんだよ」
 クレナは歯を食いしばった顔をあげた。
「確かに私達はここにくるために旅をしてきた。でも、私たちが叩く目標は違うんだよ」
 ストライク達に言い聞かせるようにクレナは淡々と喋った。
 ロケット団がいない、と聞かされた以上、今クレナたちの敵はいない。
 ミュウツーを倒してくれ、とカツラには言われているが、何故そこまでする必要があるのか。
 クレナがカツラに言われたときから疑問に感じていたこと。
 確かにカツラたち科学者は脅されたとはいえ、触れてはいけない領域を侵し、ミュウツーを造りあげた。
 だがミュウツーは生命の鼓動がある以上、生きている。
 それを絶つ資格…それが私たちにあるのだろうか。
 罪を犯し、その罪を償うために生命を一つ絶つ資格が我々にあるのか。
「…お前達が私を倒すか倒さないか、そしてそれがどんな理由であっても私は構わない」
 ミュウツーがクレナ達の方に向かって言った。
「だが私は人間に対しての攻撃を止めるつもりはない」
 急な発言にクレナは反応した。
「人間に対して攻撃…!?」
 クレナの発言にミュウツーは再び目を閉じた。
「人間など…汚い存在だ」
 口だけを動かし、ミュウツーの冷たい声が発せられる。
「勝手な都合で私を造りだし、そして利用に利用を重ねて自分達の欲望の為だけに私を扱おうとする…。人間達は他の命ある者のことを何も考えていない。私を造った人間達も、私を利用しようとした人間達も皆同じだ。そのような存在に対して、私は憎しみと怒りしか抱くことができない…私の手で、かの者達を、そして全ての愚かな人間達を制裁する必要があるのだ」
「…だからって…人間達を襲うのかよ!」
 ストライクが叫んだ。
「人間って言ったって、みんながそんな冷たくて非情じゃないっぽ!」
 横でポッポが同じように叫んだ。
「クレナちゃんみたいに、やさしい人間だって広い世界にはたくさんいるピカ!」
 ピカチュウも便乗して叫んだ。
「…みんな…」
 3匹を見回してクレナが言葉を漏らした。
「…お前達に私の感情など分かるものか…」
 ミュウツーがゆっくりと目を開いた。
「私の邪魔をするというのなら…お前達も私の敵だ」
「待ってよ!」
 クレナが声を張り上げた。
「お願い分かって! 確かにそういう冷たい人間は世の中にたくさんいるよ。あなたは偶然そういう人間達につきあわされただけなの! でもみんなそういう冷酷な人間なんじゃないの! もう一度…考え直して…! 私たちがあなたと戦う必要なんてないんだよ…!?」
 涙混じりにクレナはミュウツーに訴えた。
「では答えろ! 人間が私を造りだした理由…それは何だ!? 利用する為以外の…何だというのだ!?」
 ミュウツーが初めて叫んだ。
 クレナには分かっていた。
 彼は自分が作り出された理由にずっと苦しんでいることを―――。
 しばらく沈黙が流れる。
「お前がそういう考えを持っていたとしても私の感情がおさまることはない」
 ミュウツーの言葉を聞いてクレナは一瞬我を忘れた。
「お前も人間である以上、私の標的であることに変わりはない」
「…そんな…!」
 クレナは目を見開いた。
 戦いたくない…私たちの手で折角芽生えた命を絶やしたくはない…。
 その感情がいっそうこみ上げてくる。
「私を止められるものなら…とめてみるがいい!」
 ミュウツーは両手を脇でかざす。
「止めて…」
 クレナは小さな声を出すが、ミュウツーには聞こえない。
 両手の間にはバチバチと暗黒のエネルギーがたまっている。
 あの技はクレナは知っている―――シャドーボールだ。
「私は…あなたと戦いたくない…!」
「来るぞ!」
 ストライクの叫ぶ声。
 右手を使ってミュウツーはシャドーボールをクレナ達の方へ撃ち出す。
 ミュウツーとの決戦は、ミュウツーのシャドーボールから始まった。
 シャドーボールはクレナたちの方向を確実にとらえている。
 ストライクとピカチュウはとっさに斜め前に大きくジャンプし、攻撃を飛び越える。
「クレナちゃん、後ろっぽ!」
 隣で飛んでいたポッポが後ろへと飛んでいきながらクレナに向かって叫んだ。
 クレナは何も言わずに、本能かどうかは分からなかったが、とっさに後ろに大きく跳んだ。
 シャドーボールがクレナの目の前で地面に当たり、地面がゆれる。
 同時に衝撃波が押し寄せ、黒い風がクレナ達に向かって吹く。
 必死に目を腕でかばってクレナは風をやり過ごす。
 黒が晴れ、前にはミュウツーに向かっていくストライクとピカチュウの姿が見えた。
 横には翼を広げ、魔力を高めるポッポの姿。
 その光景にクレナはふと感じた。
「これ…どこかで…」
 クレナは自分の記憶をたどった。
 周りの時が止まっているように感じる。
 しばらくして一つの記憶に行き着いた。
 ポッポが仲間に加わった日の夜、キャンプで見た夢。
 炎の海の中にある街、自分の周りの配置、そして目の前の敵。
 全てが今まで何度も見ていた不思議な夢と全く同じ。
「どうして…あのときの夢が…?」
 クレナは自分の中でつぶやいた。
「…エクスプロード!」
 急にミュウツーの声が聞こえた。
 ストライク達が行き着く前にミュウツーは右手を高々と挙げる。
 その手からは火の手が上がり、クレナ達のいるところの真上まで来ている。
「クレナちゃん! 危ないっぽ!」
 ポッポの叫ぶ声がクレナを元の世界に戻した。
 だがもう遅かった。
 真上にあった火の手が自分めがけて急降下する。
 クレナは目をつぶった。
 夢の通りならここで自分は炎の衝撃で苦しむことになる。
 今か今かとクレナは炎の衝撃を待った。
 ―――来ない。
 いつまでたっても激しく熱い衝撃は来ない。
 疑問を感じながらクレナは目をゆっくりと開ける。
 飛び込んだのは茶色と白のふさふさとした羽。
「ぽっ…ポッポ!?」
 目の前には自分をかばうようにポッポがいた。
 目の前で少しバランスを崩すポッポ。
「ちょ、ちょっとポッポ!?」
 クレナがとっさに広げた腕の中にすとんとポッポが落ちた。
「だ、大丈夫だっぽ…」
 翼が少し焦げているポッポが力なさげに言った。
 目がとろんとしていて、かなり力を使ったようだった。
「詠唱なしの上級魔術だったから、リフレクトシールドで防ごうと思ったけど…貫通しちゃったっぽ…」
 詠唱のない上級魔術は威力が極端に下がる。
 それでもミュウツーの放った上級魔術は威力が下がるというものではなかった。
「どうして…」
 クレナがポッポを見つめて言った。
「どうしてそこまでして私をかばうの…? あなたがそんなにケガするまで…」
 ポッポの澄んだ目がかすかにうるむ。
「だって…ぼくたちはどんなことがあっても人間を守らなくちゃいけないって、お父さんが言ってたっぽ。ぼくたちは…ポケモンは人間達と信頼しあって今まで生きてきたっぽ。その気持ちは今でも変わらないっぽ」
 クレナの腕の中で体勢を立て直し、またクレナの肩あたりの高さまでポッポが飛んだ。
「私たち…人間のため…?」
 クレナは自分の中でつぶやいた。
 ふとクレナは前を見る。
 ストライクとピカチュウがミュウツーに猛攻を加えている。
「散葉塵(ちりはじん)!」
 ミュウツーの体にストライクの乱れ斬りが入る。
 流れるような鎌の動きがミュウツーの体を確実に切り裂いていく。
「まだだ! 屠龍連撃破(とりゅうれんげきは)!」
 散葉塵から続けてストライクは神速突きを放つ。
「ぐっ…」
 腕を前でクロスさせて攻撃を防ごうとするミュウツー。
 攻撃の下をくぐり抜け、ミュウツーの懐にピカチュウが入る。
「臥竜空破(がりょうくうは)!」
 懐から右手をぐっと握り、思いっきりミュウツーの腹めがけて殴りつける。
「がはっ…!」
 ノーガードの体をやられ、吹き出すミュウツー。
 勢いで斜め後ろに吹き飛ばされる。
 そのまま高く跳び上がるピカチュウの姿は、格闘ポケモンが使うスカイアッパーに近い。
 ピカチュウが再び地面に降り立つ。
 ミュウツーはその前で超能力で落ちる速度をゆるめ、ゆっくりと足から地面に立った。
 そして急にミュウツーの体の表面が虹色に光る。
「何…!?」
 ストライクが思わず言葉を漏らした。
 前いるミュウツーの体の傷が徐々に消えていく。
「自己再生…そんなピカ…!」
 ピカチュウがかすれ声で叫ぶ。
「くそっ…!」
 ストライクはとっさに鎌を構え、思いっきり横になぎ払った。
「魔神剣!」
 剣で作り出された衝撃波が地面をはい、破壊しながらミュウツーに向かっていく。
 ミュウツーに当たる前にミュウツーの体の光が消える。
 そして向かってくる魔神剣に対して右手を掲げる。
 一瞬にしてミュウツーはシャドーボールを作りだし、魔神剣に対して撃ち出す。
 勢いを増してシャドーボールは魔神剣に当たる。
 そして魔神剣のエネルギーを吹き飛ばす。
「なっ…!」
 目の前の光景を見てストライクが言った。
 もう声も出なかった。
 自分めがけてシャドーボールが襲ってくる。
「ストライク!」
 後ろからクレナの叫ぶ声が聞こえる。
 勢いは衰えるどころか加速し続けている。
 避けられない―――。
 だがそこで異変が起きた―――脇からシャドーボールに光の玉が当たる。
 激しい爆音とともに灰色の煙が上がる。
「誰だ…!?」
 ミュウツーは光の玉が飛んできた方向に首を向けた。
 クレナ達もストライク達も、同じ方向を見上げた。
 煙の中にうっすらと浮かび上がる小さな影。
 かすかに浮かび上がる紫色の体。
 向こうにいるミュウツーと同じ色。
 クレナはその色、姿を見て確信した。
「…ミュウ…!」
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書き直す前の物語(#bak1#bak3)を Internet Archive から復元しました。(ほかんこ)
ミャル #1★2004.06/03(木)01:24
プロローグ


 静けさが広がる闇の中を、何かが走り抜ける。草むらを走り抜ける音が風の音と重なり、共鳴を起こす。いくつもの同じような森林と草むらの風景―――。

 しばらくしてその影は止まった。月の光が、その影をぼんやりと映し出す。人間ではない―――緑色の影だった。暗い月夜の中でたった一つ、命の鼓動が刻まれている。
 不意に、力抜けるように木に寄りかかり、どさっと草むらに座り込んだ。
「…ったく、ここまで来たのはいいが―――」
 影が息を切らしながら独り言のように、声になるかならないかのように言った。
「―――これからどうすりゃいいんだ…」
 大きくため息をつくように、深呼吸する。涼しい風が不意に流れた。
 風が、草むらを揺らし、影をさわって―――。

 その風の吹く先、もう一つの影。今にも切れそうな小刻みな息が、小さくこだまする。先ほどの影とは大きさがまったく違う―――小柄だった。
 黄色の閃光が走り、走った後には風圧で草が揺れる。両手を前足のように使い、その影は一点を目指し、走る。その先にあるもの…それは暗闇の中にぼんやりと浮かぶ、光だった。一つではない―――しかし輝いては見えない。ぽつぽつとした光がぼやけて見えている。
 ―――小さな町だった。規模はぜんぜん大きくない、どちらかといえば村といった感じのようだ。
 だが、そんな町の大きさなど、気にはとめていない。
 黄色い生き物はそのスピードを落とすことなく、一直線に町のゲートを通過した。メインストリート―――とはいっても土手道だが―――を素早く走り抜ける。時々見える家々を、生き物は走りながら首を少し向けて確認していった。
 ―――まだ中で明かりのともっている家はないか。
 町の外から見えていた光は、町にところどころにある街路灯であったり、家の前の玄関を照らす電気がほとんどで、決して家の中で電気がついているわけではなかった。むしろ、この時間にまだ起きている家があることすら珍しい。

 町の奥の方までたどり着き、その生き物は足を止めた。
 ―――あった。
 広い門の先には小高い丘がたっており、その上にまだ明かりのついている家―――いや、建物というべきだろう。家と呼べるほどの大きさではない。白い外観の建物で、上のほうで風車の回っているのが伺える。
 息を切らしながら生き物は門の開いているすき間をぬって、建物の敷地へと足を踏み入れた。道なりに沿って二本の足で音もなく、だがほぼ全体重をかけて歩く。
 ふと、道をそれた。よろめいて、玄関とおもわれるドアとは違う方向へと足が勝手に進む。だが、その生き物の体力は限界だった。自分の意志とは関係なく勝手に足が進み、―――やがて倒れてしまった。
 建物の中の光があたり、生き物の体をほんのりと明るく照らす。―――傷だらけだった。ほぼ尻尾以外の部分のほとんどに傷が見られ、それまでの経緯が計り知れなかった。
 突然、光源の方で音がした…窓を開ける音だ。人の影が生き物の体を覆い被さった。

 その建物の二階でうなされている声。ベッドの上で一人の少女が眠っていた。
 ―――彼女は、夢を見ていた。

 火の海と化している夜の街。それは今少女のいる町とはまた違った場所のようだ。街路樹が、建物が燃えている。
 その中にたたずむ少女。しかし、その中にいるのは一人ではなかった。はっきりとは見えない影が、一つ、二つ、―――三つ。そして少女の前にも一つの影。
 影となっている生き物が何かを話している。だが、少女の耳には何も聞こえない。何を話しているのか、困惑している彼女を尻目に、自分の右隣にいた二つの影が、目の前の影に向かって走り出した。左隣にいる影は、その場で静かに何かを唱えている。
 不意に、目の前の影が右手を上空へと突き出す。少女は反射的に空を見上げた。
 厚く空に覆い被さった雲が、大きな円状に晴れた。だが、そこから顔を出したのは星空ではない―――闇色に染まった空。
 突然、闇の中で赤い光が閃光を放つ。すると次の瞬間、火柱のような赤白の光が迫った。尋常ではない速さだった。その矛先は、明らかに自分を狙っている。―――避けられない、そう思った。
 あたり一面が急に真っ白になった。焼け焦げるような熱さが、少女を襲う。

 声にならない悲鳴をあげて、彼女はベッドの上で瞬時に起き上がった。
 ベッドに窓から差し込む、朝のすがすがしい光が飛び込んできている。いつもと変わらない自分の部屋を、ゆっくりと彼女は見回した。さっきまで見ていた光景が、嘘のようだった。
「また…あの夢だ…」
 そう、小さく彼女はつぶやいた。
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ミャル #2★2004.06/03(木)01:25
現在のぴくのーの事情を考えて、最新話のみのアップとしました。
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ミャル #3★2004.06/03(木)01:27
全てのお話がよみたいひとはこちらへ。
http://myal.main.jp/novel/toc.html
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ぴくの〜ほかんこ