ぴくの〜ほかんこ

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[39] テイルズオブクライシス -2-

ミャル #1★2003.11/22(土)06:36
第6章 そして中心へ - And go to the Center -


(…ここは……?)
 クレナは燃えさかる街の中にいた。
 周囲の建物は今にも崩れ落ちんと崩壊している。
 熱気がむんむんとクレナの方に向かってくる。
 横には、ストライクが身構えているのが見える。
 もう一方にはピカチュウとポッポの姿。
 3匹とも、その目は前の一点に集中している。
 クレナがその方向に目をやると、影になってはいるが、人間ではない何かがいる。
(あれは…ポケモンなの…?)
 クレナが知っている中にはあのような容姿のポケモンはいない。
 見たことのないポケモンなのか、それとも第一ポケモンではないのだろうか。
(来るぞ!)
 ストライクが叫ぶと同時に、前にいる生き物が手にエネルギー弾を作り出す。
 あの技は知っている…シャドーボールだ。
 …ということはポケモンなのだろうか。
 クレナが考え終わる前にその生き物は手のひらより大きなシャドーボールをクレナたちの方に投げる。
 本能的にその場所から離れるストライクたち。
 クレナも素早くそこから離れる。
 ドォン! と大きな音がして、先ほどまでいた場所で大きな爆発が起こる。
 その爆風を突き進み、ストライクはその生き物に向かっていく。
 ピカチュウも後を追って走り出し、ポッポは翼を広げて魔力をため始める。
(これは…なんなの…?)
 クレナが言い終わるか否かのうちに、前の方で火のエネルギーがあがるのが見えた。
 それは高く上がったかと思うと、一気にクレナめがけて落ちてくる。
 ドォォォォォン! と長い爆音。
 クレナは爆発の中にいる。
 灼熱の炎が自分を痛めつける。
 焼けるような、そして体を溶かすような熱さ。
(…クレナぁぁぁあああ!)
 遠くでストライクが自分の名前を叫んでいる。
 その声もだんだんと遠のいていく。
 それとともに意識も薄れていく…。
 そして…すべて闇と化した。

「……ナ、…レナ…」
 誰かが自分の名前を呼んでいるような気がする。
 クレナはその目をゆっくりと開けた。
「クレナ!」
 目の前にはストライクの顔があった。
「……あれ?」
 目をパチパチさせてクレナはぼそっと言った。
 辺りを見回すと、先ほどの光景とは違う、夜のキャンプだった。
 森のような中にしかれた広い道。
 その中でも少し道幅が広いところだった。
 真ん中にはぱちぱちと燃えているたき火がある。
 たき火を挟んだ向こう側では、ピカチュウとポッポが寄り添ってすやすやと眠っている。
「ずっとうなされてたんだぞ、どうかしたのか?」
 ストライクが心配そうにクレナの方に話しかけた。
「……じゃあ夢だったの?」
 クレナが小さな声で言った。
 自分の手を見ると、手のひらは汗でかなりぬれている。
 気がつくとクレナは自分の体が汗でびっしょりとなっていた。
「夢?」
 ストライクはクレナの顔を横から見ながら訊いた。
「うん…ここんところ何度も見るの。毎回同じような夢。燃えさかる街で、わたしたちがなんか…よくわかんない生き物と戦ってる夢」
「…『生き物』? ポケモンじゃねえのか?」
「わからない…あんなポケモン見たことないし、学校でも教わってないもん。でも…」
 クレナは少し考え込みながら続けた。
「いつもとは違ったところがある…今まではその光景を上から第三者の形で見てたけど、今は実際に私自身が体験してた。それに…」
 クレナはストライクの方を向いた。
「…あなたたちがいたこと」
「…じゃあ今までのはオレたちはいなかったのか?」
 クレナは首を横に振った。
「ううん、影になってて今までは見えなかっただけ。…でも一番最初にあの夢見てから今になるまで、いろんな事が鮮明になってきてる…少しずつだけど」
「ふうん…」
 クレナは下を向いていった。
「でも…なんであんな夢を繰り返し見るんだろ…」
 クレナを見てストライクはため息をついた。
「…とにかく、起きててもしょうがねえからもう寝ろよ。お前が寝付くまでまだ見張っててやっから」
 クレナはストライクの方を見上げた。
「…そだね、今こんな事考えててもしょうがないし」
 クレナがふと時計を見ると、真夜中の2時だった。
「…ストライク、もしかしてずっと起きてたの?」
 唐突にクレナが訊いた。
「ああ」
「寝てていいのに…あなたも疲れてるんじゃないの?」
「…もともとオレたちの種族はそんな寝ないから大丈夫だ。お前は人間なんだ、そんなこと心配しなくていいからもっと寝た方がいい」
 火にまきをくべながらストライクは言った。
「じゃあ寝るね…けど無理しないでね」
「ああ、お休み」
 クレナはまた横になった。
「…ありがとね、見張っててくれて」
 クレナが横になったままストライクに小さな声で言うと、ストライクは少し顔を赤くして若干笑顔を見せた。
 火が揺らいでいるのを見ると、あたりがだんだんとぼやけていく…。
 そしてクレナはまた眠りについた。
 その夜は二度とあの夢を見ることはなかった。

「ふええ…結構大きいねー」
 次の朝、クレナたちはニビシティの東にある、ニビシティとハナダシティを結ぶ、自然の巨大なトンネルを形成しているお月見山へと来ていた。
 その長さは一日では向こう側へはたどり着けないと言われるほど。
 登山もできるようなこの山は、高さも相当のものだった。
 なるべく明日の早めの時間には出たいとクレナたちは考えていたため、昨夜はニビシティのポケモンセンターで寝るのをやめ、お月見山に比較的近いところでキャンプしていたのだ。
「ここを抜けるとハナダシティかあ…」
 クレナはお月見山を眺めながら言った。
 クレナたちの周りは、お月見山のトンネルを通らず、登山をしに来た人たちであふれかえっていた。
「てかなんでこんなに人いるんだろう?」
 周りの人の多さにクレナが言った。
「あれじゃねえか? テレビでやってたやつ」
「テレビ?」
 クレナはストライクに訊いた。
「なんか、この山で幻のポケモンが出現したとかで、一目見ようといろんな人たちが訪れに来てるって話。昨日ポケモンセンターにあったテレビでそうやってた」
「幻のポケモンって何?」
「さあ…? オレもそこまではきいてねえからな。ピカチュウとポッポは知ってるか?」
 ストライクが下の方にいるピカチュウに話しかけた。
「ううん、しらないっぽ」
「ピカも」
 2匹とも首は横に動いた。
「それにしても、野生のポケモンが凶暴になったのに、よくみんな来るもんだねー」
 周りの人々を見てクレナが言った。
「そういえば、あなた達そんなに普通の声の大きさでしゃべってて大丈夫なわけ?」
 思い出したようにクレナが訊いた。
「…クレナちゃん、何も知らないんでチュか? テレビ見てないピカ?」
 あきれたような目でピカチュウはクレナを見上げた。
 それを見てクレナの中で何かがぷっつんと切れた。
「ちょっとぉ! ニビシティついたらあなた達が『早くお月見山行こう行こう!』ってうるさかったじゃないのよ! 食材買って道具買って、すぐ街出ちゃったでしょ!? あなた達はポケモンセンターにいたからゆうゆうとできただろうけどこっちはね…」
「わかったから少し落ち着けよ!」
 大声で怒鳴るクレナをストライクは制した。
「…あんたたちねえ…」
「クレナちゃん、落ちついてっぽ…」
 横からポッポが小さく言った。
「ちょっと静かにしてて!」
 クレナはさっとポッポの方に向かって大声で言った。
 それを聞いてポッポは驚いて引いてしまった。
「は…はいっぽ…」
「…で? どういうことなの?」
 少し怒りを込めてクレナが訊いた。
「周り見てみろよ」
 ストライクが小さく言った。
 クレナが辺りを見回すと、そこにいた人たちのうち半分くらいの人が、そばにいる彼らのポケモンとなにやら話しているのが見える。
 だが、今までよく見られるような、トレーナーの言動に対してポケモンが返事するだけのものではく、よく聞くと、そのポケモン達がしゃべっているようだった。
「どういうこと?」
 クレナが頭の中をこんがらせながら言った。
「ポッポの所の集落のこと覚えてるだろ? あいつらはロケット団の生体実験をうけてもないのにしゃべれてただろ。同じ事がほかの野生ポケモンとかトレーナーの持ってるポケモン達にも影響が及んでるらしいぜ」
「…そっか、だからもう別にポケモンがしゃべってもあんまり不審に思ったりしない訳ね」
 手をぽんとたたいてクレナが言った。
「でも…それって結局この世界に何かが起こってるって事だよね」
 急にクレナは落ち着いた声で言った。
「それを調べるためにもカントーの中心に行かなきゃだめピカ!」
 ピカチュウが黄色い声でクレナに言った。
「そうだね…ていうかさ、ほんとにロケット団のアジトの場所覚えてないの?」
 クレナがストライクとピカチュウに訊いた。
「だからあ、逃げて来はじめるときのことは覚えてねえっていっただろ! 気づいたときにはマサラタウンの近くにまで逃げてきてただけだ。カントーの中心の街の方から逃げてきたとしか思い出せねえんだよ」
「ピカも同じピカ」
 二匹の答えを聞いて、クレナは「はあ…」とため息をついた。
「…なんだよそのため息は」
 不服そうな面持ちでストライクが訊いた。
「こういうときに限って使えないんだなあ、ってね」
「…あのなあ…」
「ま、そのうち思い出すでしょ! さ、行こう行こう!」
 そういってクレナは洞窟の方へと走り出した。
「だから何でそう楽天的なんだよ!」
 叫びながらストライクも後を追い始めた。
「ピカチュウくん、早くいこうっぽ!」
 立ち止まっているピカチュウを見てポッポは飛びながら言った。
「…ポッポくん」
「何だっぽ?」
「…『らくてんてき』って何ピカ?」
「…ぽぉ」
 ポッポはあきれるようにため息をついた。

 洞窟の中は薄暗く、壁には火の灯ったランプが道なりにかけられている。
 その光が洞窟内の道をほのかに照らしている。
 洞窟内は一面岩の壁で覆われていて、外からの光はいっさいはいることはない。
「クレナ、お前えらく早足で歩くな…」
 すたすたと歩くクレナの後ろを追ってストライクが言った。
「だってここ抜ければハナダシティでしょ? カントーの中心に一気に近くなるじゃない!」
 クレナは半分うきうきしながら言った。
「…なあ、お前本気でロケット団のアジトに行くのか?」
 ストライクがささやくように訊いた。
「ん? そうだよ? あなたとピカチュウの話を聞いて行こうって決めたじゃないの」
 当たり前のことだと思いながらクレナは答えた。
「でもお前は今のところ無関係なわけだし、わざわざオレたちのことを手伝う必要はねえだろ? しかも最初お前そんな乗り気じゃなかったし」
 無関係という言葉を聞いてクレナは反応した。
「あなた達と出会ってもう無関係だなんて言えないよ。それに…」
 クレナはにっこりとしていった。
「今までわかんなかったロケット団の秘密を誰よりも早く探れるわけだし!」
「…あのなあ、なにがおこるかわかんねえだろ! もしかしたら二度と帰ってこれねえかもしれねえんだぞ!」
 ストライクは必死に訴えかけたがクレナは「なんで?」という表情をとった。
「でもあなた達は帰ってこれたんだし、何とかなるんじゃないの?」
「だからって、本当に何があるかわかんねえんだぞ!?」
「…だからいってみたいんでしょ」
 クレナの天然ぶりにストライクは嘆かわしくなった。
「だああ! お前には用心とか言う言葉はねえのかよ!?」
「ストライクさん…」
 呼ばれて振り向くと、ポッポは一緒に突いてきているピカチュウがストライクをまじまじと見つめていた。
 それを見てストライクは気が引けた。
「ピカにはストライクさんが必要ピカ」
「…わかったよ」
 しょうがねえなと思いながらストライクはあきれていった。
 そんなやりとりを見てポッポはにっこりと笑いながらピカチュウと一緒についていった。
 そしてちょうど道が3つに分かれている所にさしかかったとき、どこからか、ゴゴゴゴゴ…という鈍い低い音が響き渡った。
 やがて地面も音に合わせてふるえだした。
「…なに…?」
 クレナが見上げると、上の岩の壁に亀裂がビキッと入るのが見えた。
 そして次の瞬間、ドドドドドドッ! と大きな音とともに、天井が崩れ始めた。
「ピッカ!」
「岩雪崩だ!」
「きゃっ…!」
「ぽおっぽぉ!」
 飛んでいたポッポはバランスを崩し、そのまま地面に落ち、翼で頭を押さえた。
 ピカチュウもストライクも地面に伏せた。
 クレナは目の前で起こっていることを見ないようにするために、目をつぶって顔をかばった。
 激しい音とともに崩れていく天井。
 一分ほどたっただろうか、ようやく音が消え始め、完全に岩雪崩がおさまった。
 あたりには砂煙がもうもうとあがり、息をつくのもやっとだった。
「ピカチュウ、無事か?」
 近くにいたピカチュウをみてストライクが言った。
「だ…だいじょぶピカ」
「ごほっ、ごほっ…」
 遠くの方で体制を立て直しながらポッポが咳払いをした。
「…クレナちゃんは?」
 咳が止まったポッポがクレナの存在に気づいた。
「……!」
 ストライクが辺りを見回してもピカチュウとポッポしかいない。
 前の方を一人進んでいたクレナだけがいなかった。
「…クレナ? クレナぁぁああ!?」
 必死にストライクが叫んでも返事はなかった。
 目の前には高く積み上がった岩と土砂が、一つの道を完全にふさいでいるのがあるだけだった。
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ミャル #2★2003.11/22(土)06:37
第7話 秘密 - The Secret -


 ……
 クレナは深い闇の中にいた。
 目の前には何もない。
 周りもずっと変わらない、深い深い闇。
 あるのはクレナ自身、ただ一つ。
「私…死んじゃったのかな…」
 深い闇の中でクレナは孤独感を味わっていた。
 ふと、クレナの目の前で明るい光が通過する。
「…?」
 辺りを見回すと、また一つ光の筋がクレナの前を通り、その像が残る。
 光は何回も目の前を行き来し、やがて目の前で止まる。
「…あったかい…」
 クレナからすれば、その光の暖かさは「生」への希望。
「あなたは…いったい…?」
 そうクレナが言うと、光が急に輝きだし、あたりをぱあっと明るくする。
 目の前が明るくなり、やがて意識がはっきりとしてきた。

「…ふう」
 ストライクは崩れ落ちた岩の山の近くで様子をうかがう。
「岩の下敷きにはなってねえみたいだな」
「よかったっぽお…」
 ストライクの言葉を聞いてポッポはほっと胸をなで下ろした。
「でも…この岩の山の向こうに本当にクレナちゃんがいるピカ?」
 心配そうにピカチュウが訊いた。
「それはわかんねえよ。向こうの様子がまったくわからねえわけだし」
「じゃあ…クレナちゃんは…」
 完全にふさがった道を見てストライクが言ったことにピカチュウはショックを隠しきれなかった。
「…だ、だいじょぶっぽ! クレナちゃんは岩の下敷きにはなってないって事は、この岩の壁の向こうにいるはずっぽ!」
 落ち込んでいるピカチュウを見てポッポはあわてて励ました。
「それにお月見山のトンネルの出口はハナダシティ側とニビシティ側の二つだけなんだし、この分かれ道のどれをいっても必ずハナダシティの方には出られるわけだろ? どこかでこのふさがれた道とも合流するはずだ」
 少し落ち着いた声でストライクが言った。
「無理にこの岩を壊すのはかえってあぶないっぽ。ここにいてもしょうがないから先に進んだほうがいいっぽ」
「そういうこと」
 ポッポも加わっていった。
「でも…!」
 ピカチュウがそれに反発して口を開いたがストライクがそれを制すように言った。
「…大丈夫だ、あいつなら」
 ストライクが後ろ姿で首だけ横にピカチュウに向けて言った。
 顔の様子はわからなかったが、口元はつり上がっているように見えた。
「…わかったピカ、注意して進もうピカ」

 クレナは気を失っていたようだった。
 横には岩が積み上がってできた大きな壁があった。
 岩の下敷きにならなかったのが不幸中の幸いだった。
「ん…」
 意識が戻り、クレナはその目をゆっくり開けた。
 だんだんとはっきりしてきたその視界に飛び込んできたものは、白っぽい何か。
「…気がつきましたか?」
 声のする方に目をやると、その白い生き物の顔が見えた。
 この顔、この姿、…クレナはどこかでそれを見たことがあった。
 そして一つの答えを見つけた。
 見た場所はオーキド研究所の本棚にあった本。
 誰の著作かは忘れたが、「幻のポケモン」と題された本だった。
 その本には、まだ詳細が不明なポケモン達のことについて書かれている。
 その中には昔から言い伝えられている伝説のポケモン達であったり、見た者がほんの数人であったというポケモン達が描かれている。
 その後者の方が書いてある章の見開き2ページ…そこにあった。
 最後に発見されたのは2年前とかかれていた、白っぽい色に紫がかった体、小柄で浮遊して移動するそのポケモンは…。
「…ミュウ?」
 本に書かれたポケモンの名をクレナはささやいた。
 ゆっくりと体を起こし、クレナは立ち上がった。
 ミュウと呼ばれたそのポケモンはその場で目を閉じて、クレナの目の前で浮かび上がった。
「…その通りです、クレナさん」
 ミュウは静かに答えた。
 その答えを聞いてクレナは少しどきっとした。
 あの幻の中でも幻と言われるポケモンが目の前に、しかも自分に話しかけている。
「…どうして私の名前を?」
 クレナがふと思ったことをミュウにぶつけてみた。
「私には人間やポケモン達の考えや記憶を探る能力があるのです」
 ミュウは表情ひとつかえずに言った。
(そういえばあの本にもそんなことが書いてあったっけ…)
 そんな目の前にいる幻のポケモンが何故自分の目の前にいるのだろうか。
「ねえ、何であなたがここにいて私に話しかけてくるの? あなたはめったに人前に現れないのになんで私なんかに…」
 幻のポケモンを目の前にして少しわくわくする気持ちはあったが、それを抑えてクレナはミュウに訊いた。
「それはあなたがいちばんわかっているでしょう…」
「それって…私の使う魔術のこと…?」
 クレナは静かに訊いた。
「…話すと長くなるでしょうから、歩きながら話しましょう。あなたの連れの方々もあなたを捜しているはずですから」
 そういってミュウは振り返って前へ進み出した。
 クレナも突然のことにとまどいながらも、今は進むしかないと思って後を追った。

「私の魔術の力のこと…何か知ってるの?」
 ひたすら続く一本道を歩きながらクレナはミュウに訊いた。
「…あなたは疑問に感じたことはないのですか? …自分が何故魔術が使えるかについて」
 ミュウは小さな声で少し間をおいていった。
「え…? 一応はあるけど…」
「…いいですか? 魔術、いわゆる魔法と呼ばれるたぐいの物は今ポケモンしか使えないはずなのですよ? 古代に絶滅したといわれる竜族の血を引くポケモンだけに…」
 少し真剣みを帯びてミュウが語った。
「それはわかってる…私だってこんな力が人間の私なんかにあるのか知りたいよ…」
 クレナは声のトーンを落としていった。
「…魔術は偶然使えるという代物(しろもの)ではありません。人間のあなたがそのような力があるということは……」
 そこまでいうとミュウはあとの言葉をにごした。
「ということは…何なの?」
 不思議そうにクレナは訊いた。
「…いえ、とにかくあなたのその力を見て少しふと気になっただけです」
「そう…」
 クレナはミュウの口ごもったことについて少し考えた。
(なんかミュウがぼそっと言ってた…「あなたはやはり…」、そんな風にいってるように口が動いたような…)
 また平然と前に向かってすすむミュウの姿を見て、クレナはミュウにあったときにふと思ったことについて口を開いた。
「ねえミュウ、何であなたがこんな所にいるの?」
 クレナが訊くと、ミュウはその場に浮かんだまま静止した。
 あたりはいつの間にかホールのような広さをした空間になっていた。
「…幻のポケモンはいつも何かと追われる身です」
 静かにミュウはその口を開いた。
「当然、追う者の中には心が悪しきものもいるでしょう。あなたと会う前、私はまたある集団に追われていました。彼らのねらいは当然…私の捕獲です」
 クレナが何かをいうのを押さえてミュウはそのあとを続けた。
「その集団はここ5日間ほど私のことを追い回し続けています…最初はタマムシシティの近く…そしてだんだんと私は北の方へと追いつめられてきました。そしてこの山へと来たのです。ここ数日は彼らに遭遇することはありませんでした。しかし…」
「その人たちにまた会ってしまった…てわけね」
 クレナがあとを補った。
「そうです…当然彼らは集団ですから多数のポケモン達を連れています。そのポケモン達が一斉に同じ場所を攻撃します…それを私がさけて攻撃が地面に集中して当たったら…?」
 ミュウは振り返っていった。
「…下のトンネルの天井は崩れ落ちる…」
 はっとなってクレナはいった。
「そうです…あの岩雪崩はあの者たちによっておこされたもの。砂煙が上がって彼らの視界が戻らないうちに下の階層へテレポートした…というわけです」
「それで私にあったという訳ね」
「…はい」
「…ちょっとまって、じゃああなたを追っていた集団っていったい…?」
 クレナは先ほどからずっと気になっていたことを訊いた。
「それは…」
 ミュウが言いかけたそのとき、ミュウは何かの気配を感じ取った。
 瞬時にミュウはクレナの腕をバッとひっつかんだ。
「ちょっ、ちょっと!?」
 クレナが言い終わるか終わらないかのうちにクレナの視界は一瞬真っ白になったと思うと、また先ほどのようなホールの光景がうつった。
 視界が一瞬切り替わった瞬間、クレナの横の方で、ドォン! という激しい音がして爆発が起こる。
「な…何…?」
 起こったことがクレナはまだわからなかった。
「彼らです…」
 ミュウが静かにいった。
 クレナが辺りを見回すと、ホールから出ているいくつもの分かれ道のすべてから、たくさんの人がバッと出てくるのが見えた。
 黒い服を着たその者たちの近くには、彼らのポケモンと思われるであろう相当数のポケモンがいる。
「ミュウよ、我々から逃げられると思っていたのか!?」
 リーダー格と思われる男が向こうから叫ぶ。
「どういうこと? あの人たちは誰?」
 クレナはひざをついたままミュウを見上げて言った。
「……ロケット団です」
「え…!?」
 ミュウから発せられた言葉にクレナは言葉を失った。
 ストライクやピカチュウをあのようにした集団…それが今ここにいる。
「じゃああなたを追っていた集団って…ロケット団だったの!?」
 クレナは大きな声で言った。
「その通りだ、小娘」
 ロケット団のリーダー格の男が叫んだ。
「さあ…そのミュウをこっちに渡せ」
 男は右腕を差し出しながら冷たく言った。
「なっ…」
 クレナはその男や周りの団員の目つきを見て、心でヤバいと感じ取った。
「だ…誰があなた達なんかに!」
「ほお…ということはお前がそのミュウを捕まえたというのか?」
「え…!?」
 クレナはミュウをさっと見た。
 ミュウは先ほどの澄んだ目とは違う、相当恐ろしい目つきでロケット団をにらみつけている。
「そ…そうよ! あなた達とは実力が違うからね!」
「く、クレナさん!?」
 クレナは相手にも見え見えな出任せを言った。
「…まあいい。お前のポケモンにせよ、そのミュウは我々の計画に不可欠だ。差し出さないのならば力ずくで奪うまでだ」
 男はバッと腕を横に払い、それにあわせてロケット団のポケモン達が一斉に構える。
 一方でミュウは目を閉じ、精神を集中させる。
 クレナはミュウの姿を見て、構えの体勢をとった。
「…やれ!」
 リーダー格の男が叫ぶ。
 それに反応してポケモン達が一斉に遠距離攻撃を仕掛ける。
 最初に来たのは「かえんほうしゃ」。
 クレナはとっさに横にダイブするような形で「かえんほうしゃ」をよける。
「きゃっ…!」
 向こうの方で炎が爆発しているのをクレナは感じ取る。
 ミュウはその場で高く飛び上がり、その攻撃をよける。
 飛び上がったと同時にミュウは両手を前に突き出し、ためていたエネルギーを放出する。
「…レイトラスト!」
 ミュウの手から大きな光の玉が飛び出し、ロケット団のポケモン達が集まる中央に向かう。
 そして光は中央で暴発し始め、まわりに光の熱が拡散する。
「グアァァァアア!」
 ポケモン達は次々とその光の熱で苦しんで倒れていく。
「あれは…魔術…!?」
 倒れていくポケモン達をみてクレナはつぶやいた。
「次だ!」
 リーダー格の男がそう叫ぶと団員は次々とポケモンを繰り出し、次の技を放ってくる。
「れいとうビーム」、「10まんボルト」…そのどれもミュウをねらっている。
 クレナにとってこれが攻撃する絶好のチャンスだ。
 立ち上がり、両手を胸の前でかざし、魔力を高めはじめる。
 ロケット団員たちがその光景をやっと気づく。
「な…なんだあの小娘は…!?」
 リーダー格の男が驚き半分で叫ぶ。
(お願い…成功して…!)
 クレナはそう願い、右手を上に掲げる。
「ロックブレイク!」
 クレナがそう叫ぶと、ロケット団がたまっている所の地面が「ゴゴゴゴゴ…」激しく揺れはじめる。
「な…なんだ!?」
 ポケモン達も地面の揺れに気づき、あたりをきょろきょろと見回す。
 そして彼らの足下の地面がバキバキッとひび割れを起こし、ドォン、ドォン! と2回大きな音がして、彼らの足が押し込まれる。
 次の瞬間地面から、ゴゴゴッ! と巨大な岩が彼らを強打し、宙へと突き出す。
 地面に激しくたたきつけられたポケモン達は完全に瀕死状態に化す。
「い…一体何が起きたというのだ…!?」
 団員たちがあわてふためいているのをクレナは疲れた体で見た。
 初級魔術を完全に成功させたのは今回が初めてだった。
 基本魔術より断然精神力を使い、クレナは地面に膝を落とした。
 高いところから見ていたミュウもそのすさまじさを見て言葉を失っていた。
 だがそのとき、ミュウは後ろからボールが飛んでくるのを完全に気がつかなかった。
「なっ…!?」
 とっさに後ろを向き、とんでくるボールをしっぽではじこうとする。
 しかし、しっぽがボールに当たった瞬間、普通なら跳ね返せるボールが跳ね返せず、ミュウはそのボールへと「シュウ…」と入っていく。
「みゅ…ミュウ!?」
 クレナは上でおきた光景をみて叫んだ。
 ミュウが入っていったボールは飛んできた方にもどっていき、一人の男の手の内に収まる。
「誰…!?」
 ボールを受け取った男はニヤリと笑う。
「ボ…ボス!? 何故こんな所にまで!?」
 リーダー格の男が彼に向かって叫ぶ。
「盛大なパーティーの華がいなくてはどうしようもないだろう…。私じきじきに華を添えようと考えてな」 
 ボスと呼ばれた男は一瞬クレナをちらっと見、そして団員たちに向かって叫ぶ。
「引き上げろ、早急にだ!」
 その言葉を聞いた団員たちは、そそくさと倒れているポケモン達をボールに戻し、彼らが出てきた道へとぞろぞろと出て行く。
 ぞろぞろと出て行く団員たちを尻目にクレナは男をにらみつけた。
「ミュウをどうするつもりなの…!?」
 クレナは男に向かって叫んだ。
「…盛大な誕生パーティーがあるのでね…。それに必要なのだよ」
「誕生…誰の誕生だっていうわけ…!?」
「それは我々の計画に準ずるまで。お前が知ることではない」
 そういって男は一つのボールを放り投げた。
 中からはフーディンがでてきた…あの男のポケモンなのだろうか。
「それではお嬢さん、これにて失礼…」
 そういって男はクレナに後ろを見せた。
「フーディン、テレポートだ」
 男がそういうとフーディンはうなずき、光を放ち始める。
「ま…待ちなさ…!」
 クレナは立ち上がって追おうとしたが、体に一瞬ズキンと痛みが走る。
「っ……!」
 そのまままたバランスを失い、クレナは地面にはいつくばった。
 そしてクレナが再び前を見たときには、先ほどの男はもういなかった。
「…ミュウ――――――!」
 クレナの叫びはミュウには届かない。

「さっきの声こっちから聞こえてきたな…」
 ストライクたちは一本道をひたすら走り続けていた。
 あとからピカチュウとポッポも追ってきている。
 トンネルになっている道の終わりを通りこし、一段と広いホールにたどり着いた。
「クレナちゃん!」
 ピカチュウがいち早く倒れ込んでいたクレナを見つけた。
 ストライクとポッポもあとからクレナのもとへと駆けつけた。
「おいクレナ! しっかりしろ! 何があったんだ!?」
 ストライクが大声で呼びかける。
 しばらくしてクレナが目を開けた。
「クレナ、一体ここで何があったんだ!?」
 ストライクが必死で訊いた。
「…ごめんね、逃げられちゃった…ロケット団に…」
 クレナが小声で言った。
「ロケット団ピカ!?」
 ストライクとピカチュウは言葉を失った。
 周りはクレナのロックブレイクで激しく隆起した地面の岩がむきだしになっている。
「これクレナちゃんがやったっぽ…?」
 まわりをきょろきょろしてポッポは言った。
「…うん、ミュウを守ろうとして…」
「ミュウ!? お前ここで何を…、」
 ストライクが何回も訊くのをポッポがおさえた。
「とりあえずハナダシティにいこうっぽ、クレナちゃんを休ませなきゃだめっぽ…」
 ポッポがクレナの疲れ切った体を見ていった。
「…わかった。クレナ歩けるか?」
 ストライクがクレナに訊いた。
「…うん、なんとか大丈夫」
 ゆっくりとクレナは立ち上がったが、まだ少しふらつく。
 後ろに倒れそうになったのをストライクが支えた。
「…ありがとストライク…」
 そっけない笑顔をクレナは見せた。
「さっさと行こう、もう日も暮れるぜ」
 ピカチュウとポッポにストライクは言った。
 ホールの天井から夕日の紅い光がクレナたちを淡く照らしていた。
 何かを象徴しているかのように。
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ミャル #3★2003.11/22(土)06:38
第8章 時限 - Time Limit -


「本当にもう大丈夫ピカ?」
 ピカチュウが心配そうに訊いた。
「うん…大分力も戻ってきたし、明日にはまた出発できそうだよ」
 ベッドの上で半身起こしてクレナは言った。
「ごめんね、いろいろと心配させちゃって」
 クレナはベッドから少し離れたところにいるストライクとポッポの方を向いて言った。
 ストライクは腕を組んで壁の方に寄りかかっていた。
 その横の出窓の前にちょこんとポッポはにっこりしながら居座っている。
「…ったく、いきなり岩雪崩でいなくなったと思ったら奥で倒れてるやつ見て誰が心配しねえんだよ」
 ストライクが目をつぶってぶっきらぼうに言った。
「でもクレナちゃんが無事で本当によかったっぽ」
「ほんとぴか!」
 ポッポもピカチュウも笑顔ではきはきと言った。
「うん、ありがと」
 クレナも二匹の笑顔を見てふと笑いを見せた。
 窓から差し込む光は結構部屋の中の方まで照らしている。
「今何時?」
 クレナがふと訊いた。
「お昼の3時ちょっと前ピカ」
 クレナのリュックのそばに置いてあった腕時計を見てピカチュウは答えた。
「じゃあ気晴らしに買い物でも行こうかな」
 クレナは毛布を払い、足先をスリッパに入れた。
「おいおい、もうおいて大丈夫なのか?」
 いきなり立ち上がったクレナを見てストライクは少しあわてたように言った。
「うん、大体よくなってきたし、外の空気が吸いたいな、って思ってね」
 しゃがんでリュックを整理しながらクレナは言った。
 整理を終えてリュックを背負いながらクレナはストライクたちの方へと向いた。
「一緒に来る? お買い物だけど」
「ピカ行くピカ!」
「ぼくもっぽ!」
 真っ先にピカチュウとポッポの手と翼があがった。
「ストライクは?」
 ストライクの方をさっとクレナは見た。
「オレはいいや、少し休みてえし」
「そっか、じゃあちょっと行ってくるね。行こう、ピカチュウ、ポッポ!」
「はいピカ!」
「ぽっぽぉ!」
 ばたばたとクレナとピカチュウ、ポッポは部屋のドアからとへと出て行った。
 一匹部屋に残ったストライクは床に座り込むと、そのまま横になった。
「ふあ〜あ…」
 大きなあくびをすると、ストライクはそのまま眠りについた。

 あれから三日がたった。
 あの日、クレナは気が遠くなりながら夜道を歩いていたのを覚えている。
 ハナダシティに着いた頃にはもう周りの視界はぼやけ、クレナはそれ以降のことを覚えていない。
 クレナが次にはっきりとした意識が出たのはポケモンセンターの一室だった。
 看護を行った人が、自分がまるまる一日寝ていたことを話してくれたのを覚えている。
 目覚めてから一日はほとんど動けない状態が続いていた。
 それもそのはずだった。
 あとからストライクたちから聞いた話によれば、ポケモンセンターに来たときに、ストライクに支えられて現れたクレナのやつれた姿を見て、一階のロビーにいた人たちは皆目を疑ったという。

「ストライクには内緒だからね」
 目の前に一本指を立ててクレナは言った。
 街の一角にあるファーストフード店のテラスにあるテーブルの上には三つのグラスが置いてある。
 クレナはそのそばにあった椅子に座り、ピカチュウとポッポはテーブルの上に乗っている。
 グラスにはオレンジジュースが注がれていて、日の傾きによって生じた紅くなりかけた空を背景に輝いていた。
「いただきますピカ!」
「いただきますっぽ!」
 ピカチュウはグラスを両手に持って、ポッポはストローをくちばしでくわえてジュースを飲んだ。
 一方でクレナは周りの建物や風景を目に焼き付けていた。
 ここは、水の街ハナダシティ。
 お月見山から流れ出る川の水を生活に多く取り入れた街である。
 カントーの中でも一番美しい街とされ、ジョウト地方の一角にある水の都アルトマーレと並んで観光客が多い。
 街の中にまで川の用水路が引かれ、ボートによる移動が盛んであるのもこの街の特色である。
 クレナが見ていた橋の下にまた一隻のボートが通り、酒のような物が入ったタルを運ぶ二人の人間の姿が見える。
 そのわきには建物がそびえ立ち、川に沿ってずらっと並ぶその光景は観光客にとって圧倒させられる。
「なんでストライクこなかったんだろ?」
 ジュースを二口、三口飲んでクレナは言った。
 今までストライクと行動してきたクレナは、ストライクがこういう落ち着けるような風景の中にいる時が一番幸せな気持ちになることを知っていた。
「ストライクさん、ここんところずっと起きてたピカ」
 早くもジュースを飲み干したピカチュウがグラスを置いて言った。
「え? ストライク寝てないの?」
「うん。ずっと起きててクレナちゃんの横にいたっぽ」
 言い終わるとポッポはまたくちばしにストローをくわえた。
 何気ない返答にクレナは心の中で何かがうずくのを密かに感じ取っていた。
「ここ最近なんか新しいニュースあった?」
 クレナがピカチュウたちに訊いた。
「ん〜、…ポッポくん、なんかあったピカ?」
 ピカチュウは話をいきなりポッポに振った。
 ピカチュウがいきなり自分に話を回してきてポッポは吹き出しそうになった。
「ごほっ…、お月見山の地面が崩れたとか、奥のホールで地割れが起こってることくらいはニュースになってたっぽ」
「なんかミュウに関係することなかった?」
 クレナは間をおかずに訊いた。
「…特にないと思うっぽ」
「そっか…」
 ポッポの言葉を聞いてクレナは少し下にうつむいた。
 それを見てポッポは少し胸が痛むような気持ちになった。
「…あ、別にポッポは悪くないからね! 変な気持ちにさせちゃってごめんね!」
 上目でポッポの様子に気がついたクレナがさっと顔を上げて笑顔を作って言った。
「…うん、気にしないでっぽ!」
 ポッポもすかさず笑顔を作った。
 クレナはまたジュースを口にし、グラスに入っている分を飲み干した。
「…じゃあそろそろいこっか!」
 クレナがそういったとき、ちょうどポッポも自分のジュースを飲み干した所だった。
 クレナは自分のリュックと先ほど店で買ったものが入った袋を持ち、椅子から立ち上がった。
 ピカチュウもテーブルから地面に飛び降り、ポッポもテーブルから飛び立とうとした。
 そのとき、ちょうどテラスの前にあるメインストリートの西の方から人が騒ぐ声が聞こえた。
「なんだろ?」
 クレナは人が集まる所へとその足を進めた。
 ピカチュウとポッポは顔を合わせて首をかしげながらもクレナについていった。
 人が集まっている所は一つのフレンドリーショップだった。
 人混みが押し合い、あまり中が見えない。
 しかしながら、店の横にかけてある看板くらいは何とか読み取ることができた。
「…『デボンコーポレーションの新作アイテム、フルーツグミをホウエン地方から入荷しました…今なら半額で売ります』…?」
 看板の文字をゆっくり一字ずつクレナは読んでいき、最後まで読み終えたときに、クレナは笑顔を見せた。
 その笑顔を見てポッポはいやな予感を感じ取っていた。

「で? こんなに買った訳か」
 寝起きで少しストライクの声にはとげがあった。
 それでなくてもストライクの目の前にある光景を目にしてとげのある言葉を言わざるを得なかった。
「いくらかかったんだよ? 全部で」
「えーと…300円くらいだっけぇ?」
 クレナが笑いながらピカチュウとポッポに訊いた。
「…桁が一つ違うっぽぉ」
 ポッポは力無く言った。
 ストライクも「はあ…」と深いため息をついた。
「あのなあ、博士からそんなにお金もらってなかったんだろ? こんなところで無駄遣いしてどうすんだよ?」
「これもそれなりに使い物になるって! ほら、説明書き見てよ!」
 クレナは冷や汗を垂らしながらストライクに説明書きを見せた。
「……ゼリー状薬品? これを食べることで傷ついたポケモンや人間の傷が癒えていきます…だって?」
 説明書きをあらかたよんでストライクはクレナの方を見上げていった。
「そ! つまり今までの傷薬よりずーっと使い物になるってこと!」
 クレナはにこにこしながら言った。
「だからってここまで買う必要ねえだろ!」
 見た目はグミそのものだったが、立派な薬品であり、その値段も一番安いアップルグミでさえ一個200円もした。
「ったく、どんな製造過程なのか一度見てみたいもんだな」
 物の小ささと値段の高さのギャップを目にしてストライクは言った。

 日もすっかりと沈み、あたりに夜の明かりが灯り始めた。
 ハナダシティの街灯はガス灯のような感じで、水の街をよりいっそう美しくしている。
「いつまで外みてんだよ」
 ベランダにいるクレナに向かってストライクが言った。
「ん…ミュウがいるかもしれないと思ってね」
 ストライクは立ち上がり、ベランダに出てクレナの隣へとやってきた。
 後ろの方でピカチュウとポッポが浴室でぎゃあぎゃあやっているのが聞こえる。
「そう簡単に出るようなもんじゃねえだろ? だいたいロケット団に捕まったわけだし」
「…そうだけど…」
 クレナはそういうと下を向いた。
 ポケモンセンターの宿泊部屋のベランダの下は用水路が通っており、さらにメインストリート、そして建物の向こうには草原が広がっている。
「…私の力がまだ未熟だから…ミュウを守れなかった…私のせいでミュウは…!」
 お月見山のトンネルのホールで倒れてからずっとこらえていたものが一気にわき上がった。
 自分が初級魔法を一回使っただけで自分の体さえコントロールできない。
 ミュウは属性は違うが自分と同じ初級魔法を放ったが別に何ともなかった。
 あのときのことを思い出すと、クレナは自分の力の未熟さを改めて痛感する。
「…人間なのに魔術が使えること自体すげえことなんだぞ、そんなことで自分をさげすむんじゃねえよ」
「…そんなことっていうけど、結局私は自分が何者かもわからないし、ただ魔法が使えるだけの特別な存在だと思ってたの…魔術に関しては少し自分にも自信があったのに…」
 ベランダの柵の上で腕の上に顔を伏せてクレナは言った。
「本当に私…何者なんだろう…」
 ふとクレナはミュウの言っていたことを思い出す。
 あのとき確かにミュウは「あなたはやはり…」と小声で言っていた。
 魔法が使える…それ以外の特別な存在だと言いたいのだろうか。
 そうだとしたら、私は一体なんだって言うの―――――。
 クレナの方を見下ろしていたストライクは、ふとまた前の方を向いた。
 その時ストライクは確かに見た。
 光の閃光が一瞬ではあったが遠くの草原に移ったのを。
「おい、クレナ! あれみてみろ!」
 クレナの体を揺すってストライクは言った。
 ようやく顔を上げてクレナは前の方を見た。
 そしてクレナの目にもその光景が見えた。
 ほんのかすかではあったが、つい最近みたことがある光。
「…すっきりしたピカ〜!」
「なんかかえってつかれたっぽぉ」
 さんざん浴室で暴れていたピカチュウとポッポが少し湿った体で体を拭きながら出てきた。
「ピカチュウ、ポッポ、行くよ!」
 部屋を走ってクレナとストライクは突っ切った。
「え!? どこいくっぽぉ!?」

 もしかしたら会えるかもしれない。
 それに今まで気にしていたことがわかるかもしれない。
 そのことを胸にクレナは建物の間の夜道を走っていく。
 クレナとストライクが同じ横のラインにいる後ろでピカチュウとポッポは必死に追ってきている。
「…待ってピカ〜!」
 後ろから聞こえる声にも振り向かず、クレナは思いだけを一心に突き進んでいく。
 そして広大な草原地帯に出た。
 真っ先にクレナはハナダシティにあるすべての建物から見えない所の方に草をかき分けて進んだ。
 しばらく進んだところでクレナはその足を止めた。
 そこだけ草が生えていない、地面が土だけでできた広いフィールド。
「…はぁ、はぁ、おいついたピカぁ」
 ピカチュウとポッポは遅れてクレナとストライクの所に追いついた。
 そして見上げた。
 そこにあったのは光…ではなく、光に包まれたポケモン。
「ミュウ…もどってきたのね!」
 クレナが少し大きな声で言った。
「三日ぶり…ですか…」
 ミュウが静かな声で言った。
 クレナの横でストライクがあ然として突っ立っている。
 ピカチュウもポッポもその場でミュウを見て放心していた。
 ストライクたちもミュウには今までお目にかかったことはないらしい。
「ごめんね…助けにいけなくって…」
 クレナが少し胸が痛くなるような気持ちで言った。
「…いいえ、あなたこそ元気になってなによりです…それより…」
 ミュウはストライクやピカチュウ、ポッポの方を見た。
「この者たちはあなたのポケモンですか?」
「…ピカチュウ以外は正確に言えばノーだけど、訳ありなの」
「訳…それはロケット団の事ですか?」
「そう…この子たちはロケット団の生体実験に振り回されて逃げ出したの」
 クレナの言葉を聞いてミュウは沈黙した。
「ミュウ…あなたもなの…?」
 クレナの問いに対してもミュウは平静を保っていた。
 しばらくして重い口をミュウは開いた。
「…正確には違います…私は自分の遺伝子を抜き取られただけで済みました」
 遺伝子を抜き取られた、その発現をきいてクレナは少しどきっとした。
 自分がそんなことされたらという気持ちになるとゾクゾクしてくる。
「でもなんでそれだけで済んだの…?」
「言っていたでしょう、誕生パーティーのための準備であると」
 クレナはあのホールの時に、ボスと呼ばれていた男がそういっていたことを思い出した。
「一体誰の誕生だっていうの!?」
 クレナは叫んだ。
「……人工的に作り出したポケモン…彼らはそのポケモンをミュウツーと呼んでいました」
 ミュウは話を始めた。
「ロケット団が世界を支配する、そのためには最強と称されるポケモンが必要です。世界中のポケモンを屈するほどの力を持つポケモンが」
 ミュウは目をつぶって続けた。
「そして幻のポケモンに目をつけました。昔から幻のポケモンは強大な力を持ち、その姿を隠しながら生きていると人々の中では言われています。その通り、あなた方が幻であったり伝説とうたうポケモンたちはみな魔術が使えます…その力にロケット団は目をつけました」
 クレナたちはミュウの話を黙って聞き続けた。
 その一つ一つの言葉に対していろんな思いを抱きながら。
「そしてとうとう私を追い込み、捕まえました…。その後彼らはアジトで私の遺伝子を手に入れたのです…強力な魔力が秘められた遺伝子を…。当然その遺伝子を私の寝かされた隣にある大きなカプセルの中で生み出されていくミュウツーに注ぎ込みました。彼が誕生すると確実に世界はロケット団の手に…最悪世界は破滅の一途をたどるでしょう」
「あと…何日…?」
 クレナは静かに口を開いた。
「あと何日で完成するの…?」
 ミュウはその問いをきいて少し黙り込んだ。
「まだ完成はしてないんでしょう…? あと何日の猶予期間があるの?」
「……おそらく一日…」
「…一日だって!?」
 ストライクが大声を出した。
 今からロケット団のアジトに行ってそのミュウツーの入った培養カプセルを壊そうとしても一日では足りなすぎる。
「……そこへ連れて行くんだ、オレたちを!」
 ストライクがしばらくしてミュウに叫んだ。
「す…ストライクさん!?」
 ピカチュウが即座に反応した。
「とめねえと…奴らを止めねえと世界はおわっちまうんだぞ!」
 ストライクは叫ぶ。
 ミュウは浮かんだまま口を閉ざしている。
「……いいでしょう」
 ミュウは目を閉じたまま言った。
「じゃあ今すぐ…!」
 ストライクが先へ先へと急ごうとしたところをミュウは制した。
「その前にあなた達の実力を見せて頂きます」
「…え!?」
 急な要求にポッポはとまどった。
「ミュウツーの力は私に比べ物にならないほど強いでしょう…私があなた達がミュウツーに立ち向かえるかどうか試させて頂きます」
 ミュウは目を開いた。
「…なるほど、わかりやすいな」
 ストライクはゆっくりと鎌を構えた。
「ちょ…ちょっと待つっぽ…!」
 ポッポがあわてていった。
「ミュ…ミュウさんと戦うっていうっぽ!?」
「…もうさけられないピカ!」
 ピカチュウが横で構えながら言った。
「クレナさんも本気で攻めてきてください」
 ミュウが静かに言った。
「……わかったわ」
 今まで思い慕う対象と戦うことに最初はとまどったが、クレナはゆっくりと構えた。
「ポッポ、どうする?」
 体はミュウの方を向きながらクレナはポッポに向かっていった。
「……や、やってみるっぽ!」
 ポッポもようやくミュウをきっと見た。
 目の前でミュウは精神を集中させ始めた。
「…ではまいります!」
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ミャル #4★2003.11/03(月)12:19
第9章 心 - The Heart -


「…レイトラスト!」
 ミュウが両手を前に突き出しながら叫ぶ。
 お月見山で放った時と同じように、光のエネルギーが込められた大きな玉が放たれる。
 その矛先は隊列の前衛にいたストライクとクレナの方に向けられている。
「クレナ、走れ!」
 ストライクは言うやいなやミュウに向かってダッシュした。
「え!? ちょ、ちょっとまっ…!」
 いきなりストライクに言われクレナは困惑した。
 自分の目の前にレイトラストの光が押し寄せている。
 足が動かない…避けきれない。
 そして光の玉が暴発しはじめる。
「きゃっ…!」
 クレナはとっさに目の前で両腕をクロスさせて防御の体勢をとり、目をぎゅっとつぶった。
「クレナちゃん!」
 後ろの方でピカチュウとポッポが叫ぶのが聞こえる。
 自分の目の前で何が起こっているのかはわからない。
 だが暴発した光の熱が、自分の腕を蝕んでいる感触が伝わる。
 初めてクレナはポケモンによる攻撃をまともに食らった。
 確かに今まで野生のポケモン達には何回か襲われたことはあった。
 しかし、常に隊列の前衛にいたストライクとピカチュウが敵の侵攻を防いでいたおかげで、後衛のクレナやポッポは安全に魔術を放つことができた。
 熱い、焼けるような熱さが自分の体を焼き付ける。
 ポケモンの技程度であれば強力でない限り人間は耐えることはできる。
 しかしながらミュウが放ったものは、並大抵のポケモンが使うものではない、魔術。
 基本魔術でさえ絶大な威力を発するものであり、初級魔法となれば人間が耐えられるはずがない。
 暴発による風で自分の髪がなびくのを感じる。
 この熱さがクレナには長い長い時間続いているように感じる。
 このままもしかしたら死んでしまうかもしれない…。
 ふと、痛みつけていた熱さが消えた。
 ゆっくりと、クレナはつぶっていた目を開ける。
 視界にはストライクがミュウめがけてジャンプする姿があった。
「虎牙破斬(こがはざん)!」
 空中でストライクはミュウに向かって上下に2回斬りつける。
「っ……!」
 体を傷つけられ、ミュウは片目をつぶる。
 クレナはレイトラストを防ぐために使った腕をふと見た。
 少し赤黒くはなっているが、意識がはっきりしている以上、命に別状はない。
 呆然となっているクレナの横を後ろからピカチュウがミュウに向かって走り抜ける。
「だいじょうぶっぽ!?」
 後ろからポッポが低空飛行してクレナの横へと来ながら言った。
「う、うん…」
 自分の腕をまだ呆然とみながらクレナは答えた。
「なんで私無事なんだろう…?」
 クレナが前を見ると、ピカチュウが空中のミュウに向かっていた。
「飛燕連脚(ひえんれんきゃく)!」
 ピカチュウは空中で三散華のような三連の回し蹴りをミュウに当てる。
「くっ…!」
 ミュウは再びストライクがジャンプしてピカチュウと高さが同じになったところをねらって、しっぽで思いっきり2匹を打った。
「ぴっかあ!」
「ぐあっ…!」
 一見変哲のない攻撃の想像以上の力にストライクとピカチュウは後ろに吹っ飛ぶ。
「いくよ、ポッポ!」
「わかってるっぽ!」
 クレナはポッポに合図を送り、両手を胸の前で合わせ、バチバチと音を立てる雷のエネルギーをためる。
 その横でポッポは翼をバッと広げ、目の前に激しく対流を起こす水の玉を作り上げる。
「ライトニング!」
「アクアエッジ!」
 ほぼ同時にクレナとポッポは魔術を放つ。
 アクアエッジの大きな水の玉のまわりを、ライトニングの電気が覆っている。
 その2つのエネルギーは空中のミュウめがけて向かっている。
 目の前に迫った魔法を目にしてミュウはとっさに両手を前に突き出す。
「リフレクトシールド!」
 ミュウがそう叫ぶと、ミュウの前方に半透明のバリアが浮かび上がる。
 そのバリアに向かってクレナとポッポの魔法が当たる。
 リフレクトシールドと2つのエネルギーがぶつかり合って光が四方八方に広がる。
 2つのエネルギーがシールドをぶち破ろうと、中へ中へとめり込む。
 しかし数秒後、勢いよくクレナとポッポの放った魔法が跳ね返される。
 跳ね返された魔法は放った本人たちに向かって戻っていく。
「あ、あぶないっぽ!」
 向かってくる自分たちの放った魔法を目にしてポッポが叫ぶ。
 さっとクレナとポッポが横に避ける。
 そして、先ほどまでいた場所に自分たちの魔法が当たり、地面が割れ、砂煙が上がる。
「ふう…あぶないあぶない」
 砂煙が消えてクレナがつぶやいた。
 クレナたちの目の前でミュウがさらに高く上がる。
「…あなた方の意志はそのようなものですか」
 ミュウが小さな声で言った。
「何…?」
 吹き飛ばされたストライクが起きあがりながら言った。
「私は“本気”でかかって来てくださいと言ったはずですよ…。それがあなた方の力のすべてなのですか?」
 ミュウが厳しく言い放った。
 確かにこの戦いでクレナたちが使ってきたものは、今まで野生のポケモン相手に放ってきたものと同じだった。
 しかし、ストライクやピカチュウも、もちろんクレナもポッポも、そのような相手に手加減してきたことはない。
 ミュウがいう“全て”とは、今まで放ってきた技や魔術を超えろと言っているのだろうか。
 ストライクやピカチュウは、夜にポケモンセンターの外や、キャンプの時に自分の技を鍛えていて、今までを超えることは苦ではない。
 同様に魔力の強い親を持つポッポも、レベルの高い魔術を使うことになんら問題はない。
 だがクレナは今までのものを超えることには抵抗があった。
 今の基本魔術を超えるもの、つまりそれは初級魔術だ。
 しかしお月見山で放った初級魔法、ロックブレイクを使ったとき、クレナは放ったあと、失った膨大な精神力に耐えられなかった。
 あれから三日しかたってないのに、初級魔法を使って自分の体が今度こそ無事である保証はない。
「大丈夫か? クレナ」
 後ろを振り返ってストライクは訊いた。
 クレナは地面を見下ろす。
「…そんなことわからないよ。でも…」
 クレナはさっとミュウを見上げる。
「…やらなきゃいけないんだよ、全ての力で」
「クレナ…」
 ストライクはしばらく呆然としていたが、クレナの事をみてその心を悟った。
「…わかった」
 ストライクはピカチュウとポッポの方に体を向けた。
「みんな、いくぞ!」
「はいピカ!」
「わかったっぽ!」
 ピカチュウとポッポは同時に叫んだ。
 一連の様子をミュウは上から見ていた。
 全員の体が自分の方に向き、少し経ってミュウはふと微笑した。
「…いきますよ!」
 ミュウが叫ぶと同時に、ストライクとピカチュウが前に走り出した。
「エアスラスト!」
 ミュウが手をさっと上に上げると、手のひらから巨大な風の玉が生み出され、ストライクとピカチュウめがけて襲いかかる。
「ピカチュウ、跳べ!」
 ストライクがピカチュウに向かって叫ぶ。
 ミュウの放ったエアスラストをストライクはさらにダッシュして避ける。
 ピカチュウはその場で高く跳び上がり、空中で一回転し、ミュウの真上に体を持ってくる。
「なっ…!」
 地上でエアスラストが地面にぶつかり、土がバッと吹き出すのと同時にミュウはピカチュウを見上げる。
 ピカチュウはそのまま勢いづけて急降下し、ミュウに向かって右足を振り下ろす。
「鷹爪襲撃(ようそうしゅうげき)!」
 パシッとミュウに強烈な蹴りが入る。
「ぐっ…!」
 ミュウは勢いづいて高速で落下していく。
(…彼は幼いながらも自分の力を信じて、おのれの正義感を貫く強さがある…)
 落下しながらピカチュウの姿を見つめるミュウ。
 地面にぶつかる寸前でミュウは体勢を立て直し、再び浮かび上がろうとする。
「今度はぼくだっぽ!」
 ポッポは翼を広げ、精神を集中させる。
 そしてきっと目を見開いて片方の翼を上に高く上げる。
「スプレッド!」
 ポッポがそう叫ぶと、ミュウの真下の地面から大量の水が吹き出す。
 水は水柱となってミュウの体を押し上げる。
(…彼は父親の勇敢さと母親の思いやりの心がある…)
 空中に上がったミュウが地面の方を見ると、ストライクが自分めがけてジャンプしているのがわかる。
 自分と同じ高さに上がったストライクはミュウめがけて上から思いっきり斬りつける。
 ストライクの種族特有の技、「いあいぎり」。
 ザシュッ! 、と音を立ててミュウは再び地面めがけて落ちていく。
 そして先に地面に降り立ったストライクは落ちてきて自分の方を向き直ったミュウに向かう。
「散沙雨(ちりさざめ)!」
 連続でミュウのことを自分の鎌で突くストライク。
(…彼は自分の信念をまげずにまっすぐと立ち向かう勇敢さがある…)
 ストライクの攻撃から自分の身をはずすミュウ。
「いくよ、ミュウ!」
 浮かび上がったミュウが振り向くと、クレナが魔力を高めているのが見える。
 あのとき見たのとは違う、真剣なまなざしで―――。
(彼女は…)
 ミュウはクレナをきっと見つめる。
(彼女は…)
 クレナの周辺に風が吹き、地面がふるえる。
「…フィアフルフレア!」
 クレナが叫び、右手を高くかざす。
 天空から無数の炎の槍がミュウめがけて降り注ぐ。
(…彼女は…竜族の血を――――――!)
 クレナのフィアフルフレアはミュウに全て命中していく。
 一回一回の攻撃で少しずつミュウは地面へと向かい、地面に降り立ったとたん、炎の槍がミュウを襲い、地面から煙が上がる。
 クレナはフィアフルフレアが降り注ぐ地点をじっと見つめていた。
 ストライクもピカチュウも、そしてポッポも同じだった。
 少しして炎の槍が降り注ぐのが止み、砂煙がだんだんと晴れていく。
 その中でミュウの影が地面で立っているのが見える。
「…くそっ、まだか…!」
 ストライクがまた構え直して言った。
「待って!」
 クレナがストライクに向かって言った。
 煙が完全に晴れ、ミュウの姿が完全に見えた。
 よく見るとミュウは…ほほえんでいる。
「……わかりました」
 ミュウはしばらくして言った。
「あなた方の力になりましょう」
 ミュウがにっこりしていった。
 こんなに笑っているのを見たのは初めてだった。
「ミュウ、ありがとう…」
 クレナがミュウに小さな声で言った。
「クレナさん…超えられましたね、自分の壁を」
 ミュウがふと言った。
「え…?」
 言われてみてクレナは初めて気がついた。
 初級魔法を放ったのに特に何ともない。
 唯一痛みを感じるとすれば、最初のレイトラストによる火傷くらいだった。
「どうしてだろ…?」
 クレナはつぶやいた。
「それは…」
 ミュウが口を開いた。
「魔術に必要なのは…今を超えようとする心です」
「心…?」
 クレナはミュウに訊いた。
「過去をおそれていてはいけません…自分を強くしたいのなら、今の先を見るのです」
 クレナは下を向いてミュウの言ったことを静かに受け止めた。
「先を見る…」
 クレナはつぶやいた。
 クレナがまた前を見ると、いつの間にかミュウが自分の前に来ていた。
「…クレナさん、これを」
 ミュウはそういって、自分の手に光を集め始める。
 緑色の光を放ち、ミュウの手には一つの指輪がのっている。
「これは…?」
 クレナが指輪を見つめていった。
「エメラルドリング…精神力の消費を抑える指輪です」
 ミュウはそういってクレナの手にエメラルドリングを渡した。
「これがあれば初級魔術を何回か放っても精神力を失わずに済みます」
 ミュウはそういってまたほほえんだ。
「…ありがとう、ミュウ」
 クレナはそういって指輪を右手の薬指にはめた。
「で? これからどうすればいいんだ?」
 クレナの後ろからストライクが訊いた。
「…ミュウツーの弱点を探すのです」
 ミュウがまた真剣になって言った。
「ミュウツーの実験に関わり逃げ出した科学者がグレン島に逃げたと聞きました。彼に会ってきてください」
「…わかった」
 ストライクが言った。
「私のテレポートであなた方をグレン島まで送りましょう」
「ミュウさんは…どうするっぽ?」
 ポッポが小さな声で訊いた。
「…姿をかくしてもう一度ロケット団のアジトに行きます」
「あ、危ないピカ!」
 ピカチュウが反応して言った。
「…あなた方が今来ては危険です。それよりも、グレン島の彼はロケット団に追われている身です。二度と会えなくなる前に彼にあってください」
「…本当に大丈夫なの?」
 クレナがミュウに訊いた。
「二度はかかりませんよ。私も幻のポケモンです、姿くらい隠しますよ」
 ミュウがにっこりとした。
「…じゃあアジトのあるところだけ教えて」
 クレナが言った。
「タマムシシティ…正確に言えば地下ですね」
 ミュウが静かに言った。
 その言葉を聞いてストライクとピカチュウは少し反応した。
「タマムシシティ…か」
 ストライクがつぶやいた。
 自分たちが生体実験を受けた場所…いづれそこへと向かわなければならない。
「一刻も早くグレン島へ行ってください。明日、ミュウツーが目覚める前にタマムシシティに来てください」
「…うん!」
 クレナは首を縦に振った。
「じゃあ一か所に固まってください。まとめてグレン島へ送ります」
 ミュウがそういって離れているストライクたちに言った。
「ピカチュウ、ポッポ」
 ストライクが二匹を呼んだ。
 ゆっくりとピカチュウとポッポはクレナのところに来た。
 そしてストライクがクレナの横へと着いた。
「…ではいきますよ」
 ミュウは言った。
 クレナたちは目をつぶり、無心になった。
 ミュウが自分たちに何かをしているのが感じられる。
 そして少ししてふと、自分たちの体が軽くなったように感じた。

 クレナが再び目を開けると、夜空があった。
 地面を見ると、砂浜…そして目の前には海。
「…ついたぜ」
 ストライクが何かを見上げている。
 ピカチュウとポッポ、そしてクレナもその方向へと目をやる。
 その先には大きくそびえ立つ火山。
「ここが…グレン島…」
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ミャル #5☆2003.11/02(日)12:19
第10章 罪 - The Crime -


 火山の町、グレンタウン。
 この町は島の中央にそびえ立つ世界有数の火山グレン火山を背景に立地した。
 火山灰がつもった島の地面では畑作が盛んであり、ビーチはリゾート地としても近年にぎわい始めた。
 だが過去にはその火山から吹き出すマグマによって人々に被害をもたらしたことも事実である。
 今は定期船が一日に二回ほど着くくらいの、ゆったりとした雰囲気の島だ。

「…科学者?」
「そうです。この町に科学者がいるって聞いたんですけど、どこにいるか知りませんか?」
 クレナはポケモンセンターの受付嬢に、これから会うべき科学者について聞いていた。
 さすがに夜にもなれば受付のあるロビーにはほとんど人はいなく、ひっそりとしている。
 端の方のソファーに座って自分のポケモン達と話をしている数人のトレーナーたちの話し声が聞こえるくらいで、クレナと受付嬢の声はロビー全体に響き渡っているようだった。
「そうですねえ…」
 受付嬢は後ろの棚の引き出しから一枚の紙を取り出した。
 グレン島全体の地図だった。
 土地利用の内容から家の持ち主まで、事細やかにかかれている。
「厳密には研究者ですが、この町のジムリーダーにカツラさんという方がいますね」
 受付嬢がさらりと言った。
「ジムリーダー…?」
 クレナは少し考え込んだ。
 自分のこれから会うべき科学者とはロケット団の内部を知った人間。
 そんな人物が皆がよく知るジムリーダーであるとは疑わしい。
「あのー、その人最近島の外に出られました?」
 クレナが受付嬢の方を見て訊いた。
「ええ。昨日こちらの方にお見えになりましたよ。何でもタマムシシティで論文の発表会があったそうで」
「…そうですか。で、彼は今どちらに?」
 論文の発表会がタマムシシティで行われたか否かについてはとりあえず今は考えずにクレナは訊いた。
「今は彼の研究所にいると思いますよ。グレンタウン地質研究所に」
 受付嬢は地図の一点を指して言った。
 その指はグレン火山のすぐ近くの建物を指している。
「わかりました。ありがとうございました!」
 クレナは受付嬢にお礼を言い、その場をあとにした。

 ストライクとピカチュウ、そしてポッポはポケモンセンターの入り口のわきでクレナの事を待っていた。
 グレンタウンの夜は静かで、つい最近までいたハナダシティとは違い、人の気配はほとんどない。
 もともと農業が盛んな町であるせいか、町の中心から外れたところでは、家の明かりがぽつんぽつんと点在する程度で、建物から光が漏れてどこまでも明るいということはない。
「ふあ〜あ…」
 座り込んでいたピカチュウが大きなあくびをした。
 日が沈み、ミュウと戦ってこの町に来てなどして、かなり時間が経った。
 人がいないことはこのことにもつながっているかもしれない。
「ピカチュウくん、寝ちゃダメだっぽ」
 ポッポがピカチュウの体を揺らした。
 その横でストライクは静かにクレナが出てくるのを待っていた。
「…なあ、ポッポ」
 今まで口を閉ざしていたストライクが言った。
「なんだっぽ?」
「…こんな話して悪いんだが、お前の母さんってどうして死んだんだ?」
 そういわれてポッポは急にぐっと来るものを感じた。
「……」
「…ポッポくん…?」
 黙りこくるポッポの顔をのぞき込むようにしてピカチュウが言った。
「ピカチュウ、お前知らないのか?」
 ストライクがピカチュウに訊いた。
「はいピカ。ピカはポッポくんのお母さんが死んじゃったってことしか聞いてないピカ」
 眠たい目をこすりながらピカチュウは答えた。
「…お母さんはぼくをかばって…殺されたんだっぽ」
 重い口をポッポは開いた。
「殺された?」
 ストライクが訊いた。
 ピカチュウはポッポの目の前で凍り付いていた。
「…あの日ぼくは森の奥から帰ってこないお母さんをさがしてたっぽ。そしたらお母さんが、黒い服を着た人間たちに囲まれてて…」
 ストライクがまじまじと聞いている横でピカチュウはふるえていた。
「その人間たちの繰り出したポケモンの攻撃をお母さんは何回もくらったっぽ…。弱って倒れ込んだお母さんにぼくが寄っていったら今度はぼくがねらわれたっぽ」
「な…何でピカ?」
 ピカチュウがこわごわと訊いた。
「それはわかんないっぽ。それで人間たちのポケモンがぼくに攻撃を放ってきたっぽ。そしたら倒れてたお母さんがおきあがって…!」
「…かばったって訳か。自分の命を犠牲にしてまでも我が子を守るために…」
 ストライクがポッポの言葉を補った。
「そのあとは…目の前が真っ白になってよく覚えてないっぽ…」
 ポッポは下を向いてしまった。
「…ごめんな、ポッポ。悪い事を思い出させて」
「…ううん、いいっぽ。お母さんの事は忘れる事なんてできないっぽ」
 ポッポは少しの笑顔をストライクに向けて見せた。
「…だとしてもそいつら…」
 ストライクがそう言いかけた時、あることがピンと思い浮かんだ。
「ま…まさかその人間たちって…!」
「お待たせー!」
 後ろから突然声がした―――クレナだった。
「ここからまた少し歩くからね。グレン火山の近くまで」
 クレナがいつもの元気よい声で言った。
 それを聞いているような聞いていないようなストライクとピカチュウ、そしてポッポの事を見てクレナは不審なことを感じた。
「…何? なんかあったの?」
「…あ、別に何でもないっぽ! それより早くその人に会いにいこうっぽ!」
 一番最初にポッポが気分を切り替えた。
「そう、なら別にいいけど」
 クレナはなにやら考え込んでいるストライクと元気のないピカチュウを見た。
「ほぉらぁ、行くよ」
 クレナがストライクの肩をぽんとたたいた。
「あ…ああ。いくぞ、ピカチュウ」
「ぴ…ピカ! 行こうピカ!」
「……?」
 何もわからないままクレナはグレン火山の方に歩き出した。

 数十分後、クレナたちはグレン火山を登っていた。
 遠くから見ていてわかるとおりに険しい坂道が続く。
 登る途中に時々聞こえる低く長い音が火山がいまだ活動していることを物語っている。
「ふう…ここかな?」
 しばらく登ったとき、一軒の建物が見えてきた。
 白い、大きな建物。
 だがその白は近づくにつれてだんだんと色あせていく。
「もうダメピカぁ」
 杖代わりに使っていた木の枝を手放し、ピカチュウが地面にはいつくばった。
「なんだかやな感じだっぽ…」
 門の前まで来てポッポが言った。
「本当にここなのかよ…なんかすげえボロボロじゃねえかよ」
 建物を見上げてストライクがクレナに向かっていった。
「残念ながらそうみたいだよ」
 クレナがなにやら見ながら言った。
 ストライクがその場所へと体を移して目をやると、門の前に石を彫って書かれた表札があった。
 確かにそこには「グレンタウン地質研究所」と書かれている。
「行かなきゃダメピカぁ?」
 クレナがむりやりピカチュウを起こそうとしてピカチュウが言った。
「ダメだ。時間がねえんだよ、オレたちには」
 ストライクがピカチュウに向かってはっきりと言った。
 と、そのとき、研究所のドアが開いたのにポッポが気づいた。
「…どなたかな?」
 さすがに研究所の真ん前でこんな夜中に何かやっていることに疑問を感じたのだろう。
 白衣を着た老人がこちらに向かって言った。
 間違いない、ジムリーダーとして世間に広まった顔。
「カツラさん…ですね?」
 クレナが門をくぐり、老人の前まで来た。

「ほう、君がクレナ君か」
 カツラはクレナたちを応接間まで案内してくれた。
 クレナたちはテーブルを囲んでソファーに座った。
「…え、私のこと知ってるんですか?」
 クレナが少し驚いて訊いた。
「内部の人間だ、そのような噂は聞いているよ。普通の少女が魔術をぶっ放した、とね」
 自分が普通の少女ではないとはわかっていながらクレナは少し照れくさくなった。
「じゃあロケット団は魔術についてもう知っていたのか」
 ストライクが静かに言った。
「いろいろと我々研究者たちを引っかき回させて得られた一つの回答だ。幻のポケモン達が身につけている、未だ解明されていない力を知ったのだよ、彼らは」
 カツラは静かに言った。
「あの、カツラさんはなんでロケット団から逃げ出したんですか?」
 クレナの問いにカツラは顔を上げた。
「そもそも我々科学者や研究者たちがロケット団に利用されているのは、いろいろと弱みを握られているからだ。その弱みにつけ込んでロケット団は脅迫…我々とあの者達との間には、脅迫するものされるものの関係が生まれた。そうして利用され始めた我々があのポケモンを造り出した」
 カツラは静かな声で言った。
「それって…ミュウツーのこと?」
 クレナがそう訊いてカツラは少し黙り込んだ。
「…君たちはもうそこまで知っていたのか…」
 カツラはつぶやくようにいい、先を続けた。
「…私はミュウツーを造り出すチームの責任者だった」
 先ほどまで疲れ切っていたピカチュウも、カツラの言うことを真剣に聞いていた。
「チームはポケモンについてそれ相応に詳しい者たちで構成された。生態、習性、そして強さの秘密。全てにおいて上の命令で、残酷に強く造るように言われていた。はじめはうまくはいかなかった。なにしろ人工的にポケモンを造り出す事自体、今までされたことのないことだからね。失敗を繰り返した。それでも私たちは研究をやめるわけにはいかなかった…ここでやめたら必ず自分にとっての弱みを好きに利用されてしまう」
 言い切ったあとにカツラは少し休み、そしてまた続けた。
「ある時だったよ。我々の研究チームの一人が、幻のポケモンに目をつけた。未だに解明されない古代の力、魔術にね。この力があれば、と私たちは誰もがそう思った。だがこれを上に報告したのが間違いだったのだ。奴らは魔術を持っていそうなポケモン達を次々に捕獲し始めるようになった。トレーナーの持つポケモンでさえ容赦はなかった。野生のポケモン達も無差別級に捕獲された。抵抗するポケモン達は捕獲、または倒す、そんなことを繰り返していた。そして、野生のポケモン達をロケット団の意のままに操るために、別の研究チームが行っていた野生ポケモン達を操る電波を全世界に向かって放出したんだ。過去にジョウト地方の湖でポケモン達の変種を生み出させた規模より大きいものをね。完全に研究し尽くされた電波は効果覿面だったよ。そうして今の野生のポケモン達に異変がおこったんだ」
「…じゃあやっぱり野生ポケモンが凶暴化したのはロケット団の仕業だったっぽ…」
 ポッポは静かに言った。
「そうこうしているうちに、ミュウというターゲットが定まった。お月見山まで追い込んでとうとう捕まえたミュウを眠らせ、その遺伝子の一部を抜いた。幻のポケモンの遺伝子は本当に良質の者だったらしい。ミュウツーに注ぎ込むと、今までの失敗が嘘のように晴れた。そうしてミュウツーのプロジェクトは確実に成功の道をたどっていったんだ。もうロケット団の世界を我が手にするという計画に必要な研究はミュウツーの研究のみとなっていたよ。これが終われば全て終わると思っていた。だがミュウツーがだんだんとできて来るにつれて私は怖くなった」
「怖い?」
 クレナが訊いた。
「…自然を完全にくつがえしてできた残酷なポケモン。そんなものを造り出した自分が憎らしくなってきたんだ。生命を自分たちが勝手に造り出して自然な状態を壊す自分がね。こんなことをやってきて本当に後悔している…何故奴らに立ち向かわなかったのだろう、とね。あんな者を造り出してしまった私は、罪人同様だよ」
 カツラはそういって黙り込んでしまった。
 今までの長い話を聞いてクレナは心が痛んできた。
 隣を見ると、ストライクとピカチュウも沈んでいる。
 彼らも、無差別に捕獲され、ロケット団にいいように利用された被害者だった。
 ストライクは何か言いたげだったが、ここでカツラを責めたところでどうにもならなかった。
「…じゃあぼくのお母さんは…」
 ポッポが口を開いた。
「お母さんは、ロケット団に…殺されたんだっぽ…!?」
 ポッポの目には涙が浮かんできている。
 母親は自分はもとより、自分の子まで捕獲されることを体を張って守った…それがポッポの母親が最後にたどったもの。
 ストライクがあのとき急に感じ取ったものと同じ、本当の真実。
「…生命維持装置ははずしていない」
 カツラが口を開いた。
「あれは破壊されないように完全にガードされたカプセルだ。ポケモン達の技を使っても壊れることはない。だが…」
 カツラはクレナたちの方を向いた。
「魔術なら…何とかなるかもしれない」
 カツラはそういって立ち上がった。
「まだ間に合うかもしれない。何とかしてカプセルを破壊してくれ…そうすればミュウツーは息を引き取る」
 カツラがそう言い終わると、クレナは立ち上がった。
 ストライクもピカチュウも、そしてポッポも、それぞれの重いものを引きずりながらも立ち上がった―――何か強い決心の末に。
「あの、カツラさん…もしミュウツーが誕生してしまったとして、弱点はないんですか?」
 クレナがミュウからいわれた使命を果たすべく、カツラに訊いた。
 カツラは少し考え込む。
「…あえて言うならミュウツーは物理的な攻撃に対して特別に耐性を持っているわけではない。つくとすればそれだ」
「属性的に弱点は…ないんですか?」
 あくまでもクレナは魔術しか使えない。
 念のためにクレナは訊いた。
「……特別な属性として存在する弱点、それは…」
 ドォォォォオオン!
 カツラが言いかけたときに、広い応接間の壁が巨大な音とともに吹き飛んだ。
 クレナたちもその巨大な音に驚き、バッと後ろを振り返る。
 砂煙が立ち上がり、ひび割れの壁に巨大な穴が開き、そこに影がうつった―――人の影。
「…サカキ…」
 カツラはそうつぶやいた。
 砂煙が晴れ、はっきりとしてきた影の顔。
 クレナはその顔に見覚えがあった。
 スーツを身にまとい、ニヒリスト的な冷笑が顔いっぱいに広がるその男、まさにあのお月見山でミュウを捕らえた、ロケット団のボス。
「やはりここにいたか、カツラ」
 サカキはそういってまた不気味に笑う。
「裏切り者がそう易々とこの先生きていけると思ったのかね?」
 サカキがそういって一歩一歩、建物の中へと入り、カツラへ近づいていこうとする。
 その直線上を、クレナがバッと遮った。
「クックックッ…あの時のお嬢さんか」
「カツラさんには…指一本ふれさせないから!」
 クレナの行動を見て、ストライクとピカチュウ、そしてポッポもカツラの前に立ちふさがった。
「君たち…」
 自分をかばうクレナたちを見てカツラは言った。
 その光景をみて、サカキは手をスーツのベルトにさしのべる。
「…どうやら君たちは我々の計画を邪魔する者として消えてもらわなくてはならないようだ」
 そういってまたサカキが手を表に出すと、その手にはモンスターボールが数個ある。
「消えるのはあなたの方よ! いくよ、みんな!」
 クレナが合図をだし、クレナたちは一斉にサカキへと走り出した。
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ぴくの〜ほかんこ