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レオ | #1★2005.06/29(水)02:35 |
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この物語は『ラティアスの日記』の続編です。 あらすじは一応書きましたが、先に前作のほうを読まれることをお勧め致します。 ラティアスの日記はコチラ↓ http://www1.interq.or.jp/kokke/pokemon/commu/story/518.htm (→ほかんこ) 第四章 〜新たな物語の始まり〜 第十六話 2人の兄妹 昔々ある島に、2匹の兄妹が住んでいました。兄のほうはラティオスの「イオ」で、妹のほうはラティアスの「アス」と言います。兄妹は遠い昔に両親を失っていましたが、2匹はとても幸せな生活を送っていました。 ところがある日、アクア団という悪者が「心のしずく」を狙って島に上陸してきたのでした。兄妹とその島のポケモンたちは必死で抵抗をしましたが、妹のアスだけを残して、島の全てのポケモンが悪者に捕らわれてしまいました。 しばらく、アスは途方に暮れていましたが、意を決して島のポケモンたちを助けるために悪者の船に乗り込んで大海原へ旅立ちました。 途中、幾つもの困難がアスを苦しめましたが、みんなを助けたいという強い気持ちでそれを乗り越えていきました。そして兄のイオを助け出すことには成功しましたが、船の沈没により島のポケモンたちを助けることが出来なくなってしまいました。 兄妹は島に戻ると、心のしずくと兄妹の命とを使って、島と島のポケモンたちを蘇らせました。しかし、命を失ったかと思われた兄妹は生きていたのです。アルトマーレというところで人間として。どうしてそうなったかは兄妹にも分かりませんでしたが― ?「―それから兄妹はとても幸せな日々を過ごしましたとさ。…って何書いてるんだ?」 少年が、木製の机に向かって黙々と何かを書いている少女に話し掛ける。少年は藍青色の髪をしていて、袖に青のラインが一本入った白のTシャツに少々よれよれのジーパンをはいている。 少女「あっ。これ?これはあの時の事を物語にしようかなっと思って」 こちらの少女は赤紫色の髪をしていて、空色のワンピースを着ている。少年は「あっそ」と素っ気無い返事を返して、部屋から出ていこうとする。 赤紫色の髪の少女「…って、何で勝手に読んでんの!!」 少年は声の大きさに少しビクッとした後、 藍青色の髪の少年「いや…始めからずっと声に出して読んでたけど…その時は別に何も言わなかったし…それに…昔々ってそんなに昔じゃn」 赤紫色の髪の少女「さっさと出ていってよ!!このバカ兄ちゃん!!」 バカ兄ちゃんと呼ばれは少年はそそくさと部屋を後にする。部屋からは少女がまだブツブツと言っているのが聞こえる。 バカ兄ちゃん「やれやれ…アスの奴、いつからあんなに口が悪くなったのやら…」 少年は深く溜め息をつく。すると突然、後ろの方でバタンと大きな音を立てて扉が開く。少年は今言ったことが聞こえたのかと思い、額から冷や汗がにじみ出す。 アス「イオ兄ちゃん。今日の夕食はカレーだから、材料買ってきておいてね!以上!!」 またバタンと大きな音を立てて扉が閉まる。またイオは大きな溜め息をつき、階段へと足を進ませる。一階に降りると、帽子掛けに掛けてある鍔の広い帽子を深く被り、買出しへと出掛けていった。 =つづく= |
レオ | #2☆2005.06/30(木)02:01 |
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第十七話 人助け イオは大聖堂や都市の中枢機関の集まる中心街から西にある商店街へと向かう。兄妹の家は南西に位置する住宅街にあるので、そう遠くは無い。 イオ「今日もいい天気だなぁ…」 イオの言葉どおり、空は雲一つ無い快晴だ。その青空にはポッポたちが気持ち良さそうに空を飛び回っている。 イオ「…俺はもう、あの頃のようには飛べないんだな…」 イオは少し寂しそうに言った。街路を少し冷たい風が吹き抜ける。 イオ「っと、近道しよう」 イオは大通りから少し込み入った路地へ入る。人気の少ない道を通り、アスがよく水路に落ちる幅の狭い小さな橋を渡り、早い!美味しい!しかし高い!と評判のクレープ屋の前を過ぎ、子供が遊びに使ったのか…小さな丸が幾つか書かれた道を通り抜けていった。 そろそろ大通りに出るというところで、何かが道に転がっている。何だろう…と思い恐る恐るそれに近づく。なんとそれは紛れも無く、人であった。 イオ「行き倒れ…か?」 服は薄汚れていて、所々ほつれているところがあり、全体的に湿っていて少しドブ臭いにおいがする…。黒い髪の毛は、ぼさぼさになっている。 ?「…ちょっとそこの人…ワイを助けてくれ…へんか?」 突如、行き倒れが顔を上げイオに話し掛ける。イオは「う、うわっ!」と上擦った声を上げ、2,3歩後ろへ下がる。 イオ「い、生きてる!!」 行き倒れ「オイオイ、酷いな〜。勝手に殺さんといてぇな」 イオは行き倒れに近寄る。 イオ「…大丈夫…ですか?」 行き倒れ「大丈夫ちゃうわ!こっちはもう腹減って、腹減って、しゃーないねん!」 イオはさっさとアスに頼まれた買出しを済ましたかったが、ここでほって置くと可哀想だと思い助けることにする。 イオ「…それじゃあ、俺の家に来てください。家は少し行ったところなので、すぐですよ」 それは聞くと、行き倒れはいきなり立ち上がり、 行き倒れ「ホンマでっか!!ほんなら、お言葉に甘えて!」 イオ「…;」 イオはやっぱり助けなければ良かったと後悔するのであった。 =つづく= |
レオ | #3☆2005.07/09(土)02:14 |
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第十八話 不幸 行き倒れ「あんた、なっていうんや?」 イオと行き倒れ?はもと来た道を戻っている。イオは普通、自分から名乗るのが礼儀だと思いながらも、 イオ「イオですよ。貴方は?」 行き倒れ「へぇ〜、イオっていうんや…。ワイはザンヤっていうねん。宜しく!いやーホンマに助かったわ。あの時はホンマにどうなるかと―」 初対面なのにいきなり呼び捨てとは、なんて礼儀知らずな奴だ…。それに背丈からすると、俺よりも年下みたいだし…。それにこの訛りよう…。 ザンヤ「ん?何かええ匂いすんなぁ…」 ザンヤは鼻をひくひくさせる。イオはしまった!と思った。この路地の帰り道には早い!美味しい!しかし高い!と評判のクレープ屋があるのをすっかり忘れていた。 いつの間にか横にいたザンヤが居ない!時既に遅し、ザンヤは店の前に立っていた。 ザンヤ「おじさん!!クレープ1つ、いや4つ!!トッピングはオススメのやつで」 イオ「何やってんだよ!そんなに買ったら、今日の夕食が―」 イオは必死でザンヤを止めようとするが、 店員のおじさん「はい。どうぞ」 流石、早いと言われるだけある。もう、4つのクレープが出来上がってしまった。ザンヤはそれを小さな子供のように喜んで受け取る。 イオ「あの…いくらでしょうか…」 店員のおじさんに恐る恐る尋ねる。 店員のおじさん「4100ポケドルだよ」 流石、高いと言われるだけある。イオの目の前は真っ白になった…。が、払わないわけにもいかないので、仕方なく財布から今日の夕食、明日の朝食、昼食分の費用から出す。 店員のおじさん「まいど〜♪」 イオ「おい、ザンヤ。それ、高いんだから味わって食えよ。俺だって食ったこと無いのによ…」 イオは、恨めし気にザンヤを見つめる。 ザンヤ「まぁ済んだことやし、しゃーないわ」 ザンヤはけらけら笑う。 イオ「はぁ…。それにしてもその話し方、この辺りの人じゃないだろ?」 ザンヤ「ああ。ワイ、ジョウトから来たもんやねん。んで、これがジョウトで広く使われとる方言のジョウト弁」 最後のクレープを口に頬張りながら話す。 イオ「へぇ〜。ジョウトっていったら、結構遠いな。で、そんな遠方からどんな用事でここまで?」 ザンヤ「ここで起こった島の存亡に関わった大事件、知ってるやろ?」 イオ「ああ、津波で島がのまれそうになったあの事件だろ?その時はこの島には居なかったから、詳しくは知らないけどな」 ザンヤ「んで、そん時の事件に大きく関わった、ピカチュウを放し飼いにしとるトレーナーと戦いたいために遥々ここまで来たんや」 イオは少し呆れた顔をして、 イオ「…その事件って、いつあったか知ってるか?もう、4年半程前の話だぞ。しかも、そのトレーナーはその事件の後、すぐに旅立ったって話だしな」 ザンヤ「それはホンマか!?」 ザンヤはイオに迫る。ドブ臭いにおいがイオの鼻を衝く。 イオ「嘘をついてどうする」 顔を少し背けながら言う。 二人の間に暫く沈黙が続く。人気の無い路地とあって、遠くの大通りほうで人のざわめきが小さく聞こえるだけで、辺りは本当に静かになった。このままでは気まずいと思ったイオは話題を変えることにする。 イオ「で、そんな人が何故そのような格好に?」 ザンヤ「…いや、途中で自分の船が沈んでしもてな、連絡を取って助けを呼ぼうにもポケギアも流されてしもたし、ついでに財布も…。『最悪や〜』思いながら船の残骸につかまりながら何日も漂流しっとたら、目的地のここに着いてんけど、金も無い、食いもんも無いで、んで、ここに倒れとったわけや。あっでも勿論、何も無いわけじゃないで。ワイの『相棒』たちだけはちゃんと…」 ザンヤは『相棒』を見せるために、腰に付いてあるはずのモンスターボールに手を伸ばす。が、肝心のモンスターボールが無い。ザンヤは辺りを見回したり、ポケットを探ったりするがボールは見つからない。 イオはまさか…と思った。 ザンヤ「ワイの相棒たちを捜してくれへんか!!?」 やっぱり…イオの予想は見事に的中した。 =つづく= |
レオ | #4☆2005.07/14(木)02:46 |
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第十九話 捜索 イオ「駄目だ!それは自分の責任なんだから自分で解決しろ!こっちも暇人じゃないんだからな」 もう既に黄昏時。早く帰ってやらないとアスにまた何か言われると思って、ザンヤを振り払って逃げようとしたが、足をつかまれてその場に転倒してしまう。 ザンヤ「お願いや!一緒に捜してくれや!!」 ザンヤは涙目になっている。 イオ「ぅ…」 イオはどうにもこういうなのに弱いらしい。 イオ「…分かったよ…。でも、1時間だけだぞ」 イオは立ち上がり、服についた汚れを払う。 ザンヤ「!!。おおきに!」 早速、二人は捜索を始める。しかし、アルトマーレは島国だがとてつもなく広く複雑だ。もし水路なんかに沈んでいるのなら、見つけられる率は格段に低くなる…。 イオ「で、お前のポケモンは?」 ザンヤ「ゴルバット、アリゲイツ、アリアドスの三体や」 イオ「…分かった。ちょっと待てよ…」 イオはザンヤに背を向け、目を閉じ、何やら集中し始めた。イオはポケモンの気持ちを読み取る能力を使ってポケモンの位置を捜そうと試みるようだ。 ザンヤ「?」 ザンヤは不思議そうにイオの顔を覗き込む。 イオ「気が散る!」 ザンヤ「は、はい〜っ!!」 イオの声の驚いて1,2歩後ろへ引く。 …三匹とも商店街のほうにいるようだな…。みんな同じところ…にいるのか…。暗いところ…。移動は…している!?誰かに盗まれた!?あるいは持ち主を捜しているのか…。でも3匹とも怯えている感じが… イオ「…大体分かった」 ザンヤ「へ?分かったって何が?」 全く持ってザンヤには状況が理解できていないようだ。 イオ「お前のポケモンの居場所だ。急ぐぞ!」 ザンヤは訳も分からないまま走らされる。路地を抜けると人気の多い商店街へと続く大通りへ出た。もう完全に日は落ちて、あちらこちらの街灯の明かりが灯っている。 ザンヤ「…イオお前、超能力でも持っとん?」 イオは少々息を切らしながら、まあ、そんなところだな…と答える。 イオ「こっちだ!」 ザンヤの手を引っ張る。人ごみの中を二人は縫うようにして、大通りを走り抜けていった。 果たして、イオとザンヤは間に合うのか!? =つづく= |
レオ | #5☆2005.07/25(月)08:25 |
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第二十話 発見 ザンヤ「ちょ、ちょっと待ってくれや!浮いとる!浮いとる!浮いとる!」 イオの引っ張る力と走るスピードが早いせいか、ザンヤの足は少し宙に浮いている。 イオ「あとちょっとだから、少し静かにしろ!」 イオの言葉どおりに、もう商店街に着いた。商店街も人通りが多く沢山の明かりが灯って、昼間来たときと変わらぬくらい活気がある。 イオ「はぁ…はぁ…」 イオは相当疲れたようで、肩で息をしている。 ザンヤ「ふぃ〜、やっと止まりおったか…お前は化け物かよ」 ガスッ! ザンヤはイオから肘鉄を食らう。 ザンヤ「うぅっ…そんな怒らんといてぇな。ほんの冗談やって…まだイテェよ…」 ザンヤは腹を押さえて、片膝を立てて座り込む。 イオ「ふぅ…さてと、確かこの辺だったような…。…こっちの路地だ!」 ザンヤ「ちょっと、休もうや〜」 イオはザンヤを無視して、商店街の手前にある路地へと走り出したので、仕方なくザンヤもそれについていく。随分と奥まったところまで行くと、明らかに怪しい赤装束の二人組みがいた。片方はがっちり型で背が高く、もう片方は痩せ型でもう一方と比べると少し背が低い。 赤装束「…何だお前ら?」 がっちり型の赤装束がこちらに気付き、話し掛けてきた。体格と声からすると男だろうか…。 ザンヤ「お前等、この辺で三つのモンスターボールを見かけへんかったか?」 赤装束たちは顔を見合わせ、 赤装束「そのモンスターボールとは、この事かな?」 喋っているのと別の痩せ型の赤装束がゴソゴソとバックの中から三つのモンスターボールを出す。それぞれのボールにザンヤのゴルバット、アリゲイツ、アリアドスが入っていた。 ザンヤ「あっ!それ俺のやねん。見つけてくれておおきに!」 ザンヤはボールを取りに赤装束のほうへと向かう。 赤装束「おっと、誰が返すと言った?これはオレたちの物だ」 ボールを持っていた赤装束は黙ってボールをバックに戻す。 ザンヤ「ないやて!?おい!!コラッ!!返さんか!!」 ザンヤは赤装束に飛び掛るが、赤装束の前には何か見えない壁のようなものがあったようで、ザンヤはそれにぶつかって地面にずり落ちる。思い切りぶつかったせいか、ザンヤの顔面は真っ赤だ。 赤装束「ふふふ…威勢のいいガキだ」 イオ「『ひかりのかべ』か!?」 赤装束「ご名答。さてと、オレたちはこれで逃げさせてもらう。お前等と遊んでいる程、暇はないのでな」 二人の赤装束はボールからオオスバメを出す。 ザンヤは今は手持ちのポケモンがいないし、くそっ…俺がラティオスだった頃ならこんな奴ら…。 !!…そうだ…まだやったこと無いが試してみるか…。 イオは目をつぶり、集中し始める。 あの頃の感覚を思い出すんだ…。心を読み取る能力が使えるなら、もしかしたら技も使えるかもしれない。 イオ「『サイコキネシス』!!」 目を開いてあの頃のような感覚で放ったつもりだが…、赤装束たちはポカーンとした顔つきをしている。やっぱり駄目か…。 赤装束「…?お前、ポケモンをもっていないくせして、何言ってるんだ?」 イオの顔が少し赤らむ。その間に赤装束たちはオオスバメを使って、夜空へと舞い上がる。 赤装束「オレはマグマ団幹部ホムラ!一度は失敗したが、陸を増やすためにまた一暴れしてやるぜ!」 ホムラはイオのところまで十分聞こえる大きな声で言い放った。もう一人の赤装束は依然黙ったままだ。 イオ「陸を増やすか…前にも似たようなこと言ってた奴らがいたな…。思い出すだけでも虫唾が走る!」 イオはホムラをキッと睨みつける。 ホムラ「ほぅ…そいつ等はアクア団の連中だな。…まあ、また会った時にでもゆっくり話でもしましょうや。尤も、次があればな。じゃあな〜」 ホムラは意味深長な言葉を残し、赤装束たちは闇へと消えていった…。 =つづく= |
レオ | #6☆2005.08/11(木)01:23 |
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第二十一話 心残り イオ「おい!ザンヤ大丈夫か!?」 あれからずっと道に横たわっているザンヤのところに駆け寄る。しっかりしろと声を掛けながら体を揺するも反応は無い。気を失っているのかと思いきや、ザンヤの目から涙が零れていた。 ザンヤ「…ワイせいで、みんな連れていかれてしもた…。トレーナーとして、こんなん…こんなん失格や!!」 イオ「そんなことは無い!悪いのはあいつ等だ!」 イオがこう言うも、ザンヤは依然黙って泣いたままだった。 イオ「…とりあえず、俺の家に戻ろう」 イオはザンヤの手を引っ張る。 ザンヤ「ほっといてぇや!!」 ザンヤはイオの手を振り払い、商店街のほうへと走っていった。イオは誰も居ない暗い路地に、ただただ一人立ち尽くすばかりだった…。 イオ「…ただいま」 漸く家に着いた時には、もう既に次の日の未明。玄関を入ると予想通りのアスが待ち受けていた。 アス「こんな遅くまで、何してたの!?夕食の材料は!!今から作る気は無いけどさぁ…」 イオ「…」 イオは黙って2階の自分の部屋へと向かう。 アス「ちょ、ちょっと」 アスはいつもと様子の違うイオに慌てて、後を追う。 アス「ちょっと、どうしたの?」 イオは自分の部屋の扉を開けて、 イオ「…ごめん…。暫く放って置いてくれ…」 イオはそう言うと、パタンと扉を閉める。 アス「…」 イオは部屋に入ると、電気も点けずに隅っこにある椅子に掛ける。ぼんやりとすぐ近くの窓の景色を眺める。イオの頭にはザンヤの言葉が、いつまでもいつまでも響いていた。 イオ「俺は何でいつもこうなんだ…」 自分の非力さに涙した。 第四章 〜新たな物語の始まり〜 END =第五章へつづく= |
レオ | #7☆2005.08/18(木)03:06 |
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何となくここで番外編を入れようと思います(何) こちらは、直接本筋に直接関係するものでは無いんですが、どうぞ楽しく読んでやって下さい。 番外編 一 ここ、アルトマーレは小暑。心地よい風が吹き、程よく燦々と降り注ぐ陽光がとても気持ちが良い。遠くの空には、発達した積乱雲がふよふよと浮かんでいる。浜辺には海水浴に来た大勢の人々とポケモンたちが砂浜で寛いだり海で泳いだりと、楽しそうにしている。 しかし、そんなことには一顧だにせず、今日もある目的地へと向かう者たちが居た。 煉瓦で組まれた階段を駆け上るいつもの少女と少年。アスとイオだ。 イオ「おぃぃ…アスゥゥ…。何でこんな日まで、図書館に行くんだよぉ…。というか、アス元気ありすぎ…」 その言葉どおり、アスはお疲れ気味のイオを尻目に微妙な傾斜の階段を元気よく駆け上がっていく。 アス「ほら。早く来ないと置いて行っちゃうよ。今日は続編小説『〜嗚呼、もうあの頃には帰れない〜』の新刊が入るんだから」 アスは踊り場でゆっくり上っているイオを少し待つ。 イオ「…あの泥沼恋愛小説の何処がいいんだよ…。それにしても、何であんな小説が図書館にあるかが分からん…」 イオは呆れた口調で言う。 アス「前回は恋人同士のブラッキー男爵と貧民街に住む女性のエーフィ、身分の違いすぎることで周りから非難を受ける。そして、二人は駆け落ちする。しかし!その関係を妬むシャワーズ貴婦人が裏から手を回して二人恋愛を引き裂くってところだったよね〜。それにしても―」 イオのことはお構いなしで、アスは話し続ける。全く持って、止まる気配は無い。 イオ「…またかよ」 イオは絶対にこの本の影響でアスの性格が変わったんだと確信するのであった。 イオ「さーて、さっさと行こう」 イオは延々と話し続けているアスの前を通り過ぎ、図書館のある中央街へ足を進める。 アス「―それでね。二人のことどう思う?…ってあれ?」 アスが気付いた頃には、イオの姿は階段の頂上にあった。 アス「ちょ、ちょっと待ってよ!」 急いでイオの後を追いかける。今日も清々しい夏の日が始まろうとしていた。 アス「ねぇねぇ、イオ兄ちゃん。ちょっと聞いてよ」 イオに追い付いたアスは早速話しかける。 イオ「何だよ。さっきの話だったら聞かないからな」 アス「冷たいなぁ…。まあ、いいや。今度は別の話っ」 アスは少し落ち込んだ様子だったが、直ぐにニッコリとして話し始めた。 アス「あのね。人間の遊びでジャンケンして勝ったら階段を上っていく遊び。えぇ〜と、名前は何だっけ…。まあ、名前はどうでもいいんだけれど…。あれって可笑しいよね?」 イオはいきなり何を言い出すんだこの人は…というような顔をしている。 イオ「…可笑しいって何処が?」 とりあえず、話に合わせてみる。 アス「可笑しいに決まってるよ!だってさ、『グー』で勝ったら『グリコ』って三段進むじゃない?もっと、字数の多い言葉にすればいいのになぁって思わない?」 イオ「思わない」 イオは即答する。 アス「ちょっと思ってよ!!折角の番外編が終わっちゃうじゃない!」 アスは微妙に怒った口調で言う。イオは半ばうんざりした様子で、 イオ「…で俺にどうしろと?」 アス「だ・か・ら!字数の多い言葉を一緒に探してって言ってるの!」 イオはこんなことで怒らなくても…と思いながら、『グリコ』に代わる言葉を探し始める。 イオ「…寓言」 頭にぱっと浮かんだものを言ってみる。イオは、にしても何故この言葉がぱっと頭に浮かんだのだろうか…と少し自分自身に疑問を持つ。 アス「それじゃあ、短いよ〜!一文字しか増えてないよ!」 即座にアスに却下される。 イオ「じゃあ、アスが考えてみろよ」 アス「ん〜と…偶像化」 イオ「なんだ。俺の考えたのと一文字しか変わらないぞ。…それなら、グラデーション」 イオは微妙に勝ち誇った表情を見せる。 アス「あぅ…。え〜と…あっまだあった!グレシャムの法則!!」 イオは何だその聞いたことも無い言葉は!!と驚き呆れる。と同時に、この言葉より字数の多い言葉を見つけてやるという対抗心が何処からか沸いてくる。 イオ「だったら、グリニッジ標準時!!」 アス「そんなの反則だよ!」 イオ「でも、こういう言葉があるんだよ。図書館で言語の勉強をした甲斐があったというものだ。アスもそんな本ばかり読んでないで、少しは言葉の勉強でもし」 アス「まだあるよ!!―」 イオが言い終わる前に、その『グリニッジ標準時』よりも字数の多い言葉を言う。 イオ「何っ!!しかしその程度ならまだある!―」 イオも休み無く反撃する。 暫く同じことが繰り返されていたが、イオの一言から状況は一変する。 イオ「はぁはぁ…。あのなこの際言っておくけど、アスは人間になってから本当に口が悪くなったな!」 これにはアスの方もカチンと来たようで、 アス「何だって!!それならイオ兄ちゃんだって、人間になった初日に」 イオ「だあぁぁ!!それを言うな!!」 そう叫ぶと慌ててアスの口を塞ぐ。 イオ「それなら、アスだって××だっただろうが!!」 アス「あっ!!言ったなぁ!!」 完全に口喧嘩が始まってしまった。暫く二人の喧嘩は治まることはなかった。正確に言うと丸四時間、二人は口を休める事はなかった…。 喧嘩が終わった頃には二人はへとへと。 イオ「ぜぇぜぇ…今日はこのくらいにしといてやらぁ」 アス「ふぅふぅ…その台詞そのまま返す」 喧嘩が治まって冷静になった二人は大勢の人たちに横目で見られていることにはっと気付いた。兄妹の口喧嘩が治まったのを見計らって、目の前にある図書館から出てきた一人の青年が話しかけてきた。どうやら、図書館の館員らしい…。 青年の館員「…あの…図書館の前で騒がないで下さいませんか?」 二人は一度顔を見合わせて、 アス・イオ「あっ…すみません…」 二人は赤面する。そして、今日もあっという間に終わったとさ。 =番外編 一 おしまい= |
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