G (スポ花注意)
開かされて、膝の辺りで縛られた両脚の間で、小さな玩具が細かな振動を繰り返している。のっぺりとしたその外見と小ささで、ただ見ただけでは何とも知れないそれが、医療用のテープで先端に着けられ、すっかり反り返った裏側の部分にも、絶妙な位置加減で張りつけられている。テープの粘着力は、汗と湿りと、吐き出した汚れで、すでに弱まりかけていた。
椅子の中に全裸で縛りつけられて、肘掛けに乗せた膝はそこにくくりつけられて、自由になる爪先が、宙を蹴って踊る。ざらつくロープが胸を横切って、皮膚を粗くこする。あごや喉は、垂れた唾液でびしょ濡れだった。唇と歯列を割り開く革の巻かれた棒の奥で、舌が声を出せずにうごめいている。棒の端にはくっきりと歯型がついて、唇の両端はずっと痛みを訴えていた。
革張りのその椅子の中で、腰や背中や肩がこすれると、ぎゅっぎゅと、肉同士のすれ合うようないやな音を立てた。
追いつめられて、果てて、そしてまた追いつめられる。次第に合間が広がり、そうすると、玩具の振動が微妙に変化して、昂ぶるだけでは許されずに、果てるまでそれが続く。
無理矢理に吐かされたそれは、今では色も薄まって、腹を汚すほどの量もない。ただだらりとそこにあふれてこぼれ落ち、そこに張りつけられた玩具を汚す勢いすらない。
「だらしねえ。」
いつも冷笑に歪んでいる唇が、賤しめのためにいっそう深く曲がる。
だらしがないと言うのが、躯がもう根を上げていることを指しているのか、それとも単純に、吐き出すそれがみすぼらしいと言う意味なのか、花京院は白くなった頭の中で、もうそんなことを考えているという意識もなく思う。
スポーツ・マックスは、そこに立って、時折舌で唇を湿しながら、花京院の時々揺れる躯のすみずみを、面白そうに眺め続けている。
開いて縛って、隠すべきところをあらわにして、それに耐え切れず花京院が顔を背けるのを、それも愉しそうに眺める。
萎えていればそうでもなく、けれど勃ち上がれば腹へ向かって反り上がり、血管を浮き上がらせたその姿を、スポーツ・マックスは絵にでも描けそうに、仔細に眺めてやる。
そんな躯をすべて、きっちりと黒い神父服に覆い隠しているのがおかしくて、今は全裸に剥かれて縛られた姿を晒しているのだと言うことを、一瞬も忘れないように、すみずみまで、これ以上ない蔑みと欲情の目で眺めてやる。
そこに着けられた小さな玩具のせいで、昂ぶることを強制されて、口枷の奥でうめく声が聞こえる。抗っているらしいその声は、けれどスポーツ・マックスをますます歓ばせるだけだ。
萎えることを許されずに、もう反応するだけの躯は細かな痙攣を繰り返して、そうなる時にはいつも腰が小さく揺れ、腹筋がうっすらと浮き上がる。皮膚は失せたように、与えられる微かな──昂ぶるには充分な──振動に向かって、剥き出しになった神経はそれにだけ集中している。体すべてがそれだけになったように、花京院の全身は今、勃ち上がったそれそのものに成り果てている。
伸びた喉がねじれ、殺した声がそこで潰れた。爪先が伸びて縮み、内腿が不自然に震えた後で、まただらりと精一杯吐き出されたそれが、まだかろうじて保ったままの輪郭に添って流れ垂れてゆく。
親切のつもりか、玩具の卑猥な振動が止まり、花京院はその束の間与えられた休息に、肩先に顎を埋めるようにして、無駄と知りつつも開かれたままの膝を閉じようと、椅子の中でもがいた。
また、人の重みと体温になめされた革が、汗に濡れた腰の下でぎゅっぎゅと音を立てる。それを耳障りだと思って、知らずに眉を寄せていた。
「なんだ、もう無理か。」
嘲笑うようにスポーツ・マックスが言う。
それに応えて、花京院は視線だけを斜めに上げた。
スポーツ・マックスが、何でも好き勝手できるように、開かされて縛られて姿勢を整えられた躯だった。また何か、ひどく醜い玩具でも躯の中に埋め込まれるのかと、思って自然に躯が硬張る。
誰かを痛めつけるのと同じくらい、誰かが痛めつけられているのを眺めるのが大好きなこの男は、花京院を縛る前に、よく痛めつけた誰かの話をする。3人掛かりで殴る蹴るするのを、じっと眺めていたとか、鼻の骨を折ってやったとか、利き腕を折ってやったとか潰してやったとか、歯を全部叩き折った後でふたりきりになった時に、血とぐらぐらになった歯がかろうじて引っ掛かったぼろぼろの歯茎に、こすりつけるように自分のそれを突っ込んでやった話だとか、聞くだけで身の毛のよだつ、何かを聞き出すこと、あるいは罰が目的の痛めつけですらない、ほんとうにただの私刑の詳細を、スポーツ・マックスはいつもの恐ろしいにやにや笑いを浮かべて、花京院にひとつびとつ語る。そうして、次第に花京院の瞳に浮かんで来る恐怖の色に満足して、そんな風には痛めつけられないことをありがたく思えと言わんばかりに、花京院の顔を自分の膝の間に引き寄せる。
確かにそれは、スポーツ・マックス流の優しさの示し方だったのかもしれない。ひどく歪んだそれを、花京院は正しく脅しと受け取り、そんな風に扱われたくなければ言う通りにしろと、言外に伝えられる通りに、花京院は求められるまま振る舞い続けている。
躯の、開口部という開口部を押し開かれて、侵される肉の塊まりだ。
犬並みに体はあたたかく、犬並みに人の言うことをきちんと聞いて、犬並みに人の気持ちを汲み取れる、花京院はそんなおもちゃだった。犬のように首輪を着けられて、その首輪には鎖が伸び、引きずられるまま、床を四つ足で這う。あごを持ち上げられれば口を開き、そう躾けられた通りに舌を使って、目の前に立つ主人を満足させたら、また床に這って、高く腰を上げて足を開けと言われる。床に額や頬をこすりつけて、押し込まれながら、それが大好きだと、大声で言わせられる。時折ほんとうに、口枷のない唇の奥から、いじめられる子犬の鳴き声のような声がもれた。
押し込まれるそれは、ただの凶器だ。引き裂くことや、突き通すことが目的ではなくても、花京院の柔らかな躯の内部を無理矢理押し広げ、ひどくこすって、傷をつけようとかまう素振りも見せず、心配そうな表情を浮かべるとすれば、それは傷ついた花京院のためではなく、その傷が癒えるまで花京院の躯を使えない自分を憐れんでのことだ。
時折、それが口の中に押し込まれる時に、精一杯の力で噛み千切ってやりたい衝動に、駆られないでもない。そうすれば、少なくともこの拷問はそこで終わりを告げる。けれど、自分の手で誰かを傷つけることを想像すらできない花京院にとって、自分のものではない他人の血を目にすることなど、考えただけで寒気がした。
考えるだけで、罪の意識が湧き上がって来る。この男も、可哀想な、憐れな存在なのだと、そう思う。だから、自分の身を生贄に捧げることで、この男の一部でも救えるならと、ろくに肺一杯にもならない呼吸で喉をあえがせて、花京院は次の辱めを、自分の心だけどこかここではないところに置き去りにしながら、その時がやって来ないことを頭の片隅で祈っている。
けれど、辱めの拷問は、花京院の躯が落ち着いたところでまた素早く始まる。
口枷が外され、やっと唇の痛みが引いて、けれど口が自由になったと言うことは、またあれを口の中に押し込まれるのかと、唇の端を噛みながらゆるく首を振った瞬間に、いきなり開き切った両膝の間に、肉の凶器が押し込まれて来た。
そのために前をくつろげただけで、服はほとんどきちんと着たままのスポーツ・マックスが、肩や胸をぶつけて来る。背中や腰の後ろで、椅子の表面がまた鳴る。同じような音が、両足の間から聞こえる。耳を塞ぎたいと思うけれど、両腕は背中にきっちりと縛り上げられている。
花京院は、上向いて叫んだ。
この男は、ただの凶器だ。体すべてが剥き身のナイフか何かのように、触れるものすべてを傷つけずにはいない。そしてそれを、心の底から楽しんでいる。
花京院は、そのナイフに切り裂かれ続けていた。
また叫ぶ。叫ぶ合間に、耳元で、何か卑猥なことをささやかれる。悦んでいるくせにとか、躯の方が素直だとか、自分ではわからないけれど触れている内側がそう反応しているとか、花京院にはよくわからないことばかりだった。
そうして、スポーツ・マックスは次第に押し込む間隔を狭めて、不意に、さっきそうやって花京院を追いつめていた玩具のスイッチを、そっと入れた。
思わず、全身が跳ね上がった。スポーツ・マックスも、花京院の反応にちょっとだけ声を上げて、わずかの間だけ躯の動きをゆるめる。
「良すぎて死にそうか?」
また嘲笑う声がささやく。
内側を探るような動きをされて、そうして、張りつめた皮膚に直接与えられる振動と一緒に責め上げられて、花京院の躯は、スポーツ・マックスがそう望む通りに反応し、そう望む通りの結末を迎えようとしていた。
押し入る強さが弱まり、振動も、微妙に強さを失って、まだ次の高さがあると言うのに不意に梯子を外されたような中途半端さに置き去りにされそうになった時、スポーツ・マックスの、生まれてこの方体を鞭打って働いたことなどないなめらかなままの掌が、花京院のそれを強く握り込んだ。
目の前を、卑しい笑いが覆った。唇の端から覗く舌先が、血塗られたように赤く見えた。
「イキたいって言ってみろ。」
躯を繋げたまま、軽く突き立てる角度を変えながら、スポーツ・マックスが言った。
言う通りにすれば、少なくとも今よりは楽になれる。けれど、すぐに従ってはいけない。主人を歓ばせるために、犬は主人の心を読み取らなければならない。どちらも、花京院には屈辱でしかない。その屈辱を得て、スポーツ・マックスの笑みはますます深く、卑しくなってゆく。
花京院は、顔の位置を元に戻して、知らずに揺れる腰を必死で止めながら、スポーツ・マックスの目の前で横に広い唇を固く結んで見せた。
そうすれば、スポーツ・マックスはもっと歓ぶ。前戯にしかならない抗いを求めているのだと、正しく読み取って、けれど半分は純粋な花京院の意志でもあった。耐えることで自分の意志を貫こうとしながら、けれどそれは、スポーツ・マックスには馴れ合いとしか受け止められず、結局は自分の言いなりになるおもちゃだと、寒気のするような人でなしの結論にするりと行き着く、その心の動きがありありとわかる。それを憎みかけた自分を、花京院は必死で引き止めた。
スポーツ・マックスが言った通りだ。それをどう受け止めようと、躯は違う方向へ反応する。勝手に感じて、スポーツ・マックスの言いなりになる。今も、押し込まれているそれを、重たい熱が包み込んでいるのがわかる。花京院の意志ではない。けれど、躯はスポーツ・マックスにぴったりと寄り添って、同じところへ行こうとしている。すっかり慣らされてしまった躯だった。
「・・・いきたい。」
平たい声が慄える。また、この世のものとも思えないけだものじみた笑みが目の前に広がる。そこで輪になった指はまだ外れず、スポーツ・マックスが、花京院の胸に着いた銀の輪に噛みついた。かちりと、似合わない涼やかな音を立てた後で、これも笑みの卑しさには似合わないきれいに揃った歯列が、その輪を噛んだまま上へ引き上げた。
また押し込む動きが強くなり、動く躯と一緒に、銀の輪を噛んだまま、花京院のそこは引きちぎれそうに引き伸ばされて、スポーツ・マックスがそう意図した通りに、花京院は痛みに叫び続けた。
そうして、体の内も外も頭の中も、何もかもすべて痛みと他の何かよくわからないものに満たされ切った後で、花京院はスポーツ・マックスに導かれて、さっきよりもやや色も濃度も増したそれで、スポーツ・マックスの手を汚した。
まだ躯は外さないまま、花京院に見せつけるように汚れた掌を自分で舐め、それから、その手を花京院の口元へ持って行く。顔を振って避けようとすると、あごをつかんで無理矢理に開かせた口の中に、親指以外を全部一度に突っ込もうとする。
喉の奥深く近くを指先で探られ、花京院はこみ上げる吐き気に耐えながら、その汚れた指を舐めるために舌を動かし始めた。
吐き気に耐えるうちに、目の奥から涙があふれて来る。ゆっくりとぼやける視界の中に、スポーツ・マックスがまたにやりと笑って、コントローラーのスイッチを入れるのが映った。再びゆっくりと始まる卑猥な振動が、自分をずたずたにしてゆくのだと思いながら、花京院はただ涙を流して、スポーツ・マックスの指を舐め続けていた。