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星無き夜にも
 
「おいっ、そっちに行ったぞ!」
「まかせろ!」

 奴の隼が宙を舞う。
 華麗な剣さばきで敵を仕留めると、奴は前に親指を突き出し、白い歯を見せた。
 最初の頃こそ危なっかしい戦いぶりだったものの、最近では奴が控えているというだけで安心感が増す。
 奴がたまたまいない時に敵と出くわすと、奴の存在をいやが上にも再認識せざるを得ない。
 戦いが長引き、ひどく苦戦するのだ。
 あとで王女に聞いてみると、いつもは守備力増強の魔法を、奴が唱えてくれるんだと。
 そんなこと、一度も奴は話したことが無かった。
 ただ冷静に戦況を分析して、パーティの補助に徹していたなんて。
 そうでなければ、とっくの昔に俺たちは全滅し、骸を野に晒していた事だろう。

「どうしたんだい、王子?」
「あ? ……ああ、何でもない」
「珍しいわね、あなたが考え事なんて」
 二人が、神妙な俺の顔を面白がって笑う。
「なんだよ、俺だってたまには頭を使うんだよ」
「ふーん」
「……ケガでもしたのかと思ったよ」
 奴は、にこりと笑った。

 ははは……と苦笑いする俺の足に、突然何かがはじけた。
「いてっ!」
 慌てて足を引っ込めると、俺の足はバリアを踏みしめている。
「ああ! 大丈夫? 効果が切れたかな」
 すかさず奴が俺に回復をかけ、ダメージから守るトラマナを唱えた。
「いつもそうやって……」
「え?」
「戦いながら魔法使って……大変じゃないのか?」
「ん――もう慣れた」
「私にはできないわ。そんな器用なこと」
「あ、当たり前のことしているだけだよ! 俺は腕っ節強くないし、魔法だってそれほど強力なやつ持ってるわけ
じゃないしさ!」
 奴は真っ赤になって、しきりにまくしたてている。

 そんな奴の顔が、キリッと引き締まった。
「敵だッ!」
 俺が敵の最前線に切り込む。
 王女が呪文を唱える間、王女の前で奴は敵の攻撃を受け流しながら、自らも呪文を唱える。
「イオナズンッ!」
「ベギラマッ!」
 二人の強力な攻撃魔法が炸裂し、魔物たちは跡形もなく消え去った。

 俺は魔物の消し炭の上に立った。
「負ける気がしねぇ!」
「え?」
「なに?」
 俺はもう一度大声で叫んだ。
「負ける気がしねぇ!」
「ああ!」
「そうね!」
 戦いに明け暮れ、疲れ果てている筈なのに、胸の奥から湧いてくるこの力は――何なのだろう。

 夕陽の中、岩にもたれかかる王女を見て、奴は天に向かい高々と手を上げた。
「ルーラ!」
 一瞬のうちに、暖かな寝床の用意された宿の前にたどり着く。
 空腹を満たし、体を洗い清め、寝床の中で幸せな気分に浸っていた俺は、ランプの明かりのもとで魔道書
を繰る王子の姿を眺めた。
「もう寝たほうがいいぞ。疲れてるだろ」
「ああ。でも、もう少しだから。気にしないで先に寝なよ」

 一通り本に目を通し、王子は手を組む。
「ルビスさま……どうか明日も、大切な仲間を守る術をお与え下さい」
 奴は俺を起こさぬように小さな声で祈りを捧げ終わると、払いのけられた俺の毛布を掛け直し、自分も床
についた。
 それまで何となく寝たふりをしていた俺は、眠りについた奴に向かい、小さく呟く。
「ありがとな……」

 照れちまって面と向かっては言えなかったから、今言っとくよ。
 サマルトリア王子――お前は俺の最高の相棒だ。
 たとえ月が墜ち、星が無くなった真っ暗闇の世界になったとしても、お前が俺たちの行く手を照らし出す
"光"となってくれるのだろう。


 その、あたたかく包み込む"光"があるからこそ、俺たちは前に進めるのだ。
( 完 )  2002/07/02
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最燃男トナの支援物資。冒険に補助呪文は不可欠だと思います。
実は最燃男トナではプロバイダ規制にあい、アップローダに投下しただけに留まった幻の支援です。
ローレとサマルに投票できない〜と知人に嘆いたら「エロい人だから規制されたのでは」とか言われる始末。
Σ今思えば、投票スレにリンク貼ってもらえば良かったのかもしれない!(遅すぎ