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遥かなる時を越えて
 
 私達は、水、月、星、太陽、命―――ついに五つすべての紋章を手に入れた。
 かつて出逢った竜王のひまごは、私達にこう教えてくれた。
『五つの紋章を集めよ。さすれば精霊の守りが得られるという――紋章を集め、精霊のチカラを借りなければ
ハーゴンは倒せまいぞ!』
 水はムーンペタで、月はデルコンダルで、星は大灯台で、太陽は炎のほこらで、命はロンダルキアへの洞窟で。
 それぞれの紋章を得る為に世界中を旅して戦った私達の歴史が、これらの紋章に刻まれている。
 彼の言葉を信じ、私達ロトの末裔は精霊のほこらのある島に降り立つ。
 強い潮風が上気する頬を撫でる。
 大地の精霊に守られた聖域であるこの場所には、さすがのハーゴンも手が出せなかったらしい。
 魔物に脅かされることもなく、私達は祭壇らしき場所に着いた。


「ここは王女にお願いするかな」
「そうだね。我等が巫女に!」
 王子たちが片目をつぶり、紋章を手渡した。
 不思議。石のような、真綿のような。冷たいような、温かいような。
 とにかくこの世のものではない不思議な物質。
 すうっと私は大きく息を吸い込んだ。
「偉大なる我等が母、大地の精霊ルビス様。私達は五つの紋章を集めました。どうぞ私達の願いをお聞き
入れ下さい。邪悪なる者を倒す為に!」

 途端に光が満ち溢れ、美しい女神が空中に浮かび上がった。
 私達は息を呑んだ。
 神々しい声が祭壇の上から響き渡る。
「私を呼ぶのは誰です? 私は大地の精霊ルビス……」
 ルビス様はゆっくりと瞼をお開けになった。綺麗な燃えるような色の瞳。
「おや? あなた方は、ロトの子孫達ですね? 私には分かります」
 一目で私達をロトの縁者だと、ルビス様はお認めになった。
「遥か昔、私が勇者ロトと交わした約束……その約束を果たす時が来たようです」
 懐かしそうな優しい声。私達の御先祖との約束……? 勇者ロト様とはどういう御関係だったのだろう。
「さあ……私の守りをあなた方に授けましょう。いつか邪悪な幻に迷い、戸惑った時はこれを使いなさい。必ず
やあなた方の助けになるでしょう」
 五つの紋章はすうっと消え、代わりにペンダントが私の手の中に現れた。
「さあ、お行きなさい。ロトの子孫たちよ。私はいつもあなた方を見守っています……」
 お声が遠ざかる。お姿もうっすらと透けて、ルビス様は光の中にお戻りになってゆく――。


「それにしてもさあ」
「なーに?」
「ルビス様と俺達の先祖って友達だったのかなぁ」
 ローレシア王子が船の碇を引き上げながら頭を捻る。
「鈍いわね」
「どういうことだよ」
 むっとしてローレシア王子が私を睨む。
「お前は? 分かるか、王子」
「そんな憶測でしかない事は、考えるだけ無駄じゃないか。僕はどうでもいいよ」
 サマルトリア王子が海図から顔を上げ、呆れたような声で答えた。
「ちっ……あの時、聞いときゃ良かった!」
「ルビス様に聞くですって? あなたって本当にデリカシーがないのね!」
「おっ、おい、何でお前が怒るんだよ……」
 サマルトリア王子が溜息をつく。
「君って、つくづく女性の気持ちが分からないんだね」
「何だよ二人して、俺をバカにしやがってー!」
 癇癪を起こして、彼は掃除に使った桶の水をぶちまける。
「危ないじゃないのっ」
「そうだよ、濡れちゃうじゃないか!」
「おっ、やるか? お前等、束になっても俺様には勝てないくせに」
「ザラ……」
「イオナズ……」
「わーっ! 俺が悪かったー!」


 夕陽が落ちる海の上。
 オレンジに染まる入道雲。
 揺れる甲板で、私は首にかけたルビス様の守りを、もう一度眺める。
 愛しい人との約束を果たす為に、数百年待ち続けた一人の女性の心のこもった、そのペンダントを――。
( 完 )  2003/10/13
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優勝者最萌トーナメントCブロック決勝支援
絵師&SS職人合同支援 ムーンカレンダー11月 紋章集めとルビスの聖域編
十一さんの絵に文をつけさせて頂きました
勇者ロトはルビスさまの恋人の生まれ変わりという、輪廻転生設定を一度使いたかった
一日に四本即興でSS書いて投下するのは、もう一生できない経験かもしれませんw