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ぺるぽいくえすと 〜怪盗ラゴスを探せ!〜
 
 地下要塞ペルポイの街のあらくれっぽい道具屋から秘密裏に『レアもの』の牢獄の鍵を購入し、ロトの子孫達は
テパの水門の鍵を盗んだという怪盗ラゴスの姿を求めていた。
 人々の話からすると、ラゴスは確かにこの街の牢獄に収監されたらしいのに、ある日忽然と姿を消したという。
「でもさ、"怪盗"っていう響き、なーんか恰好いいよなぁ」
 牢獄に行く途中、一息つくために立ち寄った店で三人分の飲み物を注文すると、ローレシア王子がうっとりした
口調で言う。
「何言ってるのさ。テパの村の人達、川がせき止められたままで困っていたじゃないか。悪い奴だよ、ラゴスって」
「よく考えると不思議よね。どうして水門の鍵なんて盗んだのかしら」
「そうそう! すぐそばにある満月の塔の『月のかけら』っていう宝石を盗むのなら納得するけどね」
『あっ!』とサマルトリア王子とムーンブルク王女が、ほぼ同時に何かに感付いたようだ。
「月のかけら!」
「そう、それ、私も気付いたの!」
「なんだ? 教えろよ」
 ローレシア王子が身を乗り出した。
 三人の探偵は顔をつき合わせて、小声で話し始めた。
「いいかい。テパの村の南にある満月の塔は、船で行けたと聞いたよね」
「うん」
「でも今は行けない。何故なら、川が干上がってしまったから」
「ふんふん」
「そこで、水位を上げる為に必要なモノといったら」
「う〜ん?」
「王子、せき止めた川の水を開放してあげればいいのよ」
 ウインクして王女がヒントを出す。
「水門の鍵、か……なるほど! ラゴスの奴め、真実の狙いは『月のかけら』だったんだな!」
「そういうことになるね」
「気になるわ……『月のかけら』って不思議な力があるらしいの。これからの私達の旅に役立つかもしれないわね」
「これは何としてもラゴスを見つけ出さなくちゃな!」
 ごくりっ、とローレシア王子がジュースを飲み干し、グラスを置く。
「さっ、行くぞ!」
「ええっ」
「もう?」
「早くラゴスを見つけて、水門の鍵を取り戻そう!」
「まず牢獄に行って現場検証だね」
「待って! その前に見て欲しい物があるの」
 王女がいそいそと赤いポシェットを開ける。
「さっき牢獄の鍵を買ったら、こーんなに可愛いオマケもらったの〜」
「え゛……」
「う゛……」
 嬉々として王女がごそっと取り出したマスコットは、なんと「あくまのめだま」だった。
 血走ったギョロリとした大きな目に、気色の悪い触手がワサワサと生えている、グロテスクな魔物だ。
「とっても、こっ、個性的なお人形だね!」
「あ、ああっ! こんなの俺、見たことないよ!」
「うふふっ。そうでしょう〜」
 王女は人形に頬擦りをした。うにうにと揺れる触手……。
(王女って……ちょっと……)
(変わってる……かも……)
(アレ、売れ残りだよ、絶対……)
(あのオヤジ、処分に困ってたんだろうな……)
 人形を撫でる王女の前で、愛想笑いを浮かべる王子達であった。
 

 牢獄の鍵を使って、そ〜っと牢に侵入する三人。
 なにしろ不法侵入だ。
 下手をすると、今度は自分達がここに入らなければならない。
「ラゴス、いないね」
「一体どこに……」
 奥に空の牢屋をひとつ見つける。どうやらここが彼のいた場所らしい。
 牢には呆然と佇む看守がいた。
「お前たちは……どこから入ってきた? …まあ、いい…子供のことだ。あまりこういう所で遊んじゃいけないよ」
 驚いた。摘み出されるかと思ったのに。
 子供扱いは癪だが、この際利用してみよう。
 俺達はただの子供じゃないんだけど、と言いたいのをぐっとこらえ、彼らは看守に尋ねる。
「僕達探偵ごっこしてるの」
「おじさん、ラゴスはここにいたの?」
「どこかに逃げたってホント?」
「こんな子供にまで知れ渡っているとは……ああ、その通りだ。ヤツは消えちまった。しかもおかしなことに外に
出た形跡はないんだよ」
「ふ〜ん」
 ローレシア王子がまわりの壁を叩き回る。ごいん、と鈍い音がする。
「ちょっと火を使ってもいい?」
 サマルトリア王子がにこっと笑った。
「ギラ!」
 暗い牢の隙間に炎を投げる王子。すると――。
「うわちちちぃぃぃ――ッッ!!」
 およそ泥棒らしからぬ真っ赤で目立つ服を着た若い男が、壁の上からドスンと落ちてきた。
「ああっ! ラゴス! 貴様こんな場所に隠れていたのかっ」
「あいたたたた……」
 看守に捕らえられたラゴスが、痛みに顔をしかめて腰をさする。
 彼はローレシア王子が想像していた『カッコイイ怪盗像』とは随分違った。
 もっとクールでスマートな奴だと思っていたのに。何なんだ、このおちゃらけた男は。
「テパから盗んだ水門の鍵を返してちょうだい!」
「また熱いのをお見舞いされたいか?」
 ずいと歩み寄る三人に、ラゴスは慌てて胸元から鍵を取り出す。
「あはっ……見つかっちゃった! 僕がウワサのラゴスだよ。水門の鍵を返すから、もう許してね。ごめんね!」
「……」
 三人は脱力した。
 軽いっ。軽すぎる……っ。
 ラゴスがカッコイイなんて思った俺は……。
 ローレシア王子は酷い自己嫌悪に陥り、落ち込みそうになった。


「良かったね。無事に水門の鍵が取り戻せて」
「ああ、テパの人達も喜ぶだろうな」
「王子〜っ!」
 街に流れる歌姫アンナの歌に聞きほれている二人の王子達の元に、買い物を終えた王女が走って来た。
「またオマケもらっちゃった〜! 今度はあなた達の分も、ちゃあんとあるわよ」
「え……!」
 とてつもなくイヤな予感に二人は身を引いた。
「ねっねっ、ロトの剣と隼の剣に付けたらラブリーよ、きっと!」
 ぶんぶんと彼らは頭を振った。
「勘弁してくれ〜!」
「僕も遠慮します!」
 王子達は全速力で逃げ出した。
「まあ、こんなに可愛いのに! 恥ずかしがらなくってもいいのよ〜」
 両手に溢れんばかりの『あくまのめだま』マスコットを手に、王女が追いかける。
 うにうに、ざわざわ。風になびく赤黒い触手――。
「わぁ〜、やめろぉぉぉ!」
「それだけは嫌だ〜!」
「待ってよ〜!」


 冗談じゃない。あんな不気味なモノをつけて戦えるか!
 もう、追いかけっこはラゴスだけで充分だよ……。
( 完 )  2003/10/23
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絵師&SS職人合同支援 ムーンカレンダー09月 地下都市ペルポイ編
846さんの絵に文をつけさせて頂きました
ラゴスさん、牢獄内で隠れても何の解決にもならんのではないだろーか