吹雪がやんだ日(ドラゴンクエストモンスターズプラス より)
僕は、双竜の塔から落下した少年を確かに抱きとめたはずだった。 しかし二言、三言交わした会話の後、僕の腕の中で微笑んでいた彼の姿は霧のようにかき消えた。 お前のここでの役目は終わった――と、突如空中に現れたふわふわした生き物が囁いた。これからは好きにす るがいい、と。 鳥の翼を模したマントが、はらんだ風を開放する。僕の両足は、さくっと音を立て新雪に埋まった。 久しぶりに僕はゆっくりと空を見上げた。 空が、青い。 仲間たちの声がした。僕の名を呼ぶ声が。 =========================================== 「もう、びっくりしちゃったわ。あの女の子、ベホマの最中に消えちゃうんだもの!」 ルーナが、「ねっ」と隣に同意を求める。 「ああ。俺の傍にいたブチ模様のでっけースライムも消えちまった」 隣にいるサトリがうなずく。 「そうなのか……クリオ君だけじゃなかったんだな。そういえば、バズズたちの気配も消えたね。ここいらには魔物は いないみたいだ」 周りを見渡すと、僕たち三人の他は、ただ瓦礫の転がる荒涼とした景色が広がっているだけだった。 「あの気持ちわりぃバケモノには二度と会いたくねーな。ま、おんなじバケモノでもよ」 サトリが僕の胸をつつく。 「てめーは消えなかったな」 彼がニヤリと笑う。 ルーナが「それにしても三人そろってバケモノになるって、わたしもなの?女の子に向かってバケモノなんてひどい わ!」とサトリに向かって口を尖らせたが、彼は知らん振りを決め込んでいる。 僕はそんな仲間たちのやり取りを見て、ただ笑っていた。 「しっかしアレだな。あの状況で風のマントなしで、どうやって助けようと思ったんだよ? ロラン」 「どうって…僕がクリオ君に追いつきさえすれば、後は君が何とかしてくれると思った、というか……」 「おいルーナ、どう思うよ。この家出人の王子様はよぉ」 僕の答えにやれやれとサトリは大げさに肩をすくめる。 「いいじゃない。それだけ自分が頼りにされてるって考えれば?」 優しいルーナがくすっと笑い、僕に助け舟を出す。 「でもさ、結果的に間違ってなかったろ?」 片目を瞑り、僕は風のマントを脱いだ。 「これだもんな」 サトリが苦笑する。その後、何故か彼は真剣な眼差しで瓦礫に突き刺さった杖を眺めていた。 僕は丁寧にマントをたたんだ。 「ずいぶん汚れてるね。綺麗好きの君らしくないな。洗濯しなかったんだ?」 サトリに尋ねると、彼から思いもよらぬ答えが返ってきた。 「ばーか。洗ったりしたら、お前の匂いが消えちまうだろが」 どきりとした僕に彼は続けて言った。 「最後はルーナの鼻が頼りだからな!」 ルーナのクリティカルヒットが、サトリの頭上に鮮やかに決まった。( 完 ) 2006.10.12
DQM+パーティのDQIIでした。オチは犬ネタ。お約束です。 捜査犬ルーナたんのパンチは、たぶん肉球がクッションになって、あんまり痛くないと思う。