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注) ローサマでエンディング後設定のパラレルものです。(ローレシア王子ロラン×サマルトリア王子サトリ)
時空のエトランジェ 〜Les etrangers qui ont transcende le temps〜 < 1 >

 
「おはよう、ロラン。相変わらず元気じゃの」
「あっ、おはようございます、セナムさん!」

 挨拶を返すと、ひと抱え以上ある大きな茶色の水瓶を前にした黒い髪の少年は、人懐こそうに白い歯を見
せた。
 瓶の中には、今しがた泉で汲んだばかりの水が溢れんばかりに入っている。
 大の男でも瓶をひとつ持ち上げるのが精一杯なところを、彼はいとも容易くひょいと両の肩にその瓶を載
せると、足取り軽やかに歩き出した。
(相変わらず、えらく力持ちな子じゃ) 
 セナムは白髪交じりの髭を撫でながら心の中で舌を巻くと、思い出したように後姿の彼を大声で呼び止め
た。
「ロランよー! 後で、刈入れの手伝いを頼まれてくれんかーっ」
「いいですよー。食事が済んだら伺いまーす」
 振り向いてそう答えると、少年は銀色の穂が揺れる小道を走っていった。
 朝の光が、山あいの小さな村に優しく降り注ぐ。
 小鳥のさえずりが聞こえる。今日もよい天気だという証だ。


 息も乱さず庭先に水瓶を一つ置き、ロランはドアを開け家の中に入った。
「ただいま〜」
 返事はない。残りの瓶を炊事場の隅に置くと、彼は苦笑しながら屋根裏に続く梯子を登った。
「た、だ、い、まっ!」
「……そんなに大声出さなくても聞こえてる」
 身を乗り出して耳元で叫んだロランの首を軽く絞める真似をし、ベッドの上の金髪の少年が欠伸をした。
「まだ寝てたの? 遅れるよ」
「あーあ。出かける前に、誰かさんのせいで水浴びしなきゃなんねえな」
「水なら、たった今たっぷり汲んできたよ」
「汲みたては冷てえんだよな……」
「それなら大丈夫。お湯沸かしてあるから、うめればいい湯加減になるだろ」
「ん? 気が利くな」
「へへへー」
「ま、それ位しなきゃ、俺も昨晩のことは許さねえけど。疲れて嫌だってのに、お前が無理矢――」
「わかったわかった。僕が悪かったよ。でも、三回目はサトリからだろ」
「一回目と二回目と四回目と五回目はお前からだろう! ……五回……?……まてよ六回だったっけ……
うわッ!」
 首をひねっている隙に毛布を剥ぎ取られ、慌ててサトリはシーツで前を隠す。
「なっ、何しやがるっ」
「サトリが遅刻したら皆が困るんだから。本当は僕だって君とゆっくり…………ん……」
 ロランはサトリに覆いかぶさり、唇を重ねた。ブルートルマリンのサトリの瞳が見開く。
「……我慢してるんだよ……」
 ロランは、柔らかい感触が遠去かるのを名残惜しげにゆっくりと唇を離す。シーツの上のサトリは不機嫌
そうに彼を睨んでいた。
「……おい」
「え?」
「手」
 サトリがぴしゃりとロランの手をはたいた。
 いつの間にかロランの手はサトリのそれを握り締めている。
「あ、つい」
「まったく油断も隙もありゃしねえ」
「ごめん……でも未だに夢みたいだ。ひとつ屋根の下で君とこうして一緒にいられるなんて」
「もしかしたら俺たち同じ夢を共有しているだけかもしれないぜ」
「夢でもいいよ。僕はサトリとなら――よっと!」
 ロランはいきなりサトリを抱き上げると、そのまま梯子を降り始めた。
「わ。わっ! 降ろせ、あぶねえッ!」
「ほらー暴れると落ちるよ。そんなに怖がらなくても、ドラゴンの角に比べたら屋根裏なんて低いもンじゃ
ないか」
「今は風のマントつけてねえじゃんかっバカッッ」
「あははは」
 無事に浴室でサトリを降ろすと、ロランは頭をポカポカと殴られた。

( 続く )  2007/06/03
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死を賭して世界を救ったロトの戦士たち。
とある事情から、二人っきりで異世界の静かな村で、まったり幸せな新婚生活を送っております。

田園生活は憧れ。
実際は色々大変なんだろうけど。