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時空のエトランジェ 〜Les etrangers qui ont transcende le temps〜 < 2 >
 

 サトリが体を洗っている間、ロランは忙しく立ち働き、朝食の準備を整える。
 卵を焼き、チーズをスライスし、パンを温める。
さっき汲んだばかりの冷たい水に放しておいた野菜を水切りして、ボウルにちぎって入れなきゃ。

 テーブルの上に料理が並ぶ頃に、濡れた髪を拭きながらサトリが姿を現した。
 糊のきいた純白の祭事服を身にまとった彼は、先程までベッドの中でくだを巻いていたとは思えない洗練さ
れた雰囲気をかもし出している。
 上等な厚手の絹織物で仕立てられた祭事服には、立ち襟、袖、前身ごろから裾回りにかけて彼の金髪に合わ
せたかのように金糸で豪華な草花模様の刺繍が縁取られていた。
 胸元には青碧の宝玉のトップがついた水晶のネックレスが煌いている。
「それ、昨晩村長さんの所から届いた新しい服だろう? とてもいいね。サトリによく似合うよ」
 ロランは「汚さないようにしなきゃね」と笑い、サトリの前にスープ皿を置いた。
「貰っておいてなんだが――段々と派手になってるような気がしないか」
 そう言いながら共布でできたタッセルのついたサッシュベルトをキュッと締め、サトリが食卓につく。
「サトリは、すっかり神父様になっちゃったね」
「俺、正式な神父じゃねえし、居ないっていうから仕方なく代行してるだけなのによ、最近冠婚葬祭まで引っ
張り出されてるだろ。その都度もっともらしいこと言ってごまかしてるけど、いいのかねー」
「みんな納得してるから、いいんじゃないの?」
 ロランは目玉焼きをナイフで切りながら言った。
「……ンなもんかな。ところでお前、何だかこの服見て、嫌なヤツを思い出さないか」
「嫌なヤツって?」
「耳にヒレがついてて自分のことを"大神官"とかのたまってたヤツだよ」
「ああ、ハーゴンか」
「な。似てるだろ」
「全然違うよ。あいつのはケープみたいな貫頭衣前掛けだけだったけど、この服はスーツに前垂れが付いてる
ような洒落たデザインだもの。靴だって、あいつのは親指だけ分かれたスリッポンサンダルみたいなのだったよ。
サトリのは、ちゃんとした革靴じゃないか」
「お前……死闘の最中にファッションチェック怠ってなかったんだな」
「単に動体視力と記憶力がいいだけだよ……ほら、力の盾使う時だけは暇になるだろ。あの時ちょっと」
「俺はそんな余裕なかったぜ。全体防御やら回復やら攻撃やらの魔法を交互に唱えるので一杯一杯だったか
らな」
 ふと、スプーンを持ったロランは視線を窓の外に移した。
「サトリ、お陽様がミブの森に射してきたよ」
「いけね。もうそんな時間か」
 急いでスープでパンを流し込むと、サトリは「じゃ、行って来るな」と椅子を引いた。
「忘れ物だよ」
「ん?」
 ちゅっと軽い音がして、サトリは頬を赤らめた。
「……今日も遅くなるかもしれない。最近忙しいんだ」
「うん。後でお昼ごはん届けるね」
 食べ終わった皿を重ねていたロランは手を振る。
「ああ」
「遅れそうだからって、ルーラは禁止だよ」
「わあってる! 使わねーよっ」
 本当は移動呪文ルーラを使えば一瞬のうちに目的地に到着できるのだが、そんなことが知れたら村中が
大騒ぎになる。
 この世界には『魔法』なぞは存在しない。

 なにせ、ここは――異世界なのだ。

 
( 続く )  2007/06/30
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家庭的な王子様w
旅暮らしが長いから、王族だけど炊事洗濯得意だと思う。