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時空のエトランジェ 〜Les etrangers qui ont transcende le temps〜 < 14 >

 
 豪奢な織物で出来た壁に似合わぬ不躾な金属の扉が、天井で口を開けていた。
 その開口部から伸びた鎖が、左右に回転する度に軋む音を立てる。
「クッ!……う……ッ」
 サトリが激痛に顔をしかめる。
 上から吊られたため、彼は手首に全体重がかかる形となっている。
 傷ついた手首から滲んだ血が、白木の手枷を紅く染めていた。
「これ以上暴れると、大事な手が使い物にならなくなるぞ」
 将軍ジィニタリスが、サトリの着ている祭服の留め具を襟から順に外しながら言う。
「念の為、貴殿の身体を調べさせてもらう」
 サトリが武器を所持している筈はない。
 城に連れて来られた時も、この部屋に監禁された時も、彼は髪から靴に至るまで徹底的に調べられている
のだ。
 充分調査済みであることを承知している将軍の真の目的は、若き医術師の躰を心ゆくまで観賞することで
あった。
 次第に脱がされてゆく最中も、サトリは一言も漏らさず将軍を睨み続けていた。
「まるで今にも噛み付かれそうだ。それにしても、もう少し可愛げがあればいいものを」
 ジィニタリスは苦笑し、少年の純白の祭服の前を全てはだけさせた。
 開かれた前身ごろの中から、上下に分かれた黒い薄手のアンダーウエアが現れる。
 薄手で裾捌きが良く、聖職者がよく着用しているものだ。
 逃れようと抵抗する少年の上半身の動きを、ジィニタリスの太い腕が抱きかかえて抑え込む。
「しばし大人しくされよ」
 ジィニタリスは懐からナイフを取り出し、薄布の胸元から刃を入れた。鋭利な音と共に布が上から下へと
一直線に切り裂かれる。
 少年の足を伝い、パサリと服の残骸が床に落ちた。
「おお! 素晴らしい眺めだ」
 まるで絶景を前にしたような感嘆の声をあげ、将軍は雪の柔肌に浮かぶ桜色の花びらに唇を寄せた。
 少年の謗る言葉も耳に入らず、無我夢中で彼は露わになった少年の胸元に取り付き、二枚の花びらを交互
に吸い、舌で転がした。
 腰より下の服も同じようにナイフを入れて引き裂き、彼は破れた布を少年の足首から剥ぎ取った。
「うく……ッ!」
 布が剥ぎ取られた反動で躰が大きく前後に揺さぶられ、手首に走る激痛にサトリは呻いた。
「今の所は何も出ないが、まだ隠し場所があるだろう」
 最後にお情け程度に残った布の切れ端に将軍は指をかけた。
「……あ……ぁ……っ!」
 苦悶の表情を浮かべた少年の頭上で鎖が軋む。
「まだまだ、お楽しみはこれからだ」
 一縷の望みさえも少年から奪った将軍の掌から、ひらと布の小片が舞う。
「……やッ……あ……ああッ!……」
「ようやく芳しい声が出るようになったか」
 目を細め、ジィニタリスが少年の乱れた金蜜色の髪をかき上げる。
 ギッと唇を噛むサトリの瞳に屈辱の涙が浮かんだ。

「その恰好では辛かろう」
 ジィニタリス将軍は壁のレバーを元に戻した。
 鎖が下に伸び、手枷をかけられたサトリの躰が床に降ろされる。
 地に足が着くや否や、逃れようとする少年を将軍が羽交い絞めにした。
「無駄だ。わたしからは逃れられぬ。観念せよ」
「イヤだ!」 
 尚も抵抗を続けたサトリは、何度も平手打ちを受けたあおりで壁に頭を叩きつけられた。
「来い。床の作法を叩き込んでやる」
 将軍が、ぐったりと壁際で伏せたままの少年の枷に繋がる鎖を引いた。
「ウッ……」
 サトリは何とか立ち上がろうと試みた。だが、感覚を失った彼の手で体重を支えることは不可能だった。
 将軍は、倒れたサトリを引き摺りながら自らの鎧を外した。
 謁見用の鎧は実戦用と大いに異なり、着脱が容易に出来ている。
 寝台まで来ると、彼は少年をシーツの上に投げ落とした。
 鎖を寝台の左右の柱に固定し、サトリの動きを完全に封じる。
 寝台の横で服を脱ぎ捨てた右膝を寝台に乗せ、祭服を大きく左右にはだけさせる。
 ブルートルマリンの瞳を怒りで燃え立たせて自分を睨む少年の輝くばかりの白い裸身を、彼は値踏みする
ように見下ろした。
「聖職者や医術師という者は、みな青瓢箪だと思っていたが、貴殿には当てはまらぬようだな」
 すらりとしたサトリの躰は単に痩せているだけではなく、しなやかな筋肉が適度についていた。
 彼は、どんなに多忙でも鍛錬を怠っていなかった。
 サマルトリアの王子として、また伝説の勇者の血を受け継ぐ者として、民を守り、常に危機に備えるのは
当然と、彼は幼い頃から教えを受けていた。
 それはローレシア王子であるロランも同様で、三日と空けず、彼ら二人は剣を交えていたのだ。
「戦場、特に最前線は楽しみが希少な場所でな――貴殿なら文句を言う者は誰も居るまいよ。昼は傷病兵を
癒し、夜は血気盛んな兵どもを癒す……どうだ、貴殿に相応しい天職だと思わんか?」
 将軍は昼は軍医、夜は兵たちの慰み者になれと自分に求めているのだ。
 ロラン以外の者に身を委ねることなど有り得ないサトリにとって、どんなに脅迫されようが飲めない条件
だった。
 要求の理不尽さに、サトリは無言の抗議を貫き通した。
「上官の質問に答えないとは、制裁が必要だな」
「ああッ!」
 ジィニタリスはサトリの両膝を掴み、膝頭を彼の胸の上に押し付ける。
「ぁうっ!……やめ…ろぉっ……は…ッ……」
 サトリが激しくかぶりを振るたび、金蜜の髪がシーツの上で乱れる。

 嫌だッ! こんな……こんな……!

 瞳から屈辱の涙が溢れる。
 将軍の思うままに蹂躙され、呼吸するのが精一杯のサトリは、呪を唱えることが出来なかった。
「……っあ……っ……あアアッ!」
 自由を奪われた汗に濡れた肢体が、激しく責め立てる巨漢の下で妖しくのたうち回る。
「貴殿の迸りは、さぞや芳醇な香りがするのだろうなあ。じっくりと味わった後で、わたしが手取り足取り
男の何たるかを貴殿に訓えてしんぜよう」
 息を荒げる少年の、極みまで昂まらされたものを手中で残酷に弄び、ジィニタリスが耳元で囁いた。


「ここって……?」
 最上階の高窓から外の景色を伺った後、下にかがみこんでロランが王子に尋ねた。
「北の塔です。一番人目がつきにくく、重要施設が存在しないので守りも薄い。しかも屋根伝いに、ほら、
あそこに見える東塔へ渡ることができます」
 ロランに窓まで抱え上げてもらったジェインが、指で東の塔の場所を示した。
 この城の構造は、広い中庭を中心に四方の建物が囲む形となっている。いわゆるパティオ構造と呼ばれる
ものだ。そして、塔はそれぞれ東西南北の角地に配置されている。つまり、東の塔と連なるのは、北と南の
塔ということになる。
「さすがは、この城の王子だね。サトリがいるのは、あの塔か……」
 つま先立って、ロランは左手にそびえる円柱状の高い建物を見上げた。
 塔の窓は小さく、中の様子は全く窺い知ることは出来ない。
「先生……ご無事でいらっしゃるといいのですが」


 ジェインが床に降ろされながら、か細い声を出した。
「彼なら心配ないよ。サトリは凄く強いんだから」
「そうなんですか。とても物静かで穏やかそうな方なのに」
「彼は滅多に真実の力を表に出さないからね」
「凄いなぁ、先生は。まさに能ある鷹は爪を隠す、ですね。ところでロランさん、これからどうしますか」
「何か塔で動きがあるまで、この場所で待つよ。僕が助けに来ることを踏んで、彼は必ず合図を送ると思う
んだ」
「互いの行動が手に取るように分かるなんて、先生とロランさんは信頼し合ってるんですね」
「まあね、彼とはつきあい長いから。その代わり、ウソついても直ぐにバレちゃうけどね」
 茶目っ気たっぷりにウインクするロランに、ジェイン王子もつられて笑う。
「これはもう要らないな」
 あとは――己の腕と剣のみがあればいい。
 ロランは鎧を脱ぎ捨てた。

 
( 続く )  2009/4/2
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やっとこさ、ナニかが起こったかもしれない。
ここまでが長いよ! 長いワリにコレかよ! と、お怒りのメッセージお待ちしておりますw(確信犯

ちょこちょこっと書いて終了のつもりが、原稿用紙で150P超え確実。
どこでどう間違ってしまったのか……もう引き返せない   il||li _| ̄|● il||li












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