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時空のエトランジェ 〜Les etrangers qui ont transcende le temps〜 < 15 >

 
「はあ……ぁっ…ぅあ!……んッ……」
 男の手の中でサトリのものが、ねっとりとした、いやらしい音を立て続けていた。
「いつまでそうして強情を張るおつもりかな。そうら、これからもっと気持ちよくなりますぞ」
「はッ! アアッ! あぅ…っ!……ウあァアッ!……」
 既に長時間に渡り弄られている彼の躰は、本来なら、とうの昔に果てていてもおかしくはない。
 だが、気力と誇りだけで耐えられるのも限界が近づいていた。
 小刻みな痙攣を起こす少年に、ジィニタリスは更に愛撫を加える。
「……!」
 喉の奥に短く風切る呼吸音をさせ、サトリが大きく仰け反った。 
「イヤだっ! ああッ! やっ…ぅあッ、アア――!!」
 遂に堰が切った快楽かなだれ込み、少年を呑み込んだ。

 魂が抜けた如く虚ろな表情の少年は、白木の手枷を朱に染めて、荒い呼吸を繰り返しながら、ぐったりと
身を投げ出している。
「次は、わたしを満足させて頂こう。さっき貴殿がされたのと同じように。どこの部分をどうすれば相手を
満足させられるか、その可愛らしい口に訓えてあげよう」
 初めての経験に戸惑っていると受け取ったのか、将軍は腰をずらし、自身をずいと彼の唇の傍に近づけた。
 男を悦ばせる技巧を訓えるだと? ……この俺に?
 何を今更――サトリは白む心の中で冷ややかに嗤った。
「どうした。早く咥えないか」
「……死んでもお断りだ!」
 尚も迫るジィニタリスに、サトリは怒りのまなざしで一喝した。
「その言葉、後悔させてくれよう!」
「うぐッ!」 
 将軍は顔を真っ赤に紅潮させ、力まかせに少年の首根っこを押さえつけた。
 呼吸の道を閉ざされ苦しむサトリの左足を上げ、自らの右肩にかける。
 残った右足をも探ろうとする将軍と少年は、激しい揉み合いになった。
 片足で将軍の急所を狙おうとするサトリ。そうはさせじと彼を押さえ込もうとする将軍。
 長い攻防の末、ジィニタリスはやっとの思いでサトリの右足を捕らえることに成功し、自分の左肩にかけ
た。
「観念しろ。大人しくわたしのものになるのだ、医術師殿」
「くそ…ッ! 離せ……っ!」
 覆いかぶさった逞しい体躯の下に敷かれ、如何にして脱出しようかとサトリは必死に頭を巡らせる。
 どうにかしようにも、将軍の手が喉元を圧迫し、呪文を唱えることに支障を来たしていた。
 逆に言えば、何とかこの手さえ除けられれば勝算はあるということだ。
「くっ……苦し……」
 涙で潤んだ瞳でサトリは彼を見上げた。絞められた喉から、かすれた声が漏れる。
「分かったよ。あんたの……言う通りに……すれば……いいんだろ……」
「む?」
 吐き気をこらえ、サトリは彼から視線を外した。上に戒められた自分の腕に顔をうずめる。
「あんたの大剣……このまま無理にねじ入れられたら、俺……絶対ぶっ壊れちまうもんな」
「そうか。最初から素直でいてくれたのなら、わたしとてこの様な無体な真似はしなかったのだぞ」
 目を細め、愛おしむ仕草でジィニタリスは少年の乱れた金蜜の髪を撫ぜる。
「よぉく舐めて濡らさねば、辛い思いをするのは、お前の方だということを忘れるな」
 きっとこの者の熱く柔らかな舌は、最上級なベルベットの感触に相違ないのだ。
 少年が瞼を閉じる。
 薄紅の唇から生ずる少年の吐息は、深く脈の浮き出た彼の中心部をひときわ燃えたぎらせた。
 来たるべく快楽に彼は胸を躍らせる。
 だがしかし、彼を受け入れる直前に、サトリは彼を見上げて不敵に微笑んだ。
「ああ……残念だよ。あんたが思い留まってくれたなら、俺もこんな無体な真似はしなかったのにな」
 そしてサトリは「ギラ」と唱えた。
 巨大な火炎と熱嵐と共に噴き上がる焔の精霊は、契約者である少年の忠実な下僕だった。
 焔の精霊は龍の形を成すと、少年の両手を戒めていた枷を一瞬で燃やし尽くす。
 自由を得たサトリは、のしかかるジィニタリスを天井に向けて蹴り上げると、寝台を抜け出て瞬く間に床
に着地した。

 随分と御無沙汰じゃないかよ、サトリ。
 で、こいつも始末するのか?

 怒れる火龍は契約者である少年の盾となり、床に落下したジィニタリスの前に立ちはだかった。
 よろよろと立ち上がり、驚愕の余り声さえ失った将軍を、金色に輝く二つの龍眼が、彼を見下ろした末に
鋭くギロリと一瞥する。
「そいつはいい。俺の獲物だ」
 サトリが両手を振り払うと、枷の燃えカスと附属していた鎖が鈍い音を立てて床に転がる。
 それらは灼熱でグニャリと熔け、もはや一つの金属塊と成り果てていた。
 焔の龍に気を取られたジィニタリスのみぞおちに鋭い痛みが走る。
「グッ!……カッ……?!」 
 呻き声を上げ、ジィニタリスは膝を折った。
 目にもとまらぬ素早さで繰り出されたサトリの拳が、彼の腹部に深々とめり込んでいた。
  
 なァんだ、つまらん。出番がないなら帰るぜ。

 舌打ちすると身を翻し、召喚された焔の精霊が上昇し天窓を突き破る。
 粉々のガラスが舞い落ちる中、床から拾い上げたサッシュベルトを締め、サトリは素早く身支度を整えた。
「さーて、長居は無用だな。あばよ、オッサン」
 離脱の呪文を唱えにかかると、白い光がサトリを包む。
 彼が逃亡する事を予見したジィニタリスは、後ろからサトリを羽交い絞めにした。
「待てっ。逃がさぬぞ! その素晴らしい力――ますます貴殿を手放すわけには参らん!」
「わっ、よせ! 見逃してやったのが解らねえのかよっ!」
 ジィニタリスは「うおお!」と咆哮し、満身の力でサトリをベッドに向かって放り投げた。
 そして起き上がる隙も与えず体を乗り上げて動きを封じ、うつ伏せにしたサトリの腕を捻り上げる。
「ウッ……!」
 彼は、痛みに呻くサトリの腰に巻かれたサッシュベルトの結び目を解いた。
「面白い……実に面白いぞ、医術師殿。治療の腕もさることながら、先の不可思議な焔の技に加え、見事な
体術までこなすとはな!」
 彼は手にしたサッシュベルトで少年を後ろ手に縛り上げる。
「くそっ! やめろ――何しやがるっ!」
「貴殿の術を封じるためには、こうすればよいのだろう」
 にやりと笑うと、将軍は引き裂いた彼のシャツの布片を轡にして少年の首の後ろで結わえ付けた。
「ウンン……ッ!」
 瞠目するサトリの前で、彼は嗜虐的な笑いを浮かべた。
「悪戯が過ぎたようだな」
 もがく少年をねじ伏せ、祭服の裾をたくし上げると、ジィニタリスは少年の白く滑らかな双丘を露わにし
た。
「これほど心の底から欲しいと思った逸材は、貴殿が初めてだ。我が身を受け入れ、名実共にわたしのもの
になれ。わたしの右腕となるのは、貴殿の他には居らん」
 少年の背後から、猛り狂った凶器と化した巨大なモノが容赦なく押し当てられる。
「今度こそ手に入れよう。貴殿の――すべてをな!」
 ジィニタリスの無骨な指が少年の双丘に食い込む。
 サトリはビクッと肩を震わせた。


 パアン!
 大きな音と共に東塔の天窓が割れ、火柱が噴き上がった。
「動いた! あそこかっ」
 窓から飛び降りると屋根上を伝い、ロランは一目散に東塔を目がけ疾走する。
「ロランさあん! 一体どうするつもりですかっ!? 下には見張りの兵が……!」
「大丈夫だよ! 何とかする!」
 走りながら振り返ったロランから白い歯が覗く。
「何とかするって……」
 策も講じず、行き当たりばったりで良い結果が得られるとは、ジェイン王子には到底思えなかった。
 でも――。
 窓から身を乗り出していた、半ば呆れていた王子の表情が和らいだ。
 凄い。何て身軽な。そして力みなぎる剣の構え。
 生き生きと屋根の上を跳ぶロランは、長身でがっしりとした戦士でありながら、かなりの俊敏さだった。
 短い黒髪と青の瞳を持つ年若い戦士は、もう一度振り返りざまに、窓辺で見守る王子に優しく無邪気な笑
顔を見せた。

 ジェイン、僕を信じてくれ!

 彼の深淵なる海の青の瞳が頷く。
 きっと、彼なら不可能を可能にしてしまうのかもしれない。
 普段は根拠のない第六感の類を鵜呑みにすることがないジェインであったが、どういうわけか今だけは、
彼の言うことが信じられる気がした。


 
( 続く )  2009/4/10
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つくづく思う。
工口ってむつかしい!
絵に於いてはB地区のトーン番にこだわり、文に於いては喘ぎセリフにこだわるのが職人ですw
この表現、前も使ったよな……と毎回悩みどころです。

次回が最終話です。
2007年6月から始まって、もうすぐ二年。
長かったw





18歳以上で801OKの心広き紳士・淑女の皆様、よろしければ完全版をドゾ! つ