『 うさぎたん 』 text by 鷹魅さん
――少しだらしないかしら?
麻子はそう思いながらのんびりと蜂蜜入りの紅茶を口に含み、読みかけの本に目を通す。
光と結婚してからだいぶ二人の生活にも慣れてきた。
残念ながら今日は光は仕事で居ないけれど、それでも部屋中のあちこちに手塚特有の――いずれは二人の――匂いがするのは嬉しかった。
なによりもその匂いが独りではないのだと、教えてくれるから。
「あたしも現金なものよね」
くすりと呟いて麻子は内勤の仕事をしているだろう旦那を思い出す。
結婚してから明らかに光は感情をストレートに出すようになった。
二りっきりだから、という多少の甘えもあるのだろうけれど、それだけじゃないのだ。
麻子のことを好きだと、大切にしたいのだという感情を隠さなくなった。
それが麻子にとって何よりも嬉しくて、同時に恥ずかしくてたまらない。
――今までこんな風にしてくれた人は居なかったものね。
悲しくないと言えば嘘になる。
けれど、麻子自身が大切に思ってる相手から、自分自身の気持ち以上のものが返ってくるのは嬉しくて仕方が無い。
なによりもこんなことを始めてだと言ったときの光の驚きようはなかった。
同時に光の優しすぎる眼差しにどきどきして、抱きしめられた瞬間、胸の中に熱いモノが生まれた気さえしたのだ。
「あのバカップル夫婦に毒されたのかしらね?」
くすくすという笑いが止まらないまま、麻子は持っていた本から一枚の写真をそっと取り出した。
先日、光の兄から郵便で届いた一枚だ。手紙にはいかに弟を溺愛しています、という文章が便箋5枚に綴られていたが…。
「もう、ほんっと可愛すぎるわっ!」
手に持つ写真に映し出されているのは光がまだ3歳の頃の写真。
母親と兄によって着せられたふわふわもこもこしたぼんぼん付きのウサギの帽子と同じ素材の動物の足のスリッパ。
そして手には蜂蜜入りのホットミルクを両手に持って微笑んでいる光が。
膝小僧の絆創膏は兄を追いかけたときに転んでしまったときの傷だと手紙には書かれていた。
当時はまだ上手く言葉もしゃべれなくて兄のことを「にーちゃ」と呼んでいたことも。
それらを想像するだけで麻子は全身を振るわせずには居られない。
可愛くて仕方が無いのだ。兄である慧が弟の光を溺愛するのも分からなくはないほどに。
「でももう光はあたしのものよ?」
目を細めて、麻子は午前中に届いた荷物を思い出す。
サイズが無くて作るのに少し時間がかかってしまったのはいたしかたない。
その分、待ったかいはあるというものだ。
写真の中で光るが身に着けていたのと同じものが届いたのだから良しとしよう。
「早く帰って来ないかしら? ねぇ、光?」
写真の中の光に問いかけながら、薄い笑みをこぼす。
帰宅後、ふわふわもこもこしたたれウサギの耳を光に装着させようと思っているのだ。
きっと顔を真っ赤にして怒りながら付き合ってくれるはずだ。
「どうせならぴるぴると震えてても可愛いわよねぇ?」
麻子の呟きが聞こえたのか、仕事中の光はぶるりと身を震わせていたという――…。
〜 Fin 〜
Gyumの鷹魅さんから小説を頂きました。
8/29の絵茶で『手塚は兄貴に動物の着ぐるみを着せられて写真撮られてそう』というネタを
鷹魅さんから聞かせて頂いた際に描いた光たん(3歳)を献上したんです。
(※この記事にある合作の光たんです)
そのお礼ということで頂いたんですが、なんと初めての手柴だそうで!
本当にありがとうございます!
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