第6話 スクール水着でもっと男らしく、ますます女らしく



 しばらくして、ラムネスとミルクは水着を持ってアララ城へと戻って来た。そして、ココアも
その間に水着を用意していた。ココアは、用意ができたところで、戻って来た二人を呼び止める。
 「ラムネス〜、ミルク〜、用意はいいですか〜」
 「うん」
 「それでは、地下のプールへ行きましょう〜。」
 アララ城の地下にあるプールは、王家の者をはじめ、城に出入りする者全員が使える保養施設で
ある(作者だけの派生的設定。詳しくは前作「ミルクのダイエット作戦」参照のこと)。今日は、
特殊用途に使う旨の緊急の手続きをして、一般の利用を差し止める手続きをしての運用である。
 ところが、3人がプールの入り口に着いた時に、ちょっと困った問題が首をもたげて来た。
そう、「だれがどちらの更衣室で着替えるか.....より本質的には、ココアはラムネスの姿のミルクと、
ミルクの姿のラムネスのいずれと一緒に着替えるか」という問題である。が、結局、「更衣室は広い
ので、元に戻った時に問題の少ないことから、女子更衣室で、ミルクの姿のラムネスと一緒に着替え
る」ことに決まった。

 ただひとり、男子更衣室で水着に着替えるラムネスの姿のミルク。
他に誰もいないので、ためらいなく一旦全部脱ぎ捨てる。
 (えーと、水着はどれかしら......と。あ、これね。)
 ラムネスの中のミルクは、青い袋の中に入っていた濃紺の物体を手に取った。それは体育の授業のと
きに男子が履いているのを見たことがある、自分の中学指定の男物スクール水着だった。前屈みになり、
紐がある方が前なのを確認して、大急ぎで両足を突っ込み、えいと引きずりあげる。
今までとは違って、へそから上を隠すものがない。だが、ミルクは、不思議とこの海パン姿に違和感を
感じなかった。むしろ、海水パンツの腰回りだけのフィット感を当たり前のように感じていた。
 (なんだか私、生まれつき男の子だったみたい。)
 そして、紐を結んで前を見たら、鏡の中の己の姿と目があった。
 そこには、細身ながら良く鍛えられた筋肉が引き締まった、上半身裸の一人の少年の姿があった。
四角い海水パンツがよく似合っている。
 (ああ、やっぱり私、男の子なんだ.......。やだ、どうしたのかしら!!)
ミルクは海パン一丁のラムネスの姿で、思わずガッツポーズをとってしまうのであった。
 このように、すっかりラムネスの....男の体に順応したミルクであった。

 一方、女子更衣室ではココアとミルクになったラムネスが着替えに入っていた。
  ミルクになったラムネスは女の子の水着に着替える方法を知らないとみえ、固まっていた。
 たまらず、ココアは声をかける。
 「ラムネス〜、どうしたんですの〜?」
 「どうやって着替えていいかわかんなくて、手が動かないんだ。」
 「何も悩むことはありませんことよ〜。単純に一旦今着ているものを全部脱いでしまってから水着を
着ればいいんですのよ〜。私もいつもそうしてます〜。」
 ラムネスの目の前で、ココアは、着ていたドレスを脱ぎ、眼鏡もはずしてベージュ色の下着姿に変身した。
 ココアの下着姿...胸の丸みをきれいにトレースしたベージュ色の大人しい感じのブラジャー、きゅっとくびれ
たウエストを飾るおへそとショーツのリボン、そしてブラジャーにそろえたベージュの小股の切れ上がったショ
ーツからすらりとのびる脚線美.....が、ラムネスの目の中に飛び込んでくる。
(なんだか知らないけれど、今日のココアはいつになく大胆だ.......。いくら俺が今ミルクの姿になってるか
らと言って、本来男の俺の目の前であんなかっこになるなんて.......。あれ?でももっと変なのは、いつもの
俺ならココアの下着姿なんて見たら、鼻血出して出血多量で意識不明になったり、あそこが完全に硬直して
気持ちよくなったりするはずなのに、今日の俺は平然としてこんなに冷静に考えていられる.....まあ、どうせ
水着に着替えるんだし、うだうだ考えないで、俺も脱ぐか。)
 意を決してシャツのボタンをはずし、ソックスを脱ぎ、スカートのホックをはずすラムネス。昨日、自宅の
風呂場で脱いだ時よりも、数段スピードアップしている。あっという間に、ピンクのかわいらしい下着姿へと
変身した。
 「まあ、かわいいですわ〜。ですが〜、ミルクも待っていることですし〜、急いで着替えましょう〜」
 「そうだね」
 ココアの、言葉とは裏腹なのんびり加減にも、難無く受け答えるミルクの姿のラムネスであった。
 続いて二人は、ブラジャーをはずす。ココアはミルクには幾度となくこの着替え途中の姿を見られている
せいもあって平然としていた。しかし、ミルクの姿のラムネスは、ココアの目線が気になったのか、反射的に
両手でブラの外れた胸を押さえてしまう。
 「きゃっ、ココアのえっち!」
 「(目線の先にあるものに気付いて)失礼しましたわ〜。でも〜、ラムネスのしぐさ、女の子みたいでかわ
いいですわ〜。」
 「え?俺の仕種が女の子みたいだって?俺には全然わかんないけど。」
 そして、ココアは平然として、ミルクになったラムネスは割り切れない何かを解決できぬまま、最後の一枚に
手をかける。二人は、その最後の一枚をつるりと脱ぎ捨て、生まれたままの姿になった。
 そのとき。
 どしーん!
 男子更衣室の方から、物凄い地響きと振動が伝わってくる。
 「じ、地震か?」
 「さあ〜、なんでしょう〜?とにかく、早く水着を着ないと〜。」
 二人は急いで袋から水着を取り出し、両足を水着に通してたくしあげて体に密着させ、最後に肩紐に腕を通し
て水着姿への変身を完了した。
 着替えてみると、二人ともスクール水着だった。ラムネスのは学校指定の、いうまでもなく本来はミルクの
水着である。濃紺一色の、いわゆる「スカート付き」と呼ばれるオーソドックスなタイプだ。生まれて初めて
感じるはずのその装着感に違和感を感じるどころか、スクール水着はミルクになったラムネスの体にしっくり
と馴染んだ。肩紐、胸、おなか、そして女の子の大事なところでも感じる水着のフィット感は、生まれて初めて
身につけるものには感じられなかった。
 (なんだか、水泳の授業のたんびにこれを着てたみたいだ.....。というか、海水パンツだと返って恥ずかしいぞ。)
 無意識の内に、女の子の体に順応しているラムネス。そして、ラムネスは近くにあった姿見の前で足をとめた。
 (ああ、水着が胸まである...... 。どこから見てもますます完全に女の子だ.....。胸はぺったんこだけど。)
 ほっそりと、すらりと延びた手足。きゅっとくびれたウエスト。そして......隠す必要性のあまりない平らな胸。
スクール水着は、ミルクになったラムネスのプロポーションをばっちりトレースしていた。
 一方、ココアのはほぼ同じデザインながら、白い縁取りがあしらわれている。ミルクより一回り大柄で、出る
べきところがちゃんと出ていて、それでいてスレンダーな体型を、スクール水着がきれいにトレースする。
 ラムネスがココアの方を見遣ると、いつもとは違い、自分の体型(とりわけ胸元)の貧弱さが身にしみる。
 (ああ、ココアにはかなわないや。)
 「あらら〜、ラムネス〜、元気ありませんわね〜。どうしたんですの〜?」
 「いや、なんでもない.......」
 女の子の....それもドキドキスペースにその名を轟かせた天才美少女の生着替えをじかに見たのに、大熱血しない
ばかりか、悔しさが込み上げてくるなんて.....。ラムネスは、自分でもわけがわからずその場に立ち尽くしてしまう
のであった。もっとも、ココアとしては、さっきの地響きと振動が気になる。
 「ラムネス〜、ひょっとすると〜、男子更衣室の方で何かあったのかも知れませんわ〜。様子を見に行きましょ
う〜。」
 「え、いいの?」
 「はい〜。今向こうで着替えているのは〜、ミルクだけですわ〜。」
 「じゃぁ、もしかして、まさか....。」
 「そのまさかがないとは言えませんわ〜。」
 「そんなことにでもなったら、俺、一生をミルクとして生きなきゃいけなくなるじゃないか.....」
 「そ、そんな不謹慎なことを考えるものではありません!。」
 「あ....そうか......。」
 ココアは険しい表情で、情けない顔をしたラムネスを引っ張って、男子更衣室の様子を見に行った。
 するとそこでは、なんとラムネスになったミルクが海パン一丁の姿で、仰向けに倒れて気を失っていた。
 よく見ると、鼻血を出していた。
 「ミルク〜、しっかりしてください〜.........。」
 ココアは、ラムネスになったミルクの肩を揺すり、気を取り戻させようとする。そして......
 「............わっ、お姉様!」
 ミルクは、正気に返った。ココアには、ミルクの鼻血から、男子更衣室で何があったのか大凡の見当がついた。
ココアは、ミルクがまた興奮したりしないように気をつけて、ミルク(本来はラムネス)の上半身を支えた。そし
て、ココアの腕からミルクの体重がすっとぬける。そのまま、ミルクは立ち上がった。自分の考えた最悪の事態が
回避されたことを確認して、ラムネスはホッと息をなで下ろす。
 ココアは、この一件に見当がついていたにも関わらず、この問いを発する。
 「ミルク〜、いったい何があったんですの〜?」
 「......なんだか知らないけれど、突然、お姉様の着替えてるところが見たくなって、つ、つい.......」
 「(ドスの効いた声で)女子更衣室を覗いたんだな!?」
 「そして〜、ラムネスと私の裸を見て興奮して〜、バランスを崩して塀から落ちたんですのね〜。」
 全くもって、弁解の余地がないまでにその通りだった。ただひたすら、平謝りに謝るラムネスの姿のミルク。
 その時、突然、ミルクになっているラムネスが笑い出した。
 「あははははは、俺らしいや。それでこそ俺だよ、ミルク。」
 「それ、どう言う意味?」
 「ほら、男だったころの俺はさ、人並みはずれて性欲が強かっただろ。どうも入れ代わったときに、性欲だけ
元の体に置いて来たみたいだな。」
 それを見ていたココアも、面白さのあまりに、怒る気力をなくしてラムネスと一緒になって笑いはじめた。そし
て、ついには...... 。
 「それもそうね。今の私はラムネスなんだもんね。確かに昔のラムネスは、人並みはずれてHで浮気症だったわ。
そうよ、きっとそうだわ!あの『お姉様の着替えを見たい』と思って、実際に覗き見して興奮する感覚こそがラムネ
スの感覚なのよ!これでわかったわ、あははははははは。」
 ミルクまでもが楽しそうに笑い出してしまった。
だが、このミルクの笑い声を聞いたラムネスはラムネスで、ある思いが沸き起こって来た。
 (ミルクが俺の姿になってココアの着替えを覗き見して興奮して、俺は俺でミルクの姿になってココアと一緒に着
替えても、ちっとも興奮しなかった.....。それどころか、ココアに比べて胸が貧弱なのが無性に悔しかったし、俺にな
ったミルクが女子更衣室を覗いたのを知って、一瞬許せないほど腹が立った....。もっと言うと、けさ起きた時に感じ
たあの食欲......。俺もミルクも、今の体に順応して来てるのか.......。)
 笑顔から一転、一気に仏頂面になるミルクの姿のラムネスであった。
 ここで、ココアが声をかける。
 「あらら〜、ラムネス〜、どうしたんですの〜。とにかく元の姿に戻るために〜、プールへ行きましょう〜。」
 「そうだった。おれたちは元の姿に戻るためにここへ来たんだった。」
 「そうね。行きましょ、ラムネス!」
 こうして、3人は、入れ代わったラムネスとミルクの人格を元通りにするために、プールサイドへ出たのである。
 だが、お互いに入れ代わり後の性別に順応しつつあるラムネスとミルク。はたして二人は、元に戻れるのか?それ
とも、入れ代わったままの姿、性別で生涯を過ごすことになるのか?
 


7話に続く。 戻る トップに戻る