第7話 強襲!量産型キングスカッシャー
人格が入れ代わったラムネスとミルクは、二人抱き合って飛び込み台から落ちることであの階段と
類似の状況をつくり出して元の姿に戻るため、ココアの立ち会いのもとにプールサイドに出た。
独特の湿った空気が、3人の肌にふれ、また3人に吸入された。とりわけ、人格が入れ代わって
初めて本来の性別とは反対の水着をつけたラムネスとミルクには、肌に触れるプールの空気の感覚は
初体験のものだった。すなわち、ミルクは胸やおなかで直接この空気を感じ、ラムネスは水着ごしに
感じたのである。水着の装着感には二人とも違和感を感じなかったものの、このプールの空気の感覚
は二人に違和感を感じさせずにはおかなかった。
そして、その違和感が、昨日の風呂場での記憶をラムネスになったミルクに思い起こさせた。
「お姉様、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
「ミルク〜、どうしたんですの〜?」
「お姉様は私になったラムネスと一緒に着替えたんでしょ?なのにラムネスは平気な顔して
水着に着替えたお姉様と一緒にいたのよね。それどういうことなの?」
「もしかして〜、ラムネスの女の子化が〜、本人の意識の及ばないところで進んでいるのでは
ないのですか〜?」
「それなのよ。昨日ラムネスったら、鏡に映った私の姿.....
今はラムネスの姿だけど.....を見てね、
思いっきりのぼせあがっちゃったのよ。」
「といいますと〜、今日になってから〜、男の性欲がなくなったということなんですか〜?」
ラムネスは、己の(本来はミルクの)姿を見てのぼせあがったことを覚えていなかった。が、
姉妹の会話から、自分が今女の体に順応しつつある現実に引き戻された。
「え?俺が昨日自分の裸を見てのぼせあがったって?俺は覚えてないけど、もしほんとなら、俺
が今日ココアの着替えを見て男の性欲を感じなかったこととあわせて考えると........もしかして、俺、
今日このまま元に戻れなかったとしたら、いずれは心まで完全に女の子になっちゃうのかもしれない
なぁ。」
一方のミルクも、男の体への順応をひしひしと感じていた。
「私は、昨日は元の体を見て初めて男の性欲の何たるかを知ったんだけど、今日になってから突然
お姉様の着替えが見たくなってあんな行動に出ちゃったりして.....私も、元に戻れないと心まで男の子
になっちゃうかも.......。ラムネスの海水パンツだって違和感なく着られちゃったし........。」
無意識の内に進む、心の中の性別とは逆の、現在の性別への順応。ラムネスとミルクは、猛烈な焦
りを感じていた。
「俺だって、ココアからプール行くって聞かされたときには、あれほど恥ずかしいと思ってたミル
クの水着を着るのが、こんなにも抵抗がないなんて思いもよらなかったよ。やっぱりこれから、俺は
女の子であるミルクとして、ミルクは野郎である俺として、それぞれ生きていかなきゃいけないのか
なぁ。」
「二人とも〜、まだそうと決まったわけではありませんことよ〜。少なくとも〜、飛び込み台を試
してみないうちは諦めてはいけませんわ〜。」
こんなときでも、ココアはさすがに冷静だった。この局面において、最も適切と考えられる物言い
を選んで、確信を持って口に出す。当事者二人は、今日改めてココアが頼れる姉貴だと再認識させら
れたのである。
そして、絶対に元に戻ってやるとの気合いを込めて、二人は飛び込み台へと足を向ける。
ところが、まずミルクになっているラムネスがはしごの1段目に足をかけたまさにそのとき。
プールの外から凄まじい大声で何者かがラムネスたちに呼び掛けて来た。
『馬場!いや勇者ラムネス!あ、いやさ元ミルク姫!それに元馬場のミルク姫!表へ出ろ!さもな
いと、アララ城ごと破壊するぞ!』
ラムネスとミルクには聞き覚えのある声だった。そう、中学の野球部の転校生4番打者、浦島であ
る。
「(横山智佐の声で)な、なんで浦島がここにいるんだよ?それに俺とミルクが入れ代わったこと
まで知ってるなんて.....。」
「(草尾毅の声で)そんなの、私に聞かれてもわかんないわよ!」
「(玉川紗己子の声で)とにかく〜、相手の言う通り一端表へ出ましょう〜。」
もっとも、状況からして水着を着替えている暇は無さそうである。3人は、ぜひなく水着姿のまま、
メタルコインを取り、タマQを連れて城の外へ出た。
すると、そこに立っていたのは、なんと10機ものキングスカッシャーによく似たメカだった。
「(横山智佐の声で)浦島、そんなものを使って何をするつもりだ!それになぜ俺とミルクが入れ代
わったことを知ってるんだ!」
この問いに、10機のメカのどれかに乗っていると思しき浦島はこう答えた。
「はっはっはっはっは。愚問だな。きさまをたおすためさ。そして、きさまらをあの駅で階段から突
き落としたのもこの俺さ。携帯メールの占いも、きさまをあの階段におびき出すのに利用させてもらっ
たよ。
それにつけても、すばらしい『オレっ娘』ぶりだな。勇者ラムネスよぉ。たまたま俺が見たビデオの映
画に、男女二人が階段から抱き合って転落して人格が入れ代わった話しがあったんだ。まさか、本当に
その方法で人格が入れ代わるとはねぇ。したがって、キングスカッシャーを操縦するのは元ミルク姫。
そして俺のマシンはそのキングスカッシャーと同等の性能を持つ量産型キングスカッシャーだ。しかも
数は圧倒的にこっちが多い。もっというと、ミルク姫の人格が入れ代わっているために、『聖なる三姉
妹』の力も使えまい。どうだ、この勝負、戦うまでもなく俺の勝ちだろう!」
何だか知らないが、浦島、ずいぶんとラムネスサイドのことに詳しいようである。ついでに、「転○
生」を見たことがあるほどのTSファンだとは.....。
ミルクになっているラムネスは無力感にさいなまれ、その場にしゃがみこんで、どんと拳を大地に叩
き付けて悔しがる。だが、この女はこんな時にも冷静さを失わず、疑問を相手にぶつける。
「それはそうですが〜、あなたはラムネスの学校の野球部員でしょ〜?なのになぜそこまでして私た
ちを狙うのですか〜?」
「さすがはドキドキスペース1の知者、ココア姫。では冥土の土産に教えてやろう。野球部員・浦島
刃とは世を忍ぶ仮の姿。俺の真の名は、元ドン・ハルマゲ軍団の戦士、ラーシマだ!」
「ドン・ハルマゲ軍団のラーシマだって?」
ラーシマ。温泉の湧き出るリューグー村のオトト姫を力で従わせ、ラムネスを老人の姿に変える武器
を使って攻撃して来た、ドン・ハルマゲすなわちゴブーリキ配下の戦士だ。どうやって人間の少年に
化けたかは不明だが、ラムネスたちに敵意を抱いていることは間違いない。
ともあれ、3人は、その名を聞いて、ぐっと拳を握りしめた。
「ラムネス、入れ代わりがとけるまではキングスカッシャーは無理だミャー。他の守護騎士を
呼ぶんだミャー!」「わかった!」
ミルクになっているラムネスは、タマQの頭のスロットに、キングのものを除く6つのメタルコインを
立続けに投入する。本作初登場早々、タマQは苦悶の表情にあえぐ。
「うーーーーーーん、みゃっ!」
6つの卵型のカプセルを吐き出すタマQ。3人は、手分けしてカプセルを投げる。
「ティーパック!」「餅、ぺったーん!」「缶、ぱっかーん!」「紅茶っ茶ー!」「あんころりーん!」
「ぽん、ぽん、ぽん、ぽーん!そして、くのいっちゃん!」
キングとクイーンを除くすべての守護騎士とポーンが登場した。
「出たな、雑魚ども。この量産型キングスカッシャーの前ではきさまらなど赤子の手をひねるようなもの
だということ、教えてやる。」
「雑魚とは随分ないいぐさですね。みなさん、あのわからんちんどもにこそ、われら守護騎士の力を見せ
てさしあげましょう。」
「セイロームの旦那、いわずもがなでい!」
「僕達兄弟も、右に同じだよ!」
「拙者もでござる。」
「わてもやりまっせ〜。」
闘志満々の守護騎士達。しかし、この量産型キングスカッシャーは、彼等のまだ知らない新兵器を装備し
ていた。
「くらえ、トリモチバズーカ!」
この武器は、超高粘度の粘液を発射し、敵の動きを封じ込めてしまうものである。守護騎士達は、至近距
離で発射された、この粘液にもののみごとにあたってしまったのである。
「しまった、体が動かない!」
「べらぼうめ、ほどきやがれ!」
「お兄ちゃん、どうしよう?」「合体も無理か.....。」
「拙者としたことが....不覚!」
「こりゃあきまへんわ。」
出した守護騎士達が体の自由を奪われ、絶体絶命のラムネスたち。だが、ここでラムネスになっているミ
ルクが意を決する。
「あたし、キングスカッシャーに乗るわ。」
「ミルク、奴らは危険だミャー。セイロームたちを謎の新兵器で瞬間的に封じ込めた猛者だミャー!」
「でも、今動けるのはキングスカッシャーだけでしょ?それに今の私はラムネスよ。ここで何とかする
のが勇者の役目でしょ?」
タマQは、ミルクの強烈な押しに負け、メタルコインをスロットに投入するように言った。そのまま
大きくKの字が書かれた、卵型のカプセルを吐き出す。これを勢いよく投げあげるラムネスの姿のミルク。
その姿は、入れ代わり前と全く変わりがなかった。
「キングスカッシャぁぁぁっ!」
この雄叫びも、全く元のままだった。そして、いつもと全く同様に、大地が裂けて金色の巨体がその
勇姿をあらわす。
シュパァァァァァン!
ラムネスになっているミルクは、キングスカッシャーに勇ましく搭乗する。
(ミルクの奴.....なかなかさまになってるじゃないか。)
下で見ていたミルクの姿のラムネスは、いつもの自分の姿を重ね合わせていた。だが、操縦能力はどう
か。今のミルクが、男の性欲のみならず操縦能力までもきちんと発揮してくれることを祈ることしかでき
ない、ミルクになったラムネスだった。
8話に続く。 戻る トップに戻る