第8話 助太刀、生理痛のち逆転




 ラムネスになっているミルクが、キングスカッシャーで量産型軍団に立ち向かう。
 だが、相手は10機、味方は自分1機だけだ。数的に圧倒的に不利で、かつもとも
とミルクなので、操縦能力面でも不安は大きい。
 そのとき、敵の1機がどう言うわけか座禅を組むようなポーズを取り、バリアをは
る。どうやら、この機体がラーシマの搭乗機のようだ。そのせつな、のこりの9機が
ミルクのキングスカッシャーに、一斉に襲い掛かる。
 「きゃぁぁぁぁっ!」
 ただ悲鳴をあげるだけで、何も対応できないラムネスの姿のミルク。
 「ミルク、しっかりするミャー!」
 敵は間断なく、連続攻撃を仕掛けてくる。ラムネスになっているミルクには、盾を
かざして防御するのがやっとだ。やはり、本来のラムネスに近付いたのは性欲だけな
のか?
 「カーッカッカッカッカッカッ!どうだ、パイロットの力の差、思い知ったか!」
 手下の無人機9機をあやつりながら、バリアがはられたボス機のコクピットで余裕
の笑みを浮かべるラーシマ。そう、ミルクの力量は、ラーシマにさえも及ばなかった
のである。
 ところが、そのせつな、ラーシマは、全身に無気味な振動を覚えた。何者かが、
外からバリアを破壊しようとしている。ラーシマがその一点に目をやると、そこに
はキングスカッシャーと並び称される最大級の守護騎士、すなわちクイーンサイダ
ロンの姿があった。
 「ちいとばかり暇つぶしに冒険の旅に出ては見たが、出会うのは歯ごたえのねえ
野郎どもばかりじゃねえか。だが帰ってみればこの狼藉.....けっ、俺様あっちの世界
なら、職務怠慢で懲戒処分ものじゃねえか。そうかい、懲戒。ハラハラワールドで
よかったぜ!」
 敵・味方関係なく凍り付かせるこのダジャレ。そう、パイロットは毎度お馴染み
黒衣に長髪のあの男、ダ・サイダーである。ココアが緊急事態を通知して、帰還を
命じたところ、今ようやく帰還してきたわけだ。
 しかし、群集の中に二人だけ、耳に栓をして、体が固まるのを防いでいたものが
いた。言うまでもなく、人格の入れ代わったあの二人だった。クイーンサイダロン
の姿を見て、本能的にダジャレがくると察して、素早く耳を塞いだのである。
 (ダ・サイダーが帰って来ちゃったか。でも、今は味方が多い方がいい。何せミ
ルクが心配だ。)
 ところが、敵の意外な(?)強さに辟易していたラムネスになったミルクが、う
っかり女言葉で警告してしまう。
 「ダ・サイダー、そいつ強いわよ!」
 「おや、ラムネス、どうしたんだ?てめえが女言葉使うなんて聞いてないぞ?」
 「よくきけダ・サイダー、俺がラムネスだ!キングスカッシャーに乗ってるのは、
俺になったミルクだ!」
 ミルクがTSをばらしてしまったので致し方なく、大声を張り上げて、手短に現状を
説明するミルクの姿のラムネス。
 「おっ、そうかラムネス、TSしたのか。おめでとう。スクール水着、超似合って
萌えるぞ。」
 「ドゥワーリン、何あんな貧乳娘の水着姿に鼻の下のばしてるじゃん!うちという
ものがそばにありながら.....」
 こんなことをいうのは、もちろんダ・サイダーのアドバイザーロボ、ヘビメタコで
ある。
 「ばかもの!元男の女というのは、最新流行の『萌え』なのだ!」
 なんと、この男まで隠れTSファンだったとは。ヘビメタコは、げんなりして引っ込
んでしまった。
 ともあれ、ダ・サイダーが狙うは、バリアをはったボス機のみ。しかし、バリアは
極めて頑丈で、クイーンサイダロン自慢の戦斧の連続攻撃を浴びてもびくともしない。
無人機9機が、攻撃目標をクイーンに切り替える。さすがに乗っているのがダ・サイダー
なだけあって、クイーンは強い。ミルクのキングとは違い、無人機の攻撃に対し、的確な
反撃を仕掛けている。それでも敵は9機の量産型キングスカッシャー、さしものダ・サイ
ダーも、いい加減くたびれて来た。そこに。
 「くらえ、トリモチバズーカ!」
 セイロームたちを封じ込めた、あのトリモチバズーカ攻撃だ。しかし、ダ・サイダー
のクイーンは、これを難無くかわし、敵はあえなく弾切れとなった。
 そのころ、ミルクになったラムネスは、突然からだの不調を感じていた。気がつい
たら、全身が妙にだるい。そして体が自由に動かない。これはいったい何なんだ。そんな
疑問にラムネスがさいなまれたそのとき。
 無人機の背後から、何者かが攻撃を仕掛けた。
 「ようやく動けるようになりました。さあ、この借りは倍返しさせていただきますよ!」
 「やいやいやい!てめえら、よくもやってくれたな!」
 「お兄ちゃん、あれやろう。」「うん、いいよ。」
 「さあ、元気よくいきまっせ〜。」
 「今度は拙者達の番でござる。ともあれ、姫、ありがとうございました。」
 「どういたしまして〜。」
 下からココアの声が聞こえてきた。
 そう、ココアは密かに格納庫に向かい、テリータンクに搭載してあった溶解液を使って、
敵のトリモチを溶かしたのである。
 一気に攻勢に出る守護騎士たち。しかし、それでも数の点では9対8。しかも、キングは
ラムネスになったミルクが乗っているので、全く戦力にならない。そして、敵のボス機の
バリアはかたく、容易にはこじ開けられない。
 そのとき、ココアはあることを思い出した。
 「ラムネス〜、今から私の言うことをよく聞いて下さい〜。」
 「ん〜、ココア、どこ行ってたの?」
 かったるそうに返事をするミルクの姿のラムネス。その様子を見て、ココアは即答した。
 「はぁ〜、もしかして〜、その様子は生理痛ですわね〜。ですが〜、今はそんなことに
 かまっている場合ではありませんことよ〜。」
 「せ、生理痛?俺が?....また一歩、完全な女の子に近付いちゃったなぁ。」
 本来、男であるべきラムネスの人格にとって、その事実は極めて屈辱的なものであった。
女性として自らも生理痛を体験しているであろうココアの弁でもある点が、さらに追い討ち
をかけていた。ますます沈んでしまうミルクの姿のラムネス。
 「ほらラムネス〜、しっかりしてください〜。今そちらに参りますから〜。」
 ココアは、この人らしからぬ超高速でラムネスのわきに移動し、肩にそっと手をかける。
 そして、元義弟の妹に、最大級の秘事ともいうべき、その思い付きを耳打ちする。
 これを聞き、ミルクの姿のラムネスは、生理痛に耐えて小さくうなづいた。
 さらにココアは、大声でキングスカッシャーに乗っているラムネスの姿のミルクを大声で
呼ぶ。
 「ミルク〜、大急ぎでキングスカッシャーをこちらに回してください〜。」
 無人機の1機が、この動きに気付きキングを追跡する。そりゃあそうだ。あれだけ大声で
情報を伝達しようとすれば、敵に筒抜けだ。だが、この追跡は、ものの見事に失敗した。
 「行かせはせぬ。きさまの相手はこの拙者だ!」
 そう、ココアの大声は、言うまでもなく味方にも聞こえていたのである。そして、ココアに
個人的に忠誠を誓うアッサームが、この機体の前に仁王立ちし、キングスカッシャーの回送を
助けたのである。
 「ありがとう、アッサーム。」
 ミルクは姉の指示に従い、やすやすと、本来の自分のからだをキングスカッシャーに乗
せた。
 (さあ〜、これであとはあの二人に任せましょう〜。)
 ココアは、大きく深呼吸した。この女、いったい何を考えているのか?
 さて、キングスカッシャーのコクピットでは、ちょうどラムネスになったミルクに、ミル
クになったラムネスが抱きかかえられた格好になっていた。ミルクになったラムネスは、気
力で生理痛を封じ込めて、力強く言った。
 「なあ、ミルク。おまえ、俺のことが好きか?」
 ミルクになったラムネスの口から、唐突にこんな言葉が出てきたので、ラムネスになった
ミルクは、返答に困ってしまった。
 「..........」
 「ここはキングスカッシャーの中だぜ。誰も見てないよ。ココアも、レスカも、ダ・サイダー
も、もちろん敵も!」
 「ボックは目をつぶってるミャー!」
 ラムネスとタマQのこの一言が、ミルクの心を解放した。
 「あ、あたし、ら、ラムネスが.......大好き!この宇宙の中の誰よりも!」
 「ああ、俺もだよ、ミルク.........。」
 二人は、顔の距離を徐々に近付ける。そして、ついに......熱いベーゼをかわすのであった。
 その瞬間、キングスカッシャーのコクピットが、まばゆい光に包まれる。その光は、キング
スカッシャーの機体全体を被い尽くした。しばらくすると、光は徐々にフェードアウトし、その
中からよりシャープに変化した金色の機体がその姿をあらわす。そう、キングスカッシャーの
強化形態、EXのおでましである。
 コクピットに座っていた少年が、そして彼に抱かれた少女が目をさます。
 「なんでこんなに重いんだろう......あれ、ミルクの顔が俺の目の前にある。」
 「あら、私、誰かに抱かれてる.....。え、私を抱いてるの、ラムネスなの?」
 少年は、少女をそっと膝から下ろす。そして、二人はそれぞれ自分のあの場所に手をあてがって
みた。
 「(草尾毅の声で)ある!!!」「(横山智佐の声で)ないっ!!!!!」
 これを外で見ていた、紫色の髪の少女がぽつりと言った。
 「成功ですわ〜。これで〜、二人が元にもどっていればいいのですが......」
 キングスカッシャーEXの動きは、そんなココアの懸念をいともたやすく払拭した。
 大きくジャンプすると同時に、座禅を組んだボス機の真上から、バリアごと剣で一突き!
 ドカァァァァァァァァァァン!
 ラーシマは、断末魔の悲鳴をあげることさえも許されず、搭乗機とその運命をともにした。
 そのとき、9機の無人機も同時に制御を失い、クイーン以下7体の守護騎士に倒された。
 アララ城の門前に整列して立つ守護騎士達。そこに、レスカの乗ったアルミホエール号が
 降下し、中からレスカが出て来て妹達をねぎらう。
 「まさか、私の留守に敵が攻めてくるとはねぇ。とにかく、勝ってくれて、ありがとう。だ
 けどあんたたち、どうして水着なの?」
 「え、水着?そういえば.......。」
 すっかり忘れていた。ラムネスとミルクを元の姿に戻すために、飛び込み台を使おうとして
3人は水着姿になっていたことを。不意に一陣の風がラムネス達の体を吹き抜けていった。
とりわけ、上半身裸のラムネスには堪えた。
 「寒い......はーくしょん!」
 豪快にくしゃみをする水着姿のココア、ミルク、そしてラムネスであった。




最終話に続く。 戻る トップに戻る